第9話 異世界からの迷い人

その1 娯楽人さん

友達と別れ一人家へと歩く
しばらく歩くとすぐまた私はため息をつく。
「はぁー……退屈」
私は常に退屈していた。
友達が少ないわけでもない、
むしろ人より多いくらい。
学校の勉強がわからないわけでもない、
むしろクラスの5番以内に常に入ってた。
運動もできないわけじゃない。
むしろ県大会に出場もした。
それでもやっぱり私はずっと退屈してた。
これはそんな私のお話。

「ただいまー」
「おかえり、早かったのね」
「うん、今日は部活が無かったの」
「先に着替えてらっしゃい、出かけるから」
「わかったー」
いつも通りのお母さんとの会話を通り過ぎ、私は部屋で私服に着替える。
そして、お母さんの準備が整うと私達は家をでる。
今日はいつもと少し違う日、私の誕生日だったりする。
でも、毎年の事だからあんまりウキウキはしない。
お母さんは私の隣でお父さんの知り合いの人がどうしたとか、
近所の事を色々喋ってるが私はただ相づちを打つばかりだ。
そして、ふと道の先を見たときに私の目に映ったのは…
「……猫?」
特に見覚えがあるわけじゃなく、どこにでもいるような猫だったのに私は妙な懐かしさを覚えた。
「明日香? どうしたのボーっとして」
「ふあ?」
お母さんの呼びかけに間の抜けた返事をしてしまった私は思わず顔を伏せた。
その仕草にお母さんはクスと笑うと私の頭を撫でて、また他愛ない話をし始めた。
私が視線をまた道の先に戻すとさっきの猫はもういなくなっていた。
私は感じた懐かしさに違和感を覚えながらも先へ歩いた。
お父さんとお店で合流してそれなりに豪華な夕食を食べた。
こうやってお父さんは私の誕生日やお母さんの誕生日には確実に帰ってきてくれる。
他のお父さんに比べて家族思いだと私は思ってる、友達に話すとファザコンって言われるからあんまり言わないけど。
帰り道、交差点に差し掛かった時……
「ニャーン」
私を呼ぶように猫の鳴き声がしてその方向に振り向くと猫が交差点へ飛び出しているのが見えた。
「っ!」
「明日香!?」
お父さんの伸ばす手を振り切って私はその猫へ向かっていた。
“助けなきゃ”って事で頭がいっぱいでほかの音は聞こえなくなる。
そして、私の手がその猫を捕まえた瞬間、世界が『反転』した。

「ん……うぅ……」
(頭が、ズキズキで割れそう私事故に合ったのかなって…え?)
「えっ!? はぇ!?」
(何で? どうして!? 道路とか何もなくて、ましてや病院とかでもなくて……)
「何で……原っぱ?」
私の頭は非常に混乱してた、落ち着けと促す心の声もぐるぐる回るだけでぜんぜん役に立たない。
何でとどうしてが堂々巡りで嫌な結論にたどり着いた。
「……まさか、死んじゃった……の?私」
(じゃあ、ここは天国? だってお日様が気持ちいいし……ってそうじゃなくて!)
「何処なのよここ!?」

その2 せいばーさん

「…」 何処なのよー、と一応叫んではみたものの、何か反応が返ってくる訳ではなかった
元より期待はあまりしていなかったが

穏やかな風がサラサラと草を揺らす音だけが耳に伝わる
風の優しい感触に慌てていた意識も若干の平静を取り戻す

「すぅ…はぁ…」

取り敢えず、深呼吸
落ち着け、私
取り敢えず、ここはかの有名なサンズ・リバーではないだろう
サボタージュ気味の巨乳死神もいないし
そもそも川ないしね

「…取り敢えず死んだ可能性は、ない?」

でもあのトラックは死んだだろう、露骨に

「むー…あ、携帯あるじゃん!」
むしろこんな状況でなぜ気が付かなかったのか
死んだとか以前に確認は取るべきだろう
灯台下暗しとはこの事か!

