第8話 学校の怪談

プロローグ Y-0さん

ルティ達のいる町から遥か遠い小さな島、そこには村があり、かつて皆が学校で楽しく生活していた
しかし、黒い猫の影かも透明人間かも知れぬ奴がいつの間にか学校に住みつき
その影に気付かない子供達が、一人…また一人と校内から姿を消し、残っているのは服だけだったと言う
子供達はその出来事に恐れてしまい、学士達の数は減り、遂に学校は閉鎖されてしまった
更に村の幼い学士達はそれが原因で、狭い所でさえ住み辛くなってしまい、小さな島から船を出し、出て行ってしまったのだ…

今もなお、その学校の門の鍵は…開いていると言う──

その1 Y-0さん

―村― そんな小さな村に住む未だ幼いネコミミの双子の兄弟、兄『ユー・シトロエン』弟『エース・シトロエン』
弟のエースは陸地で船が通り過ぎるのを見るのが、彼の日常だった。

約束の日 AM 9:00

この日の時間、兄のユーはまだ寝ていて、弟のエースは早起きしていた
そんなエースが、村の中を歩いていると、先輩であるオオカミ娘の剣士『リア』と船乗りの狐っ娘『フォル』が何やら話していた
「二人とも、なに話してるの?」エースが笑顔で問うと リアが困った様な顔をして答えた
「あー、ちょっと 校内探索の人手が足りなくて、困っていたところなんだよ」「こうないたんさく?、学校の中を調べるの?」エースが尋ねると、今度はフォルが答えた
「うん、その事で、リアが別の町へ行って 、ユーくんを学習させるついでに、仲間を探して欲しいって、今お願いされてる所なんだよ」「ふーん」
エースが頷いていると、何か閃いたかのような笑顔を見せて
「じゃあフォルさん、僕 お兄ちゃんを連れて陸地で待ってるから、後で来てね!」「うん、船出しもよろしくお願いね」
エースが笑顔で頷くと、一足早く自宅へ走って行った
「ねえフォルちゃん?」「うん?」「あたしたちの知らない町でも、ここの学校の噂って、届いてるのかな?」
「うーん、わかんないなー、どっちにしても 行ってみなきゃわからないわねー」「そっかぁ、…じゃあ、あたしはまた校内探索に行ってるから」
「あーうん、じゃあね 気をつけてね!」「フォルちゃんもね☆」リアとフォルは別れを継げ、リアは学校へ、フォルは陸地へと向かって行った

ザザァ―――――…… AM 9:30
陸地には一生懸命船を出していたエースの姿があった、その横にまだ眠たそうな兄のユーがいた「ふぁーぁ、むにゃむにゃ」
それもそのはず、何故なら兄のユーはまだベッドで寝ていたのに、身体を前に引かれてドン!と落とされたからだ…
「んしょ よいしょ、うん こんなもんかな」「たぶんだいじょうぶだとおもうけど…」エースが船を出していると、フォルがやってきた
「船出しありがとう、重かったでしょう?、あーあ、こんな服汚れちゃって」
フォルがポケットからハンカチを取り出すと、エースの顔に付いていた汚れを吹いてあげた
「ん、ありがと」「じゃあ私、これからユーくん連れて、町に行って来るね」「うん、いつでもここで待ってるよ、ユーくん、頑張ってきてね!」「あ、うん」
「よーし いざ、出航!」「お、おぉー」「行ってらっしゃーい!」

こうして、フォルは遥か離れた町でユーを学習させる為、共に海へ出た。

その2 ゲイトさん

その日、ルティ達は、町の中で広まっていた噂を話していた。
この頃最近、町の方で手招きする少女がいると言う噂だった。
彼女について行くと、その先には町から離れ、ひとつの墓があるという、少女は墓の前で立っておりさらにおいでおいでと手招きをする。
彼女の行動に人々はすぐさまそこから逃げ出した。
それ以来、町では嫌な噂ばかり立ち、観光でやって来る人が減ってしまっている。 そんな噂を話したのは、ミリルだった。
しかし…
「はいはい、そこまで、そんな話、信じられるわけないでしょ、誰かの見間違いよ」
腰を折るように言ったのはルティだった。
もともとお化けとかは信じない方なのか、さっさと流そうとしている。
「そんなこと言って、ルティちゃん、本当は怖いんじゃないのぉ?」
その一言にルティは顔を真っ赤にして…
「そんなわけないじゃない!!」
と叫んだ、図星のように見えるが真相は本人しか分からなかった。言い訳をするルティを見てミリルは楽しんでした。
「ほらほら、こんな話はお終い、明日、魔法学を学びたいって子が来るんだから、ミリル達にはその子を迎えに行って欲しいの」
いい加減ミリルのからかいから逃れたかったのか、話題を変えようとするルティだった。
ルティの言う魔法の文化を学びたいと言う少年、彼こそが先ほど話したエースの兄だった。
それも、あまり年の差のない兄、双子だった。
ルティは最初、彼は名門の魔法学校を目指している、そう言う内容で軽々しく請け負った。あそこの家にはちょっとした縁もあったからだ。
「あんな奴の家の息子の相手をするなんてね」
3人に聞こえないようにぼそりとつぶやいた。

次の日、ミリルとシリル、ココナは待ち合わせの場所で待っていた。
しかし、待ち合わせの時間になってもその少年は現れなかった。
「おかしいなぁ、時間は間違ってないはずなんだけど」
「向こうの人が遅れているとかは?」
ココナがミリルに聞いた。 でもミリルはそれはないと首を横に振った。
「ここで待ち合わせの子は、結構真面目で時間に遅れる事はないって言ってたの、ただ、弱気で、さびしがり屋で女の子みたいな子なんですって」
「名前は、なんて言うんですか?」
「確か、シトロエンだったはず、ほらこれがその顔写真」
そう言ってミリルは二人に写真を見せる。 そこには何処かもじもじしていて一見女の子に見えそうな少年が立っていた。
背はココナ達と同じくらいで年は9歳前後のように見えるが実際は18歳らしい。
「可愛いです〜」
「早く会ってみたいです」
なんて言っている2人だったが、何時まで経ってもシトロエンは現れなかった。
「参ったなぁ行き違いになっちゃったのかも私、家に戻ってみる、二人はこの辺りを探ってみて」
「「はい」」
二人が元気の良い声を上げ、それを聞いたミリルは一旦ルティの待つ家へと向かった。
「それにしても、どうしちゃったんでしょうね?」
そう言ってシリルに振ったのだが、シリルの声が聞こえない。
どうしたのかと彼女を見ると家の角から何かを除いていた。
「どうしたんですか、シリルさん」
「くーちゃん、あれ、昨日言っていた噂の子じゃないですか?」
「え?」
ココナもシリルの後ろから覗いてみる、すると、その先には笑顔でココナ達を見つめる白い服を着た、猫耳の少女が立っていた。
目の前の少女はゆっくり口を開いた。
「私、知ってるよ、貴方の探している人」
「え?」
思わず声が出る、少女はさらに笑顔になって答えた。
「うん、知ってるよ、私のお友達だもん、私の思い出の場所にいるよ、ついてきて」
そう言って手招きを始めた。
「くーちゃん、行こうみーちゃんよりも先に見つけてお家に連れて行こう」
シリルの掛け声にココナは少し疑問を持ちながらシリルの案を承諾した。
付いてきてくれると確信した少女も「こっち、こっち」と手招きしながら先へ進んでいく。 ココナ達も後を追った。
そして、ココナ達がたどり着いた場所は、ひとつの小さな石板が立った場所だった。
「シトロエンさんは?」
ココナが聞いてみるが少女は答えない、今度は少女に詰め寄って聞こうと、二人は少女の方へ向かう。
しかし、少女の前まで来た瞬間突然周りがゆがんだ。
「!?」
ココナが気付いた時には遅すぎた、そして石板の前の立つ少女は怪しい笑みをこぼす。
「一緒に行こう、あの子も待ってるから、あの子もね」
「「きゃああ〜〜〜〜」」
二人はその場から姿を消した。

その3 きりんさん

リクト=シェパードは今日も理科室に居た。自分がこの世の人でなくなってからずいぶんと時間が経った。
もし自分が生きていたら、今頃何をしているだろうか。友達と夜遅くまで遊んで、誰かと付き合って……
しかし、今はそんなことは出来ない。自分はここで幽霊になり、そしてここでおそらく永遠を過すのだろう。
生きているころ、テレビで見た「不老不死」のヒーローを見て憧れて、自分もなってみたいと思ったことがあった。
だが、止まった時間の中で永遠を過すことになった今、その気持ちはもう無い。
ただただ過ぎていく時間に取り残されて……、毎日をどうやれば面白く過せばいいかを考えるだけの毎日だ……。
「ボビー、どうしよう!!窓ガラスがこんなに汚れて!!」
近くで女の子の幽霊が両手を上下しながらもう一人の男の子の幽霊に大仰に訴える。
リクトは軽くため息をつきつつも口元が緩む。
――やれやれ、またあの二人のコントだ。今度は一体どんなのだ?
「大丈夫だよ、ジェニファー!!この万能雑巾なら、埃は勿論、小さな傷まで落してくれる優れ物なんだよ!!
その証拠にほら!!ここに「」4年3組カルマン=モラリス』って書いてあるじゃないか!!」
――関係ないだろ!!
落ちてある古臭い雑巾を持って力説する男の子にリクトは心の中で突っ込みを入れた。

彼の名前はカルマン=モラリス。
生前はリクトのただのクラスメートだったが、今は数少ない「友達」だ。
彼も幽霊になって暇そうにしていたが、最近幽霊仲間のネオン=リーフィーとコンビを組んで、コントや漫才をするようになってからは、毎日が充実しているようで、
顔を合わせるたびに二人で新作のコントや漫才を見せられていた。
リクトも一時、一緒にやりたいといったのだが、二人は「見せる人がいなくなるから」とコンビには入れてくれない。
ちなみに今は、カルマンが「ボビー」で、ネオンが「ジェニファー」。生前に見た通販番組が面白かったらしくて、最近はこの手のネタが多い。
だが、永遠という時間と学校という空間に縛られたリクトにとっては、彼らのやるコントや漫才は数少ない楽しみの一つだ。

「すごいわボビー!!埃がどんどん落ちていく!!」
ネオンがカルマンから受け取った雑巾で窓を拭き始める。
だが、ここは打ち捨てられた廃校舎。ネオンがぬぐった後にも窓ガラスには埃がこびりついていた。
「外の風景がはっきり見えるわ!!」
「それはそうだよジェニファー。だって君、顔を窓の外に出してるじゃないか。」
幽霊である自分達は、自分の意思で物に「触る」ことができるが、無意識の状態だと、体をすり抜ける。
ネオンの顔は窓を透けて外に出ていた。
「!!」
はっと驚いた顔をして二人がこちらを見やる。これが彼らのいつものオチだ。
「まあまあだな。」
「今回は結構自信作だったんだぞ、どの辺が悪かった?」
「やっぱり、もう少しネタを増やしてからやった方が良かったんじゃないかな?」
リクトが辛口のコメントにカルマンが口を尖らせ、ネオンがあれこれ反省する。
これもいつものことだ。

「あーあ、もっと資料とか、他の人のコントとか見れたりしたらなあ」
カルマンが両手を頭に回し、床に寝そべる。
「うん、もっと誰か来てくれたらいいんだけどね……」
ネオンもそう言ってため息をつく。
「しょうがないだろ、俺達はここから出られないんだから」
リクトがそう言うとネオンがうんと相槌を打った。
自分達はいわゆる地縛霊だ。そのため、この学校から出ることは出来ない。 何度か出ようとすると、試みたが、学校の敷地の外に出ようとしたところ、見えない壁な様なものに当たり、それ以上前に進めないのだ。
ここが廃校になる以前はそれでも昼に遊びまわったり、おしゃべりをする生徒を見て、その次代の遊びや流行を知ることが出来たり、
宿直の職員とたまに「遊んだり」することが出来た。
だが、この学校で生徒が何人も消え、廃校になってからは完全に社会から離された、いわば陸の孤島のようになってしまった。
そしてその原因を作ったのは……
がこん!という音がしてリクトは廊下に出、最も奥にある部屋を見る。
その部屋のドアの前にはお札が何枚も張られており、その前にはロッカーや机がバリケードのように置いてある。
がん がん と叩く音がし、その度にドアが揺れた。
あいつが「あんなこと」さえしなければ、今もここでここの生徒と一緒に遊べたのに。
「りっくん……」
「なんだよ、またあいつかよ。」
ネオンが不安そうにリクトを見つめ、カルマンはいかにも不満そうな顔をした。
「とりあえず、バリケードを破られないようにするぞ!カルマン、ネオン、ドアを押さえるんだ!!」
リクトとカルマンはドアが開かないよう、ドアの前においてある机を押し当て、ネオンは剥がれそうなお札が自分に触れないよう、雑巾を間に置いて、間接的に貼りなおす。
「い……らくら……なんて……ない!!う……だち……い!!……えろ、……え!!」
ドアの向こうでは怒りに満ちた声が呪いの言葉が聞こえてくる。
がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん!
まるでここだけ地震が起こったかのように、机やロッカーがぐらぐらと揺れる。ドアは彼の怒りに呼応するかのように更に大きな怒鳴り声を上げた。このドアの向こうにいる「あいつ」が、ここの生徒を消し、自分達の楽しみを奪ったのだ。
がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん! がん!
「あーもう、あいつ!!さっさとあきらめろっつーの!」
カルマンは毒づきながら、机を押さえのに力を込める。
「もう少しすれば終わる、それまで辛抱だ。」
カルマンをなだめながら、リクトも扉が破られないよう、ロッカーを押さえた。

「……んで……ゆー……。」
しばらくして怒声から泣きじゃくる声に変わり、ドアを叩く音も無くなった。
リクトたちも一息ついて、その場にへたり込む。幽霊だから身体的には疲れないが、精神的には結構きつい。
「ったく!悪霊だかなんだか知らないけど、がんがん騒ぐんじゃないっつーの!」
「本当だよ、もう!!」
理科室に戻りながら、カルマンとネオンは先の出来事に不満をぶちまけた。
「まあそういうなよ、二人とも。あいつにはそれしかないんだから。」
「関係ない!あいつがいなかったら俺達今頃きっと笑いのメジャーデビューぞ!!」
――いや、それはないだろう。
「そうだよ!それにあの子がここから人を追い出して私達の楽しみを奪ったんですよ!!」
リクトがそう言うと、カルマンとネオンは怒りの矛先をこっちに向けてきた。とんだとばっちりだ。
――だが……
リクトは扉の向こうの「あいつ」のことを思うと少しかわいそうに思うときがある。
幽霊は死んだときの精神が霊魂になって残るもので、その状態は死んだときの精神状態に作用される。
「あいつ」が自分達の仲間になったとき、怒りと悲しみで精神の殆どが埋め尽くされていた。
それが「あいつ」を悪霊、怒りを撒き散らす存在にした。
幽霊の時は人の時間とは比べ物にならないほど長い。それこそ成仏するまで殆ど変化することなく延々と続く。
そんな長い時間を「あいつ」は楽しむでもなく、誰かと一緒に過すのでもなく、ただただ恨みを晴らすためだけのことだけに時間を使うことになるのだ。
それはおそらく……
そう思ったところでリクトはあることに気づいた。
――それでも、ただただ毎日、毎週、毎月を退屈するよりかは良いのかもな……
「あいつ」は恨み続ける。そしてそれが心を満たし続ける。ただ退屈な時間を過すより自分達よりも、「あいつ」は充実しているのかもしれない。

カルマンとネオンの不満を聞きながら、理科室に入ると、そこには幽霊仲間、アフェル=レーマンの姿があった。彼は自分達と違って、どこにでも行くことが出来る浮遊霊だが、この校舎と、カルマンとネオンのコントに魅せられてここに居ついた変わり者だ。
「ういっす、久々!新作コント出来た?」
「うーん、まだ試行錯誤中、また面白い話聞かせてよ!」
アフェルは世界中を回ってそこでの話を聞かせてくれるため、今の自分達にとっては数少ない情報源だ。
「それが一つ朗報!ユフィがついに生きてる子を連れてくるのに成功したんだって!ここにも来るんだと」
「ええ!本当!!」
ネオンが歓喜の声をあげる。無理も無い。「あいつ」がここを廃校にして以来、ここを訪れる人がいなくなったのだから、数年ぶりだ。
「ネオン!ミーティングだ!!どのネタやるか考えるぞ!!」
「うん!!」
カルマンとネオンはうきうきした様子で隣の教室に行く。
「楽しそうだな。」
二人を見送りながらアフェルが言いながらくすりと笑う。
「まあ、久しぶりの客人だからな。俺も思う存分『おもてなし』をさせてもらうよ。ユフィとも相談しなくちゃな。
アフェルもやってみるか?結構はまるぞ。」
「今まではみるだけだったけど、たまにはやってみるのも楽しいかも。」
リクトがニヤニヤしながらそう言うと、アフェルも悪戯っぽい目をしてにやりと笑った。

その4 ゲイトさん

アフェルがおもてなしの為に机を繋ぎ机を長くしている、そこに保健室にあったであろう毛布を敷き、整えている。
一方、リクトはユフィを見つけ、例のおもてなしの相談をしていた。
するとユフィはクスクスと笑って。
「今ね、もう一人可愛いお客さんを見つけたの、その子も連れてくるから先に二人で準備してて」
そう言ってふあっとユフィは消えた。

―小さな島 廃校―

窓が割れ、荒れた学校、昼間と言うのもあってか、窓のあった部分から日が差し込む。
温かい日差しは、亜人達にとっては恰好のひなたぼっこ日よりだ。
この学校の屋上も、良い場所だったのだろうな。
心の中でそう思う、リア。
何時から良からぬ噂が立ちこめただろうか、行方不明の生徒達、残された服。
現状から見て犯罪と思っていたが、この小さな島で隠れられる場所なんて無いに等しい。
ここから怪しい人物も見たことないことから、島の人間が犯人ではないとは思う。
外部の島から来た人間だって考えもあったが、その噂が立つ前までは外部の人間はこの島の事を知らないはずだった。
そして、村から聞かされる亡霊の噂。 それが切っ掛けで、学校に誰も近寄らなくなった。
「流石に昼間では校内の物質を調べることぐらいしかできないか、仕方ない、一通り見て夜に備えよう」
そう言って再び歩き回りだした。

―ルティ達の住む島―
「付いた〜後は待ち合わせ人の処へ行くだけだね」
フォルが声を上げる、乗組員達に碇の降下、船のメンテナンスを命令しておき、自分は、ユー君をつれて船から降りていた。
「お〜」
周囲の賑やかさを見て、ユーは声を上げる。
自分の島がどれだけ静かな事か、大都会に来たかのように賑わっている。
「う〜色々見て回りたいけど、まずは待ち合わせの処に行かないとね」
「待ち合わせ?」
ユーがぽつりと聞く。
「うん、別の学校が始まるまでまだ月日があるから、ここにいる魔道士さんに教師を頼んであるんだって」
「あ、そんな事言ってたね」
今思い出したかのように呟くユー、少々頼りないけど大丈夫なのかしら、と不安になるフォルだった。
賑やかな町中を進み、待ち合わせのカフェにたどり付く前だった。
ユーは妙な視線に気づいた。
『誰かに見られてる? 誰だろう、なんか人じゃない人に見られているような…』
そんな風に思いながら待ち合わせのカフェの中へ入っていった。
「クスクス、あの子がさっき連れて行った娘達が言っていた子ね…」
そう言って、ユーを見ていた何かは、ふわっと姿を消した。
カフェ内で2人はこれからの事を話しながら待ち合わせ相手を待っていた。
まだ、待ち合わせの相手は付いていないのか、それらしき人物は見受けられなかった。
「早く着き過ぎちゃったかな、でも待ち合わせ時間は合ってるはずなんだけど…」
そう言いながら、カフェ内で買ったジュースを飲むフォル、ユーも同じようなジューズを頼んで待っていた。
しばらくしていると、カフェ内に女性のお客が2人ほど入って来た。
彼女達はあたりを見渡し、ユーとフォルを見つけると入口前で声を上げた。
「ほら、ちゃんと居るじゃない、ミリルが早すぎたのよ」
「あうう…」
一人の女性がユー達をみて、もう一人の女性を叱る。
誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか、そんな風に思っているとユー達の方へ向かって来た。
二人のうち、一人は、ユーやフォル、声を掛けてきた女性の付添で来ているような女性とは違う耳をしていた。
これが、この世界で言う『人間』なのかな、フォルは心の中でそう思った。
「貴方がユー君?」
声を掛けてきた綺麗な橙色の髪をした女性は僕の名前を呼んだ。
「えっ、はい、そうですけど…」
「良かったなんとか会えて、待ち合わせに向かわせた子達が早く来過ぎて、入れ違いになったみたいね、あっ私はルティ、貴方に魔法の文学を教えてほしいって頼まれた人よ」
そう言って手を伸ばしてくる。
ユーは、手を伸ばしてルティの手を握り返した。
「貴方がルティさんね、私はフォル、一応、ユー君の付き人です」
「よろしくね、貴方の部屋もちゃんとあるから安心して」
そう笑顔で返すルティ、一方もう一人の猫耳がある女性は何かそわそわしていた。
「あのぉ、どうかしたんですか?」
ユーはそわついている猫耳の女性に声をかけた。
「え? あ、うん、私の他に後2人待ち合わせをしてた子がいるはずなんだけど…」
そう言ってあたりを見渡す、いくら見渡しても、その待ち合わせ人は、見つからないようだ。
「ココナとシリルならすぐ戻って来るよ、私は一旦この子達を家に連れていくけど、ミリルはどうする?」
「う〜ん、もう少し探してみる、馴染みある場所って言っても迷子になっている恐れもあるし」
そう言って、ミリルはカフェを飛び出した。
「じゃあ私達は、家に戻りましょう、ついてきて、案内するから」
そう言って、二人を家へと連れて歩きだした。
だが、カフェから出た時、再び視線を感じた。
その方向に向いても誰もいない、一体誰が僕(ユー)を見ているのだろうか。

町から離れて数分、ユーとフォルはルティの家の部屋にいた。
机の上には、ルティに渡された教本が2、3冊置かれている。
一通り部屋の説明がされ、最後に小さく紋章が刻まれた指輪が渡された。
ルティ曰く、ルティが看護師になった時に小さい子供達にあげようと思っている紋章らしい。
特に魔法の効果もなんもないらしい。
ただ、これでルティにお世話になっている人だと町の人には理解してもらえるそうだ。
ここで勉強して立派な魔法使いになってみせる、そしてエースを…
「ユー君、そろそろご飯出来るって」
部屋の外からフォルの声が聞こえる、もうそんな時間かと思って扉を開け、部屋から出た時だった。
「見つからないですって、一体どこを探したのよ!!」
何か下の階が騒がしい、ユーとフォルはすたすたと2人の許へ行く。
二人は、キッチンと広場をはさんで話合っていた。 先ほどの声は、ルティが驚いただけのようだ。
「もう町全体を探したよ、行き違いなのかどうかは分かんないけど、何処にも居ないのよ」
「待ち合わせのカフェは?」
「居ないよ、店長にも聞いたけどそんな娘は来てないって、本当に何処に行ったんだろう」
二人が落ち込みだした時、ユーが声を上げた。
「誰が居ないのですか?」
「ユー君、今ね、私の家族が二人ほど帰ってきて無いの」
「え?」
「町中探し回っているんだけど何処にも居ないの、町の出入り口を見守っている自警団の人もその娘達を見てないって」
ミリルがつなげて説明する。
「そろそろ本気で探さないとまずいよね、噂の時間帯だし…」
「噂?」とユーが聞く、フォルも一瞬興味を示し、ミリルの方を向いた。
「うん、ここのところ、ある一定の時間帯で手招きをする女の子が出てくるんだって、その子について行くと、たどり着く先はお墓で、手招きしてた子はお墓の前で手招きを続けているんですって」
一瞬驚いた、そんな噂があったなんて、何か嫌な予感がする。
「それで、その手招きについて行った人はどうなるの?」
フォルが聞く。
「うん、手招きに乗った子はその子に誘拐されちゃうんだって、引き返せば戻ってこれるらしいんだけど…」
曖昧な発言をするミリル。
「とにかく、噂はどうであれ、早くココナ達を探さないと、私が困るわ」
「私、もう一度、探してみる、最悪、ルティちゃん達だけで夕飯食べてて」
「なら、僕も行くよ、フォルも一緒に探そう」
「うん、そんな噂聞いていたら黙ってられないね」
そう言って、フォルとユーも一緒に探してくれる事になった。
ルティは、二人に感謝しつつもやるせない気持ちになりながら二人の特徴を教えた。
「じゃあ、町の地図を渡しておくわ、何か分かったらカフェの処で待ち合わせで」
そう言って、ミリル達は町へ向かった。

