第6話 ルティと未知の生物

とある軍事国家に呼び出されたルティたちは、そこで不思議な生物と出会います。
それは「宇宙から来た怪物」で、彼女たちはその怪物の排除を依頼されるのですが、
その姿は非常に愛くるしい姿で……?

その1 せいばーさん

『ザザッ・・・次のニュースです、我が国と国交を結んでいるアーリア王国が謎の生物により攻撃され、
壊滅的ダメージを負いました、王都は完全に破壊され、現在生き残った住民の救出作業が・・・』
古びたラジオから物騒なニュースが流れる
「大変そうですね・・・」
「だなー、つっても何千キロも離れた国だからあんまり実感湧かないけど」
ミリルとココナがお茶を飲みながら話している
「ココナー、お茶飲み終わったらこっち手伝ってー!」
「はーい!」
ルティの呼び掛けに元気よく答える
ドンッドンッ
不意に乱暴にドアを叩く音
「?、はーい今出ますー」
ルティがドアを開けると、そこには屈強そうな男と細めの女性が一名づつ胸には同じ柄のバッジが着けられていた
「・・・・ルティ・チャーフル二等空佐で宜しいですか?」
「“元”二等空佐よ、貴方達とはもう縁を切ったつもりなんだけど、貴方達には用は無い、帰りなさい」
「私達は用があるの、同行願えますか?出来ればココナ・アンダンテ、ミリル・グランフォードとその妹も一緒に
嫌と言っても連れて行きますよ?今はそんな事で無駄な時間を喰うわけにはいかない」
「・・?」

その2 娯楽人さん

何だかんだで無理やり召集され、私達はアーリア王国の大地に来た
ただそこにいたのは宇宙から来た怪物と言うにはあまりにもかわいらしい生物だった
「うきゅ〜〜〜〜」
「でかい…けど可愛いわね」
「何でこんなに可愛いんだろこれじゃ叩けないよ」
「苛めちゃダメって気がします」
「みゅ〜…ぽぽにゃんみたい」
確かに全長は数十メートルある大きな生物
しかしその風貌は全体的にピンク色で愛くるしい眼を持ち
尻尾の先には耳かきのふわふわを連想させる毛
そして何より動物の子供を彷彿させるその声により
ルティ達はどうしたらいいだろうと悩んでいた
「…ねぇミリルちゃんどうしよう?」
「私だって最初は乗り気だったけど……これじゃね〜」
「ご主人様…この子をどうするんですか?」
「う〜ん……元々乗り気じゃなかったしでも、周りの建物破壊してるのは事実だし…」
「うきゅう?」
怪物はこっちの会話に気づいたようでじーっと見つめてくる
「うっ…うぅやっぱり排除は出来ないわ」
「じゃあどうするよ?」
「…それが問題なのよね」

〜アーリア王国 軍事基地 〜
「総統!例の怪物に総攻撃を提案します!」
「そうです!これ以上王国の土地を踏みにじられたくありません!」
「…うむ、各員に告ぐ戦闘準備を開始せよ…作戦開始時間は30分後とする、準備を怠るな相手は未知の生物だからな」
「住民の避難がまだ…」
「構わん多少の犠牲はつき物だ」
「はっ!」

〜市街地〜
「う〜ん」
「ご主人様?」
「どうしよう…」
ルティは悩んでいた、
愛くるしいとはいえ怪物?なのだが、どうみても邪気の類は感じない
むしろ幼子の無邪気さそのものなのだ
すぐに葬り去る事も出来なくは無い
そんな時…
(ドォォォォン!!
「!?」
突然の爆風に思考を切られたルティだが
瞬時に回りを見渡す
皆は無事なようだ
しかし、誰がこんな事を…
「ご主人様上見てください!」
「上?」
上空には複数の爆撃機と戦闘機が列を成して飛んでいた
「うきゅぅぅ…」
怪物は不安そうな声を上げる
本来ならば怪物と戦うのを助けてくれる友軍なのだが
しかし、ルティの判断は
「住民がまだ居るのに爆撃ですって?ふざけないで!」
「それに、こんな事されて黙っていられないね!」
「ご主人様の敵は私の敵です!」
「この子怯えてる…シリルも助けたいから!」
ルティの瞳は怒りでたぎっていた
ここに奇妙な戦争が勃発する
自らを守るため攻撃する者と他者を守るため戦う者の
違う想いがぶつかる戦いの幕が今切って落とされた

その3 せいばーさん

〜アーリア空軍第三攻撃部隊ヴァンパイアーズ〜
旧王都上空
セリオ式魔動爆撃機内
「先輩・・」
「何だ?」
「さっきの司令・・・何だか変じゃありませんでした?」
「ジジイが変なのはいつもの事だろ?」
「いや・・・違うんすよ、なんと言うか・・・
何かを隠そうと必死だったような・・・
いつもだったらもっとハキハキ物を言う人だったのに・・・」
「気にすんな、軍なんてのはそんなモノだよ
この前の試験魔動艦暴発事故なんか最もな例だな
上層部が利権まみれの艦を事故に見せかけてぶち壊しただけだよ、アレは」
「えっ!?でっでもあの事故で120人が死んだんですよ!?」
「お偉いさんが好きなのは命じゃなくて地位とお金だってこった、俺達は出世の為の踏み台に過ぎんよ」
「そんな・・・」
「それより今は仕事だ仕事!これが終わったらボーナスでバカンスだ!」
ガコンッ!
後方で高い金属音がした
「何だ?」
「さぁ?気のせいでは?」
実はこの爆撃機、エンジン音が激しすぎて隣にいながらヘッドホンとマイクを使って話さなければならなかったのだ
これが致命傷になった、
まぁコレが無くても“侵入”を許した時点で彼等の運命は決していたのだが・・・
「バカンスって言ってましたけど何所へ?」
「フアイ島だ、あそこは良い所だぞ〜!青い海!青い空!白い砂浜!色鮮やかなビキニ!」
「へぇ〜、それは楽しそうね」
「だろ〜、彼女ともうあんな事やこんな事・・・・を?・・・」
「どうしたんですか?先ぱ・・・・・」
二人は驚愕して声も出ない、それは当然だった
二人しか居ない筈の爆撃機の中に
「今から二人で楽しいバカンスをごゆっくり〜♪」
魔王が緊急脱出装置のレバーを握って立っていた
バシュン!(×2)
「「うおぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!!!」」
レバーが引かれると同時に二人はバカンス(高度1500mから)へと旅立った・・・・
「う〜ん、これどうやって操作するのかしら・・・
え〜と・・・、あっこれが自爆スイッチか、えいっ♪」
ポチッ
ビッービッービッー
「爆発まで残り二十秒です、直ぐに脱出してください
繰り返します・・・」
「〜♪」
ガシャン
ルティはドアを開けて外(高度1500mですってば)へ飛び出した

〜アーリア軍司令部〜
「どうなってる!?何故傭兵が我が軍の航空部隊を攻撃しているのだ!?」
「詳細は不明です!犯行声明もまだ・・」
「通信入りました!ルティ・チャーフルからです!」
「!、繋げ!」
『ザザッ・・・・こちらルティ・チャーフル』
「おい、貴様!何をやっておるのだ!?何故友軍に攻撃をする!?」
『理由は簡単、貴方達のやり方が気に入らない
住民の避難がまだ完了していないのに町を爆撃するなんて馬鹿げてるわ』
「なっ・・・!それだけで部隊を全滅させたのか!?」
『心配には及ばないわ、パイロットは全員無事よ
尤も、着陸に失敗して怪我をするぐらいなら何人か居るでしょうけど』
「・・っ!」
『此処に宣言するわ、ルティ・チャーフルはこれ以上貴方達には協力する事はない、同時にこれ以上街やあの生物に攻撃を仕掛けるようならば・・
私はアーリア軍に宣戦布告する、
・・・この言葉の意味は分るわね?バスク将軍・・?』
ブツッザッーーーーー・・・・
「っ〜〜〜クソッ!(ダン!)」
「流石にアレを攻撃目標にするのは無理があったか・・・」
「外見がなぁ・・・」
「でも成体になったら攻撃せずにはいられんな、うん」
「成体になるまでが大変なのだが・・・」

旧王都郊外クリア森林
「・・・あのさぁ、ルティちゃんって・・・何なの?」
「うん?・・ん〜可愛い看護し見習いかな?」
そんなおっかない武器を持った状態で言われても
「さっきのは只の魔王にしか・・・御免なさい
そんな人を殺せる視線で私を見ないで」
「あのぉ・・・、ご主人様は軍人さんだったんですか?
いきなりだったので聞く暇が・・・」
ココナ申し訳なさそうに聞く
「あぁ、そうね〜軍人っていっても形だけだったからなぁ」
「形だけ?」
「そう、昔この国(アーリア王国)と隣国のセオドア連合の間で戦争があったの、
それに訳あって参戦してね、私は成り行きで入隊したから手続きが出来なかったのよ、そんな暇も無かったしね、
一般人とは言え軍に所属する以上階級が必要でさ、それだけよ」
「その訳ってのは・・・」
「・・・・・・」
露骨に沈んだ表情をするルティ
「あっ・・言いたくなかったら別に・・」
「冗談よ・・・、人に言うなんて初めてだな・・・
戦争が始まる少し前にね、私は友人に誘われて遺跡発掘調査に同行していてね
その時は碑文って呼ばれてる古代文明の遺産を発掘していたんだけど・・・
発掘した碑文にね、触ったのよ、そしたら・・・
“力”を手に入れたの、今の魔法化学とは異なる、古代魔法をね、それを偶々軍人の人が見ていて
結局セオドアの一方的な先制攻撃によって開戦したエリアH2U争奪戦争に強制参加させられたの
あの時、発掘した碑文に触れていなければ私は戦争に参加する事は無かった、今でも後悔してるわ
それでも、この力のお陰で助かった命がある、それが唯一の救いかな」
「そんな事が・・・」
「・・・うきゅう?」
如何にも寝起きですと言った表情で可愛らしい声を出す謎の生物(まだ名無し)
「お前はいーの(ぼふっ)」
「うきゅ〜〜」

その4 娯楽人さん

アーリア軍部が一時撤退をした夜の事…
「うきゅきゅ〜♪」
「みゅ〜みゅ〜みゅ〜」
「シリル〜大丈夫ぅ〜〜?」
「うん、みーちゃん平気だよぉ〜〜〜!」
「やっぱり大人しいみたいね」
「…でも口の目の前だと見てるこっちがドキドキですぅ」
この数時間である程度この謎の生物のことが分かってきた
一つはこの生物がまだ幼体って事、つまり子供だという事
もう一つは事前の予想どうり有害生物では無いという事
現に口の目の前に居るシリルを見つめて楽しそうに鳴いている
あまり警戒心の類もなく本当に無邪気な子供を連想させる
「ご主人様〜…お腹空きました…」
ココナの声に思考を中断した私はふと思った
「この子…何食べるんだろ?」
(グリュウウウウウウウウ
そして、機を見計らったように怪物の腹の音が鳴る
「…うきゅ〜…うきゅっ!」
「どこ行くの〜?」
シリルはゆっくり追いかける
怪物はノシノシと歩いていくと街路樹を引っこ抜き
そのまま葉の部分をまるかじりして噛み砕いていた
「どうやら草食みたいね」
「ある種一安心ですぅ〜」
「シリルーあんまり側寄ったら食事の邪魔になるよ〜!」
「名前名前…ゆーちゃん」
「?…ゆーちゃん?」
「UMA…だからゆーちゃん?」
「うん!」
「うきゅきゅ〜♪」
「ゆーちゃんゆーちゃん♪」
「嬉しそう…もしかして人語を理解してるのかな?」
「侮れないね〜この子」
「みーちゃん、ゆーちゃんはゆーちゃんだよこの子じゃないよ」
「はいはい、ゆーちゃんね」
「ご主人様…うにぃぃ…」
腹ペコで放置されてたココナがうめく
「あ、はいはい私達もご飯にしましょ幸い近くにレストランあるし」
「ってルティちゃん…この騒ぎでコックいないでしょ?」
「何言ってるのコックは私、お客様は皆よ♪」
ミリルは思った時折見せるこのふてぶてしさや世渡りの仕方さえあれば
普通に軍部でもトップクラスに居るんだろうな〜と
もちろん嫌な顔されると分かってるので口には出さない
「さてと、食後にその他備品も頂いてこないと」
「何を貰ってくるの?」
「人数分の寝具よ、近くに販売店あったし…借りるだけ借りるだけ」
たまには嫌味言ってもいいかなとか思ったミリルであった
そうして、お腹を満たし強奪、もとい借りてきた寝具で眠りに付いた
こうして、波乱に満ちた一日目が幕を下ろした。

その5 ゲイトさん

夜空に星が渦巻く、3人が寝ている中、ルティは目を覚ました。
一度に色んな事が起こったせいか、なかなか寝付けないようだ。
怪物が近くにいると言う理由もあるのだが。
体を動かす、どうやら3人ともすっかり眠っているようだ。
寝袋があったのでそれを持ってきたのだが、初めて使うものでもあったため、3人はなかなか眠れなかったようだ。
少し体を起こすルティ、ふとゆーちゃんと名付けられた怪物の方を見る。
ゆーちゃんも眠ってはいるようだが、何やら怪物のおなかの辺りから音が聞こえていた。
何かしら、とルティは寝袋から出て、音の鳴る方へ向かう。
そこには、誰かが、寝ている怪物のお腹の前で座り、ハープで演奏をしていた。
それは、今にも消えそうな音色だった。
演奏している人は、薄い青色の長い髪を持ち、大人びた顔をしていた。
服装は見た感じでは吟遊詩人のような格好だ。
思わずルティは彼の演奏に見とれていた。
「起こしてしまいましたか、そこで立ってないでこちらにいらしてください」
演奏しながら口を開く吟遊詩人、何時の間にルティの存在に気付いていたのだろうか、
ここで隠れてもしかたないと思ったルティは詩人に従った。
丁度、近くに折れた太い木があったのでそれを椅子代わりに詩人の近くに座った。
ルティが近づいたのにも関わらず詩人は演奏を続けている。
だが、耳障りな音ではない、むしろ心が安らぐような演奏だ。
「上手ですね」
「それはどうも、えっと・・・」
「人の名前の前に貴方の名前を言ってもらえる?」
「ははは、これは厳しい、なら、バードと呼んでください」
「吟遊詩人って事?」
「ええ、音楽が大好きな旅人ですよ」
そう言って、演奏をやめた。
ルティの方も、話し方からにして、軍の関係者ではない事を確認できた。 改めて自分の名前を名乗った。
バードは後ろで寝ている大きい生物の事が気になっていたようで、
ルティは、後ろにいる化け物の事を、彼の気が触れない程度に話した。
「ルティさん、貴方は優しい方だ」
「そんな」
「私も、かつて、凄い方を守っていました。
 今は他界してしまっていますが、不思議な方でした、この竪琴も、彼女の物なんですよ」
「彼女って事は、愛人だったの」
バードは何も言わなかった。
「ごめんなさい」
「いえいえ、そうだ、ルティさん、これだけは覚えててください。
 強大な力を持つ者を守ると言うことは、その者の力次第で、人々を救う、滅ぼす、どちらも可能です。
 決して、安易な気持ちにならないように」
そう言うと、バードは、竪琴以外の荷物を片付け始める。
「何処へ?」
「私は気ままな旅人、また何処かで会えますよ」
そう言って、暗い森の中、音楽を鳴らしながら去っていった。
「不思議な人ね、あら?」
自分の周りを見ると、今までの雰囲気とは何かが違った。
まるで、現実に戻されたような感覚がしたのだ。
何だったのかしら、と言う疑問が残りつつ、再び寝袋へ戻った。