明日香はジーンズのポケットに入っている携帯電話を取り出し、アドレス帳を開く
そして迷うことなく自分の頼れる父親である『成城院梓』にカーソルを合わせ、発信ボタンを押す
「しっかし私もドジだね〜こんな簡単な事に気がt『お掛けになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていない為、掛りません』…」

何とも、予想通りというか、薄々感づいてはいたけど現実から目を背けていたといか…
嫌々ながらも電波表示を見ると、見事にアンテナは一本も立っていない
こんな表示は携帯が壊れて電波を受信できなくなった時以来だ

「…」

誰かに連絡できそうな手段は携帯しかもっていないので一旦諦める
取り敢えず何かしらの行動を取るべきか、それとも現状維持か、迷うところである

「…どうしよう
 セオリーに従って何処かに向って歩こうかな…?」
セオリーって何だ、と聞かれると答えに困るが、正直な所このまま状況が平行線を辿るのはキツい
だが、下手に動いて状況が悪化してもキツい



「…ケセラ・セラ!行動あるのみ!やらない後悔よりやった後悔よ!」
意を決して原っぱから立ち上がる
ジーンズについた草を手で払っていると、肩に掛けていたバッグが地面に落ち、バッグの中身がこぼれ落ちる
明日香はその中の一つに目をつけた
「…そういえば、どうしようもなく困った時に見なさいって言ってたっけ」
学校でも私用でも、持ち物にいつも忍ばせているお守り
父親である梓、母親である由紀が小学校の時に渡してくれた物だ
布に包まれた上に頑丈な紐で結ばれており、一回も開けたことはない

「…開けて、みようかな」
蝶結びになっている紐を解き、包んである布を開く

「…旧式の情報端末?」
少々分厚い(5〜7mmだろうか)銀色と黒のカード型情報端末
何年も前に生産が中止されたシリーズのものだ

「えっ〜と…あ、点いた」
電源を探し、スイッチを押す
会社のロゴが表示された後、画面が表示される
開示された状況は三つ
以下の項目から現在の状況を選べ

『正体不明の何か、あるいは誰かから襲われている』
『自分の体に予期せぬ何かが発生している』

そして―

『何らかの行動の後に、自分が知らない場所におり、帰還方法も分からない』

「これって…!?」
どういう事だろうか
両親は自分がこうなる事を何らかの形で予期していたとでも言うのだろうか
上記の二つの内容も気になるが、今は三つ目を選択し、両親からのアドバイスを得ることが重要だろう

「えっと…タッチパネルだから…」
慣れない操作に少々戸惑っていた、その時
「―!」
―ゾクリ、と背中に悪寒が走る
先ほどより少し強くなった風の音と、それが発生させる木の葉が掠れる音で全く気が付かなかった
―得体の知れない、“ナニカ”の気配

「あ…う…」
言い知れぬ恐怖を抑え、恐る恐る後ろを振り返る
そこには―

「フッー……フッー…」
―見た事もない、異形の姿だった

「キャァァァァァァァァァ!!」

その3 娯楽人さん

私の叫び声に反応した形容しがたい何かはその触手を私に叩きつけてきた!
「ひぃあぁぁ!?」
間一髪で私は触手を避けたけど
何これ?! 生き物?
こんな怪物映画の中でしか見たこと無いわよ!?

「フシュルル……」
人に似たようなでもけっして人ではない何かが私の方を向く
夢なら覚めて! 本当は私寝てるんでしょ? きっと起きたら病院のベッドの上とかベタなてんか……
「キシャアア!」
「ひっ……」
余計なこと考えてる場合じゃない! 今はこの状況を何とか…
ふと私はさっきの端末の言葉の一つを思い出した
『正体不明の何か、あるいは誰かから襲われている』
端末は今手の中にある、目の前の奴は初撃が外れた事で様子を見てるし…今しかない
助けて……お願い!
そう祈りながら私は端末の表面を指で叩いた
すると端末から機械音声が響き渡る
『システム作動、封印レベル1アンロック開始』
『ショック回避の為、意識封鎖を行います』
「な、何? 何なの?」
『アンロック準備完了、意識封鎖スタート』
その声と共に急激に意識が遠のく……
何……で……

