第7話 瓜二つの少女達

とある観光都市へとやってきたルティたち一行。
のんびりと贅沢なリゾート……のはずが、そこでは、ある窃盗事件が続いて、
しかもその窃盗犯は、ミリルとシリルとココナに瓜二つだったのでした。

その1 ゲイトさん

ここはココナ達の住む町からかなり離れた町、ココナ達が住む町とは違い、活気があって賑やかである。
身分の高い人も、時々、ここを訪れて、骨休めをしている人もいるようだ。
楽しそうな声が町いっぱいに広がっている。
そんな町に、ココナ達は、明日その町へ旅行しに行くことになった。
明日、その町に皆で楽しく旅行に行けると思うと、3人ともワクワクしていました。
しかし、ココナ達がその町に旅行に行く前の日でした。
旅行先の町では、ある事件が発生していました。

旅行先の町にて。
「ふみゅう、この人が持ってそうな高価そうな物はこれくらいかな」
一人の少女が真夜中に、家の中を色々と漁っている。
ガサゴソとその少女がその家を漁り終え、持っているものを袋の中に入れると、漁ったところを元に戻した。
家は豪華で、何処かの貴族が住むような豪邸だった。
その豪邸から拾い上げた物をポケットや袋に入れていると、頭の中から声が聞こえた。
「そっちは、終わった?」
「お姉ちゃん? うん終わったよ、随分と良いの持っていたわよ」
「そっかあ、じゃあ、あの子とも合流してトンズラかますわよ」
「は〜い」
そう言って声が切れるのを確認した少女は、手紙サイズの紙にさらさらと文字を書いてテーブルにそっと置いた。
テーブルには
"お世話になりました、とっても激しかったです"
と書かれた手紙が置かれていた。
そして、少女は豪邸の窓を開け、そこから飛び出した。

その少女は猫耳にオレンジ色の長い髪を靡かせながら、そこから出て行った。
それと同時に、他の家からも黒い髪に犬のたれ耳を付けた少女と
オレンジのショートヘアに猫耳付きでリーダー的な少女も飛び出した。
部屋から飛び出した2人の部屋にも、同じような文が書かれていた。

そんな泥棒事件が起こっている事を知らないまま、4人は旅行先に向かっていった。

その2 せいばーさん

ココナの住む街から200q
水都ラセンブリア
「着いたー!」
「へぇ〜噂どおり綺麗な所・・・」
水都ラセンブリア
そこは水都の名が示す通り水の都
街中に水路が通り、至る所に美しい彫刻や像が並べられた一流リゾート地
「さっ〜てホテルは何所かな〜っと・・・ん?」
さっさとホテルにチェックインして観光に繰り出そうとしたその時
「・・・・・」
目に飛び込む『WANTED』の文字
その文字の下には
ココナ・シリル・ミリルにそっくりな似顔絵
「(Д) ゜゜キャー」
「どうしたですか?」
「ちょっと来なさいアンタ達!」
「え!?ちょ!何!?」
「どっどうしたんですかご主人様!?」
「ふぇぇぇぇぇぇえええ!!??」

路地裏
「ハァ・・・ハァ・・ハァ」
「もー、いきなり何さー」
「・・・貴女達、最近此処に来た?」
「いいや、初めてだよ」
「私もです」
「もちろん私もですよご主人様」
「・・・・これ・・、何?」
ルティはピラリとさっき壁から引っぺがしてきたチラシを三人に見せる
「ハァ!?何これ!」
「わっ私達泥棒さんですか!?」
「なっなななななな(ry」
そこに書かれた罪状は酷い物で
・軽微窃盗×20
・重度窃盗×12
・器物損害×18
・住居不法侵入×10
・公務執行妨害×10
・水都迷惑防止条例違反
その他容疑多数
「わわわ私達捕まっちゃうですか!?」
シリルはパニックになっている
「まさか!そんな事私がさせない、だって貴女達は何もして無いもの」
「でも何でこんな・・・」
「大方そっくりさんって所かしら?
それか幻術で皆の顔を真似てるか・・・」
「どちらかっていうと後者じゃないの?
偶然にしては出来すぎているもの」
「でも何で?」
「そりゃあ私達がそいつ等の恨み買う様な事したからじゃ・・」
「えー?でも恨み買う様なことは・・・・・一杯あるなぁ」
顔を顰めるミリルとルティ
「でもシリルちゃんと私はそんな事・・・」
「自分で言うか・・・まぁ詳しい事は分からないけどホテルに行くのは止めた方がよさそうね」
「「「「・・・・ハァ」」」」
壮絶な旅行記が始まろうとしていた

その3 娯楽人さん

「はぁ〜しょっぱなから災難だな〜」
ミリルは先ほどから盛大に愚痴っていた
それもそのはず、この旅行を言い出したのはほかならぬミリルであり、滅茶苦茶楽しみにしてたせいか反動もでかい。
「まあ、仕方ないよ…でも偽者か捕まえて色々白状させないと」
「ルティちゃん、顔が笑ってるけど目据わってるよ…」
「うにぃ〜…これからどうしましょう?」
「そうね、ホテルにも行けないし…まずは泊まるところの確保が、」
「こっちです!おまわりさ〜〜〜ん!!!」
「「「「!?」」」」
恰幅の良いおばさんの木綿を引き裂く悲鳴が…突然響き渡る
「やばっ!逃げるよ!」
「うにぃ〜〜ココナ達悪く無いです〜;;」
「それでも、捕まるわけにはいかないでしょ!」
「うみゅ〜〜〜!」
ルティ達は声の方向とは逆に逃げる、
しかし、ルティ達はラセンブリアの人間ではない
すぐに追い詰められ包囲された。
「っく…流石に土地勘ある人間とは追いかけっこの勝負はしたくないわね」
完璧に壁となった警察の向こう側からスピーカーによって声が届く
『あーあー、…コホン、犯罪者に告ぐ!
速やかに投降すれば命の保障と裁判にかかる権利
及び、弁護士の選択の権利を約束する!
尚、これ以上逃亡を続ける気なら問答無用で縛り首だ!!』
「ど…どうしますご主人様…?」
「やむおえないわね、…投降します!!」
「ちょ…ルティちゃんいつもみたいに蹴散らしたり…」
「ダメよ、誤解は解かないとそれにこの人達は悪くないし」
「みゅ…さすがちーちゃん…大人」
「さて、問題は裁判だけね」

こうしてルティ達は警察に逮捕された、
ココナ、ミリル、シリル、の三人は指名手配されていたが
ルティ自身に罪は無く同行していた事についての事情聴取だけでお咎めは無かった。
流石にまるっきり黒の犯罪者に付く弁護士もおらず
このままでは弁護士不在になると踏んだルティは思わぬ行動に出る

「では、これより窃盗及び多数の罪で起訴中の被告三人の裁判を始める、検事準備はよろしいですかな?」
「もちろん整っております」
「弁護人は裁判が始めてとか?」
「は…はぃ…」
弁護席にはとても頼り無さそうな人物が座っていた
しかし、その隣に居る人物を見てココナ達は驚愕する
「ご主人様!?」
そう、その弁護士の隣に立っていたのは
ココナ達の無罪を証明するため立ち上がったルティチャーフルその人だった



裁判の結果は無罪放免、決め手は彼女達の渡航記録及び通院記録
つまり、この町に来たのがついさっきという証明と
犯行があった時には全員病院に掛かっていた事が証明された
この事実ゆえ犯行は不可能もといありえないという判断になった。

現在、ホテルの一室でくつろぐ4人
「うにぃ〜ご主人様が出てきた時はびっくりしましたぁ〜」
「てかルティちゃんあの隣に居た弁護士は誰?ほとんど空気だったけど」
「その辺にあった事務所に訪問(襲撃)して説得(脅迫)して協力してもらったのよ」
「(ルティちゃんの方が犯罪者っぽいよ)」
「みゅ〜これからどうする?」
「決まってるでしょこうなったら、旅行を満喫しながら犯人を探し出すのよ!」
「うに〜…ご主人様が燃えている…」
「てか満喫するんかい…」
「みゅ〜〜…」
若干、ルティの行動力についていけない3人であった…

その4 ゲイトさん

そんな気分になりながら外に出た4人。
しかし、どれだけ犯人と似ているのか、何回か窃盗犯と間違えられた。
そして、また。
「いたぞ、待ちやがれ!!」
「うに!?」
「はぁ、またか」
少し呆れながら4人の下にやってきた男と向き合う。
「やっと見つけたぞ、さぁ俺の大切なエメラルドの指輪を返しな!!」
「みゃう!! シリル、そんなの知らないよぉ〜」
はぁ、今度はシリルか、と3人は思った。
「白を切るつもりか? ならいいぞ、あの時見たく、服を脱いで体を調べさせてもらうだけだからな!!」
『あの時?』
気になる言葉を聞いた。
ルティはあの時のことを聞こうとしたが、
ぼやぼやしていると、シリルが本当に連れてかれて体を調べられかねなかったので、とりあえず男を落ち着かせた。
「そう言われれば、この少女は、あの泥棒よりも相当内気だな、悪いことをしたな、じょうちゃん」
「みゃう…」
頭をかきつつ謝ってくる男、シリルは半場落ち込み気味だった。
「ねぇ、窃盗犯について一つだけ聞いていい?」
「何だ、俺で分かることなら」
「窃盗犯の特徴って知っている? この子達に似ているのは知っているんだけど」
「あぁ、いっちゃ悪いが本当にその子にそっくりだ。
 ただ、違うとすれば、そこのオレンジの髪の少女は猫耳を隠すように可愛らしい猫耳の帽子を被っていたな。」
思い出すように話続ける男だった。
彼は窃盗犯に付いて何か分かったら警察ともども連絡するといって、ルティ達から去っていった。
その話を聞いていると、お昼の時間帯になったため、近くにあったレストランでご飯にしながら、先ほどの男と話した事について、話をしていた。
「帽子ねぇ」
「それを被っているって事は彼女達は、本物の猫耳なのを知られたくないように見えるわね」
ミリルがそう解釈する。
「オマケにあの人も言っていたわね、とても窃盗犯に見えるような子じゃないって」
「可愛い子には棘があるって事じゃないの? それに、1つのベットに眠りに来るなんて、私じゃ絶対に出来ない」
寒気が走ったのか、両手を両腕で摩るミリルだった。
「それに、ほとんどの人が言っていたけど、体を近づけて性的行為までしてくるなんてね」
流石に男達の言うこの一言には3人とも驚いた。
だからこそ、一部の人間はその体で聞いてやろうかと言う脅しをしてきたのだろうし。
「しかし、これからどうするの? 毎回外に出るたびにこのパターンじゃ疲れるよ?」
「う〜ん」
責めて何処か落ち着けるような場所に行きたい、そう思うルティだった。
そんな事を考えながらお勘定を上げて、外に出ようと思ったときだった。
「ご主人様ぁ…」
「ん? どうしたの?」
「おっおトイレ…」
おいおいと言わんばかりにミリルとルティがずっこける。
「待っているから行って来なさい!!」
「うにぃ〜」
ルティの声でそそくさと向かうココナ。
トイレの扉が開くのを待っている中、ココナはずっと股間をモジモジさせていた。
ようやく開いたところに急いで入ろうとしたときだった。
「きゃ!?」
「うに!!」
思わずぶつかりそうになる、その瞬間二人はドキっとした。
トイレから出てきたのは、頭に帽子を被った黒い髪の少女だった。
しかも、そのニットワッチの帽子を被っているのと犬耳が付いてないことをお互いが省けばほぼココナにそっくりだった。
「ごめんなさい、待っている人がいるとは思わなくて」
「いえ、こっちこそごめんなさい」
「じゃあ、私もう行きますので」
そう言って少女は去ってしまった。
「うに、何だったのでしょう」
そう疑問に思いながらトイレに入るココナだった。

一方トイレを後には少女はこのレストランの更衣室にいた。
「流石に吃驚したなぁ、あの子、帽子取ったら私と同じじゃん」
そう言って少女は被っていた帽子を取る、そこから、ポロンとたれ耳が顔に落ちる。
「でも、それはそれで面白そうですね、うふふ」
口に手を当て、クスクス笑う少女だった。

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その5 せいばーさん

ラセンブリア ルティ一行の泊まるホテル
『カルラ・パレス』
朝7:00

「ラセンブリアに来て早二日、我々は数多の苦汁を舐めさせられてきた
奴等は我々と顔が似ているのを良いことに悪行の限りを尽くしている
そこで、流石に慈悲深く、心は海より広い私でも堪忍袋の尾がプッツンしちゃった訳だ」

それはどうかと思うよルティちゃん
私の知る限りルティちゃんの心は精々千代田区程度です
・・・千代田区ってなにさ?

「今後の行動は二つ、一つはこのラセンブリアを私お得意の魔法で変装しつつ堪能
二つ目は憎き我等のソックリさん共をサーチ&デス!」

そこデストロイ、デストロイだから
大事な事なので二回言いました

「ならば命令せよ、殲滅しろと、壊滅しろと、塵芥と化せと」

アー●ードですね、分かります
・・って、何でココナはそこでノっちゃうの?
シリル、何でアンタは目を爛々と輝かせてるの?
駄目だよ?ヴァチカンの特務第13課と戦ったりしちゃ
ワルノリして『アンデルセェェェェェェェェェン!!』とか言っちゃ駄目だよ?

「生者の為に施しを、死者の為には花束を。
正義の為に剣を持ち、悪漢共には死の制裁を。
しかして我ら−
聖者の列に加わらん。」

「「サンタマリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を。」」
*ルティとココナのハモリ

ああああああああ、怖い、私の周りの人達が
そんなどっかの落ち目の貴族の婦長さんみたいな事言わないでよ
まさか隣りに有る見慣れないトランクには鉄鋼弾とかが入ってるんじゃないだろうな

「あっこれなんか可愛いんじゃない?」
「そうですね〜」

・・・楽しそうだ、普通に
でもココナとシリルは知らない
ルティが探査魔法『ゴルドンの猟犬』を使いながら優雅にショッピングをしているなんて!

せいばーの分かりやすいドキドキ魔法講座♪
『ゴルドンの猟犬』とは
術者の全方向半径10m〜50mを某白眼の如く監視できるのだ!
探査距離は任意で選択できるぞ!
因みに今は15m四方を探査中だ!