その6 せいばーさん

夢を見る

もう何年も前なのに、不思議と鮮明に覚えているその記憶は
時々、私の中に現れた
覚醒夢とでも言うのだろうか
この夢を見るときは決まって、私は昔の私を上から見下ろしていた

「お〜い!碑文が出たぞ〜!」
「ホントか!?」
「野郎共ぉ!集まれぇ!」
肌が黒く焼けた屈強な男達が子供の様にはしゃぎ、見つけた玩具の元へ走る

私もそこに居た、その時はまだ14歳
戦争なんて遠い国の話だと思って自分とは何も関係ないと思っていた
思いを寄せる男の子がいて、友達と遊んで、勉強をする
そんな、ありふれた日常を過ごす普通の女の子だった
「おい!なにやってんだルティ!行こうぜ!」
「あっ・・待ってよミキヤ!」
この時は友人に誘われて遺跡の発掘に来ていた
「わぁ・・・キレイ・・・」
様々な宝石で彩られた石版には古代文字で何かが書かれていた
「触ってみるか?嬢ちゃん」
「えっ、良いんですか!?」
「おうよ!ホラ!」
碑文とは本来、過去の出来事を記してあったり
王様の遺言だったりで特に触ったからといって何か問題が発生する訳ではなかった
しかし、これは違った
この時、碑文に触れなければ私は普通の女の子として人生を歩めたかもしれない
カッ!
「!!」
光が石版から溢れた
光が周りを覆い尽くした
気付くと白い部屋に居た
何所までも続く長い部屋
「こんにちは」
「!」
不意に、声がした
「ふふふ、初めまして、私はフラン、フラン・エルトワース」
金髪で、スタイルの良い女性だった
服は白いワンピース何所から吹いてくるのか分らない風にその長く綺麗な髪を靡かせて
私に近寄ってきて
私の目の前までやってきた
不思議と恐怖は感じなかった
その女性はニッコリと笑うとこう言った
「貴女の名前は?」
「ルティ」
「そう、ルティちゃん、突然で悪いけど、貴女は適合者、力を受け継ぐ者」
「?」
「そっか、分らないか、でも、今に分かるわよ、
貴女が王の血族で、世界の王になる娘だって」
「???」
そう言うと、フランさんは仄かに赤く光る球体を私の体に押し当てた
「んっ・・」
痛みは無く、体に入りきると同時に私の意識は途切れた

「貴女は王になるべき器、貴女はこの世界を支配し、統治するの
次の適合者が現れるまで・・・」

「・・・ティ・・」
声が聞こえる
「ル・・ちゃ・・」
なんだ、人が折角気持ちよく・・・
「ルティちゃん!起きろ!クソッ!こうなったら・・っ!
うぉぉ!私の右手が真っ赤に燃える!ルティを起こせと轟き叫ぶ!ひっさぁぁぁぁつ!!ゴォォォッド!フィンg」
「止めて、起きるから」
どうやら寝過ごしてしまったらしい
「まったく・・・国相手に戦線布告した張本人が寝坊とは・・」
真っ赤に燃えたかは分からないが振りかざした手を戻すミリル
「ふぅ・・、じゃっ行きましょうか!ルティちゃんも起きたし」
「・・・でもゆーちゃんはどうするんですか?」
「う〜、確かに、このでかさは目立つよなぁ・・」
全長20メートルの巨体は何所を歩いていても目立ちすぎた
「う〜ん・・ちょっと皆どいて」
「「「?」」」
「I am born of my sword(体は剣で出来ている)・・じゃなくて
エ・ルヴェリス・ダ・セル・リァヴォルト、ア・スペィトディア・バ・ウーヴィン!
(王の名の下に置いて宣言す、彼の者を縮小せよ)」
ルティが呪文を詠唱すると20m近い巨体が手の平サイズまで小さくなった
元のままでも殺人的に可愛かったが小さくなる事で余計に可愛さが増した
「なっ!こ・・これは・・っ!」
「うわぁ〜かぁいい〜・・・お持ち帰りぃぃ!」
シリルが暴走した
「何所にですか、落ち着いてください」
ココナがすかさずツッコむ
「ハッ!?今何を!?」
「一瞬赤い服の人が背後に見えたけどあの呪文は何さ?」
「あぁ、昨日言った古代呪文、普段は滅多に使わないから
聞き慣れなくて当然ね」
「へぇ〜今のがねぇ〜」
「じゃっ!改めていくわよ、あいつ等(アーリア軍)結構しつこいから一度見つかると大変なんだから」
「そうなんですか?」
「うん、昨日私と話してたバスクって奴は特にそうね、
お国柄なのかしら」
「ご主人様はあの人のこと知っているんですか?」
「うん、私の元同僚、アイツが覚えてるかどうか知らない・・いや、覚えてるか、
アイツに昔告白されてね、思いっきり断ってやったわ、
今こそ管理職だけど多分裏で汚い事やって昇格したんでしょうね」
そんな風に話しているうちに市街地に出た
「おっと・・・」
街には魔銃や杖で武装した兵士が居た
「どうするんですか?」
ココナがルティに聞く
「蹴散らすか」
即答
「一瞬でそう思考できるルティちゃんの脳を一度見てみたい」
するとルティが呪文を詠唱し始める
「・・・エ・ルヴェリス・ダ・セル・リアヴォルト、ラ・クヲォート・イァ・セル、インノ・ゼ・ルァ・デルフォーツ!
(王の名の下に置いて宣言す、秩序と正義を司る王の剣をこの手に呼べよ、出でよ王牙デルフォート!)」
呪文と共に地面に魔方陣が現れ普段使っている剣より一回り大きい大剣が姿を現した
「なっ・・・」
「わぁ〜綺麗ですぅ!ご主人様!」
「そう?ありがとう」
「う〜ん、ホントにルティちゃんって一体・・・(汗)」
「何か言った?」
「イエ、ナニモ(棒読み)」

その7 娯楽人さん

「いたぞ!目標発見これよりこうげ…えっ?」
驚きの声を上げるのも無理は無い、
目の前には絶対的な恐怖が横たわり兵士達は戦慄する
この戦場において誰もが後悔した
この場に来るべきではなかったと、
しかし所詮後悔は後悔でしかなく哀れな兵士達は散っていった
「ご主人様すご〜い!」
「…絶対ルティちゃんだけは敵にまわさない様にしよう」
「ちーちゃんって凄く強いよね」
「うきゅ〜」
「ふぅ少し疲れちゃった」
「お疲れ様ですご主人様、はいタオルです」
「うん、ありがとうココナ」
「あれだけやって少しとかルティちゃんどんだけー…」
「みゅ〜…」

〜アーリア軍前線基地 王国跡地から10km地点〜
「先発部隊と連絡は取れんのか?」
「……ダメです、通信兵も全滅と見て間違いないでしょう」
「ふむ、敵さんもやるな…よしお前は将軍に戦果を報告しろ」
「って、中佐殿!どこに行かれるおつもりですか!?」
「ん、ちょっと敵さんに挨拶をしてくるんだ」
「正気ですか!?あれだけの部隊でも全滅なんですよ!しかも中佐殿はこの基地の司令官ではないですか!」
「だからこそさ、相手が堂々と名乗ったのにこっちも名乗らんのは失礼だろ?」
「…はぁ…分かりました…中佐は言ったら聞きませんからね…最悪死なないで帰ってきてください」
「辛口だな、まあ任された、じゃあ行ってくるぜ、相棒」
「…一応上司何ですからいい加減そう呼ばないで下さいよ」
「じゃあこう呼んだほうがいいか?ジャンカルロ・アインフィル大尉」
「…フルネームで呼ぶのも禁止ですよシャレル・バウマー中佐」
「はっはっはっはっは…まぁ後は頼んだ」
「はい、お気をつけて…」

〜市街地〜
「ふぃ〜気持ちいぃ〜」
「まさかこんな近場に温泉があるなんてね」
「うにぃ〜〜」
「みゅ〜〜〜」
「うきゅ〜〜」
「しかし、どうするよ?ルティちゃん」
「ん〜?」
「相手はあれでも軍だしさ、何しでかすか分からないじゃない?」
「まあ、そうなんだけどね〜…今は極楽気分に浸りたいの…」
「その辺は同感…きもちぃぃね〜…」
「みゅみゅ〜!」
「うきゅきゅ!」
「うににぃ!」
「ココナとかは元気ね、若いっていいわね」
「…ルティちゃん思いっきり年寄りくさいよ」
「……あはははははは」
「…ご、ごめんなさい!!!」
「何謝ってるのミリルちゃん?私全然怒って無いよ〜?あははははははははははは」
「ひぃぃ…(泣」
その後、私が地獄を見たのは…言うまでも無い

〜小高い丘〜
誰も名を付けず、また、誰も知らないそんな丘に彼は居た
「……」
彼は無言で竪琴を弾き…想いを巡らす
その音色は美しく聞くものを全て魅了する調だった
「……風が泣いている…嵐の前兆か」
「バードォ…アリス…お腹減ったよ」
「おや、すいませんではご飯にしましょうかね」
「うん!」
丘には小屋が一軒だけ立っていた
そこがバードとアリスの家だった
「アリスは何が食べたいですか?」
「バードの好きなのでいい」
「はいはい、ではちょっと待ってくださいね」
「バードのご飯♪バードのご飯〜♪」
「……あの子は悟れるでしょうか」
「バード…?悩み事?変わろうか?」
「いえいえ…彼女にはまだ迷惑かける訳にはいけません、それに今はアリスとお話していたいですから」
彼女とはアリスの体に宿るもう一人の精神
大人びていて判断も的確なまさに女性アリスとは正反対なのだ
「うん!アリスもバードとお話するの好きだよ、でも困ったら言ってほしいな」
「はい、分かってますよ…よしよしいい子だねアリス」
「えへへ…」
「アリス、ちょっとお留守番しててもらっていいかな?」
「えー…バードまた出かけるの…」
「いい子がお留守番してるとお土産が来るよ?」
「お留守番してる!」
「よしよし…いい子だね、アリス」
「でも、早く帰ってきてね、約束」
「はい、約束…指きりです」
「指きりげんまん嘘付いたらハリセンボンだからね」
「はいはい、ちゃんと残さず食べるんですよ?」
「はーい、行ってらっしゃいバード」
「行ってきます」

こうして謎の吟遊詩人とお気楽軍人が迫る中
ルティたちは…
「うぅ…つかり過ぎた」
「うにぃぃぃ……」
「しぬ………」
「みゅみゅ〜♪」
「うきゅきゅ〜」
シリルとゆーちゃんを除いてのぼせていた…

その8 せいばーさん

「・・・お〜い、メシにしようぜ〜」
「おぉ!待ってましたぁ!」
ルティ達が潜む廃屋より数メートル先で兵士が寛いでいる
「地図によればあそこが王都東側の駐屯地ね・・・」
アーリア旧王都はスーア川とタル川、それらが合流したガリア運河を境にメリル地区(東側)とタエラ地区(西側)
北側にい位置するアーリア城周辺の貴族区(通称ヘンリ地区)に分かれている
(アーリア王国は名前の通り王政であり、議会に出席する議員も利権目的の貴族ばかり、その為貴族による汚職が絶えない)
その大きな川と強固な城壁、更にメリル・タエラ共に複雑な作りをしていた為、絶対王城とも呼ばれ過去の戦争でセオドア連合国を苦しめた
「な〜、今日の将軍機嫌悪くねぇ?」
「あぁ、なんでも裏切った傭兵が過去の戦友とか
しかも、そいつにやり方が気に入らないとか色々言われたらしくてな、かなり気が立ってたようだぞ」
「へぇ〜過去の戦友ねぇ・・・」
二人の兵士が昼食を食べながら愚痴を溢している
変わってルティ側
「何話してんのかしら・・・」
「さぁ、全然聞こえない」
「いやぁ姉ちゃんスタイルいいねぇ〜、お嫁さん部隊(慰安婦)に来ない?運が良ければ玉の輿だよ?」
「冗談は止して、それよりさっさと此処潰して・・・え?」
「うん?どしたルティちゃ・・・・」
「お、紹介が遅れたな俺はシャレル・バウマー、地位は中佐だ覚えておきたまえ」
何事も無かったかのようにルティに名刺を渡すシャレル
「あっどうも・・・じゃなくて(ビシッ)!アンタ誰よ!?
何時からいたのよ!?」
見事なノリツッコミを披露するルティ
「えー、酷いなー俺の事忘れるなんてー」
シャレルは(′Д)みたいな顔をする
「えっ・・・・・・・・・・・・あっ!出たな女の敵!」
「女の敵とは失礼な、俺は只プレイボーイなだけだぜ?」
「(ブチッ)・・・・・Listen human(聞け、人間よ)!これ以上私達にBe related(関わる)ならお前をErase(抹消)する!」
バックにはターミネーターのダダンッダンッダダンッみたいな音楽が流れているに違いない
「おいおい、そんな英語混じりで恐ろしい事を言うなよルティ
俺は話があって来ただけなんだ」
鬼の様な形相のルティを前にしても怯える様子を全く見せないシャレル
「Talk(話)?」
「そうだ、これからする話は真面目な話だ、そっちの君達も聞いて欲しい」
シャレルが真面目な顔つきに変わる
「昨日のピンクのでかい奴は覚えてるか?」
「えぇ、コレでしょ?」
ルティは小さくなった生物、ゆーちゃんを見せる
「・・・随分ちっさくなったな」
「魔法で」
「あぁ、なるほど、それでこの生物の素性だがな、こう見えてれっきとした生物兵器だ」
「何ですって?これが?」
「こんなに可愛いのにですか?」
「あぁ、正式名称はディーヴァ
軍上層部が対国家用極地殲滅兵器として開発した
今の姿はあくまで子供でな、成体になったらとんでもなく凶暴になる
幼体時はその可愛い見た目と分厚い体毛で攻撃を防ぎつつ物を壊すだけだが
成体になるとビームは出すわ飛ぶわ走るわで大変なんだ
王都及び軍を壊滅状態に追いやったのはコイツの成体でな
なんとか仕留めたんだが死ぬ直前に卵を産み落としやがった
コレがその時の映像」
シャレルが小さな映像端末を取り出す
カチッ
ザザッ・・・
王都より10km先アーリア軍軍事研究所
「おい!どうなってんだ!?制御が効かないぞ!?」

「ハッキングです!侵入者特定できません!完全にシステムダウン!」
「・・・まさか、暴走・・・っ!?」
ズゥゥゥン
ディーヴァ(成体)が拘束を解いて外に出ようとする
「コイツが我々が作ったことを発表するな!自然発生したことにしろ!」
軍に通達!開発局付近にて謎の巨大生物が出現!
迎撃願います!」

画面が変わって生物の上空
「悪いが譲ちゃん、こちとら君を王都までエスコートする気は無いんでね!」
「こちら第七航空部隊!二〇二五より一斉攻撃開始!
5・・・4・・・3・・・2・・・1!攻撃開始!」
数機の魔動戦闘機から爆弾が発射される
「そこまでだぜお客さん!こっから先は通行止めだ!」
「タリホー!光になりやがれェェ!」
爆弾が着弾する、司令部や機内が歓喜に飲まれた、
が、
「なっ・・・!馬鹿な!直撃の筈だ!」
「ダメだ!この程度の火力では埒が明かん!」
微動だにせず猛進する歌姫(ディーヴァ)の姿がそこにあった
戦闘機が二次攻撃をしようとしたその時、ディーヴァの目が、一機の戦闘機を視認した
キュァァァァァァァアアアアアア!!!!!!
ディーヴァが口からビームを発する
「ビームだ!奴がビームを発射しやがった!」
「攻撃か!?攻撃してきたのか!?」
「2番機がっ!ベックの機体がいねぇ!消し飛んじまった!」
「クソッ!全機戦闘空域から全速離脱!急げ!」
「ジーザス!二射目がっ!ダニィィィィィ!」