「ん……ん…? ああっ!?」
飛び起きた私が次に見た光景は
どこかログハウスをイメージさせる木でできた壁だった
「……夢?」
「ああっ気がつかれましたか〜?」
とうとつにした人の声に私は一瞬身構え声の主の方を見て…
え?…思わず目をこする い……犬耳?
こ……コスプレ? なのかしら?
「ご主人さまーさっきの人目を覚まされましたよー」
トテトテという擬音があいそうな足取りでそのコスプレ(ということにした)の人はいってしまった
……まず状況を整理しよう
とりあえず現在私は生きてるらしい
そしてさっきのコスプレの人かコスプレの人が言ってた
ご主人様に助けられてベッドに寝かされてたらしい
現状じゃあこんなところ……かな
あと近くの椅子に私のバッグが掛けられている
……あっそうだ端末
「ど、どこだろう?」
と探そうとした矢先、ここだよと返事するように電子音が鳴った
どうやらポケットに入ってたらしい
取りだして見ると端末の画面には
再封印完了と書いてあった
……封印? 何のことだろう? んーむ……お父さんなら何か知ってたのかな……?
「ご主人さまっ早く早く」
「そう急かさないでよ、ココナ」
とさっきのコスプレの人とそのご主人さまの声が近付いてくる
ご主人っていう事だから男の人かと思ってたけどどうやら女の人らしい
「お待たせしましたー」
と扉を開けて入ってくるコスプレの人、次に入ってきたのは……
「体の方は大丈夫ですか?」
……きれい、私は素直にそう思った、
澄んだ空のような青い瞳と流れるような金色の髪……
こんなにきれいな人お母さん以外知らない……
ううん、お母さんよりきれいかも……
「……? 私の顔に何か付いてますか?」
「ひゃっい?! いっいえ、か、体の方は大丈夫です!!」
何見惚れてるのよ私!? 見惚れるくらいきれいだけど初対面でなんて事をっ!
「本当に大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですよ?」
赤面してるって事が自分でもわかって余計顔が熱くなる
あーもうどうしたらいいの!?
誰か助けて!
「あの、お加減が悪いのならもう少し寝ていても」
「いっいえっ大丈夫ですから!」
「ふみゅーあーそうだ ご主人さま自己紹介しましょう♪」
空気を紛らわすためかもしくは天然なのかコスプレの人が言う
「そうね、じゃあ私から 私はルティ=チャーフル」
「わたしはココナ=アンダンテですー」
「えっと、私は明日香、成城院明日香っていいます」
「明日香か、よろしくね」
「よろしくお願いしますー♪」
「こちらこそよろしく……えと……ここは? それにどうして私はここに?」
「ここは私とココナが住んでる家よ、どうしてかは……」
「そこはわたしが説明しますーえーとわたしがご主人様に頼まれたお使いの帰り道で明日香さんが倒れてるのを見つけてご主人さまと協力して運んだんですー」
「そうそう、でも何であんなところで倒れてたの? 良ければ話してくれないかな?」
「実は……」
私はこれまでの事情全部説明した
ほとんどはすぐ伝わったけどなぜかトラックを説明するのに一番苦労した
やっぱりここは私の居た世界とは違うらしい
うすうすはわかってたけどそれを再認識して少し悲しくなった
ルティさんの次の一言を聞くまでは
「明日香ちゃん……良ければ元の世界に帰る手段が見つかるまでここで生活しない?」
「えっ?! でもまだあって間もないましてや本当の事言ってるかわからない相手をそう簡単に」
「じゃあ嘘言ってるのかなー?」
とにっこりほほ笑む青い瞳に覗かれて私は言葉が詰まった
「……嘘じゃ無いです、でも良いんですか?」
「ええ、そろそろ暗くなるしそういう事ならはいさよならってわけにもいかないわ、良いでしょ?ココナ」
「わたしはご主人さまにさんせーです」
「それなら……お願いします!」
こうして私はルティさんの家にご厄介になることになった
私はどうしてこの世界に来たのか
どうやったら帰れるのか
そして……あの猫は一体何だったのか
お父さん……私はどうしたらいいの?


余談だけど後でルティさんに聞いたら
私はすさまじいスピードで百面相してたらしい……死にたい

その4 ゲイトさん

舞台は町から離れた森の中、先ほど明日香が襲われた森の近く。
一人の男が先ほど明日香が襲われた森の近くでくつろいでいた。
髪は金髪にの肩ぐらいの長さ、ごく普通の服装、目は赤い男性だった。
彼は、明日香の襲われていた近くの茂みで目を瞑り、昼寝をしていた。

