第5話 シリルと不思議な世界

陽気と満腹感に誘われ眠りに落ちかけたシリルでしたが、一匹のネコに邪魔されてしまいます。
そのネコに誘われるように森の中へ入ったシリルは、行き着いた先で不思議な光に吸い込まれてしまいます。
行き着いた先は、見たことも聞いたこともない不思議な世界で……

その1 娯楽人さん

今日は皆でピクニックに来ました。
ちーちゃんとくーちゃんが作ったおいしそうなお弁当持参です

「うーぅぅ、お腹すいたぁ」
「みーちゃん…お昼にはまだ早いよ」
「ふふふ、単純にお弁当が食べたいだけでしょ?」
「あはは…ご名答」
「うにぃ〜私もちょっとすきました…ご主人様食べてもいいですか?」
「仕方ない、ちょっと早いけど食べちゃいましょ」
くーちゃんもちーちゃんもお料理がとっても上手でシリルも楽しみでした
「お〜バランス、彩りやっぱりプロだね」
「うにぃ〜褒められると照れちゃいますよ」
「ふふふ、じゃあ皆でいただきます」
「「「いただきます」」」
皆でワイワイ騒ぎながらお弁当を食べました
とってもおいしかったです
「う〜食べ過ぎたぁ…ごろねごろね〜」
「みーちゃんお行儀悪いよ」
「私もお腹もいっぱいです〜うにぃ…眠くなってきました」
「…そうね、皆で昼寝しましょうか?」
「賛成〜……zzz」
「みーちゃん眠るのはやい…」 「ふわぁ…草がふさふさで気持ちいいです……」
「シリルちゃんも横になるといいよ…ん〜気持ちいい」
陽射しもポカポカで皆すぐに眠ってしまいました
シリルも気持ちよくてウトウトしてたその時……
「…ふあ!?」
「にゃ〜にゃ〜」
「ね…ネコさん?」
ネコさんがシリルの上に乗っかってきたから目が覚めちゃったの
「にゃ」(ピョン
ネコさんはシリルから降りるとちょっと離れてからこっちをずっと見てるの
「……う?」
「にゃーにゃー…」
ネコさんは寂しいそうに鳴くと森の中に行ってしまった
何でなのか分からないけど、ネコさんがシリルを呼んでいる気がした
みーちゃん達はぐっすり眠っているのでシリル一人でネコさんを追いかける事にしました

その2 せいばーさん

「う〜・・・見つからない・・」
シリルは一人森の中を彷徨う
よく来ている森だったので迷う事は無いが
流石に此処まで奥に来ると心配になってきた
「・・・・にゃ〜」
「!」
右の方角から猫の声が聞こえる
シリルはそちらの方向に飛んでゆく
すると
ブォォォォン・・・・
「・・・なんですかコレ・・」
シリルが追いかけて来た猫は何やら怪しい光の前に座っていた
「にゃぁ・・」
猫は一回鳴くとその光の中に入ってしまった
「あっ・・、ん?、・・・っ!」
目の前の光から風が吹いている
否、光に風が吸い込まれていた
「なっ・・うっうわぁぁぁぁあああ!!」
シリルはその光の中に吸い込まれてしまった


西暦2018年6月26日
大都市トーキョー
今年はまだ6月末だと言うのにとんでもなく暑く
仕事中にもアイスやスポーツドリンクが手放せない
俺がまだガキの頃には地球温暖化とか日本経済崩壊とかって
何かと騒いでいたが今は地震も随分前から予知出来る様になったし
経済の方もバイオテクノロジーやロボット産業が大当たりして
経済状況は高度経済成長期並となった
それ以外で目立った事って言えば、この国が軍事産業に手を出し国軍を設立した事位だ
今は国家情勢は悪くないが、東にある将軍様の国と臨戦態勢にあるとの噂だ、
ネットから湧いて出た話なので根拠は無いが火の無い所に煙は立たんと言うし・・
それにあの国とは元々仲が悪かった、今の国の状態では戦争の一つや二つ起きてもおかしくない
おっと、紹介が遅れたな、俺の名前は成城院 梓(せいじょういん あずさ)
少し変わった名前だ、まぁ格好悪いわけでは無いので嫌いではないのだが、女みたいな名前且つ女顔なのでそれを弄られる事も多かったのは確かだ
今は某食品メーカーに勤めている、一流企業と言う訳ではないが生活は悪くないし親に金だって送る事が出来る位には稼いでいる
そして今日も上司に頭を下げ
同僚と上司やクライアントの愚痴を溢しつつ酒を飲んで家に帰ってきた所だ
しかし何だ、不思議な事もあるもんだ
まぁ俺が只酔って幻を見ているだけなのかもしれんが
何故俺の猫(アメリカンショートヘア)と一緒に動物の耳を頭に生やし
摩訶不思議な髪色の少女が俺のベッドで寝ているのだろう

その3 娯楽人さん

「……部屋は…間違って無いな」
梓は改めて周りを見た、いつもどうりの自分の部屋だ
ベッドに謎の少女が寝てることは除くが
やはり自分の部屋には間違いは無かった
「………まあ、いいか」
梓は少し悩んだが、酔いと睡魔が襲いそのままベッドに倒れこんだ。


「んっ……みゅ…まぶしぃ…」
朝の光がシリルの顔を照らす、たまらず反転したが【何かに】ぶつかった
「……みゅ?」
シリルがゆっくり目を開けると……
「…!??!」
シリルは驚きのあまり声を失う
目の前には全く知らない人の顔があったのだから
「……そー…っと」
シリルはゆっくり体を起こしその人を起こさないようにドアに歩く
「みゅ…みゅ……」
緊張のあまり漏れる声、気づかれないかヒヤヒヤしながらドアに向かう、そしてやっとドアにたどり着いた
「みゅぅ…」
シリルは安堵のため息をつく、だがこのくらいで安心してはいけない
まだ、後ろには見知らぬ人が寝ている
それだけで恐怖だったから
そして、シリルは慎重にドアノブに手を掛けゆっくり回した…
「何処に行くんだ?猫耳」
(ビクッ!!)
突然の声にシリルは驚いて振り返る
そこには……


「……案外寝れないもんだな」
一度は睡魔と酔いでベッドに倒れこんだものの
隣で寝返りを打つ少女が気にならないはずはなく、目が覚めていた
既に朝日が顔を覗かせている

昨日はたっぷり飲んでたからな
そうじゃなかったら多分取り乱してたろうか…?
いいや、こんな事で騒ぐのは結城(ゆうき)ぐらいだ
「んぅ………んっ…」
少女が目覚めそうな気配がしたので俺は寝たふりを決め込む事にした
直後に少女の体が俺にぶつかる、寝返りだろうか?
「……みゅ?……!??!」
少女が息を呑むのが分かった、まあ隣に人が寝てたら警戒はするだろう
少女は俺を起こさないためかゆっくりベッドから降りるとドアに向かっていった
ここで俺の悪戯心が疼いた、ドアノブに手をかけた瞬間に声を掛ける
「何処に行くんだ?猫耳」
少女はかなり驚いた様子でこちらに振り返る
目には少し涙を溜めて、今にも崩れ落ちそうなほど震えていた
俺は少女に近寄った、ゆっくりと怯えさせないように
「君は何処から来た?」
出来るだけ抑揚を付け明るめに聞く
だが、次の瞬間帰ってきたのは答えではなく水音だった
(ショォォォォォ)
少女の下腹部から流れる黄色の液体は下のカーペットを侵食し
周りにはアンモニア臭が漂った
「……まじかよ」
「みゅぅ…」
少女は申し訳なさそうにうつむいた
その姿を見てこれくらいの粗相はどうでも良くなった
ただ、このままにしては置けないので後始末を始めた
少女にタオルと俺の服を渡し、俺はカーペットの修復もとい掃除した
「………」
少女は黙ってこっちを見つめている
俺はこれからの事を考え最も重要な質問をした
「君の名前は?」
「……シリル…シリル・グランフォード」
「俺は成城院 梓、梓と呼んでくれればいい」
初めてのコミュニケーションは一応成立した
言語もどうやら問題無いらしくその後も少し話をした
やはり、頭の耳は本物らしいどうなってるのかは不明だが
年端もしかない少女を外に放棄するわけにもいかず
俺はシリルを保護する事にした

その4 せいばーさん

6月27日水曜日

人間何か一つ位秘密っつーものがあるものだ
アイドルの恋愛、赤点のテスト、箪笥の裏のヘソクリetc・・・
それらはバレても何かしらの形で収拾が付く
しかし俺の場合、つまり異世界の少女を保護するという事象はバレたらヤバイんじゃないか?
この猫耳少女、シリルとお互いの世界について教えあったが
聞いた所、コイツの世界の生物で世界中で目撃されている
UMA(未確認生命体)の存在が全て説明が付く
昔の俺なら大喜びした状況だが、良く考えるととんでもない状況だぞ、コレ
「こっちの世界の事は大体判ったか?」
「はい・・なんとか」
「何か質問は?」
「・・・こっちに私みたいな人は居ないんですよね・・?」
「あぁ、いるっちゃぁ居るがアレはパチもんだ、猫耳のカチューシャ被っただけ」
「そうですか・・」
コイツ寂しそうだ、まぁそれはそうか・・この世界で自分を知っているのが俺だけなんてな・・
コイツにも家族が居たようだし・・、寂しいのは当たり前だ
ぐるるるる〜
「(赤面)」
シリルの顔は真っ赤だ
そういえば朝から何も食べていない
「そういや、朝からなんも食ってなかったな・・、飯にするか」
「すいません・・」
「気にするな、人間生きてりゃ腹が減る
・・・ん〜、何があるかなっと・・・パンでいいか?」
「はい!え〜と・・何か手伝いますか?」
「いや、大丈夫だ、直ぐ出来る簡単な奴だから、そこに座っててくれ」
「はい、有り難う御座います!」


「ご馳走様でした!とても美味しかったです!」
「はい、お粗末様」
余程お腹が空いていたのかシリルは黙々とパンやスープを食べていた
最近は姉位にしか料理を作った事が無かったので、この様に喜んで貰えると嬉しい
「そういえば・・梓さん会社は行かなくて良いんですか?」
「あぁ、今日は休むって言って置いたから大丈夫だ」
と言っても貴重な有休を使った訳だが、かなり無理言って
物分かりの良い上司で助かった
「なんか・・すいません」
「いいんだ、今日は会社なんか言ってる場合じゃない」
「そうだ、今日は・・・・」
そんな風に食後のティータイムを楽しんでいた俺とシリルだったが
そんな時、
「あっずさー!!遊びに来たよぉぉぉおお!!!」
「梓ーー!遊ぼうぜぇぇぇええーーー!!!」
遊び人(結城)と覇王(姉)が同時にやって来た
「(ガタガタガタ)」
シリルは吃驚して俺の後ろに隠れて震えている
「なんだぁ!その娘はぁ!?誘拐かぁ!はたまた彼女かぁ!?
抜け駆けは許せん!天誅!」
「何ィ!?誘拐ィ!?お姉さんは梓をそんな風に育てた覚えはなぁぁぁい!!天誅!」
相変わらずハイテンションな二人だ
遊び人の方が結城、俺の古い友人だ、小学生からの付き合いである
座右の銘は「遊ぶのを止めたら負けだと思っている」
覇王の方は俺の姉である、成城院 司(せいじょういん つかさ)
23歳にしてアメリカの諜報機関であるCIAのトップエージェントとして活躍しただとか、
実は中身はターミネーター等様々な噂が絶えない超人
しかし実際そんな噂が立つのも頷ける位強い人で
今は警視庁の刑事課に勤めている
因みに俺はこの人ならバキにも勝てると思っている
座右の銘は「天上天下唯我独占」
で、今そんな二人に天誅を下された俺は床に突っ伏している
「梓さん!梓さん!」
「シ・・シリル、後は・・頼んだ・・・ぞ(ガクリ)」
「あっ梓さぁぁぁん!!」


「と、冗談はさておき」
「冗談とは思えないパンチだったが、そこんとこについて何か謝罪は?」
「「その娘誰?」」
「シカトか?おい」
「えぇと・・シリル・グランフォードと言います・・」
「「(ズキュゥゥゥゥゥウウン!!)」」
かっ可愛すぎる!と言った表情でシリルを見つめる二人
確かに恥じらいながら自らの名前を言うシリルの姿は可愛すぎた
「どうかしましたか?」
「ええと・・いや何でもない!」
「うん!何でもないよ!
・・・で、どうしたのこの子、見た所人間じゃない様だけど」
「あぁ、話すと長くなるが・・」
俺はシリルの居た世界の事と昨晩の事を話した