更に王都外壁前
「ダメです!侵攻抑えきれません!」
「市街地などもう良い!ありったけぶち込め!」
市街地や城壁に取り付けられた精霊砲や爆弾がディーヴァに向かって発射される
「何故だ!何故沈まん!」
抵抗空しく市街地に侵入するディーヴァ
「もう良い!ルーインを投下しろ!全軍に通達!撤退だ!
ルーインを投下する!」
画面が切り替わり空から街を移す
すると大きなドラム缶の様な物がディーヴァに向かって落ちていった
いささかの間をおき、破壊の大輪を咲かす事を命じられた種子が爆ぜた
一瞬眩い光が画面いっぱいに広がった
暫く砂嵐状態だったが、直ぐに画面が回復した
そこには体組織を破壊されながらもまだ生きているディーヴァの姿があった
「我々の切り札が・・・!」
「東側を丸々犠牲にしたんだぞ!」
「なんて奴だ!」
「化け物め!」
それは、見てはいけないものを見た子羊達の呻き
始めてみる生物を前に、羊は余りにも無力だった
ブツッ
「これがコイツの本性だ」
「そんな・・・・」
「映像にもあったとおり、コイツは軍が総出になっても倒せなかった怪物だ、幼体のうちに殺してもらいたい
それと、いくらお前でも国を一人で相手にするなんて無茶だ!
俺の部下に飛行機を用意させている、それに乗って逃げろ!」
「・・・なんだ、態々そんな事を言いに来たの?」
「そんな事とはなんだ!命に関わるんだぞ!」
「私はやると決めた事は最後までやり通す
それが何かを守ることではなく、戦争であってもね
私はこの芯まで腐った国を叩き直しに来たの
それを完遂するまで帰る気は無い」
ルティの眼差しは真剣だ
「・・・ふぅ、わかった、好きにしろ
だが、この国をあまり舐めない方がいい、一応軍事力ならトップクラスの能力を持った国だ、それに前回の様に仲間が多くいるわけではない」
「分かってるわよ、そのくらい」
「そうか、ならいい、じゃっ!気張っていけよ!」
そう言って、シャレルは去っていった・・・・
「ちょっと待ちなさいよ」
「ん?なんだ?」
「今の映像・・・特に前半、どうやって手に入れたの?」
「・・・・・知りたいか?」
「・・いや、やっぱいい」

その9 娯楽人さん

「じゃあな、次に会うときは戦場だあばよ〜ルティ・チャーフル!」
「…逃がしていいの、ルティちゃんあれでもここの親玉でしょ?」
「倒した方が効率はいいけど…情報をもたらすのには何か訳があると思うわ、それに」
「それに?」
「いきなりボスを倒したら追い詰められないじゃない、じわじわとやるのが楽しいんだから」
「…(最近ルティちゃん黒いよ…泣)」

〜司令室〜
「お帰りなさい中佐」
「おう、ただいま…で戦況はどうなってる?」
「前線に置いていた見張り部隊は壊滅、迎撃のため一個中隊を送りました」
「敵の戦力は?そして必要な人員は?」
「わずか4名その内2人は伝説の英雄、破壊の戦乙女で称される
ルティ・チャーフルとミリオンバウンティーハンター(高額専門狩人)
ミリル・グランフォード相手では必要戦力は最低でも4個大隊です、中隊では足止めにすらなりませんね」
「そこまで分かってるならなんで行かせた?」
「私は止めましたよ、でも血の気の多い連中でしてね大方彼女らに掛かった賞金目当てでしょうけど」
「馬鹿な連中だな、まぁ確かに1000万リアは魅力的だが命を懸けるのは愚かだな」
(1リアが日本円にして200円、換算すると20億円相当の賞金)
「第一軍にそんな大金があるわけないじゃないですか」
「だろうな、将軍様が全部武器にしちまうから現金はいつも無いな、その代わり鉛弾ならその金額以上ありそうだが」
「流石に鉛弾1000万リア分貰っても嬉しく無いですよ」
「違いない!、はっはっはっはっはっはっはっは!」
「それでいかがします?中佐どの戦線が突破されたようですが」
「早いな、ならHDA(ハード、ドライブ、アーマー)部隊を投入しろ足止めぐらいにはなるだろ、ちなみに大尉予想耐久時間は?」
「甘く見て20分、辛く見て3分です」
「ちょい短いが十分だ、じゃあ準備してくんぜ後は頼んだ相棒」
「…だからその呼び方は…って居ませんね…はぁ…ピッ、HDA部隊総員に告ぐ、
5時方向より敵部隊接近、準備ができた者より出撃し各個迎撃を開始せよ!」

〜基地外〜
「新手ね…」
「ロボット?…ううん中に人がいるねあれは」
「みーちゃん、何でそんな事分かるの?」
「簡単な事、ロボットなら動きに無駄が無いんだけど動きにばらつきあるし、あと一体すんごく隙だらけなのがいるからね」
「なるほど〜」
この上なく緊張感の無い会話だったが
新手が現れる前に現れた一個中隊は既に壊滅していたし
何よりシリルはミリルをココナはルティを信じきっていた
だからこそここまでリラックスできる、
目の前の敵が障害にすらならない事を知っているから
「いくよ!ミリルちゃんは右をお願い、気をつけてね!」
「了解!ルティちゃんもね!」
挨拶の如く言葉を交わすと二人は戦陣に突っ込んでいった

その10 せいばーさん

「レーダーに反応!2時の方向に“死神”!」
「ヒャッハァァァァ!1000万リアは俺達のもんだ!
アーリアのハゲタカ(ならず者部隊)の力見せてやるぜぇ!」
「あんまり調子に乗るなよ?相手は死神だ!俺達は本隊が到着するまでの盾だ!それまで死ぬなよ!」
「・・・血の気が多いわね・・、そんなに死にたいの?」
・・・デルフォート、ブラスターフォーム」
「剣の鍔に当たる部分にある赤い球体が光る
すると、巨大な大検が一瞬で二挺の拳銃に変わる
変形が終わるとルティがHDAに向かって走った
「ハッ!死にたいのかぁ!?女ぁ!蜂の巣になりやがれ!」
「!、逃げろガンツ!」
味方の静止も効かずガンツと呼ばれた男は銃を乱射する
「ヒャハハハハハハハハ♪・・・・え?」
一瞬、10mは距離があったはずだった、それがなんだ、今目の前にいるのは敵の女ではないか
「ひっ・・・・!」
ドドドドドドドドドドンッッッ!!!!
黄金の拳銃から繰り出された
目標を捉え、接近し、
全長3mはあるHDAをコクピット部分を除いて文字通り蜂の巣に変え去り
全てを終わらせた
その間、実に2秒!
「(次!装備ロケットランチャー、距離20!)」
ミリルやココナが目標を壊す前に既に一機を轟沈したルティは次のターゲットへと向かう
「クソッ・・本隊はまだか!?もう一体やられたぞ!」
「あと10分です!HDAダリス社製BRS-987!新型ですよぉ!」
「なっ・・!くっ来るなっ(ドドドドドドンッッ!)ザッーーーー」
「クソっ・・・こいつ等中々やる・・・キャア!」
ミリルに敵捕獲用の網が打ち出される
「みーちゃん!?・・・うに!?」
一瞬ココナに隙ができ、その隙にココナも捉えられてしまった
「亜人確保!死神に一斉攻撃!」
「皆でやれば怖くない・・・か、哀れね」
ルティの周りにHDAが集る
「全機装甲解除!かかれぇ!」
「ルティちゃん!」「ご主人様!」
HDAの中からパワードスーツと思わしき物が飛び出してくる
私(ミリル)は凄いものを見た、映画で見るような一瞬で主人公を囲んだ敵を撃ち抜く、そんな事をルティちゃんはやってのけた
ドドドドンッ!!
最初に右と左を同時に撃った
その後、後と前を後ろ側の敵は確認せずに人の急所を確実に打ち抜く
ドドッドドンッ
後は“見えなかった”
そう、見えなかったのだ、早すぎて
気付くとルティちゃんの周りには敵兵が転がっている
時折呻いたり動いたりするので死んではいないのだろう
「大丈夫?怪我無い?」
「あっありがとう御座います」
ルティはミリルとココナを捕らえている網をナイフで切る
「うん・・・、それより凄いね・・・今の」
「あんなの朝飯前よ、大した事無いわ」
「アレが朝飯前・・・(ゾクリ)」
「それより、そこに隠れてる奴、さっさと出てきなさい?」
「「!?」」
大破したHDAの影から誰か出てくる
「おやおや、もう見つかってしまいましたか
鋭いですね、気配を消すのは得意なのですが」
「貴方・・・昨日の・・」
出てきたのは昨晩ハープを弾いていたバードだった
「何やってるのよ!ここは危ない!もうすぐ敵の本隊が・・っ!」
「心配には及びません、私も直ぐに立ち去りますので
長居するつもりはありませんよ
貴女の事が気になって様子を見に来ただけです
・・・一つ質問して良いですか?」
「何?」
「貴女はなんの為に戦うのです?迷える人々の為?利益の為?はたまた殺人趣向・・・?」
「私は・・・・・」
答えが出ない、今回の戦いは個人的な私情によるものだ、“人を守る”という使命を掲げてはいるものの、結局は被害を増大させただけではないか?
ゆーちゃんをあの場で殺してしまえば良い話ではなかったか?
「・・・答えは出ませんか・・・、また今度聞くとしましょう、では良い答えが聞けるのを期待しています」
「・・・」
「あっそれともうひとつ、“王”に呑まれないように、貴女は貴女の儘でいて下さい、自分を見失ってはいけませんよ?」
優しい笑顔で軽く会釈をするとバードは去っていった

その11 ゲイトさん

その直後に静かな風が吹いていった。
「何でバードがここに? それに、王って?」
「ご主人様、さっき誰かいたのですか?」
「え?」
唐突な言い方にルティが驚いた。
「今、吟遊詩人がいたんだけど、気付かなかった?」
「吟遊詩人? こんな危険な所に何でそんなのがいるのよ」
「ええ!?」
ルティの質問に割って入ったのはミリルだった、それも、本当に見えていない言い方だった。
後々シリルにも聞いたが同じ答えだった。
当の本人は安全を確認できたと同時にゆーちゃんを開放して遊んでいたのだが。
しかし、3人が見えなくて自分だけが見えている。
まるで、お化けか精霊を見たかのような話になっていた。
『バード、貴方は何者なの?』
その答えを知るものはここにはいなかった。

その頃、ルティの元から離れたバードは、竪琴で孤独な演奏をしつつアリスの待つ家に向かっていた。
楽しく、時に悲しいメロディーを流しつつ、静かに吹く風を横切りながら歩いていた。
やがて演奏をしながら切り株に座り、口を開いた。
「そこにいるのは分かっていますよ、軍人さん、いえ、シャレル・バウマーさん」
「こりゃ、驚いた、こんなところに吟遊詩人とはね」
そこにいたのは戦争の準備をしている筈のシャレルが立っていた。
「まだ、オリジナルを探しているのか?
 分かっているだろう、あれのオリジナルのお陰であんなのが量産されてるんだ
 だから、今こうなっているんじゃないのか?」
「それは貴方達軍の都合でしょう? 貴方はあれをどうするのか、その答えを探している。
 その為に彼女を呼んだのでしょう?」
バードの語る話にシャレルは黙ってしまう、加えてバードは話を続けた。
「ですが私はあの人で今を変えることは出来ないと思っています」
「戦うための理由か…」
バードがルティにした質問の内容だった。
彼女は、ルティは何を守りたいのか、何を示すために戦っているのか。
ただ軍のやり方が納得いかない、ただその一言で争ってるのであれば結局、火種はディーヴァでしかないのだ。
「兵器は、人の気持ちしだいで破壊、救い、どちらにでもなる、お互いに破壊を求めていればそれは
 永久の曲、その演奏を止めるには、誰かが終焉を引かなければならない」
バードの目が少し細くなった。
「まだ、"虚無の唄"を考えているのか?」
その言葉にバードは演奏を止めた、彼は一息付くとゆっくり口を開いた。
「まだ分かりません、ですが、ディーヴァが軍、少女共に、争いの火種でしかないと思うのなら、
 私はその唄を実行するまでです、分かっているでしょう、あれは人の感情に左右される
 最初の姫、いや守ろうとした彼女は最初のディーヴァに取り込まれた。
 それは、ディーヴァが女性を守ろうとし、彼女と自分を殺めようと軍が攻撃をしたから
 その結果、子態は成態と化し、軍に戦いを挑んだ」
バードの言う彼女、それは、精神こそアリスの体の中にいる精神体でもあった。
当の体はオリジナルの中にいるようですが。
そのうえ、バードの語った内容はまるで、シャレルがルティに見せた映像の事をそのまま言っているようだった。
「未だ、彼女はディーヴァの扱われ方に苦しんでいる、
 彼女はいつでも虚無の歌を歌うときを待っている、
 後は私が唄うかどうかの決断をするだけです、それはこの争いの結果によるものだと私は思っています」
そう言ってバードは話を終える。
「待ち人を家に待たせているので私はこれで失礼させていただきますよ?」
切り株からゆっくり立ち上がり、アリスの待つ家に向かおうとしたときだった。
再びシャレルが口を開く。
「あんたと俺が知り合いなのは皆にゃ内緒だ、最も俺と彼女しか見えていないと思うがな
 お前は別種のディーヴァ、それも鍵となる存在、俺は絶対に虚無の唄を、
 使う必要のない終わり方にしてみせる」
その言葉にバードは止まり、シャレルを見ずに口を開いた。
「そうなることを私も望んでいますよ、後はあのディーヴァの扱い次第です」
そう言って去っていった。
シャレルもバードが見えなくなるまでそこに立っていた。
「虚無の唄で連動して発動されるハルマゲドン(世界の破滅)は絶対に起こさせない、
 ルティならきっと、バスクの間違いを止めてくれる・・・多分な」
曖昧な台詞を言い放った直後だった、シャレルの通信機が急になりだした。
通信相手はやたら五月蝿いアインフィル大尉からだった。
通信機に耳を当てる前に耳に耳栓を入れておく、この後の対策のためだ。
通信を答えるボタンを押して、なるべく耳に声が入らないように耳に近づけた。
「中佐殿ォ〜!!何処で何をしているんですかぁ〜!!
 敵が近づいてきているのに何処をほっつき歩いているんですか〜!!」
鼓膜が破れんばかりの怒鳴り声、この大声対策用に耳栓をつけていたのだった。
最も、通信機を耳から遠ざけてはいたのだが、それでも大尉の声は結構響くのだ。
「すまないね、相棒、ちょっと散歩してた、この周りを見るのも最後かもしれないしな〜」
「またそんな風に呼ぶ!!、おちゃらけてる場合じゃないんですよ!!」
「わ〜った、わ〜った、今戻るよ」
そういって通信を切って基地へ引き返していった。

その12 せいばーさん

基地内司令室
「よぉ!相棒!」
「歯ぁくいしばれぇやぁ!」
「ぶべら!」
アインフィル大尉の必殺技「仕事をして下さい!」
書類の束が降り注ぐ!
シャレル中佐に3829のダメージ!
「今度という今度は許しませんよぉ!」
リミットブレイク発動!アインフィル大尉はバーサーカーモードになった!
「ちょ!おまっ・・・」
「死・に・さ・ら・せぇ−−−−−−!」
「ギャァァァァァァアアアアア!」
アインフィル大尉の超必殺技「司令官に減給申請しますよ!」
7098のダメージ!
シャレル中佐はリアル半殺しにされてしまった!
「うぉっ乱舞系だ」
「腕を上げましたね、大尉殿も」
「懲りないなぁ・・・中佐」