「・・・そうね〜・・ん?」
「どうしたんですか?ご主人様」
「・・・来た」
ルティの表情が厳しくなる
「えっ!?」
「まんまと網に掛かったわね・・・
時空の担い手よ、我が手におりて、次元(とき)を誘え!」
ルティが呪文を詠唱する
すると店の外から
「えっ?うぇぇ!?」
「なっ・・・っ!」
「キャッ・・・」
三人ほどの悲鳴
「行くわよ!」
「ハイ!」


ラセンブリア郊外 ウィア森林
「くぅ・・・このっ!」
「なんなのよコレ!?警察?」
「いや・・・
警察に強制転移魔法とこんなに強固なバインド魔法が使える奴なんて知らない!」
「それより後どれ位でコレ解けるの!?」
「後ちょっと・・・っ」
森の奥から声が聞こえる
「あらら、随分と惨めね、助けてあげましょうか?」
魔 王 降 臨
白い悪魔も真っ青です
「アンタは・・・誰!?」
ルティは盛大にズッコけた

その6 ゲイトさん

「もうご主人様速すぎです〜」
後ろから3人がやってくる。
「こいつ等が、私達の顔を被って窃盗行為を繰り返した奴らね」
「本当に男の人達が言っていたとおりだね…」
ミリルとシリルが2人を見る。
彼女達は、物を盗まれた男達の話していた通り、2人の頭には猫耳帽子を被っていた。
「さて、どうして上げましょうか? 悪いけど神様に祈っても無駄よ、今はベガスに言っているから
 唯一貴方を救ってくれるのは死神くらいかもね〜」
顔が笑っているのに何故か怖いルティ。
捕らえた3人の内、一人が、ルティの後ろからやって来たココナ達を見て声を上げた。
「あ〜〜〜〜貴方はトイレで会った!!」
「うに!?」
コロナと呼ばれたもう一人のココナがココナに声を上げた。
「そっか、その子がコロナの言っていたもう一人の"私"か」
ミリルに似た少女が声を上げる。
「何ですって?」
ミリルにそっくりな少女がそう言った時、ルティが反応した。
「貴方、化けているんじゃないの?」
「あんたに言う事なんてないわ、私達は貴方達3人と違って幸福に恵まれた人間じゃないから」
「どういう意味よ」
ルティが食って掛かる。
だが、少女は何も言わなかった。
「まぁいいわ、後は貴方達を警察に渡すだけだし」
腕を組んで勝った様に我が物顔のルティ、だがその詰めが甘かった。
「良いよ、ミリーちゃん、バインド解けたよ」
「え?」
一瞬だった、こんな短時間でシリルに似た少女がバインドをといたと言うのだ。
それをミリルのそっくりさん、ミリーと呼ばれた少女に告げた。
「良くやった、シリー」
「馬鹿な事を言わないで、そのバインドはそう簡単に…」
「取れちゃったんだからしょうがないじゃない、ほらこの通り」
シリルに良く似た少女が両手をルティに差し出してみせる。
その両手にはバインドはしっかりなくなっていた。
気付けば、両足につけていたバインドまでもが消えていた。
次にミリーも両腕、両足共に伸ばしている。
短時間でバインドを解いたと言うのは本当だった。
「ならもう一度、掛け直すまで!!」
「それはさせないよ」
そう言ってミリーは何かを地面に投げた。
煙玉だった。 それも霧並の濃さが出るタイプだ。
「くっ、精霊達よ、奴の動きを封じよ、バインド!!」
「「「きゃあ〜〜〜」」」
上手く行った、このルティ様から逃れることなど出来はしない、そう思っていた、だが実際に拘束したのは…
「ご主人様ぁ〜」
「動けない…」
「ルティちゃんの馬鹿ぁ〜〜〜;;」
「ぁ・・・」
霧が晴れてようやく気付く、バインドは見事に3人を捕獲していた、それも、自分の家族を。
「哀れな主人な事で、そうだ、今度何処かに予告状出しておいて上げる。
 貴方達と絡むと面白そうだし、ウフフ、それじゃあねぇ〜」
「待ちなさいよ!!」
その言葉もむなしく、3人は森の奥深くへと姿を消した。

その7 娯楽人さん

「もう!私とした事が取り逃がすなんて!」
「ご主人様…」
「ルティちゃん、ここは一旦ホテルに戻ろう」
「…そうね」


「きゃははっさっすがシリーあいつらびびってたな」
「あんまり使わせないでよね、疲れるんだし」
「そだね〜まあシリーお手柄お手柄」
ここはココナたちそっくりさんもといシリー、ミリー、コロナの家
しかし、この家にはもう一人住人がいた。
「ケホッ…おかえり…皆」
「ルチア?!寝てないと駄目だよ!」
「でも、これでも…ご主人様だから…ね?」
「駄目だよルチア、まだ体がよくなったわけじゃないんだから」
「うん、でも…今日は調子がいいの、吐いてないし…」
「分かったから、寝ててよ私ら夕食の準備するから」
「うん…いつもごめんね」
「気にしない気にしない〜」
「そうそう」
「ふふっ…ありがとうね、皆」
彼女の名はルチア、コロナ達のご主人であり
また、重度の病を患う人物である
「今日は本当に…いい日だね」
「うん?どうして〜?」
「だって…皆が夜居るの久しぶりだから…」
「ルチア…」
「ねっ…皆で一緒に寝よう?」
「もちろん〜よし私がルチアのと〜なり!」
「あ〜〜!ずるい!ルチアの隣は私だよ!」
「コロナもシリーもまだガキだね」

夜更け…
「…まだ足りないか」
月の明かりをたよりに今まで集めた金額を数えるミリー
「くそっ…なんであんなに高いんだよ…」
「ミリー…?」
「!?ッ…ルチアどうしたんだい?こんな夜に?」
「えと…ミリーが居なかったから…心配で」
「馬鹿…居なくなったりしないから寝床行こう?」
「うん…っ!ゲホッゲホッ!!」
「ルチア!?」
「だ…だいじょ…ゲホッゲホッ!」
「っ!…シリー!コロナ!ルチアが!ルチアが!!」

「ごめん…ね…心配…またかけちゃった…」
「良いんだよ、でも無理しないで本当にそれだけはお願い」
「ルチアは自分の体が分かってないんだから」
「ごめんね…」
「いいからおやすみ…私らもちゃんと寝るからさ」
「うん…おやすみ…皆」

「…姉さんそろそろやばいんじゃ…?」
「…だけどまだ金額は程遠いよ」
「……よし一か八かだ、王侯貴族を狙う」
「でも、以前失敗してから警備も厳重だし…」
「な〜に心配ないよ、あのそっくりさんを使えばね」

翌朝、この都でも有名なセント・モーリス公爵に予告状が届いた
『今宵、貴方の持つ至宝アテネの涙を頂きに参ります』
この情報は瞬く間に広がり警察当局及び情報関係者
そして、逃げられたとは言え彼女らを捕獲しているルティ達が呼ばれたのだった…

その8 娯楽人さん

PM10時 セント・モーリス公爵 館内

館では既に数人の警官やガードマンでいっぱいだった。
その中で、ルティ達は、セント・モーリス公爵の部屋で、話しを聞いていた。
「今宵、貴方の持つ至宝アテネの涙を頂きに参ります、か随分と大胆に狙いを定めたわね」
ルティは予告状を手に、セント・モーリス卿と会話をしていた。
「ルティ殿は街中で一度彼女達を見たという意見をいただきまして、
 その上、捕獲も一時成功したと言う事も聞きましたゆえ、今回雇わせていただきました。
 なにとぞ、アテネの涙をよろしくお願いします」
「分かってるわ、今度こそあの子達を捕まえて、全てを白状させるわ」
その言葉にセント・モーリス卿も安心した。
ルティ達は、その部屋から出て行った。
アテネの涙の保管場所はこのセント・モーリス卿の館の地下。
そして、そのルートには、赤外線も張り巡らされており、簡単には近づけない。
部屋内の壁は特殊な鉄鋼で固められて居る上、さらにルティがアラーム系の魔法で2重の警報を張っておいた。
もし、魔法に触れず、壁を破壊しても、鉄鋼が部屋側の地面に落下したときに大いに響かせるためだ。
そうすれば、音波が魔法のアラームに反応し、警報が鳴るという仕組みだ。
外面の仕掛けはばっちりだが、その反面、そこまでの正規ルートには赤外線とガードマンだけという不安な点が大きかった。
だが、これにより地下から掘って潜入されても直ぐに対応できる。
例え正規ルートを発見されるのにも隠し通路を対応したため発見に時間がかかるだろう。
後は、奴らがどう潜入してくるかだ。
「奴らが来るのはおそらく深夜辺りね」
ミリルがこの町で買った腕時計を目にしてそう言った。
「ココナとシリルは眠くなったらセント・モーリスさんが手配してくれた部屋で休んでも良いわよ」
「いえ、今度は私も頑張ります」
「みーちゃんばっかり活躍させないもん」
「シリル、そう言う問題じゃなくてね」
思わず苦笑いするミリル、ルティの気配りも跳ね除け、3人の自分を捕まえる事に熱意を燃やす2人。
3人にはルティの提案で、ある秘策をセットしていた、怪盗の3人と見分けが付くように、あるものをつけていた。
それは魔法を照らせば分かるものだった。
ただし、ネックはその効果は一部のものにしか分からないと言う事だった。
気合のある2人だが、この勢いが何処かで空回りしなければ良いけど。

〜〜セント・モーリス卿 館外 入口〜〜
入口内に誰かがやってくる、背の小さい影だった。
ガードマンは、こちらに向かってくる影に対し、魔銃、電撃棒を構える、やがて、影が消え、姿が現れ、声を上げた。
「お疲れ様です」
「あっ、ココナ様でしたか、お疲れ様です」
「どちらまで行かれてたのですか?」
ガードマンは入口前に現れたココナに一安心する。
「ちょっとご主人様に頼まれたものがあったので買いに行ってました、今戻ったので安心してください」
「はい、分かりました、気をつけてください、もうじき奴らが現れますので」
そう言って、ガードマンはココナを通す。
だが、このココナこそが、ニット帽を外した、コロナだったのだ。
コロナは無事に潜入出来た事をガードマンに気付かれないように通信をはじめ、ミリーに報告する。
「流石はミリーさん、ミリーさんの言う通りすんなり入れました」
「うふふ、思ったとおり、私達は林の中で待機しているから、
 貴方は向こう側のコロナに成りすまして情報収集をお願いね、
 気をつけて欲しいのは向こうのご主人様に会わない事、何か秘策している恐れがあるから」
「分かってますよ、もう一人の私と向こうのご主人様が別れた時に実行します」
ミリーの通信の次にシリーの通信がやってくる。
「コロナちゃん、ついでに私達が潜入する窓も開けといてね、合流ポイントは、ターゲットのある前で」
「了解、それじゃあこれより情報収集に入りま〜す、通信切るね」
そう言って、通信を切った。
セント・モーリスの館内で、心理戦が始まる。

その9 娯楽人さん

PM11時 セント・モーリス公家 館内

「うに…うにぃぃぃ」
「どうしたのココナ?」
「えと…うに…」
ココナは恥ずかしそうに俯いてるが
もじもじしてる動きから察するに…
「トイレ?」
「えと…その…はい」
さらに赤面して俯くココナに私は
「良いわよ、行って来て」
「うに〜…すいません〜すぐ戻りますから〜」
と言うと早足でトイレに駆けて行くココナ
後にこの判断が波乱を呼ぶことになるとは
この時の私には分かるはずも無かった

PM11時10分 共用トイレ
「ふぅ〜…間に合ったです〜……なんでおトイレがこんなに遠いんでしょう…」
途中何度も漏らしそうになりながらも何とかトイレにたどり着いたココナ
「早く戻らないと…ってふにゃ!?」
何かに足を取られ転倒するココナ
「いたた…うに〜なんですかぁ…?」
「静かにしな、もう一人の私」
「あっ貴方は!」
足を掴んでいたのはココナに瓜二つの少女コロナだった
「いいタイミングで来てくれたね」
「あわわわ…」
「ちょっと眠って貰うよ」
そう言うとコロナは腰のバックから綺麗な色のビンを取り出し
ココナに吹き付けた、
「けほっけほっ…な…何を…?」
「そのまま寝てなその間に私はあんたになりすますのだから」
(ご…ご主人様…)
ココナの意識は落ちて、コロナはすぐにココナの服と自分の服を取り替える
「ミリー、ミリーこちらコロナ、応答願います…」

PM11時30分 ルチア宅
「順調ね、じゃあ私達も行こうか」
「姉さん本当にやるの?」
心配そうにシリーが私の事を見上げる
「どうしたの?シリーらしくもない」
「ううん、何か嫌な予感がするの…それだけ」
「またシリーの予感か…大丈夫よこんなに順調に進んでるんだから」
そういう私も不安が拭えない、シリーの"予感"は外れたことが無いから
「そうよね、変なこと言ってごめんなさい姉さん」
「さぁ、行こうルチアの為に」
そして、私達は大切な人の為に戦場に赴く
そう、自らの命も賭けて

「皆…やっぱり無理させてたんだね…」
ルチアは今までの窃盗事件の犯人が3人という事を気づいていた
でも、それを良い事とは思わないし
それが私利私欲の為なら全力で止めただろう
だが、実際は自分の治療費の捻出のため
無理をして危険を冒してまでやっていた事を
ルチアには止められなかった
「だけど…もうやめさせなきゃ…これでもご主人だもの…」
ルチアは自らの体に鞭を打ちミリー達を追う
今日こそ悪行を止めるために、自らの命が尽きる前に……

その10 せいばーさん

PM11時15分

「さて・・・これからどうするか・・・」
トイレから出て辺りを見回すコロナ
そこに
「何やってんのよー早く戻ってらっしゃい」
「!!」
不覚だった
この時はまだ知る由も無いが
実はトイレはココナが居た部屋の真後ろにあった
だがそれに気付かずココナは遠回りをしてしまい
さらにそこに偶然来たコロナが相手は一人これ幸いと後を付けていった訳なのだ
「あっ・・すいませんです」
「いや別に良いけど・・・・ん?」
急に目付きが鋭くなるルティ
「どっどうしたんですか
「・・・いやなんでもないわ、私の勘違いみたい」
ルティはいつもの笑顔に戻る
「(びっくりしたー、バレたかと・・・ん?)」
コロナはルティが磨いている物に気付く
「何を磨いているんですか?」
「ん?これはねー・・・“全てを撲殺せし天使の棘棍棒(エス●リボルグ)”」 チビるかと思いましたよ、なんちゅー物もってやがりますか
そこにはやたらと凶悪な形の鉄塊
要するに金属棘バットである
「なっ・・・何でそんな物騒な物を・・・?」
コロナは顔面蒼白になりつつも聞いた
「え?何でって・・・この私をあそこまで侮辱したんですものそれ相応の罰は受けなくちゃイケないじゃない?
あっ勿論復活の呪文は無しよ?」
何故そんな事を向日葵の様な笑顔で言いますか
てゆーか復活の呪文は無しですか、そうですか
にぱー
そんな擬音が聞こえてきそうな笑顔だった
そんな顔でそんな恐ろしい事を言う物だから余計に怖い
「早くあの子達をサーチ&デストロイしたいなー♪」
お姉さま方、私は生きて此処から出られる自信がありません・・・
ルティサイド
さて・・とお遊びは此処までにしてそろそろ鎌をかけますか・・・
「ところでココナ、今日食べたパスタは美味しかったわよねー」
「あっああそうですねご主人様(確か今日食べた物はパスタと・・・)」
「あのトマトソースはどうやって作ってるのかしらね?
今度教えて貰おう(強襲してレシピを強奪しよう)かしら」
「(来た!)え?今日食べたのってクリームじゃなかったですか?」
流石ね・・・この位は調査済みか
「あっそうだったわね、うっかりしてたわ」
「(成功成功♪)」