その5 せいばーさん

「ふぅん・・成る程ねぇ・・異世界か・・・」
司(姉)はふぅと一回溜息をつくと
「取り合えず、服とか無いと困るんじゃない?
梓は女の子の服なんて持ってないでしょ?」
「そういえばそうだよな、今後暫くはココに居るんだし
服とか無いと困るよな」
「えっ・・、いいですよ、そんな・・」
「細かい事気にしないのシリルちゃん、お姉さん達に任せなさい!」
「・・・はい!有り難う御座います!」
「でもどうやって買う?耳だけならともかく、シリルには尻尾もあるし、髪の色だって・・」
梓は二人に聞く
「どうするって・・そんなのインターネットで買えばいいじゃない」
「あっそうか」
「いんたーねっと?」
「あぁ、シリルは知らないか、インターネットっつうのはな・・・・・」
梓は考え込む、それもそうだ、子供の頃から当たり前のように有った物を説明するのは難しいだろう、インターネットなんか尚更だ
「見せた方が早いんじゃないか?」
結城に突っ込まれた
「むぅ、そうだな、じゃぁシリル、ココに来てくれ」
シリルは無言で頷くと梓の椅子の横に移動する
梓は機械が付いたグローブを嵌め、手の甲にあるスイッチを押した
フィィィイン
高い音と共に画面とクリアブルーのキーボードが空中に展開される
「わぁ・・・!」
シリルは驚きを隠せないでいる
「これがインターネットだ」
「凄いです・・っ!」
「えぇと・・、あー・・・チェンジ、俺は女物は判らん」
「了解♪ん〜と・・あっシリルちゃんコレなんか可愛いんじゃない?」
「はい!」
二人は上機嫌だ、司も妹が出来たようで楽しいのだろう
と、そこに
「う〜んショッピングは彼女達に任せて俺等はゲームでもやってますか!」
「そーだな、・・よっと」
梓と結城は乱暴にソファーに腰をおろすとS●NY製の最新ゲーム機
「プレイ●テーション6」の電源をつける
「何やりたい?」
「いいよ、適当で」
梓はゲームディスクを取り出す
「おっ最新のじゃん、早くやろうぜ」
「うるせー、そう急かすな」
「キャラクターはっと・・・コレだ!」
「ふふん、俺に挑んだ事を後悔させてくれる」
梓は自信たっぷりだ
「なめんなよ、秋葉の虎と呼ばれた俺の腕は伊達じゃないぜ?」
「吠え面かかせてやらぁ!」
「望むところだぁ!コノヤロー!」


「梓ー!終わったよー!」
買い物が終わった様だ、随分と買い込んでいたようだが・・
司のしては気前がいいな・・・
「おー、どの位買ったんだ?」
「んー上下合わせて20着位?」
「20って・・・金大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、梓のお金だから」
「そーか、なら良いかってえぇぇぇぇぇえ!
おっ俺の金!?勝手に使ったのか!?」
「そうだよ、悪い?」
「悪いに決まってる!」
やっぱりだ!やっぱりこの女裏で悪さしてやがった!
「だって梓はシリルちゃんの保護者なんだからこの位当たり前でしょう?」
「だからってなぁ!買う前に一言・・」
「あぁーもう!うるさいうるさいうるさーい!男がグダグダ喚くんじゃねー!(ボコッ」
「ぐはぁ!」


「計画は順調かね?」
沢山の機械が犇く部屋に一人の男がやってくる
「はい、しかし・・先日事故が発生しまして・・」
「事故・・と言うと?詳しく聞かせてもらおうか?」
男は神妙な面持ちで問う
「はい、ゲートをこの研究室に呼ぶ筈だったんですが
どうも座標がずれてしまった様で・・
それと、さらに別座標にもゲートが出現してしまった様です」
「馬鹿者!あれほどゲートの召還には注意しろと言っただろう!」
男は声を荒げる
「申し訳御座いません!」
「まぁいい・・今の所ゲートの目撃情報は入ってきてないからな・・、このまま実験を続けろ、何かあったらいつもどおり報告するんだ」
「了解しました」
「ふふふ、もう少しだ、もう少しで計画が完遂する・・」

その6 ゲイトさん

「それはそうと あの男はどうするのですか?」
ふと一人の男が計画を企てる男に問いただす。
「・・・・成城院の事か」
「はい、奴はこの実験の事情を知って姿を消しています、奴を野放しにして、表にこの事を話されれば」
クスクスと笑うとゆっくり口を開く。
「心配要らない、その為に我々は彼らを使って盾に出来る、この事はバレはしまい」
「ですが」
「それに、奴はある場所に現れる、あの船にな」
「船? と言うと実験サンプルを投下するあの船ですか?」
二人のもう一つの実験、それは実験体が兵器として活動してくれるかどうかだ、しかしそれを表に出せば世界は混乱を呼ぶ。
ならば事故と言う言葉を使い、それの成果を試そうとしていたのだ。
それの第一舞台は。
「アイツ、成城院が手掛けた船だ、奴はそこに現れる」


「あ〜そうだ、梓」
「何だよ、今度は・・・」
「ほれ」
「これ、船のチケット?」
司が差し出したのは、客船の招待チケットだった。
しかも2枚握っている。
「それがどうかしたのか?」
「あんたにあげるわ、私、一緒に連れて行けそうな奴いないし、出向の日、丁度私用事があるのよ、その娘と一緒にいったら?」
姉にしては妙な気前だ、自分に得するものなら大抵自分が有効活用するはずなのに。
「例の事件が絡んでるのよ、空気読みなさい、K.Y」
「何だ・・・はい、すいません」
司の右腕が唸っているのをみた梓は、言いかけていた事をとめ、2枚のチケットを貰う。
「例の事件?」
シリルが横から入る。
「最近若い女性、シリルくらいの年頃の女性が襲われてるんだ」
「妙な事件なのよね、被害者は全部女性、服を破られ、陵辱されてるのよ」
「そして、犯られた女性が口を揃えて言う言葉は・・・」
「「触手に襲われた」」
珍しく司と梓がシンクロする。
「なんであんたが知っているのよ」
「ニュースで有名だぜ、その事件」
結城が割り込んだ、しかも、ゲームやりながらしゃべっている、梓にこてんぱんにされたのが相当悔しかったようだ。
司は、マスコミをつくづく恨んだ、こんなのがおおっぴらになったら大問題になることに何故気付かないんだと。
頭をかきつつ、司が口を開く。
「ともかく、その事件の調査に行かなきゃ行けないから、アンタに譲るの、別にお土産とか入らないから」
そう言って司はそっぽを向く、本当は行きたいようだ。
梓は色々とチケットの内容を確認する。
その内容に梓は吃驚した。
その船は、昔、父が戦争用として作り上げた船を客専用に改造した船だった。
そして、その船に、父も乗る事が描かれていた。

その7 せいばーさん

6月29日金曜日
「よしっ・・・これで良いな」
「ん〜、背中がくすぐったいです・・」
「我慢してくれ、尻尾を切る訳には行かないだろ?」
「・・はい」
部屋で梓がシリルに服を着せている
こちらの人間と違い、シリルには尻尾と耳、更にはド派手な髪の色と来たもんだから、それをごまかすのは大変だった
尻尾はテープを使い背中に貼り付け、耳はどうしようもないので、耳をなんとか折りたたみ髪の毛を弄るなどして誤魔化し、
髪の毛は直ぐに落とせるタイプのヘアマニキュアで染めた
「おっ中々似合うじゃないか」
「そうですか?良かったです♪」
10周年記念パーティという事だったので
シリルは子供用のドレスを、俺はタキシードを着ている
自分の車に乗り込み船が泊めてある東京港に向かった
埠頭へ向かう中、シリルは始めてみる大都市の夜景に見とれている様子だった
「うわ〜、凄いです〜」
「そうか、それは良かった、尤も、俺は毎日見てるからどうとも思わんがな」
「そうなんですか?こんなにキレイなのに・・
でも、毎日見れるなんて羨ましいです!」
今まで見た事が無かったので当たり前だが、シリルはこの世界の物が珍しくて堪らない様だ
羨ましいのはこっちの方だ、こんなに物事に純粋に感動出来るお前が羨ましい
昔、俺の友人で可愛い物(主に子供)が大好きな女が言っていた
「私はこの純粋無垢でキレイな瞳を守る義務があるの!
昨今の腐った社会を目の当たりにして荒んだ瞳をしている大人なんて興味は無いわ!」と
俺もこの大都会に居を構えて長いが、確かに俺の瞳は荒んでいるかもしれない、会社に就職し、想像とは違ったリアルな社会を目にして色々な所が汚れてしまったのかもしれないな
昔はそいつの考えどうかと思っていたが−否、今もそうだが、純粋無垢な瞳を守るという点では俺も同感だ
子供が夢を忘れないで生きてゆける社会を作ってゆきたい
そいつに告白し、その言葉を突き付けられた結城は暫く鬱状態だったが
「とっ・・着いたぞ、うわぁ・・すげえ人だな」
軽く千人は超すであろう大群衆、それを見てシリルは
「うわぁ、多いですね・・人が一杯です・・
バレないでしょうか・・?」
少し不安そうだった
ここは保護者として元気付けてやらねば
「なぁに、そんなに心配しなくても大丈夫だよ
俺が着いてる、安心しろ」
「・・はいっ!」
シリルは顔に安堵の表情を浮かべる
良かった、少しは不安を和らげる事が出来たようだ
「よしっ!今日は思いっきり楽しめ!」
「はい!」


エスペランス号(梓とシリルが乗った船)地下五階倉庫
「・・・船の付近に不審な船舶やヘリは?」
「現在サーチ中です・・、サーチ完了、不審船舶及びヘリは発見されませんでした」
大柄の男が機械に写し出された女性と話している
女性の方は恐らくAIだろう
「そうか・・だが油断は出来ん、奴等は必ず来る
部隊には引き続き待機を、一応アパッチ(AH-64:軍用ヘリ)の発進準備を、それと少しでも怪しい船やヘリが来たら俺に連絡しろ、いいな?」
「了解しました、帝(みかど)様」
「おっと、言い忘れていたが、連絡する時は俺の事は
安藤と呼べ、本名は呼ぶな」
「了解しました、行ってらっしゃいませ、安藤様」
そう言うとAIは消えていった
「やらせん・・やらせんぞ葛木・・っ!」
男は憤怒の念を込めて言うと倉庫から出て行った

「オスプレイ(V-22:輸送ヘリ)に各魔獣の収納完了しました」
「そうか、ご苦労、乗組員には一応銃を持たせておけ、タイプ−2には特に注意しろ」
「ハッ」
白衣の男は部下を下がらせると
携帯電話でどこかに連絡を取る
「こんばんは、葛木です・・・・・
えぇ、8時より実験を開始いたします、・・・・・・・
判っております、・・・・・・しかし、我々も学者です
焦る気持ちは判りますが、実験は最低2回は実施します
・・・・申し訳御座いません、ですが後一週間以内には実験を完了し、そちらに兵器をお運びいたします・・・・・・
えぇ、では、御機嫌よう、将軍閣下・・」
不敵に笑うと葛木は電話を切った
「ふふ・・これで・・これで日本はお仕舞いだ・・」

その8 娯楽人さん

「うわぁ〜」
天井から吊るされた豪華なシャンデリア
周りの人々は皆着飾り踊り、舞う
シリルはそんな光景にただ見とれるばかりだった
「……」
梓はそんな光景にうっとりするシリルを見つめる
突然の来訪者、異形の尻尾や耳
そんな要素すら負にならないほど今のシリルは…
「可愛い…な」
「…みゅ?」
「いや…なんでも無い」
「みゅ〜?」
シリルは不思議そうに小首を傾げた
その仕草は小動物っぽくて
さらに梓は可愛いと思うのでした
「あっ、梓さん!?あれ!あれ!」
梓はシリルの指差す方を振り向くと我が麗しき友人がドレス姿で踊っていた
「ゆ…結城?」
俺はその光景に驚愕した
いつも喋ってた友人が華麗なドレスで踊っている
しかも、男だと思っていた奴がだ…
「お〜梓発見」
当の本人は嬉しそうにこっちに寄ってきた
梓は口が塞がらず、シリルは目を輝かせていた
「綺麗です〜」
「おぅありがと」
「…女装癖にでも目覚めたか?」
衝撃から復活した梓の第一声は非難に満ちた声だったが…
「あんれ?言ってなかったけ?一応おにゃのこだぜ、俺♪」
結城は自分を指差しながら悪びれも無くそう言い放つ
「……orz」
俺は床に突っ伏しこの破天荒な友人の衝撃的告白で撃沈した。