〜ルティサイド〜
「・・・(まぁ考えててもしょうがないか、今は先に進もう)
よしっ!ちゃっちゃっと終わらせますか!」
「はいっ!」
「しゃぁ!吹っ飛べぇーーーー!」
ミリルが基地の扉を盛大に破壊しルティ達は基地内部へ侵攻する
ヴーヴーヴー!
「侵入者を感知!総員、第一ゲートへ急行せよ!」
「シンニュウシャヲカンチ!コウゲキシマス!」
小型のロボットが天井から飛び出してくる
それを華麗な銃捌きで打ち落とすルティ
ミリルやココナも負けず劣らず出てくるロボを片っ端から壊してゆく
「弱いわね、まぁ小型自立兵器じゃこの程度か・・・ん?」
「いたぞ!攻撃開始!」
銃の連射による弾幕がルティ達を襲う
「フェンリル!極面結界(プロテクト)!」
「All right!(了解)」
シリルによって結界が展開され、弾を防いだ
跳弾によって壁や天井に風穴が空きそれによる土煙が立つ
「打ち方止め!」
兵が銃を撃つのを止めた
煙の中から一瞬赤い光が差す
「?」
後3秒早く、それを単純魔力砲がチャージの際に発する光だと気付いたなら部隊の全滅は裂けられただろう
煙が晴れると、杖を構えたシリルが立っていた
「〜解き放つは煉獄の劫火!必殺!ブレイズゥゥ・・バスタァァーーー!!」
「Blaze Buster!」
「伏せろ!」
回避も間に合わず、兵士達はシリルの放った魔砲に飲み込まれた
「・・・中々の威力じゃない」
「一応死なないように威力は控えたんだけどな・・」
「魔力砲の威力だったらココナを越えたわね」
「凄いです!」
そこに
「おーおー、やってくれたね〜君達」
シャレルがやってきた
「あらあら、自分からやって来てくれるとは親切ね
探す手間が省けたわ」
「それはどうもどうするつもりかは聞かねぇよ
・・・それはそうと、これが最後の警告だ此処から去ってくれ、ディーヴァを置いてな」
「・・・貴方の悪い所は人の話を聞かないことよ
さっき言わなかったかしら、私は切り捨ててきたモノの為にも自分を曲げたりしない」
「人の言う事を聞かない頑固者な所は昔と変わらんな・・
・・・さっき本隊から指令があった」
「「「「?」」」」
「我々は旧王都への侵攻を中止し、
一四〇〇時よりルティ・チャーフル及びディーヴァが潜むと思われる東側へ結界突破能力を付加したB式魔道破壊弾を用いて絨毯爆撃を開始する
現場に残っている戦闘員は直ちに東側より退却せよ・・ってな」
「B式なんか使ったらそれこそ街が跡形も無く・・!」
「分かっててやってんだろうな、
軍の面子が潰れるか廃墟を完全に消滅させるかを選んだとしたら、バスクは間違いなく爆弾を投下する
流石に俺も賛成しかねたから文句言ったら国家反逆罪で逮捕とか言われちまったよ部下もろともな」
「そんな無茶苦茶な・・」
「そろそろ俺たちを回収しに部隊がやってくる。その前に逃げな」
「何言ってるの!貴方達も一緒に・・・っ!」
「家族を人質にとられた、俺が逃げるようなマネすれば家族が国家反逆罪とやらで捕まっちまう
それに殺される様なことは無いさ、安心しろ」
「でも・・・っ!」
「・・・あっーたくっ、お前達がグダグダしてっからもう来ちまったじゃねーか」
「「「「!!??」」」」
武装した兵隊がルティ達の周りを囲む
「動くな!手を頭の後ろについて膝を地面につけろ!」
この場にいたのがルティ一行だけだったらこの兵隊達は今頃地面に突っ伏している所だが
今は非戦闘員であるシャレルとその部下がいた
下手に動けば殺さねかねない
「来い!」
「ちっ・・・」
「どうするんですか?ご主人様・・・」
「今は様子を見るしか無いわね・・」
「きゅーー!」
ディーヴァ(ゆーちゃん)が兵士に捕まり檻に入れられる
「ゆーちゃん!」
「うきゅー!」
ルティ達を乗せたヘリ轟音を立てては飛び去っていった

その13 娯楽人さん

〜名も無き丘〜
「あっお帰り〜バード♪」
「ただいま、アリス」
「ねぇねぇ、アリスいい子にしてたからお土産!」
「はいはい…お土産はお花だよ」
「わぁ〜…かわいくてきれいな花…この花は何ていうの?」
「ん?…う〜ん私は花には詳しくないからね」
「そっか〜…ねぇバード…歌を歌って」
「今度はおねだりですか?」
「うん…あの歌がいいなバードが初めてアリスに聴かせてくれたの」
「分かりました…じゃあちょっと離れて」
「うん」
バードが竪琴を構えると周囲の空気が止まる
そして、流れるような旋律に乗せて歌う
その歌は彼の苦悩や悲しみさえも払う
そんな優しい歌だった。

一方その頃
〜軍総司令部 地下2F 牢獄〜
(ギィ〜〜〜……ガシャン!!
「ここがお前らの家だ、せいぜい残りを楽しく過ごしな、ひゃひゃひゃひゃ!」
薄汚い笑い声を放つと男はそそくさと立ち去った
「うに〜…ご主人様大丈夫ですか?」
「いたた…大丈夫よ…」
「う〜…牢屋やだよぉ…くらいよ〜」
「みーちゃん緊張感無いよ…」
「だってシリル…怖いものは怖いでしょ?」
「みゅ〜」
「とにかく…今は体力を温存しましょ何されるか分からないしね」
「何かって…嫌な予感しかしないんだけど」
「考えたくないけどね…まあ今は寝ましょ……」
ルティはすぐ横になると静かに寝息を立て始めた
「早…じゃあ私達も寝ようか…」
「みゅ……ゆーちゃん…大丈夫かな…酷い事されてないかな」
「きっと大丈夫ですよ、だから頑張りましょう」
「くーちゃん…うん…」
「おやすみなさい」
「おやすみ〜」
「おやすみなさいです」
こうして牢獄で一夜を明かす事になった

その14 ゲイトさん

その頃、ゆーちゃんは別室にいた、周囲には2人の兵がゆーちゃんを見ていた。
「こいつがディーヴァ」
「なんて姿だ、こんなのがアーリアを滅ぼしたとは思えん」
「誰もがこの姿を見たらそう思うだろうな、まぁ地下にあるあれと比べたら断然普通だがな」
「地下? あぁ あれか あのオリジナルとかいう」
「フッ、お偉いさんはあれをどうするつもりなのかねぇ〜元中佐はあれが俺達の罪そのものだと真顔で言ってたが」
「動かなきゃただの巨大生物だな ハハハ」
「ちげぇねえ、地下にあるあれがこいつと同じ存在だなんて、子供の寝言じゃあるまいし」
等と、シャレルを馬鹿にする声や、ディーヴァに関する話をゆーちゃんの前で述べていた。
「そういえば、明日だろ?」
「あ〜あの亜人3人の、ストリップショーだっけか?
 確か俺らの元お仲間であるルティをこちらに従わせるためにやるんだっけか?」
「あぁ、それも媚薬のガスを使って舞台の上でオナニーさせるつもりらしいぜ、それも兵達の前でな。
 オマケにこの要塞内全テレビ画面に出るんだろ? 俺達にとっちゃ良い欲求満たしだな」
2人の兵の会話を理解できないゆーちゃん、だが彼の心の中ではある決意があった。
もし、ご主人様(シリル)達の身に何か起こるのなら、僕は、ご主人様たちを守る、そしてこいつらを破壊する。
旧アーリアの再来を巻き起こそうとしていた。

一方同じく別室には、両腕を椅子の足に縛り、身動きを取れなくした、シャレルがいた。
扉越しに誰かがいる、それはバスク本人だった。
「無様だな、シャレル、何故、命令を無視した」
バスクの言葉にシャレルは耳を傾けない。
「まぁいい、お前の処刑は明後日、覚悟しておけ」
そう言ってバスクは去ってしまった。
「あの森にB式魔道破壊弾を落としちまったらイニスの野郎はキレるな、くそ、どうすることも出来ないのか、俺達は滅び行く者達なのか…」
自分の無力さに悔しさを感じるシャレルだった。
そのときだった、扉についている窓から、シャレルを覗く者がいた。ジャンカルロ・アインフィル大尉だった。

その15 せいばーさん

アーリア王国新王都タルコダ郊外
旧北部最重要軍事拠点 現アーリア国軍総司令部「アームズフォート」
中央司令部地下一階
「将軍、亜人三人とルティ・チャーフルの処遇についてですが・・」
「予定どうり進めろ、20時より始める」
「了解しました」
アインフィルとバスクが廊下を歩きながら話している
「時に大尉」
「何でしょう」
「裏切り、とはどの様な気分だ?」
「裏切り・・・ですか、幾度と無く経験をしましたが、やはり気分の良い物では無いですね、・・・それが何か?」
「いや、聞いただけだ、気にしないでくれ」
「そうですか、では、私はこれで」
「うむ、ご苦労」
バスクと分かれるアインフィル
「・・・何度も人を裏切った私ですが、何故か貴方(シャレル)には助かって欲しい
何故だろう・・、私に人を想う権利など無いのに・・・」

〜ルティサイド〜
「・・・・・・」
「どした?」
「いや、ちょっと考え事を・・・」
先程は寝ようとしたのだが床はコンクリートで出来ており、しかもそれ何所となく湿っている
更に精神不衛生など様々な要因が重なった為寝れなかった
ルティ達はほの暗い牢獄の中である程度予測出来る自らの未来に絶望しつつ延々とその時を待っていた
「あ〜、流石軍事大国、魔法対策もしっかりしてるなぁ
魔法の初期構築すら出来ない、
あっ古代魔法もダメか・・・・こりゃ精霊遮断してるわね・・・」
魔法の構築には当然ながら魔力が必要となる
魔法を発動するには自然界に存在する精霊の力と自らの魔力
これ等が合わさって初めて魔法が完成するのだ
その内どちらかが欠けても魔法は完成しない
今のルティ達の場合その牢獄だけ精霊が近寄れないようにしているのだ
(因みに精霊は形を有することが無い、即ち人々の認識の中の形だけである)
「おい、お前等!牢から出ろ!」
「「「「・・・・・」」」」
ガシャン・・・キン×4
一人一人に金属製の首輪を着ける兵士
「これは最新式の精霊遮断機だ、これがある限りお前等は魔法を使えんぞ、覚えておけ」
「フンッ・・・」
「まぁ調子付いてられるのももう少しだ、この後の何が起こるか楽しみにしておけよ」
並んで兵士について行く
「(何する気ですかね)」
「(さぁ、どうせロクな事じゃないわ)」
暫く歩くと大きな扉の前に着いた
ギィ・・
兵士が扉を開ける
「入れ」
コツコツコツコツコツ・・・
「レディィィィス!は殆ど居ないけどジェントルメェェェンズ!
さぁ!これから普段堪りに堪った欲求を吹っ飛ばしてくれる事請け合いのストリップショーの始まりだぁ!」
「・・・こんな事だろうと思った」
「ふぇぇ!?脱ぐですか!?」
「今回は軍事的重要項目もあるのでルティ・チャーフルは残念ながら脱がない!」
「「「「「「オォ〜〜〜〜〜↓↓」」」」」」
「だがっ!取り合えず今はこの三人のショーを楽しんでくれ!
ショーが終わり次第三人の輪姦予約を開始するからそっちも忘れるなぁーーー!」
「「「「「「オォーーーーーーーーーィ↑↑」」」」」」
「あら、誇り高きアーリア軍が随分と低俗なマネをするじゃない」
「意外とそんなもんさぁーーー!」
「・・・・・」

その16 ゲイトさん

「さてルティには特等席に行ってもらおうか」
「どういうこと?」
「いずれ分かる」
そう言うとココナ達のみ舞台に残し、ルティともう一人の兵は別の部屋へと移された。
そこは、今ココナ達がいる舞台に直接見える部屋、いわば照明の部屋でもあった。
下の階には3人の亜人をみて興奮する兵達でいっぱいだった。
「私をここへ連れてきてどうするの?」
「お前をもう一度こちらに従わせるためだ」
「何度も言わせないで!! 私は私の意志で動いているの、何をされても仲間にはならない!!」
「そうか、彼女達がどうなっても…か?」
「え?」
「あの舞台を見ているといい」
そう言うと、兵は力任せにルティを椅子に座らせ、両腕を後ろに回し、バインドで固定させた。
後々、体もバインドで固定させた。
「彼女達に酷い目に合わせたらただじゃ置かないわ」
「彼女達の命はお前が握っている、よく考えることだ」


「さぁ、ショーが始まった、脱いで貰おうか」
「断るわ、何であんたらに私達の体を見せなきゃいけないのよ、体の前に武術を見せてあげるわ!!」
その言葉と同時に、ミリルは兵に握り拳を叩き込んだ。
「おっと」
だがすんなり交わされ、両腕を押さえられてしまう。
「手荒なマネをしない方が良い、お前らがそんな事すればお前達のご主人様は死ぬことになるかもしれないんだぞ?」
「「「!?」」」
その一言でミリルの力が弱まった、別の部屋で何をされているのか分からないルティ、
もし近くで私達が暴れているのを見ていたらどんな目に合わされるか、
おまけにルティの近くにも兵がいるし、精霊遮断機を付けられている今、魔法が使えないルティが圧倒的に不利だった。
「嫌なら従ってもらうぞ」
「くっ」
兵が手を離す、ミリルは手を出さなかった、別室にいるルティ、もはや人質をとられているのと同じだった。
「さぁ、それぞれライトの下に行ってもらおうか、犬耳の小娘が中央だ」
ココナ達は、兵の指示に従い、ライトの下に立った。
舞台の前には何やら透明な壁が貼られており、そこには何も通さないように出来ていた。
その壁を壊さんとせんばかりに兵が3人を見ていた。
「うにぃ〜…怖いです〜」
「なんと言われても脱がないわよ…」
「みゃぅ〜」
3人がライトの下に立った事を確認した兵はあるレバーをおろした。
同時に左右からも先ほど説明した壁と同じ物が現れ、さらに証明のライトのさらに上から何かのガスが噴出し始める。
「これでお前達は嫌でも脱いでしたくなる、何せ森で取れる媚薬の食物を使った特性媚香だからな」
ガスがココナ達を覆い始める、同時にココナ達の体に異変が起こり始めた。
「うう、かっ体が、熱いですぅ〜」
「ココ、ナ、これ媚薬の…駄目、はぁ、はぁ」
ココナとミリルが崩れ始める、だが、一番初めに動いたのはシリルだった。
「みゃうぅ〜、はぁ、はぁ、熱ぃ、したいよぉ〜」
シリルが服に手をかける、その行動に兵達もどよめきが上がった。
「あんな控えめな娘が大胆にも最初に始めるとは」
「お〜こぶりな胸が可愛い〜あいつ俺が一番に狙ってやる!!」
「シリ、ルさぁ〜ん、私、我慢しているのに…」
「ココナ…ごめん、私、もう、駄目…」
「ミリルさんまでぇ〜はぁ、私も、もう駄目ですぅ〜」
気付けば3人とも服を脱ぎ始め、秘部を濡らしながら指でいじり始めていた。
「はあぁ〜ん、あっ、きっ気持ちいいですぅ〜」
「みゃあ、みっ見られているのにぃ〜恥ずかしいのにぃ〜」
「みゃぁ〜気持ち良いよぉ〜」
3人の甘い喘ぎ声が聞こえる、その動作に兵は興奮を抑えられずにいた。