町では不思議な事に昼間はあんなに賑やかだったのに今では静まり返っている。
「ここ、夜はこんなんなの?」
フォルがミリルに聞く。
「ん〜ん〜、実際は夜でも軽く賑わってるよ、でもあの噂のせいでね、皆、閉めるのが早いんだ」
少し残念そうに言うミリル。
「とにかく、聞き込みをしながら探してみよう、この時間にカフェ前集合で」
そう言って、ミリルは飛び出す、フォルとユーも町中を探し回った。
「私が町の人々に聞いてみるから、ユー君は私が聞いている間、周囲を見渡して、もしかしたら通りかかるかもしれないから」
「う、うん!!」
こうしてユーとフォルは、さまざまな家にフォルが聞き込んで、ユーはフォルに離れないように周囲を見渡しながら町を回っていた。
その行動をとってから数分後だった。
フォルが漁師の家で聞きこんでいる時だった。
ユーに再びあの視線を感じた。
そこを振り向くと、そこには一人の白い服を着た、猫耳の少女が立っていた。
「君は…」
ぽつりと口が開く。 すると少女はにっこり笑って、誰かに言った言葉とまったく同じ事を言った。
「私、知ってるよ、貴方の探している人」
「え?」
思わず声がでた、すると少女はさらに笑顔になって答えた。
「うん、知っているよ、私のお友達だもん、私の思い出の場所にいるよ、ついてきて」
そう言ってこちらを見ながら手招きをしてくる。
ユーは、フォルに2人を知っている人が居ると声をかけたが…
「ちょっと待ってて、もう少し話を聞きたいの」
二人の調査をしているのに何時の間にか船の話をしている、流石は海好きだなぁとユーは思った。
しょうがなく、ユーは心の中でフォルに「ごめんね」と謝り、一人で彼女を追う事になった。
付いてきてくれると確信した少女も「こっち、こっち」と手招きしながら先へ進んでいく。 ユーも後を追った。
やがて、ユーがたどり着いた場所は、ひとつの小さな石板が立った場所だった。
「2人は?」
ユーは聞くが少女は笑顔のままで答えない。
どうやら彼女はなにか勘違いをしているんだと思った引き返そうとした。
しかし…
「これ、誰のだと思う?」
そう言って少女は手に何かを持っている。
それはユーが探している子が着けている首輪と同じものだった。
名前の部分に「ココナ」とも描かれていた。
「その子は今、何処に居るの!!」
少女に向かって歩き出すユー、少女の前まで来た瞬間突然周りがゆがんだ。
「!?」
気付いた時には遅すぎた、目の前にある石板、それがお墓だった。
そしてそのお墓の前の立つ少女は怪しい笑みをこぼす。
「一緒に行こう、あの子も待ってるから、あの子もね」
「わああ〜〜〜〜」
ユーはその場から指輪だけを残して姿を消した。

その5 Y-0さん

AM 11:00 学校

リアが玄関のすぐ隣にある教室に入った
「あれ?、あんな物…いつの間に」 いつも見掛けない筈のオモチャ箱やノート、木製のテレビ、身長180cmの鎧がある
「おかしいな、あたしが一ヶ月前に来た時にはこんな珍しい物は無かったと思うけど」
そう言って、リアはノートを手に取り、パラリと捲った、そしてそのページの最後に可愛らしい犬耳の女の子の似顔絵が描かれていた
「へー、かわいいなぁ、きっと あたしのクラスメートの子が描いたんだろうな」
リアはそう言って、その似顔絵を見た
「もし、こんな子がこの世界にいたら…いや、この似顔絵はその子が思い付きで描いた絵だから、いないんだろうな」
リアはそう予め居ると予想していたが、どうせそんな事はないのだからと言わんばかりな感じですぐ諦めてしまった

リアがノートを閉じて周りを見ていると、いつの間にか鎧がリアの方に向いていた…
「!」リアは息を飲んだ「な…なんで? さっきはあっち向いていたのに…」
リアは鎧に近づいてじっと見つめた………しかし、鎧は動か無かった 「きっと…何かの見間違えだよね、うん」
リアは自分にそう言い聞かせた

ジリリリリン!ジリリリリン! いきなり何処からか黒電話がなり響いた

「うわ!、今度は何!?」びっくりして後ろに振り向くと…そこには黒電話を持ってトコトコと歩くタヌキのゼンマイ人形が、リアに向かって歩行してきたのだ
受話器から声が聞こえる『モシモシ?ワタシピクルスヨ!ハーイゲンキニシテル? キョウモマタチコクシソーナノ…ガチャン!!

「脅かしてもぉ〜!」リアが怒ってそのタヌキのオモチャを蹴った
「…だけど…どうして動いていたんだろう、あたしが動かした訳でも無いのに…」
確かに、リアはノートだけを触っていて他にも何か調べようとしていた、しかし何故?鎧やオモチャなどにも手を触れても無いのに勝手に動いたのか?

とにもかくにも、彼女は探索を続けなければならない
「この杖は…あのアンゴラウサギの子の!」その杖は、正しく本人と思われる名前があったが、文字にはキズが付いていて少ししか読めなかった
その杖があった場所に、懐かしのオモチャがあった「もしかして、これも?……あ、なんだか…ちょっと思い出したかも…」
リアは過去に彼女と遊んだ事を思い出した

『ねえリアちゃん、これ、私のママが遠い町で買ってきてくれたの』『何それ、オモチャ?』『うん!、かわいいでしょ、でもね、これはただ飾るだけじゃないんだよ、ここにね、ゼンマイがあるの、これを回すと』
カチカチカチ カチカチカチ ♪〜
『あ!人形が回って動いてる!』『ね、面白いでしょ?』『す…すごいよ!あたしたちが居る島には、こんなオモチャはなかったのに!』
♪〜

「…あの頃は、本当に楽しかった、だけど、その子も…」リアは杖を持ってこう言った「いつか、クラスメートも復帰する日が…来るかな?」

どたん!ばたん! 「うにぃ〜!」
「誰!?」リアが後ろに振り向くと、そこには黒いドアがあり、明らかにそこから少女の声が聞こえる
その黒いドアは前に何回か開けようとしたが、結局開ける事は出来なかった …開かずの間だった
「幽霊かどうかわからないけど、もう一度だけ調べてみよう」リアは黒いドアのノブに手をかけ、素早く引いた!
ガコン!「あ…」すると、ノブは厚岸なく壊れてしまった…その衝動で、カギが開いた

中に入ると、そこには魔法陣の上に転がっていた女の子が二人いた

その6 きりんさん

待ち合わせの子がいるとネコミミの少女に連れられ、空間が歪んだと思った先に最初にあったのは闇だった。
ブエル=ミアであるシリルの目をもってしても前が見えない完全な闇。
シリルたちは何が起こったかわからず、戸惑っていると、ドンドンという音がし、すぐにドアが開いた。
「ねえ、ちょっと君達どうしたのかな?」
差し込んだ光と共に顔をのぞかせたのは狼耳の少女だった。
手にはノートを持っているが衣服の上には皮製だろうか、軽めの鎧を着ており、そしてその腰には……
「こんなところに私達を連れてきてどうするつもりですか!?」
は少女が剣を差しているのを見て、ココナが叫び、シリルも警戒する。
「ん、ああ、これか。」
少女はシリルたちの視線に気づき、腰に差した剣を床に置いて掌を返す。
「別に君達をどうこうしようって者じゃないよ。私はリア。
この学校で起こった事件を調査しに来た……まあボランティアみたいなものかな。」
その言葉や態度に害意は無く、嘘をついているようにも見えない。
完全には信用できないが、このまま警戒し続けても埒があかない。
「私はココナです。この子はシリルちゃん。」
口下手なシリルに代わって、ココナが今まで自分達の身に起こったことを説明する。
「私達は町で島から来るシトロエンさんを待ってたんですけど、なかなか来なくて……」
「シトロエン?それって、『ユー=シトロエン』のこと?」
ココナの「シトロエン」という言葉にリアは反応し、聞いた。そこには少々驚きの色があった。
「えっと、名前はわからないですけどシトロエンさんです。『ご主人様』に魔法の勉強を習いに来るみたいです。」
「『ご主人様?』」
リアが怪訝な顔をする。まあ、突然そんな言葉が出ればそんな顔をするのは無理は無い。
――だからち〜ちゃんはそう言われるのを嫌がるんだろうな……
ルティはココナにそう呼ばれるのを嫌がる。
それは今みたいに他人に聞かれると怪訝な顔をされ、しいては人格を疑われたりするからなのだろう。
シリルは二人のやり取りを見ながらそう思った。
「あ、すいません。『ルティ=チャーフル』です。」
「『ルティ=チャーフル』……『天から舞い降りた英雄』。…… うん、大体事情は飲み込めたよ。」
リアはうんうんうなずき、そして自分達の今いる場所を教えてくれた。
ここが自分達がいるところから遠く離れた小島だということ。そしてここが今日来るはずだった『ユー=シトロエン』の故郷だということ。
「じゃあ、私達……」
「あの女の子に飛ばされちゃったみたいだね……」
「あの子?」
ココナとシリルが顔を見合わせると、リアが割ってはいる。
ココナがユーがいる場所を知っているというネコミミ女の子にここに連れて来られたという話をすると、リアは首をひねった。
「私はそんな子知らないな〜。実は私今日久しぶりに学校に来たんだけど、
ノートとか、おもちゃとか、鎧とか……前に来たときにはそんな物は無かったんだけど、もしかしたらその子が……」
「とにかくここを出ましょう。ここで考えてもわからないです。」
剣を差しなおし、部屋を出るリアの後に続いてココナとシリルが部屋を出た瞬間、部屋を満たしていた闇があふれた。
「「「っ!!」」」
がらんとしていたが窓から太陽の光が射し、明るかった部屋が瞬時に夜の顔に入れ替わる。
さんさんとした太陽の光は淡い月明かりに代わり、日陰は色を失ったかのように灰色になった。
「な……こんなこと……」
リアが口を開く。シリルも同じ気持ちだった。ココナも何が起こったかわからずぽかんとしている。
「とにかく廊下に出ようよ……たぶんその方が良いと思う……」
これから何が起こるかわからない。出口の無い教室よりも、廊下に出たほうが何かあったときに逃げやすい。
シリルがそう言って廊下に出ると、二人は無言でこれに従った。

「一度外に出てみよう。こんなの異常現象が起こる場所、長居すべきじゃないと思う。」
リアがそう言うとシリルも「そうだねと」従った。
部屋を出ると、月明かりに照らされた長い廊下が続いており、火災報知機が点々と毒々しい光を放っていた。
「出口は、あっちの方だよ」
リアがそう言って、廊下の先を指差す。ずっと先は真っ暗で何も見えない。
「あ、あの鉄の扉だね。」
シリルが隣でそう言う。どうやらシリルには見えるらしい。
「そう……だけど、シリルちゃん扉見えるの?」
「シリルちゃんはとても目が良いんですよ。」
リアの驚いた声にシリルが一瞬しまったと言う顔をし、ココナがあわててフォローに入る。
リアは「そっか」と納得したようでそれ以上追及することは無かった。ココナはほっと胸をなでおろす。
シリルが猫であることは、秘密なのだ。
だが、同時にココナは安心した。シリルはずっと先まで見えているのだ。
淡い月明かりの先に延々と続く暗闇に、ココナはこの暗闇から怪物が襲ってこないかと不安に思っていたが、それは杞憂に終わりそうだ。
緊張が解けると同時に体に違和感があるのに気づいた。なんだか首がいつもよりすーすーするような……
「あっ!」
ココナが声をあげると二人はココナのほうを見やる。
「首輪が無いです……」
そう、ココナの首輪がなくなっていたのだ。
「さっきの部屋に落としちゃったのかな……」
「今はそんなことよりも出口に向かおう。首輪は後で拾いに行けば良いじゃない。」
「そんな……」
リアの言葉にココナはショックを受けた。あの首輪はルティがくれたココナの宝物なのだ。
あれを置いていくことなんて出来ない。
だが、ココナにもわかっていた。この状況の中、来た道を引き返し、出口の無い教室に戻ることは自殺行為だと。
――とても大事なものなのに!!なんで落としちゃったんだろう!?
「シリルが拾いに行ってくるよ。」
自責の念に捕らわれているココナを思ったのか、シリルが口を開いた。
「ダメよ!今更戻るなんて!!」
「シリル一人で行く。く〜ちゃんとり〜ちゃんは出口のほうに行けば良いよ。」
リアの非難に全く動じることなく、シリルはそう言う。リアは口を開いて何かを言おうとしたが、途中で止めた。
おそらく、言っても聞かないと思ったのだろう。
シリルはココナの前に行き、顔を覗き込んできた。
「く〜ちゃんにとっては宝物だもんね。大丈夫、きっと見つかるよ。」
暗かったのと目にたまった涙で、良く見えなかったが、シリルはにっこりと微笑んでいた。
「私はシリルちゃんの子と待ってるですー!」
闇の中に消えるシリルにココナはそう声をかけた。。 「あ〜、もう!ココナちゃん、私は前と右見てるから、君は後ろと左を見ておいて。」
リアはそう言って頭を抱えた。どうやら先には進まないらしい。
「良いんですか?」
ココナはここで一人で待っておくつもりだったが、リアも待つというのには驚いた。
「あの子を置いてくわけには行かないでしょ!もちろん君もね。」
「ごめんなさいです……。」
「良い友達だね。」
落ち込むココナにリアが背中越しに声をかける。
「はいです!」
ココナはそう言い、シリルが教室から戻ってくるのを待った。

「隅々まで探したけど、部屋には何も無かったよ。」
数分後、戻ってきたシリルは残念そうに言った。
「そうですか……」
「何も?部屋に鎧とかおもちゃの電話とか無かったの?」
隣のリアが怪訝そうに聞く。
「うん、何も無かったよ。」
シリルは何も無いと両手を振りながらそう言った。
「シリルちゃん、私思ったんですけど、私達を連れてきた子って、噂の幽霊じゃないですか?」
ココナはシリルが首輪を探しにいっている間、自分達を連れ去ったこのことを考えていた。
そして気づいた。ミリルが話していた『手招きをする女の子の幽霊』と同じということに。
ココナの言葉にシリルははっとする。
「それよりも先に行きましょう。」
ずっと待っていたリアがそう言い、シリルも「そうだね」と言って続く。そこには先程の恐怖は無かった。

「シリルちゃん……こんなに暗いし、幽霊が出るのに怖くないですか?」
ココナは夜になってからのシリルの異常とも言える行動に疑問を思わず聞いてみた。
シリルの積極的な部分はココナも知っているが、それは発情期であるとか限られた範囲だ。
先程の行動もそうだが、こんな暗闇で、幽霊が出るかもしれないという状況の中、平然と歩くシリルを見て、ココナは疑問を感じていた。
「暗いのは……好きだよ。闇は自分の姿を隠してくれるし、自由に動ける。幽霊は……少し怖いけど大丈夫。」
落ち着いた調子で答えるシリルを見てココナは、シリルを頼もしいなと思った。
――シリルちゃん……すごいです!
そう思いながらココナはシリルの後ろに続く。シリルはリアと、扉が開かなかったときの話をしている。
「女の子はシリル達をここまで連れてきた……簡単には出してくれないと思う……」
「大丈夫ですよ、私これでも島一番の剣士なんですよ。」
リアはそう言って腰にある剣に手を当てる。
「うん、でも出来ることは考えられる時に考えた方が良いと思う……。
り〜ちゃんの腕を疑っているわけじゃないけど、方法は多い方が良いでしょ。魔方陣でばらばらになるかもしれないし……」
「それはそうですけど……」
きっと、シリルなりに全員助かるための方法を考えているのだろう。
しかし、ココナはシリルが少し遠い人になってしまったような気がして、少し寂しかった。
「く〜ちゃん心配?」
そんなココナに気づき、怖がってるかと思ったのか、シリルが振り返り声をかけた。
「少しだけ……。」
「大丈夫だよ、幽霊が追いかけてきてもきっと逃げれられる。だって私は……10年以上鬼から逃げたこともあるんだから。」
ココナがそう言うと、シリルは軽く微笑み、胸に手を当てながらそう言った。月明かり照らされたその顔は少し大人びている。
ココナは普段は見せないシリルの一面を見たような気がした。

「ダメ…開かない。」
リアはそう言ってドアの前でへたり込んだ。出口に出るドアに無事着いたのは良かったのだが、
案の定ドアは硬く閉ざされ、リアの鋭い剣閃にもびくともしなかった。
行く途中に窓ガラスが割れないかも試したが、こちらも割れるどころか傷一つ付かない。
何か武器は無いだろうか?シリルは周りをきょろきょろ見回すと、部屋の奥、教室の中にドアノブがあるのに気づいた。
「り〜ちゃん、く〜ちゃん、」
シリルは二人を呼び、そこを指差す。二人はその方向を見るのだが、どうも見えないようだ。
「行ってみよう、帰るための魔方陣があるかもしれない。」
シリルがそう言うと、二人は少し躊躇したが、従った。
「よいしょ!!」
リアが力をこめると、ドアノブが取れた。ミリル並みのパワーだ。
シリルは中をのぞくが、そこには魔方陣は無く、紙が一枚落ちていた。
――なんだろう……?
シリルはそれを手に取る。それは五行の印が書かれたお札だった。何でこんなところにお札が……
そう思って、シリルは辺りを見回す。
「ひっ!」
天井を見て思わず声をあげる。そこには辺りを埋め尽くさんばかりのお札が貼られていた。
「シリルちゃ〜ん、魔方陣あったですか〜!」
体ががたがた震えだす。入り口からココナの声がやけに遠くに聞こえた。
「すぐ戻る〜!!く〜ちゃんもすぐここを出て〜!!」
質問に答えず、シリルはそう言って、入り口に駆け出した。
ここに長居してはいけない。本能がそう言っていた。

その7 ゲイトさん

「どうしたんですか、シリルさん?」
ココナが質問をする。
「あの部屋、何か変だった。 お札がいっぱい貼られてて、寒気を感じたの」
「お札か、もしかしたら最初の事件のあった部屋なのかもしれないな」
「事件?」
リアがぽつりと言った一言にココナが反応した。
「うん、実はね…」
リアがこの学校で起きた事を話す。
この校内で起きた怪奇現象、行方不明者、はびこる亡霊、それらが原因でここは廃校となったのだと。
その話にココナもシリルも驚きを隠せなかった。

先ほど入った教室から出て、他に出口の手段がないか、あるいは魔法陣がないか、他の教室を調べようと廊下に出た時だった。
「こんな処にいたのかぁ〜」
「「「!?」」」
3人の背後から声が聞こえる、3人は振り返ると、そこには天井から上半身が突き出たお化けが現れていた。
リクトだった、おそらく、部屋を巡回している時に聞こえた物音に気付き、それをたどって来たのだろう。
「うに〜、天井に何かいます〜」
ココナが叫ぶ、リアとシリルは天井から出たお化けを見つめている。
その姿は体全部が白く、半透明で、耳は、柴犬のような犬耳をしていた。
「ふふふ、お客さんがいるのにお出迎えが遅れてごめんネ!」
かなり明るく振舞う亡霊リクト、今度は体全部を天井から出し、ココナ達の周りをぐるぐる飛び回る。
「ここは学校だヨ、良い子はもう帰る時間だよネ、君たちはこんな夜遅くに学校にいるって事は悪い子さんたちなのかナ? かなァ?」
クスクス笑いながらそんな事を言う霊、そんな言葉を余所に、リアは腰に抱えている剣を握り、亡霊の動きを見ている。
「シリル達、ここから出たいだけだよぉ」
「ぼっ、亡霊さんには、なっなな、何もしないから、みっ見逃してくださぃ〜」
半分泣きそうになりながらしゃべるココナ。
「ここから出たいねぇ、出たいよねぇ、出られるといいねぇ、アハハ」
「喧しい!!」
「をっと!?」
その声でリアは巡回するリクトに向かって剣を抜いて切り刻む、亡霊はスゥっと消えて言った。
「リアさん!?」
「あたしは君達を守る、その為にこの剣があるんだ」
そう言ってリアは2度剣を振るった後、ゆっくり剣を鞘におさめた。
「すごいですよ、リアさん、あんなお化けに立ち向かえるなんて」
「え? あはは、もう慣れっこだからね」
照れつつ言葉を返すリア、しかし、再びあの亡霊の声が聞こえた。
「アハハハ、お化けは 死 な な い w」
面白がるかのように喋る亡霊、その言葉にリアは目つきを変えた。
「おのれ、姿を見せろ!!」
リアが声を上げるが、亡霊は姿を見せない、一方のココナは、シリルとくっつき合いながらあたりを見渡している。
「ふ〜ん、君って勇気あるね、でも君の相手は俺じゃないんだな」
そう言うと、後ろからガチャガチャと音が聞こえる。
3人がその音の方へ見ると、そこにはリアが見たあの鎧がこちらに向かって来ている。
リアは二人の前に出て向かって来る鎧と向き合う。
「さぁ、リビングアーマー、その危ない物を持っている子の相手をしてあげて〜」
そう楽しそうに鎧に命令する亡霊。
リアは再び剣を抜いたが、流石に迫りくる鎧とその威圧からか攻め込むことができなかった。
「くっ、今は逃げよう、逃げるんだ!!」
2人を守って戦う事に無理を感じた決断だった。
リアの声と共に鎧のいない方へ逃げ出す3人。
「頑張ってね、あ、そうだ、アーマー、彼等を追い込むポイントは2−2教室ね〜」
スゥっと姿を現し、鎧に命令するリクト、鎧は胸を大きく張って、3人を追い始めた。
廊下を抜け、最初に彼女達とあった部屋近くまでやってくる。
鎧は、ゆっくりこちらに向かって来る、どうやら走らせることは出来ないらしい。 しかし、出口は開かぬまま、逃げたくても調べてない先の廊下の方側に鎧がいるので、どうしようもなかった。
「どうするですか、リアさん!?」
ココナが問い詰める。
「やむを得ない、2階へ逃げよう、そこしか逃げ場がない!!」
2階へ駆け上がる3人、階段は軽いらせん状になっており、上ったら次の階段を上ってと言う形になった。
3人は2階にたどり着いた、リアは何ともなかったが、ココナとシリルは廊下を走った上に階段まで走って上がったので息切れをしていた。
「あの鎧さんは?」
ココナが声を上げる、リアが階段を見つめているがそこには誰も上がってくる気配はない。
まいたかと安心した時だった。
「りーちゃん、あの鎧が登って来るよ!!」
シリルが声を上げる、階段から下の階が見える部分があるようだ。
リアがドキッとして、耳を立て、音を聞く。
何も聞こえなかったが、しばらくすると、ガチャガチャと登ってくる音が聞こえた。
「くっしぶとい奴め」
そう言って廊下を見渡すリア、何処かに隠れられそうな場所は無いか探し始めた。
すると、いくつか教室のある廊下を見つけた。 看板には2年教室と描かれていた。
よし、これだけ教室があれば…、何か閃いたリアはすぐに二人の元へ戻った。
「二人ともまだ走れるかい?」
「うに、なっなんとか」
「はっはい」
「よし、奥にやり過ごせそうな教室を見つけた、そこへ行こう」
そう言ってリアの後を付いて行くココナとシリル。
出来る限り奥へと思ったが、面白い事に、一番奥はガラクタの山が積まれており、そこより先へ行くことができなかった。
「くっ」
思わず舌を打つリア、それと同時にガチャガチャと音が聞こえる。
何処か逃げる場所はないかと扉に手を当て、横に引いてい見る、どうやら鍵はかかっていないようだ。
「よし、二人はこの教室へ、幸い鍵は掛ってない、さぁ早く」
「はっはい、ほら、くーちゃん」
「うっうん!!」
二人は教室の扉を開け、中へ入ったその瞬間だった。
「え、きゃあ〜〜!!」
「うに〜〜〜〜〜!!」
「ココナ、シリル、どうした!!」
リアが安心して迫りくる鎧と向き合った瞬間だった。
教室に入った二人が突然姿を消した。
「何がってうわ!?」
急にリアの足場が空を踏んだ事に驚いた。 
どうやら二人が入った教室には床が抜けていたようだ。
「ココナ、シリル、無事か〜!!」
声は聞こえない、無事なのかどうかを確認したいのだが、迫り来る鎧を放っておくわけにはいかなかった。
隙を見せたと思い、慌てて廊下を見るリア、だが、3人を迫っていたはずの鎧は、何もしていないかのように止まっていた。
いかにもここに向かっていたかのように廊下の中央でピタリと止まっている。
「なんなんだよ、一体…のわ!?」
ぽつりと言ッた瞬間、リアの体が急に何かに押し倒された。
「ギューーーーーーーーーン、俺のスピードは世界一ィィイイ!!」
破天荒な声と共に、亡霊がリアを押し倒したのだ。
その豪快な速度とは裏腹に、足場のない教室からもう一匹亡霊が現れた。
「ボビー飛ばしすぎだよ、またスピード違反でつかまっちゃうよ」
「心配するなジェニファー、俺の愉快通快豪快な速度は警察にも捕まらないぜ」
「そう言って何回捕まったの」
「そうだね、かれこれ1回だね」
「ちょ、待ってよ、私何回もボビーが警察に追われているのを見たんだけど」
「なめるな、俺の改造した、カルマン=モラリスはパトカーの倍以上のスピードが出るんだぜ、その証拠に4年と3日は逃げ切った記録があるんだぜ」
「すごいわボビー!!それならどんな奴でも逃げ切れるね!!」
渾身の漫才を披露していたのだが、それを見ていたリアは唖然としていた。
流石にしらけ方がおかしいと思った二人はこそこそと相談を始めた。
『なぁ、この人ってアフェルが言ってた人と違うよね?』
『うん、それにアフェルは「二人」って言ってたよね?』
リアを余所に話始める亡霊、カルマンとネオンだった。