この後も幾度と無く誘導尋問に掛けるのだがいつもかわされてしまった
ここまで来るとプロね・・・
どうしたものか・・・・そうだ
「ねぇ、何時まで猫をかぶってるつもり?
さっさと本性を現したらどう?」
「!!!なっ・・何を言って」
「ほうら地が出た、ココナはそんな風に喋らないわよ?」
やっぱりね、幾らこの手のやり取りに慣れてても所詮はまだ子供か
ちょっと態度を変えて話しかけるだけで直ぐにボロが出る
「・・・何時から気付いてた?」
「最初っから、でも確証がなかったの
だから誘導尋問を仕掛けたんだけど・・・
最後のはハッタリよ、でもまさか引っかかるとは思わなかったわ」
ルティはわざと相手を逆上させる様な言葉を使う
「・・・っ!」
ハッタリがダメなら奥の手もあった
だが仮にそれを此処で使って奥の手が何かが他の仲間に知れた場合、
それをコピーされる危険があった
だから使わなかったのだ
「ちっ・・」
「逃げるの?なら容赦はしないわ」
ルティは武器を構える
殺す気は無い、だが必要以上に抵抗するなら骨の一本や二本は覚悟して貰わねばならない
子供に手を出すのは心が痛むが、目の前に居るのは紛れも無い“悪”
しょうがない事か、と心を決めた
その時
「ルティちゃん、ちょっと眠ってくれない?」
バチンッ!
「がっ・・・・!」
強烈な一撃
首筋に走る電撃、スタンガンだった
「大丈・・・アンタの・・さん・・・」
「う・・・・もう・・・・だか・・」
薄くなる意識、最後に見たのは、ミリルに似た奴の笑顔だった

その11 ゲイトさん

PM11時30分

「助かりました」
「良いって、でも主人に手を出す予定は無かったんだけどな」
あの後、コロナとミリーは、ルティの使いのフリをしてガードマンを呼び出して、危険を覚悟でルティをガードマンと共に医務室へ運んだのだ。
首筋の傷を何とか言い訳をしておいた。
気を失っているだけだから数分待てば目を覚ますだろうと医師は言っていた。
作戦結構時間前には起きて欲しいと願うコロナだった。
何故なら、鬼ごっこしてもらうのはこの主人と残り二人のソックリさんの予定だからだ。
他のガードマン達では簡単に撒けてしまうし、何より厄介なのは、この4人だからだ。
だから、こいつらを森までひきつけ、罠を使って自分達がこいつらに成りすます予定なのだ。
その為には、アテネの涙の場所を知る必要があった。
だからコロナを先に忍び込ませ、そっくりと入れ替わって情報を仕入れる予定だった。
丁度コロナのそっくりさんが目を覚ました頃には、私達はアテネの涙を回収、4対3の鬼ごっこ開始と言うセオリーだったのだ。
その後、館に戻ったアテネの涙を再度盗み直す作戦だった。
だが、思いのほかコロナがばれたのが速すぎたため、作戦結構が難しくなったのだ。
二人は、ミリーのそっくりさんに遭遇しないよう館内を散策していた。 丁度、角を曲った時だった。
「ところでシリーさんは?」
「ところであんたのそっくりさんは?」
二人同時に口を開く、思わずお互いもどきっとした。
二人は「あはは・・・」と笑みを零すとミリーから口を開いた。
「シリーはあんたの仕事を引き継いでるよ、今頃、この館長は気持ちのいい思いをしながらアテネの場所とその周囲の罠をしゃべってるんじゃないかな?」
「うう、ごめんなさい、こんな予定じゃなかったのに」
「ううん、こっそり通信で聞いていたからすばやく行動できたのよ、それに、簡単に進入できる場所を作ってくれてありがと」
えへへ、っとコロナが照れる。
今度はコロナがココナの事を話し出した。
「彼女もトイレの中で眠っていると思いますよ、とりあえず騒がれないように色々としてきましたから、今頃喘ぎ声をトイレの中で出さないように頑張っていると思います」
「トイレの中?」
コロナがミリーに耳打ちをする。
コロナが話し終えるとミリーは顔付きを変え少し微笑んだ。
「プッ、それじゃあ女性が入らない限り気付かないわね」
「はい、大事なところにブルブル震える物をつけておきましたから助けよりも別の声が出てると思いますよ」
ウフフ、ウフフと笑う2人、トイレの中にいるココナは2人の言っていた通り、秘部の中で暴れるものに耐え続けていた。

一方その頃、館の外では。
「見回り完了です、先輩」
「お前、それ何回目だよ」
「えっ、でも毎時間ごとに見回りを報告するのは必要かと」
「その生真面目さ何とかならんのか、こっちがイライラしてくる」
正門前で新米と思える警備員とガードマンが会話をしていた。
新米警備員の報告を何回もされていたせいか、ガードマンは彼の相手をしていてかなり苛立っていた。
そのうえガードマンが少し一服しようとタバコを取り出すと・・・
「ここは禁煙ですよ、仕事中ですしタバコは控えた方が・・・」
ついにガードマンはキレた。
「だ〜喧しい!!、おい、新米、ここはもういい、町の方を見回って来い!!」
「えっでも」
「でももヘチマもない!! とっとと言って来い、さもなきゃこいつをぶっ放すぞ!!」
ガードマンが電撃棒を取り出し、ボタンを押して電気を走られる。
「わぁ〜分かりました、見回ってきます〜」
走って街の方へ向かって良く新米警備員だった。
「全くあいつも懲りないですね」
「ったく、誰だよ、あんな新米よこしたのは」
「でも、結構優秀ですよ、彼は」
そう言って、メモ帳を取り出し、タバコを吸い始めたガードマンに話す。
「シェルト、ラセンブリアの南東区出身、魔法の腕前は皆無だが、銃の腕前はどの新米よりも腕が良いそうです。
 ただ、あ〜生真面目なところがたまに傷なのですけど・・・」
「ふぅ、どの道この仕事じゃ足を引っ張るだけだ、お前もそれを閉まって警備に戻れ」
そう言って吸っていたタバコを地面に落とし、踏み消す。

ラセンブリア街中。
「全く先輩方は酷いや、俺をこんな扱いにしかしないんだから」
先輩のどやを買った新米警備員のシェルトは先輩の愚痴をしながら街中を歩いていた。
「こんな夜だったら他の警備員だって動いているだろうに、全く・・・!?」
ふと足が止まる、丁度ラセンブリアと外の間の門近くで倒れている女性を見つけたのだ。
あわてて倒れている女性のところへ向かうシェルト。
「君、しっかりするんだ」
体を持ち上げ、少し揺らしても反応がない、ただ言えることは、凄く、息切れを起こしていた事だ。
シェルトは倒れていた女性のおでこに手を当てる。
当てた直後、シェルトの顔が変わった。
「凄い熱だ、何故こんな体でこんなところまで」
「・・・・・・・」
「え?」
女性がぼそりと声を上げた気がした。
「とにかく、病院に連れて行くからな」
シェルトは女性を担ぐ、彼女はシェルトに担がれている時でも、ぶつぶつ言っていた。
コロナと・・・シリーと・・・ミリーを・・・止めないと・・・、と

その12 娯楽人さん

高熱で倒れている女の子を保護し病院に行ったシェルトだったが……

PM11:35 市内病院前
「開いてればと思ったけど…甘かったな」
とっくの昔に営業時間を過ぎた病院の明かりは既に落ちており、何度か扉を叩いて呼びかけたが返事は無かった
「くそっ これだけの熱だ早く医者に見せて対処しないと…あっ、そうだ!待っててねすぐお医者さんに診てもらえるから」
そう言うとシェルトは来た道を戻り始め、少女を発見した場所を通り過ぎ公家の玄関前まで戻ってきた
速攻で戻ってきたシェルトに先輩は不機嫌な声で
「何だ?警備すっぽかして戻ってきたのかよ?」
と言ったがシェルトに担がれている人を見て驚愕する
「おい!?どっから拉致ってきたんだお前!」
「人聞きの悪い事言わないで下さいよ先輩!この子凄い熱で…」
町で有った事を簡潔に伝えると先輩は無線で他の警備に付いている人を呼ぶとシェルトに怒鳴る
「突っ立ってないで早く医務室に運べ!どうせまだ医者がいるだろうからな!」
「はっ、はい!」
シェルトが走り去った後、先輩は一人つぶやく
「判断はまとも、人間性もベストだあとは経験だな…大物になるかもしれねぇな奴は」
そう言うと苦笑いをしながら警備に戻っていった

PM11:40 館内医務室
「熱は高いですが、解熱剤と抗生物質を投与しましたこれで良くなるはずです」
「ありがとうございます!」
「いえ、医者としては当然ですが……貴方この子を何処で見つけたんですか?」
「それが……」
シャレルが医者に経緯を話すと医者は凄く難しい顔をした
「これだけの高熱中々出るものではないですし、ましてやこんな状態で外を出歩くなど……」
「そうですね……それは自分もそう思います」
「まあ、今はしばらく様子を見ましょうそれでは少し休んできますので何かあればここに連絡してください」
医者は連絡先が書いてある紙をシェルトに渡すと医務室から出ていった
一人残されたシェルトは連れてきた少女を見る
「(こんな夜中に何を探してたんだろう…)」
「……………」
「ん?」
かすかだが何かつぶやいている様に見えたのでシェルトは耳を澄まし
顔を少女に近づかせた
「……コロナ…ミリー…シリー…だめ…」
「コロナ?シリー?…家族の名前…かな?」
不思議に思いながらも少女を見ていたシェルト数分見ていたが特に変化は無く
「また来るからね」
このまま居ても仕方ないのでそう言ってシェルトは警備に戻って行った

PM11:50 館内医務室
「うぅ〜…ん?……くそぉ…やられちゃったか」
悪態を付きながらルティが目覚めた
「ここは医務室ね…私一人かな?」
ルティは周りを見渡し隣のベッドに目が止まる
そこには顔を上気させ苦しそうに息をする少女が寝ていた
「この子……私に似てる?」
瞳の色は茶色、髪の色は栗色とストレートロングの髪型と
相違点はあったがそれを除けばルティに瓜二つの少女が目の前に居た
「それにこの子……かなり危ないわね」
ルティはこれでも医術師志望
ゆえに少女の状態が思わしく無い事を瞬時に見抜いた
「……迷ってる暇は無いわね、"かの者に再度生命の息吹が宿らん事を リバイバル・ブレス"!」
素早く詠唱を済ませ精霊の力を注ぎ込む
ただ注入している力の割に一向に良くならなかったので
不思議に思い一旦中断する
「変ね……これだけ上位の回復魔法なのに改善しないなんて、まさか」 ルティは何を思ったのか少女の服を脱がせて裸にしてしまった
「"我魔力の根源を辿る、 デヴィジョンマジック"」
ルティの手に淡い光が宿りゆっくりとその光を少女にかざしていく
すると、全身に黒い模様が浮かび上がりルティは驚愕した
「これは……かなり上位の呪い?こんなの一体誰が…」
少女に服を着せて考える……だがやはりこんな少女に呪いをかける必要性はわからなかった
そしてルティが物思いにふけっている間にも着実にコロナ達は保管庫へ近づいていた。

その13 ゲイトさん

シリーとも合流したミリー達、シリーの情報の元、地下に張り巡らされた罠は、出来る範囲で駆除し、アテネの涙のある部屋の前までやってきていた。
「では、お宝とご対面と行きましょうか」
「楽しみです〜」
喜ぶコロナとミリーの中一人だけ疑問に思う人物が居た。
「ミリー、嫌な予感がしない?」
シリーの心配を他所に、ミリーは。
「そぉ〜? 確かに1回失敗しているけど、ここまでくれば勝ったも同然よ、後は0時を持って、アテネの涙を強奪、あらかじめ張ってある罠を使って3人を利用するだけよ」
「でも、何かあるような・・・」
落ち着かないシリー、まぁここまでスムーズだと流石に怪しく思えるか、あるいは私達が罠にはまっている恐れもある。
そう思ったミリーは、コロナにお願いをして、扉を慎重に開けるよう頼んだ。
コロナはそれを了承すると、ゆっくり扉を開け始めた、だが
「あれ?」
「どうしたの、コロナちゃん?」
「開かない、押しても引いても・・・」
「ちょっとどいて」
そう言ってミリーに代わる、確かに押しても引いても開かない、しかし、引いた後に押すと何か違和感を感じた。
これ、もしや。
何を思ったのか、今度は思いっきり横に引いた、すると、扉は、何も抵抗することなく開き始めた、だが・・・
ギギギ・・・・・
「みゃ!?」
「ミリーさん!!」
思わずミリーも止める。
「なんて音なの、まるで地面を引きずっているような・・・」
思わず扉を止めた、そして気付く、これこそが罠だったのかもしれない、おそらくこの調子で端まで空ければドンとなるだろう。
それに、少し開けたことによって、保管庫が見えたが、何か結界のような物と、音がとても響くようなつくりになっている。
もし、勢い良く開ければ警報が鳴り響くついでに地下を渡って館内に音が大いに響き渡るだろう。
「これは、下手に音を立てると洒落になってないかも・・・、シリーこの中にある結界が何か調べてくれる?」
「うん」
シリーは半開きの扉から張られている結界を確認する。
結界を調べると、思わず、気落ちした。
「どう?」
「凄いよ、よくこれだけ張れたと思うよ、警報結界、触覚探知、騒音探知・・・」
「うひゃ、声も出せなければ進入も厳しいじゃない」
ついでに扉を全快にしても危険だったわけだ。
「これだけの結界張れる人って一体?」
「向こうのご主人様かもしれないね」
コロナが割ってはいる。
確かに、昼間、ラセンブリアで相手を探していたときに急にかけられた転位と拘束の同時魔法、あれが可能なら、これだけの魔法も可能かもしれない。
「この結界の構造だけど、1つの結界に連結しているわ、
 触覚探知と騒音探知が反応すれば、騒音結界が反応して周りに知られることになるわ、
 逆に、この警報を解いてしまえば、残り二つの結界の反応を遅らせることが出来るかも」
「出来れば、全部解いて欲しいけど、無理?」
「結構複雑に出来ているのよ、残り時間を考えて2つが限界よ」
「なら、解くとしたら騒音結界と触覚探知ねシリー、決行時間まで10分しかない、お願いするわ」
シリーの結界除去作業が始まった。

その14 せいばーさん

タイムリミットは後10分・・・
やれるか?
いや、やってやる!