ルティのいる部屋ではオナニーを始めた三人を見て騒然としていた。
「分かりますか、貴方が従わなければ、彼女達はずっとあのままですよ」
「止めなさいよ!! やるなら私を…」
「そう言うわけには行きません、人質なのですから」
「えっ」
舞台の見せしめにされているココナ達に苦しみを感じ始めるルティ。
「貴方が従わなければ、彼女達はあのままです、
 精神的にあ〜なってしまうか、それとも兵たちに輪姦されて死んでしまっても
 それは貴方の責任になるのですよ?」
兵の言葉に何も出来ないルティ、涙が零れそうな悔しさを感じていた。
「何故我らに手を貸さなかったのです、我々に従っていれば、こんな強硬手段はしなかった。
 貴方自身がこんな泥沼の状況を作り上げてしまったのですよ? 
 今、貴方が手を貸してくれれば、B式魔道破壊弾を落とす必要もなくなるかもしれないんですよ?」
選びようのない選択に、ルティは選択を迫られていた。
やがて、握り拳を解き、ゆっくり口を開いた。

その17 せいばーさん

「チッ・・・わかったわ、な・・仲間に・・・なる」
苦渋の決断だった、仲間が人質に取られているこの状況では従うしかなかったのだ
「・・良い返事が聞けて嬉しいですよ(パチンッ!)」
「(コクリ)ここでお知らせだ野郎共!
先程お伝えした輪姦パーティーはルティ・チャーフルの降服宣言により中止になりましたぁ!」
「何ィ!?どういう事だ!?」
「責任者出てこいや!」
「みっ●みくにしてやんよ!」
当然ブーイングの嵐
「・・・あっー!ギャーギャーうるせー!蜂の巣にすんぞコラァ!(ダダダダダダダダダダダダ!!)」
「うぉあ!?あっ汚ぇ!あいつ銃持ってんぞ!」
「総員退避ー!」
バタバタバタ・・・・・
司会のブチ切れによりココナ達のオナニーショーは終わりを告げた
「・・・もういいでしょ!?ココナ達を元に戻して!」
「言われなくとも、おい、お前等!鎮静剤を彼女等に!」
「ハッ!」
今だ自慰行為を続けるミリル達に鎮静剤が打たれる
「くぅ・・え?何・・・・ぅぁ?」
三人の体から急に力が抜け、兵士の腕の中に落ちる
「これを着たまえ、一時的とはいえ、仮にも我が軍の兵になるのだからな」
そう言ってルティに青い軍服を渡す
「フンッ・・・・」
それを不機嫌そうに奪うルティ
「三十分後に将軍の所へ行きたまえルティ・チャーフル中佐、将軍がお待ちだ」
「・・・・・」


基地内女性更衣室
「・・・・(またこれに袖を通す事になるとはね・・)」
着ていた服を脱ぎ軍服を着るルティ
「(中佐・・・か)」
肩には黒地に赤と黄色のラインが二本づつ縫ってある
「ふぅ・・・(バスクの所に行くんだっけ・・・)」
ルティの格好は指定のズボンに黒のTシャツ、その上にボタンを留めずに上着を羽織るといった格好だった
普段からは想像できない様な姿だがそれが結構似合っていた
「はぁ・・・なんか憂鬱」
ルティは扉を開けて将軍の部屋へと向かった


コンコン
「入りたまえ」
ガチャ・・・
「・・・待っていたぞ、ルティ・・」
「随分と偉くなった物ね、バスク」
「いやぁ、手駒というものは幾ら使っても代わりが居るのでね、遠慮なく使ったまでさ」
正直な所、はらわたが煮えくり返る様な思いだった
人の命をゴミ同然の様に扱うバスクと、この様な奴に頭を垂れた自分が憎くて仕方が無かった
「で、今後の君の処遇についてだが・・・」
「言われなくてもわかるわ、他国の侵略でしょ?」
「話が早いと助かるな、君も知っているとおり、我がアーリアとセオドアは冷戦状態にある、
そこで、君には敵の最前線基地を叩いてもらいたい、難しい仕事ではないはずだ、無論一人でとは言わん、我が軍の兵を存分に使ってくれたまえ」
「最前線って言うと・・・・絶対要塞(グレート・ウォール)か」
「あぁ、あれを壊さなくては侵略など話にならんのでな
それと・・・・・」
「(やりたくないけど・・・ココナ達の為だもの、我慢しなくちゃ)」
「・・・とゆうわけだ、作戦開始日時は1週間後だからーって、聞いているかね?」
「え?あぁ、聞いてるわよ」
「ならよい、・・・そうだ今後会える機会も少ないだろう
友人に挨拶でもしたらどうかね?」
「・・・・」


「ん・・・?」
目を覚ましたらまた牢屋の中だった
体の疼きは収まっていた
時間を見るとさっきのショーから三十分以上が経っている
「うに・・?「・・みぃ?」
「あっ起こしちゃったか、まだ寝てて良いよ」
「いえ・・そういう訳にも・・・」
「そういえばちーちゃんは・・・?」
「あれ!?もう!こんな時に・・っ!」
「何言ってるのよ、私ならここにいるじゃない」
鉄格子の外にルティがいた 「ルティちゃん!?何で外に・・・ていうかなんでアーリアの軍服着てるのよ!?」
「ちょっと訳ありでね、一時的にだけど軍人として働く事になっちゃった」
「えっ!?どうゆう事ですか!?ちゃんと説明してくださいご主人様!」
「・・・・・・・ごめんね?」
その目には、一筋の涙が
「えっ・・?ルティちゃん!ねぇ!」
「ちーちゃん!」
「ご主人様!」
ルティは振りむくことなく去っていった

「なんなのよ!もう!」
「ご主人様・・どうして・・うぐ」
すると、牢屋へと繋がる扉が開く音がした
ギィ〜ガシャン
「ご苦労であります!」
「「「?」」」
コツコツコツ・・・
「初めまして、亜人の皆さん?
私はジャンカルロ・アインフィル」
「・・・何か用?」
「貴女達にお願いがあって来たの、
・・・その・・・シャレル中佐を助けて欲しいの」
「シャレル?シャレルってあのー・・ルティの友達の・・」
「そう、彼は今此処の地下に閉じ込められているんだけど
明後日には処刑されちゃうの、それを阻止して欲しい」
「・・・見返りは?」
「貴女達はもちろん、ルティ・チャーフルも一緒にこの国から脱出させてあげる」
「その前にこの首輪をなんとかして欲しいんだよね肩こるし」
「明日の朝までに探しておくから、牢から出る時は私も手伝ってあげる」
「・・・・信用していいんだね?」
「えぇ、私は彼を助けたいの、でもそれは私だけの力じゃ出来ない、だから貴女達に助力を頼んだの」
「分かった、明日の朝だね?」
「頼むわよ」
コツコツコツ・・・・
ギィ〜
「今の人の話・・・信じるんですか?」
「信じるも何も、今の私たちにはそれに縋るしかないのよ
悔しいけどね」

その18 娯楽人さん

時は過ぎ、翌日まで進む
ルティは今アーリア軍と交戦中のセオドア共和国が誇る軍事要塞
グレートフォールを攻略のための戦略会議をしていた
「やはり大きいわね…」
流石に要塞の名は伊達では無く全長5`に及ぶ鉄の壁
難攻不落の名をほしいままにしてきた鉄壁の要塞である
ルティも若干狼狽していた
「中佐指定された物資の準備が整いました」
「分かったわ、それでは配置及び分配も指令どうりにね」
「了解です、しかし…ルティ中佐あの言葉は本気ですか?」
「もちろんそのために貴方にも副官を勤めてもらうのよ」
「光栄至極であります」
「例えどんな手を使おうともね、私は宣言どうり死傷者を出さずに勝ってみせるわ」
数時間前の演説にてルティが宣言した内容は…
1、本作戦中死亡者を出さない(命令違反の場合は除く)
2、兵士を守りきった場合ルティに忠誠を誓って貰う
3、守りきれない場合は全兵士によるいかなる責め苦も受け入れる
以上の3点である
これは無謀な賭けでもありもし成功すれば今居る兵士の全員を味方に巻き込めるという
まさにハイリスク・ハイリターンな賭けだったが
果たしてルティに勝算はあるのだろうか…?

一方その頃
「ふぃ〜…助かったぜ相棒…」
「その呼び方…まあもういいですよ相棒でも何でも」
「でも本気で警備手薄だったね〜」
「うにぃ…でもご主人様は大丈夫なのでしょうか…?」
「あははは、ルティちゃんなら心配無いよきっと…それより今は私達が脱出するのが先決だから」
「しかし…よくこの3人を味方に付けたな…」
「ギブ&テイク、私にも利点はあり彼女達にも利点があったただそれだけですよ…中佐…(ぎゅ」
「!!!?…おま…む…胸ぇ!?」
「…中佐…」
「うぅ…まさか女だったなんて聞いて無いぜ相棒…」
「私も一言も男だと申した覚えは無いですよシャレル中佐?」
「……まあ…確かに(苦笑」
「ほ〜らいちゃついてないで、逃げる準備しましょ」
「ゆーちゃんも助けないと…」
「ディーヴァまで助けるのか…」
「うにっ!ミリルさん気づかれたみたいですよ!」
「ほらっ急いで!」
全員小走りでその場を離れる
目指すはゆーちゃんの救出及びルティの奪還
時間に猶予は無い…

「所で…ジャンカルロって言うのも本名じゃないんだろ?」
「本名はユーリアです、ジャンカルロは叔父の名ですよ」
「…(名前可愛いなおい」
「何か?」
「いんやぁ〜とにかく急ぐぜ!」
「はいっ!」

その19 ゲイトさん

一方ディーヴァが保管されている部屋ではとんでもないことが起こっていた。
ディーヴァがいたとされる牢屋の鉄格子は飴のように曲がっており、あの小さいディーヴァがやったようには思えない程の曲がりようだった。
その見張りについていた学者2名も、息を引き取っていた。
周囲には裂かれたような爪後があり、機械も黒い煙と稲妻を上げていた。
しかも、そこにゆーちゃんの姿はない、ここへ繋がる扉は破壊されていた。
一体何が起きたのか。

この事態のなる前の話
「お〜良いじゃん、3人の娘が一つ一つのテレビに映っているじゃないか」
「これは、いい余興になるな」
「お、一人動いたぜ、流石は俺達が開発した媚香だ、軽く落ちたな」
等と声を上げてココナ達がオナニーをしているシーンがテレビに一人一人映っている。
二人の学者は椅子に座りながらその様子を見ていた。
「こりゃ兵共もたまらないな」
自分の仕事を忘れてテレビに夢中になる2人、だがこの映像を見ていたのは、彼らだけではなかった。
牢屋にいた可愛い兵器もその映像を見ていたのだ。
撒かれるガスに本位ではない動作をさせられているご主人様達、それを見て楽しむ2人の男、ゆーちゃんの中から徐々に怒りが目覚めた。
「もう次期だな、って何ぃ〜〜!?」
「あ〜らら、ルティ降服か、それじゃあしゃあないな」
「くそぉ〜もうちょい粘れよルティの奴ぅ〜」
「まぁこれ以上にない味方が出来たんだ、ディーヴァも俺達が抑えている、怖いものはなくなったな」
「よし、ならこのシーンを取り出すか、それでも兵達の足しにはなるだろうよ」
等と兵が話していると、後ろから妙な足音が聞こえる。
「なぁ、何か、後ろから妙な息が吹き込んでこないか?」
「お前もか、何か凄く嫌な予感がするのは俺だけか?」
「違うと思う、一斉のせで後ろを振り向くか?」
「だな、せぇ〜の」
くるっと振り向いた瞬間、二人は凍った、そこには、映像演習で見せてもらったディーヴァの姿があった。
それは怒りの感情が爆発し、暴走モードになりかねないゆーちゃんの姿があった。
2人は、あまりの事態に思考が付いていってない、我に返った時は既に遅かった、ゆーちゃんは両腕を豪快に振り回し、2人の学者を巻き込んで暴れまわった。
部屋にある機械、部屋の鉄の壁、ありとあらゆる物を引き裂き、破壊した。
テレビに映る悲しい表情をするシリルの顔を見て、何かを誓うとゆーちゃんはゆっくりと自分のいた部屋を後にする。
悪夢再来、旧アーリアと同じことが今巻き起ころうとしていた。


「始まりましたか、ディーヴァの怒りが、やはり彼女も同じ過ちを犯してしまった」
「行きましょう、イニス、虚無の唄を歌いに、私の体の眠る、オリジナルの元へ」
「分かりました、アリス、行きましょう、アーリアの地下に眠るオリジナル(最初)のディーヴァの元へ、虚無の唄を引きに」
丘からアーリアを見下ろす2つの影、それは、かつて吟遊詩人と呼ばれた男と、甘えん坊の少女の姿があった。
しかも、吟遊詩人には何か別の力が開放されているような違和感があり、
アリスには、あの甘えん坊のアリスとは違い、何か別の人格が入り込んでいた。
「さぁ、全てのマナを星に還そう」
2人のディーヴァがアーリア基地に歩みだす。

その20 せいばーさん

セオドア軍最前線基地「グレートウォール」から190q
アーリア軍北部最重要拠点「アームズフォート」第一ドッグ
「配備は順調かね?中佐」
バスクがルティに話しかける
「ご覧の通り準備は万全よ、まだ何か注文が?」
ルティの前方には戦車や戦闘機、果ては装甲車までもが準備されていた
整備兵や一般兵が忙しそうに走り回っている
「今回の作戦、上手く行くかな?
“犠牲者ゼロ”とは・・・よく言ったものだな」
バスクが皮肉を込めて言う
ルティがバスク達と決めた作戦はこうだ

1、第一陣として一撃離脱(ヒット&アウェイ)方式を用いてネイト式高速戦闘機(×30)とセリオ式対地爆撃機(×40)で敵地上・航空部隊及び要塞本体を攻撃
この時、オールレンジモードはオフ、前方への移動のみとする
攻撃後戦域から離脱

2、戦闘機の離脱を確認後、量産型地上戦艦(×3)「セイレン」及び量産型空中戦艦「ガルーダ」(×4)
Y−46式移動砲台・A−22式ミサイルによる一斉攻撃を開始

3、敵地・空部隊をある程度破壊した後、H・D・A部隊・戦車・ガンシップ部隊を投入
航空部隊は戦域に復帰し敵地上・航空部隊及び要塞本体に攻撃
この時はオールレンジモードを起動、ドッグファイトを展開
同時に城壁破砕艦「カブラカン」(×5)を出動
各部隊は敵残兵を殲滅しつつカブラカンの壁破壊を確認した後に要塞内部に進入、制圧する

*今作戦のおいて、B式魔道破壊弾の使用を許可
*1・2の作戦を実行中、軍本部「アームズフォート」は対空・地ミサイル及び長距離魔砲による狙撃を実行

「やるといった以上やるわ、この意味は分かるでしょ?」
「分かっているさ、それはそうと、セオドアの連中が我々の動きに気付いたようだ、よって、作戦実行を早める2日後だ」
「そう、まぁこの位の事は頭の固いフェンチェ達(アーリア語で馬鹿の意)でも予知出来るでしょう、想定の範囲内よ
ま、頭が固いって部分では老人方(元老院)も同じでしょうけどね」
「ふふ、違いない、この作戦に元老院は大反対だったからな
元老院に内部調査者を送っておいて正解だったよ
弱みを握れば奴等も只の老い耄れだ
セオドアにスパイを送って内部工作だかなんだか知らんが
その様なせこい真似で落とせる程セオドアは甘くない
あれは・・・そうだな、一枚岩だ、大きな一枚岩
全てにおいて強固な絆で結ばれている
そこだけは評価に値するよ」
そこに一人の兵士がやってくる
「中佐!陸・空軍の準備が全て整いました!指示を!」
「そう、ご苦労様、今日は全員自由待機(オフシフト)にしていいわよ、
あっそれとは別に定期点検も忘れずに」
「了解しました!」
「では、あとは頼んだぞ、私は用があるのでな失礼する」
「・・・・勘違いしないでね、これはこの国の為じゃないんだから」
ルティが厳しい面持ちで言う
「分かっているさ、君の友人の為・・・だろう?」
そう言うと、バスクは去っていった
「・・・友人なんてもんじゃない、家族よ・・・」