そして、男は夢を見る、何処か見覚えある光景の夢を…

そこは、小さな研究所。
彼らは、その研究所の広場のような所で監視をされながら、この世界の実験研究のサンプルとして暮らしていた。
この世界に来たのは突然の出来事だった。
今いる世界で突然、不思議な光に覆われたと思うと意識を失い、気が付いた時には別の世界にいたのだ。
彼だけじゃない、彼の他にもこの広場に飛ばされた者達が居た。
その研究所で出会ったのは、数名の研究者だった。
その中で、彼らと良く合っていたのが、この3人、若々しい男性二人と金髪の少女が一人だった。
3人は、何故彼らがここに来てしまったのかを話出した。
この世界にあるゲート、それによって彼らはここへ飛ばされたのだと言う、今すぐ元の世界に戻すよう頼み込んだが、ゲートは何時何処で発生するかわからないと言うのだ。
ゲートを探知する機械、ゲートを作る機械も、この世界には無かった。
元の世界に還れない、悲しさを秘めがら、彼らは3人の研究者と共に暮らす事を決意する。
それと言うのも金髪の少女が「絶対に元の世界に返してあげる」と言う言葉を半信半疑ながら信じようと思ったからだ。
この世界の生活をして、早半年近く、金髪の少女が広場へやってくると、ある報告をした。 
それが、あいつとの出会いだった。
「今日は新しいお友達を紹介するね」
金髪の少女はそう言うと、彼女の後ろから少女より少し背の高い子供がやってきた。
見た限りでは普通の人間にしか見えなかった、しかし…
「この子は、貴方達と同じ力を持っているわよ、私もを貴方と出会ってから発症者になったけど、この子も、同じ境遇よ、見せてあげて?」
そう言って少年は、左腕を上に向ける、すると、だんだん腕の形が変化していき、大きな爪のような物へと変化した。
しかし、制御しきれてないのか、少年の顔が少しずつ辛くなっていく様子が伺えた。
少女は、彼の腕に触れ、機械を使って腕の力を強制的に弱めた。
「こういうわけだから、この子もこれからここで一緒に過ごすことになるわ、そうね、貴方と一緒にこの子達を管理してもらおうかしら」
それが彼と少年の出会いだった。
そして…
「お前、名前は?」
この世界に召還されたが少年に声をかける。
「なまえ? 名前なんてない、俺は、何もない、あるのはこの化け物の腕だけ…」
そう言って頭を下げてしまう。
「なら、俺が名前を付けてやるよ、そうだな…ショウ、ショウなんてどうだ?」
「しょう?」
「ショウ、お前の名前だ!!」
こうして腕が変化する少年に「翔」と言う名前が付けられた。

そこで目が覚める、男は少し懐かしいような顔をすると木に背中を預け、空を見上げた。
「あはは、あの世界にいた頃の夢を見るとはな、先ほど、気を失っていた少女が来ていた服を見てからか…」
明日香が意識を失う少し前、彼は明日香の悲鳴を聞いてそこへ向かっていたのだ。
しかし、たどり着いた時には、見知らぬ光に覆われ、形容しがたい何かを怯ませていた。
光を放った明日香はその場で気を失い、触手を持った形容しがたい何かはその場を動かないままだ。
男はスッと黒い剣を抜くと、そのまま切り上げ、形容しがたい何かを吹き飛ばした。
形容しがたい何かは、木々や草々に何度もぶつかりながら姿を消した。
……何もしてこなかったので、楽に片付いた。
そして、明日香の方を見つめる、何処かで見覚えあるような服を来ているその子は気を失ったまま、白い翼のような物を出していた。
やがて、その翼は役目を終えたかのように、明日香の中へ消えていく。
『この少女は、一体…』
そう考えていると森の茂みから足音が聞こえる、同じように悲鳴を聞いた者だろうか。
男は木の枝に向かって飛びあがって様子を確認した。
「!!、ご主人様、女の子が倒れてます!!」
犬耳の少女? 何故こんなところに…そう考えていると今度はこの世界では有名な女性が現れた。
彼女は、明日香の意識を確認し、気を失ってる事を確認すると、明日香をおぶって、犬耳の少女と共にそこから立ち去った。
男は木から飛び降りて、彼女の背中を見つめながらこう言った。
「あの者なら大丈夫だろう」
そう言って、そこから去り、茂みで休んで、今に至る。

木々の間から光を通って、森に木漏れ日を作る、そんな森を見つめながら青年は口を開いた。
「今、あの世界では、どんなふうになっているのだろうな、あいつら、何をしているのだろうな、
 アーダイン、ミカド、ジュンイチロウ、ショウ…」
こうして舞台は再び明日香の方へ戻る。