その8 きりんさん

暖かいと思った思い出を痛いと思ったのはいつだっただろうか。

暖かさは砕け散り、破片が心に突き刺さる。

笑顔が何よりも辛いと思ったのは何故だったのだろうか。

嬉しかった。暖かかった。そして……だからこそ辛かった。

信じてた。いや……信じたかった……

わからない……わからない……

「うっく……、ひっく……」
暗がりの窓一つない部屋の中、壁と天井には触れれば激痛を与える札が隙間無く張り巡らされていた。
床には拘束具や、拷問道具がおかれ、札は無いものの、下の階の天井に札がびっしりと張られていた。
ここは、誰にも知られることの無い忘れられた場所。そして、この学校を廃校にした呪われた部屋。
そんな呪われた牢獄の中で、黒猫の少女が地べたで一人泣いていた。
以前に光を見たのはいつだろう。何も気にすることも無く走り回れたのはいつの頃だっただろう。
「ユー君……」
その頭の中にあったのは生前、一人だった自分に光を当ててくれたボーイフレンドだった。
――大丈夫だよ。僕はずっと一緒にいるから。
この学校に初めて来る際、彼ははにかみながらそう言った。
彼のことを思い浮かべると、それから数年経った今でも心が温かくなる。
しかしそれもつかの間、ずっと助けの来ない現実に引き戻され、熱が痛みに変わる。
「どうして……?ユー君……」
少女は心から暖かさが出て行くのを防ぐように両手を肩に置き、小刻みに震える。
その姿は空腹に耐えながら、親猫を待つ子猫のようだった。
彼女の名前はクロミエ=アンシャット。かつてこの学校で行方不明になった少女だ。
どうして自分だけ、こんな目に遭うのだろう。どうして世界はこんなにも自分に冷たいのだろう。
きりきりと心が痛む。今きっと肉体があったなら自分は泣いていただろう。
暗闇……、一人……、それは彼女が生前、そして今もなお甘受しなければならない境遇だった。

彼女がこの島に来たのは、行方不明になる一年前の頃、この島と大陸を結ぶ定期船に紛れ込んだのがきっかけだった。
彼女は「特別なある能力」が理由で大陸から追われ、ここに逃げてきたのだ。
最初はいた家族や仲間も、一人捕まり、二人捕まり、別行動を取り……
――『俺の分も幸せにな。』
最後まで一緒だった兄も、そう言ってクロミエの頭を撫でると、「敵」の注意を惹きつけるため、出て行き、
クロミエが定期船に紛れた時にはそばには誰もいなくなっていた。

島で彼女が発見された時、島の人々は動揺した。それは彼女が大きな黒い猫耳だったからだ。
島では黒猫は「不幸を呼ぶもの」として忌み嫌われていた。
島の人は「黒猫」であるクロミエに関わることを躊躇い、
身寄りのない少女であるにもかかわらず、誰も保護することは無かった。

クロミエは村の道を歩いていた。太陽は頭上で輝き辺りを輝かせる。時折穏やかな風がクロミエをそっと撫でる。
真昼間から道の真ん中を堂々と歩いたのはいつ以来だろうか。
だが、そんな天気とは裏腹にクロミエの心は晴れなかった。
確かに危機は去った。ここに来てから、「敵」のいるような気配はなく、こうして昼間から堂々と道を歩くことが出来る。
だが、以前の生活は常に死が隣り合わせ立ったが、傍には家族が仲間がいた。
こうして当てもなく一人でふらふらしていることにクロミエは安心も幸せも感じることは出来なかった。
こうして道の真ん中を歩いているのも、「敵」に見つけてもらったほうが良いという意識の表れなのかもしれない。
だが、道行く先で出会う人は皆視線を避け、クロミエに近寄ることすらしなかった。
――『俺の分も幸せに……』
そう言って兄はクロミエを船に乗せた。だが、最愛の兄を犠牲にして得た今を思うとやるせない気持ちがこみ上げた。
――お父さん、お母さん、お兄ちゃん、みんな……
涙が出そうになってクロミエは顔を上げた。そこには青い空が広がっている。
久しぶりに見上げた空は雲ひとつなくただ青く、そして空虚だった。

「ああっ!!早く謝れって言ってんだろ!!!」
近くで大声がしてクロミエはそちらを見やる。
そこには男の子が一人、同年代であろう数人の少年達に囲まれていた。
そのうちの一人が威嚇するように男の子を責める。
「………………」
少年はうつむき加減で黙ったままだ。
「おら!! なんか言えよ!!」
そう言いながら少年が男の子の肩を押す。
だが、その目は怒りではなく、獲物をいたぶる猫のような残忍さがあった。
周りに人もいたが、とばっちりはごめんとばかりに視線を避け、その場を離れていく。
男の子が顔を上げた。その顔には諦めの色がはっきりと見て取れた。
逃げ遅れた、そして兄がクロミエの元を去る前に見せた顔。
――何で……!
その瞬間クロミエは言いようの無い怒りを覚えた。
その怒りをぶつけるようにクロミエはなおも男の子をいたぶろうとする少年の下へ全速力で走り出し、顔を思い切り殴った。
「ってええ!!何すんだ!!!」
少年が叫びクロミエに拳を向ける。
だが、人に比べ身体能力の優れた種であるクロミエにとってそれは脅威とはならない。
クロミエは拳を避け、腕を掴みながら反転し、そのまま投げ飛ばした。
「こいつ!!」
少年達はクロミエを囲み、いっせいに殴りかかる。
クロミエは致命傷を避けながらも、少年達を何度も殴った。


「畜生!」 傷つき、そう言って走っていく少年を見送りながら、クロミエは肩で息を切った。
全身がずきずき痛み、息も苦しい。だが……
――勝った……
傷ついた体とは裏腹に心は先ほどまでとはうって変わって晴れやかだった。
「あの……ありがとう。」
後ろから男の子が声をかける。
「……良いわよ……あなたのためだけじゃないもの。」
――そう……これは私の問題でもあるんだから……
男の子が囲まれた時、自分達を見ていたような気がした。
誰からも助けられず、自分の運命を受け入れ諦める……。クロミエ達はそうせざるを得なかった。
だからこそクロミエは彼を助けたかった。それが当然だと認めるのが嫌で……。
自分達が誰からも助けてもらえないのが当然なのが嫌で……。
それを当然とする世界を、自分を一人にした世界をクロミエは変えたかった。そして、変えたのだった。
「ねえ、君最近ここに来た子でしょ。もう住むところ決まったの?」
男の子の言葉で、クロミエのせっかくの高揚感は吹き飛んだ。
全く、嫌なことを思い出させる。
「別に……」
クロミエはむくれながらそっけなく答える。
たとえここで世界を変えてもクロミエが一人になったことは変わりがない。
もう、変えようが無かったのだ。気落ちすると同時に体が重くなり、体も先ほど以上に痛んだ。
「ねえ、良かったら今日はうちに来ない?」
男の子の提案にクロミエは目を丸くした。こんなことを言ってくれた人は誰もいなかった。
「え、でも……私……」
思いがけない言葉にしどろもどろしているクロミエの手を男の子がきゅっと握った。
「ね、お願い!! 助けてもらったお礼がしたいんだ!!」
その手はとても暖かくて、家族と一緒だった日々を嫌が負う無しに思い出させた。
「……うん……ありがと……」
全身の力が抜ける。
手から伝わる熱が一人になって凍えきったクロミエの心を溶かしていくような、そんな気がした。
「僕はユー=シトロエン。今は体が弱いけど……将来は魔法使いになりたいんだ。君は?」
男の子、ユー・シトロエンはそう言って笑った。
「クロミエ……クロミエ=アンシャット……」
ユーに手を引かれながら、クロミエはそう答えた。

それからユーはクロミエは家族を説得し、一緒に住まわせてくれた。
そしてそれだけでもなく、学校にも通わせてくれるよう説得してくれた。
最初はギクシャクしていた家族とも仲良くなり、ユーや担任の先生の働きかけで、
少しだが友達も出来、不幸の時代は終わりを告げた、そんな気がした。
しかし……


そこまで思い出したところで、クロミエは我に返った。

「……要らない……!」
突然崩れた幸せな日々、裏切り、憎い笑顔。
視界が赤く染まっていく。頭の中ではキリキリと音を立てる。
「ひどいことをするのなら……先生なんて要らない!」
 心が急激に冷えていくのを感じる。人のいい笑顔、暗い部屋、歪んだ口元、いたぶるような目。
ユーの笑顔がふっと消え、辺りがグニャグニャと歪み始め、男の笑い声が頭の中に響き渡る。
手元にある金属バットを拾う。それは何度も打った後があり、ところどころ歪んでいた

「見過ごすなら……仲間なんて……要らない!!」
興味のなさそうな透明な顔、さらっと言った「関係ない」の一言。
金属バットを引きずりながらクロミエはドアへと歩いていく。
歩くたびに床下の封印の札がクロミエを攻撃するが沸騰しそうなほどの怒りは痛みを感じさせない。
クロミエの視線の先、そこには「敵」の顔があった。
――敵! 敵! 敵!! 皆敵だ!!
自分を追い詰めるもの、自分を騙すもの、自分が死ぬのを傍観するもの。
世界にはそれしかなかった。自分に手を差し伸べることの無い冷たい世界。だから……
クロミエはドアの前に立ち、バットを振り上げる。
そして……
「みんな……みんな消えちゃええええええええ!!
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
クロミエは声の限り叫びながら正面のドアにバットを力いっぱい打ち付けた。

その9 Y-0さん

ン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
「お兄ちゃん…」「デュオ!早く窓から逃げるんだ!」「で、でも…鍵が曲がって開かないよ!」「なんだって!?」
部屋の中には、赤毛の狐耳を持つ兄弟が慌ただしく 「怒りや憎しみに満ちた黒い少女」から逃げようとしていた

「クッ なんて事だ!学校の子達も…先生も「いい人達だった筈」なのに…どうして一周間前から突然いじめが始まったんだ…!」「ぼくにもわからない…だって、あの子をいじめる原因なんて……あ…あ……」兄がそう言っていると、弟のデュオが『何者か』を見て青ざめていた
「どうしたんだデュオ…うわ!なんだこいつは!」兄がデュオの見ている視線に向くと『大きな黒い影』が 三日月の口をして、焦っている兄弟を見て 更に狂ったかの様に高笑いを始めた!
「ニャ〜ハハハハハ!! 諦めるニャ……
「ヤツらを操って」あそこまで少女を追い詰められるなんて、流石我輩ニャ…」

ヤツらを…操って…? あの子を…追い詰めた?

その言葉に、狐耳の兄は「あんた…一体何者なんだ!?」『影』は兄の問いに答えた
「我輩は『悪霊』として黒猫少女の背後に付けてきた…『元戦闘員』ニャ」
「戦闘員?…」兄はその元戦闘員と告げた『影』にオウム返しをした その姿を見た『影』は更に怪しい笑みで
「我輩はヤツらを…いや、「学校にいる生徒や教師」を操り、我輩に操られた者は強制的に少女への「暴力やいじめ」をやらせ…「少女をいじめたヤツ」は彼女に殺らせた…
証拠となる遺体は…我輩が「ステルストラップ」で消したニャ…そしていづれ、少女と関係のない者も、友達も、キミ達も…ニャ」

もはや戦争が起こるだの起こらないの問題だけでは済まされない事になった…!
「な…なんでそんな事したの?…あの子は…ずっと前から、釈迦的な事を抱えていたのに…」「それを…利用した?………あんた…一体何の目的だ!!」
『大きな黒い影』に敵意を剥き出した兄が吠えた!
『影』はゆっくりとした口調で答えた
「…それは我輩にしか知らない『秘密の研究所を造る為』なのニャ!」
それを聞いた弟のデュオは「…たったそんな事の為に…学校に居るみんなを彼女に殺らせたの!?」
「なんて卑怯な奴だ…研究所なんて…生きている内に店で何年か働けば、そのお金で立てる事だって出来るのに!…
それに、何故この学校が狙われなきゃいけないんだ!、何故研究所にされなければならないんだ!」
兄の怒号に『影』は「…それは…ヒミツニャ…」と怪しい笑みと共に言った
「クッ!…そこまでして秘密にするなんて…許せない!……もう今頃彼女を説得しても…遅いか…」「…ぼく達も…殺されるの?」

「フフフ…精々 対抗するがいいニャ」そう言って『大きな黒い影』は消えた。

その10 ゲイトさん

「…あいつの言う事が本当ならば、彼女はずっとあの「元戦闘員」とか言う奴に踊らされていたのか…」
消え去った者が言い残した言葉にデュオの兄は悔しさを募らせる。
「お兄ちゃん…」
デュオが小さな声で兄を呼ぶ、その一言が消えた瞬間だった。
ガン!ガン!バギィ!!
「「!?」」
二人は何かが砕けた音に驚き、その方向を見る。
そこには、金属バットを両手で握りしめ、怒りと悲しみに耐えきれず、狂人となりつつある黒い猫耳少女、クロミエが立っていた。
「くっ、クロミエちゃん…」
デュオが声を上げる、当の少女にその声は届いていない、今の彼女の中には、怒りと孤独しかなかった。
そして、二人を見たクロミエは、ちょっとずつ二人に近づく。
やがて、兄は何かを決心したかのように、クロミエに声を上げた。
「俺に復讐しに来たか、クロミエ」
「お兄ちゃん!!」
突然の発言にデュオは驚く、同時にクロミエの足も止まった。
その時間を使って兄は、デュオに耳打ちをした。
『俺が彼女の注意を引く、だからお前は村の人に、今見た真実を告げるんだ!!』
『でも、お兄ちゃんが!?』
『……あの「元戦闘員」が言っていた事が本当なら俺も知らない間に操られていたのかもしれない、
 だとしたら殺されて行った仲間も自分が操られてた事も知らないまま殺されたのかもしれない、そう考えれば…分かるよな?』
『お兄ちゃん…まさか!?』
兄のやりたい事がデュオにも分かった、彼女に罪はない、でも彼女が動けばあの戦闘員も動く、なら、彼女を止めてしまおうというのだ。
とはいえ、学校の仲間を殺すなんて出来っこない、兄は自らの命を張って時間を稼ぎ、彼女をこの部屋に閉じ込めようと考えたのだ。
その為にも、村の力が必要だ、動きを封じる札、開ける事の出来ないようにする器材など、色々だ。
『…それが、あの子の為かも知れない、彼女は知らないんだ、「あいつ」の事を、だから頼む、お前は村の人に伝えてくれ。
 あの子には…悪霊がとりついていると…』
『お兄…ちゃん…』
思わず涙が流れた。
『いいか、俺がクロミエを抑える、お前はクロミエが破壊した扉から逃げろ!!』
「お兄ちゃん!!」
声と共に、デュオを突き飛ばし、クロミエから離す、そして…
「来いよ、クロミエ、お前の本気見せてみろ、最高の喧嘩をしようじゃないか!!」
兄とは思えない言葉、クロミエもその言葉に両手で握っていたバットに力が入り、バットを持ち上げて兄に向かっていく。
怒り狂ったような叫び声を上げて…
「お兄ちゃん…ごめん」
取っ組み合う二人を余所に彼は教室から出ていく。

数分後、避難勧告の出された学校の中、喧嘩の決着がついた。
「はぁ、はぁ」
止まない息切れ、握りしめられたバット、喧嘩相手は、もはや兄と呼ぶような面影はない、
クロミエには、その喧嘩で飛び散った血を体全身に受けている、その時だった。
「クロミエちゃん、何やっているんだよ」
「!?」
声の主は何処かで聞いたことのある声だった。
「学校に避難勧告が出てるよ、早くここから出ようよ、さあ、クロミエちゃん」
懐かしい声、私を助けてくれた声、手が延ばされる、でも…怖い!!
「来ないで!!」
「え?」
差し伸べる手を、ふり払うクロミエ。
『嫌、来ないで、もう何も信じられない!!』
心の中でしきりに叫ぶ、相手には聞こえてないだろう。 
「クロミエちゃん、僕、何か悪い事した?」
クロミエは何も言わず、バットを持ち上げる、その向きは、手を差し伸べた人物の頭上を指している。
「うわああああ!!」
…………
その後から私は何をしたのか、覚えてない、気付けば、この暴れまわった教室に閉じ込められていた。
あたり一面にある札、両腕を拘束具でしっかり止められ、身動きが取れなくなっていた。
私は何をしていたのか分からない、ただ、その時の私は、体が動かないまま、泣いていた。


クロミエの悲しき思い出は彼女だけが思いふけっていなかった。
ユーの夢の中
「来ないで!!」
「え?………僕、何か悪い事した?」
誰かに声をかけている、誰だろう、思い出せない、でも逃げなきゃ、彼女は、武器を持ってる…でも、足が動かない、駄目だ、やられる!!
「うわああああ!!」

「わあ!?」
突然目を覚ます、気付けば座り心地の良い椅子に座って眠っていたようだ。
「夢か」
さっきの夢は何だったんだろう、あの少女、何処かで見た事あるし、それに、目に涙を溜めてた…なんだったんだろう
気になることはいっぱいあったけど、今は、ここが何処だか知りたかった。
「ここは一体…」
あたりを見渡す、どうやら何処かの教室のようだ、机を並べ、シーツが引かれている、そのシーツの上には、少女が2人、あたりを見渡している。
彼女達が気になった僕は、一応声をかけてみる事にした。
「君たちは?」
「「!?」」
声をかけた少女達を見ていると、今度は声をかけた少女の犬耳の少女の方が声をかけてきた。
「貴方は、シトロエンさん?」
突然知らない子に名前を聞かれる、僕、そんなに有名だったかな?
「え? 確かに僕はシトロエンだけど何で君たちが僕の名前を知っているの?」
そう聞くと、彼女達は、今までの事情を説明した、それで納得した、彼女達がルティさんの言っていた「家族」なんだと。
「そうか、君たちがルティさんの言っていた「家族」なんだね」
「ご主人様を知っているんですか?」
突然名前ではなく、ご主人と帰ってくる、あの人っていったい…と思っていると、隣の子が訂正し事情を説明した。
「そうなんだ…じゃあ僕と同じ様に連れてこられたんだね、あの子が言ってた事は本当だったんだ」
「あの子?」
「うん、君達の住んでる町で女の子に合って、君達の事を知っているって言うんだ。
 僕はそれに言われて付いてきてそれでここに飛ばされたんだ。でも、本当に会えるなんて」
そう安心していると突然別の声が聞こえた。
「約束…守れたね、良かった」
「さっきは変な脅かし方してごめんね」
僕等3人をここへ連れてきた女の子の幽霊がここに現れた。その上、彼女の後ろからさらに2人、亡霊がやって来た。
ユフィ、リクト、アフェルだった。 一人の亡霊は二人に何かしたのか、その亡霊はしきりにココナ達に謝っていた。
「えっと、ココナちゃんにシリルちゃん、ユー君だよね? 私の言ったとおり、会えたでしょ?」
彼女がにっこりと笑った。
「君達をここへ招いたのは、一緒に遊びたかったからなんだよ、俺達は遊び相手がいなくてさ」
今度は一緒に着いてきた亡霊が話した。
「遊びたいのは分かるけど、私達そろそろ帰らないと」
「そうだね、ユー君も見つかったし、ちーちゃん心配してそうだしね」
そんな風に言うココナとシリル、その反面、心の中では目の前にいるお化け達に恐怖を感じているようだ。
心配そうにする2人にリクトは声を上げた。
「大丈夫さ、なんとかなるさ、だから遊ぼう」
このままじっとしていても、出られそうにないと思った3人は、半分納得しないまま3人の亡霊たちと遊ぶことになった。
「でも、何をして遊ぶのですか?」
ココナが聞き出す。
「遊ぶ内容は決まってるよ、フフフ…」

その11 きりんさん

クロちゃんがいなくなってから10日たった日、学校で大事件が起こった。
今までは行方不明になることしかなかった悪霊事件で、初めて死者が出た。
それはクロちゃんも好きだった自分達のクラスの先生だった。
そしてそのとき、初めて悪霊の目撃例がでた。それはクロちゃんと同じ黒いネコミミの少女。
そしてそれから……立て続けに何人か死人が出て学校は廃校になった。
その中には、僕らのグループだった子もいた。現場にいて一部を見た彼の弟は言った。


「あの黒猫のせいだ!!」


僕はそれがいまだに信じられない。クロミエは確かに一部からは嫌われてたけど、
運動神経も良くて、正義感も強くて、僕らのグループでは人気者だった。
あれは何かの間違い。そう思って何度も廃校になった学校を何度も訪れたけど、手がかりは何も無かった。
あれから9年がたった今もが彼女はどこにもいない。
同じグループだったリアちゃんが今もまめに学校を探してくれているけど……手がかりも何も無かった。
そんな中、魔法の先生に「天から舞い降りた英雄」の話を聞いた。
世界の平和を守った魔法使い、“ルティ・チャーフル”。
彼女の力を借りればあるいは……クロちゃんを見つられるかもしれない。
そう思って僕は、先生に頼んで彼女に紹介状を送ってもらった。