攻撃開始まで、後2日

その21 娯楽人さん

「な、何があったのこれ…」
シャレルとミリル達一行はゆーちゃんが捕まっているはずの部屋まで来ていたが、そこにあるのは研究員がずたずたにされた惨状のみがあり、ゆーちゃんの姿は何処にも無かった
「大方例の放送で怒ったんでしょう……」
「多分な…全く馬鹿なことを…やばいな」
「何がやばいの?」
「こんな状況じゃイニスの野郎も動く…最悪の場合虚無の歌を発動させる…」
「虚無の歌…?」
「まさか…例の世界再生の歌?」
「ああ、世界再生と銘打ってはいるがその実態は全ての生物を無に帰す滅びの歌だ」
「えっ…でも世界再生って?」
「人間及び全ての生物を一旦リセットする、そうすれば世界はまた再生するだろ?…そういう意図の元の消滅の歌だ勿論その歌い手も無事には済まない」
「そんなものをどうして・・・?」
「二人とも喋ってる暇は無いですよ、歌姫を止めないと本当に歌われてしまいますから!」
「ああ、違いない急ぐぞ!」

その頃…
「中佐!中佐ぁ!!」
「騒々しいわね…何事?」
「それが拘束されていたディーヴァが檻から脱走し現在暴走中!既に被害者も出てます!」
「なんてこと……っく、現在位置と詳しい状況を教えなさい!」
「はっ!現在ディーヴァは東ブロックを目指し移動中、進行方向にバリケードを展開してますが持って10分足らずかと」
「…進行方向に居る兵士は全員退去!ディーヴァの邪魔はしないで!」
「はっ!?しかし既に犠牲者も出ています!他のものも含め自分も納得できません!」
「悪戯に犠牲を増やすの?いいから早くしなさい!」
「…了解…」
兵士が出ていくとルティはこと切れたように椅子に体を投げ出す
ゆーちゃんが向かっているのは東、丁度あのショーが開かれた区画である
なら、ゆーちゃんの目的は一つシリル達の救出に他ならない
「…こんな事になるなんて」
ふとバードの言葉が浮かぶ
『貴女はなんの為に戦うのです?迷える人々の為?利益の為?はたまた殺人趣向…?』
「まだ、答えは出せそうに無いけど…ゆーちゃんを止めなきゃ!」
そう言ってルティは立ち上がり扉を勢い良く開けると東ブロックに急いだ
自分が動いてどうにかなるとは思っていなかったが
それでもルティは急いだ、この時彼女の心に小さな変化が生まれていたのだが
それはもう少し後の話になる。

〜基地外の荒野〜
「…さっきより酷い怒りね」
「…すまない」
「何でイニスが謝るの?」
「こうなる前に止められなかった…」
「貴方のせいじゃないわ…それに止めようとはしてくれたんでしょ?」
「当たり前だよ…アリス…」
「…ねぇ本来の名では呼んでくれないの?」
「…全てに決着が付いたら呼ぶよ」
「…そう…うん…じゃあ行きましょう」
「ああ、…君の体を取り返しにね」
アリスに宿る精神は知っていた
この人は私の名を呼ぶのを恐れている、
自責の念に押しつぶされるかもしれない、だから躊躇っている
そんな、そういう繊細で壊れそうなもろさも
好きな彼女には、もう何も言えなかった

こうして、決断の時は迫る
虚無の歌がこの地に響く事になるその時が…

その22 せいばーさん

中央ブロックE-7通路
「こちら第三小隊!ハンスが重症だ!衛生兵はまだか!」
隊長と思われる男が腹部から出血している隊員を抱え無線機片手に叫ぶ
「ダメだ!ハンドガンと小銃じゃ埒が明かん!
ガトリングかチェイン持って来い!」
「もうバリケードが持ちません!決壊します!」
戦闘の最中、無線に通信が入った
「ザザッ・・戦闘中の第三小隊に通達!東ブロックへ進行中のディーヴァへの攻撃は中止して撤退してください!繰り返します!ディーヴァへの攻撃は中止してください!」
「今更!?ふざけんな!」
「現場指揮官の命令です!撤退してください!」
「・・クソがっ!撤退だ!おい、ハンス!しっかりしろ!」
「グオァァァァァァァアアアア!!」


北ブロック 東ブロック連絡通路
「現状は?」
「命令の通り、交戦中の第三小隊を撤退、ディーヴァは施設を破壊しつつ進行中です」
「そう・・、・・・突然で悪いけど私が出る」
「なっ・・!正気ですか!?手榴弾の直撃でも微動だにしないんですよ!?いくら完全体で無いとは言え・・っ!」
「問題ないわ、短い期間とはいえ、何日かは一緒に過ごしたんだからなだめる事ぐらい出来るはず・・・
出来なかったら力ずくで止めるわ」
「しかし・・・っ!」
「大丈夫、こればっかりは自信があるの、やらせて頂戴」
「・・・・了解」

東ブロック第二講堂
今だ幼体の面影をうっすらと残すゆーちゃんが暴れている
ミリルやシリルを探しているのだろう
「グァァァァァァァァ!!!」
「・・・・ゆーちゃん」
「!!!」
こちらに気付いたのか、近づいてくる
「グォォォォォォォオオオオオオ!!!!」
極度の興奮状態にあるのか、ルティを見ても分からないようだ
アーリアの制服を着ているのも一因だろう
そこに居たのは、ゆーちゃんでは無く、一介の怪物だった
「ゆーちゃん・・・」
不思議と怖くは無かった
寧ろ安堵の感情があった
「ガァァァァァアアアアアアアアアア!!!」
ディーヴァが前足を振りかざしルティを叩き飛ばす
「キャッ!」
鈍い音を立てて壁に叩きつけられるルティ
「大丈夫・・・大丈夫だから・・」
「グゥ・・・・ガァッ!
怯えを見せないその姿勢に気圧されたのか後退りするディーヴァ
「もう、怖くないからね?ほら」
ディーヴァの顔に触れようとするルティ
すると
「グゥッ・・グァァァァアア!」
ルティの制服に大量の血が滲む
右胸から右二の腕にかけてディーヴァが噛み付いた
それを諸共せずに優しくディーヴァの顔をさするルティ
「・・・ごめんね、怖かったんだよね
もう大丈夫だから、シリルもミリルもココナだってもう大丈夫だよ
だから、安心して」
「グゥ・・・・・」
興奮が落ち着いたようだ、噛み付いていた口を離し、
申し訳ない、とでも言うかのように顔を擦り付けるゆーちゃん
そこに
「ゆー・・・・ちゃん?」
「ちーちゃん!?どうしたのその怪我!?」
「いや、心配しないで見た目だけだから」
「おいおい・・・マジかよ・・完全体の一歩手前じゃねぇか・・」
シリル達がやってきた
拘束されていた地下から此処まで来るのはさぞかし骨が折れたことだろう
シリル達に気付き走り寄るゆーちゃん
「グゥゥゥゥゥ・・・」
「ゆーちゃん!」
姿こそ違うものの、シリルに懐くその姿は紛れも無くゆーちゃんだった
「よかった・・・なんとか成功ね・・」
床に座り込むルティ
「って!それよりルティ!その怪我は大丈夫なのか!?
凄い出血だぞ!」
「大丈夫に見える?指を噛まれたナウ●カとは訳が違うのよ?相手も小動物と巨大生物よ?」
「言ってる場合か!救護班を呼んでくる!」
「呼んでくるって・・・本来なら貴方殺される身よ?」
「う゛っ・・・」
「取り合えず自分で治療してるから大丈夫
これでも医療系魔法は得意なんだから」
「そうか・・・、なら良い」
「クスッ、・・・心配してくれてありがと」
「なっ!別に心配なんかっ!」
「ふふふ、誤魔化すなって、顔が真っ赤だぞ?」
「くっ・・・・」
「あー面白い・・・さて、話を戻すわよ、ココナ達がここに居るって事は脱獄してきたんでしょ?
誰に手伝ってもらったの?・・貴方?え〜と名前は・・」
ユーリアに問う
「ジャンカレロ・アインフィルです、
偽名なので普段はユーリアと呼んでくれれば」
「そう、ユーリアはどう言った状況?」
「彼女等とシャレル中佐の脱獄の手引きを
顔が割れているかは分かりませんが、恐らくバレているでしょうね
期待は出来ません」
「・・・わかった、で、どうするの?そろそろ部隊がやってくるはずよ、逃げるの?」
「まさか、こっちにはコイツが居る、ディーヴァを餌に交渉するさ」
「ディーヴァじゃなくてゆーちゃんです!」
「ゆーちゃん?・・・・あぁコイツの名前か」
「交渉・・・ね、成功するとは思えないけど」
「何言ってんだ、こっちには無敵の魔王様がいるじゃねぇか」
「バスクにしっかり交渉してくれよ、俺アイツ苦手なんだ」
「・・・魔王?私?」
ルティが自分を指差し問う
「「「「「・・・・・」」」」」
無言の返答
先日のロボット戦を見れば誰もがそう形容したくなる
「バスクにしっかり交渉してくれよ、俺アイツ苦手なんだ」
「・・・死神の次は魔王か・・・・まぁいいわ、よし!怪我も治ったし!行くか!」
「おーっ!」

その23 ゲイトさん

一向がバスクの元に向かっている中、バスクはメインフロアにいた。
今までの状況でバスク自らも状況確認をするためにもそこに来ていたのだ。
「状況はどうなっている?」
「はい、現在ルティが基地に合流、暴走したディーヴァを止めたようです」
「そうか、命令違反の挙句にこちらの緊急事態を察して戻ってくるとは、だが、セオドアを得るチャンスはまだある
 ルティは何処に向かっている?」
「現在こちらに、来ます」
その部下の言葉と同時に背後の扉が開かれる。
「バスク、もう終わりよ」
「ルティ、何故戻ってきた?」
「家族が心配だったからよ、ゆーちゃんが暴走したって聞いたからね」
余計な事までルティに報告しよって、つくづく部下を恨んだ。
折角両者を人質扱いしてルティを再び従えたのにと思う。
しかし、ディーヴァが彼らの意思で動いているのならこれほど都合の良い事はない。
「だが、そのディーヴァが貴公によって操れるなら願ったりだ、それを使って再びセオドアを攻めよ」
「ふざけるな、これをまだ兵器として扱う気か!!」
シャレルが声を上げる
「分かっているはずだろう、過去の映像をみて、あれだって兵器として扱おうとしたお前らのせいであーなったんだぞ!!
 お前はまたそれを再現する気か!!」
「過去は過去、今は今だ、何時までもしがらみに囚われてるのでは、まだまだだ」
昔に囚われないバスク
「所詮過去の連中が間違いをしただけだろう、我々は間違えん、貴公が上手く扱ってくれると信じている」
「ゆーちゃんは戦争の道具じゃない、ゆーちゃんは、シリル達のお友達だよ!!」
「戯言を」
バスクと揉め事を起こしていたときだった。
「ばっバスク将軍!!」
「なんだこんな時に」
コンピュータを弄っている部下からバスクを呼ぶ声が絶えない。
「データハッキング、セキュリティコード受け付けません、地下へのセキュリティコード、次々と開放されています」
「馬鹿な、あそこのセキュリティは頑丈だぞ!!」
「それだけじゃ、ああ、ここのデータも潰されています」
焦り続ける部下、他のスクリーンも、ノイズが走り始め、正確がデータが送られてこない。
セオドアに関する情報も、受信されなくなっていた。
「シャレル、ルティ、貴様何をした!!」
「私は何も…」
「やばい…これは…」
シャレルが何かを悟ったかのように動揺する。
やがて部下が再び声を上げた。
「将軍、一つのデータが受信されてます」
「誰からだ?」
「送信相手は、何だこれ、波乱の蜃気楼?」
「何!? 直ぐに公開しろ!!」
バスクの横に立ち、公開の指示を出すシャレル
「貴様、ここの指揮はワシだぞ!!」
「この状況に指揮も糞もあるか。良いから出せ!!」
「どうしたのですか、中佐、そんなに慌てて」
「俺の頭の中で最悪の事態が起こると声があがってるんだよ」
「映像出します」
ノイズ走る画面に一人の男が移りだす。
そこだけじゃない、全スクリーンにその男の顔が映った。
その顔は、シャレルとルティが良く知る人物だった。
「「バード!!」」
「お初にお目にかかります、皆さん」
バードは画面越しに笑顔を見せる
「貴様、どういうつもりだ、何故我が基地にいる!!」
「私は、ずっとこの世界を見て来ました、戦争に明け暮れる日々、手に入れようとする欲望、その為に犠牲をも問わない執着心
ありとあらゆる人間の存在を見てきました」
「知った風な口を」
「事実です、その証明に、私はディーヴァなのですから」
その事実にシャレル以外全員が驚いた。
「馬鹿を言うな、最初のディーヴァはワシが押さえている、他にもディーヴァがいたと言うのか?」
バスクの一言にバードはにやりと微笑む。
衝撃な事実にバスクは机に拳をたたきつけた。
「そして、貴方達はディーヴァを道具としか見なかった」
「あれは我らの開発した兵器じゃないのか」
「違います、あれはかつて別の星から来たもの、それを貴方達は向こうが手を出さないのを良い様に操ろうとした
 だから我々の逆鱗に触れた。
そして今も、ディーヴァの逆鱗に触れ、愛する者のために暴走を起こした、それは、貴方達の欲が彼をそうさせたのです」
突きつけ続ける真実。
「私はこの星を再誕させます、この星をよりよい星にする為に」
「待ちなさい、バード」
ルティが割って入った。
「貴方の言うことが正しいのなら、ディーヴァは、ディーヴァは神だとでも言うの?」
「私達は神でも人でもない、ただ存在する者、貴方達と同じ、ここで生きようとした者達です、それでは」
その一言で、画面はプツンと消えてしまった。
「通信、消えました、以前、こちらの制御を受け付けません」
「なんと言うことだ、ワシは、とんでもない間違いを…」
膝から落ちるバスク、ディーヴァの存在が自分達の兵器出しかないと言うあだが、今となって落ちてきたのだ。
「シャレル」
「何だ、ルティ」
「全部、話してくれる、バードの事も」
「ああ、ここまでお前らを巻き込む気はなかったがな」
シャレルは、先代から聞いていたディーヴァの話を全て話した。
彼らが現れたこと、暴走したこと、封印されていること、ある約束をした事、全て話した。
「それじゃあシャレルがディーヴァの件に関わったのは」
「先代からの遺言さ、再びディーヴァが現れる、その時、彼を自分の欲の為に使うなと言われてたのさ」
突きつけられた真実、彼らはこのまま滅びるのか、だが、この時、最初に動いたのはゆーちゃんだった。
ゆーちゃんは、バードの居所が分かるのか、そこへ向かおうとする。
「何で、あいつは」
「もしかして、止められる方法を知っているのかしら」
「分からない、でも俺達も行かないとまずいよな」
シャレルがそう言うと、彼はバスクによった。
「ここから先の指揮は俺にやらせてもらうぜ、悪いがあんたは何も口を挟むなよ」
バスクは何も言わない。
「ユーリア、全力で地下へ続くルートのセキュリティーコードを解け、ルティとそこの3人はゆーちゃんを連れて地下に向かい、あいつを止めるんだ!!」
「了解」
その声と共にユーリアは部屋の下にある、コンピュータに向かいそこに腰掛ける。
「貴方、私に合わせてくれる」
「分かりました、ジャンカレロ大佐」
コンピュータに向かっている部下達が、ユーリアにあわせ始める。
「シャレル…」
「いいか、生き残りたいのならなんとしても止めろ、いいな、これは、命令だ!!」
「うん、分かった!!」
そう言ってルティ達も地下へ向かい始める。
「いいか、これは皆の力が必要だ、俺達が生き残るための、いや、世界を救う為にだ」
シャレルの声が、その部屋にいる者の士気を高めた。