「アルヴァ・ヴィジャヤ(我、只思考するのみ)」
この言葉により、シリーのとっておきの能力が発動する

(多重思考、展開)

(結界術式解析開始・・・・構成術式、解明
『ゴルドンの猛犬(警報結界)』『森の蟲達(触覚探査)』『臆病な兎(騒音探知)』と判明)

(優先順位確定、結界の特性から兎と蟲を解呪するのが適当)

(解呪可能、及び結界認識阻害術式検索・・・ヒット、23件該当
この内上位結界魔法に耐えうる可能性がある物への絞込み開始・・
絞り込み完了、該当三件
『解呪法(マジック・ブレイカー)』・・・却下、強力だが魔力放出が激しく隠密には向かない
『図書館の悪戯妖精達(フェアリーズ・オブ・ライブラリー)』・・・精霊肉体憑依魔法、隠密行動性能Sランク、騒音探知に適当と判断
『浮遊法(エア・マジック)』・・・触覚探知に適当、だが浮くだけな為リスクが大きい)

(以上、記憶内に該当術式皆無、検索終了、多重思考閉鎖)

「ぶはぁ!疲れた・・・・」
「お疲れ、で、どうだった?」
「結界はいずれも上位魔法・・・『猛犬』に『蟲』!更には『兎』よ!?まったく、何者なのアノ人は・・・」
神に近い人ですがなにか?
「そう・・・何所までも凄いのねアノ人・・・
・・解呪は出来そう?」
「勿論可能、でもリスクが大きい
該当呪文は図書館の妖精と浮遊法」
「また随分と綱渡りね・・・」
「しょうがないよ、あれ程の術者に対しての対抗策があっただけもっけもんじゃない?」
「そうね・・・時間は後8分半!急ぎましょう!」
「うん!」

その15 娯楽人さん

「司書を起こさず悪戯しよう、フェアリー・オブ・ライブラリ!」
シリーが呪文を唱えると淡い光が三人を包み込む
「よしこれで……はいるわよ」
「注意してね壁に触ってもまずいから」
「分かってるよ」
「じゃあ……地の鎖から今解き放たれん、エアマジック!」
再び呪文を唱えると三人の足は床から数センチ浮きあがった
「よし…時間はあんまり無いから急ぐよ」

二つの呪文を使い三人が侵入しようとしていた頃……
「うぅ……う…?」
「気がついた?」
「ここは……えっ?」
眠っていた少女は目を覚ますと目の前の人物を見て驚いた
「鏡でも見てるみたい……」
「私もそう思うわよ」
「貴方は?…あえと私はルチアっていいます」
「ルチアね、私はルティ」
「えと……ここは?」
「ここ?ここはねセントモーリス伯爵邸の医務室よ」
「そうですか……そっか着いたんだ」
「?」
「あのっ……もしかしてここの警護に雇われた人ですか?」
「そうだけど…?」
「お願いです!あの子達を許してあげてくだ・・・ごほごほっ!」
「っ!無理しちゃダメ!ゆっくり落ち着きなさい!」
背中をさすりルチアを落ち着かせその後事のあらましを聞いた
「そう、つまりあの子達は貴方の病気を治すために?」
「はい……だからあの子達は悪くないんです悪いのは止められなかった私なんです…」
「……う〜ん」
ルティは悩んでいた先ほど調べた限りおそらくルチアの病気は意図的な呪いの類だろう
なら二つの疑問が沸く
一つはルチアに呪いをかけるメリットが少ない事
あの子達が窃盗して稼ぐ額もたかが知れているしそれなら政府や伯爵家を狙った方がいいからだ
もう一つは呪いのレベルの高さだ
単純に病に陥らせるだけならばこんな高度な呪いは必要ない
本当の意図は別にあるような気がする……
「ルティさん……?」
「ああ、ごめん少し考え事していたわ」
「そうですか……」
ともかくこの子とあの子達を放っては置けないわね

「やった♪案外ちょろかったね」
「何処が……3回ぐらいぶつかりそうになってたくせに」
「いいじゃない、無事通れたんだから…さていよいよお宝とご対面だよ…ってえぇ!?」
「なっ!?」
「嘘でしょ!?」
三人が仰天したのは無理も無い
何故なら本来アテナの涙が入っているはずのケースに
何も入ってなかったからである……

その16 ゲイトさん

「そんな、何で・・・」
コロナが愕然とする。
「シリーちゃん、セント・モーリスは確かに、ここにあるって言っていたのでしょ!!」
「その筈だよ、どうして・・・」
何故ここに無いのか、それすら検討が付かない、セント・モーリス自身が仕組んだ罠だったのだろうか。
だとすれば、シリーにとっては絶望的だ、望まぬ者に体を預け、情報を聞き出したのだ、それも、シリルと名乗って・・・
「ごめん、もしかしたら、あいつは、私がこの手で来るのを、初めから知っていたのかもしれない、私の予測不足だわ」
そう言って、シリーが気落ちしたときだった、3人の足がどんどん地面に近づいていく。
「シリーちゃん、駄目です、今貴方が落ち込んだら!!」
「足場が持たない!!」
ミリーが声を上げた瞬間だった、2人の願いは伝わらず、3人の足は、地面に付いた。
同時に、耳には聞こえない蟲が騒ぎ出す、その羽音は、猛犬を起こらせた、その怒りは、医務室にいるルティに響き渡った。

医務室では、ルティの元に獲物が掛かった音が響いていた。
昼間に3人を捕らえたのと同じ音である。
『かかった』
ルティは昼間と同じ魔法を使おうとした、だが同時に、ためらいが走った。
原因はルチアである、3人を許して欲しい、もし、自分がこの子と同じ立場なら同じ事を言うだろう。
だが、自分がためらえば、誰があの子達の犯した罪を裁く?
目の前には許しを願う子がベッドで私を見ている。
そして、ルティは本来の話とは、別の方法をとった。
「猛犬よ、目の前にいる者を、全ての者にさらけ出せ、アラーム!!」
言い切った、ルティ賭けに出た。
これで彼女たちの姿、居場所は、警官全員に伝わった。
本当は、前と同じバインドを張って、セント・モーリス卿の前につまみ出す予定だった。
でも、セント・モーリス卿の前に出せば、即刻死刑になるだろう。
ならば、ガードマン達よりも先に見つけ出して捕らえる、もはやこれしかなかった。
このように事情が変わるまでは。
「ルティさん・・・」
「あの子達を説得してみせる、絶対に」
ルティはそう誓って、医務室を出て行った。
『あの呪いが何なのか分からない、でも、今はあの3人を説得させる事が大事だわ』っと誓った。
「時間が無い、速くミリル達に合流しないと」

一方、シェルト率いるガードマン達は、助っ人達から聞いた連絡を聞きつけ、先輩達と突入の準備に掛かっていた。
「行くぞ、シェルト、遅れるなよ」
「はい、先輩」
シェルトの先輩がグラサンをかけなおす。
シェルトは、先輩の発言を聞いた後、腰に構えている銃を抜き取り、弾数を確認する。
いまどきの警官には珍しい実弾を使う銃だった。
「あれ、お前、魔銃じゃないのか?」
別のガードマンがシェルトの握っていた銃を指摘した。
「・・・・・・はい、魔銃はどうしても慣れなくて」
「リロード作業に時間が掛からないか、それに殺すために銃を振り回すんじゃないんだぞ?」
「いえ、空になったマガジンは直ぐに落として新しいマガジンを詰めるんですよ。
 それに、俺は、殺すなと言うのなら、致命傷は確実に外します、動けなくさせれば、良いのでしょ?」
ニヤっと微笑むシェルト、彼の手にある、ベレッタM92F、それが、彼の身を護り続けた愛銃だった。
館に突入の合図が来たとき、シェルトの眼つきが若干代わった。
シェルトのチームは、舞台の半分を外に残し、残りは館内に分散して突入した。

シェルト率いるガードマン、ルティ達、ミリー達。
本日0時を持って、3人の闘争戦が、今 始まった。

その17 娯楽人さん

保管庫への包囲は1分も掛からなかった
だが相手は多少なりとも魔術の心得を持っているため
うかつに手は出せなかった
「シェルト、準備は良いか?」
「いつでも良いですよ、先輩」
ガードマン達は全員戦闘準備を済ませ、相手の行動に備える
「よし、0時に突入速攻で確保だ」
「了解です……でも先輩」
「何だ?」
「あんな子達がどうしてこんな事をすると思いますか?」
「ん?そんなの金が欲しいからだろ?」
「それにしては急過ぎるんですよ、ましてやわざわざ予告状まで出して」
「一種のパフォーマンスだろ、余計な事考えず集中しろ」
「はい、…(どうにも納得出来ないな)」

その頃……
「さて早く行かないと」
「待って、私も連れてって」
「ダメよ、自分の体がどんな状態か分かってるの?」
「分かってる…だからこそ止めたいの」
ルティはルチアの目を見てため息混じりに
「はぁ……分かったわただ大人しくしててね?」
「は…はい!」
「地の鎖から今解き放たれん、エアマジック!」
「はわっ!?」
ルチアはベッドに座った体勢のまま空中に浮く
「じっとしててね、走らせると大変だし」
「は…はい……」
「じゃあ行くわよ、神の馬よ我に宿りて地を駆け巡れ、ソニックラン!(音速走行)」
ルティ達はすさまじいスピードで地下へ移動した
果たしてルティ達は間に合うのか?

その18 せいばーさん

アテナの涙をめぐって皆が争っている頃・・・

女子トイレ
「ふぅっ・・・・く」
パイプに縛られた手足
秘所の中で暴れまわるローター
「この・・・くぅ・・」
状況は最悪
麻痺薬でも盛られたのか、体はまったく言う事を聞かず
思考は靄が掛かったように曖昧
それなのに自分の股間は鋭い感覚を脳に送り続ける
声は出ない、否、出せるのだが単語を文にして構成し、口から発する事が出来ない
よって口から発せられるのはうめき声、そして喘ぎ声のみ
薬とローターの所為で思考が上手く回らない
それでも、自分の知識から言葉を封じる魔法を探し
解呪の方法を探す
「う・・・あ・・・ふぁっ!」
またイってしまった
この調子では解呪するどころではない
もしかしたら事が全て済んでから発見・・・?
「(ブンブン!)」
それだけは嫌だ
たかがローターとロープ相手に身動き一つ出来ず
そのまま哀れみの目で見られながらご主人様達に運ばれるのは出来れば、いや、絶対に御免被りたい
そう思っていると、沸々とトイレ脱出(笑)への気合が沸いてきた
「(このままじゃダメです!、ここから脱出してやるデスヨ!
そしてあのソックリさんをぶっ血KILLです!)」
背後に見えるは修羅
「むぉぉ・・・
こっこの手に来(きた)るは破戒の短剣!
拘束を無きものにす絶対の破戒!全てを破戒する魔女の短剣(ルールブレイカー)!」
目の前に歪な形をした短剣が現れ、ココナの胸に刺さる、だが痛みは無い、
元よりこれは破壊するものではなく“破戒する”もの、殺傷能力は無いのだ
「はぁ・・はぁ・・・くっあああっ!」
秘所からローターを抜こうとする
しかし、リモコン式ではなく電池内蔵型でローター自体にスイッチがついているものだと予想される
結果的にココナはローターを抜く為に自分の秘所を弄らなければならなかった
「ふぅ・・く・・と・・・取れた」
ハァ、と溜息を一つ
コレを取り出すのにまたイってしまった
よって股間は大洪水
「ふふ・・・ふふふふふふふふふ」
ココナが不気味に哂う
背中には白い悪魔
ココナは呪文を唱え始める
詠唱するのは、最近練習を始めた上位攻撃魔法
「・・この手に宿るは破壊の蛇、呪を飲ませ、この身に宿れ
“忍びよる無限の毒蛇(アンリミテッド・スニーキング・バイパーズ)”
追加呪詛、展開(サプリメント・マジック、オープン)
神代の誇り高き騎士よ、その鎧をもって、我を護れ
“神威の鎧(ゴルディアス・アーマー)”」
ココナの腕に幾何学の刺青のような物が浮かび上がり
肩の近くには水仙の花弁を思わせる二個一対の黄金の楯
「ちょっと・・・アタマ冷やしてもらわないとですね」
ココナの顔は、怖かった

その19 ゲイトさん

空っぽの倉庫前。

囮の倉庫に入っていった先遣隊の連絡が、シェルトの先輩に通信で伝わる。
『駄目だ、奴等、変な霧を撒いて逃げやがった、他の奴等は周りが見えなくて大混乱しています!!』
「そうか、その霧が晴れるまで下手に動くな、魔銃の誤射が起こらぬよう命令しておけ」
『了解!』
シェルトの先輩は、通信から手を離すと、シェルト含む、全員に命令した。
「奴等が来る、ここで待ち構えるぞ、いいか、モーリス卿は奴等を殺さず生かして連れて来いとの事だ。
 全員、放射機を雷に合わせろ、特にシェルト、お前は狙いを外せば致命傷にならん。 お前は足を狙え」
「了解!!」
シェルトは銃を構える。
医務室で休んでいるあの子の事も気になったが、今は、悪事を働いている3人を捕まえることが大事だ。
彼等を捕まえた後にでも、会いに行くことは出来る。
俺は、エースなんだ!! ・・・なんてな。
なんてふざけた事を考えていると、先輩から合図があった。
倉庫の作りが良い為、足音が結構響くのだ。
階段を駆け上がる音が聞こえる、やがて誰かが飛び出してきた。
「今だ!!」
先輩が声を上げた瞬間、一斉に魔銃から一筋の雷光が飛び出した者に発射される。
だが、唯一シェルトだけ、引き金を引かなかった。
「先輩!? 違います、あれは人じゃない!!」
だが、言うのが遅すぎた。
やがて、人でない物はそのまま降下していく、それが床に落ちて、ガードマン達がそれを見た。
だが、そこにあったのは、壊れた人形だった。
「なっ、どういうことだ!!」
一人の警官が人形に近づき叫んだ時だった。
彼の後ろに人の気配がした瞬間、彼は気を失った。
「こういうことだよ、ボケボケの警官!!」
声の主はミリーだった、警官が気絶した理由は、彼女が所持していたスタンガンだった。
「この野郎!!」
他の警官が撃てない魔銃を腰に戻し、雷撃棒を取り出してミリーに向かっていくが、
彼女の華麗な舞(動き)に誰もが付いていけず次々と倒されていく。
「くそっ」
思わず舌打ちまでもするシェルトの先輩だった。
「もう終わり? 面白くない、行くよ、コロナ!!」
「はい!」
ミリーに続いてもう一人の少女が、落ち込んで動くことの出来ない少女を抱えて飛び出す。
「逃がすか!!」
シェルトの先輩が飛びつくが、後一歩届かず逃げられてしまった。
「甘い甘い、瞬動術に追いつけるわけ無いじゃない」
「くそ」
そのままミリーを追い抜いて走り去るコロナ。
「ミリーさんも速く」
「うん」
そう言って、コロナを振り向いた時だった。
「今だ!!」
シェルトが引き金を引く。
「えっ?」
一瞬だった、シェルトの引いた銃は見事にミリーの足を捕らえた。
ほとんどが魔法の銃だったため、銃の中にある魔力を消してしまえば怖くないと思った。
だが、実弾を使っている相手がいるまでは予想が付かなかった。
「うわあああああ〜〜〜〜」
「ミリーさん!!」
「あっ足が・・・」
そう言って、その場で倒れるミリー、撃たれた部分の足を押さえ、その痛みに耐え続けている。
倒れたミリーに向かって、何人かの警官が向かっていく。
このままだと3人とも捕まってしまう、ミリーは痛みに耐えながら、コロナに再度瞬動術をかけた。
「ミリーさん!?」
突然の出来事に驚きを隠せないコロナ。
「コロナ、私は良いから貴方は逃げて!!」
「でもそれじゃあ」
「大丈夫、絶対にコロナのところに行くから、今は逃げて〜!!」
左右から再び雷光が飛んでくる、コロナは、悔しさをかみ締めつつ、そこから奥へ逃げ込んだ。
『ミリーさん、必ず・・・』
走り去るコロナを見も守りつつ、ミリーは目を瞑った。
「衛生兵を呼べ、それと、厳重なバインドでこの子を拘束しろ、シェルト、お前は逃げた二人を追え」
「えっでも」
「ここは任せろ、ダウンした兵も見てやらなきゃならんのだ、今の判断と狙いの正確さ、それを見込んで命令しているんだ、早く行け!!」
「はい!!」
シェルトは後を追う、逃げた2人を追って