僕はあれからずっと頑張ってるよ。魔法も……少しなら使えるようになった。
君は今どうしてる……? この世界のどこかにいるんだよね……? クロちゃん……。


「……そういえば自己紹介がまだったな。俺はリクト、それでこの子がユフィ、アフェルっていうのがいるさっきのちっこいの二人は、ネオンとカルマンだ。」
白いイヌミミの少年が指を刺しながら紹介していく。
「……シリル・クランフォード……」
「ココナ・アンダンテです。」
「アルデンテ?」
「違いますよ、アンダンテです!」
ココナの名前にカルマンが反応する。まるで昔の自分達を見ているみたいで、ユーは少し懐かしく思った。
「それでは俺達と……」
「鬼ごっこしよっか?」
リクトが口を開いたとたんにユフィが割り込んでくる。
「まあ、それくらいならいいですけど……」
「じゃあ決定、私が鬼やるからみんな逃げてね。もし、貴方達の誰かが1時間逃げ切れたら、ここから出してあげるわ。」
「ちょっと待った、勝手に決めるなよ!」
ユフィの強引な提案にリクトが口を尖らす。
「あら、魔方陣を作ってこの子達をここまで運んできたのは誰だったかしら?」
ユフィが涼しげにそう言うと、リクトはうぐっと声を詰まらせる。
「もし、1時間で全員捕まったら……?」
今まで黙っていたシリルが口を開く。
「捕まっても、その後2、3回一緒に遊んでくれたらちゃんと返すわ。」
「……“今日中に返してくれる”ってことだね?良いよ。」
「決まりね。」
ユフィは勝ち誇った顔でくすくす笑う。
「きゃあああぁぁぁぁ!」
「とおおりゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」
甲高い奇声と共に、更に幽霊二人と少女一人が空から飛んできた。何なんだここは?
「この子も一緒だったけど良かったかな?」
ネコミミの女の子がリクトに尋ねる。小学校低学年ぐらいの少女、おそらくこの二人がネオンとカルマンなのだろう。
「ああ、まあ、人数は多い方が良いか。」
リクトは頭をかきながらそう言った。しかし、ユーは彼らよりも一緒に降りてきた少女に目がいった。
「リアちゃん!」
「え、ユー君!なんで……」
「実はルティさんのところに行ったんだけど……」
ユー達は今まで会ったことを話し合う。そしてその間
「え!ユフィちゃんと鬼ごっこすんの……!」
「ああ、しかもあいつが鬼だ。」
「……」
カルマンとネオンがあからさまに嫌そうな顔をし、アフェルは腑ふと笑う。
そんな様子をユー達は気づくことは無かった。

「それじゃあ良いかな?百秒数えるわよ。」
そう言いながらユフィは数を数え始める。それと同時に全員がその場から散っていく。
「リアちゃん、もしかしたらここのどこかにクロちゃんがいるかも……今までこんなとこあるなんて知らなかった。この機に乗じて一緒に探さない?」
「!……うん!」
「光よ!ともし火になりて闇を照らさん!ライトニングボール。」
ユーは指先から光の玉を出すと、リアと共に駆けていった。


「99、ひゃ〜く、さて……『狩り』の始まりね。」
ユフィは一人そう言いながら、ふっと辺りを見回す。
すると、遠くの方にすっと黒い影が見えた。おそらくここの構造を知らないゲストが戻ってきたのだろう。
「ふふ、みぃ〜つけた。」
ユフィはすっと壁の中に隠れると、影の方へもう突進して行った。


「うに〜っ、さっきから同じところばっかりです〜。」
ココナはそう言いながら廊下を一人歩く。
ここもかび臭さのせいか、自慢の嗅覚も役に立たない。
上を見るとプレートにすすけた文字で何か書いてあるが、暗くてよく見えない。
遊びと思ってシリルと別の方向に走ったが、こんなことならシリルと一緒に行けばよかった。
「もう、早くおうちに帰りたいです……」
ここに来てどれくらいの時間が経ったのだろうか?少しお腹も減ってきた。でもあと一時間。
そう思い、何度曲がったかわからない角を曲がると、そこには逆さになったユフィが笑みを浮かべて待っていた。
「ココナちゃんみぃつけたあああぁぁぁぁっ」
ユフィはそう言って、気味の悪い笑顔を浮かべた。
「うに〜っ!!」
ココナはとっさに叫ぶと伸ばした手をさっと避け、走り出した。
「追いかけっこだあああぁぁ!!! あっはははははははははははは!!!」
狂ったような笑い声が後ろから追ってくる。ココナは後ろを振り返らないようにしながら必死に走った。
角を曲がってすぐ、ふと目の前にトイレが見えた。
今ここで体力を使うと後がきつくなる。距離のある今ならあそこでやり過ごせるかもしれない。
トイレからは悪臭が漂うが、ココナは覚悟を決め、さっとトイレに入る。
「あっはははははははは!!! 
待ってよぉ、ココナちゃん、置いてかないでよぉ、置いていくなんて酷いよ。見つけたら……
あーっはははははははははははははははははは!!!!」
狂った笑い声が徐々に近づいてくる。ココナはトイレの個室で息を殺した。
「あれぇ、見失っちゃったぁ、もう少し早く言ったら良かったな〜。」
ユフィの落胆の声にココナは少し安堵する。これでここから去ってくれれば……
「まあ、良いや。まだ時間は沢山あるし。次は誰を探そう。」
段々声が遠ざかっていく。これで声が無くなれば……
ココナは鼻をつまみながら更に1分数える。声は完全に聞こえなくなり、トイレの中に静寂が訪れる。
――よし、今!
そう思い、扉に手をかけようとした瞬間、
「あっははははははははははははははははははは!!! 開けてよおおおおぉぉぉぉ!!!」
どんどんどんと激しくドアを叩く音と共にけたたましい笑い声がトイレの中に響いた。
「!!!」
ココナは全身の毛が逆立ち、ドアを蹴破られないよう、背中で押し返す。
ユフィは笑いながら何度も何度もドアを叩いた。開けたら殺される。狂喜の笑い声からはそんな気さえ感じた。
「……もう良いや……。」
何分立っただろうか、ユフィはそう言うとドアを叩くのをやめた。
「別の人に頼むから。 開けてくれるよね。」
――別の人?
ココナが息を切らせながらそこに考えを巡らそうとした瞬間、
どーん!!
ものすごい音を立てながら便器から何か細いものが出て、トイレのドアを破壊した。
「ココナちゃんみぃつけたあぁぁ、あっははははは!」
へたり込むココナの傍で残酷な笑い声がこだまするのだった。

「あいつと鬼ごっこすると本当に鬼に追いかけられるな。」
トイレので一部始終を見ていたリクトはそう思った。
気づかれる前に早いところここから抜け出そう、今回は数が多いから捕まらないだろう。
そう思いながらきびすを返した。
「どりゃああ!」
振り向いた先にいたカルマンがおり、リクトをトイレに思いっきり突き倒した。
「うわあ!」
リクトは思いがけない攻撃に、トイレにひっくり返る。
「ありがとう、リクト、君に死は無駄にはしない!!」
「ボビー、彼はもう死んでるわ!!」
「!!!」
「お前ら後で泣かす!!」
暴言を吐くリクトの目の前ではさっさか飛んでいくネオンとカルマンが見えた。
くだらないことをやるために自分を危険地帯に放り込みやがって……
そこまで考えたところで、リクトは背筋が寒くなった。ふと上を見上げると、そこには透明な三日月が見えた。
「お早うございます、ユフィ様」
無意識にそんな声が漏れた。

その12 ゲイトさん

その一言に、ユフィは笑顔になって
「リクトも見つけた」
「へいへい」
明らかにあきらめたように、リクトは声をあげた。
「これで後はシリルにアフェルと…」
リクトの方へ歩きながら指折り数えて行くユフィ、丁度リクトと重なったくらいだった。
「ちなみにさ、私がリクトに気づいてなかったと思った?」
ぎくっ
思わず背筋が凍った。
様子を見ていただけなのに軽くばれていたようだ。
でも、その後はからかうようにユフィは言葉をつづけた。
「あの子を狙ってたの分かってたし、どうせあの『遊び』するんでしょ」
「やれやれ、お嬢様にはお見通しですか」
突然トイレの入り口前でユフィと会話しているリクト、ある程度話を終えると…
「ちゃんと…残してよ」
そう言ってユフィは残りを探しに向かった。 
お嬢様性格なくせにそう言う系が好きなんだから…
「さてっと…」
リクトはココナの様子を見にトイレの前へとたった。
そこには便器から現れた細い物に両腕を止められており、両足はM字開脚状態で捕まっていた。
当然体は軽く浮いている。
「見つかっちゃったね、ココナちゃん」
「リクトさん、これ何とかなりませんか?」
ココナが助けを求める、しかし…
「あ〜ごめん、無理だね、出来る事なら外してやりたいけど、これはあいつの使い魔だからなぁ、変にぶったぎると多分あいつに亡霊でも痛いと感じる拳骨が落とされそうだから」
「うにぃ〜」
頭をかくリクト、ココナも軽く落ち込んだ。
そんな気分を吹き飛ばすかのように、リクトは再び声を上げた。
「残りが見つかるまで時間かかりそうだし、別の遊びでもしようか?」
「うに? 別の遊び?」
「ああ、何せ、俺等が見つかったの、始まって3分だぜ? カルマン達はあの調子だし、おおよそユフィもあの二人は半分無視してるだろうし、多分見つかるの時間かかるぜ?」
「でも、両腕と両足縛られて何もできませんよ?」
「大丈夫だよ、ココナちゃんが動かなくても遊べる遊びだから」
リクトはそう言って自分の右手を前に出した、何かを念じた瞬間、ピンっと5本の指先から何かを発射させた。
ココナ自身何が発射されたのか分からず、見ても何も見えていない、何が発射されたのか、答えは自分の服が教えてくれた。
「うっうにぃ〜!!」
リクトが指を少しずつ動かすと、ココナの上着は見る見るうちに持ち上げられていく、やがて、ココナの小ぶりな胸があらわになった。
「ちょっと、リクトさん!?」
「ふふふ、吃驚したかい、ココナちゃんにこの魔法を見せたのは2回目なんだけどね」
「え、2回目?」
驚くココナ、今までの事を振り返る、そして行きついたのはココナ達を襲ってきた鎧だった。
あれが動いたのも彼がいたのだ、もしかして彼には指先一つで遠くの物を操れる力でもあるのだろうか?
そう思っていると、リクト自身が答えを出した。
「俺はね、目には見えない魔法の糸を操ることが出来るんだ。
 動かせるものなら何でも操れるよ、家とかお城とかは無理だけどね」
良い終えると同時に今度は右手の指先を前に振り払うと何かが切れたような感覚を感じた。
それと同時にココナの後ろで5つほど何かが刺さる音が聞こえ、同時に上着を首元まで持ち上げられた。
どうやらリクトの放った糸は指先に始まり、ココナの服にくっついており、リクトが糸を壁に向かって放ったため糸がその方向へ引っ張られたのだろう。
「うにぃ〜」
何が起きているのかさっぱり理解できないココナ、ただ分かっているのはリクトの前で自分の胸があらわになっていると言う事であった。
「可愛らしい体だね、別の遊びをする前にまずは前座だよ」
笑顔で言って、ココナの胸に顔を近づけ、舌で胸の先端を当てた。
「ひゃ、りっリクトさぁん、やめてくださぃ〜」
突然の行動にビクッとするココナ、逃げたかったが、触手がそれを許さない。
「美味しいね、ココナちゃんの…」
「!?」
その一言にココナは寒気が走った。 リクトは舌でココナの胸の先端をコロコロと転がしながらしゃべり出した。
「??? …あ〜安心して、俺は生気を吸っているんじゃないんだ、俺が味わってるのは、ココナちゃんが感じている時に出る「快楽」だよ。
 俺は亡霊でありながら、淫魔としての素質も軽くあるんだ、だから、ココナちゃんが泣いてくれる声は俺にとってはご馳走と同じなんだ。」
「そっそれでも、こんな事、ここでしなくても…」
「…ココナちゃん動けないじゃん」
その一言で返す言葉がなくなるココナ。
リクトの胸攻めにざらついた舌がココナをさらに気持ち良くさせ、少しずつだが、声を上げていた。
やがて、太股に力が入っているのに気付いたリクトは軽く、指先でココナの秘部をなぞる。
「ひあ!?」とココナが驚いたような声を上げる、その反応にリクトは何かを確信した。
ココナの秘部が濡れ始めていたのだ。 その湿っぽさをリクトが逃すはず無かった。
「濡れてきたね」
「うに!?」
リクトの言葉にココナも顔を真っ赤にした。
「これ、履いていると濡れちゃうね」
そう言って、胸から顔を離すと右手をスカートの下に入れ、魔法を使う、その後、ココナはスカートの下がスースーするのに気付いた。
「うに!? ぱっパンツどうしちゃったですか!?」
「上を見てごらん」
リクトが指さす先には、宙ぶらりんな下着があった。 魔法の糸に引っ掛かっているのか、そこから全然落ちてこない。
下着、取り戻せるかなとか、考えてると、リクトが再び声を上げた。
「さて、ここも濡れて生きているようだし、そろそろ別の遊び本番と行こうかな?」
「うに?」
少し興奮しているココナにリクトが説明に入った。
「ルールは簡単、俺はココナちゃんをどんどん攻める、俺の攻めにイかなかったらココナちゃんの勝ち、イッちゃったら俺の勝ちで罰として攻め方を強くさせてもらうよ
 ついでに2回イったら3回目の攻め中にご褒美として太いのをあげるね」
「そっそんなぁ!!」
先ほどまで前座を仕掛けたのは秘部を濡らすためだったのかといま気付かされた。
「じゃ、行くよ」
「ちょ、ちょっとまってくださ、ひゃあああ!!」
ココナが意見を言う前にリクトの舌がココナの秘部に入り込んだ。
「ひ、だっ駄目でゅ、こ、こんな姿、ほぁ、他の、ひぃ、人に、みっ見られ、たら…」
「ん? 見られた方がいいの?」
「そ、そうじゃ、ひああ!!」
リクトはココナの言葉を気にせず舌を機用に操り、ココナをどんどん攻める。
「大丈夫だよ、ここには人は来ないし、ユフィがやってくれたから」
「ユフィさんが? ああ!?」
ちょっとでも気を抜くと、大きく声が上がってしまう。
「いいよ、周りを気にせずに、どんどん声を上げて、ココナちゃん快楽、すっごく美味しいから」
「リクトさ…ひう、駄目です、駄目ぇ〜」
ココナが声をさらに上げる、そろそろイキそうだ。
そう思ったリクトはココナの尻尾を握った。
「ひゃわあ!!」
「やっぱり弱かったんだね、最初は秘部ではイカせないよ、まずは尻尾でイカせてあげるよ」
その声と同時に舌の攻めを緩やかにし、握った尻尾を激しく扱き始めた。
「ダメ、尻尾いじっちゃ、上下に動かしたら、ああ、ああああ〜〜〜〜!!」
「ごぶ!?」
思わず口に入って来た物に吃驚するリクト、慌てて秘部から離れるとちろちろと黄色い液体が出てくる。
「…するほど気持ち良かったのか」
思わず自分のテクに感心するリクト、どうじにニヤリと笑みも見せた。
「ココナちゃん1回目だよ、少ししたら2ラウンド目行くよ、後がないよ、フフフ」
口を拭って、ココナの様子を見るリクトだった。

その13 きりんさん

許しがたい人達

許しがたい世界

許しがたい現実

ただそこにあるのが我慢できなくて……

私は世界を殺した


「久しぶりの学校だね、リア。」
ユーは隣を歩くリアに話しかけた。
「うーん、私は何度かちょくちょく来てるからそうでもないよ。」
――ここ立ち入り禁止なんだけどな……
そう思いつつユーはそうだったねと笑う。確かにそうだが、リアの気持ちは良く分かる。
事件の後、ここは廃校になり、立入り禁止となった。
そしてそれに伴い、それ以前に行方不明となったクロミエも所在は掴むことも出来なくなった。
『学校先に行ってるね』
そう言った彼女は今はどこで何をしているのだろう。
「でも、今回は新しい発見が沢山あった。」
リアの言葉が思い出にふけるユーを現実に引き戻す。そう、今回はデュオが見て以降、初めて幽霊が現れたのだ。
「それ以上は何も知らない方が良い。」
突然背後から声がしてユーとリアは振り返る。そこにはアフェルがいた。
「学校でも言っただろう?『世の中には知る必要の無いことも沢山ある』と」
そう言いながらアフェルの声と顔がゆがみ、変形していく。この声、どこかで聞いたような……
ユーが思いを巡らす前に答えが出る。現れたのは事件で最初の犠牲者となった担任の先生だった。
「先……生……?」
リアが隣でポツリと言う。ユーも全く同じ気分だった。
「だが、ここまできた以上……お前らも我輩の研究材料になってもらうニャ」
そう言って先生は再び変形していく。そこには見たことも無い人物が立っていた。
一体これは……?
ユーがそう思ったとき、アフェルだった幽霊から何か人形のようなものがごとんとこぼれ落ちた。


そのころシリルは暗い廊下を一人歩いていた。夜道をこうやって歩くのはミリルと再会した以来かもしれない。
ココナは一人別方向に行ってしまったのが残念だが、たまには一人も良い。そう思いながらシリルはまだ捜索していない最上階を一人歩いていた。
「シリルちゃんみぃつけたあああぁぁ!」
不気味な声が夜の静寂を打ち破る。シリルが振り返るとそこにはユフィが床から這い上がっていた。
「!」
シリルはすぐさま反対側に走って逃げる。
「あっははははははははははははははは!!みつけたあああああぁぁぁ!!!」
すぐ後ろで怒声が響く。シリルは全速力で走るが、声が近づいてくるのが段々とわかった。
このままでは追いつかれる。そう思いながらも良い方法が思い浮かばない。
息を切らしながら廊下を曲がったとき、服のポケットから紙のようなものが飛んでいった。
「きゃあ!」
しばらくしてユフィの悲鳴が聞こえた。振り返ると、そこには先ほど拾ったお札が張り付いていた。
「いたたっ」
ユフィは顔を歪めながら張り付いたお札を剥がそうとしている。逃げるなら今のうち。
そう思い、振り返る間、廊下の消火器の下に小さな穴が開いているのを見つけた。猫の姿なら入れるかもしれない。
ユフィはお札を剥がすのに必死でこちらに注意は向けていない。シリルは猫の姿になり、素早く穴の中に入った。
穴は深く奥へ続いていたが、自分の体が入るのが精一杯の大きさだ。もし先が行き止まりなら、バックで引き返すしかない。
「へえ、シリルちゃんもかくれんぼかああぁぁ!! 絶対見つけてあげるからねぇぇ!!」
背後から聞こえてくるユフィの声に怒りが混じっている。もっと遠くに逃げなければ……
そう思いながらシリルは更に奥へと進む。すると、向こうの方に小さな明かりが見えた。
――やった。出口だ!!
シリルは安堵しながら先へと進む。ユフィの声は次第に遠くなり、光はどんどんと大きくなる。
後少しで出られる。その期待でシリルが足を進めたところ、足は宙を舞った。
急いでいたため、バランスを崩し、シリルはそのまま前方にあった穴へ落ちた。


「ユー君、エース君、リアちゃん、フォルちゃん……うぅっ……」
今日も何も無い黒い部屋。クロミエは一人部屋にいた。今日も誰も助けに来てくれない。今日も冷たい世界。
そう考えると心の中に北風が吹き始める。どうせ誰も着てくれない。どうせ……
その時、背後からドスンと何かが落ちる音がした。クロミエが振り返ると部屋の隅にある空調式ストーブから「にゃあ」と猫の鳴き声がした。
――……“私”だ……!
クロミエはそう確信する。
――あの時、服を脱がそうとする先生から逃げる途中、穴を見つけて……ここに落っこちて……
生前にみた景色が頭に浮かぶ。クロミエは吸い寄せられるようにストーブに近づいていった。
――ずっと真っ暗で……お腹もすいて……誰も助けに来てくれなくて……
生前最後に見た闇が頭に浮かぶ。クロミエはストーブからはにゃあにゃあと声がするストーブに近づいた。
――……助けなきゃ! “私”を……!!
クロミエはストーブの側面を掴むと、力任せに引き抜いた。幽霊になったせいか、鉄板はのりでくっつけた紙のように簡単に外れた。
中には、猫の“私”がいた。
「大丈夫だよ、怖くない。」
クロミエは猫の“私”を怖がらせないよう優しく語りかけた。
“私”は安心したのか、ストーブから出てくると、ひゅんと人間の姿になった。
「みぃ……ありがとっ」
“私”と思った猫は全く別の見知らぬ少女に代わりぺこりとお辞儀をした。
「……君も、人になれるんだね。」
クロミエは少しがっかりしつつも、久しぶりに見た自分と同じ能力を持つ仲間に会え、嬉しく感じた。
「私はクロミエ、貴方は?」
「シリル=クランフォード……」
シリルはそう言いながらうーんと少し考え、
「下の名前も教えて欲しいな?」
と言った。
「アンシャット。クロミエ=アンシャットだよ。」
下の名前を聞いてどうするんだろう。そう思いながら答えると、シリルはぱっと明るくなり、
「宜しくね。あーちゃん」
と言った。
それからクロミエはシリルと色々なことを聞いた。外の世界のこと、シリルのこと……
「へえ、会ってみたいな〜。その“ココナちゃん”に。」
「とっても優しくて天使みたいな子だよ。」
そう友達の自慢をするシリルの顔も輝いていた。それを見てクロミエは世界が変わっていると感じた。
以前は、外に出るのも命がけで、友達と楽しく遊ぶなんて夢物語だった。もし今の世界に自分が生きていたら……
「うらやましいな……シリルちゃん……。」
つい、自分の考えが口から出た。
「あーちゃんには友達いなかったの?」
「いたよ、でもみんな離れ離れになって……ずっと待ってるけど誰も来てくれなくて……」
かつての仲間の、そしてユーやリア達の顔が浮かんだ。あんなに優しかったのにどうして誰も来てくれないんだろう。
「だめだよ、待ってるだけじゃあ。」
思いを巡らすクロミエにシリルが諭すように言った。
「……多分ね、そういうのは自分から会いに行かないとだめなんだと思う。
相手にも事情があるし、伝えないとわからない部分だってある。相手が何かしているのを待ってるだけじゃ、きっと辛いだけだよ。」
シリルはそう言いながら壁のほうをぼおっと眺めた。その寂しげな表情からはそれを体験した事があることを感じさせた。
「私は……たとえ少し嫌がられても……辛い思いをしても……何もしないよりずっといいと思う……」
シリルはぐっと手を握りながら言った。その言葉はクロミエの胸に刺さるように響いた。
「行こう、友達に会いに……」
そう言いながらシリルはクロミエに手を差し出した。目の前に出された手にクロミエは戸惑う。
確かにユーやリア、仲間達には会いたい。しかし、本当に会えるだろうか。また期待だけして傷つくことになりはしないだろうか。
「この手はあーちゃんが手を伸ばせば届く。手を伸ばしさえすればシリルとあーちゃんは一緒……後はあーちゃん次第だよ。」
シリルはクロミエの心を見透かすようにそう言う。それは、探すのであれば一緒に探してあげるというメッセージだった。
――怖いけど……でも、会いたい! ユー君、リアちゃん、お兄ちゃん、皆……会いたいよ!!
クロミエは差し出された手を掴む。その手は昔ユーが掴んだ時と同じで、とても暖かかった。


それからシリルは部屋中に貼られたお札を剥がし始めた。クロミエが言うには、それで力が大分戻るらしい。
剥がし終えると二人は前面のドアに向かう。
「せーの!」
二人は掛け声と共にドアに体当たりをした。ドアは激しくゆれ、若干開く。それを二人は何度も繰り返す。
何回かしたところで向こう側が騒がしくなるが気にせずシリル達はドアに体当たりをする。
ドアを見るとバットで何度も打った後があった。きっとクロミエが脱出を試みたのだろう。
自分と同じように大好きな人を一人でずっと待っていた少女。しかし、自分と同じように相手は来てはくれなかった。
シリルはそんなクロミエをどうしても助けたかった。何度も体をぶつけ、痛みが強くなってくる。
それでもシリル達は体当たりを続けた。