一方のイニスはすでに最初のディーヴァのある地下へ向かっていた。
「むっ、貴様ら何時からここにいた」
先ほど、ハンスと呼ばれた男がイニスを見つけた。
「ここは通さない、戻ってもらおうか」
「私はこの先に用があります、邪魔しないでください」
「そうは行くかよ、引き返さないなら反乱分子として撃つぞ!!」
その声が聞こえてか聞こえてなくてか、イニスはゆっくり先へ進むもうとする。
ハンスはイニスに向かってマシンガンを乱射する。
しかし、イニスには傷一つ付いていなかった。
「化け物か、こんな距離で外すはずが」
やがてハンスの近くまでイニスがやってきた。
そして、彼の持つマシンガンを抑え、ハンスに語りかけた
「なかなかの腕前です、その腕前、殺してしまうのは惜しいですね」
「何を言って」
そう言ったと同時に誰も摩っていないのに竪琴が鳴り出す、そのメロディを聞いた直後、ハンスの思考が止まった。
「全ては星に還るために」
「全ては星に還るために」
「ここを守っててください」
「はい、全ては星に還るために」
そう言うと、簡単にイニスを通してしまった。
彼が地下に到達するのは、時間の問題だった。

その24 娯楽人さん

「Eブロックコード解除、そっちはどう?」
「F、G共にあと2、3分で何とかなります」
「監視カメラは生きてるか?」
「現在接続中ですがほとんど望み薄かと」
「っちカメラさえ生きてればもっといいサポートができたものを…」
「カメラならあるぞ」
今まで崩れ落ちていたバスクが立ち上がる
「そんな馬鹿な基地内部のカメラはほとんど」
「何も釣り下がってるカメラに頼る必要は無かろう?そこの緊急コード0023を打て」
「…シャレル中佐?」
「許可する、バスクの言うとおりにしてくれ」
「はっ!…これは…」
「有事の際の移動式監視カメラだこちらでモニタリング及び操作も出来る」
「ありがとよバスク」
「礼はこの騒ぎを収めてからにしろ」
「了解、じゃあユーリア俺はモニタリングに入る援護等々よろしくな!」
「まかせて!」
「…頼んだぞ、ルティ」


「うにぃ〜広いです複雑です迷いそうです〜;;」
「ごちゃごちゃ言ってないで進むわよ」
「ルティちゃん焦るのは分かるけどとにかくゆーちゃんを信じて進みましょ」
「ゆーちゃん…頑張れ…」
『あーあーこちらシャレル、聞こえるかルティ?』
「聞こえてるわ、何事?」
『今からカメラ装備のサポートメカで支援する、』
「この飛んでる球体ね?了解」
『私も支援しますので皆さん頑張ってください』
「ユーリアまで、心強いわね」
「ご主人様早くしないとゆーちゃんを見失ってしまいますよ!」
「分かったわ、…絶対に間に合わせてやるんだから、待ってなさいイニス!」


「もうすぐですね、本当にもうすぐ全てが終わる」
「……イニス…本当にいいの?」
「何がですか?」
「この世界を終わらせてしまって本当にいいのかって聞いてるの」
「…これは貴方も望んだ事でしょう?」
「そうだけど…」
「なら、問題ないです」
「…………」
「アリス…?」
「バード…死ぬの?」
「!…違うよアリス…死ぬんじゃない星に還るんだ」
「アリスは…バードともっとお話してお歌聞いて居たいの…それが出来ないのは…やだよ!」
「……ごめん…アリス」
「バード…何するの?」
「しばらく眠っていてくれ、大丈夫起きた時には全部終ってるから」
「…やだ…やだやだやだ!」
「ごめん…」
イニスは竪琴を構えると静かに鳴らす
その音色はどこか寂しげで……
そんな音を聞いたアリスも悲しかった
「バード…いや…」
「おやすみ…アリス」
ぐったりしたアリスを抱えるとイニスは
ゆっくりとした足取りでも着実に最深部に向かう
無垢な想いをぶつけられてもイニスの心は変わらない
終末の時は止まらない……

その25 せいばーさん

オペレーティングルーム
「Gブロックシステムクリア!隔壁開錠!」
「メインシステムの復旧まで時間は!?」
「現在復旧の目処は立っていません!
それどころかスレイブがAからFの集積回路が焼き切れてて使い物になりません!」
クソッ!どうなってんだこのウイルスは!」
中央ブロック地下2階
Hブロック
「まだなの!?」
「悪いな、もう少し掛かりそうだ!」
「・・・・やるしかないか(ボソ」
ルティが小さな声で言う
「えっ?何?」
「ミリル、押して駄目なら“ぶち壊せ”って言葉を知ってる?」
「いや、違うから、引いてみろだから」
「皆ちょっと下がってて、・・・起きなさい、デルフォート」
虚空より黄金の大剣が現れる
「・・・・(ポクポクポクチーン)逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「そっぉぉぉぉぉぉいっ!」
ルティが大剣を振りかざす
ドォォォォン!
木っ端微塵とはこの事か、魔力コーティングされた隔壁が粉々になってしまった
「何をするんだルティ!その扉一枚で何十万すると思っている!」
カメラのマイクからバスクの声が聞こえる
「うっさいわね!グズグズしてる暇は無いのよ!アンタのポケットマネーで何とかしなさい!」
傍若無人とはルティを表す為に出来た言葉に違いない
「何か言った!?」
すいません、御免なさい
そうしてお金の事なんか気にせずセキュリティシステムを粉砕☆玉砕☆大☆喝☆采!しつつ猛進するルティ
「君が壊した設備の修理費、国が一個傾くよ」の如くな映像を
半場強制的に見せ付けられたバスクは落胆するしかなかった
ちょっと同情したくなった上司ランキングではダントツのトップだろう


「あ゛ー疲れた、やっと最後ね」
「おっきいです・・・・」
最後の隔壁を抜けた先は大きなドームだった
中央にはドーム状の建造物がある
「おや、もう追いついてしまいましたか、意外と早いですね」
部屋の隅からイニスが出てくる
「バード・・・っ!」
「イニス!虚無の唄を歌うのなんか止せ!」
「無理な相談です、彼女はこの世界に絶望しています」
「・・・バード、いや、イニスも?」
「えぇ、もちろんです、だから此処に居る
貴方達は少々やりすぎた、物事には限度がある
その一線を貴方達は越えてしまった、ならば捌きを下すまでです」
「だからって・・・っ!」
「甘い、甘いですよ、ルティさん
貴女も、王たる資格を持つ者です、ならばこの世界の状況が判るでしょう?
戦い、血を浴びる事でしか生きがいを感じない
欲に溺れ、強者が弱者を踏み躙る世界
・・・どうです?一度やり直したほうが良いではありませんか?」
「・・・・・ルティちゃん」
ミリルが視線を送る
「・・・そうね、交渉でなんとか出来る問題ではないか、これは」
「戦(や)るのか?」
シャレルが無線越しに話しかける
「そうするしか無いわ、たった一握りの罪人(バカ)の為に無実の人を処刑する訳には行かないでしょ?」
「・・・ご主人様」「ちーちゃん」
ココナが短剣を、シリルが杖を構える
「いっちょやりますか!」
ミリルがグローブを嵌め直し、構えた
「・・・・交渉出来ないなら力ずくですか・・・愚かですね」
「愚かかどうかはやってみないと分からんさ、イニス」
「どうでしょうかね、ですが、私には勝つ自信がある
ほら、こうやって・・・・」
ズドン!
何が起きたのか理解するのに数秒を要した
何故隣に居たココナ達がいない?ミリルは?シリルは?
イニスの脇から伸びる鞭の様な物は何?
恐る恐る後を振り返るルティ
そこには
「がっ・・・はっ・・・っ!」
「うっ・・・・・・」
「・・・・・・・」
イニスの攻撃により吹き飛ばされたココナ達が居た
「え・・・?」
重症なのは明らかだった
   ココナの腕が
           足
     ミリル     お腹が
私の中で、何かが言った
 委ねなさい、       王の力は直ぐそこにある、
    手を伸ばしなさい   手に入るから
ヨクモ   
     ヨクモココナヲ!ミリルヲ!シリルヲ!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・・王に呑まれましたか、情けない」
顔に片手を当て、前のめりに立ち尽くすルティ
「ふふ・・・、そうか・・・呑まれるってこうゆう事・・
力が湧いて出るようだわ・・・」
「・・・・・」
「イニス・・・いや、終焉を導く者(クローズ・リーダー)
私はね・・・今まで切り捨ててきたものの為にも、自分を曲げたりしない
だから、此処で、お前を倒す」
「・・・いいでしょう、では始めましょうか」
こうして、世界の命運を掛けた戦いが始まる

その26 娯楽人さん

「はぁぁぁ!!!」
「まだ、甘いですっ!」
「ならこれでどう!?」
「くっ…流石王か…ですが引きませんよ!」
怒りに任せて攻撃を放ち続けるルティあまりの猛攻にイニスは若干押されていた
しかし、冷静に見つめるシャレルはまずい事に気がついた
「イニスの野郎!わざと焚き付けやがったな!」
「どういうことだ?」
「時間稼ぎだ、見てくれこの場の中心に今強力なエネルギー反応が出てるんだ」
「何…中心と言ったらディーヴァの本体がある場所だろう!?」
「ああそうさ、イニスめ…無茶しやがる、ユーリア!中心部のロックは解除できるか?」
「出来ますけど…どうして?」
「ディーヴァを開放する」
「正気かシャレル!?今にも目覚めそうなディーヴァを開放して我々の死期を早める気か!!」
「早とちりするな、今のルティはイニスしか目に入ってないだからディーヴァを開放し矛先をそっちに向けさせる」
「…なるほどな、しかし解放直後に歌われたら終りではないのか?」
「大丈夫だまだこの程度のエネルギーならもし使われてもほとんど被害は出ない、今しか無いんだ」
「…仕方ない開放コードは903349だ」
「だそうだ、やっちまえユーリア!」
「了解!」

その27 せいばーさん

「ハハハ!さっきの威勢は何所に行ったのかしら!?」
「くっ・・・最大級の精霊壁でも防げませんか・・っ」
イニスとルティの攻防は熾烈を極めた
壁や天井は所々崩れており、今崩れんとばかりに震えていた
「これならどう!?
エ・ルヴェリス・ダ・セル・リアヴォルト!リオ・ヴォード・ガバァンティン!フォゥド・エンディズ・ペンデント!
(王の名の元に置いて宣言す、煉獄に住みし地獄の使者よ、その無限槍をもって敵を射れ)」
ルティの腕、指先から肘に掛けてが漆黒に染まり、そこから無数の黒い触手が飛び出し、イニスを串刺しにせんと向かって行く
「!、障壁緊急展開(プロテクト)!」
イニスも咄嗟に障壁を展開するが体全体を覆う事が出来ずに僅かながら攻撃を喰らってしまう
「かわしたか・・・」
触手を引き戻すルティ、そこである事に気付く
「・・?血が・・・無い?」
僅かとはいえ攻撃を食らわせたのだ、触手に少しばかり血が付着していてもおかしくない
「・・・・・イニス・・貴方・・・」
「気付きましたか、ええ、貴女のお察しの通り、私は人間でも亜人でもありません、
そうですね・・・簡単に言うと精霊の様なものでしょうか」
「なるほど・・・それなら今までの理不尽な事象も頷ける・・
でも、精霊は姿を固定しない、いや出来ない、寧ろ無形の筈よ、
仮に姿を固定できたとしてもそれは凄く不安定、
透明な貴方が契約者無しでは現界なんて出来るわけ・・」
「・・契約者が居ないなんて誰が決めたのかしら?
契約者なら此処よ、ルティ・チャーフル」
「!!、・・・誰?」
そこに居たのは年端も行かぬ幼い少女だった
「あら、忘れちゃったの?まぁ何年も前だし姿も違うから当然か
・・・ならこれで分かるかしら?」
少女が一瞬にして姿を変えた
「・・・・っ!・・フラ・・ン?」
そこに居たのは、かつて自分に王の力を与えた女性だった
「御名答♪」
姿が少女に戻る
「・・すっかり大人になっちゃったわねぇ
あの時はまだ子供だったのに」
「何故?何故貴女が・・・っ!?」
「何故って・・・虚無の唄を歌いに来たのよ、
この世界を再構築する為に」
「アリス、今は無駄話をしている暇では・・」
「五月蝿いわね、ちょっとぐらいいいでしょ?
・・・どう?古代王の力は」
「・・・使い心地・・・という面では悪く無いわ
でもね、貴女にこの力を貰ってから人生の選択肢が随分と減ってしまったわ
・・この力で死んでいって人と生き残った人、どっちが多いのか知らない、・・まぁ知りたくも無いけど」
「複雑ね」
「ええ、まぁそんなことは関係ない、私はこの力の犠牲になった人の為にも、自分は曲げない
過去に人間が何をしたかなんて知らない、私は未来に掛けるわ」
「そう・・仮も王の末裔、理解してくれるものと思ったんだけど・・・所詮は只の人間か」
「只の人間で結構、人間舐めたら痛い目見るわよ」
「・・・ふふ、今までの発展も自分の力でなしたと思ってる・・
やっぱり愚かね、人間って」
「?」
「分からない?ディーヴァ然り、私は異星人って事よ
・・・紀元前、私の一族はこの星に来た
先住民である貴方達人類に技術を教えた、その過程で亜人種も生まれたわ、そして技術の代わりに我々を先導者、つまり王として君臨させた
でも、一部の人間が反旗を翻した、もう支配されるのは御免だってね
私達が平和ボケしてたせいもあってか、結果人間に敗れたわ
まぁ、その後発展する術を失い、統治するものを失った人間は滅びたけど、その生き残りの子孫が貴方達」
「・・・長々と説明ご苦労様、
で、何が言いたいの?」
「貴方達は私とイニスに勝てない、この星の技術の先駆者である私達にはね」
「・・・やってみなきゃ分からないわ、私は可能性が1%でもある限り諦めない、それと礼を言うわ」
「?」
「貴方達のお陰で頭が冷えたわ、これからは本気よ」
「・・・精々足掻きなさい、全ては無に還る、それは決定事項なのだから」