〜数分後〜
「落ち着いたかいマイブラザー♪」
「やめろ…そんな声で言うな」
「あははははw」
シリルが中央のバイキングではしゃいでいる様を眺めながら
俺達は椅子に座っていた
こいつの衣装にはもはや触れまい、だが一個負に落ちない点もある
それは……
「どうしてココにいるんだ?ここはチケット無いと入れないだろ」
「そこは遊び人の腕ゆえだぜはっはっはっは」
多少興味が沸いたがこいつはろくな事をして無いという決め付けで好奇心を抑えた
(こいつの話に関わらない方が無難なのだろくな目に遭ったためしが無いからな)
「……ってか何で今まで隠していた?」
「いや〜梓が聞かなかっただけだろ、気づいてると思ってたのにさ」
今見ると案外凹凸があり胸もあった
何故気づかなかったのかさえ不思議に思う
だが一つの違和感が俺にそれを認めさせない
ゆえに一つテストを行う事にした
「…この前のバトルお前強かったな珍しく俺が惨敗した」
「ふっふっふ〜俺の実力を思い知ったろ?」
ビンゴ、こいつは結城じゃない
何故なら結城はこの前の勝負で俺に惨敗してるからだ
こんな風に振ったなら「てめぇ嫌味かよぉww」と返してくるはずだからだ
だが、それなら疑問が浮かぶ
結城に瓜二つのこの女の子は誰なんだ?
「…白状すれば許してやら無いこともない」
「何のことだよ?」
「とぼけたって無駄だ、結城はこの前のゲームは惨敗しているんだからな」
「っ!…」
状況を飲み込んだ女の子は黙り込む
そして、静かに周りの喧騒にかき消されそうなほど小さな声で
「…ごめんなさい」と呟いた

「結城に双子が居るなんて初耳だな」
「はい、…あの…由紀(ゆき)と申します」
さっきの結城の演技の時とはうってかわって大人しい声だ
きっと、この子の本来の姿なのだろう
「で、何故君がここに居る?」
「兄が…私が居ればきっと役に立つだろうって」
「ふむぅ…だがなら結城の振りをする必要も無いだろう?」
「あれは…ちょっとした悪戯です、ごめんなさい」
俺は核心した、この子は間違いなく結城の妹だと


「♪〜〜♪」 梓さんはちょっと離れた所で結城さんと喋っている
シリルはバイキング?って所でデザート食べてるの
みーちゃんにも食べさせてあげたいな…
「プリン♪プリン〜♪」
こちらの世界のプリンは甘くてとろけそうなほどおいしかった
でも、シリルの世界のプリンも梓さんに食べて欲しいな…と思っていたら悲鳴が会場に響いた
「きゃあああああああああああああっ!!」
声のする方に振り向くとそこには……

俺の耳にも悲鳴は届いていた、俺はすぐにシリルに駆け寄る
そしてシリルの視線の先を追った俺は驚愕する
「…なんだあれは…」
空中に浮く女性、もちろん自力で浮いているわけではなく
【触手】に捕まり持ち上げられあられも無い格好になっていた
そして俺はこの状況の中絶望的な事実を思い出す
ここは海上、つまり逃げ場無き孤島のような場所だった事を…

その9 せいばーさん

午後8時15分 豪華客船エスペランス号一階大ホール
「!、あれは・・っ!」
シリルは驚愕する
当然だ、どういった理由かは知らないが自分の世界の生物
しかも人の精を吸い生きる糧とする性質(たち)の悪い奴だったのだから
触手に捕まった女性の悲鳴を聞いて客が次々に逃げ出す
警備員が触手生物に向かって拳銃(ベレッタM92R・FN Five-seveN)を発砲するが全く微動だにしない
逆に警備員が触手に体を貫かれ、鮮血を流す有様であった
何で客船にそんな物騒な代物があるの?と言うツッコミは控えてもらいたい、そこっ!笑うな!
「シリル!逃げるぞ!・・クソッ!何所のモンスター映画だ!?
俺がガキの頃確かこんな映画あったぞ!」
梓はシリルの手を引いて逃げる
この様な状況下で何所に逃げるのか?、もちろん考えは無い
だが、俺はシリルのマスターの様に魔法が使える訳でもないのでとにかく逃げるしかなかった
「ハァッ・・ハァッ・・ハァッ」
悲鳴がどんどん遠くなる
今居るのは地下2階、何故デッキに出ないのか?
梓とシリルも最初はそうしたがそこは既に血と硝煙、触手の精液の臭いで満ちていた
「!、倉庫があるな・・隠れるぞ!」
「はぁ・・・は・・い」
シリルも走り疲れていた様だったので、隠れる場所があるのはありがたかった
「・・・大丈夫か?シリル」
「はい・・・なんとか、でも・・、あの生き物確か・・」
「そっちの生物なのか?」
「はい・・、でも変なんです」
「何がだ?」
「アレは普段人は襲わないし、あんなに体は大きくなかった気がします・・」
シリルは頭に疑問符を浮かべる
「ふぅ・・・どうやって脱出するかな・・・ん?」
梓は溜息をつく、すると、ちょうど手を触れた所に硬いものが当たった
「・・・しめた!シリル、これ持っとけ」
梓はシリルに黒い物体を渡す
「うわっと・・これは?」
「さっき警備員の人が持ってたろ?こっちの世界の飛び道具だ」
拳銃だった、しかし先程の様な大柄の男が使うような大きい物ではなく練習用の銃(SIG SAUER MOSQUITO)だった
当の梓は射撃の腕には自身があったので(因みに自宅に一丁所持)大型拳銃(ワルサーP22)を持った
梓は一通り使い方を教えると倉庫を出ようとした時
プルルルル プルルルル
梓の携帯電話が鳴り響いた


午後8時29分 東京湾 豪華客船エスペランス号上空
「こちら観測隊!デッキに情報にあった生物を確認!
デッキに生存者は見当たりません!どうぞ!」
「了解!これより敵生物に対し一斉掃射を開始する!
各部隊は生物の絶命を確認後船に乗り移れ!」
「日本海軍の出動要請を確認!横須賀よりチヌーク(CH-47J:輸送ヘリ)中型船舶の発進した模様!到着まで30分だ!急げ!」
「やっぱりな・・流石にここまで被害が出てると海保じゃ済まんか・・」
生物が自らの上にいる武装ヘリに気付いたのか体を動かし、触手を伸ばす
「来たぞ!打てっーーーー!!!」
4機のアパッチに装備されたチェインガン(M230)やロケット弾(ハイドラ70ロケット弾)が一斉に発射され
ヘリを海の藻屑と変えようとした触手と本体を文字通り蜂の巣にする
「敵生物の絶命を確認!全部隊降下せよ!」
武装した兵士が次々にデッキに降り立つ
「生物の排除を最優先しろ!生存者は海軍に任せとけ!」
「第一分隊は一階から2階!第二は3階から4階!
第三は残りの階だ!急げ、海軍が来る前に済ませろ!」


午後8時15分 東京都内某所高層ビル最上階
「全魔獣を投下完了、同時に成城院の私立部隊も動いたようです」
「そうか・・やはり武装組織を保有していたか・・厄介だな」
「追加しますか?タイプ−4でしたら空中戦も出来ますし、何時でも出動可能です」
「いや、出さずとも良い、海軍も動いた様だ
これ以上深追いする事もあるまい、
・・・それより・・、成城院はやはり影武者だったか」
「はい、タイプ−1が発見し殺害しましたが身体的特徴及び虹彩を調べた所一致しませんでした」
「そうか・・まぁいい、最初の実験にしては結果は上々だ
何体かは死んだだろうが問題は無い、次回の実験の準備をしろ」
「実験場は何所にしますか?」
葛木は考え込む
「ふむ・・そうだな・・・・警視庁などはどうだ?
アレを潰せば暫くは都内の指令系統が混乱する」
「了解しました、支持しておきます、では失礼します」
「時に久遠(くおん)」
「?、何でしょうか」
その場を立ち去ろうとした久遠と呼ばれた女性は振り返る
「彼とは上手くやっているかね?」
「そうですね・・、最近は忙しいので会っていません」
「私は部下の恋愛事情に口出しするつもりは無いが
君の彼は成城院の息子だ、用心したまえ」
「御安心を、彼は父親がどのような人物だったか知りません
全くの無関係です」
「そうか、なら良い」
「では、失礼します」
「うむ、ご苦労」
久遠は部屋から出てゆく
白衣のポケットから携帯電話を取り出すとアドレス帳を開く
[成城院 梓] のアイコンを選びボタンを押す
プルルルル・・プルルルル・・
プッ
「渚か!?悪い!今はちょっと話してる暇は無いんだ!」
「えっ!?どうしたの!?今何所にいるの!?」
「船・・エスペランス号っていう船だ!細かい事は今度説明する!じゃぁな!」
ブツッ
プッープッープッー・・
「・・ウソ・・、そんな・・」
渚はこの計画に参加した事を後悔した
元々計画の進行の仕方には反対だったが、十分将来性のある計画だった
葛木にはもう一つ別の計画がある様だが直属の部下である私もそれは知らない
「・・・・・」
渚は祈るしかなかった
梓が無事であるように、と

その10 娯楽人さん

〜梓サイド〜
「っち…下手に動けないな」
「梓さん…今の何ですか?」
「んっ?ああこれは携帯電話って言って遠くの人と話せるんだ」
「凄いですね」
「ああ、便利だよな…ってそんな話をしてる場合じゃ無さそうだ」
倉庫の外から異臭が漂って来た
間違い無いあの触手どもの臭いだ
「シリルはここに隠れてろ、俺が戦う」
「でも、梓さん!危険ですよ!」
「いいから、ここに居るんだ必ず向かえに来る…待っててくれるよな?」
「…(コク」
「よし、いい子だ」
俺はシリルの頭を撫でると倉庫の外に飛び出した
何があっても守ってやるんだ……
「うおおおぉぉぉっ!」
(ドォン!ドォン!ドォン!
俺の持つワルサーが触手の一部を吹き飛ばす
だが、数が多く二、三本落としただけではきりが無い
「っち……くだばれぇ!」
(ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
触手の勢いは衰えてきた、その上あと3本、いける!
「ギュゥゥゥゥゥゥゥ!!」
奇声を上げ襲い掛かってくる触手に俺は冷静に銃弾を叩き込む
(ドォン!ドォン!
「ラスト!」
(ドォン!
「ギュニュゥゥゥ………!」
「はぁ…はぁ…っちギリギリだったなもう一本いたらやばかった…そうだシリル…」
俺はいそいで倉庫に戻ったがシリルの姿は無かった
「シリル!何処だ!」
俺の声はむなしくこだまする…
「くそっ…ん?」
風が吹き込んできたので不思議に思うと天井に穴が開いていた
「上か!」
俺はその辺の木箱を使い天井によじ登る
(待ってろシリル…約束は守るから!)

〜シリルサイド〜
「っち…下手に動けないな」
梓さんは手に持ったものをポケットにしまう
シリルは初めて見るものだったから思わず聞いた
「梓さん…今の何ですか?」
「んっ?ああこれは携帯電話って言って遠くの人と話せるんだ」
「凄いですね」
「ああ、便利だよな…ってそんな話をしてる場合じゃ無さそうだ」
シリルにも嫌な臭いが来てるのは分かった
でも、ここは行き止まりだし…と思ってたら
「シリルはここに隠れてろ、俺が戦う」
梓さんの提案にシリルは驚いた
いくら武器が有っても危険には変わりないから
「でも、梓さん!危険ですよ!」
「いいから、ここに居るんだ必ず向かえに来る…待っててくれるよな?」
「…(コク」
真剣な瞳で見つめられシリルは頷くしかなかった
だけど…嫌な予感は消えない
「よし、いい子だ」
梓さんはシリルの頭を撫でると倉庫の外に飛び出した
シリルは奥の方に行き息を殺す
外の方ではかすかな梓さんの声と銃声が響く
怖くて泣きそうだったけど梓さんの言葉を信じて待った…
銃声が鳴り止みシリルは顔を出したら目の前に…
「ギュニュニュ〜」
「!?」
触手が居た
瞬時に口に入り込まれ悲鳴を上げる事も出来ずに
シリルは吊り上げられていた
(あ…梓さ…ん)
そして、シリルの意識はゆっくりと落ちていった……


「海上保安庁は何をやってるの!?」
司の怒声が刑事課に響き渡る
今現在襲撃を受けている船に弟と客人が乗っていれば無理も無かったが
そんな怒声も凛とした声にかき消される
「まぁまぁ、司お姉様大丈夫ですってこんときのために妹を派遣してますから」
「結城君?!何でここに…」
「言ってなかったですっけ?僕一応警視庁の職員ですよ♪出勤してないけどw」
そんな話は聞いてない、
どうやらこのわざと重要な事を言うのを忘れる癖らしい
「初耳よ、それにどういう事なの!?よりによって由紀ちゃんもあそこにいるですって!?」
「えーまぁでも大丈夫ですよ梓も居るし」
「どうしてそんな根拠の無いこといえるの!?相手はモンスターなのよ?」
「…何を怖がっているんですか?司姉?」
「べ、別に何もただ梓の事が心配で…」
「相変わらず嘘が下手だよ、司姉は心配なのは梓の【力】でしょ?」
力の部分を強調して言い放つ結城君の瞳は面白がってるようにも見えた
「っ…そうじゃない本当に梓やシリルちゃんの事が…」
「まぁまぁ大丈夫ですってなんたって俺の自慢の妹が行ってますから、それに…やつら関連なんでしょ?この一連の事件」
「…何処まで知ってるの?」
「さぁーてねw、俺は只の遊び人さ♪」
「食えないわね…」
司は大きく二つの事が心配だった
一つは梓に宿る力
もう一つは自分が追ってる組織
そして、結城はもうそれに気づいている様子
(これから一体何が始まるって言うの…?)