一方、入り組んだ道を曲がって逃げ間わった、コロナはと言うと。
「はあ、はあ、ここまでくれば少しは安全でしょう」
瞬動術の効果もあってか、何とか警官を振り払ったコロナ。
それと同時に、背中からすすり泣く声が聞こえた」
「シリーさん」
「コロナ、予感が・・・当たっちゃった・・・ねぇ、どうしよう・・・」
「・・・・」
言葉が出ない、いや、かけられなかった。
今までの、どの作戦でも、失敗は無かった。
失敗しても、全員無傷で脱出できた。 
なのに今回は最悪の結果だ。
おそらく、もう外は駄目だろう。
私達が出られないよう結界が張られているかもしれない。
ばれた時間、逃げる為の時間の短さ、それらの答えが、コロナの精神を蝕んでいた。
「ねぇ、コロナちゃん、とりあえず、降ろして」
「あっ、はい」
そう言ってコロナは腰を落とす。
「これから、どうしましょう?」
そうシリーに声をかけた瞬間だった。
「!? コロナちゃん、危ない!!」
「え?」
コロナが惚けた声を出した瞬間だった。
コロナの体に鎖が何十にも撒きつく、そしてコロナの体をぐいぐいと締め付けた。
「きゃあ!!」
「コロナちゃん!?」
「見つけましたよ、散々私をおトイレでやりたい放題やってくれましたね」
「・・・コロナちゃんの、そっくりさん!?」
「あんた、どうやって?」
二人の後ろから攻撃した正体、それはココナだった。
それも、普段ココナは着るような服ではなく、どこか、戦闘服のような感じに思えた。
「うふふ、どうしてあげましょうか?」
ココナが微笑む、かつての魔王のように・・・
「シリーさん、貴女だけでも逃げて、彼女の狙いは私ですから」
「でも、それじゃコロナちゃんが」
二人に会話させまいと、鎖思いっきり引っ張り、シリーから、コロナを引き離す
「ぐっ・・・速く・・・逃げて・・・」

その20 Y-0さん

「そこを動くな!」
「誰!?」
シリーがスッと外の方に振り向くと
「なんとか間に合ったさ…」
カツ…カツ… 銃を持ちながら近付いてくる謎の影…
もう一つの手に持っている縄をシリーに投げ、一気に巻きつけた グイッ
「くっ!」「キミとあともう一人はボクが警官に送りつけるよ
とりあえず…」
そう言ってココナの方に向かって
「その子をこっちに渡してもらおうか…」
その言葉にココナは「フッ」と吹いた
「あなた、誰ですか?、何のつもりで…
「いいから渡せと言っているんだ!、打つぞ!!」
そう言って謎の影はココナに銃を向けた

……しばらく沈黙が続き、ココナは断念したかのようにコロナを放り投げた
ドサッ!「くっ げほっげほっ!」「大丈夫?」
心配そうにシリーが問う 「はい…」
謎の影はコロナが解放されるのを確認すると、銃をしまい、コロナをシリーの床へ近付けた
ココナは言った
「何のつもりで私のそっくりさんを解放させたのかは分かりませんが
邪魔された限りは…あなたから消さなければなりませんね…」
「なにぃ? ボクを消すぅ!? あっははははははは!!!」
突然の殺気の言葉に謎の影は狂ったかのように笑い叫んだ
「面白い事言ってくれるじゃないか!!、生みの親はキミなのに!!?」
「生みの親…ですって…!」
「じゃあなんでボクが「こんな姿」になっている上でキミがそいつの親なのか教えてあげるよ
キミがトイレで何かしれかしている時に、その力で目では見えない「闇」が犯され、キミがトイレから去った後に「そいつ」は『闇の心を滅ぼし者』になってしまったのさ!
そいつがこのボクだっ!!
……それでボクは、キミの心のどこかにある「闇の心」を滅ぼしに、ここまで追って来たって訳さ!!」
そう言って『闇の心を滅ぼし者』と言う謎の影は名乗った
「ボクの名前は「ダークブレイカー・D・Y-0」、肉食動物のオオカミ女さ!!
今からキミをこの剣で…闇の心を…壊すっ!!」
「…フ、態々説明おつかれさまです
でも…」
ココナは右手を開き、その手から剣を召喚し、更に先を確信したかのような言葉を発した
「あなたの力では…私は倒せませんよっ!!」
「あっはははははは!!それはどーかな!?」

その21 せいばーさん

「あっはははははは!!それはどーかな!?」
自らをココナの影と言った彼女―『ダークブレイカー・D・Y-O』は高らかに笑う
「君の影であるボクは君の『説明長ぇーよ!』ぶべらっ!?」
相当イラついていたのかココナは持っていた剣をダーク(以下略)にブン投げる
「何をするんだ!まだ説明が『だから長いんじゃー!こちとら忙しいのです!
貴方の相手なんかしている場合では無いのですよ!
取り合えず死んでください!
術式解放(リレイス)!“忍びよる無限の毒蛇”!」
ココナの手から漆黒の毒蛇達が得物に向かって飛んでゆく
「ふん!この程度で・・・っ!
術式解放!“忍びよる無限の毒蛇”!」
「なっ!?」
同じ術同士がぶつかり合い、相殺される
「何故・・・?」
ココナは驚いた、なにせ目の前の敵が自分と寸分違わぬ魔法を繰り出しているのだから
「だから言っただろう!?ボクは君の影だって・・・
君が使える魔法を影であるボクが使えない訳無いだろう?」
成る程・・・影か、確かに私の闇であるアイツならば
私が使える魔法を使えて当然・・・・・・・それなら
「貴方は・・・さっき生まれたって言いましたよね?」
「ああ、言ったが?」
「ならこれはどうです?
聖地を護りし剣霊200柱!戦場に轟くは、勝利への剣勢」
使える呪文がダメなら、今新しい呪文を“作ればいい”

「なっ!?新呪文の構築!?馬鹿な!
そんなことが出来る訳・・・」
『なに言ってるの・・・?』
「その身は敵(かたき)に向かい、敵を切り裂け」
『私が作るって言ったら無理にでも作るよ』
“剣神の裁き”!」
虚空に無数の剣が現れ、矛先がダーク(以下略)に向かう
「ま、待った!人の話は良く聞いて・・」
「五月蝿い!」
「ひぃっ!」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「・・神に祈る時間をやろう」
「ふっ、生憎と祈るべきカミサマがってギャァァァァァァァァァァッ!?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!
轟音を立てて剣がダーク(以下略)に向かって飛んでくる
最後に見たのは、顔を青くしている少女と、剣の軍勢だった

その22 Y-0さん

「くっ…な…そんな…確かに…ヤツは…消したはずじゃ…」
しかし、ココナの身は重傷を負っていた ココナのいる空間からから邪笑声が響いた
「あっはははははは!!、だから待てと言ったじゃないか!!」
「…なぜ…!?」
「例え新しい魔法を使ってボクを撃退したとしても、「闇の心」を持っている者がいる限り
キミの影であるボクを消したと同時にその「闇の心」を持つ者が怪我を負うハメになるのさ!!」
「う…ウソだ……ま…まだ私には…グッ!…目的が…」
「ウソじゃないよ…本当だよ…」「…!」
「あーあ、やっちゃったー、もうボク知ーらない、説明を最後まで聞いていれば
君のその「目的」と言うものも、ボクがかわりにやってあげるのに…
あー言えばこー言う、ボクは知らないな、これでキミの目的も「闇の心」も消えて……ん?」
「はぁ…ッはぁ……うるさい…です…別に……あなたなんかに……」
D.Y-0が色々喋っている内にココナは自分の受けた傷口を押さえ、耐えていた
「あっははー!、なになに?、それでも抵抗するつもり!?、ムダムダ!、もう遅いよ!!
そうだ!かわりにいい事教えておくよ!、君がその黒い心から解放できる作方を!!」
「そんなの…い…いらない…!……余計な…お世話ですっ」
しかし、D.Y-0は
「まぁそんな事言わずに聞いてよ…そのままの姿でいたりすると……君の知っている人がみんな哀しんじゃうよ?」
「!?」ココナの脳裏で、かつての仲間だった者の姿が浮かび出した
「……シリルちゃん……ミリルさん?……ごじゅじん…さま?…」
「ボクが消えると同時に「闇」も「黒い心」も消えれば
身体反応が起きて傷一つない「正常」な姿に戻る事と、「普通の性格」に戻る事
悪い話じゃないだろう?」
「…………」
ココナは悔し涙を流した
今の事態のまま下手に魔法を使って相手を空間から激除してしまえば
当然自分もその力で間違いなく死んでしまう
「う……うぅ…くぅっ!」
ココナは傷口を強く押さえ、泣きながらも怒りに震える
「さて…」D.Y-0は発言と共に、ココナの目の前に闇の零体とされた上半身姿を表にした
そしてココナの顔に指を至近距離に近づけ
「ボクの力でキミの傷や心を癒してあげよう、そのかわりに
しばらくキミにはその『ご主人様』に見つかるまで、しばらく眠ってもらう」そう言ってD.Y-0は呟いた
「さあ…目を覚ませ…目を覚ませ…今キミの本来の心を…覚ますんだ…
ボクは……もうすぐ…死ぬ……ボクが死ねば……キミの心にある「闇」も…影も…消える……
汝のあるべき精神も……みんな……全て……目覚めよ……!!」
そしてD.Y-0の言葉についに恐れたココナは
「い……イヤ……やめて……」
―ダァァァ――――――――――!!!―
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

……その後、ココナは『ダークブレイカー・D・Y-0』の発言通り、元の姿に戻り
倒れていた
そこにはもう…『闇の心を滅ぼし者』と言う者は……いない

コロナとミリーは、ただずっとその場を離れないでいた…。

その23 ゲイトさん

ココナの闇が落ち着いた頃、3人を探しているルティの方にも、異変が起きていた。
『いそがないと…』
尚もスピードを落とさずに進むルティ、その時、ルティが抱えていた少女、ルチアが小さく声を上げた。
「この、闇は、私と同じ、だめ、彼に惑わされてはいけない。 心の闇を自分で抑え込んではだめ、私と同じ病が…ゲホ、ゴホ」
「ちょっと、しっかり!?」
流石に焦りを隠せないルティ、ちょうど、十字路の道に出たときだった。
「きゃ!?」
突然誰かとぶつかる、その拍子にルチアも投げ出されてしまった。
「うわっ、もうどこ見て歩いているのさってルティちゃん?」
「ミリル!?」
なんと、ルティの速度でぶつかってきたのはミリルだったのだ。
もっとも、ルティの速度でぶつかれば、跳ね飛ばす勢いでもあるのだろうが、そこは体の作りの違いというべきか。
だが、そこにいるのはミリルだけで、シリルの姿はなかった。
「ちょっと待って、シリルはどうしたの?」
ルティが問い詰める。
「そうだ、ルティちゃん、シリルちゃんが大変なの!!」
「おっ落ち着いて、私の体揺らしても大変なことは収まらないからぁ〜」
ミリルは、ルティの体を揺さぶるのをやめ、ルティとぶつかる前の出来事を話し出した。
ミリル達がルティの連絡を聞いた後、倉庫の方へ向かっていた時だった。
突然警官の声が聞こえたかと思うと電光がミリルの左右から飛んでくる。
だが、ミリルは狙われず、しつこくシリルを狙い続ける。
やがてシリルの足に雷光が被弾した。
足が痺れて動けないシリルを包囲し、捕獲にかかる警官達。
何故シリルだけを狙うのか、何故私を含めて狙わなかったのかを警官に聞くと、既にお前に似たほうは捕まえた。
後は、この子と、犬耳の子だけという事だった。
ミリルは必死にその子は怪盗の方じゃないのだと説得したのだが、その前にセント・モーリス卿の身に何かあったらしく。
セント・モーリスに危害を仕掛けたのはこの子だというのだ。
つまり、シリル似の子がセント・モーリスに何かしたということだ。
怪盗であれそうでないであれ、連れて行けば分かると言ってミリルの言葉を聴く耳持たなかったのだ。
「それでシリルはどうしたの?」
「シリルちゃんは、自分で疑いを晴らすからルティちゃんの所か倉庫に急いでって」
「・・・・・・見捨てたの?」
その一言にミリルは怒りを感じた。
「見捨ててなんかいない、私は最後までシリルを守ろうとした、でも、警官を殴るわけにもいかない、
ルティちゃん、私、どうしたら良いの? 私、シリルを助けたいの・・・」
ミリルは頭を下げて瞳から涙を零す。
妹を救えなかった悔しさが、彼女を蝕んだのだ。
酷いカマのかけ方だが、シリルの事を疑い掛ければ一番に食って掛かるのはミリルだ。
申し訳なさそうに思いながら、ミリルだという確証を得た。
しかし、こんな事を言ったルティの方は、答えに戸惑っていた。
今シリルを救いに行ったら何か取り返しの付かない事が起こりそうだったからだ。
かと言ってミリル一人にセント・モーリスのところに行かせれば、殴っててもシリルの無罪を了承させようとするだろう。
だからと言って、先に捕らわれているシリルを助けても、そいつが、怪盗だったらそれこそ洒落にならない。
苦渋迫るルティが決断した答えはこうだった。
「・・・・・・ミリル、シリルの事なんだけど、今は・・・我慢して」
「え?」
息を殺すように言ったルティ、ルティの顔は髪に隠れて見えない。
おそらく、悔しいのかもしれない。
ここまで怪盗に弄ばれている事が、自分の思うように行かないことが。
「今は・・・残り二人を探しましょう、ミリルちゃんが言うように、捕まったのがシリルなら、本当の犯人を捕まえれば助け出せるから・・・それに、・・・だし」
「え?、ルティちゃん、今の部分聞こえないんだけど」
聞こえなかったのではない、聞こえないように言ったのだ。
無理もない、怪盗側も助けたいからなんて声が大きくても言いたくない、言えるわけがないのだ。
旅行を怪盗達に丸々潰されて、その腹いせに怪盗達を捕まえる。
でも、今はその怪盗達をも助けようとしている。
そんな事、今話したら、ルティ達の中で何かが壊れる、それを恐れて声が小さくなったのだ。
ルティは、ミリルが聞こえないと言っているのに、それを無視して、言葉を続けた。
「だから、お願い、ミリル・・・」
今までの黒い姿はどこえやら、今のルティは、一つ一つの事柄を片付けていくことで精一杯だった。
そのせいか、失敗は自分のせいと、心に押し付けてしまっていた。 
そんなつらい感情を用いていながら言葉を続けるルティ。
「それに、あの子の事も、救わないと・・・」
ルティが後ろを向いて倒れている子を見つめる。
その後、ルティは何も言わず、その子を見続けている。
流石に倒れている子が気になったミリルが倒れている子の方へ向かい、顔を見る。
顔を見た瞬間、ミリルは驚きを隠せなかった。
「ルティちゃん、双子だったの?」
こんな状況で冗談を言ってのけるミリル、多少の強がりなのかもしれない。
「違うわ、その子があの3人が怪盗をし続ける理由よ」
ルティはルチアの事をミリルに説明した。
「そう言う事、でも何故この子に呪いが? 2重誓約でも、そんな模様は出ないよ?」
「そうなの、私も良く分からない、何の呪いなのか・・・
 とにかくここでじっとしててもしょうがないわ、急いで倉庫に」
「その子を医務室から連れ出して危険なところまで運んで何をするつもりですか?」
「「!?」」
二人が声の方を向く、そこには、ベレッタM92Fの銃口をルティ達に向けているシェルトの姿があった。