そして……
「うわあ!!」
シリル達が体をぶつけた瞬間、ドアが盛大に開き、シリル達は勢いでその場に倒れる。近くでは、カルマンとネオンが倒れていた。
「いたたっ。やったね、あーちゃ……」
シリルはそう言って隣で同じように倒れているクロミエを見てぎょっとする。
月明かりに照らされたクロミエの服は全身血まみれだった。
「あーちゃん、大丈夫!」
ドアで怪我をしたのだろうか。シリルはそう思いクロミエに寄り添う。
「あはは、出られたね…………」
クロミエは何事も無いかのように笑いかけるが、窓に映った自分の姿を見たらしく凍りつく。
「あーちゃん!」
シリルが手を握った瞬間、頭の中に何かが流れ込んできた。走る子供達、青い空、ユー=シトロエン、リアらしき子供、教室、
様々な風景や情景が次々とシリルの中に入って来る。
ここはどこだっただろうか。そうだ、“私”が通った学校だ。そこで“私”は先生に呼び出されて、穴に落ちて……そう……“私”は……
――違う!!私は“シリル=クランフォード”だ!!
その瞬間、電気が走り、シリルとクロミエは互いに吹き飛ばされる。今のはクロミエの記憶だろうか。
クロミエは起き上がった後シリルのほうを寂しそうに見ると何も言わずに階下へ消えた。
「待って!」
「痛い、痛いよ……」
シリルがクロミエを追おうとしたとき、隣でうめき声が聞こえた。見るとカルマンにドアから剥がれたのであろうお札が引っ付いていた。
「まってて、カル君、今剥がすから」
ネオンが雑巾を手に当て、引き剥がそうとするが、あわてているのか雑巾の上からなのかなかなか取れない。
今はかまっている場合ではない、そう思いつつもシリルはカルマンの元へ行くとお札を剥がした。
「あ、ありがと。」
泣きそうになっていたネオンはシリルの思いがけない行為にそう言い、カルマンはその場で脱力する。
「じゃあシリル、あーちゃんのところに行くから。」
それよりもシリルはクロミエのほうが気がかりだった。先ほどシリルの中に流れてきたもの。
あれがクロミエの記憶だとすれば、ユーやリアが来ている今、なおさら会わせなければならない。
「……ネオン……、あのお姉ちゃんに協力してあげて……」
踵を返そうとするシリルの背後でカルマンがそう言う。
「え……」
「あいつを止めないと……、またここに人が来なくなっちゃう……せっかく楽しいのに……」
“あいつ”そう言われたクロミエはここでも邪魔者なのだろう。だが、クロミエの過去を知り、
それが自分と近いものを感じたシリルは彼女を邪魔者扱いする彼らを疎ましく思った。
「でも、カル君は……」
「もう死んでるから、心配する必要はない。そうだろ、ジェニファー。僕も、回復したら行くよ。」
なおも戸惑うネオンにカルマンは笑いかける。ネオンは少しうつむいた後、シリルの後をついてきた。
「よろしくね、お姉ちゃん。」
クロミエを嫌う彼らはあまり好きになれない。しかし、彼らの孤独も十分わかる。
「うん。」
シリルとネオンは二人で階下に向かった。

その14 Y-0さん

「人形」が倒れて来たと共に、目の前に居た霊体が消えた ユーがさっきの幽霊らしき者に疑問を感じたのか、リアに尋ねた
「ねえ、今の人って リクトって言う子の友達だったのかな?」
「さあ、私も見たときはそうかな?って思ったんだけど、見覚えのある先生とか、なんだかよくわからない『影』に変身したり…結局正体が掴めなかったな」
「…それにしても『世の中には知る必要はない物も沢山ある』ってどう言う事だろ…」「あたしにもわからない…」
リアは首を横に降った
ユーは倒れている人形に目をやった、よく見ると 身長50cmの『人象人形』だった 頭にアンゴラウサギの耳が付いている
その『人形』は「プリンセスドール」なお嬢様っぽい服を着ていた
「!」ユーが何か気付いたかの様に「人形」に向かって言った「…なんだか見覚えがあるような気が…」
「え、この人形が?」「うん…」ユーが人形を持ち上げてみると
「あ!ちょっと待って」リアは人形の着ていた服を少し脱がし、肩や足の付け根を見た
「外れて壊れかけてるなー、これは放って置けないね、あたしが預かっておこう」「あ…あのね…そうじゃなくて…」
リアはユーの言葉をそっちのけで 壊れかけの人形をユーから受け取ろうとした
しかし、その『人形』は何か悲し気な顔をしていた

「はっ!」

リアは人形の顔をみて『誰かに似ている所』に気付き、震え始めた!「…この子……!」
リアはしゃがみこみ、人形を置いた
念のため背中に担いだ杖と 袋からオモチャを取り出し、改めて確認した「…このオモチャは…「この子」の物には違いない、問題は…この…杖…」
リアは震ている手で名前を読み上げようとした

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文字は潰れているが、なんとか読めた 間違いない、すぐそこにある『人造人形』は
アンゴラウサギの『ミルココ』本人だったのだ!

「そうだ…ミルココちゃんだ…やっと思い出した…」リアもユーも、杖を見てしばらく動けないでいた…
リアは人形にされた『ミルココ』を抱き上げた時、ポケットから白い紙が溢れた、それをユーが拾い、紙に書かれていた文字を読んだ

『リアちゃんに…あいたい…リアちゃんと…またあそびたい…リア…ちゃ…ん…と……

その後は、文字が潰れていて読めなかった どうやら彼女は姿を消された後、寂しさのあまり その気持ちを紙に書いたのだろう
リアは人形を尾生って ユーと探索を続ける事にした

そのとたん、廊下の窓から太陽の光が少しづつ差し込んできた

その15 娯楽人さん

シリル達を置いて校内をさまよい始めたクロミエその眼光は徐々に周囲への怨恨へと染まっていった
「皆居ない・・・皆私の事・・・嫌いになっちゃったんだ」
過去の記憶、虐げられた記憶、全てがごちゃごちゃになっていく
「皆私を虐めるんだ・・・じゃあお返ししてもいいよね?」
誰も居ない廊下で虚空にそう呟く彼女の姿は先ほどの可愛らしい少女の姿は微塵も残しておらず
狂気に魅入られたその瞳は赤く染まり、口からは鋭い牙が生え
声もひしゃげこの世の物とは思えぬ声色になった
「ミンナ・・・コロシテアゲル」
最後にそう呟くと彼女の姿は廊下から消えた

その16 Y-0さん

太陽の光を見た瞬間、その光景が朝に変わった リアが腕時計の針が指している所を見ると、午前8時を廻っていた
「もしかして…一日進んだ?」「えぇ!? そ、そんな事って…じゃあ、あっちの町にいるフォルやルティさん達は…今頃どうなっているの!」
「わからない…もう、何がなんだか」リアが頭を抱えて狼狽えていると、ユーが焦り気味な口調でリアに言った
「とにかく、早くクロちゃんを探そう!、そうじゃないと後が心配だよ!」
「うん わかった、ついでにクロちゃんの話を聞いたら、すぐにココナちゃんとシリルちゃんを連れて学校から出よう!
魔法陣を探して町に戻してあげるのが目的だったけど、この際仕方がない…」
リアが落ち着いた感じに言って一歩踏み出そうとしたその時

「キミ達、ちょっと待ってくれ」「「??」」リアとユーは、声をした方に振り向いた
そこには、赤毛の耳と尻尾を付けた狐の兄弟が居た 一人はボロ服の上に鉄製の胸当てをしており、横にいる少年らしき者は黒い布切れを身に的割り付けている
「あなた達は?」リアが問うと
「僕はレッディスト、死に至るまでは、元の名はあったけど…過去の事はあまり振り替えたくはないんだ 今は「透けた姿」になってしまって、人に見せられるのはあまり無かったけど、気付いてもらえて良かった」
そう言って『レッディスト』と言う兄らしき狐の幽霊が自己紹介していると、横にいた小さい狐の幽霊もお辞儀した…が、その顔は…酷く悲し気な表情をしていた
「弟の…デュフォレード…同じく元の名前もあって…その頃の過去は捨たいと…思ってる…」

レッディストとデュフォレード…この二人の幽霊を目の前にしたリアとユーは
その二人の話や声を聞いて『誰か』に似ていそうな気がした、しかし…始めて会った様な感じもして あまり気にかからなかった
「ところで、キミ達 人を探しているみたいだけど…悪い事は言わない、そろそろここらで探索は止めて、村に戻った方がいいと思うよ?」
「え?」「ん?」リアとユーが同時に返事をした それに答える様に、デュフォレードという黒い布切れの幽霊は言った
「キミ達を…危険な目に…合わせたく…無いんだ…だから…その為に…ウッ…ウゥ…ヴッ!」
すると、途中まで話していた黒い布切れの幽霊が咳き込み、兄らしき幽霊がその身体の背中を摩った
「だからその為にこいつと一緒に、姿を隠してキミ達の行動を伺ってたんだよ、今こうして学校の校内も明るくなってきてる」
兄らしき幽霊がそう言って窓の青い景色を見ると、黒い布切れの幽霊が苦しい息をしながら言った

「校内が…明るくなった今っ…彼女が…さまよって…る!…早く…キミ達の仲間…見つけて…学校から…逃げて!」黒い布切れの幽霊がそう言って倒れそうになると、兄らしき幽霊はそれを押さえ、話を続ける用に言った
「…と言う事だ、恐らくこの学校に迷い混んだ「誰か」が、彼女を脱出させてしまって、彼女が消えたと共に…次の日の朝になっちゃったらしいんだ、今はデュフォレードの言った通りに行動した方がいい、そうじゃないと…また「あの時」になってしまいそうだからね…」
兄らしき幽霊はそう言い残して、ユーとリアの目の前から消えた

その17 きりんさん

「どうしようか……」
二人の幽霊が消えた後、リアがユーに語りかける。その中には戸惑いがあった。
「どうしよう……」
ユーもこの短期間の間に様々なことがあった。
アフェルが死んだはずの先生だったこと。
そして手の中にあるミルココにそっくりな人形。
そして先程の二人。
あの二人が言っていたことは本当なのかは正直半信半疑だ。
確かに先程の状態は異常だった。だが、逆に言えばその異常性がクロミエの手がかりに繋がる可能性が高い。
――『世の中には知る必要の無いことも沢山ある』
先生が言ったあの言葉もクロミエに関係しているような気がした。
10年以上探している手がかりがそこにあるかもしれない。そう思うとユーはこのまま校舎の捜索を続けたい気持ちに駆られる。
「……とりあえずココナちゃん達を連れてここを出よう。クロちゃんは、その後二人で探そう。」
少ししてリアが口を開く。その声は頼りなく、リアの方を振り向くと、少し戸惑った顔がうつった。
きっとリアも迷っているのだろう。このチャンスを逃していいのかと。
しかし、それはココナとシリルには無関係の話だ。自分達のわがままで彼女達を危険にさらすわけには行かない。
「うん、そうだ……」
「本当にそれでいいのかしら?」
ユーがそう言いかけた瞬間、少女の声が割り込む。二人ははっとして振り向く。そこには白い服の少女、ユフィがいた。
「どう言う……こと?」
リアが警戒しながら聞き返す。
「ユー君、私貴方に言ったよね『貴方の探している人を知っている』って」
ユフィはくすくすと無邪気な笑顔を浮かべながら言った。
――『私、知ってるよ、貴方の探している人』
ここに連れてこられる前、確かにユフィはそう言った。あの時はココナとシリルを探しているから、彼女達のことだと思っていた。
だが、もしそれが違う誰か、ユーとリアがずっと探しているクロミエのことだとしたら……
「私がもう一度“永遠の闇”を唱えるのには数十秒かかる。確かに今、貴方達はここを出ようと思えば出られるかもしれないわ。二人を見捨てて今すぐに出口に駆け出すのであれば。」
笑顔を崩さずユフィは続ける。優しい声で発せられたそれはまさに悪魔のささやきだった。
「でもそうすると貴方達二人は私との約束を破ることになる。それならば私もあの子達への約束を破るわ。
とくに、シリルちゃんの方は、きつ〜いおしおきをしなきゃね。」
その無邪気な言葉とは裏腹に見せたユフィの目が冷たい光に当てられ、ユーは鳥肌が立った。
その表情から自分たちがここから離れたら二人がどうなるかは、容易に想像できた。
「そして、貴方が探しているあの子、貴方達じゃないってことはシリルちゃんがなんらかの魔法を使って連れ出したんだと思うけど、
その子もどうなるかしらね。」
ユフィは口元を耳まで引き上げた。もし自分達が今、ここから逃げ出せば、ココナ達だけではない。クロミエにまで害が及ぶ。
「もし、貴方達二人が残って、ユー君、貴方があの子と『再会』出来たのなら、“私は”貴方達を襲わないし、貴方達二人を『一時間逃げ切ったことにしてもいいわ』」
ユフィが妙に優しい声でそう語りかける。ここに留めようとする魂胆はみえみえだ。しかし、もしクロミエと「再会」出来れば、全てが解決する。
だが、それが失敗した場合、彼女達との「遊び」を続けることになる。
赤毛の狐の二人が作ったせっかくの脱出のチャンス、それを生かすべきか殺すべきか、ユーの心は揺れる。
「ねえ、リアちゃん、ユー君、貴方達あの子がいなくなってから、ずっと探してたんだよね。ずっと後悔していたんだよね。」
自分達がずっと思っていた事、それをつかれてユーはぎょっとする。
隣にいるリアもひゅっと息を呑む声が聞こえた。
ユフィは悪戯をした子供のように、そんな二人の反応を見て喜ぶように笑いながら歌うように続ける。
「そんなはずはない。クロちゃんはきっとどこかで生きている。ただ手がかりが無い。
だから探さなきゃ。ごめんねクロちゃん、あの時一緒にいればよかったのに……」
ユフィはくるくる回りながらただ無邪気に、ユーの心を代弁する。
ユーもリアも魔法にかかったかのようにその場を動くことが出来ずにただ彼女の姿を見つめた。
「……今度は三人に対してそう思うのかしら?」
ユフィがふっと消えた瞬間自分達のすぐ後ろで低い声が聞こえた。二人はばっと振り返るとすぐ近くにユフィの顔があった。 そこには先程の笑顔は無く、無機質とさえ感じるような淡々とした顔があった。
「…………」
回っていた際、ふわふわしていたユフィのスカートがすっとしぼむ。静寂が廊下を包んだ。
……自分がやるしかない。
「……わかった、君の提案に乗るよ……」
隣にいるユーが重苦しい空気を破る。ゆっくりと発したその声は酷く落ち着いているように感じた。
「ユー君……」
リアは心配そうにユーを見る。確かにココナ達を逃げるのには反対だ。だが、ユフィの要求を呑むことは、ユーに一方的に負担をかけることになる。
ユーはリアに気づき、優しく笑う。 ――大丈夫。 そう言っている気がした。
「決まりね。」
ユフィも満足そうに笑う。
「あの子はこの校舎のどこかにいるわ。封印は解けたから、どこかの廊下にいるんじゃないかしら?」
「じゃあ、行くよ。」
「きっとどこかに罠があるに違いないから、気をつけて。」
ユーはわかったと笑い、階段の方へ向かった。
廊下にはリアとユフィが残される。
「さて、どうなるかしら。」
ユフィはにっと笑う。
「トラップを仕掛けているくせに、卑怯者。」
「あら、心外ね。私はリクトやカルマンじゃないんだからそんなつまらないことはしないわ。」
リアの強い口調に全く動じることなく涼やかにユフィが返す。
「じゃあどうして……」
「決まっているじゃない、あの二人を引き合わせるためよ。」
「なんで貴方がそんなことをするのよ。」
リアはわけがわからず聞く。これがココナやシリル、善意あるものであるのならば、親切として受け止められる。
だがユフィは先ほどからの態度や行動からもわかるように、そんな親切心は欠片も無い。むしろ他人で遊ぶようなタイプの人間だ。
罠も無しに善意でクロミエとユーを会わせようとするとは到底考えられなかった。
「人の生き方はそれぞれ。そしてその中に様々なドラマがある。それはとてもリアルで、そしてどのテレビでもないほどスリリング。」
「一体何を……」
ユフィはリアの方を向かずに誰と無く語りかける。リアはユフィがはぐらかしていると思い、話を戻そうとする。
「今日、ここで一つのドラマが始まる。それが感動物語か、はたまた悲劇かは誰にもわからない。」
ユフィはリアの言葉を無視し、まるで映画のあおり文句のように言う。
「そして私はその観客となる。 それってとても面白いことじゃないかしら。」
ユフィはリアの方を見た。楽しそうにするその顔はこれからある“ドラマ”への期待が伝わってくる。
「リクト達はどうかは知らない気ど、私が彼をここに連れてきたのはそういう理由よ。」
それを見てリアはユフィの意図がつかめた。つまり、彼女にとって今回の事件はユーとクロミエを引き合わせるためのものだったのだ。
そして、その再会をまるでドラマのように楽しむ。ユーとクロミエはユフィにとっては優れた俳優や女優なのだろう。
「それより貴方はここでぼーっとして良いのかしら?この事態に気づいたアフェルがクロミエの方に向かおうとしてるわよ。」
「そんなの約束が……」
「私がした約束は『私が』貴方達に手を出さないことよ。アフェル達は知らないわ。もっとも、私の“ドラマ”を妨害するのなら許さないけど。」
リアはぐっと拳を作る。自分達のクロミエ探しもこの少女にしてみれば、「ドラマ」にすぎないのだ。
それは当の本人であるリアやユー、そしてクロミエに対するこれ以上無いほどの侮辱だった。
自分達がこれまで必死にやってきたことも彼女にしてみればエンディングまでのストーリーに過ぎないのだ。
「貴方にこれをあげる。貴方の剣の柄につければきっとアフェルにも利くはずよ。」
ユフィはそう言って服越しに1枚のお札を掴み、リアの元にひらりと落とす。
きっとこれで彼女は「主役の二人のために頑張る友人」を見て楽しむのだろう。
そしてその結果、同族の幽霊に被害が及ぶことも十分に理解しながら。
リアはそんなユフィの態度に怒りを覚えつつも、言われたとおりお札を拾い、持っている剣を抜き、柄に貼り付ける。
剣は刀身からほのかな光を発する。
リアは剣を指すと、ユフィに何も言わすに駆け出す。

「さて、どのような結末になるのかしら。」
一人残されたユフィは、これから始まるドラマに無邪気な笑みを浮かべ、ふっと消えた。

その18 ゲイトさん

一方トイレに取り残されたリクト達は、お互いが絶頂に達する寸前であった。
度重なる周りの行動にお互いが本能的に性行為を続けていたのだろう、ココナも3度目の限界が近付いている。
リクトの方も、既にココナを2度イかせ、3度目の絶頂の前に自分の代物をココナの秘部に差し込み、腰を動かしていた。
「は、は、は、」
ココナの呼吸に合わせ、腰を動かすリクト
「リクトさん、私、私、もう…」
「うん、俺も、もう出る、一緒に、イこう」
リクトの動きがさらに激しくなる、ココナもその動きにさらに声を上げた。
「あ、リク、んん、激し、くる、あっ、ああああああああん!!」
「くっ、出る!!」
声と同時に、ココナの中へ放つ、最後の行ってきまで中に放ち切ってリクトは離れる。
「ふぅ」
満足したかのように、息をつくと、ココナの様子をみる。
ココナの方も大きく息を切らしている、そうとう気持ちが良かったのだろうか、なかなかしゃべれそうにない。
今の快楽を残したまま、ココナの中に入ったものに少し魔法を使う、これもおそらく淫魔の素質だろうか、中にあった物はすっと消え
ココナの疲れを癒す、突然の疲れが抜け、驚きを隠せなかったが、それでも先ほどの快感は残ったままだ。
「リクトさん、今のは…」
ココナは顔を上げ、リクトを見つめる。
「癒しの力さ、ココナちゃんの中に出した成分を疲労回復用の魔力として使ったんだ、いざと言う時に危険だからね」
そう言っていた時だった、ココナを捕えていた触手が弱まり、ココナを便器の上に降ろす。
役目を終えたかのように触手はトイレの中へ消えて行った、その時である、まぶしい光がトイレの中へ差し込む。
突然の光にリクトは驚いた。
「おいおい、いくらなんでも早すぎないか?」
日の光に戸惑いを隠せないリクト、それでも、トイレに秘かに置かれている時計には午前の8時を指している。
『誰かが時間を早める魔法を使ったのか、それでも早すぎる、それに、日の光が上がったと言うのに、俺が消えないのはなぜだ?』
そう思っていた時だった。
トイレの扉をすり抜けて、誰かが入って声を上げた。 アフェルである。
「おい、お二人さん、イチャついている場合じゃないぞ、特にリクト、遊んでる場合じゃなくなったぞ!!」
思わず、ココナはどきっとする。 乱れた服に突然のイチャつき発言、ココナの顔が一気に赤くなった。
その様子を可愛いと思うリクトだった。
等と考えていると再びアフェルが声を上げた。
「アイツが解放された、今ここを彷徨ってる!!」
“アイツ”の一言にリクトの顔が一変した。
「まさか、あの封印が解けたのか!!」
「ああ、しかも説いたのはユフィが連れてきたオレンジ色の髪の子だ、勝手してくれたよ」
アフェルの言葉に怒りを感じる、リクトも流石にこのままじゃまずい事を悟った。
「アイツを止められるのは俺ぐらいだ、アフェル、奴は何処にいる!!」
リクトが声をあげる。
「奴の事だ、憎しみを背負いながら思い出深いところにいるはずだ!!」
「となればあそこか、アフェル、ココナを頼む、俺は奴を止める!!」
そう言って、リクトの体が宙に浮く、それと同時だった。
「リクトさん、何があったのですか?」
ココナの声が聞こえた。
「悪霊が外に飛び出しちまった、放っておいたら俺達はおろか、ココナちゃんの命も危ない、あの悪霊の暴走を止められるのは俺くらいだ」
そう言って移動しようトイレの扉の封印を解いた時だった。
「ココナ、すっごく気持ち良かったよ」
「!?」
突然の発言に思わず赤面するココナ。
赤くなっている間にリクトはトイレから出て行った。
取り残されるココナ、そして、アフェルの裏の顔が姿を現した。
「フフフ、ココナちゃん、だったよね?」
「うに!?」
突然聞き覚えのない声にココナは驚いた。
「ココナちゃん、しばらくの間吾輩に従ってもらうにゃ、なに、リアやユーを悪霊から引き離してもらうだけにゃ、ついでにユー君を食べてみるかにゃ?
 にゃ〜んて冗談にゃ、でもリクトが悪霊と遭遇する前に悪霊と彼が遭遇したらユーはどうなっちゃうかにゃあ?」
「!? ユー君が危険です、でもこれからどうするんですか?」
「吾輩に任せるにゃ、さぁ行こう」
そう言ってアフェル? はココナを連れて、クロミエの処へ向かう、リクトを消しユーを利用してクロミエを忠実にさせるために…」

その19 Y-0さん

トイレの前で姿を消していたデュフォレードは、その話を聞いて青ざめた『そ…そんなまさか!』
デュフォレードは今の話を報告しようと、急いでレッディストの元へ戻って行った

「ふふふ、もうじきあの二人は出会うわ…」レッディストはユフィに見つからないように姿を消し、リアとユーに警告する姿を捉えていた
レッディストの横にヒュッとデュフォレードが戻って来た…
「デュフォレードか…」「お…お兄ちゃん…大変だよ…」「どうしたんだ?」レッディストはデュフォレードが移動先の場所で『大きな黒い影』がとんでもない事をしれかす話を打ち明けた