「派手にやらかした用ですね」
由紀の周りには女性の死体と男性の無残に裂かれた死体が複数転がっていたが彼女は気にも止めず触手の母体に歩みよる
「ギュニュウウウウ!!」
触手は新たな獲物に標的を定め突進する!
「邪魔」
(ドォン!!)
「ギュニニュウウウウウッ!!」
触手は彼女のかざした手に触れると跡形も無く消し飛んでいた
「冥府に行く準備は出来まして?」
丁寧な言葉遣いだったがその瞳には闘志に近いものが宿っていた
触手に知能があれば相手が危険だと察しただろうが
図体ばかりで知能が無い触手は理解出来なかった
何故吹き飛んだのかも理解せずに再び突進を繰り返す
(ドォン!!…ドォン!!…ドォン!!)
彼女に触れようとするたび爆発音が響き渡る
だが触手には状況が理解できない
そして、ついに彼女は母体にたどり着いた
「安らかにお眠りなさい異界の獣よ」
そこで初めて触手は恐怖したが時既に遅く
かざされた手から閃光が巻き起こる!
(ドォォォォォォン!!!)
船すら揺らす爆風の後彼女は悠々と立っていて
後にその状況を目撃した生存者は語る
「化物以上の女の子が居るとは思わなかった」と…

その11 ゲイトさん

一方、船の操縦室では、乗組員が救難信号を打ち続けていた。
船長は救難信号を出している者意外は、全員乗客の非難を優先させた。
「こんな事になるとは、化け物を輸送するなんて聞いていないぞ」
その時だった。
(ドォォォォォォン!!!)
地下の方から爆発音が響く、
「今度は何だ!!」
「船長、メ、メインエンジンが停止しました。」
「何だと!!直に再起動させるんだ!!」
「駄目です、こちらの機能を受け付けません」
「クソ、何処の下手糞(整備班)だ、この船のエンジン点検したのは」
その爆発音とやりとりから数分後、船長は連絡用の電話を手に取り、エンジン近くの乗組員に連絡した。
「船長だ、エンジンはどうなっている?」
「船長、何者かに細工されて、エンジンが活動しません」
手詰まりとはこのことだ、エンジンを応急処理しようとしても、細工されて取り外せないのだ。
エンジンが活動しないのなら、船は沈む、最悪の事態になった。
「おかしい、どうかしている・・・」
船長も思わず頭を抱え込む、倉庫に現れた化け物、エンジンの妙な停止、整備ミスの事故と思わせるような細工。
それらの理由から、船長があんまり考えたくない答えが上がった。
「カモにされたか・・・」
ぼそりと呟く、再び乗組員が声を上げた。
「船長、化物が暴れたおかげで地下から海水が」
「救難信号は私が出し続ける、お前達は乗客を非難させるんだ」
乗組員達が一斉に動いた。


(ドォォォォォォン!!!)
「うわっ!?」
爆発音で船が大きく揺れた。
幸い周りに何も無かったから良かったものの、何かあったら大怪我じゃすまなかっただろう。
「糞、今の爆発じゃ何処か穴が開いたな、海水が流れ込んできたら・・・うう、考えたくも無い」
そんな事言っても、いずれその考えは現実になるだろうな。
しかも、嬉しい事に、穴の先はどうやら下の階に続いていたらしい。つまりだ、余計脱出が困難になったと言う事だ。
俺は穴から飛び降りる、同時にピチャリと水を踏む音が聞こえる。
「チッ、かなり沈んでやがる」
おおよそ地下3階から下はもう駄目だろう。
この階でシリルを見つけ無ければ、シリルと俺は仲良く溺死だ。
「糞、何処に行ったんだ」
その周りを調べる、すると、若干高くなっているところの先に聞き覚えある声が聞こえた、シリルの声だった。
「こっちか!!」
少し高くなっている所を上り、先へと進む。
その先から、可愛らしく喘ぐ声が聞こえる、まさかとは思うが、一思いにやる前に、おいしく頂いてから殺りますなんて化け物がいるのか?不安がよぎる。


「エンジンの細工は順調に起動したようだな、ククク、これでこの船は事故としてみなされる、船の崩壊も、後々言い訳になるだろう」
そう言って、携帯である男に連絡した。
警視庁に配備させている工作員に連絡を入れた。
「俺だ、船は事故、原因はエンジンの整備ミス、それで通せ」
数秒後
「御意」
と言うコメントが彼の携帯に入り込んだ。

この船が完全に沈むと思われる時間は後約1時間弱、その時間が、梓と司、船長を焦らせた。

その12 娯楽人さん

気がついたときには回りは触手に囲まれていて
シリルの大事なとこも曝け出されていて
触手さんが大事なとこを行ったり来たりして……
「みゅ…うぅ…あぁ…」
「ミュニュニュニュ」
触手さんは嬉しそうに鳴きながら、シリルの大事なとこをさらに激しくこすります
「みゅあぁぁぁ……だ、だめぇ…」
止めたいけど甘い声が勝手に出ちゃう、
こんなところ梓さんには見られたくないよぉ…
そんな願いも空しく遠くからシリルを呼ぶ声が聞こえた
「…シ…ル…!」
「あ…梓…さん…ひきゅ…んっ…」
(ダメ…来ないで…来ちゃダメェ…!)
「ミュニャニャニャ」
「アキュン?!」
シリルの気持ちを感じ取ったかのように触手さんがシリルの大事なとこをさらに攻め立てます
「みゅぁ…あああぁっ!」
(もうダメ…声が止まらないよぉ…)
「ミュミュミュニャニャーー!」
「あく…きゅ…ふああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
(……触手さんに…イかされちゃった…)
「シリル…!くそっ…この化け物め!!」
(あ…梓…さん)
「みゅぅ……」
梓の姿をかすかに視界に捕らえながら再びシリルの意識は闇に落ちた


「シリルー!」
俺は躍起になってシリルの行方を捜していた
方向の指針は考えたくも無い彼女の甘い声
だがそれを頼りにたどり着いたそこには絶頂を向かえくったりとするシリルとそれを抱える触手が居た
「シリル…!くそっ…この化け物め!!」
「みゅぅ…」
シリルは気を失ったようでグッタリしている
しかし、助けようにもさっきの戦闘で銃は弾切れ
周りにシリルに渡した銃が落ちて無いか見たが無い
武器もなく絶望的な状況下の中俺はシリルを捕獲している触手を目掛けタックルをした
「うぉぉぉぉ!!」
「ミュニャニャ……ミャ!!」
(ブゥン!!バシン!)
「っ!…くっ…痛ぇ…」
触手の攻撃はすさまじく銃が無い今では勝ち目は無さそうだ
しかし、早くシリルを助けないとこの船は沈む
化け物と一緒に海の底なんてまっぴらごめんだ
「っち…万事休すか…」
その時化け物の後ろから声が響く
「伏せてください!」
俺はとっさにその場に伏せた、すると…
「ギミャアアアアアアアアアアッ!!」
化け物に断末魔と共に爆風が巻き起こった!
「ふぅ…セーブして放つのは難しいです」
「お、お前は…」
そこに立っていたのは先ほど会場で話をしていた結城の妹由紀だった
「大丈夫ですか?梓さん」
何をしたと真っ先に聞きたかったが
「シリルは!?」
「大丈夫ですよほらあそこに」
シリルは床にぐったり倒れていた
俺はシリルに駆け寄り抱き起こす
「シリル!シリル!!」
「………んぅ…梓…さん…?」
「良かった…シリル…(ぎゅっ」
「みゅぅ…苦しい…ですよ…梓さん」
「…私は退散しますねごゆっくり」
そんな声すら遠く聞こえるほど俺はシリルの事を見つめていたそしてしばらく俺はシリルを離す事が出来ず
ずっと「ごめん」と謝っていた
そうしたらシリルは「遅いです」って言いながら俺の頭を撫でた
いつの間にか俺はこの異界の少女を自分が思うより大切になっていた……


「本当熱々で焼けちゃう…おっと兄さんに連絡しなければ」
(ピピピ……ピ)
『首尾はどうだい?マイシスター?』
「全く兄さんは軽薄過ぎます、現在成城院の特殊部隊らしき輩も突入してきてるみたいです、あと梓さんと例の少女は保護しました」
『上出来だ…でも本目的がついでみたいに聞こえるぜw』
「そんな事はどうでも良いんです、それにエンジン付近で大規模な爆発がありました、この船はそんなに持ちませんよ兄さん?」
『あちゃー厄介な事してくれるねぇ…分かった由紀続けて梓とシリルちゃんの護衛をしろ邪魔な奴は人でもOKだ』
「了解…兄さん」
『何だ?』
「無事戻ったら一つ話があります」
『なんだそりゃ今ココでいいじゃないか?』
「直接お話したいんです」
『はいはい…たく強情だねぇ誰に似たんだか、よっしじゃあ俺からも一つ、無事に帰って来い以上だ』
「…了解、通信終わります」
(ピ…)
「…何としても生きなきゃこの思い伝えるまでは死ねない」


「誰か、誰か答えてくれ!」
船長はずっと救難信号を打ち続けている
だが、答えは返らず永遠のような時間が流れてるようにすら感じた
「…ダメか…せめて海保が動いてくれれば…」
絶望的状況下の中で船長はかつてこの船の設計者に言われた言葉を思い出した
『どんな船でもいつか沈む、だがこの船だけは絶対に沈まないい仕掛けは教えないがね』
「何であんな事を…成城院沈まない船なんて無かったでは無いか現にこの船は…」
船長はもうこの船が数十分も持たない事に気がついていた
熟練の船乗りなら浸水箇所が絶望的な事も分かっていた
「これでも…この船は沈まんと言うつもりか…」
うわ言のようにつぶやく船長はそれでも救難信号を送り続ける
せめて乗客の一人でも助かればいいと願いながら……


「って…通信機持ってるならそういってよね!?」
「いや〜司姉が聞かなかっただけでしょう?w」
「この非常事態にこれ以上ふざけるなら殴るわよ!?」
「…えらいすんませんでした」
結城も司の拳の味は知っている、わざわざ味わいたくは無かった
「それにしても、状況は最悪ね…お父様は何を考えてらっしゃるの…」
「しかし、流石成城院私設部隊とはやるねぇ世界規模の企業は違うな〜」
結城が茶化すように言う
そう成城院グループ、私のお父様の会社
表向きは世界規模の薬品及び電子機器の会社
しかし、裏の世界では闇の商人を束ねる総元締めだった
そんなお父様から逃げ出すように私は刑事になった
だけど、こうしてまた関わる事になるとは皮肉よね
「……」
「司姉?もしかして怒っちゃったかい…?」
「ヘリを一機用意して!私自ら助けに行くわ!」
「へ…つ、司姉!?何考えてんのさ!あそこは危険なんだよ?流石の司姉でも…」
「うるさい!これは私の問題でもあるの!嫌なら付いてこないで!」
「もう、司姉はいっつもこれだ…梓の事だと見境無いんだから、お節介焼きは何も司姉だけじゃないよ、俺も行く!」
(司姉が梓の事を思うように俺は…司姉が心配なんだ…由紀…俺が行くまで無茶すんなよ)

豪華客船エスペランス号沈没まで…45分

その13 せいばーさん

急ぎましょう!この船も後何分持つか判りません!」
「そうですね・・取り合えず上に行きますか?」
「それが妥当でしょう、また奴等が来ても私がいるので御安心を」
「ところで由紀さん?」
梓は走りながら聞く
「あの力の事・・・ですか?」
梓は無言で頷く
「詳しい事は禁則事項なので言えませんが、大雑把に言えば超能力みたいなものです、その能力者を統括する機関に私は勤めています」
「そうですか・・、何時からそこに?」
「中学2年の夏からですかね・・、突然“発症”しました」
「発症?それはどうゆう・・っと早速お出ましですか」
「さっきの奴か・・もう再生したのか?懲りもせずにまぁ・・・散れ!」
由紀の掌から光弾が何発も飛び出す、これなら奴も蜂の巣のはずだ
しかし
バキィィン!
「なっ・・バリア!?・・ならばっ!」
更に強力そうな光弾を発射する由紀だが
バキィィン!
「うそ!?バリアブレイクをバリアで防いだ!?この短時間で私の攻撃の免疫を・・っ!?」
フォン!
触手が三人を捕らえる
「なっくそ、離れろ!」
「うっわっ!はっ離してください〜」
抵抗空しく梓達は触手に捕まってしまう
しかも梓は“美味しくない”と見たのか敵の大きな口から体内に取り込まれてしまった
「梓さん!」
あぁ・・・ここで死ぬのかな・・・
と思った瞬間、自分の中で、何かが弾けた

コノママシヌノカ?
死にたくない
ナラバドウスル?
抵抗する
ユキデモカナワナカッタゾ?
ならばそれ以上の力で行くのみ
ドウヤッテ?
簡単な事だ、それは息をするのと同意、
只、只切り裂き、貫き、殺すのみ!
 