その28 ゲイトさん

そう言いながらルティに笑みを見せるフラン。
「アリス、気が済みましたか?」
「勿論…後は任せたわよ、イニス」
「はい」
等とイニス達が会話しているときだった。
再びルティの魔法がイニスに向かってくる。
「くっ、防御で駄目なら反射させるまで、カウンターマジック!!」
再びイニスの前に障壁が現れた。
ルティの放った魔力がその障壁にぶつかった
しかし魔力の方が強いのか、跳ね返すどころか障壁にヒビを入れ始めていた。
「くそ」
思わず回避するイニス、魔力はそのまま突き抜けて壁へと激突する。
「流石は王の末裔ですか、こちらも本気で行かなければ」
そう思っていたときだった、後ろの方でガクンと音が鳴った。
気付けば一部の天上が開かれ、エレベーターのようになっている。
そして、一部の床が上へ上がっていく。
「これは」
「しまった、オリジナルを遠ざけるつもりか」
そう言っている内にどんどん上へ上がっていくオリジナル。
『これで歌われる心配は半分なくなったぜ、ルティ!!』
カメラ越しにシャレルの声が聞こえた。
「シャレルね、でかしたわ、さぁこれでもうおしまいよ」
「くっ」
焦りを隠せないイニス、だが小さい子供が再び声をあげた。
「イニス、私は行くわ」
「アリス!!」
「大丈夫、貴方が彼女を倒して上へ上がって来ると信じているわ、一緒に歌いましょう」
「アリス、分かりました、ですが貴方だけで、序曲を演奏させる訳には行きませんよ」
そう言うと、イニスは竪琴で演奏をし始めた。
だが、そんな絶好のチャンスをルティが黙っているはずがなかった。
「よそ見している暇あるのかしら、今度こそ消してあげる!!」
そう言って再び魔法を放つルティ、だが今度はアリスが障壁魔法を使い魔法を受け止める。
やがて、竪琴の音色に誘われたかのように、何かがイニスの周りに集まりだした。
「イニス、貴方」
「これぐらいはさせてください、この子達なら、貴方の歌声を邪魔するものから守ってくれるはずです
フラット、シャープ、フォルテ、アリスを頼みます
さぁ、アリス、貴方も」
「待っているわ、イニス」
そう言うと、アリスと呼ばれている少女から何かが抜け、上へ上がっていき、オリジナルの方へ向かっていく。
その後を、フラット、シャープ、フォルテの3つの光が追っていった。
「イニス、あんた」
「ルティさん、決着を付けましょう、私も彼女を待たせるわけには行きません、アリスも、そこのアリスにも」
そう言ってイニスは、竪琴を手に取った。
「これが私の魔道具です。
 行きますよ、ルティさん、貴方にあの時聞いた答えが出ましたか?出てなければ、私を倒すことは出来ませんよ」
そう言って、イニスも本格的に戦闘体勢に入った。
一方、ルティの対決を見守っていた3人はと言うと。
「ご主人様…」
「大丈夫よ、ルティちゃんなら、流石に今回は、相当きちゃっているみたいだし」
ご主人様の心配をするココナとそれを慰めているのか、分からない返し方をするミリル。
「あれ? ゆーちゃんは?」
「「え?」」
シリルの一言にココナとミリルが背後を向く、そこにはシリルだけであの大きな生物の姿がいなくなっていた。

その29 娯楽人さん

「イニス…ううん迷ってる暇は無いわね」
階段を駆け上がりオリジナル本体に近寄るフラン
「もう少し…」
「うきゅううううう!」
「きゃあ!?」
とっさの事だったので全く対応も出来ずフランはゆーちゃんに押し倒された
「っ…どうして?貴方も同じはずなのに…」
「うきゅ…うきゅうきゅ…」
(ポトッ
「…涙…?」
フランは何故ゆーちゃんが涙しているかを理解してしまった
それは同族としての哀れみとルティ達を守りたい一心の涙だった
「うきゅ…う〜きゅ」
「………貴方…守りたいの?」
「うきゅ!」
「どうして…?こんなに争いが絶えない世界なのに」
「うきゅ…う〜きゅ…」
「…分からないわ…」
『アリスには分かるよ』
「っ!?…貴方眠っていたはずじゃ…」
『この子が起こしてくれたの…ねぇフランもうやめて?』
「何言ってるのよ…これが私の望み、そしてバードの…」
『フランの嘘つき…アリス知ってるよこれが終ったらバードもフランも居なくなるんでしょ…?』
「………」
『アリスはそんなの…やだフランやバードが居ないなんて、やだよ』
「アリス…」
『フランだってバードが大好きでしょ?アリスも大好き…だからね…消えちゃダメなの』
「…でも、それじゃこの世界は癒えないわ」
『ケンカしちゃうなら…ケンカしたくないように出来ない?』
「えっ?」
『ケンカする人を消すんじゃなくてケンカしないようにするの、出来ない?』
「……滅ぼす事しか考えてなかった私達は、この子達にも劣るのかもしれないわね…分かったわアリス…」
『じゃあ…バードも消さないでくれる…?』
「ええ、私も…バードと一緒に未来を歩みたい…」
「うきゅ?」
『退いていいよ、もう壊さないから』
「うきゅ」
「…でも、どうなるか分からないわよ?」
『それでも、フランやバードと一緒ならアリスはいいよ』
「イニス…聞こえるかしら、これがアリスと一緒の私の答えよ」
静かな旋律がドーム内に響き渡る
その音色に少なからず動揺したのはイニスであった

「アリス!?今はまだ早いのに…しかもこの音は…?」
「何処見てるのよ!!」
「っく!!」
「余所見なんてしている余裕あるのかしら?」
「ありませんね…」
(っく…フラン…何をする気なんだ!?

その30 せいばーさん

「くっ・・何が起きているのかは知りませんが・・・
兎に角これで終わりです!
・・・ト・シュン・ボライオン・ディア・コーネートー・モイ・へー・グリーゲランス・フェイリアテュシア
(煉獄の王よ、契約に従い、我に従え)!」
イニスが呪文を唱え始める、同時に膨大な魔力がイニスから発せられる
「なっ・・この魔力量・・マズイ!」
「エビテネー・ゲートー・ゲリアス・フェン・リアデェス・『ウーラニア・フロゴーシス』!!!
(全てを妬きし地獄の劫火!咎人を罰し、無に返せ!『断罪の焔』)」
イニスの手に焔の剣が現れ、それを一気に振り下ろす
ルティは瞬時に結界を展開するが精霊の力を直接行使した上位魔法相手では何時まで持つか分からない
「くっ・・・このままだと・・結界が・・っ!」
早くも結界に皹が入る
「そろそろ諦めなさい、貴女はもう・・」
「・・なんて、言うと思った?」
ルティは哂う
ルティが唐突に見せた笑みに動揺するイニス
左手には虹色に光る魔力の塊
焔の勢いが急速に衰える、そう、まるで“吸収されている”ように
完全に焔が消えると、凄まじい突風がルティの腕を中心に吹き荒れる
イニスは風で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる
「ぐっ・・・それは・・・っ!」
「そうよ、私に『エルリアの死神』の異名を与える切っ掛けになった古代上位呪文(ハイ・エンシェント)
相手の攻撃を全て吸収し、それを3倍で打ち返す大魔法
『禍因の使徒』
・・本当は放出系魔法なんだけど、そんな事したら此処が崩れちゃうのよね
だから圧縮して打ち出してあげるわ、特別よ、魂ごと消し飛びなさい」
「くっ・・・」
破壊の左手を、イニスに向かって振りかざした

その31 娯楽人さん

しかし、ルティの魔法はイニスを貫く事も無くその場で消滅した
「っ…?」
「そ…そんな?!あれだけの魔力を持ったものがこう簡単に消えるなんてありえないわ!」
ルティの怒声すらかき消すように柔らかな声がドーム全体に響き渡る
「ラ〜ララ〜ラララ〜ララララ〜」
『光の中で貴方を探してた、その痛みまでも抱きしめようとして、』
「かけがえの無い世界、小さな綻びさえ、」
『貴方と共に歩むならば、怖くは無い』
「どんなに世界が、悲しみに埋もれても」
『皆が力あわせれば、乗り越えてゆける』
「夢も近づく、皆笑って」
『世界は続くよ、光の中』
[貴方達と共に…]
[ラララ〜ララ、ラララ〜ラララ、ララランラララ〜]

「精霊達が…消えた?」
「虚無の歌ではない…これは一体?」
「分からない…でも…何でだろ私はこの歌を知ってる…?」 (イニス、ルティ、戦いはもうやめて、もう戦う必要は無いのだから)
「フラン…一体何をした?」
(アリスの提案に賭けて勝った、ただそれだけ)
(皆が仲良く出来るようにアリスとフランで皆のケンカの武器をとりあげたの)
「こんな手があるなんて…今まで長い時を生きたけど…気がつかなかったな……」
「魔法が消えた?…いえ精霊が協力しなくなったの?」
(もう、貴方も力に苦しむ事は無いわルティこれからは普通の人として生きなさい)
「……ううん、力はそのままで良いよ、だって…私には守らなくちゃならないものがあるから!」
ルティはようやく自らの力の使い方を見つけた
その後フランとイニスと和解し、オリジナルディーヴァをフランの協力の下縮小、
その後、イニスと共にフランは旅立っていった。
「さてと…私達も帰ろう」
「う〜今回も散々だったよ〜」
「うにぃ〜血がいっぱい出た時は死ぬかと思ったです」
「みゅ〜でも…流石ちーちゃん」
「あれだけの大怪我3分で治癒するってどんだけ〜」
「そこは腕っ腕♪」
「流石ご主人様〜♪」
「みゅ〜♪」
「あはははははは♪」
こうして、戦いも幕を閉じ彼女達は日常へと戻っていった。

そこから様々な事が一気に起こった以下はその状況の詳細である。
フランの歌った歌により全ての魔法や人を傷つける兵器は機能停止起こした。
その状況は隣国のセオドアも同じで数時間後アーリア王国に
停戦申し込みが行われた。
現国王はこの申し出を受け入れさらにはもはや争いの種になると軍部を縮小、
さらに自らが王座を退き王国性の廃止を宣言。
これにより国名を王国から共和国に改変、
そして今回の事件の功労者として大統領候補に白羽の矢が立ったルティだったが
早々に辞退宣言をし仲間と共に自らの家へと帰っていった。
事件から3年が経った現在、アーリア共和国はシャレル・バウマー大統領が治め
その傍らにはいつもユーリア大統領夫人が付き添い統治している、
又、今回の事件の発端となった、イニス、フラン、両名は事件の収束と共に行方不明となっている。
さらにイニス、フラン両名と共にオリジナルディーヴァも消失、現在その行方を捜索中。
尚、同様に事件の発端になったディーヴァは現在大統領のペットとして保護され、
現在は大統領のご子息の子守をするほどの知能を有し下手な幹部より大統領の信頼を得ている。
今回のこの事件は悲劇であり、又、人の争いの傲慢さと愚かさをありありと示すものである。
現在もフランの歌の効力は続いているが、
この事を我々は絶対に忘れてはならない。
ゆえにここに詳細を記録し後生に残すものとする。
               アーリア共和国副大統領 バスク=ノーミレッド

その32 せいばーさん

3ヵ月後
旧アーリア王国(現アーリア共和国)を震撼させた・・・かは知らないが
兎に角大きな事件だった『歌姫事件』
事件の幕引きの切っ掛けとなった『沙耶のうt・・・ゲフンゲフン
もとい『再興の唄』が発動した事により、全世界の質量兵器及び精霊との契約が無効化された
よって各地のテロ組織は衰退の一歩を辿り
軍事国家は軍部を停止せざるを得なくなった
しかし、それでも争いの根源である人の心を変えるには至らない
それでも、世界は平和への確実な一歩を「あ〜な〜た〜!今日は許さないわよ〜!」
「ヒィィ!悪かった!もうしないから!」
一歩を踏み出そうと・・・・・してるのかなぁ?
「(ガシッ)捕まえた・・・今回で何回目かしら〜?浮気」
ユーリアがシャレルのシャツの襟を掴んで言う
「ちっ違うんだ!これは友達で・・っ!」
「へぇ〜何所にキャバクラから出てくる女友達が居るのかしら〜?」
「あの、ホントーに御免なさい、絶対にもうしませんから!
その手を下げて、なっ?」
必死の弁解をするシャレル
「問答無用!レイジ●グハート!カートリッジロード!」
しかしそれも無駄だったようだ
「All right! Cartridge load!(了解しました、カーリッジロード!)」
金色の杖の先端にエネルギーが収束する
これから某“管理局の白い悪魔”の必殺の一撃が放たれようとしていた
「なっ!?おい!落ち着け!」
「ちょっと・・・頭冷やそうか」
「Chardging complete! Standby ready!(チャージ完了、何時でも行けます!)」
「スターライトォォ・・・」
「ヒィィィ!」
「ブレイカァァァァァァァーーーーーーー!!!!」
「Starlight Breaker!」
「ギャァァァァァあqすぇdrfgtyふじこl」
今、また一つ命が散った
・・・嘘です、ちゃんと非殺傷設定です


同時刻 ルティ宅
「・・・・」
「どうしたんですかご主人様?」
「いや、今どっかに魔王が降臨した気がして・・・」
ルティが何処か哀愁溢れる顔でつぶやく
「?」
ココナは頭にハテナを浮かべた
今はココナとルティがショーギと呼ばれる遠い東の島国式チェスをやっていた
「あっチェックメイトです」
「あ」
ルティVSココナ
ココナの勝利
今日までの結果
ココナ:67勝3敗
ルティ:3勝67敗
「か・・勝てない・・・・」
「やったー!また勝ちです!」
強かった、どうやってもボードゲームではココナに勝てない
初陣は良く判らない内に瞬殺
次は善戦するもココナが角と飛車、金に銀etcを総取り
兎に角勝てなかった
昨日のオセロもそうだった
なんと最後のターンでココナの色である白で板が埋め尽くされた
あんなオセロ見たことが無い
一昨日のチェスだっていつの間にかキングががががが・・
「強いな〜ココナ、何やったら相手の駒を全滅出来るんだよ」
ミリルが問う
「ふっふ〜秘密なのですよ♪」
「勝てない・・・なんでなの?」
ぼーやだからさ(CV:某赤い彗星)
「なんですって!?だれが坊やよ!」
御免なさい、調子に乗りました
「誰と話してんのか知らないけど
ルティちゃん、シャレルがテレビに映ってるよ?」
テレビには何故か体中に包帯を巻いたシャレルが演説をしている姿が映っている
『・・・であるからして此処は各国協力して・・』
映っているのはつい一ヶ月前に誕生した
アーリア共和国・セオドア連合・ジャルパ民主主義人民共和国・ウォーリン合衆国
からなる『IFU(国際経済連合)*1』第一回国際会談の様子だ
「・・・なんで包帯してんの?」
「そこですか!?この映像見て言う所そこ!?」
「だって気になるじゃない」
「なるけどさ!確かに気になるけど!もっとなんか・・・こう・・・言うべき事が!」
「えー・・・・?あっ薬缶が噴いてる」
「(ゴッ)」
ミリルは盛大にこけた


人は必ず過ちを犯す
それでも、進化は過ちをという過程を持ってして産まれると言う
しかし、人々はその過ちを正しい方向に修正出来ているのだろうか
否、出来ていない
絶え間ない殺戮
金に溺れた政治家
失われゆく自然
私は思う、進化とは、過去の過ちの真の意味に気付き
それを皆で協力して解決してこそあるものではないのだろうか
前述は私の主観であり、世界の意見ではない、
だが、人々は真の進化をしてこれたのだろうか
私にはそうは思えない
だが、私は少なからず人類に期待している
最近、優しい人に出会った
彼女は強大な力に溺れることなく
その力を民の為に使おうと必死に努力していた
人類が皆彼女の様だとは思えない
寧ろ逆の存在の方が多いだろう
だが、私はその一握りの人々に掛けてみようと思う
この星に住む人類に、この星の未来を託しても良いと思う
彼女も同じ意見だそうだ

私はまた傍観者となる
長い長い、時の傍観者
私と彼女は見続ける役目が来るその時まで

歌姫事件調査チームが旧アーリア王都郊外の廃屋より発見した手記より抜粋
筆者:イニス・E・チャーフル(現在行方不明)
著者に関する情報は名前以外皆無
内容に頻繁に登場する“彼女”の詳細も不明
シャレル・バウマー大統領の命により国内の捜査を続行
今後の国外での調査については検討中


Fin

*1:IFU インターナショナル(International)ファイナンス(Finance)ユニオン(Union)

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