「なんだって!?」「うん…」「…くっ、あの幽霊め…死者が出たら承知しないぞ、デュフォレード 抗議しに行くぞ」「わかった…僕も…言いたい事…あるから」

二人がフッと姿を表し、廊下の日差しに立った ユフィはユーが期待に答えてくれるかの様に、そこで佇んでいた
「そこの幽霊…」「ん?、あなた達、この廃校に何時からいたのかしら?」レッディストはユフィの問いに答えた
「死んだ後、ただあんた達に気付かれなかっただけだ」レッディストはそう言ってユフィの今の気とは裏腹に言った
「さっきの話は聞かせてもらった…一体どういう事だ!?」
デュフォレードも「そうだよ…あの二人にあんな事言って…人を利用してまで……何のためになるの?…そんなに…そんなに……「夢みたいな語」に…病んでるの?…今は…『とても大変な事』になっているのに…」
狐の兄弟の憎がましい呪言の様な声がすると共に
赤いオーラを発し、白い不気味な斑模様が浮き出している
デュフォレードと言う黒い布切れの幽霊の目は、何か乗り移ってかの様に丸く見開いている
しかし、ユフィはそれに同じる事無く、二人にその『目的』を話し始めた

「あなた達だって、あの二人を先にこの学校から追い出しちゃったら、当然そのあとはどうなるか解るでしょ?」
「確かにその事は言われなくても解る、その危険に会わせない為に『僕達』が居るんだ」「答えになってないわ…
だってクロミエちゃんって子、一度あなたを殺っちゃったんでしょ?、再戦なんて…無駄な努力をするだけよ」
レッディストはその言葉に反発した
「戦うなんて一言も言って無い!、時空系魔法を唱えて時間を稼ぐ為だけだ!」
レッディストが魔法の事を言うとデュフォレードも
「僕だって…念のために…『呪言』を持ってる…何も出来ない訳じゃ…無い…!」
「ふーん、でもそんな事出来るかしら、魔法は使えたとしても…実際はどうなるんでしょうね?」
ユフィがそう言うと、レッディストは無駄な戦いを避けるために言い放った
「ふん…試さなくても僕達には解る」「…経験済みだからね…」
デュフォレードもそう言うと、何を思ったのか黒い布切れを下半身の少し上まで脱いだ
そこには、敵に裂かれる程な酷い痕が残されていた……
「デュフォレード…お前が死んでしまって幽霊になっても、『奴』の魔術を受けてしまうのは…悔しくて悲しい」
「…お兄ちゃんも幽霊になっても…僕と同じ…」「ああ…ここに証拠があるさ」
レッディストも服を捲ると…何度も打ち付けられた後がいくつもあり、胴の部分が失われ欠けていた
どうやら『大きな黒い影』とは戦わずに、傷を付けられながらも必死に逃げていたのだろう
しかし、ユフィはそれでも他人事の様に言い払った
「でも、そんな事は私には関係ないわ、…私はただあの子達の行動を楽しんでいるだけ…」

『「ふざけるな!!」「ふざけないでっ…!!」』

二人は同時に怒言を放った 一息ついたレッディストはそのまま話を続けた
「『世の中には知る必要ない物も沢山ある』…むしろそれがいい…
これ以上『僕達みたい』に人を巻き込んだり、半殺しされるような事は断じて撤回する…相手に「させたくも」ないし自分から「したくも」ない…!、「させられてしまう」とかも、もっとイヤだ!!」
レッディストが怒号を放つと、デュフォレードは深くショックを受けた様な暗い声で
「君は幽霊になってから…すっかり…気分も…性格も…変わってしまった…もう…僕…その後君がどうなるかは…もう…知らない…やっちゃった事は…「取り返しが付かない事」に…なるから…なる…からっ」
デュフォレードの丸く見開いた目からは、涙がポロポロと流れていた
「わかったら、あんたは『大きな黒い影』に見つからない内に、すぐに「鬼ごっこ」を済ませて人目の付かない所にいるんだ!
そうしなかった場合、『赤い部屋で「零触」に犯される』それか「人形」にされてしまうと思え!」
ユフィにそう言い残し、抗議が終わったと共に二人の幽霊は消えた…

…二人が消えた先は太陽の光で明るくなっている部屋…しかし、その部屋の白い壁や床は黒い斑模様がいくつも続いており、不気味だった
そんな模様に同じる事無く、レッディストは語り出した
「あの猫君の行動は正しいと認めるけど…それが大恐慌に見舞われたら、力ずくでも僕は生存者を助ける!…それが…「僕だけの掟」さ…デュフォレードは心配しなくていい」
「お兄ちゃん…」「?」レッディストはデュフォレードの方に向いた
「零触って…なに?」「え?…」「…あ…ごめん…何でも無い…」」デュフォレードはそう言うと、何も聞かなかった事の様にベッドに潜り混んだ

…デュフォレードが寝息を欠くと、レッディストは小さい声で零触について語り出した
「デュフォレード……零触って言うのは、「触手」の事なんだ、幽霊触手と読んで「零触」って…寝てるから聞いてないか…」

レッディストの視線はデュフォレードの寝顔を写していた

その20 娯楽人さん

それぞれが自らの意思で行動してる中、彼女もまた獲物を探し校舎内を移動していた。
そんな彼女に見つかった不幸な霊魂が一人居た
「生きてるって不便よね・・・消えたり壁をすり抜ける事すらできないんだもの」
そう言いつつ各人の動きを傍観してるユフィ
「でも楽しいわね・・・フフフ」
誰かの苦しむ顔を見るのが何より好きなユフィは今回の話をユー達に持ちかけた時点で乗る事は分かり切っていたし
さらにユー達がクロミエと会った時もどうなるか分かっていたから
事の顛末が楽しみで仕方が無かったのだ
「それにしても気配のかけらも無いわねあの悪霊、何処行ったのかしら?」
「・・・!?」
本来幽霊は寒暖を感知する事は無い
しかし今ユフィが感じたのは明らかな寒気であり
それは確実にユフィの思考すら蝕んでいった
「な、何っ・・?」
背後から迫る気配を感じたユフィは危険も顧みず振り返る
そこに居たのはユフィから登場を切望されていたクロミエだった
「・・・コロシテアゲル」
「ひぃぁ!?」
ユフィの誤算はたった一つそれはクロミエの標的はもはや誰でも良いし“霊魂”でも構わない事だった
「た・・・助けっ!・・助けて!!」
「ワタシモ・・・ナンドモイッタヨ?」
「ソノコトバ」
その一言と共にクロミエの腕がユフィに振り下ろされた
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ユフィの断末魔は誰にも届く事は無くその後に残ったのはクロミエの姿だけだった
クロミエの右手は以前のような可憐な少女の手では無く
不格好に肥大化し爪も伸び一本一本が剣のようになっていた
その腕でユフィを葬ったクロミエは更なる獲物を求め再度校内を移動する
その手にありもしない霊魂の血を滴らせながら・・・

その21 ゲイトさん

ユフィの気配がなくなってから数分後、ユフィのやられた場所にリクトはやってきた。
微かだが、ユフィの気配を感じる、しかし何処にもユフィはいなかった。
微かに散っているユフィの魂、やがて、リクトは一つの答えにたどり着いた。
それは、自分の頭の中に、答えが浮かんできたからだ。
「魂魄が崩壊してしまってる、ユフィ、何があったんだ・・・」
そう思っていた時だった、ユフィの魂魄が散乱している廊下の近くの部屋から、1人の幽霊が現れた。
一人落ち込むリクトに彼はただ一言、こういった。
「ユフィは消されたよ」
「!?」
その一言に彼は振り返る、そこには、見覚えのある男が立っていた。
生きていた頃、自分の命を盾にして、悪霊を止めた男、レッド、いやレッディストだった。
リクトがここの霊になっていたのも、彼に憧れを持ち、彼の封印した悪霊にこの学校を好き勝手させない為だった。
無きレッドの代わりを務めるために。
「レッドさん、なんでここに?」
「呪縛だよ、ユフィは今、この学校にいる子供達の出来事を見届けるつもりだったみたいだけど、
 その前に、悪霊に・・・」
「なんだと!!」
リクトに再び怒りが募る、ユフィを殺したのはあの黒い悪霊、自分が今追っている悪霊だった。
ユフィとは、ここの霊になった頃から知り合いだった。
一人寂しそうにしていた彼女に、よく語りかけていた。
自分の夢、生きていた頃、楽しみ、いろんな話をした。
そんな子供話にユフィは馬鹿にしながらもその力を認めていた。
執事と主人の関係であっても彼女は厄介ながらも友達と思っていた。 なのに・・・
そう思いふけっているとレッディストは再び言葉を続けた。
「今、あの悪霊は学校内を彷徨っている、他の子供達もこうなる前にここから連れ出すんだ、
 そうすれば被害は小さくなる、その後再び封印を・・・」
「ふざけるな!!」
レッディストが説得しようとしたが、リクトは既に頭に血が上っていた。
「封印、そんな生ぬるい方法じゃどうしようもない事ぐらいレッドさんだって分かってるだろう? 
 たとえ封印したとしても、また破られる、あの封印だっていつ破られてもおかしくなかったんだ!!
 もうあれを止めるには成仏させるしかない、魂魄を破壊するしかないんだ!!」
そう言ってリクトはレッドから背を向ける。
クロミエを探すのだろう、でも、今のリクトが行っても逆に魂を破壊されるだけ、他の仲間達も殺されるわけには行かない。
また、同じ事をするのか、でもそれでデュオや皆が救えるなら・・・
意を決した彼はレッドはリクトに声を上げた。
「なら俺も行こう」
「何?」
「間違っても今の俺じゃ戦うことは出来ない、だから、君に力を貸そうと思う」
「レッドさん」
思いもよらぬ一言にリクトはきょとんとした。
「行こう、あの悪霊を止めに、俺とリクトなら出来るさ」
そう言って進みだす、それにリクトが続いた。
心の中でレッディストはデュフォレードに謝った。
『ずっと一緒だと言う約束、破っちまってごめん』

一方シリルはクロミエを探して廊下を歩き回っていた。
後ろからネオンもついてきて、クロミエを警戒しつつ探している。
「あーちゃん、何処にいるのー!!」
声を上げてもその声は廊下を響き渡らせるだけだった。
静かな廊下をつかつかとシリルは歩き続ける、やがて一つの廊下を抜け、階段のある所に来たときだった。
「あっ、シリルさん!!」
「え?」
声をかけられて振り向くと、そこにはココナが階段を上りながらシリルに声をかけていた、どうやら先ほどのシリルの声がココナの耳に入ったのだろう。
その近くにはアフェルもいた。
「くーちゃん」
「良かった、ようやく会えました」
「ようやくってずっと探してたの?」
「はい、誰かいないかと、ずっと探し回ってました、今、この学校から悪霊さんが飛び出したことも、この人から聞きました」
「悪霊?」
「あの部屋に閉じ込められた娘だよ」
レオンが後ろからシリルに言う、ネオン曰く、クロミエは、ネオン達にとって憎悪を撒き散らす悪霊だった。
目の前にいるものがすべて自分の敵と認識しており、手がつけられないそうだ。
「そんなあーちゃんが・・・」
「「あーちゃん?」」
アフェルとネオンがぽかんとする、ココナはおそらく、その悪霊さんに付けたあだ名なんだろうなと思った。
手短に二人の亡霊に説明し、その後にココナが続けた。
「シリルさん、悪霊さんに・・・」
そう言った瞬間、シリルの顔が変化したので、訂正した。
「あ、あーちゃんに会いに行くのですか?」
「うん、あーちゃんに会ってしっかり説明しないと、ユー君もここにいるって事を」
それを聞いたアフェルは心の中で焦りが見えた。
「分かりました、アフェルさんがあーちゃんの居場所を知っていると言うことなので、行きましょう」
「本当、お願いします、アフェルさん」
「まっ、まぁ任せたまえ、彼女のことだ、あそこにいるだろう」
そう言って4人は移動を開始する。
クロミエの所へ移動する中、アフェルの裏の顔は再び計画を練り直した。
『ココナちゃんはこのまま操ってしまえば問題ないと思ったけど、シリルちゃんは問題ありだにゃ
 それもエキスパートクラスにゃくらいに危険性が高いにゃ、このままシリルちゃんにクロミエを説得して、
気持ちが生じた状態でユー君にあったら間違いなくクロミエは浄化されるにゃ
シリルの付き添いのネオンはクロミエの手で魂魄を崩壊させれば問題にゃいがシリルちゃんは、あれを・・・「零触」を使うしかにゃい、言いたい事を忘れる程度に虐めないと・・・」
そう思いつつ、クロミエのいる場所へ向かった。

その22 ゲイトさん

無人学校の屋上。
既に朝日が出始めている。 その屋上にクロミエはいた。 そこでクロミエは、浮かび上がる太陽を見つめながら心の中で呟く。
誰もいない、誰も見つからない、私の希望は全部無駄なの?私の好きな人はいない、好きな人以外は皆信じられない、皆敵、私の敵、私の大切な人を奪って行く敵、そう…敵なの、なのに空しい、一人だから?
違う、私はいつも一人だった、そう…いつも。
そう思った時だった。
ドガガ!!
突然地面が崩れ、クロミエの足元から何かが飛び出した。
「!?」
驚いた時はすでに体を押さえられていた、冷たく黒鎧に身を包む、無人の鎧だった。
幾ら暴れても、鎧はクロミエを離さない。
鎧はクロミエを抱えた後、屋上の中央に着地した。
暴れ続けるクロミエ、やがて、何処からか声が上がった。
「よぉ、どうやって出てきたかは知らないが、ずいぶんと派手に楽しんでくれたな、悪霊さんよ」
「!!」
クロミエが声の聞こえる方を向く、正面には、リクトが立っていた、その近くに、クロミエの見覚えある霊もいた。
「その鎧、相当頑丈でね、並の力じゃ引き離せないぜ、さぁて、このまま眠ってもらおうか」
そう言ってリクトは右手から糸を出す、クロミエの首にそれを縛り、そのまま引き殺すつもりだ。 
ピアノ線並に細い糸だ、力を入れて食い込めば、息はおろか、激痛すら走るだろう、霊糸ともいうべき代物だろうか…
ゆっくり近づくリクト、その時、クロミエから再び悪夢が目覚めた。
また、虐められる、また痛い思いをされる、また殴られる、いや、いや…
「うあああああ〜〜〜!!」
突然の叫喚、それと同時にクロミエは体を強引に動かし、肥大化した爪で強引に鎧の拘束を打ち破った。 それと同時だろうか、鎧を動かしていた糸も切れた。
鎧はまるで事切れたかのようにバラバラと崩れ落ちる。
「くっ、やっぱ都合よくいかないか、レッドさん、今しかないかな?」
「だな、融合しよう」
そう言って、レッディスドとリクトはお互いの口をつけあい、そのままレッドはリクトの零体に引き込まれていく。
それにより、昔クロミエと喧嘩した記憶が入り、クロミエの行動を把握したのだ。
『後はリクト自身が決めるんだ』
そう言い残してレッディスドの意識は消えた、心はリクトと共に。
「行くぞ、クロミエ!!」
「わあああ!!」
叫喚と共にクロミエはリクトへ向かう、かつての喧嘩のように。
「駄目だよ!!」
突然女の子の声が割り込まれた。

一方ココナ達も、屋上にたどり着いた、一番にシリルが屋上に出た時だった。
「あれは!!」
シリルが一番に走り出す、クロミエが揉め事を始めたと同時に別の階段から上がってきたのだ。
「シリルさん!!」
ネオンが声を上げる、向かおうとした時だった。
ペタッ
「え?」
冷たい何かが背中に張られる、やがてそれは激痛となり、ネオンを苦しめ始めた。
「ああああ!! 痛い、痛い痛い!! 何で、どうしてお札が!!」
「残念だけど、君はここでリタイアにゃ」
「え、そっそんな…」
声の主はアフェルだった、札を張ったのも彼だった。
最も張ったのは彼本人ではなく、彼に操られていたココナだった。
「何で、どうして…」
「君は知る必要はないにゃ、ココナちゃん、責めての慰めでも与えてあげにゃさい」
そう言うと、ココナはネオンに軽くキスをする、それと同時に、ネオンの体が急に軽くなった、そしてネオンがネオンでなくなるのがわかった。
「そうか、僕、もう死んじゃうんだね、ごめん、カルマ…」
最愛の相棒の名前も満足に名乗れないまま、ネオンは涙を流しながら消え、魂魄が散って行った。
その時だった。
「駄目だよ!!」
シリルが争う二人に声を上げた。


…声と同時に、二人はお互い声の方に顔を向けた。
そこには一人の少女が涙を堪えてクロミエ達を見ていた、シリルである。
「あーちゃん、こんな事したって会いたい人にはあえないよ、思い出して、あーちゃんが今本当に会いたい人の事を!!」
「シリル…ちゃん」
クロミエの抵抗が徐々に弱まっていく、だがそのチャンスを逃すはずがなかった。
「良いサポートだ、シリルちゃんだったな、そのままこいつを説得し続けろ、その間に始末してやる!!」
リクトが牙をむく、それと同時にクロミエは再び敵とぶつかる事になった。 余計な迷いは自分を死に追い詰める。
リクトの行動はシリルの説得を逆効果に扱っていた。
「駄目だよ!! あーちゃん殺しちゃ駄目、あーちゃん殺しちゃったらあーちゃんの会いたい人も、探してる人にも、会えな!!」
言いきろうとした直後、突然口が抑えられた。
「はい、そこまでです、シリルさん、じっとしてください」
「ん〜ん〜?(くーちゃん?)」
シリルの口と体を押さえたのはココナだった。
その後ろにはアフェルのみ、ネオンの姿はなかった。
「もうすぐ、言いたい事を忘れるくらい気持ち良くなりますよ、私もお手伝いしますから」
にこやかに笑う、ココナ、この時シリルはココナの様子がおかしい事に気付いた。
「ん〜〜んんん〜〜!!(くーちゃんどうしちゃったの!!)」
声も聞かずシリルを押さえ続ける。
『信頼する友に裏切られるか、悲しいけど仕方のない事にゃ、第3者が満足する為にはにゃあ。 場所は悪いけど、十分働いてくれるだろ、出ておいで、欲望霊触ちゃんご飯にゃよ〜』
そう言うと同時に、シリルとココナの足元から触手が現れ始める、前にココナがトイレでユフィの力で呼び出され、ココナを捕まえていた触手と似て異なるものだった。
これが、レッディストの恐れていた『零触』だった。
「ん〜ん〜んんんん〜〜!!(くーちゃん、足元、足元ぉ〜!!)」

その23 Y-0さん

屋上で何が起きているのかも知らないリアは、ユフィに怒りを覚えつつ、行くべき所へ走っていた
「ユーくんの後を付けるのはいいけど、一体何処に…わぁっ!」「あっ!」
ドン! 「あいてて…!ユーくん!?」「リアちゃん…!」
階段を目の前にして、ユーが下から上がってきたところでお互いぶつかってしまった
リアがユーを起こして今一度確認した「その様子だと、クロちゃんは見つからなかったらしいね」
「うん、リアちゃんも?」「そうだよ、それにしてもおかしいな…そこらへんにいると思ったんだけど」
リアがそう言って考え事していたが、ユーがその考えを閃きに変えるような事を言った
「きっと…クロちゃんの事だから、いつもの場所……

「「あっ!」」 その時、二人の記憶に何かが過った

「そうだ…屋上だ!」「僕も今思い出したよ!」リアとユーの記憶が一致した、しかし
「どうしてもっと早く気付かなかったんだろう…学校に通ってた頃のクロちゃんは休み時間の時は屋上に行ってたのに」
「忘れちゃうなんて、本当に申し訳ないね…でも、もう遅いかも…」ユーがそう言って俯くとリアは負け時とユーの手を引きながら屋上への階段を上がろうとした
「何言ってるの!諦めちゃダメだよ!、いくらこっちが遅くなったっても、ちゃんと会いに行かなきゃ!」
ユーはそう言うリアの正義感ある姿を見て、自分自信に改めて説得した

…そうだよ、せっかく自分の記憶がそう伝えたんだ、クロちゃんはぜったい屋上にいる!
これからだ…すごく怖いけど…これからだっ
「うん、わかったよ…リアちゃん、クロちゃんに会って、言いたい事をちゃんと伝えるよ!」
ユーは人前であまり見せる事のない眼差しを リアは見た時『ユーくんならやれる』と確信し、屋上のドアにたどり着いた

リアとユーは覚悟を決めていた、リアは後ろに背負っていたミルココの人形を布紐から外し自分の目の前に出してこう言った
「ミルココちゃん、校内探索の仕事を終えて無事に帰って来れたら、外れていた所を直してあげるからね…」リアはミルココの人形の頬に軽く口付けをした
それを見たユーも、勇気が湧いてきた
リアは人形に布紐を付けて、また背負った

そして遂に、リアは屋上のドアノブに手をかけた、リアはユーに問いた
「いい、ユーくん…開けるよ?」「う…うん」「本当に…開けるよ?」「大丈夫…僕も…決心してるから」「よし…」ガチャン!!
リアは意を消し、屋上のドアを開けた

その24 ゲイトさん

屋上に足を踏み入れた二人の目の前に飛び込んできた光景は、まるで異世界にいるような光景だった。
空の色は赤く、日は上がっているのにも関わらず温かさを感じない。
雲も赤い空の影響からか、赤みのある雲もちらほら見えている。
先ほどまでの青空はどこへ行ってしまったのだろうかと思うユーとリア。
そして、屋上では、暴れまわる一人の黒髪に黒い猫耳の少女がいた。
その姿に、リアは一目で気付いた、悪霊…ではなく、行方不明とれ、悪霊に連れてかれてしまったのではと噂され続けてきたクロミエだった。
「ユー君、あれ!!」
「あ、ああ…」
ユーも彼女の姿をみて驚きを隠せない、さらに、久々の再開で声が出ない、今すぐにでも、彼女の名前を呼びたい。
でも、目の前の光景にユーは彼女を呼ぶ事にためらいを感じた。
今、彼女を呼べば彼女に危険が及ぶ。
何故なら…
「わああああああああああ!!」
クロミエの回りに生えて来ている触手達、彼女は、触手達を相手に、暴れ続けていたからだ。
でも、ユーも彼女と話したい、声をかけたい、再開を祝いたい、押さえていたためらい押しのけ、その思いが今、爆発した。
「これは、何故こんな事に…」
リアが屋上で怒っている光景に見とれていた時だった。
「クロミエちゃん!!」
「ユーくん!? よせ!!」
リアの声も聞かずにユーはクロミエのもとへ走りだす。
何故こうなっているのか、それはユー達がクロミエの想い出の場所を思い出すところまでさかのぼる。