その5 せいばーさん

「…さて、住む場所も決まったことだし…何か食べる?」
「い、いえ!もう夜も遅いですし!」

流石にそこまでしてもらうのは気が引ける
時刻はとうに十時を回っているのだ

「気にしないの、私が好きでやっているんだから」
「そ、それでも『くぅ』…あぅ」
「あら、可愛い音」

意図せぬ食欲の誇示に顔を真っ赤にする明日香
体は正直とは良く言ったもので、肉体は栄養を欲しているようだ

「まっ、お腹が空くのは元気な証拠よ、今作ってくるから、待っててね」
「はい…」
「ご主人様の料理は絶品ですよ!」
「…はい、楽しみにしてます」
「じゃ、期待に添えるよう頑張らないとね」

そう言って、ルティさんは部屋を去る
ココナさんは部屋に残り、近くの椅子に腰かけた

「じゃ、改めまして、ココナ・アンダンテです」
「じゃあ、私も、成城院明日香です」
「よろしくおねがいします、明日香さん!」
「こちらこそ…」
「あぁ、もう敬語じゃなくてもいいですよ?
明日から家族なんですから!」

ココナの優しさと純粋さが溢れる様な顔を見ていると不思議と緊張が休まるような感じがした

「…うん、じゃあ宜しく!」
「はい!」

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「そういえば、明日香さんはウチで飼っている猫さんと名前が一緒ですね」
話し始めてから数分、ココナがそんな事を言い始めた

「ね、猫?」

犬(正確には亜人種だが)なのに…猫…?
明日香は不意に、とある企業のキャラクターが猫なのに猫を狩っている事実を思い出した

「あ、何か失礼なこと考えてませんか?」
「!?ぜ、全然そんな事ないよ!?」
「…本当ですか?まぁいいです
 話に戻りますけど、ウチで飼っている猫の名前もアスカっていうんですよ」
「へぇ…奇遇ね」
「はい…っと、ちょうど良い所に」

おいでー、とココナが手招きをすると、ドアの隙間から首に鈴を巻いた一匹の子猫が姿を現した

「この子がアスカです」
「お、可愛い…」

にゃー、とココナの膝の上で鳴く、可愛い
だが、記憶の片隅に何か違和感を覚えた

「…?」
「どうしたんですか?」

記憶に引っかかる
何かが引っかかる
この毛並み、色、大きさ………あ

「あっー!!」
「うひゃい!?」
「ど、どうかしたの!?」

思わず明日香は声を上げる
それに反応してルティがキッチンから飛び出してきた

「え、あ、あぁ?すいません、この猫見たらつい…」
「アスカがどうかしたの?あ、そういえば同じ名前ね」
「それもそうなんですけど…この猫、私がトラックに撥ねられる寸前に見た猫と同じ猫で…」
「え?アスカがですか?」
「うん」

間違いない、この猫だ
同じ色に体格、というだけかもしれないが、それにしたってそっくり過ぎる

「へぇ…その猫、一か月くらい前にシリルが連れてきた猫なのよ」
「シリル?」
「あぁ、ごめん。ウチの家族の一人なの
今はまたもう一人の家族、ミリルと隣町まで出かけてるのよ」
「そうなんですか…」
「そういえば、あの猫拾ってきた位からシリルは雰囲気が少し変わったわね
強くなったって言うか…大人びたっていうか…どうしてかは知らないけど」
「はぁ…」
「まぁ、そこら辺はおいおい調べていきましょうか
今はごはんよ、ごはん」
「…すいません、本当に」
「いいのいいの、多く作ったからココナも少し食べる?」
「あ、はい、貰いますご主人さま!」

開いたドアから良い匂いが漂ってくる
何が出てくるんだろうか、異世界だから私の世界とは違うトンデモ料理か、知らない食材で作られた知らない料理に違いな―

「はい、お粥よ」

―そんな風に思っていた時代が、私にもありました

「…どうも」
「あれ?お粥駄目だった?だったら…」
「あ、いえ!そうじゃなくて…その…何と言うか…あの…」
「?」
「…違う世界だから、もう少し知らない料理でも出てくるのかと…」
「あぁ、何だ、そういうことね
嫌いなものを出しちゃったかとヒヤヒヤしたわ」
「すいません…なんか」
「謝る必要なんてないわよ、少しの期待くらいなんて誰でもするもの
そこが知らない土地だったら尚更ね」
「はい…じゃあ、いただきます」
「はい、めしあがれ」