ズシャ!ジャキィン!ズバァ!
「■■■■ーーーーーー!!!」
文字通り“臓物(はらわた)をブチ撒けた”触手生物は断末魔の叫びを上げる
体は指先から肩まで黒く染まっていた
指先から伸びた爪は残りの触手を全て切り刻み2mはあろうかと言う巨体を只の肉塊へと変えた
赤黒く光る人外の目は獲物を刈るハンターそのものであった
「なっ・・・うそ、こんな所で覚醒・・?しかもこの戦闘能力って・・」
すると梓が床に倒れ込む
「「梓さん!」」
「ん・・・あれ?俺は・・」
「話はあとでゆっくり聞かせて貰います!
今は兎に角逃げますよ!」
三人はデッキへと向かう


見える!見える!相手の動きが、触手の動きが、次にどのように動けばいいかが判る!
梓は自分の体の変化など気にせず、目の前の“獲物”をナイフを思わせる鋭利な爪で本能の赴くままに切り刻んだ
「ギニャァァァァァッァアアア!!!」
「今更何を叫ぶゲテモノ、俺はな、獲物に情を掛けられるほど優しくはないぜ?」
ズシャッ!
「ギニュウゥゥ・・・・」
ドサッ
梓が獲物に止めを刺す
「この数十分で何人殺したか知らないが・・、呆気ないものだな、弱者は所詮弱者か、自分より大きい力の前には・・・屈するしかない」
ズズズ・・・
梓の腕の黒い部分が消えてゆく
「何だ、もう時間か、まぁいい、最初にしては中々楽しめたぜ」
そう言い終った直後、梓は床に倒れた


「うそ・・・こんなのって・・・」
「うわぁ・・・こりゃ酷い」
煌びやかな豪華客船は目も当てられない位ボロボロだった
「由紀!聞こえるか!?」
『兄さん!?今デッキに向かってる所!そっちは?』
「船の上だ!じゃぁ正面から右側に来てくれ!はしごを下ろす!」
『了解!向かうわ!(ブツッ』
「なんだって?」
「今デッキに昇るって!、スイマセン!もうちょい右に寄って貰えますか!?」
結城はパイロットに向かい叫ぶ
暫くすると3つの人影がデッキに出てきた
「兄さーん!」
「由紀!大丈夫か!?怪我は!?」
「私は大丈夫!シリルちゃんと梓さんは軽傷!」
三人は梯子を伝いヘリに乗る
「梓!」
「わっぷ!ばか!そんなに抱きつくな!揺れるだろ!」
ヘリに乗ると同時に司が梓に抱きつく
「今回くらいは許してやれよ、司姉凄く心配してたんだから」
と言いつつも結城は梓が困っている様子を心底楽しんでいる様だ

こうして、このパニック映画さながらの事件は終わりを告げた

その14 娯楽人さん

豪華客船エスペランス号の沈没のニュースは一時ワイドショーのいいネタにされたけど結局一週間程度で下火になった
何故なら一般的な発表はこうだったから
『エスペランス号は不慮のエンジントラブルにより…』とかなんとか
私達に取って見れば戯言以外の何者でもなかったけど
それでも世の中はそれを受け入れるように出来てるわけで
事件は無かった事にされた
しかし、私は諦めないどんな事をしても真相を暴いてやる
たとえ、この身が犠牲になろうとも……


「梓さん…お仕事行かなくて良いんですか?」
「いいんだ、しばらくは貯金で何とかなるしそれに俺が居ない間シリルが無防備だろ?」
「みゅ…」
梓さんはあれからお仕事を辞めたみたい
それもこれもシリルがこの世界に来ちゃったから
シリルが来なかったら…梓さんは幸せだったのに…
「でも、やっぱり…」
「シリル、前にも言ったろこれは俺が決めた事だ…それになシリルのせいじゃないんだよ」
「…みゅ」
「じゃあ先に風呂に入ってくる」
そう言うと梓さんは逃げるように脱衣所に入っていった
梓さんにはシリルが気に病んでることはお見通しだった
でも…シリルの為に今までの生活を捨ててこうやって一緒に居てくれてる
梓さん…シリルは何が出来るだろう…梓さんに対して
シリルは何ももって無い…今着てる洋服ですら梓さんのお金で買ったもので
シリルはこの体しか……
「うん…お礼…しなきゃ精一杯…」
シリルは決意すると脱衣所のほうへ向かった


(ザァァァァ……
シリルが気に病むのも分からないわけではなかったが
何もシリルのせいじゃない…シリルは巻き込まれただけなんだから
それに俺の力はどうやら『一般人』にはありえないレベルらしい
あれだけ凄い技を使った由紀でさえ驚嘆してたほどだ
俺の体は一体何なんだ…
「くそっ…」
「梓さん…?」
「!?…シリル…どうしたんだ?」
「えと…あの背中流そうと思って…」
すりガラスの向こうにシリルのシルエットが浮かぶ
「いや…いいよ恥ずかしいだろ?」
「でも…お礼がしたくて……」
今にも泣きそうなくらい震えた声に俺は根負けした
「分かった…入っていいぞ」
「はいっ!」
さっきとは打って変わって元気な返事を上げゆっくり入ってくるシリル
俺はシリルに背中も向けていた、俺の愚息が今にも反応しそうだったからだ
「えと…なんでそっち向いてるんですか?」
「いや…背中洗うならこの方がいいだろ?」
適当な事を言ってごまかしにかかる、だが裏目に出た
「じゃあそのまま前を見ててくださいね」
「?」
俺は不思議に思ったがシリルに任せる事にした
だが次の瞬間…
(ムニュ…
「!?…し、シリル?」
「こうすると…男の人は嬉しいんですよね…んしょんしょ」
何と、シリルは自分の体で俺の背中を洗っていた
シリルが動くたびにシリルの柔らかい肌の感触が伝わる
「シリル…こんな事何処で…」
「えと…ネット…です」
最近熱心に何か調べてると思ったらこういう事か…
「シリル…よせって俺にはそういう趣味は…」
「…でも、結城さんに聞いたら男だったらロマンとか…」
あの馬鹿め…いつか殺す
「だから…シリルは嫌じゃないのか?俺は男だぞ?」
「梓さんは優しいから好きです…だからお返しなんです」
「………」
俺はもう何も言えなかった、
その上俺の愚息は徐々にその本性を現し始めて既に振り向けない状態になっていた
「梓さん…あの日の事覚えていますか…シリルが捕まって梓さんが助けに来てくれて…」
「あの時俺は何もしてないよ…あの時助けたのは由紀だったろ?」
「ううん、それでもシリルは…梓さんに助けてもらったと思ってます」
「シリル…」
ここが風呂場でこんな状況じゃなければ抱きしめたいくらいの言葉だった
「だから、梓さん…シリルを抱いてくれないですか?」
「!?」
今なんて言った?
落ち着け俺今のは幻聴と考えろ…
しかし、俺は自分が抑えられなくなっていた
「いいのか?」
これは俺自身への免罪符、決断を彼女に委ねる浅ましい言葉
…そして俺は…

「……いいの…梓さんがいいの」
シリルは精一杯声を絞り出し答えた
梓さんはこちらに振り向くとぎゅっと抱きしめてくれました
「体洗ってベッドに行こうか」
「…はい」
いつもどうりの優しい声でシリルはほっとしました
もし…断られたら…もし…嫌われたら
そんな恐怖と戦いながらもシリルは…梓さんと…


「綺麗だ…シリル」
「梓…さん…」
シリルは消え入りそうな声で俺を見つめる
「大丈夫だ…怖くは無い」
俺はシリルを落ち着かせるため頭を撫でる
「みゅ…ぅ」
シリルは目を細め気持ちよさそうに俺の手を受け入れる
そしてもう片方の手はシリルの秘所に触れた
「みゅ…や…優しくお願いします」
お決まりの言葉過ぎて少し意地悪をする
「シリルが可愛すぎるから我慢できないかもな」
「みゅー」
シリルは怒ったような感じで頬を膨らませる
だがそれもまた俺が興奮するだけの効果しかなかった
「みゅ…あぁ…」
(クチュッ…クチュッ)
部屋には卑猥な水音が響き渡る
それがこの年端も行かないような少女の秘所からする音だとは誰も思わないだろう、それくらいシリルの秘所は濡れていた
「梓さん…梓さんっ…」
「気持ち良いか…?」
「はいぃ…んきゅぅ…ふっ…んっ…」
俺ももう我慢の限界だった
「シリル…良いか?」
「…はぁ…はい……梓さん、来て…下さい」
そして俺はシリルの体を貫いた



(ズチュズチュズチュズチュッ)
「あんっ…くぅ…梓さぁ…ん」
「シリル…シリルの中…凄くいいよ…」
「いやぁ…恥ずかしいです…あんっ…くぅん!」
「シリル…シリル…はぁ…はぁ…」
シリルの中はまさに絡み付いてくるように俺の愚息を刺激する
その気持ちよさは今まで体験した事のない良さだった
「シリル…!シリル…!」
(ズチュンズチュンズチュン!!
「梓さん…そんなはげしく…ひゃあぁ…ぁ!」
「シリルは…どうだ?俺のは…良いかい…」
「は…はいっ…とっても…きゃああん!」
「うぅ…もう…シリルっシリルっ!!」
「梓さん…梓さんっ…!!」
「で…出る…っあああああああああっ!!」
「あきゅううううぅ!!」
(ドピュドピュドピュ!!…ドピュドピュ…)
「はぁ…はぁ…」
「みゅぅ…はぁ……」
俺はシリルの中にこれでもかと言うほど白濁液を流し込んだ
しかし…
「あ…梓さん…?」
「すまない、シリル…一回じゃ収まらないみたいだ」
「そ、そんな…きゃふっ…んっく…!」
「シリルが可愛すぎるんだよっ…もっと可愛い声が聞きたい…」
「梓さん!梓さんっ…あん!あうぅ!きゃうぅぅ!!」
「シリルっ…シリル…っ…」
俺達の交わりはその後何度も続きお互いを貪る様に愛し合った…

その15 せいばーさん

7月8日日曜日 梓宅
「なぁ、結城」
「ん、どした?」
「お前、シリルに何か吹き込んだろ」
「(ギクッ)ナンノコトダ?」
「お前嘘つくの昔っから下手だよなぁ・・・(ゴキッグキッ)」
「いやだなぁ、何を言ってるんだい?我が友よ、俺は・・・・
別に・・・・御免なさい、
取り合えずその司姉直伝アイアンクローは止せ」
「結城、【時既に遅し】と言うギレン総帥の言葉を覚えているか?
それとこれは司直伝ではなくてタマ姉直伝だ、
喰らぇえ!!必・殺!アイアァァァァンクロォォォォーーー!!!」
「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!」
俺がシリルと行為に至ったのは事実だが、取り合えずコイツはシバいておいた
「・・・・どうしたんですか?何だか結城さんが怖い状況になってるんですけど・・」
「何でもないぞ、シリル!これはちょっとしたお仕置きなんだ!」
「いやー、しかし弟よ、見ない内に腕を上げたわね」
「だろ?もう結城の頭を潰すなんて楽勝だぜ」
「にっ兄さん!?だっどっどうしたの!?何だかとってもグロテスクな事に!」
買い物から帰ってきたシリル達が結城を見つめている
弱冠一名が慌てふためいているが