その24 娯楽人さん

「貴方は?」
「あ……もしかして私を助けてくれた方ですか……?」
「えっ……は、はいそうですが」
「良かった……お礼を言おうと思っていたので……ありがとうございます」
「いや、こちらこそ……」
「(……なんていうKY、でも好都合ね)事情を話していいかしら?」
「……その子に危害を加えたわけではなさそうですね、いいでしょう」
そういうと警備服の男は銃を下ろした
そして、ルチアの事と現在この屋敷に居る三人の事を説明した
「……ならあの子達はルチアさんの為に?」
「そういう事……彼女達も被害者ってわけ」
「……信じましょう、貴女の瞳に悪意は無さそうだ」
「それでどうするの?ルティちゃん」
そう問題はこれからだったシェルトの協力により
ミリーは既に捕まってる事が判明した
そうなるとミリーを救助する必要も出てくるわけで
「二手に別れましょ、多分セント・モーリスのとこに連れて行かれるはずだからそっちはミリルちゃんとシェルトさんお願い」
「了解!あくまでシリルのついでだからね?」
「ルティさん、ルチアさんを頼みましたよでは……」
「……シェルトさん……気をつけて下さい」
「分かってますよ、大丈夫ルチアさんにまた会うために無茶はしません」
「はい……///////」
「(……分かりやすい二人ね)じゃあ作戦開始ね!」

こうしてシリル、ミリー救助チームとココア、シリー捕獲チームに分かれたのであった

その頃……
「くっくっく、ワシをたばかりおって……その体で代償を払ってもらおうか……」
「みゅ……助けて……いや、こないで下さい……」
シリルには変態おやじの魔の手が迫っていた……

その25 せいばーさん

『俎板の上の鯉』という言葉がある
手も足も出ない的な意味の筈だが(注・コレは作者のうろ覚えです)
まさにシリルの現在の状況を表すにはピッタリの言葉がそれだった
正確には『寝具の上の猫耳幼女』だが

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!!!
マズイですって、色々と
主に私の貞操がっ!
え?今まで散々奪われたじゃないかって?
アレは人外なのでカウントしません
私には心の処女膜g(ry
てゆーかこの変態爺・・・・もといモーリスさん目が血走ってます!
コレはアレですか?俗に言うロリコンですか?
私はこんな間近で見ると油ギッシュなオッサンと■■■(都合により消去しました)したくないです!
こんな人とヤるぐらいなら私は姉妹丼を(ry
なんて言ってる場合じゃないです!
今はこの人をどうするか・・・・
「ふむ・・・体は幼いが・・・娼館に売って教育すれば何とかなるか」
「―!」
「まぁそう怖がるな、なぁに、一度ヤってみればハマるさ
どれ、ワシが味見を・・・」
本格的にヤバイです
貞操ってゆーか今後の人生の危機です
あぁ!脱がすな!ぱんつ下ろすなこのロリコン!
「や・・止めてください!」
「止めろと言われてものう・・・ホレ」
モーリスは曝け出されたシリルの秘所をそっとなぞる
「ふぁっ・・・」
なぞられると同時に、シリルをなんとも言えない、むず痒い様な感覚が襲う
「ホレホレww」
「くっ・・・ふぅっ・・・」
同じ場所を何度も、力の入れ具合等を変えつつ弄るモーリス
その何度も娼館の女を抱いて慣れきった指使いでシリルに快感を送り続ける
だが、それは決して絶頂に達する物ではなく、じれったい
陰湿な責めだった
「・・・・・ぉぉぉ」
「・・ん?気のせいか・・・それよりも・・・」
「あっ・・ああ!」
幾度も焦らした上での指の挿入
それはシリルが心のどこかで望んだ悦楽であり
シリルが否定していた感覚
イキたいけど、イキたくない
その矛盾の中で、シリルは悶えていた
「・・・ぉぉぉぉぉぉぉぉおお」
「なんだ?さっきから・・・おい!静かにはむらびっっっ!!」
『静かにしろ』そう言うつもりだったのだろう
だがそれは某ブラボーな人の技により良く判らない叫びに変わった
『流☆星!ブ●ボォォォォォォォォッッ!!!キィィィィィィッックッッ!!!』
ミリルが『真赤なぁぁ誓いぃぃぃぃ』の漫画のキャラクターに猛烈に惚れ込み
必死の練習の元完成させたのがこの技である
普通なら瀕死の重傷を負ってもおかしくないこの技を
顔面に受けて尚立ち上がるモーリスはある意味超人かもしれない
「なっ・・・何をするかァァァァッ!?
お昼のパスタが口からピュルっと飛び出す所だったわ!」
「人の妹に手を出しておいて言える言葉かァァァァァァッッ!
問答無用!気絶するまで殴る!」
「おぶっごぶらっ!」
目を背けているシェルトの後ろではミリーが顔を青くして絶句していた

何故ここにミリーがいるのか?
それは治療を受けつつも拘束されていた部屋から
ミリルとシェルトがサーチ&デストロ・・・もとい強奪してきたのである
シェルトが外の見張りを隙を見てスタンガンで気絶させ
ミリルがダイ・●ードばりのアクションで
『えぇ〜い、チクショウめぃ〜(CV:B.V』とか言わなかったけど
ダクトを這って部屋に侵入し
中の見張りをフルボッコの後にミリーを奪取
部屋の外に連れ去った
この間、実に1分!
という訳である

「あの〜・・」
「あん!?なによ!」
「その人そろそろ死んじゃう・・・」
「あ(汗」
ミリー視線の先、そこには顔を酷く腫れさせたモーリス卿の姿があった

その26 娯楽人さん

キモデブ公爵をフルボッコにしたミリル達は
意識を取り戻す前にその場を後にした
とにかくルティと合流するため事前に決めておいた
屋敷のとある部屋に向かう
途中、幾度か警備の人間に引き止められたが
シェルトの協力により何度も難を逃れた

「ふぅ……ってここ医務室?」
「まあ医師も居ませんし隠れ場所にも最適ですしそれに……まだ君の傷は治ってないだろう?」
シェルトの視線の先のミリーは思わず顔をしかめる
「……仕方なくついて来たけどどうする気?」
「治療もしたいからねほら傷を見せて」
「触るなっ……それにお前がつけた傷だろう」
「だからこそ治したいんだ……だめかい?」
「……痛くしたら殴るからな」
「うん、了解」

「何だか妙な光景だね……」
「みゅ〜……////」
「何でシリルが顔赤くしてるの……」
こうして救助は成功和やかな空気が流れた

一方、ルティは……
「無駄に広いわね……」
「……コロネ達……迷子になってないといいけど」
「(緊張感って言葉しってるのかしらこの子……?)」
「シェルトさん……無事でしょうか……」
「大丈夫でしょ…?さっきから何か持ってるけどそれは?」
「あっこれは大切なお守りです……小さい頃母から貰ったものなんですよ」
「ふーん(何処かで見覚えある紋章ね……どこだったかしら?)」
ルチアが持っていた首飾りには青き目の竜があしらわれていた
それを大事そうに握りながら……若干震えていた
「(この子なりに緊張してるのね……)」

その頃……
「……はっ!?……うにぃ?」
ココナは目が覚めたが…
「ここ何処ですか〜〜〜!(泣」
ただでさえ方向音痴なココナな上に意識が飛んでた為
100%迷う状況が出来ましたとさ……

その27 ゲイトさん

ポカッ!!
「痛いです!?」
混乱しているココナに軽く拳骨が頭に落ちてきた。
「一人で事を進めて混乱してどうするの?」
「いたた、って私のそっくりさん!?」
思わずどきっとした、目の前には、縄で縛られているシリーと、腕組んでココナを見つめるコロナの姿があった。
「えっと、何でここにそっくりさんが?」
「はあ? 今までの事、覚えてないの?」
「うにぃ〜」
情けない声を出すココナ、とりあえず、そっくりさんを見つけて、武装で捕獲したのは覚えていた。
しかし、それ以降、何か黒い影に何かされて、それ以降は覚えていなかった。
そんな記憶も浅はかだと言うのにコロナは質問を続けた。
「あんた、黒い奴を取り込んだみたいだけど、大丈夫なの?」
「黒い奴?」
「・・・本当に何も覚えてないの?」
こくりと頷くココナ、不思議に思った二人だった。
「ねぇ、今私達だけしかいないから少しだけ話を聞いてくれる?」
「うに?」
首をかしげたココナ、コロナは今までの事を、なるべく簡潔に説明した。
今、自分たちだけではどうしようもない、それに、さっきの武装魔法をうまく利用すればミリーちゃんを救える、そう思って切り出した話だった。
「それじゃあ、貴方達が宝石を狙ったのは・・・」
「そう、ここに住む人を懲らしめるため、それに、このセント・モーリスは私達のような少女を平気で食らう人よ、
 貴族って顔をしているけど、裏では何をしているのか分からないんだから」
半分正しいことを言っているが半分は嘘だ。
懲らしめる?そんなのはどうでも良い、目的はアテネの涙を奪ってルチアの治療費に当てたいだけ。
確かに悪事を働いて民衆たちを困らせている貴族は良く狙ってたけどね、でもそれはそうやって悪行して手に入れたお金を有効活用させてもらうため
そいつらを狙うのが一番お金を手に入れやすかったからだ。
「だからお願い、私の友達も今、何されてるか分からない、お願い、貴方のその力で私を助けて、貴方達を利用してたのは謝るから」
半分ネコ被ってのお願い、利用する者にすがるのは少々気が抜けるがこれは我慢するしかない、そう思った。
それを聞いたココナも理解した。
何処かの少女が怪盗になって奪われた物を取り戻す、それが彼女達のやって来た事なんだと、信じ込んでしまった。
「分かりました、出来る限りでお手伝いします、でも私の武装魔法はそんなに強くないです、ご主人様なら力になってくれるかも」
「なら、貴方の主人を探しましょう、そうと決まればシリーの縄を解いて・・・」
話に夢中で今気づく、そこにシリーはいない、目の前には、警察達がずらりとそろっていた。
それだけではない、シリーはその警察に捕まっていた。
解かなかった縄が仇となったのである。
「シリーちゃん!?」
コロナが叫ぶ。
「大人しくしていろ、じっとしていれば麻酔弾だけで住む、あの子みたく足を射抜かれたくなかったらな」
警察の太い声が聞こえる、シェルトの先輩の声だった。
「バルト、今連絡が入った、猫耳の子は捕らえたが判別付かず、3人とも捕まえろとのことです」
シェルトの先輩、本名、バルトは部下の報告を聞きいれると、部下に銃を構える合図をだした。
シリーが人質にとられ、身動き取れないココナとコロナ。
だが、コロナは警察に聞こえないように小さな声を上げた。
「あんた、ココナだったよね、名前?」
「うに? そうですけど」
「今のうちに教えとく、私はコロナ、1字違いね」
「何でこんな時に自己紹介を?」
「アンタ呼びしたくないから、良いココナ、もし、私を捕まえた鎖が出せるならそれでシリーを抑えている警官に向かって投げて」
「うに!? それじゃああの人を殺してしまいます」
「お友達を失うのと関係の無い人を失うのとどっちがいい?」
なんという苦渋の選択、ココナは本望ではないが、あんまり力をいれずに鎖を呼び出す。
そして、シリーの縄を持つ警官に向かって投げつけた。
鎖は勢い良く飛び出し、警官に向かう。
警官の意表を付き、これでシリーの縄が警官の手から離れる・・・はずだった。
だが、鎖は警察に届かず、それどころか、途中でヘナヘナと沈んでいく。
「ほう、なかなか面白い事をするな」
ニヤニヤと笑うバルト、他の警官も、鎖を投げられた警官以外、クスクスと笑う。
「何で、途中でやめんのよ!!  ってアンタ!?」
コロナがココナを見たとき、ココナは倒れていた。
そして、物凄い息切れと、変な咳をしていた。
「ちょっと、しっかり!?」
流石にあの子の様子だけおかしいと判断したバルトは、警官にまだ動ける犬耳少女の方だけを捕獲、もう一人の弱っている方は俺がやると指示し警官たちを行動させた。
その結果コロナはココナから引き離され、シリー達と共に何処かへつれてかれてしまった。
「離せ、離して、嫌だ、こんな終わり方、嫌だ、ルチアや皆と暮らせなくなるなんて・・・いやだああああ〜〜」
叫び声だけが木霊する、シリーはコロナの声を聞きながら、シクシクと泣いていた。
一方残されたココナとバルトと一部の部下、バルトはココナのおでこに手を当てる。
「なんて高熱だ、しかし、これはもしや・・・」
何かを感じたのか、銃のコマンドを変え、自らの頭に銃口を向け、打ち抜いた。
不思議なことに、頭から血は出ず、変わりに銃口の反対側から何かが弾けた。
「くっ」
少し頭をくらっと揺れ、目が歪んだ。それと同時に目の色が変わった。
グラサン越しでどんな目になっているのかは不明だが、何をも見通せる目になっていた。
その状態で、バルトは、徐にココナの上着を持ち上げる。
「ちょっ、バルトさん何やってんすか!?」
「黙れ!!」
バルトは部下を黙らせると、ココナの体を見る、回りの連中から見ればただの裸だが、バルトの目には違うものが見えていた。
ルチアとは違うが、体の一部分に黒い模様が浮かび上がる。
「邪念の呪いか・・・」
バルトがぽつりと言う、邪念の呪い、それは、『闇の心を滅ぼし者』が残した、ルチアの呪いと同じ、闇の心を呪う呪いだった。

そして、連れて行かれる二人と入れ違いで、ルティ達がココナの様子をみるバルトのところにたどりついた。
ルティが近づくと同時にバルトの二人の部下がルティに銃口を向けた。