ユーとリアが合流した頃、屋上では…
「くうう…」
レッドの力を得たリクトが、クロミエを押していた。
「いい加減諦めろ、もう限界だろ?」
リクトがひと押しをするが…
「誰が、諦めるか…」
クロミエも残された力を出し切ろうとするが、心の中でもう一つの引っかかりを感じた。
『さっきから、シリルの声が聞こえない、シリルの身に何が?』
クロミエとリクトの戦いを止めようとしたシリルの声が、アフェルのご飯と言う一声で、ピタリとやんだのが不安になって仕方なかったのだ。
そのせいで、力を出し切る事が出来ないクロミエ。
その時だった、ふとリクトの力が弱まる、不思議に思ったクロミエはリクトの顔を見つめる。
彼の顔はクロミエの方を向いておらず、クロミエの後ろの方を見ていた。
何を見ているのか不思議に思ったクロミエも体制を立て直し、背後を見る。
そこには、服を脱がされ、触手に絡められ、両手は万歳の恰好を、両足は膝を持ち上げ、Mの形に抱えられ、大事な部分が触手によって見えるか見えないかの状態にされ、身動きの取れないシリルの姿があった。
そして、空中では、座ってる恰好をしながら宙を浮いているアフェルと、それにくっ付くココナの姿があった。
『これは…何?』
今起きてる出来ごとが全く理解できないクロミエ、やがてリクトが声を上げた。
「おい、アフェル、俺のお気に入りに何しているんだ?」
「何って、クロミエに被害が及ばないようにしっかり守ってあげてるんじゃないか」
「その割には、随分と楽しそうだな?」
リクトに笑みが見えるが素直に笑ってるようには見えない、それもそのはず、ココナはアフェルに体を預け、気持ちよく善がっていたからだ。
「アフェル様、私、もう我慢できません…」
ココナが甘えるようにアフェルに話しかける。
「もう少し待ってね、後でちゃんと気持ちよくしてあげるから」
アフェルがココナにそう告げた時だった。
「あー…ちゃん」
触手に絡め取られ、身動きの取れないシリルがクロミエに気付いたのだ。
「シリル!? 大丈夫?」
「う、うん…ひう!?」
シリルの股に触手が入り込み、上下に動く。
「シリル!!」
「だ、いじょう、ぶ、だから…あう!?」
秘所に触手が動くとビクンと体を弾ませるシリル。
「あ、ちゃん、よく、聞いて、ひぅ…ゆ、ちゃんもりー、ちゃ、も、ああ、あーちゃの事、探してる、よ」
シリルのかすかな言葉にクロミエは驚く、クロミエの友達を、シリルが知っている? 何故?
「どうして、私の友達を知ってるの?」
「だって、ひうう!?」
再びシリルの体が跳ねる、その耽美にクロミエは心配になった。
「はぁ、はぁ、だって、ゆ、ちゃも、りー、ちゃも、ぅあ、シ、シリルの、お友達、だから…」
「!?」
クロミエは再び驚いた、ユー達にも新しい仲間が出来てた。
それがこのシリルだと言うのだ、友達を取られた…クロミエの中で嫉妬が生まれそうになった、しかし。
「でも、でもね、あーちゃ、シリルは、ひうあ!!」
再び跳ねる、上下に動いていた触手がシリルの秘所に入り込み、激しく動き出したのだ。
そのせいか、どうやら絶頂を迎えるのが近いようだ。
「シ、シリルは、ユーちゃんも、リーちゃも、あーちゃんも…おと、お友…」
「ぉ友?」
次の言葉にクロミエは心に期待を持っている、私から大切な友達を奪わないでと。
「お友達、だからあああ〜〜〜!!!」
同時だった。 シリルが絶頂を迎えたのとクロミエに思いを伝えたのと。
さらに、シリルの秘所から、透明な液が出てくる、潮のようだ。
「はぁ、はぁ…」
「シリル!?」
大きく息をしているうちに、すうっと気を失った。
クロミエは嬉しかった、シリルが、ユー君やリアを奪ってしまったんじゃないかと、でも、彼女は言った、ユーやクロミエを含めて、皆友達なんだと。
クロミエはすぐにでも、この触手を切り裂き、シリルを自由にさせようとしたが…
「何をしているのかな、クロミエ?」
アフェルの声が聞こえた。
「君の相手はそれじゃないだろ、さぁ、リクトと戦いを続けるんだ」
アフェルの指示にクロミエは従わなかった。
「シリルを解放する、アイツとの喧嘩はその後、この子はこの問題に関係ない事だ」
「大アリだ!!」
アフェルの声にクロミエの手が止まる。
「この子はまた余計な事を吹き込んでくれた、けどね、クロミエちゃん、ユー君がこの学校にいるなんて証拠がどこにあるんだい?」
アフェルの言っている事は最もだ、しかし、シリルをこのままにしておけない。
その時だった。
「そういえば、お前だったな、この悪霊と戦うための力を付けさせてやるって言ったのは」
リクトが話から割り込んだ。
「何故だ、何故この子と俺を戦わせるんだ!! 万が一悪霊が飛び出したら俺が止めると言うのは分っていた、しかしそれはお前が封印の術を行うと言ったからだ、
 なのにお前は何もしない、何故こうなるまで戦う必要があるんだ!!」
「リクト、お前がそれを知ってどうするんだ?」
「レッドさんが教えてくれたよ、この子の生い立ちをね」
その一言にアフェルに怒りがこみ上げた。
「触手に絡めてるシリルと言い、クロミエを閉じ込めたレッドと言い、余計な事ばかり吹き込みやがって…」
「お前?」
アフェルの怒りにクロミエがアフェルの方へ向く。
「いい機会だ、全部教えてやるにゃ、リクト、お前に力を付けさせたのは戦闘員としての素質があったからにゃ!!
 そして、この学校で封印されていたクロミエと戦わせ、どちらがより戦闘員として優秀かを確かめる積りだったのにゃ!!」
全てを知らされ、アフェルの野望を突き付けられた二人は、驚きを隠す事が出来なかった。
「分ったのなら戦うにゃ!! 互い憎み合う者同士、どちらかが死ぬか生きるかで決着が決まるのにゃ!!」
リクトはその命令に従わなかった。 たとえ友達同士でも、そんな事を言われて従うほど、リクトは出来てなかった。
「お前とは、良き友人で、良き遊び相手で、エッチな話をしても嫌な顔せずに会話してくれたのにな」
リクトは怒りを爆発させた、その怒りはクロミエにではなく、アフェルにむけられていた。
「すべてはお前の良いように扱われた道具だったのか!!」
リクトの怒りに何も言わないアフェル、しびれを切らし、リクトはアフェルに向かおうと足に力を入れたが…
「終わりにゃ、レッドと融合した地点でにゃ」
そう言って手を前に出し、何かが指先から放たれた。
「がはぁ!!」
「!?」
クロミエは驚きを隠せなかった。
突然アフェルの手から細い物が放たれリクトをとらえた。
それはリクトも扱っていた魔法の糸だが、それをさらにほそく、鋭くしたものだった。
「便利な魔法だにゃ、教えてくれてありがとうだ…にゃ!!」
糸をリクトの体から切り取る、リクトの体からは血は出ていないが、ダメージは相当だった。
そのままゆっくり倒れて行くリクト。
「お、お前、死ぬのか、なんで!!」
突然の出来事に混乱するクロミエ、もうクロミエの頭の中は完全に混乱していた。
戦うべき相手が殺され、友達は触手に捕らわれ、もう何が何だが分らなくなっていた。
リクトは残されたかすかに残された命を使って、クロミエの頬に手を当て、全てを告げた。
「クロミエ、君の生い立ちはレッドの記憶で知ったよ」
「!?」
「辛かったんだな、ずっと一人で、無実の罪…いや、悪霊呼ばわりされて、辛かったんだよな」
リクトの言葉に、抑えきれない感情が流れ込むクロミエ、それを押さえる事が出来ぬまま、リクトの話を聞き続けた。
「だから、責めて俺の手で、お前を楽にさせてやりたかった、あいつから、お前を解放させてやりたかったんだ、本当にごめんな」
「お、お前…」
クロミエの目から何かが流れる、これを流したのは何時だろうか、お兄さんと別れた時? ユー君の優しさに触れた時? いじめを受けた時?
何時流したのか覚えてない、でも、この涙は、こうなる前からずっと流していた覚えがあった。
「生きろ、大切な人に会いたいんだろ、なら生き抜くんだ、きっとお前の探してる人にも会える、だから…」
最後に、何処かで聞いた言葉がリクトの口から聞こえた。
「俺の分も幸せにな…」
「!!」
それと同時に、リクトの魂は崩壊し、リクト自体の体も消えた。
「う、うう…」
止まらぬ涙、やがて彼女の心はアフェルの方へ向けていた。
「お前、シリルを解放しろ!!」
アフェルを睨みつけるクロミエ、一方のクロミエは…
「お〜怖いにゃ、もしも嫌だと言ったら?」
アフェルが言い終えると同時にクロミエが動く。
元から良い答えは期待していなかったのだろう、シリルをとらえている触手を斬り掛かりに向かう、しかし…
「零触!!」
アフェルの声と同時にシリルの前に幾つもの触手が生え上がり、クロミエの足をとめた。
新たに生えた触手は、シリルを囲みクロミエに近づかせないようにした。
さらに現れた触手は、クロミエを見つけると、一気にクロミエへ襲いかかった。
迫りくる触手にクロミエは数歩下がり、襲ってくる触手を爪で切り裂く、同時にクロミエの背後の扉が開いた。
クロミエは気付いていない、今はシリルを救う、もう誰かが私の為に犠牲になるのは死んでも嫌だった。
「わああああああああああ!!」
目に大粒の涙を溜め、迫る触手を切り裂く、その直後だった。
「クロミエちゃん!!」
「ユーくん!? よせ!!」

その25 娯楽人さん

自らの静止を聞かずかつての友達に飛び込んでいくその姿を見て
リアは無力さを痛感する、しかし次の瞬間彼女が見た光景は彼女の予想を大きく超えていた。
クロミエの爪と零触を紙一重でかわしてクロミエを抱きしめるユーの姿
その時、リアにはまるで世界が止まったかのように見えた。

「ユー……くん?」
「そうだよっ! クロミエっ!!」
「ユーくん、来てくれたっ・・・…来てくれたんだ!」
抱きついてきたユーを抱きしめ返すクロミエの手には刃はもはやなく、その顔も生前の姿そのものに戻っていた。
そして、クロミエ達の周りに光の輪が広がる。
唐突な来訪者にアフェルと零触の動きも止まる、いや止めざる負えなかったというのが正確だろう。
本来霊体は中性の性質を持ち、憎悪や悪意が満ちた時悪霊に変質する。
では、もし慈愛や善意が満ちた時はどうなるか、その答えが今示されようとしている。
「なんにゃ!? 一体何事にゃ!?」
アフェルが驚くのも無理は無かった、クロミエ達の周りから一瞬にして零触が消滅したのだから。
「ユーくん! 会いたかった! ずっと!!」
「クロミエ! 僕も会いたかったよ 君に!」
「ええいっ! いきなりしゃしゃり出てきて何様にゃ!! 行くにゃ! 零触!!」
アフェルの指示に従いシリルにまとわりついていた、零触がクロミエ達に飛びかかる、だが
「させないわよ!!」
我に帰ったリアの斬撃で一蹴される零触、本能的に危険を察知したのか残った零触達は地面に飲み込まれるように消えていった。
「おいっ!? 何で逃げるにゃぁぁぁ!??」
急な展開に冷静な判断力を欠いたアフェルは自己保存を最優先させ、ココナから離れ逃げようとする。
「バイバイ〜!……にゃ!?」
しかし、アフェルの体に絡みつく一本の糸がその行動を阻害する。
「何にゃっ何でこの糸がっ!!?」
「ユーくん……」
「クロミエ……」
しばらくお互いを抱きあってた二人だったが少し身を離しどちらともなく唇を重ねた。
その瞬間二人を中心にして眩しい閃光が走る。
光は屋上全体を包み込みやがて全てを飲み込んでいった……

その26 ゲイトさん

その光に包まれたユーとクロミエは、抱き合いながら、光の中を浮遊するかのようにふわふわと漂っていた。
二人は、周りが見えていないように、お互いを感じ合い、抱き合いながら今の空間に身を任せていた。
「クロミエちゃん…」
「ユーくん…なんだか不思議、ユーくんがこんなに近くにいるだけで、凄く温かい」
「僕も、まるで、クロミエちゃんに僕の体を包み込まれてるみたいだ」
「うん、この温かさで、何もかも忘れてしまいそう…」
二人は、目を瞑り、光の中を漂いながら、お互いを感じ合っていた。
まるで、二人の放った光は、この学校を包んでいた結界、否、空間を瞬く間に支配するほどだった。
やがて、二人が交わって放たれた光は、その中に包まれた者にも、影響を与え始めた。

「みゅう? 温かい、何、これ?」
ふと抱えられている感覚を感じたシリルはゆっくり目を開ける、先ほど絶頂を迎えたのにも関わらず、疲れはすっかり取れていた。
それどころか、シリルは誰かに抱えられていた。
男性の顔が目の前にあってびっくりしたけど、その男性には、見覚えがあった。
「パパ? それに…ママ?」
シリルがそうつぶやく、光の中でシリルが感じたのは、幼い頃に感じたものだった。
そして、そこには、シリルを抱っこして抱えているシリルの父親と、その様子を近くから覗き込む、シリルの母親の姿もあった。
裸なシリルを見て、心配になったのか、シリルの母親は、光を使って毛布を作り、シリルの体の上にかけた。
父親がシリルに語る、しかし、その声は外からは聞こえず、直接シリルのみに聞こえているようだった。
「うん、温かくて気持ちいいよ、ありがとう、パパ、ママ」
二人の愛情を受け取り、涙がこぼれそうになる、何故両親の愛を忘れてきたのであろうか。
いや、違う。
シリルは思った、これは夢なんだ、どんなに愛されてもこれは夢…
しかし、今の気持ちはまちがいなく現実のものだとシリルは思った。
何故今、こんな夢を見させてくれるのだろうか、理解は出来ない、けれど、シリルは思った。
シリルは、両親が遠い世界に行ってしまっていても、ずっとずっと、シリルやみーちゃんを守ってくれているんだと。
この亡霊事件の舞台となる、学校自体が見せてくれているのかもしれない。
この学校に来てくれたお礼なのかもしれないとシリルは思った。
「うん、ありがとう、パパ、ママ、シリル、凄くうれしいよ、だから、今だけ、ずっとこうさせて…良いでしょ?」
夢が覚めるまで、シリルは両親の愛にずっと甘えた。
シリルの体は動かない、でも、両親が近くにいて、シリルを思ってくれる、これほどな幸せはなかった。
そして、零触から逃れ、光の中で横たわっていたシリルの目からは、涙がこぼれていた。

一方、一つの糸に動きを封じられたアフェルは、光の中でもがき苦しんでいた。
「にゃあ〜〜!! 熱い、熱いにゃ!! 息が、霊力が、魂魄が、止まる!! 助けるにゃ、何でもいいから吾輩を助けてくれにゃあ!!」
光の中に包まれたせいか、アフェルの霊体は既に実霊化しており、光による熱に苦しめられていた。
「こんなの拷問にゃ!! 誰がこんな結界を作れなんて言ったにゃ!? 一体この光はなんなんにゃ、まとわりつくな、熱いにゃあ!!」
体を通して感じる熱い感情は、どんなにアフェルが否定してもまとわりつく、焼け死ぬわけでもなく、体が燃えているわけでもない。
ただ、皆が感じている感情が、アフェルにとっては、苦痛でしかなかったのだ。
「このまま苦しい思いをするのは御免にゃ、しかし、このままじゃ…そうにゃ、奴らには一生悲しい思いをさせてやるにゃ!!」
そう言って、アフェルはココナの方へ手を伸ばし、怪しい光を込め出す。
未だ謎の光が放ち、光が見せる夢の世界に包まれているココナがアフェルの行動に気付くはずがない。
自分が苦しむのなら、それ以上の悲しみを奴らに…その思いでココナをミルココと同じように「人象人形」に変え、生きる実感がない人形に変えようと言うのだ。
アフェルの中に流れ込む感情が、魔力のコントロールを妨害するが、それも無駄に終わり、間もなく、アフェルから怪しい光が放たれるまさにその瞬間だった。
「!!??」
再び糸がアフェルを捕えた、それは腕に撒きつき、込められた魔力を吸収した。
それだけではない、次々に新しい糸が現れ、アフェルの動きを封じて行く。
「な、何にゃ、何々にゃ、これは…」
思わず恐怖するアフェル、糸は、まるで生徒が先生にこんな事をして欲しくないと言うように体を張って先生を止めているようだった。
やがて彼の目の前に一人の狼少女、リアと、一人の亡霊が現れた。 リアはアフェルを見つめ口を開いた。
「…レーマン先生、貴方には一生分らないでしょう、この光の中に込められた感情を」
リアは剣を握り、アフェルと向き合った。
「これは、悪霊が捨てさせた感情そのものです、先生が『大切にしなさい』と言い続けた、優しさ、友情、そして愛が混ざった善なる空間です。
 先生がこんな事になっていたなんて思わなかった、先生が悪霊に支配されていたなんて、先生の授業、島の皆が楽しんでいたのに…」
リアの目から涙がこぼれる、アフェル自身は悪くない、悪いのはアフェルの魂を利用し、アフェルになり済ましていた悪霊のせい、リアはそう思っていた。
「私の友達にまで、こんな目に…」
そう懐から人形を取り出す、それは、アフェルが落とした人象人形だった。 それを見つめ、涙が出そうになるリア。
「リアちゃん…」
リアの近くにいる亡霊がリアを思う、彼女はこの光によって人象人形から解放され、この光の中で存在出来る亡霊少女、ミルココだった。
彼女の思い、悪霊に利用された霊達、剣に託された札の力、そして、自分の中に秘めた島に住む皆を守ると言う誓いと共に、リアは剣を強く握り直し、アフェルを定める。
「今、先生を解放します、この誓いを懸けた剣で…」
柄に張った札が周囲の光を吸収し、やがて、剣は光を纏った聖剣となった。
「ひっ!?」
アフェルが剣を前に怯えを隠せなかった。 やがて、リアはアフェルに向かって走り出す、涙を必死に堪え、剣の名前を叫びながら…
「先生、ごめんなさい、私は今、自分の誓いを守る、行きます『オース プロミス ザ ソード(約束された誓いの剣)!!』」
リアは、アフェルに向かい、彼の体に剣を振り下ろした、それと同時に何かが事切れ、同時にアフェルの顔が急に優しくなり、笑顔が見えた。
「!?」
同時にリアの心の中にズンと悲しさがこみ上げた、それが引き金となり、振り下ろした剣を離し、目から涙が零れた。
リアが、アフェルの体に剣を下ろした直後に聞こえた最後の言葉、それはこうだった。

「ありがとう、先生を解放してくれて…」

うああああああああああああああああああああああああああ…
リアはその場で泣き崩れた。
やがて、屋上を包んだ光は、赤き空を、再び夜の星空へと姿を変え、時間も元の0時に戻り、進まなくなった。

その27 黒騎さん

一方、ユーとクロミエの方は…
「幸せ…だけどもう時間が無い…」
突然クロミエが呟いた。
「え、何を言っているの?」「…私が幽霊として生き残った目的が、果たされたから、私はこの世から去らなきゃいけないんだ。」
怪訝そうなユーに、クロミエは現実を伝えた。
「時間が再び動き始めたら、私は…」「あと、どれ位あるの?」「分からない…」「何とかならないの?」「多分、無理…」
二人の心に深い悲しみが生じかけた、その時
「貴方自身は救えなくても、生き残る目的が果たされずに亡くなった幽霊なら救えます。」
そう言いながら現れたのは、デュフォレードだった。
クロミエは決断した。
「どうすればいいんですか?」「相手に自分の魂を与えるだけです。でも、ほとんど時間が残ってないです。数分で二人は見つけないと…」
デュフォレードは浮かぬ顔で答えた。そこに
「デュフォレード、クロミエ、時間なら、俺達が作る!」
意外な人達が助け船を出した。
「リクト、レッド…殺されたんじゃ…」「気にするな。」「あの霊糸が細すぎて、逆にダメージが小さかっただけだ。」
クロミエの言葉に、リクトとレッドはそう答えながら、時間を止めている呪文を強化する。
「これで、10分は持つ。」「…誤解しないでくれよ。あくまでデュフォレードのため、だからな。」

一方、リアの方は…
泣き崩れるリアを光が包む…
「リアちゃん、どうして泣くの?」
ミルココがいかにも不思議そうに尋ねた。
「だって、レーマン先生を…」
「リアちゃん…」
悲しみに沈むリアと対照的に、ミルココは冷静に言った。
「貴方は、先生を殺したりしてないよ。だって…」「君が斬ったのは、悪霊だからね。正確には、悪霊が憑いたペンダントだけど。」
その声に、リアは顔を上げた。そこには、生前の普通の姿をしたレーマンが立っていた。その手には粉々になったペンダントがあった。
「それに、先生を殺したのは悪霊。貴方は悪くないわ。クロちゃんもね。」「まったくだ。『皿なめた猫が科を負う』とはこの事だ。」
ミルココと先生の言葉は、(先生の使った諺は知らなかったけれど、)リアの心を癒した。
「悪霊は、魂の成仏を妨げる。君があの悪霊を斬ったおかげで、奴が殺した人の魂がやっと成仏出来るようになった。成仏する皆さん、代表なんて差し出がましい事はしません。各自でリアさんにお礼を言いましょう。その後は、自由時間です。」
リアが周りを見回すと、何時の間にか、リアの周りには事件の犠牲者達が集まっていた。
「リアちゃん、貴方が心の底で望んでいた事は、みんなを救う事だったんだね、って聞いてないか。」
ミルココはリアに話しかけるが、リアは幸福に包まれていて、全く聞いていなかった。そして、先生とミルココの会話も聞こえていなかった。
「ミルココさん、私はちょっと出かけます。」「どうしたんですか?」「クロミエさんが、成仏対象者から外れています。もしかしたら、まだ悪霊が生きているのかもしれません…」「エース君に会ってないから、ではないですか?」「…そうだと良いのですが…」

再び、ユーの方は…
ユー、クロミエ、リクト、レッディスト、デュフォレードに加えて、カルマンと、霊体を失った幽霊(「幻影」と呼ばれる。)のユフィとネオンが集まっていた。
「一応、全員揃ったな。始めるか。」
リクトが周りを見回して言った。
「…アフェルさんは?」カルマンがリクトに尋ね、リクトは眠っているリアの向こうを指す。そこには時間が止まって浮かんだままのペンダントと、眠ったように動かない幽霊が一人いた。
「でもあれは、レーマン先生…、アフェル=レーマン!」「今頃気付いたんかい!まあ実際、俺もリアさんの言葉で思い出したんだけど。」「ちょっと、人の事言えないじゃん!」
カルマンの言葉にリクトが、リクトの言葉にネオンが、それぞれ突っ込みを入れたが、
「確かに、全員揃ったね。」「よし、始めよう。」
ユーとデュフォレードは全く聞いていなかった。
「でも、始めるって、私は何をすればいいのか、分からないんですが…」
クロミエが尋ねた。デュフォレードは少しためらって答えた。
「簡単ですよ。えっちな事をするんです。」
その言葉に、その場にいた全員が赤面した。
「じ、冗談だろ!」
リクトが叫んだ。