「・・・司、警察の資料の方はどうだった?」
「うん・・この前の数少ない生還者への事情聴取の結果だけど・・皆そろって『でかいバケモノがいた』って言ってる
でも・・・」
「テレビや新聞ではエンジントラブルって報道・・か」
「そう、どっかの大企業か政府高官から何らかの圧力を受けたのは間違いないわ」
「情報は確かなのか?」
「当たり前よ、私が聴取をしたんだもん」
「そうか・・・由紀さん?」
「何ですか?あっそれと由紀でいいですよ」
「そうか、じゃぁ由紀、この前言ってた“機関”って?
俺の力はなんだ?」
「・・・ふぅ、ちょっと待ってください」
そう言うと由紀は部屋の奥に消え、携帯で連絡を取る
「・・・・5537237-Y-KK214、もしもし・・・
先日の客船沈没事件で“発症者”を発見しました
・・・はい、コンタクトは取れているのでこちらから大まかな説明を・・・ええ、了解しました」
電話を終えたのか由紀が戻ってきた
「誰と話してたんだ?」
「上司・・、梓さん、これから説明する事は他言無用でお願いします」
梓は無言で頷く
「私が所属している機関、『特異能力症候群発症者保護機関』通称【特関】は私や梓さんの様な“発症者”を文字通り保護する機関です
私の『気体圧縮能力(エア・バスター)』や梓さんの『肉体部位強化能力(ボディ・アームズ)』等
様々な能力を持った人達が所属しています」
由紀は淡々と機関の説明を始めた
中々難しい話で良く判らなかったが、どうやら俺の能力はかなり奇特な物らしかった
普通『肉体部位強化能力』は体内の炭素結合度を変化させ硬化する等の基本的に防御能力が上がる能力が多くで
俺の様な攻撃能力に特化した者は少ないらしい
更に聞く所によると俺は『多重人格』らしい、確かに言われてみれば体が変化した時の記憶が曖昧だ
これはあると面倒なので治療するらしい
機関の目的は、『未保護の発症者による事件を極秘裏に解決する』らしい
他にも一般の刑事事件にも捜査協力をしているらしく
協力者の多くは『未来予知能力(アンサートーカー)』や
『重力・物体操作能力(サイコキネシス・グラヴィティ)』だそうだ
「・・・だいたい判りましたか?」
「・・はい、なんとか」
「ホントですかぁ?」
由紀はグイと顔を近づける
「ホントですって」
「じゃぁ、明日機関の施設に行きます、結構怖い上司が多いので覚悟してくださいね?」
「はい・・」
気付くともう6時だ飯食って寝よう
「シリルーご飯作るから手伝ってくれ」
「はい!」
明日機関の施設に行くと言うが・・大丈夫か?
上司がゲンドウさんみたいだったらやだな・・・

その16 娯楽人さん

そして、翌日……
「でかいな…流石都心って所か」
俺達は由紀の案内で機関のビルにたどり着いた
外観はまさに都心によくある高層ビルだったが、その高さも周りと比べてさらに高く異様な雰囲気を放っていた
「さっ皆さんこちらです」
由紀を先頭に俺、シリル(帽子、ヘアマニキュア使用)姉、結城と続く
そしてエレベーターに乗った
見たところ普通のエレベーターの様だったが階数が半端じゃない。50以上もあった
「で…その上司さんは高いとこにいるのか?」
正直俺は高いとこが苦手だ出来れば下を見れない場所の方がいい
「いいえ、下のほうですよ」
俺は由紀の発言を理解するのに数秒を要した
その間に由紀はパネルを操作する
本来あったパネルの下に別のパネルが現れそれをなれた手つきで押す
「少し揺れますので注意してください」
その言葉と共にエレベーターは『落下』した

「…出来ればあんな事は事前に話しておいてくれると助かる」
機関の施設は地下にあるのでエレベーターを切り離し
文字どうりカゴごと地下に行くらしい、
もっとも着いた後での説明だったので対処も何も出来なかった俺はしりもちをついた
「はっはっは…流石マイシスターお茶目さんだ…」
結城のほうは顔面蒼白で笑っている
こいつはこう見えて絶叫系の乗り物は苦手だ
「みゅぅ……」
シリルは腰が抜けてしまい俺がおんぶしている
首にかかる吐息と声が愚息を刺激しかねない
結城も背負うと言ったが玉砕していた、ざまあみろ
「まあ、早く行きましょ先鋒を待たせちゃ悪いわ」
姉は相変わらず冷静につかつか進む
何であの衝撃で普通に立っていられるかなこの人は
「ここです、粗相の無いようにしてくださいね?」
目の前には大きな鉄扉が立ちはだかる
威圧的なその扉を由紀が脇のコンソールをいじり開く
そこにはある種予想を軽く超えた人が俺達を待ち構えていた
「ようこそ、特異能力症候群発症者保護機関へ私が所長のクリシュア、アーダインよ」
威厳のある台詞だったが声はまさに少女それで…なんて言うか驚愕した
見た目も…シリルと同レベルもしくはそれ以上にちっこい女の子で
それに、目を見張るような金髪蒼瞳の美少女だった
余りの状況に一同が同じように固まった
「何を見ているの?早く入りなさい」
「あっ、はい…失礼します」
俺も思わず敬語になってしまった
体は小さいが流石所長様と言った所か体からにじみ出る威厳は確かに有った
ゆえに小さくても多分慣れてる人でも恐縮してしまいそうだった
現に由紀は体を硬くし怒られないかと思っているようだ
一体俺はこの人に何をされるのか…させられるのか
分からないが何があろうと俺は大事な人を守るつもりだ
特に俺の背中に乗っている可愛いネコミミさんはな

「まあ、座って頂戴」
シリルは梓さんから降りると長椅子の端の方に座る
所長さんの話はシリルには難しくてよく分からなかったけど
梓さんや結城さん、司さんや由紀さんも真剣に聞いていて
シリルにもその緊張感は伝わってきた
「ここまでで何か質問は?」
「はい」
「はい、由紀」
「そのつまり最近私達のような人が増えたのはこの前の事件が深く関わっているという事ですか?」
「そのとうりよ、そしてそこの貴女はこの世界の人じゃないのよね?」
深い青い瞳で見つめながらシリルに問いかける
「みゅっ…えと…はい…シリルは別の世界から来ました…」
正直に言うと所長さんは満足そうに頷くと話を続ける
「つまり、異世界との接点が増えそれに伴い人類が進化しはじめたのよ、だからそれを研究しているのが私納得してもらえたかしら?」
所長さんは皆に確認も込めて返事を促した
多分背はシリルよりも小さい所長さんだったけど
ちーちゃんと同じくらいしっかりしてる様に見えた
「だが、ちょっと待てそうなるとだいぶ前からシリルの世界の住人とかを俺達の世界に招いてる事にならないか?」
「いい所を突くわね、でもまさにその通りなのよ、貴方達も見たでしょう?異形の生物をね」
「…それで、俺達は只呼ばれたわけでは無いんだろう?」
「そう、これから貴方達にはここで生活してもらうわそのために呼んだんだから」
「…はぁ?」
「移住の手続きは済んでるわ、家財道具ももうちょっとで搬送が終わるし」
「ちょっと待て!そんな事聞いて無いぞ!?」
「今初めて話しのよ」
「それにしたっていきなり移住とかやりすぎだろ!?」
「貴方のもってる力は貴方の予想以上に危険なの、だから保護するわけよ」
その後も凄い言い争いと言うか梓さんが食って掛かってたけど
所長さんは当たり前のようにさらりとかわしていた
「じゃあ、後は由紀に聞いて頂戴私はこれでも忙しいんだから」
去り行く所長さんに梓さんは口を開けて反論しようとするが声が出てない
司さんは考え込むように床を睨んでいる
結城さんは面白そうにニヤニヤしてるし、由紀さんに至っては目が点になっていた
こうして、私達と所長さんの初コンタクトは壮絶な形で幕を下ろした

「これで、よしっと…」
この世界に来てから日記をつけるようにしている
何でなのかは分からないけどシリルがここに居た事を形にしておきたいんだと思う
結局シリルと梓さんは機関にお泊りすることになりました
シリルの部屋は梓さんとは別でちょっと寂しいけど、すぐにいける距離なのは嬉しかった
「みゅぅ〜……(ゴシゴシ)」
達成感と今日の疲れで眠くなったので早めにベットにもぐる
明日は何があるのかなと思いつつシリルは眠りました。

その17 せいばーさん

7月9日月曜日 夜10時 東京湾海底
沈没船エスペランス号
海保及び海軍合同のサルベージ作業を目前に控えたこの船で・・・
何かが“起動”する・・・
最下層、第二予備発電室
コポコポ・・・・・
ブゥウン・・・・
ゴゴゴゴゴゴ・・・・
大きな揺れ、それと共に壁が崩れ始める
ガシャァン!ゴキィン!
何かが連結する音
そして全ての壁が崩れ落ちた
・・・・コォーン・・・コォーン
潜水艦のソナーの様な音が海底に鳴り響く
そこには、先程までは沈没船だったとは思えない
巨大な“亀”がいた
それは東京湾の海底の泥に消えていった・・・

同時刻 
特異能力症候群発症者保護機関 地下15階
コンコン
「梓ー、入るぞ?」
「あぁ」
ウィィン・・・ガシャ
カードキーを通しドアを開ける
結城が俺の部屋に入ってきた
「どうした?初めての所で眠れないか?」
俺はいつもの仕返しと言わんばかりに結城を茶化す
「馬鹿いうな、小学生じゃあるまいし
此処にきたのは暇だったからだよ」
「てゆーか何で結城がまだ此処にいるんだ?お前は発症者じゃないだろ?」
「なんでも、『異界の住人と直接接触していて何時発症するか判らないから』だそうだ」
結城はコーヒーを啜りながら説明する
「ふぅん・・お前が発症したら『肉体透明化能力(インビジブル)』とかになりそうだな』
「何でだよ?」
「覗きに使ぶぁ!何すんだ!」
強烈なエルボーが梓を襲う
「人を覗き魔みたいに言うな!」
「じゃぁ何だよ!?」
「・・・・・・『透視能力(クリア・ウォッチ)』?」
「余計性質悪いじゃねーか!」
「うるせー!」
「五月蝿いのはお前等だ!この野郎共!」
ロリ所長が凄い剣幕でやって来た
「あぁ、これはどうもロリ・・アーダイン所長」
危うく結城がロリ所長と溢しそうになる、もう少しで所長の耳に入る所だった
「今ロリって言ったな?言ったな?」
聞き漏らさなかった、と言うかさっきと弱冠キャラが違うのは気のせいか?
「まぁ。結城の事は置いといて・・・どうしたんです?こんな時間に」
「ゴホン・・私も仕事が一通り片付いたし、貴方達にこの施設の事を説明しようと思ってね、ついてきなさい?」


「こんな事部下に任せれば良いんじゃないですか?」
「久々の入所者だし、私が直々にと思ってね、ありがたいと思いなさい?」
「へぇ、意外と律儀なんですね」
「それはどういう意味かしら?」
いつの間にか司もいた
その後、オペレーションルーム、会議室、医務室、食堂、大・小ホール、
トレーニングルーム、談話室、武器庫、第一〜第三ドック、研究室等様々な場所を巡った
武器庫には何故か『バルディッシュアサルト(フェイト・T・ハラウオン) 』とか
『レイジングハートエクセリオン(高町なのは)』なる物が飾られていたがアレは何なのだろう、
所長曰く
『アレか?アレはな、兵器開発部主任の趣味だ』
・・・いったいどんな趣味なんだろう