その28 せいばーさん

「・・・・いきなりレディに銃を向けるなんて、野蛮な人達ね」
バルトの部下は以前、ルティに銃を向けたままだ
背中に背負っているルチアは銃を向けられた事に驚いているのか
体が震えている
「済まないな、こちら側も状況が混乱していてね
あんただって、さっきまでの本物さんとは違う可能性だって否定できんのさ」
「そう、それよりウチの連れの服脱がしてナニしようってのかしら?
見た目と違って幼女性愛者なのかしら?」
ルティは顔を顰めたままバルトをいびる
バルトはばつが悪そうに問いに答えた
「期待にそぐわない様で悪いが、答えはNOだ
アンタに見えてるかなんてのは知らないが
この子、相当強力な呪が掛けられている様だぜ?」
「!?・・・・・この子と同じ呪い・・・っ!」
「・・・・」
遠目から見てもココナの状態がマトモじゃない事は一目瞭然だった
息は荒く、時々苦しそうに咳き込んでいる
それはルチアと全く同じ症状だった
「魔法に関して俺はちっと齧っただけの素人だが、
その素人目で見てもこの子が洒落た服着てダンスを踊れる様な状態には見えない
そうだろう?ベテランのマジックユーザーのアンタならその位分かるはずだ
だからさっさと無詠唱呪文を解除してくれ
此方の精神が持たん」
「・・・」
ルティは万が一の為に用意しておいた無詠唱呪文を解除する
どうやら只の素人では無さそうだ
「今の俺の目は特別製でね
魔法に関する事・・・何らかの意図で魔力が込められた物は簡単に選別する事が出来る
勿論、アンタの呪文の特製とかもな
とエラそうな事言っても5分しか展開できんし
使った次の日は頭痛と生理痛というオマケ付だ」
「なんで生理痛!?アンタ男でしょうが!」
「漢(おとこ)には語れない過去と言うものが一つや二つ位あるものだ」
「男には生涯必要無いものな気がするけどね!」

その29 娯楽人さん

とくだらないやり取りをやっている間にいつの間にかルチアはココナのすぐ側に居た
「この子、ルティさんの家族なんですよね?」
「そうよ」
「今ならまだ……」
そう言うとルチアはココナの服をまくり上げ素肌に触れる
「お嬢ちゃん、何する気だ? その呪いはハイ・スペル(上級呪文)でも解けない代物だお嬢ちゃんの手には……」
「黙っててください」
「む……」
その余りにもドスの利いた声に一瞬たじろぐバルト
ルティもその変容に困惑していた
「ルチア何を?」
「恩返しです」
そう言うとルチアの体がゆっくりと青く光り始めた
「本来無き咎よ、我が身に宿りて贄とせよ……ワール!"転移"」
ルチアがそう唱えると床に横たわったココナも同じように光り始めその光がゆっくりとルチアの体に吸い込まれていった
光が収まった時にはココナの体の模様は綺麗に消えていたた
「……驚いた、まさかルチアは呪代なの?」
「はい……私は呪代です」
「はぁ?どういうことだ?」
「呪代は本来呪いを受けた人から呪いを肩代わりする人形の事、でも複雑化した呪いには無力なのそれでより人間に近い呪代を造り出した……」
「……ホムンクルスか?」
「そうです……私は人間じゃありません、造られし者ホムンクルスです」

その30 せいばーさん

「人造人間・・・か、確か何十年も前に人道上の問題有りで禁止された筈だけど」
「禁止されても需要のあるモンは法を掻い潜って作られる
 麻薬とかが良い例だな
 ホムンクルスもその内の一つだ
 毎年摘発が絶えん」
「この街でも?」
「ああ、こんな街だからこそ、だ
 木を隠すにゃ森の中・・・ってな
 ここまで人が多くて、搬入されるブツが多いと違法なモンも摘発され難いからな
 大都市ってのは総じて犯罪の温床に成り易い
 この屋敷のオーナーみたいな奴がいると余計にな
 依頼を受けたんでどんな奴かと思って調べてみたら
 出るわ出るわ違法風俗に密輸出密輸入の数々・・
 しかもしっかり警備員まで買収してたりするもんだから
 中々見つからんし、万が一見つかっても全部賄賂で潰されたがな」
苦虫を噛み潰したかのような顔をするバルト
仮にも警察である彼にとって、我が組織の上層部と犯罪者と関わりが許せないのだろう
「話しは変わるけど、要するにあの子達は貴方に掛かってる呪を解く為に盗みを?」
「そうゆう事になります
 あの子達が私に尽くしてくれる気持ちは嬉しい・・・
 けど、こんな事やってて良い筈が無い
 私が止めなくちゃいけないんです・・・」

その31 ゲイトさん

「で、でも…」
ルチアの正体を聞いた直後に、ココナが起き上がろうとしながら口を開いた。
「ココナ、大丈夫!?」
立ち上がろうとするココナの傍によるココナ、ココナは少しフラっとしたがルティに支えられ、なんとか立ち上がった。
「大丈夫です、ご主人様、さっきまでの苦しみは無くなりました」
その言葉を聞いてほっとするルティとルチアだった。
「すまんが嬢ちゃん、話を続けてくれ」
「うに!?」
見覚えある顔がルティとルチアの間から見える、あの時、ココナ達に向かって銃を向けた人間だ。
あの時の恐怖が蘇ったのか、ココナは話を続けるどころか固まってしまった。
「ココナ? 本当に大丈夫?」
固まりつつも、首だけはコクコクと動かすココナ。
ココナの見つめる先をルティが見るとそこにいるのはバルトだけ、もしやと思いつつココナに聞いた。
「そこの警察が怖いの?」
ココナは動かない、怖くはないと言うことだろうか、でもこれでは続きを聞こうにも埒が明かない。
思い切ってココナの頭に軽く拳骨を落とす。
「痛い!?」
「戻ってきた?」
「うにぃ、ご主人様、後ろに警察の人が…
 ご主人様、私は何も悪いことしていません、物も盗んでません、
 お願いですご主人様、後ろの警察の人に私は何もしてないって…」
ルティの目が細くなり、ルチアも目が点になる、再び自分の世界に入っているココナに、ルティは再び拳骨を軽く落とす。
とにかく、ココナの混乱を治す為、と言うか意識を戻す為に何度かたたき続けた。
ようやく落ち着いて来たところでバルトの説明を始めた。
「大丈夫、貴方を狙ってるわけじゃないから、落ち着いて、さっきの続きを話して」
「はっはぃ、もし、ルチアさんがその、ほむんくるすっていう人なら、コロナちゃん達はそれを知らないのではないですか?」
「あっ」
ルチアは気付かされる、隠し続けた真実、それが彼女達を不安にさせていたのかもしれない。
風邪だと嘘をつき続けた呪代と言う役目、彼女たちを不安にさせないがためにつき続けた嘘が
今こうして彼女達を不運にさせている。
今回の事件は彼女達だけじゃない、ルチア自身にも問題はあったのだ。
「私は…」
「思いつめるな」
「バルトさん?」
「お前の体は限界が近付いている、それはお前も理解しているはずだ。思いつめれば自分の死を早めるだけだ」
「でも…」
「それに、あの3人の少女の怪盗の正体がお前の家族と、言う話が本当なら、少し急いだ方が良い」
バルトの一言で3人がバルトを注目した。
「たった今入った報告だ、先ほど連れて行った少女2人は今まで盗みを働いていた怪盗と判明。
 また、偽造宝物庫の前で捕らえた少女が牢屋から逃走したが容疑者シェルトと共に捕獲、牢屋に捕えていた少女が怪盗と判明された。
 後2名も捕獲したがそれはどちらもルティ、あんたの仲間と判断された」
報告を告げたと同時にバルトは唇をかむ。
シェルトの命令無視でセント・モーリスは色々と突っかかって来るだろう、余計な事をしてくれたと思った。
しかし、バルト以上に心に動揺を呼んだのはルチアだった。
「そんな!? シェルトさん…」
突き付けられた真実に動揺が隠せないルチア、ルティは逆に唇を噛んだ。
こいつの前で助けないとなんて言えないからだ。
「早く、助けないと、ルティさん、力を貸して!!」
「ルチア…」
「お願いです、お願…ゲホ、ゴホ」
「ルチア!?」
追いつめられるルティ、ココナの顔も見たが、ココナも同様、彼女達を助けたいようだ。
利用されたとはいえ、こんな真実を見てしまっては、捕えるなんて事はできないからだろう。
問題はバルトだ、おそらく、ルティが助けに行こうとすれば、バルトは全力で止めるだろう。
やはり、バルトと闘わなければならないのか…再びルティに苦渋の選択が迫っていた。

その32 娯楽人さん

ルティは考えていた
ルティ自身もルチア達を助けたいのだが
状況が状況なので下手に動くと今無事なココナや自分の身が危うい
かといってルチアの状態も長くは持たないだろう
時間は無いが目の前のバルトを突破して助けに行こうにもリスクが大きすぎた
判断に迷っていたルティに思わぬ言葉がかけられる
「何唸ってる? 行けよこのお嬢ちゃんの家族とあんたの家族を助けるんだろ?」
「ふきゃ?」
あまりにも唐突なバルトの言葉に変な声が出た
バルトの意図が分らず私は問い返した
「止めないの?」
「一瞬そうしようかと思ったがこのお嬢ちゃんを見てて気が変わった、協力しよう」
「どうしてよ?」
「あんたと協力した方が俺の目的も楽な上に、敵対する利点が今となっては0だからそれだけだ、まあお嬢ちゃんは置いてってもらうがな」
突然の申し出に少々困惑する、確かに今のルチアを連れてあの子達を助けに行くのはリスクが大きい
しかし、バルトにルチアを渡すのも同じぐらい危険な気がする
さらに頭痛の種が増えてしまった私はさらに悩んだ

その頃……
「盗人も許せんがわしのこのビューティフォーな顔に傷を付けたその姉妹も許せん!貴様ら全員打ち首じゃ!!」
(醜悪な顔さらしてよく言う……)
ただでさえ悪人面な上にミリルがボコボコにしていた為
この場に居るほぼ全員が同時にそう思った
「そんな!?盗人の最高刑は終身刑でしょ!」
一人だけミリーはそう反論する
「貴様らの言い分など聞かぬ! わしを愚弄した罪もあるからの、明朝6時に貴様ら全員の処刑を執行する、朝日と共に消えるが良いわ!!」
こうしてミリル、シリル、ココア、シリー、ミリー、シェルトの6人はこの屋敷でもっとも頑丈な牢に入れられた

そしてルティ達は…
「ああ、了解……まずいニュースだ、あんたの仲間も処刑されるらしい」
「何ですって!? そんな罪なんてないでしょ!」
「俺に食って掛かれても困るが…何でもモーリスの野郎をボコボコにしたらしい」
「それだけで処刑!?……なんて国なの」
「相手はそんな権力持ちなんだよ、所で返事聞いてなかったがどうする?」
「……一つ聞いて良いかしら?」
「ん、いいぞ」
「ルチアをどうするつもり?」
「俺とあんたの切り札になってもらうのさ、お嬢ちゃんにはちょっと辛いかも知れないがな……」
「はぁ……それで……あの子達を助けられますか?」
「ルチアっあんまり喋っちゃダメだってば……」
「お嬢ちゃん次第だな、あとその首飾りが決め手だ」
「この…お守りが?」
ルチアは不思議そうだったがバルトの目は勝利を確信したもの特有の優しい目をしていた
何故かは分らないが元々分の悪い状況
さらに助けの申し出……乗るしかないか
「ルチアが良いならさっきの話乗るわ」
「だそうだ、どうするお嬢ちゃん?」
「……私行きます、私はあの子達のご主人様で家族ですから」
「よく言ったなら行動を開始するぞ」
こうしてバルトと協力してミリー達を助けることになった

その33 ゲイトさん

一方ミリル達は、モーリス卿の地下の牢屋に連れてかれていた。
「さぁ 入れ!!」
「きゃ、もう少しレディを大切に使えないの!?」
「生憎、犯罪を犯した女性の扱いは知らなくてね、せいぜい『今』を楽しむんだな」
そう言って牢屋の扉の鍵を閉め、その場を去っていく。
5人には同じ牢屋に入れられ魔法を封じるバインドを両腕にガッチリと止められ、腕を動かすことすら出来なかった。
しかも、部屋が特殊で魔力すら込める事すら出来ないアンチマジックの部屋だった。
「あ〜もう、どうしてこうなるのよ、元はと言えばあんた達が原因じゃない!!」
「何よ、あんたがセント・モーリスをボコボコにしなければ、さっさと逃げ出せたのよ、アンタがやってくれたから警備が強くなったんじゃない、全部押し付けないでよ!!」
「何を!?」
「何よ!!」
「二人とも止めてよ、ここで争ってもしょうがないじゃない、そんな詰らない事で体力使ってどうするの!!」
二人の口喧嘩にコロナが割ってはいる、しかし、二人の睨みは収まらなかった。
「出られたら絶対警察に突き出してやる」
「その前にあんたを逆に怪盗に仕立て上げてあげるわ」
そう言ってお互いそっぽを向き合うミリルとミリー、その様子にシリルとシリーは同時にため息をついた。

処刑の時間まで後4時間前後、何とかしてここから逃げ出したい5人だった。
それぞれが逃げ出す案を提案したが、どれも魔法が不可欠な作戦だった。
しかし、魔法を使いたくても、魔法を封じられており、しかも5人には強力なバインドを両手に張られた為、解くことすら難しかった。
他の案を出そうにも上がった案で、ミリーとミリルで言い争いが始まったり、別の話になったり、根本的な脱出方法が思いつかなかった。