その28 ゲイトさん

「いえ、本当ですよ?」
焦りを隠せないリクトに対し、デュフォレードはさらっと言った。
しかし、他に復活する方法はない、とはいえ、一人一人をクロミエの体に預け続けるのは幾らクロミエでも持たないとリクトは思った。
それに、彼がここへ来たのは別の理由もあり、本来の話題とはずれていた。
最も、レッディストや、浮遊していたユフィの幻影の欠片にリクトの一部を与え、少し霊体として保てる姿になったユフィと共に相談をしていたのだった。
なんとかその話に合わせるために、リクトは悪役を演じるかのような言葉を口にした。
「だったら俺は復活なんて望まない、やっとここから解放されたのにまたここに閉じ込められるのは御免だ」
リクトの言葉に、ユーとクロミエが驚く、その言葉に助け船を与えるかのようにレッディストが口を開いた。
「ああ、俺も同感だ、やっと解放されたのにまたここに残りたくはないしな、やっと成仏出来るしな、それに…」
と一旦言葉を止めると、ゆっくり、デュフォレードを見つめる。
何かを悟ったようにレッディストは口を開き、話を続けた。
「デュオ、お前も分ってるだろ、もう時間がない事に」
その一言にユーとクロミエはデュフォレードを見つめる、そこには、バレちゃったかと苦笑いをするデュフォレードだった。
「どういうことなの? 時間がないって?」
クロミエが声を上げる。
「幾ら時間を止めても、僕とお兄ちゃんは時間に逆らえないんだよ、僕らは元々、アフェルの呪縛によってここに縛られた亡霊だから、彼が消えたことで僕らは強制的に成仏の道を歩むことになるんだよ、今霊体になっても数日後には消える」
「そんな…」
クロミエが酷い、と言おうとした時、ユーが止めた、何かわかったのだろうか、ユーはゆっくり口を開いた。
「つまり、デュオ君とレッドさんはもう未練はないってこと?」
少し間が空いた後、二人はゆっくり頷いた。
なら何故彼らは霊体に戻ろうなんて提案を上げたのだろうか。
ユーが聞こうとする前にリクトが口を開いたのだった。
「だが、霊体に戻りたい奴が一人だけいる、それはネオンだ」
その一言にカルマンは驚きを隠せなかった。
「ネオンが、戻ってくるの?」
「あぁ、ネオンのみ、消された方法が札による攻撃だからな、彼の霊素はそれほどひどくない、それに、幻影もしっかりしている、これならクロミエの負担もかからずに生き返る事が出来る」
「え?」
不意を受けたように声をあげるカルマン、リクトの説明を拾うようにレッディストが話を続けた。
「ネオンが、ユーに取り付き、そのままキスをする、ネオンがクロミエの霊素を吸い、それで戻る事が出来る、性行為でも軽いものだろう?」
レッディストがつらつらと説明をした。
それを聞いてほっとしたのはユーだった、あまり時間がない状態でクロミエの時間を削ってほしくなかったのは事実だった。
「それなら早く済ませてしまおう、ネオンさんの魂は?」
「ここだよっと」
「え!?」
油断していた、ユーの背後からスッと入り込んだネオンは、瞬く間にユーを支配した。
そして、早く早くと言わんばかりにユーの体を弄ぶ。
「やれやれ、さっさと儀式を始めよう、大丈夫、すぐに終わるさ」
そう言って、カルマンの持つ魔力とリクトの持つ魔力で魔法陣が組まれ、レッディストとデュフォレードが儀式のコントロールを始めた。
陣が完成し、魔力が注ぎ込まれた瞬間、ネオンはユーの体を使ってクロミエの唇を重ねた。
クロミエの中から何かが吸われる、希望、絶望、怒りや、願いと言った感情が抜かれて行くようだった。
何かが抜かれて行くような感覚が抜けた瞬間、ユーからスッと何かが抜けでた。
ネオンだった、元の霊体の姿になり、勢いよく飛び出したのだ。
「いやっほうい!! 霊に戻れた、これでまたカルマンとネタ合わせが出来るよ!!」
「ネっ、ネオン、落ち着いてぇ〜」
カルマンの喜びを余所に、飛び跳ねるネオン、よほどうれしかったのだろう。
しかし、これだけでは終わらなかった、魔法陣は依然残ったままで、さらにレッディストが新たな儀式を行う魔力を準備する。
その魔力に気付いたデュフォレードが心の中で声をかけあう、やがてレッディストの言葉を受け取ると、デュフォレードは笑顔になって
『そうだね、それがあの子にとっても、ユー君にとっても幸せかも』
そう言い返した。
「ねえ、もう魔法陣はいいんじゃないの?」
クロミエがそう言うと、魔力を注ぎを辞め、口を開く。
「今度は俺達の礼だ、もっとも、お前じゃなく、ユーにだけどな」
「え?」
突然ユーの名前が挙がり、驚きを隠せない。
「お前さん、魔法使いだろ、まだまだみたいだけどさ」
「え、うん」
「護衛獣なんて作ってみないか? 霊に獣の力を持った護衛なんて相当なもんだと思うけどな」
「そっそれって?」
クロミエが割り込む。
「そう、制約の儀式だ、それを行えば、クロミエはずっとユーと一緒にいられる」
「本当に!! もうクロミエと離れる事はないの!!」
クロミエよりも先にユーが飛びついた。
「もちろんだ、しかし、今のユーの魔力じゃ正式な制約は出来ない、魔力が少なすぎるんだ」
「そんな…」再び落ち込むユー。
「そんな暗い顔するな、俺は『正式な制約は出来ない』と言ったんだぜ、少し古典的な制約だったら普通に行けるぜ」
「どうやるの?」
ユーの目に機体が浮かんでくる、クロミエも同じだったがあまり高望はしていなかった。
「あぁ、ユーの血をクロミエに飲ませるんだ」

その29 黒騎さん

「ユーがクロミエに血を与えれば…って、怪我してないようだな。」
レッディストはユーの体をざっと見て言った。
「血なら、リアちゃんの剣を使えば…」
「契約を交わすユー君とクロミエさん以外の道具を使うべきではないのです。」
リアの剣を取りに行こうとするユーを、デュフォレードが止めて言った。
「むしろ、クロミエさんの歯を使うべきです。『牙の盟約』と呼ばれ、多少リスクがありますが。」
「なるほど。牙ですか…」
「ところで、どこから血をもらうのが一番良いのですか?」
のんびりした感じで納得するユーと対照的に、クロミエは少し焦っていた。時間が無い…
「首筋か肩です。でも、甘噛みでお願いしますよ。」
「はい。ユー君、いきますよ。」
クロミエがユーの肩を軽く噛み、血がにじむ。そして、
「その血によって、互いの間に絆を結べ!『血の契約』!」
リクトの合図で魔法陣から光が立ちのぼり、ユーとクロミエの体に契約の印が現れた。
「まずは契約完了です。これで一応、成仏は避けられます。後は、クロミエさんの肉体を復活させるだけですね。」
デュフォレードの言葉に、ユーとクロミエは喜ぶが、
「しかし、肉体の復活は、幽霊の俺達にはできない。ユー、君がやるんだ。」
レッディストは、少し残念そうな顔で、重々しく宣言し、ユーの表情がこわばった。
「やるって、何をすれば良いのですか?」
ユーは不安そうに尋ね、レッディストは落ち着いた言い方で答えた。
「簡単だ。これから毎晩クロミエと、えっちな事をするだけで良い。霊・獣・人の力を持つから、期間は一ヶ月位だな。」
「分かりました。」
レッディストの答えに、ユーの表情が明るくなり、クロミエは少し顔を赤らめ、そして
「で、では、今晩の分を今から…しますか?」
そう言うや、ユーを押し倒した。ユーは、いきなりの事に戸惑いながらも、心の中でこう考えた。
「この時間が永久に続くと良いのに…」
時間が再び動き出そうとしていた。

その30 娯楽人さん

「クロミエ……んっ」
何かを言おうとした口をクロミエが覆いかぶさりふさぐ
そのままお互いの舌を絡めあわせ唾液をまじりあわせる
二人とも経験自体は無かったがどちらも必死で相手のことを求めていた
そして、どちらともなく服を脱ぎお互いの生殖器を撫で合う
「あっ……ん……ユーくん」
「クロミエ……くっあ……」
すでにユーの股間は痛いぐらいにそり立っており
クロミエの秘所も汁が滴るほど濡れていた
そしてクロミエが体をずらし自分の秘所にユーの肉棒をあてがう
「はぁ……ユーくん・・・…いくよ?/////」
「う、うん……//////」
「んっ……う……」
「い、痛い?クロミエ?」
「ううん……広がってる感じだけど痛くないよ……むしろ気持ちいいかも/////」
「う……クロミエっ////」
起き上がりクロミエを抱きしめるユー
「ふぁっ?……ユーくん?」
「ごめん、我慢できない……」
クロミエを寝かせ体勢を入れ替えるとユーはクロミエの体を突き上げる
「ひゃっあっんっユーくんのがびくびくして・・・ふぁっ!」
「クロミエっクロミエっ!」
「ユーくん激しいっ……ふあっひゃああっ!!」
「クロミエ……好きだよっ」
「私もユーくんが好きぃ!」
お互いに高まる性感……そして終わりが訪れる
「クロミエ……僕もうっ……」
「私もっ……ふああああっ!」
「くぅぅ!」
「あぁっ……出てるぅ……ユーくんの……あったかいよ」
「クロミエ……はぁ……」
「ユーくん……」
再び口を重ね合わせる二人、そして時間が動き出した。

その31 ゲイトさん

一方、本来の姿となったアフェルは、意識を乗っ取られた自室に来ていた。
その部屋は、辺りを埋め尽くさんばかりのお札が貼られていた部屋、そうシリルの心の中で長居してはいけないと思わされた部屋だった。
彼はあたりを見渡す、そこにある机をみて少し懐かしく思った。
「何も変わってない、あのまま…と言うことですね」
少し笑みをこぼしていると、月の光に妙な影が出てきた。
アフェルがそこを見つめると、ちょうど満月をバックに『大きな黒い影』が窓の外に漂っていた。
窓は開いており、その『大きな黒い影』は空いた窓の前で浮いていた。
元戦闘員と名乗っていた悪霊である。
「…やっぱり吾輩を追って来たにゃ」
「ええ、ここは、初めて私が貴方と出会い、私を奪った場所ですから、貴方が力を取り戻す隠れ場所はここだと思いましたからね。
 貴方は私を利用し、この学校の幸せ全てを奪って行った、その報いを受けてもらいます」
そう言って教室に張られている1枚の札を剥がし、霊力を込める、そして…
「受け取りなさい、そしてここから出て行きなさい、全てを奪った悪霊よ!!」
札を悪霊に放つアフェル、すかさずもう1枚剥がし、相手に狙いを定める、しかし、結果はアフェルを驚かした。
悪霊はアフェルの放った1枚目の札をよける事なく当たった。
「…どういうつもりです、あの程度、貴方なら交わせるはず」
動揺を隠せないアフェル、やがて悪霊はゆっくり口を開いた。
「いまさら、吾輩一人を倒しても、何にもならないニャ」
「何?」
落ち込むような態度をとる悪霊、やがて悪霊はゆっくり口を開いた。
「…覚えておくにゃ、吾輩一人を止めたところで、世界には吾輩のような輩が幾らでもいるニャ
 吾輩のような輩を作る組織が消えない限り、吾輩のように秘密の研究所を造ろうとする者は、どこにでもいると言う事を、覚えておくニャ」
そう言って、悪霊はそのまま札の力で消滅していった。
やりきれない気持が残されるアフェル、そして、徐々に足元か消えて行くのが分った。
「こんな気持ちを持ちながら、時間切れですか、後は、任せましたよ、みなさん…」
そう言って、アフェルは成仏していった。

部隊は再び屋上に戻る。
時間が進み、デュフォレード、レッディスト、リクト・シェパードの体が徐々に消え始めた。
「御馳走様、満足そうだな、ユーとクロミエ」
「制約は完了、後は魔力の制御でクロミエを生かすも殺すも自分次第に出来るだろう」
「そんなこと、ユー君は絶対にしないよ、お兄ちゃん」
消えて行く中、3人はユーのエッチを無事に見届け、制約が完成したのも見届けた。
そして、ユー達に聞こえないよう、そっと天へ昇り始めた。

一方リアの方も、皆の声を聞き、自分のして来た事にようやく落ち着きを取り戻して言った。
周りから聞こえるありがとうの声、もう何度聞いただろうか、そして最後にミルココの言葉が聞こえた。
「リアちゃん、元気でね、私の人形、大切にしてね」
そう言ってミルココ含む生徒たちが天へと上って行く、リアの足が屋上につき、ミルココ達は天へと昇って行く。
そして、その天に昇るものにリクト達の姿もあった。
こうしてこの亡霊事件は解決される、そう思うリアだった。
光が消え、いつものように時間が進む、リアはココナとシリルを見つけると彼女たちのもとへ歩み寄る。
ココナは服を乱されており、シリルは服を脱がされている事を除けば二人は全くの無傷だった。
「う〜ん」
シリルが目を覚ます、同時にココナも目が覚めた。
「無事だったみたいだね」
「りーちゃん…」
シリルにシリルの服を渡すリア、シリルはゆっくりその服を着直す、それと同時にユーの声も聞こえた。
4人がリアを中心に集まった時だった。
「え?」
誰かが声を上げる、突然、足元に白い光が現れ、やがてそこに魔法陣が現れた。
「これは…あの時と同じ?」
ユーが声を上げる、その言葉に、ココナ、シリルも思い出した。
ユフィによって連れ去られたあの時の感覚と同じなのだ。
「どうやら、お別れの時が来たみたいだね」
リアが笑顔で3人に言った。
「リアさん、本当にありがとうございました、リアさんがいなかったら、私達どうなっていたか分りませんでした。」
と、リアにお礼を言うココナ。
「りーちゃん、きっとりーちゃんの住む島に、遊びに行きます、絶対に!!」
と、再び会う事を誓うシリル。
「リアちゃん…」
「ユー君、必ず、素晴らしい魔法使いになって戻ってきてね」
それを聞いたユーは大きく頷いた、やがて光がココナ達を覆う、次に光が消えた時には、彼女たちの姿はなかった。
リアは大きく深呼吸をして、ミルココの土台となった人形を懐にしまう。
「ほつれてしまった所を直さないとね」
そう言って屋上を出ようとする、ふと風がリアの髪をなびかせる、吹いた方を見ると、そこには大きな月がでていた。
月は夜を照らす光を放ち、リアと、学校を照らしていた。 その月明りを見届け、リアは、ゆっくり学校の屋上のドアを開け、そこから去って行った。

そして…ココナ達は。
「………ー君、ユ……ん」
聞き覚えのある声が聞こえる、それに、毛布に包まって居るかのように温かい。
「起きて!! ユー君!!」
「うわあ!?」
突然の大声にユーは飛び起きる、目の前には誰かの家の中であろう部屋と、太陽が窓を抜けて部屋を照らしていた。
「もうお昼時だよ、疲れてたのか知らないけれど、ココナ達を見つけたからってあんなところで寝ないでよね!!」
「え? フォル? 何でフォルがここに? それに、今のどういう事?」
あまりに突然のことで頭が回らない、あの時、魔法陣の光に覆われた後、ユー達は意識を失った。
その後、ユー達の身に何があったのかもわからない、気が付いた時にはルティの家のベットの中にいた。
フォルは、ため息を付くと、ユー達を発見した経緯を述べた。
ユーが行方不明になって約1時間ぐらいした時だった。
ユーに渡した指輪の位置がわかり、3人でそこへ向かったのだと言う、そこに、ココナとシリル、そしてユーが、一つの石の前で眠っていたのだと言う。
起こしてやろうとしたのだが、3人とも疲れた顔をしながら眠っていたので、起こさないように3人で担いで、部屋に寝かせたのだと言うのだ。
しかし、今のフォルの話で一つの疑問が出てきた。
3人? 一人足りない、先ほど誓約した彼女が抜けていたのだ。
「ねぇ、フォル、クロミエみなかった?」
「クロミエ? クロミエって、あの学校で生死含めて行方不明のクロミエ=アンシャットの事?」
「そうだよ、僕、彼女に合ったんだ、そして彼女と二度と離れないようにおまじないみたいな事をして!!」
そう言ってるとフォルはクスッと微笑んだ。
「夢を見てたのよ、あそこにいたのはユー君とココナちゃんとシリルちゃんだけ、クロミエはいなかったよ」
「そんな、夢じゃないんだ、本当に!!…」
そう言っているうちにだんだん脱力感が出てきた。
もし、あの出来事を知っている人物がユーを含めて後2人しかいないとすれば…
そう考えると、説得力に欠けてきていった。
「夢…だったのかな?」
答えが帰ってこない質問をする、やがてフォルは吹っ切ったかのように口を開いた。
「顔を洗って目を覚ましなさい、皆下で待ってるよ」
そう言ってユーの部屋から出て行くフォル、悲しい気持ちを抱えつつユーは下へ降りて行く。
「おはようございます、ユーさん」「おはようユーちゃん」
「あ、おはようございます」
かけられた声に反応するユー、声の主はココナとシリルだった、あの時の出来事を知らないかのような態度だ。
「もうすぐご飯の用意が出来ますから待っててくださいね」
そう言いながら料理をテーブルへ運ぶココナ。
あの時の事、覚えてないのかなとぽつりと思う、そう思っていると、シリルがユーの所へやってきて耳元で囁いた。
「昨日は大変だったね」
その一言に、ユーが反応する、「それって!?」と言おうとした時、シリルに口を指でふさがれる。
「シリル達も覚えてるよ、きっと、あーちゃんにも会えるから、ね」
そう言ってユーから離れるシリル、やっぱり彼女達にもクロミエの姿を見ていないんだ。
がっかりし始めるユー、うなだれているとルティが部屋に入ってくる、手には真新しい首輪を持っていた。
「ココナ、お待たせ、新しい首輪よ」
「うにぃ〜ご主人様ぁ〜ありがとうございます〜」
そう言って、ココナは持っていた料理を置いた後、ルティにくるっと背中を向けて首輪をつけてもらう、首輪をなくしてしまった事をココナはルティに素直に打ち明けた。
ルティは怒りもせずに、新しい首輪を持って来てくれたのだった。
新しい首輪につい嬉しくなるココナ、それを見届けていると、今度はユーに目を合わせて凄い事を言った。
「ユー君、今から正式な誓約をするよ」
「え?」
声を上げる、制約? クロミエの姿はないのに誰と制約するんだろう、それに、護衛用なら既に儀式は終えてるはず、でも、あれが夢だとしたら…
そんなふうに考えているとルティが口を開いた。
「もう、こんな可愛い子を放って置いていいの? 今この子はユー君と私にしか見えてないのよ、この子『半霊半獣人』なんだから」
「え?」
「ほら、何時まで私の後ろに隠れてるの? 貴方のボーイフレンドがお待ちかねよ」
ルティの言葉でユーの中に期待が走る、やがて、ユーにもルティの背後に誰かがいる事に気付いた。
「でも既に古い契約を結んでいるはずなのに、何故?」
そうユーが聞くと、ルティ曰く、古典的な制約はそれをした本人と本人よりも強い魔力を持った人でないと見えないらしい。
そして、今から正式な誓約を行うことで、周りの人にも見えるそうだ。
ルティの影に隠れていた人物はもじもじしながらルティの影から顔を出す。
何を恥ずかしがってるのやら、そう思いつつルティは制約の準備をするような態度をとりつつ彼女をユーの前にだした。
そこには、黒い髪に黒い耳と尻尾、あの時の狂気の顔とは全く違う目をし、女の子らしい服を着たクロミエの姿があった。
「あ、ユ、ユー君///」
今まであまり着た事ない服に慣れてないのか、ユーの顔を見るとすぐに赤くなった。
ユーはクロミエをみて、凄く似合っていると思った。
「じゃあ制約の準備にかかるわよ、ユー君、魔法の準備を」
こうしてユーとルティの二人係の魔法が始まる、正式な制約が完了すると同時に、クロミエは再びフォルを含む、皆の前に姿を現した。
感動の再会にココナ、シリル、ユー、の3人は思わず抱きついた。
そして、ルティ達の街に広まっていた手招き霊の噂も少なくなり、いつもの活気が戻ってきた。
今では悪霊は成仏したと言われている。

後日、ルティ達の家にカルマン=モラリスとネオン=リーフィーと書かれた宅配が届く。
そこには一本のビデオテープとココナがなくした首輪が入っていた。
ビデオテープには最初に彼らの漫才トークが始まり、最後にココナがリクトに犯されていたシーンが映し出された。
しかも、リクトの姿はちゃっかりユーの姿に改ざんされており、ココナとユーが何処かの学校のトイレでエッチな事をしているような姿だった。
ココナは慌てふためき、ユーは通用しない言い訳に顔面赤面だった。
のちに、これがカルマンとネオンのささやかな悪戯だったということが宅配の手紙によってわかった。

その32 Y-0さん

小さな島 後日 AM 7:30

リアは朝早くから海から登る太陽を見ていた 昨日の出来事を思い返し、やっとのとこ探索が終わったと…そんな感じだった
そんなリアを、エースは後ろから声をかけてきた「おはようリアさん!」「あ、エースくんおはよう」「ねえ、昨日の夜の事なんだけど、ちょっと聞いてもいいかな?」
「あーうん、今話したいんだけど まだ村長にも報告してないから、その話はそこでするよ 悪いけど先に村長の家に行ってくれるかな?」
「うーん今すぐ聞きたいけど…わかった、じゃあお先に〜」「また後でね!」

昨日、エースは昼にいつもの場所で船が通りかかるのを見ていたが、夕方になっても船は見つからなかった
暇だったので、その時間は家に帰って眠った、しかし 夜の学校から騒動があったためか、エースは目覚め まだ校内探索をしているリアを心配して村長の元へ行き、村長は「まさか…封印が解けてしまったのか…!?」と慌てふためいていた
リアは昨日の出来事を村長に知らさなければならない
リアは朝の風を受け一息つき、「そろそろ行くか」と言ってその場所を去り、村長の家へと向かった

そしてリアは、村長からデュオがいつ何処で…誰に殺られ…何故死んだのか…その真相を聞く事になるだろう

その33 ゲイトさん

村長の家では、村長を初め、エースや村の人がリアの到着を待っていた。
校内にあった札による封印、数年間続いた幽霊騒動、静かながらも誰もが、廃校に関してそわそわしていた。
やがて、村長の家の扉が開き、リアが入って来た。
村の人達やエースに目も居れず、部屋の机を挟むように村長と向かい合った。
リアが入ったと同時に誰もが緊張する。
この緊迫した空気の中、村長が口を開いた。
「数ヶ月の学校の調査、ご苦労だった。 昨日、お前があの学校に行った後から学校にかなりの変化があったようだ。」
この空気の中、村長は冷静に話を続ける。
「答えてもらうぞ、リア あの学校で何があった? 亡霊は、我らが昔封印した結界はどうした?」
次々と飛び交う質問。 やがてリアは村長の口を止めると、懐から一つの人形をとりだした。
ミルココの人形だった。 この人形が回りにどんな意味をもたらすのか理解は出来ないだろう。
それに、彼女はもう、この人形にはいないのだから。
「全てをお話します、その前に、この人形の説明をさせてください」
「どういう事かな?」
「これが、行方不明になった原因の一つで、行方不明者が服のみが残されていたのは、人形にされていたからだと思います。」
「つまり、あの学校には幽霊ではなく、ドールマスターでもいたとでも言うのかな?」
「いえ、正確には…」
リアの長い話が始まり、島に住む者達はリアの話にずっと耳を傾けた。
幽霊達がそこにいた役目、封印されていた者の正体、およびどうなったのか…すべての元凶等…
リアの言葉に驚く者も何人もいた、同時にあの学校に通っていた者達を落ち込ませてしまう事もあった。
それもそのはず、教員に悪霊がとりつかれていたのだから…
そして、行方不明だったデュオについて話し出した。
数ヶ月前から行方不明になる事件に彼も含まれていたのだとリアは推測した。
最初の亡霊事件からたいぶたち、成長したデュオはリアと共に学校探索に手を貸していた。
しかし、その調査中に彼は行方不明となり、そのまま悪霊のせいともみ消された。
実際、服すら残らなかった事もあり、悪霊に連れてかれてしまったのだと言われていたが、今回の調査で、実際は悪霊に取り付かれたアフェルによって殺されていた。
彼の死体がないのはおそらくこの島に無いから、転移で何処かに飛ばされたとも考えられた。
一通り話したリアは、最後には、全部終わったと話した。
その言葉に村長一同も安心し、会議が終わりを迎えた。
数日後、学校は再び立て直しを再開、時折亡霊の姿を見たと言う目撃情報もあったがリア曰く、そんなに怖いお化けじゃないと笑って答えた。
他にも、埃まみれな窓なのに、一枚の窓のみ、埃がとれていたり、椅子が勝手に動いた等ポルターガイストらしき事も起きているが、
それは、カルマンとネオンのささやかな悪戯だったとかなんだとか…
やがて、学校は前よりも綺麗になり、子供達も通うようになった。
カルマン達も悪戯幽霊としてではなく、この学校の守護霊として生きる事にした。
上天した皆の為にも、この学校を大切にしたい、その思いからだった。
それから数日後、立ち直った学校に、特別講師として、この島出身の魔法使いとその恋人が、島に来る予定となっている噂ではあのエースの兄と言う事もあったけど、それはまた、別のお話…

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