翌日 7月10日
「これが貴方の制服です、サイズは合っていますか?」
所員の女性が機関の制服を渡す
「えぇ、大丈夫です」
「では、私はこれで」
女性が去ってゆく
同時に
ピンポンパンポーン
『所員ナンバー6438791-A-AS632、成城院 梓、
及び6438792-S-SG231、シリル・グランフォードは、研究室まで来てください』
「何だ、早速呼び出しかよ」
梓は研究室へと向かう
研究室へ着くと既にシリルが検査を受けていた
今はCTスキャンだろうか、大きなドーナツ状の機械へと入ってゆく
「貴方はこっちです、では上着を脱いでください」
梓は上着を脱ぐ
「今からこの薬を打ちます、これは貴方の症状を強制的に発動させる薬です、
少々痛みますが我慢してください」
プスッ
透明の薬が体内に注入されてゆく
すると梓の肩から指先が黒くなり始めた
その黒くなった手をスタッフが手に取りまじまじと見つめる
他にも何だか良く判らない機械に手を入れさせられ
スタッフはその機械のモニターを見つめていた
「足を見せてください」
言われたとおりにズボンの裾を捲くる
「ふむ・・どうやら強化されるのは腕と胴体だけのようですね
特に指先・・この爪の切れ味はとてつもないです」
指先から10p程伸びたナイフの様な爪、どうやら収納が可能で、衝撃波も繰り出す事が可能だった
スタッフ曰く
「この爪だけでPS装甲を微塵切りにできる」そうだ
由紀の言ったとおり、俺の能力はかなり珍しい能力らしい
判らない言葉でスタッフが熱弁していた
そして、その他様々な検査の結果、俺の症状の評価は
攻撃性能
・近距離戦闘:SSS
・中距離戦闘:B+
・遠距離戦闘:E−
防御性能
・耐弾性:S−(上半身に限る)
・耐E(エネルギー)性:B+(〃)
・耐衝性:A(〃)
運動性能
・俊敏性:A+
・持久力:B+
・握力:S
総合評価
・SS
だった
中々な結果だな、うん
「あっ、梓さん検査終わったんですか?」
「あぁ、終わったよ、結構しんどかったな・・・」
「この後梓さんの部屋によって良いですか?」
「ん、構わないけど、何で?」
「えへへー♪お楽しみです!」
この後、俺がシリルに襲われたのは言うまでもない


7月11日未明 千葉 九十九里浜沖50km海底
成城院グループ所有海底機密要塞「龍宮」
「帝様、アーセナルが到着した模様です」
「む、意外と早いな、では、これより演説を行う
講堂に隊員を集合させろ」
「了解しました」

講堂のステージに帝が立つ
「諸君!我々は、この地球を弱き人民を守らねばならぬ!
それは何からか!?異世界の怪物である!
奴等は、人を喰らい!犯かし!脅かす!その存在をこの地球から抹消せんと徘徊する!
その様な奴等をこの美しき星にのさばらせてはならぬ!
奴等から人民を護るのだ!我々にはその義務がある!
我々には力がある!一つ一つは微少でも、諸君等が力を合わせればそれは大きな力になる!
その力を行使し、奴等をこの星から追放、否、完全に滅ぼし!我々人類に栄光を齎すのだ!
HARSY HANTERS(異端を狩る者) 万歳!」
「HARSY HANTERS 万歳!」

その18 ゲイトさん

帝は、演説を終え、舞台から降りた。
「帝」
「お前か、どうした?」
「梓が・・・」
帝の耳元で話す、どうやら梓がある施設に連れて行かれたことを報告したようだ。
「そうか、梓もか」
「いかが致します?」
「放っておけ、俺は俺のけじめをつける」
帝の拳がうなる。
かつて、異世界の魔獣の観察をしていた帝のチーム、grass(グラス)、それには、葛木やアーダインもいた。
彼らが最初に異世界の住人に気づいたのは、ゲートを使った機械からだった。
彼らはそこから現れた者を捕獲し、傷や不快な気持ちを与えないように観察していた。
彼らにとって、異世界の者を傷つけることは、異世界との戦争を起しかねない、そう思ったからだ。
だが、ある日、ある魔獣が召還された時、すべてが変わった。
その魔獣には、人を襲い、陵辱し、それを養分とする生物だった。
当然こちらの世界の餌も受け付けるのだが、それよりも厄介だったのは、同じ異世界の者でさえも襲うということだった。
やがて、施設にいた同じ世界の者も襲い始め、序々に観察に支障が出始めた。
彼らはやむ終えずそれを殺した。
それは、彼らにとって初めての失敗だっただろう。
彼らはゲートの機械を再確認し、二度とあんなものを呼びださないようにした。
だが、葛木は違った、あの生物を研究すれば、強化生物が作れる、そう思っていた。
彼は、人を襲う魔獣のサンプルを取り出し、観察用にその細胞を受け付けたのだ。
結果、それは異世界の合成獣と化した。
合成と化したそれはあの生物同様、人を襲うようになった。
性欲や暴君を満たすために。
兵器の誕生である、それを知った2人は葛木を追放、その魔獣を完全に焼き払った。
こうなってしまっては仕方ない、帝は、今まで召還した魔獣達をゲートで元の世界に帰し、チームグラスは解散した。
その後、帝は、妻を置いて行方不明、アーダインは新たな仕事を始めたという、追放された葛木は新生研究チームを作り上げ、瞬く間に魔獣兵器を作り上げた。
追放された直後、例のサンプルを持っていたのだ。
町中で現れる魔獣はそれが原因だろうと帝は確信していた。
彼は、アーダインにも妻にも連絡を取らず、ただ葛木の野望を打ち砕かんとし、今に至るのだ。
「俺は異世界の人間に許されない事をしている事は百も承知だ、だが、彼らとの縁を断ち切るにはこれしかないのだ」
心揺らぐ帝だった。


「また触手に襲われたですって?」
司が部下からの連絡を受けた。
「はい、どうやらこの近くに潜んでいるようで」
「そう、この辺りも警戒したほうが良いのかなぁ・・・」
そう言いつつ、頭を抱えた。
司は都内某所 機関の内部に部屋を設けてもらったが、仕事であるこちらの方も気になり、梓を結城に任せ、自分は警視庁へ戻ってきたのだ。
「それにしても、妙な事件が立て続けですね、豪華客船の沈没、触手による被害、次は日本戦争でも起こりそうですね」
「何言ってるの、そんなの起こったら洒落になってないでしょ!!」
「あはは、すいやせん」
部下が頭をかきつつ、司に謝った。
「とにかく、この辺りの警戒を強めて」
「りょ〜かい」
そう言って、部下は下がった。
もうすぐ今日の仕事も終わる、大体の職員が退室している中、司はぼうっと考え事をしていた。
「梓の力、薄々は気づいていたけどね」
実は、小さい頃にも、妙な力が開放されたことがあったのだ。
そのとき、梓は体の一部に火傷を負った。
幸い命に別状はなく、梓も火傷の部分が暑いというだけで他は変化がなかった。
「あの力も、父が、いやあいつが関わっているのかな」
答えのない質問に答えはが返ってこない。
背中が座っている椅子から仰け反る、もうじき日が沈む、司は、ぼうっとした気分をふっきった。
「そろそろ私も戻ろうかな」
そう言って背中を持ち上げる。
その時、司は目を疑った。
司の近くにおいてある監視カメラを映し出すテレビ、そこには無数の触手が所内を後背していた。
他のスクリーンには、女性が陵辱されていたり、職員が血を流して殺されていたり、応戦するものをいた。
「こっこれは一体どうやって」
震えが止まらない司、恐る恐る別スクリーンも出す。
他の場所もそうだった。
唯一普通の場所は、門とその上の階の窓付近、そしてこの部屋だった。
さらに司はこいつらがどこから侵入してきたのか調べた。
その結果、裏口と地下にあるマンホールからだった。
そこから本体も出てくる、思わず司は口を抑えた。
「うっうぐぅ、とっともかくここから出ないと」
司は引き出しから、オートマチック拳銃(ベレッタM84)を取り出し、椅子から立つ、小型のモニターを取り出し、それを監視カメラと結合させ、どこに触手が徘徊しているか確認できるようにした。
外に出ようとしたときだった。
「司さん、大丈夫ですか!!」
「貴方は、御剣君? 貴方も無事だったのね」
「はい、司さんも」
彼は御剣(みつるぎ)、ここに来て数ヶ月で、銃の腕前はなかなか、私の5番目に背中を任せられる子よ。
「あの化け物は、いつの間に?」
「わかりません、私も出ようとしたとき、この状況に気づいて急いで、ここへ」
「そう、なら、急いで出ましょう」
「はい」
司が先へ出る、同時に、御剣の耳に入っている無線機が反応した。
「久遠か」
「葛木様から連絡、司を指定の場所へ」
「わかってますよ、彼女が餌になるとは思えないがな」
「触手のいないルートを通信するわ、この赤い部分へ」
「・・・御意」
御意と言う言い方、それが組織内で彼の分かったと言う時の口癖だった。
御剣は、通信が切れることを確認する、司に聞こえてないことを確認した。
「早く」
当の本人は周りを警戒しながら俺を呼んでいた。
「分かってます、ですが脱出ルートは検討ついているんですか?」
「うっ」
「私に任せてください、触手のいない場所を模索しておきました」
「流石、頼りになる」
「いえいえ(フフフ)」
怪しい笑いを残して御剣の後を追う司。 数々の非常口ルートを通り、広々とした場所へ出た。
「ここは、確か地下の・・・」
「そう、ここは地下の訓練所、そして司さん、貴方を誘拐する場所」
「!?」
気づいた時には遅すぎた。
御剣は、司に麻酔弾を打ち込んだ。
「あぐ、御剣、貴方・・・」
「眠っててください、貴方を使って貴方の父を誘い出すのですから」
その一言に司は、あることを思い出した。
新聞記事の強い圧力、あの情報は私の支部か私の父の部隊しか知らないはずなのに、私の支部から事故だと告げられた。
その言いだしっぺが誰なのか見つけられなかった、そして今分かった。
「貴方だったのね、新聞やマスコミの人に豪華客船を事故と言い聞かせたのは、うぐっ」
御剣は司の頭を足で踏みつける
「お前は知りすぎた、そして関わりすぎた、我等の事や帝のことにな」
「く・・・」
「さっさと眠れ、仕事ができないだろう」
そう言って司は意識を失った。
「全く手間を掛けさせてくれる」
ピッ
「あぁ久遠か、ターゲットを捕らえた、そっちに向かう、葛木にも伝えておいてくれ、」
御剣は無線を切ると司を抱え、行方を暗ました。

「第2回目の実験、終了」
久遠は警視庁の出来事を記録していた。

その19 せいばーさん

7月10日 6時10分 特関内オペレーションルーム
「緊急事態!東京都千代田区霞ヶ関2−1−1、警視庁にて
異界生物の出現を確認!
個体数他、詳しい状況は不明!付近の所轄が援護に回っている様ですが間に合いません!」
「国軍省より出動要請を受けました!所長!」
「要請をを受領!第一・第二・部隊出動準備!
新人の成城院も出して!第一部隊に臨時配属!」
「了解しました!緊急事態!第一・第二部隊は出動準備をしてください!及び、成城院 梓も出動!第一部隊に臨時配属!
場所は、千代田区霞ヶ関2−1−1!警視庁庁舎!」


「なんだって・・・ッ!?」
「梓ッ!い、今警視庁って!」
「あぁ、くそっ・・何でこんな時に・・っ!」
梓は奥歯をかみ締める
制服から戦闘用(梓専用)の服に着替え部屋を出る
そこに
「梓さん!」
由紀がやって来た
「由紀も出動!?」
「はい、今は確かお姉さんが・・」
梓は苦い顔をし頷く
「梓っ!・・・司姉のこと・・頼んだぞ」
「あぁ!暴力姉貴を救出してくる!」
そういって、梓と由紀はドックへと向かった
「くそっ・・こんな時に・・俺は、無力だ」
結城は悔しそうな顔をする
由紀は発症者で、大きな力を持っている、唯一同レベルだった梓も(司は論外)発症者となった
自分だけ置いていかれたような、疎外感に襲われ涙が出そうになる
「そんな君にプレゼントだ、藤堂結城君」
「!」
そこに居たのは兵器開発部主任、Dr.ラルフだった
特関内でもトップクラスの天才であると同時に変人である彼はドクターの名の通り本業は医者なのだが
「医療が本命で、こっちは遊び」
だという
しかし、特関内で使用される兵器(銃・戦闘服etc)は、殆ど彼の発明である
「何か様ですか?ドクター」
「いや、君がとても悔しそうな顔をしているのでね、ついな、
声を掛けるのは慈悲だと思わんかね?」
「何が言いたいのです?」 
慈悲などではない、只、結城の悔しそうな顔を面白がっているだけだった
「まぁそう急くな、君に力をやろう、一時的ではあるがね」
そう言うとドクターは兵器開発ドックへと結城を招きいれた

「輸送機【ウルフ】発進準備!」
「各隊員は急いで搭乗してください!発進まであと30秒!」
「今回は新型だ!速ぇから舌噛むなよお前ぇ等!」
ドックで新型ヘリが飛び立とうとしている
「全隊員の搭乗を確認!第一第二部隊、発進してください!」
キィィィィィイイイン
ババババババ・・・・・・
首都警備の中枢で、過酷な戦いが繰り広げられようとしていた・・