脱出方法を考えてから数分後、再び牢屋の扉が開く、そこにはセント・モーリスの警備員が二人係で、一人の男を担いでいた、そしてミリル達の隣の牢に投げ込まれる。
「へ、バルトの警備隊も落ちたもんだな、怪盗を警備隊に加えてるんだからな」
「全くだ」
そう言って2人の警備員は牢の鍵を閉め、その場を去っていく。
ミリル達のいる牢屋の隣に入れられた男が倒れながらも、ぶつぶつと口を開いた。
「違う・・・俺は、怪盗なんかじゃ・・・ない・・・」
その声は2人には聞き覚えのある声だった。
「この声、シェルト!?」
「え、あ・・・ミリル、無事だったのか・・・」
ミリルが隣の牢に声を上げる、シェルトも意識が少し朦朧としていたが、ミリルの声で隣に誰がいるのか直ぐに誰か分かった。
牢屋の隣通しの壁が薄いのか、声は直ぐに隣に届いた。
「随分と弱ってるけど、大丈夫?」
「ははは、拷問を受けたよ、怪盗の仲間なのかって、今まで奪った宝は何処だってね」
「そんな、シェルトは警備員じゃない、どうして!?」
「怪盗に手を貸す警備員なぞ、怪盗と同類だとさ、しかも、奴等から裏切り者と呼ばれるようになってしまったよ」
「酷い・・・」
そんな風にシェルトと会話をしていると牢屋の外から声が聞こえる。
「おっお疲れ様です」
その声と共に、扉が開く、開いた扉からやって来たのは、シェルトの上司、バルトだった。
しかも、バルトの背後に一人の少女が遅れないように付いて来ている。
「無様な物だな、怪盗ども」
「あんたは、あの時の・・・何、私達の最後を見に来たわけ?」
ミリーが突っかかる、だが、バルトは逆に悲しそうな目をしていた。
「そう言うな、お前等が何故こんなことをするのか、原因が分かったのだからな」
「原因って・・・まさか!?」
ミリーとシリー、コロナに嫌な予感がよぎった。
まさかルチアが見つかったのかと。
そんな思いを打ち破るかのように、バルトの影から、一人の女性、ルチアが現れた。
「「「ルチア!?」」」
「皆、どうして、こんな事に・・・」
目の前に現れたルチアに、ミリーはバルトを睨みつけた。
「あんた、私達にこんな事をして楽しい? 何故ここにルチアを連れてきたのよ!!」
ミリーの怒りが収まらない、外に出て殴れるならこいつを殴りたい、そこまで来ていた。
だが、ルチアの口からミリーの怒りを静めた。
「違うの、ここまで来たのは私の意志なの、貴方達を止めたくて来たのよ・・・なのに」
「ルチア・・・」
思いつめる3人、バルトはゆっくりルチアから離れると隣の牢にいるシェルトの前に現れた。
「無様なものだな、シェルト」
「先輩・・・俺・・・警備員失格ですね」
「自分を責めるな、お前みたいなのを拾った俺にも責任はある、だが、俺がお前を拾ったのはお前をこんな目に合わせる為じゃなかったんだがな・・・」
昔話をするかのようにシェルトの出会いを語りだすバルト、それに釣られて、シェルトもバルトとの出会いを話し出した。
「あの日、先輩が俺を採用したときは驚きました。
 魔力を操ることの出来ない上、爪が甘く、警備に向いてない俺を、先輩は選んだ。
 初めは、何で俺を選んだのかわからなかった。 でも、先輩は、俺の長所を見つけてくれた、これのお陰で・・・」
シェルトはマガジンを抜かれ、空っぽの拳銃を取り出す。
それは、シェルトにとって唯一皆と対等に遣り合えるものだった。
この銃は実弾を使う為、無駄に魔力を込める必要は無かった。
その代わり、弾丸のリロード時間がかかる為、魔銃が盛んなこの町にはあんまり人気の無い代物だった。
でも、彼はリロードの時間を皆と比べて、速く出来る為、唯一の実弾使いだったのだ。
「この銃のお陰で俺は閉ざされていた警備員の道を歩むことが出来た。
 そして、この銃の扱いを見込んで、先輩は俺を雇ってくれた。
 でも、今回の初仕事でヘマを踏んでしまい、先輩に泥を塗った、俺は、このまま処刑されたほうが良いのかもしれませんね」
シェルトは両手を顔に乗せたままにして、バルトの顔を見ないままだった。
「残念だ、お前はもう少し出来る人間だと思ったのだがな」
そういいながらタバコを吸おうとしたが・・・
「バルトさん、ここは禁煙ですよ」
バルトに付き添っていた、セント・モーリスの部下が指摘した。
「おっとそうだったか」
そう言って持っていたタバコを牢の中に投げ込む、火はついていない。
「シェルト、捨てといてくれ、先輩と後輩の最後の仕事だ」
そう言ってシェルトの前から去っていく。
バルトは、ミリー達と話し込んでいたルチアにそろそろ出ることを告げる。
ルチアは泣いていた、もうこれであえなくなると言う悲しみからだろう、心を鬼にしてルチアにきつい一言を言った。
「もう諦めろ、どう頑張っても彼女は救われないんだ」
「うう・・・」
泣きながら立ち上がるルチア、牢屋から立ち去ろうとしたときだった。
「待ってよ、あんた」
「ん?」
「お願い、私達の変わりに、ルチアの病気を治して、お願い」
バルトは、それを聞いて去っていった。
牢屋の門番に敬礼を済ませると彼は地上に向かっていく。
「言わなくて良かったのか、自分のことを・・・」
「はい、きっと彼女達が救ってくれますから・・・私は、貴方の言う方法でそれを手助けするだけです」
「そうだな、向こうも例の物を手に入れてやってきたようだぞ」
そう言うとバルト達の前に二人のセント・モーリスの警備服を着た2人の警備員がやってきた。
バルトと警備員がすれ違ったときだった。
「分かってるな、落ち合う場所は・・・」
「ええ、水の流れつく場所ね」
「すでにシェルトにもある紙を渡した、奴なら意味を理解できるはずだ。しくじるなよ、ルティ、ココナ」
そう言ってバルトは館を後にした。

その34 娯楽人さん

「言ってくれるわね、バルトの奴」
「ご主人さま、見張りが…」
ココナの見る先には、扉を守るように2人の兵が左右に立っていた。
時間は0時を回っている、おそらく夜の見張りか徹夜の番の者達だろう。
彼等を倒したらわざわざ服を奪った意味がなくなる、今回は見張りの交代をおよそって、囚われている仲間…いや友達を救うのだ。
その為に、こんなところで本性を明かすわけにはいかない。
「任せてココナ、ココナは私と一緒に動きを合わせて、それとあまり声を出さないでね」
「はい、ご主人様」
そう言ってルティは自分の魔法で声の高さを調整した。
『これくらいでいいかな?』
先ほど、着替えにいた兵達をはっ倒した際に聞こえた声に合わせた。
これならばれる心配もないと思ったからだ。
声を調整して見張りの2人の元へ向かう、ルティとココナ。
扉の前に立つ見張り二人も眠気を払いながら2人が向かって来ているのに気づいていた。
「何だ、お前らは?」
一人の男が声を上げる。
「えと、見張りお疲れ様です。 交代の時間ですよ」
「交代? 随分と早いな?」
「え、えへへ、じっ自分は予定の時間よりも早めに動いてしまうんで、今回もそうなったみたいです」
ヘルメットの先からは顔は見えないが失敗したと言うように手を頭の後ろに持っていく。
ルティの話術にココナはただただ見ているだけだった。
「しかし、交代の時間はまだ10分近くあるぞ?」
「でも、このまま戻るのも馬鹿らしいですし・・・」
「しかしなぁ…」
「いいじゃないか、こいつらが交代したいって言っているんだし、俺も犯罪者の見張りよりもベットの上でゆっくり休みたいぜ」
二人が口論をしている時にもう一人の部下が軽いのりで話しかけてきた。
どうやらもう片方はかなり限界まで来ているようだ。
「むっむぅ、お前がそういうならそうしよう、だが10分早く来たんだ、若干長く感じると思うが構わないか?」
「大丈夫です、ところで牢屋の鍵は?」
「ここだ、ほれ」
「!?」
そう言って軽いノリの兵がココナに向かって鍵を投げる、ココナも思わず声が出そうになったがなんとか抑え込んで鍵を受け取った。
「それじゃ、頑張れよ、今日の夜はおそらく長いぞ」
「心得ております、ではお休みなさい」
「ああ、お休み」
そう言って見張りをしていた兵2人はそこから離れていく。
「なんとかうまくいったわね、でもこれからが問題ね」
「ご主人さま」
「ココナ、行くわよ、ミリル達が待ってる」
「はい」
そう言って二人は牢屋の部屋へ入って行く。
そこには、やる気を失い膝を抱えて座っているミリルと、うたた寝をしているミリー、さらに綻びたベットを3人で使っているコロナ達がいた。
ミリル達が牢屋にいる事で少し安心したルティは、早速ミリルを起こすために声を上げた。
「ミリル、起きてミリル」
声が聞こえてないのか、それとも心から諦めているのか分からないが、声が聞こえないし、顔も上げない。
流石にこれではラチが明かないと思ったルティはある一言を呟いた。
「サーモン、なくなるわよ」
「!?」
「ふにゃ!?」
その一言で、約4人ほど目を覚ました。
流石はミリル達のそっくりさん、好物まで同じなのだろうか。
「ダメだよ、ルティちゃん、私のサーモンとっちゃダメ!!」
「シリルのもぉ〜」
流石の反応にルティ達も引き気味だ、今はセントモーリスの軍服を着ているから驚き方からして妙な格好なっている、当然ココナもだ。
「はれ? 今ルティちゃんが酷い事言ってた気がしたけど、気のせいかな?」
「気のせいじゃないわよ」
そう言ってヘルメットを外す、そこからルティの顔が出てきた。
「ルティちゃん!!」
「シー、声が大きいって」
「ちょっと、ルチア、あんた何時の間に髪切ったの!!」
「ミリーさん落ち着いて、ルチアさんは無事です!!」
ミリルとミリーが牢屋越しに声をあげる、それもそのはずだ、先ほど、バルトと共にいたはずの女が再びここにきて軍服を着ているのだから。
「落ち着いて二人とも、今出してあげるから、ココナ、悪いけど、隣のシェルトさんを助けてあげて」
「はい!!」
ルティに鍵を渡され、隣の牢を開けてシェルトの無事を確認するココナ、一方でルティは5人を牢屋から連れ出す。
ミリルとシリルは無事に出られたことを喜ぶが、ミリー、シリー、コロナは複雑だった。
「何故、私達を助けるの、貴方達を嵌めようとしたんだよ?」
「そうだとしても、あの子に頼まれちゃね、今回は悪役も引き受けるわよ」
「ルチア…」
3人のうち、誰かがぽつりと言った。
「さぁさぁ、ここで坊っとしてられない、ココナ、シェルトさんから聞いた、暗号の場所?」
「はい、バッチシです、暗号の事を教えたら、紙の意味が繋がったって」
「紙…バルトが渡したものね」
ルティがそう呟く。
「で、どうやって逃げるの?」
ミリーがはさんでくる。
「逃げるのは外じゃない、地下だよ」
「地下?」
7人が驚く。
「水の流れ着く場所、これは24時間水が流れている場所を指す、そして、この紙には奴らに盗まれてもいいように暗号化されてたんだ」
「で、内容は?」
「光のないところに我はあり、これは地下の下水道をさしているんだ、そして、下水道の何処かに、バルト達の真のチームが船を出して待ってるんだ」
「船を!?」
「うん、大方、外に逃げて、船港に逃げても船は全部占領されてるよ、だから誰にも眼のつかない場所、それは光のない場所ってことさ、そして、水の流れ着く場所、それは下水道から外へ通じる道を指しているんだ」
「つまり、‘光のないところに我はあり’が場所で、‘水の流れ着く場所’が抜け出す場所なのね」
「そう言う事だ、ここから下水に抜けるルートはもう分かってる、ルティさん、俺についてきてください」
「分かったわ、皆もいいわね」
ルティがそう言うと、ミリー達は苦い顔をした。
「それで、ルチアに会えるの?」
ミリーが声をあげる、顔は険しい、だが、ルティはそれに勝るほどの笑顔で「会えるよ」と言った。
それを聞いた3人はルティとシェルトの案内で動き出す。
だが、ちょうど牢屋から抜けた後の10分後だった。
本来の交代時間の兵達が牢屋のもぬけの空に気付き、セント・モーリスに通達、ライトが点灯し、全兵が屋敷内を動きだしたのだ。
しかし、何処を探しても彼等は見つからない。
やがて捜索してから3時間が過ぎた。
セント・モーリスの部屋では、何名かの兵が呼ばれていた。
「なぜ見つからんのじゃ、お前らの兵はただの人形か!!」
セント・モーリスから怒りの言葉が上がる、だが次の瞬間、兵達は意外な行動をし始めた。
「おっお前ら、何を…」
突然、兵達がセント・モーリスに銃口を向けたのだ。
「セント・モーリス郷、違法物密郵及び、密告罪で逮捕状が出ております」
「馬鹿な、お前ら、誰の為にここまで地位を上げてこられたと思っている、貴様ら、ワシの恩も忘れたと言うのか」
焦り出すセント・モーリス、彼の発言に、兵達は、急に笑い出した。
「なっ何がおかしい」
「まだ、俺達がアンタの兵だって思っているのか?」
「アンタの兵は、今アンタの命令で船の見張りをしているさ」
「なっ何?」
「この時を待っていたのよ、アンタが一人になるのをね」
そう言って3人はヘルメットを外す、そこから現れたのは、この町で行方不明とされていた人たちだった。
「おっお前達は」
「そう、アンタに家畜同然の扱いを受けてきた連中だよ」
「恨むなら自分を恨むんだね、家畜としてきた奴らの恨みだよ」
「今回は裏の連中も手を貸している、アンタが投降するならそれまで、逃亡や抵抗をした場合は」
「どっどうなると言うのかな?」
苦笑いをしながら背中にある柱に手を当てるセント・モーリス、だが、ボタンに手をあてた瞬間それは銃弾で破壊された。
その後、彼がどうなったのかは不明、事の真相は早朝に知らされることになるだろう。

一方待ち合わせの場所に向かったルティ達は、既に街の外に出ていた。
地下には既に船が用意されており、そこから下水の外へ向かっていたのだ。
結果、船港を使わずに脱出したため、誰にも気づかれなかったのだ。
「さて、後はお前を治療してくれる奴に会いに行くだけだ」
「この呪代を解けるものが見つかったの?」
「おう、こいつのデータをなめるな、ギャリア、この方向でいいんだな?」
「ああ、OKだ、数メートル行った先の町で待ち合わせだ」
そう言って船を進める、その先にあったのは、ラセンブリアと同じくらい豪華な町だった。
8人は、バルトの案内である教会に連れてこられた。
そこには、若い男と、神父が彼等を待っていたかのように立っていた。
そして、ルチアを一人の若い男が連れていく、そして同時にルティも一緒に連れてかれた。
神父とバルトの話によると、彼はホムンクルスの研究者の息子で、親の犯した罪を償うため、神父と共に住んでいると言う事だった。
同時にホムンクルスの受けた呪代を解く方法も知っているらしく、直すためには、青き瞳をもつものがいなければできなかったと言う。
それはつまり、ルティの事を指しており、ルティと、ホムンクルスに与えられた大切な物がなければ取り除くことはできなかったと言う事だったのだ。
こうして、彼の力で彼女にかかっていた呪すべてを解くことに成功したルチアはミリー達に自分の事を話した。
その言葉に3人は驚いていたが、すぐに彼女達はルチアの事を受け入れた。
もう苦しむことはない、自分達が汚れ役をすることもない。
彼女達も、ある意味で、犯罪と言う呪いから離れられたようだ。
こうして、元気になったルチアはミリー達と共にここで暮らすことになった。
彼女達が行ってきたことはラセンブリアにとっては許されないこと、だからこそ、ホムンクルスの検査の事も含めて、ここに暮らすことにしたのだ。
そして、ルティ達もラセンブリアのほとぼりが冷めるまでここで旅行の再開をする、荷物の事が心配になったが、それはバルトが後々運んできてくれたようだ。
シェルトとルチアの仲はどんどん発展しているようだが、お互い奥手なのか、なかなか告白には至らないらしい。
バルトはルティ達の荷物を運び終えると別れもなしに姿を消した、神父の話では裏の人間は裏に生きる、あの人も罪を償いきった時、裏の仕事と言う呪いから解かれるだろうといったいた。
こうして、3人の怪盗騒ぎは、ハチャメチャな展開を起こして幕を閉じた。

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