スプーンを手に取り、お粥をすくう
息を吹きかけて冷まし、口に運んだ

「…あ、美味しい」
「私もです、ご主人さま」
「そう、良かった♪」

小さくカットした野菜が入っている以外特別な味付けは何もしていないであろうそのお粥は、何処か優しく、懐かしい味わいを醸し出している

「…というかあるんだ、お米」
「そっちにもあるの?」
「はい、主食です
あとは…小麦っていうのを使ったパンっていうのが」
「あぁ、それこっちにもありますよ」
「…異世界って一体…?」

異世界の定義というものについて軽く脳内会議していると、ルティが少量のお粥が入っていた皿を置いて言った

「食べ物とカが近い辺り、割と近い世界なのかもね
明日になったらまた色々お話しましょう?」
「…はい」
「いっぱいお話しましょうね、明日香さん!」
「うん!」


何も良く分からないまま、自分が知らない世界に落ちた
少し怖い思いもしたけど、とても優しい人たちとも出会えた
自分の世界にいち早く戻りたい、両親に会いたいと強く思う
けど、この世界も、少し位居てもいいかなって思った

拝啓、違う世界にいるお父さんお母さん
私は今違う世界にいます
帰れる保証はないけれど、自然と不安はありません
絶対に帰れる、そんな気がします
なので、首を長くして待っていてください

娘は、少し旅行をしてきます

その6 せいばーさん

日本 東京某所

白と銀で統一された清潔な廊下を複数人の男女が歩いている
白衣を着た研究者風の男が数人、体つきの良い長身の男が一人、そして明るく見積もっても高校生程度にしか見えない少女――否、女性が一人

「―――で、状況は?」
「ネガティブ、としか言えないな」

男――成城院 梓が放った問いに隣を歩く小柄な女性――クリシュア・H・アーダインは見た目に似合わぬ大人びた口調で答える

「取り敢えず周囲100mの地域を全面封鎖した上で捜査を行っている」
「…第二次大戦中の不発弾が見つかった、だったか」
「ああ、一応自衛隊にも出張ってもらっているし、警察は言わずもがなだ」
「相変わらずだな、特関は」
「一番おっかない時期は当に過ぎた…けど、脅威が完全に消え去ったわけじゃないからな
備え有らば何とやら、だ」

二人が彼女の私室――所長室の前に辿り着くと、クリシュアは研究員に『部屋には入るな』とアイコンタクトを送ると、梓と共に部屋に入る

「なる程…な、…で?」
「そう急(せ)くな……えーと、調査班によれば、ゲートが開いた痕跡があり、一時的に『あちら側』と世界が繋がったようだ」
「…」

部屋の中央にある机に資料を出し、梓に見るよう促す
梓は紙束を受け取ると、それをパラパラと捲りつつクリシュアの言葉に耳を傾けた

「原因は不明、監視カメラがあるような場所でもなし…突っ込んできたトラックに車載カメラが合ったわけでもなし
つまり、映像証拠は一切無しって訳だ」
「…つまり現段階で明日香を見つける方法は」

ゼロ
と、言いかけた梓の言葉を遮る様にアーダインは言う

「―――ゼロ、ではない」
「本当か!?」
「だが、高くも無い」
「…何でも良い、方法があるんなら教えろ」
「……危険だ、成功する可能性は殆ど無い」
「でも…っ!」
「そうやってお前が助けに行って!仮に帰ってこれなくなったとしたら!渚さんはどうする!?」
「!!」
「娘さん、明日香ちゃんが行方不明で現時点で助かる可能性はほぼ0パーセント!その上お前まで居なくなってみろ!」
「……くっ」
「言い過ぎではない!死ぬぞ!」

――一生心に消えない傷を負わせ、それに耐え切れず死ぬかもしれない

最悪のビジョンだった

「…だったら、どうしろって言うんだ!
このまま帰ってこないかもしれない娘を待ち続けろって言うのか!?」
「それは―――」

梓はクリシュアの肩をつかんでまくし立てる

「………私だって――」
「…………悪い、八つ当たりだったな」

クリシュアは言葉を最後まで紡ぐことなく俯いた
梓も怒り・不満・悲しみ・それぞれが複雑に絡み合った感情を何処へやったものかと、顔を両手で覆い、椅子に深く座り込んだ


そこへ


「特関第17地下機密倉庫、登録番号1382号『東亜重工・N.W.C製次元転移装置』」

「「――」」

突如開かれたドアの向こうから凛とした男の声がした

「時代遅れの部品やらなんやらが詰まった欠陥品だが…ここのスタッフや私に掛かれば、使えんことも無いがね?」
「全く、そんなに諦めがいい奴だとは思わなかったぜぇ?梓」
「お前…ラルフも!」
「結城…どうして」

特関の変態コンビこと、Dr.ラルフとクリシュアの夫である藤堂結城だった

「どうしても何も、可能性が少しであるならば食いつくのが研究者の性という奴でね、既に理論だけならばあちらに人員を転送可能だ
後は装置に改造を施すだけ…」
「って言うわけだ」
「…クリシュア」
「あー、もう分かったよ…勝手にしろ
でも、渚さんにはなんて言うつもりだ?黙っていくなんて言ったらケシズミにするぞ」
「…勿論『私(達)をおいて行くなんて無いわよね?』…渚!?」

結城やラルフの後ろから出てきた人物…それは梓の妻である渚と、彼の姉である司だった

「行きましょうよ、異世界
一度世界を救ってんだから、娘一人連れて帰るくらいお茶の子歳々でしょ?」
「場所は分かってる、行く方法もある、そこに可能性がある、それだけで理由なんて十分…
行きましょう梓、明日香を連れて帰る為に」

司に続いて渚が梓に救出へ行くことを促す

「私は目の前に可能性があるのに縋らないなんて嫌、それが娘の安否に繋がるなら尚更
…それにあなただけ行かせるなんてさせない、待つだけなんて嫌だし、そんなのは性に合わないの」
「最悪、帰れなくてもそこに住んじまえば良いだけの話だろ?」
「…そういう問題か?」
「住めば都って奴?
家族が居て、友達が居れば文句無いだろ」

彼らの、妻の言葉を聞いて梓は一瞬考えるような仕草をすると、意を決して言った

「…行こう、明日香の下へ!」
「そうと決まれば話は早い、早急に私は作業に取り掛かるとしよう」
「装備ってどうするんだ?」
「この面子で行くとすれば…フル装備の状態で最大でも装甲車一台程度が限界だろう」
「だったらそれで行こう」
「んじゃ、私は装備の手配をしておこう
司さん、渚さん、武器の経験は?」
「え?私は大丈夫よ、ランボーとタイマンして勝つ自信があるわ」
「司さんは本当に殺りそうで怖いわ…で、渚さんは?」
「えーと…拳銃くらいなら」
「…だったら寧ろラルフと一緒にバックヤードで医療スタッフでもやってくれたほうが良いな」
「それじゃ、俺は由紀を呼んでくる
明日香ちゃんの事心配してたし、二つ返事で来てくれるだろ」



―――残された者達は、一筋の希望を見出して進む

その先に、想像を絶する困難があるとも知らずに―――

その7 ゲイトさん

一方親の心配を余所にルティの家で泊っていた明日香はと言うと…
「明日香さん、そっち終わりそうですかぁ?」
「は〜い、後ここを掃除したら終わりますぅ〜」
「それじゃあそれ終わったら戻って来てください、お掃除用具片付けた後、お昼にしましょう」
ココナの掃除の手伝いを行っていた。 元はと言えば朝食を食べている時に明日香自身から何か手伝えることはないかと行って来たのだが。
その際に、ココナから掃除の手伝いをお願いされ、今に至る。
ルティはその際に洗濯を行っており、それぞれ役割分担が出来ているといったところだった。
「こんなものかな、片付けて早くいこっと、お腹ペコペコ」
そう言って掃除用具を片付け始め、ココナの元へ向かった。
お昼を済ませ、ココナが食器を洗う音がキッチンから聞こえる。
やることも特にないし、これからどうしようかなと思っていた時だった。
「明日香さんちょうどよかったわ」
「ルティさん?」
玄関近くでルティが明日香に声をかけた。
「これから貴方とココナを連れて、街の中を案内しようかなと思ってたんだけど、一緒に行く?」
そのお誘いを明日香は断る理由は無かった。
「うん、街に行ってみたい!!」
「本当に? 買い物もするから荷物を持たせるかもよ?」
「…そのくらいならお手伝いって事でやりますよ」
とルティのからかいを受け入れる明日香。
「冗談よ、お客様にそんなことはさせないわよ、ココナ準備は出来た?」
「はい、洗い物も終わりましたし、アスカちゃんにも餌を置いておきましたし、こちらの準備は終わりました。
 ただ、明日香さんがさっきから見当たらないんですけどぉ」
「明日香ちゃんならもうこっちに要るわよ」
「うにっ!?」
そう言って慌てて玄関へとやってくるココナだった。
ここにきて思うけど、ココナさんのあの「うにっ」て言葉が少し気になるなぁ。
本人は口癖でつい言ってしまうって言うけど…
そう考えながらココナ達と共に家から出る、家の鍵を閉め、街へと歩き出した。


一方…隣町に出かけたミリルとシリルは、隣町の病院の部屋にいた。
「はぁ、はぁ…み、みーちゃん」
「大丈夫、私はここにいるわよ…」
部屋では、苦しんでベットに寝ているシリルと、それを看病しているミリルの姿があった。

その8 娯楽人さん

なぜ病院のベッドにシリルが寝ているのか?
事の発端はミリル達がこの町に来た時までさかのぼる

隣町へ日用雑貨等の買出しへとやってきた
ミリルとシリル
いつも通りの道中を通り町へ入った所だった……

「さってと何処から買いに行こうか?」
「えと、生活雑貨からだから町の北側だよ みーちゃん」
「あっちの方だね、よし競争しようか!」
と言うとさっさとかけ出すミリル
「みゅ!? みーちゃん! 待ってよぉ!」
それをトコトコと擬音が付きそうな足取りで追うシリル
まだこの時はふたりとも気づいていなかった危機が迫っていることに……

「到着♪ あれ?シリルは……ああいたいた」
「みゅぅーみいちゃんひどいよー」
「ごめんごめん広いとこで走りたくなっちゃってね で目的の店はここだよね?」
「みゅ? うんここだよ ってみーちゃん解らずに走ってたの?」
「ん? いや勘でここかなと」
「みゅう」
自身の姉の野生分に少し呆れながらも二人で買い物を済ませて
次の店に行こうとする

「さて……」
「みーちゃんダッシュ禁止」
「う、はいはい」
「みゅー」
釘を刺されて苦笑いのミリルとちょっと膨れ気味のシリル
やっぱり仲がいい姉妹の会話でした
と、その時後ろから悲鳴が上がります
「きゃあああああ!!!」
「えっ!?」
「みゅ!?」
振り向いたその先にはそれなりに冒険を積んでいる二人にも
見たこともない物でした
その物は黒く細長い塊みたいな形をしていて
いろんな場所から触手を出し振り回して暴れていた
とっさにかけ出したミリルはその物体に飛び蹴りを仕掛けます
「おりゃあぁぁっ!」
勢いのついた蹴りをまともに食らったその物はその場に倒れ
触手をしばらくばたつかせた後動かなくなりました
「ふぅ……なんなんだろうこれ? 生き物って感じじゃないし……」
「みーちゃん!大丈夫!?」
「あー平気平気 それよりも……なんだろうねこれ?」
「みゅ?……うーん解らない」
「んー……ん?」
ミリルの目に止まったのは見慣れないマークでした
鷲を象った紋章のようなものが刻まれてるようでした
「って事は人工物かこれ でも誰がこんなものを?」
「みゅう〜ねぇみーちゃん早く帰ってくーちゃん達にも来てもらおう?」
「ああそうだね…」
『ピー』
「え?」
『機密保持の為自爆します、3、2、1』
「みーちゃん!!」
ドォォォォォォォォン!!

爆発の瞬間ミリルを守るためにシリルが爆発とミリルの間に割って入り
代わりに怪我を負って近くの病院に緊急入院となった
しかし隣町の医療機関ではシリルほどの大怪我に対応できる設備は無く応急処置が精一杯であった
一日経って改善の兆しも無く
手を尽くした病院の医師達はかつての英雄にして
魔術医療専門家ルティへ助力を求める手紙を書いたのであった

一方その頃、明日香とルティとココナは一緒に町を散策していた
「へぇー窓から見たときはもっと静かなとこかと思ったけど結構賑やかですね」
「昼間は大体こんなものよ、はぐれないようにだけ注意してね」
「はーい、ってあれココナさんは?」
「え?……またか あの子ったらもう」

「ご主人様ー! 明日香さーん! どこですかー!」
ココナ本日も絶好調である

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