バァァァァァァァ!!(キィィィィン!!)
警視庁最上階に輸送ヘリがホバリングする
「さっき説明したとおりに動け!これは訓練じゃないんだ!
心して行け!」
隊長が叫んでいる
「梓さんは私について来てください!」
「判った!」
装備は強化素材で出来た戦闘服に予備携行のハンドガン(FN-Five-seveN)に“俺の腕”だ
中にはサブマシンガン(FN P90)を持っている者もいたが
あれは恐らく防御系の発症者なのだろう
俺は由紀さんと一緒に目標の階へと向かう
その途中で魔獣と出くわした
「ギニュゥゥゥゥゥゥウウウ!!」
「出たな化けもっ・・の?」
速かった、魔獣を視界に捕らえ 接近し、触手を切り裂き、本体を肉塊に変えるまで、その間、実に2秒!
「何だ、意外に弱いな、強そうなのは見た目だけか」
「いや・・、梓さんが強いんですよ」
「そうなのか?」
「(自覚が無い強者程怖いものは無いな・・)」


「新型のアームドデバイスだ、試作機ではあるが、性能と安全性は保障しよう」
「・・・っ!」
沢山の機械やコードが繋げられた体長2メートル程のロボット
その気体表面には沢山のハッチがあり、
人が一人すっぽり入れそうだった
青い機体はスマートでロボットとは思えないほど洗練されたデザインだった
「これは人の神経と機械をシンクロさせて動かすロボットだ
いや、パワードスーツと言うべきか」
「これを・・俺に?」
「あぁ、試験も兼ねて実践投入する、所長の許可も取れている」
「じゃ、じゃあ俺に行かせてくれ!頼む!」
「言われなくとも、もう輸送の準備は出来ている
中に入りたまえ」
専用の服(どっちかって言うとタイツ)を着て、中に入る結城
「どうだ?まるで自分の体のように動かせるだろう!?」
「あぁ、凄い・・」
「では、これが武器だ、好みの武器を選びたまえ」
そう言うと、ラルフが指を刺す
そこには何十もの武器があった
そこから、人が使うよりも大き目のハンドガン(デザートイーグルver:R)二丁とサブマシンガン(IMI タボールAR21ver:R改造により装弾数が50発)を選んだ
「ではヘリはこっちだ、乗りたまえ」
言われたとおりにヘリに乗る結城
「(これで・・これで俺も皆の力になれる!)」
青い戦士は、戦場へと向かった

その20 娯楽人さん

「くそっ…きりが無いな」
「船の時より個体の強さは下がってますがこう数が多いと…」
最初はかなり優勢だったのだが流石に能力の連続使用ゆえ二人とも疲弊していた
「ギュギャギャギャ」
「面白がってんじゃねぇよ化け物が」
「でも、このままだと不利ですね…何か決定打が欲しいところだけど」
『何だよ、もうへばってんのか?梓らしくもねぇなぁ』
「結城?何だいきなり」
その瞬間壁が吹き飛び粉塵の中から青いロボットが出てきた!
「何だありゃ!?化け物の一味か!」
『俺参上!!』
「…しまりの無いあのポーズ…間違いなく兄さんです」
『ひでぇなマイシスターwまあ助けに来たぜ!食らえや化け物どもぉ!』
結城の両手のマシンガンから多数の銃弾が放たれる
数分後には凄惨な光景が広がった
『はぁはぁ…どうだ!』
「馬鹿かお前はぁ!撃ちすぎだろ!!」
俺はグーで殴っとく
『ぐほぉ!!…アーマー着ててもこの衝撃…あーっ!!へこんでる!?』
「ったく…何なんだよこの兵器は」
「きっとドクターの趣味の産物の一つですね…あの人も懲りないな」
『俺スーツがぁぁぁ!』
「アホめ…裂かれなかっただけましと思え」
「兄さん…流石にそこまで悲しまなくても」
まあ何はともあれ正直助かったのだが、こいつには礼を言いたくない
これは絶対だ、
何せ恩着せがましく自己中だからな何言われるかわからん
…姉さん、無事でいてくれよ
「走るぞ!」
「梓さん待ってください!梓さんは早いんですから飛ばしすぎはぁ!」
『……って俺放置かよまてやおまえらぁ!!』

〜10時34分 特関オペレーションルーム〜
「妙ね…」
「何がですか?所長さん」
「ああ、出来ればクリシュアって呼んで」
「みゅ…分かりました、それでクリシュアさんは何が妙だと思うんですか?」
「さんも要らないけど…まあいいわ、船の時のデータと比べて個体性能は30%ほど落ちてるのと後は…」
「後は…?何ですか?」
「これだけの事態になる前にゆがみは発見できるはずなのにって事まさしく穴だから不振に思わない事がおかしいから」
「みゅう……よく分からないです」
「この上なく単純に言うとこの事件は囮で警察内部にも敵が居るって事」
「えっ!?じゃあ梓さん達が!」
「ちょっと危ないかもね……そこで貴方の出番ってわけ」
「みゅ?」

〜10時34分 特関格納庫〜
「クリシュアさん…何するんですかぁ…?」
「オペルームに替え玉…OK、乗用物体確保…OK、よし準備できたわ」
「みゅ…?」
「行くわよ警視庁に」
「でっでもクリシュアさんは偉い人で指示を出すほうじゃあ!?それに危ないですよ!」
「何のために変装してその上貴方の友達と偽って貰いながらここまで来たと思ってるの?」
「それは、その…だけど!友達と思ってるのは本当ですから無茶して欲しくありません」
「ありがと、でもね私が居なくなったって誰も気づかないわ置物だし」
「?どういうことですか」
「私は所詮スポンサー、形ばかりの所長なのよ権限はあるけどほとんど行使できないし、それにね心配なのあいつの事が」
「っ!…あいつって…まさか」
「おちゃらけて何を考えてるかも分からなくてでも私を所長と扱わないし…」
「…結城さんですね?(ホッ」
「ん?他に誰が居る?…はは〜大丈夫よ梓を取ったりしないから」
「ちっ違いますよ!?そんなんじゃないですから…」
「ふふっ…じゃあ行くわよ!」

〜10時45分 ?????〜
「うぅ……ここは…」
「気がつかれたかな?成城院の娘よ」
「…お前は…葛木…やっぱり黒幕はあんただったのか…」
「女らしく無い言葉だな成城院の娘だが時期にそんな口も叩けぬようにしてくれるわ」
「っ…何をするつもり…」
「知れたことお前の親父の事と弟の事全部吐いてもらう、その後はちゃんと人質ろして丁重に扱ってあるわ」
「……っく」
「私が出た後奴を下ろせ」
『…御意』
「ではまた会おう成城院の娘」

「……何が…またよ…」
「ギュニュニュ〜エサエサタベモノ…」
「!?」
『さぁ早く喋らないとと本当に食われてしまいますよ司さん』
「御剣君!?お願い!もうこんなことやめて!」
『司さんのお願いは喋った後ゆっくり聞きますから』
「っく……」(助けて…梓…)
「ギュニュ〜〜〜!!」

その21 せいばーさん

警視庁庁舎 地下
「昔、バイオハザードってゲームがあったのを覚えてるか?お二人さん」
「あぁ、覚えてるぜ、タイラントは強かったな、うん
由紀は怖がって近づきもしなかったがな」
「余計な事言うとそのスーツを木っ端微塵にしますよ?
しってますか?
空気ってある程度圧縮すると拳銃の弾みたいになるんです
私の場合ロケットランチャー並ですが」
「ならその弾数無限のロケットランチャーで目の前のバケモノを粉砕してくれるか?マイシスター」
「兄さんこそさっさとそのエヴァっぽいロボの中の
“彼女”を目覚めさせてアレを捕食してくださいよ、
S2器官持ってるんでしょ?」
三人の眼前には、身の丈4mはあろうかという巨大な人型の魔獣がこちらを見つめている
「・・・グォォォォォォオオオオオオ!!!!!」
魔獣の涎が盛大に飛ぶ
「(ビチャビチャ)・・・・この様な状況下で最善の行動は何ですか?由紀先輩?」
梓が涎を拭いながら問う
「あー・・、“逃げる”が最善かと」
「そうだな、うん、・・・逃げろぉぉぉぉおおおおお!!!」
「グァァァァァアアアア!!!!」


「・・・本当に宜しいのですか?所長
貴女が“上官なのにどんどん前線に出てっちゃう”コンボイ体質だとは知りませんでしたよ」
「私の症状を忘れたの、ドクター?
下級魔獣の何十体かなんて目じゃないわ」
「凄いですね・・、これ、こんなに着ているのに全然重くないです」
「お褒めに預かり光栄です、
それはアメリカ軍特殊部隊SWATが正式使用している防弾服を私なりにアレンジしたものです
軽い、強い、暑苦しいの三点セットで御座います」
「一つ余計じゃなくて?」
シリルとクリシュアはDr.ラルフ特性のバトルジャケットを着ている
四肢はもちろん胴体や頭部だって敵の攻撃から完全防御
銃もドクター特性だ
触手からのヤラシイ攻撃からも股間は完全防御
本来なら何十キロもする装備をたったの2キロに抑えた世紀の発明
「着きましたよ、お嬢様方、どうぞ、ごゆっくり血で血を洗う過酷な戦場をお楽しみください、あっ、それとアソコの防御もお忘れなく♪」
「それこれから戦おうって少女に贈る言葉じゃないわよね?」
「何のことやら・・・では、私はこれで」
キィィィン・・・
ヘリが去ってゆく
「まったく・・帰ったら減給の検討でもしようかしら・・」
そんな言葉を残して二人は梓達の下へ向かった・・
しかし二人は気付かなかった、回りに無残に転がる
特関兵士の死体に・・・

その22 娯楽人さん

「うあああああっ!!」
「きゃあああああっ!」
『ひええええええっ!!』
三者三様の悲鳴を上げて俺達はそいつから逃げていた
「ウゴォォォォォォ!!」
このままでは捕まる…何か打開策は…そうだ!
「由紀!天井を吹っ飛ばせ!足止めするんだ!」
「分かった!てぃ!」
(ヒュウン!ドカァァン!ガラガラガラ!!)
大量の土砂が降り注ぐ効果はてきめんらしく化け物は停止してオロオロしている
「さぁ今のうち…」
俺の言葉は悲鳴にかき消された
「きゃああああああっ!」
土砂が降り止んだそこには…
「シリル!?」
「あっ梓さん!!」
『ロリ所長までなんで!?』
「アーダイン所長!?シリルちゃん!?」
「ロリって言うな!いたたいきなり何よ…」
「!!、シリル危ないっ!!」
「えっ?…!!」
俺はその瞬間を見た、スローモーションした動画のようにゆっくりと化け物の口がシリルに迫り…
(バグッ!チュルゥ!ゴクリ…
「ギャアアォォォ!」
食った…?シリルが…食われて…えっ…
「あぁ…あぁぁ?!うああああああああああああああ!!!」
「シリルちゃん!!!いやぁ!!いやぁぁぁぁぁ!!」
『っち!クリシュアァ!』
「えっ?きゃあ!?」
化け物が所長に食らい付く瞬間、結城は所長を掻っ攫い
事なきは得た…だが梓の怒りは止まらない
「殺してやる…殺して…ヤル…」
チカラホシイカ?
ああ!欲しい!
ナライッショボクトイッショ
どうでもいい…全部…コワシテヤル!!
「うごぉぉうがぁぁぁぁぁ!!!」
「梓さん!?」
『あずさぁ!?』
「いけない!能力に飲まれてる…」
オレハ…アイツを…コロす
「ウガァァァァァァ!!」

梓は俺達の目の前で化け物に変異した
全身を腕を覆っていたあの装甲で包み
まるで…そうだな鎧を着けた騎士になってた
その後?…俺の口からは語れねぇな
ただ一つ、とにかく俺達は助かった
それだけが事実だ、何?詳細が知りたい?
…吐くんじゃねぇぞ?

梓だったそれは宙を舞って化け物の顔面に蹴りを入れる
苦しそうにうめくと後退し始める怪物
だが梓…いや"梓"だったものは容赦しない
「ウゴォォォォッ!」
「ウガァァァ(ザシュ!!…ザシュザシュ!」
「ウガァァァァァァ!!(ズドォォン」
一振りで化け物の腕を切断、次に両足にそれぞれ斬撃を入れる
化け物の体勢は崩れ倒れた
もう一度確認しておく、吐くなよ?
「ウガァァァ(ガブッ…グチャグチャ!ガシュ…ジュルリ)」
「た…たべ…いやぁぁぁぁ!!!」
「…獣の捕食行動…自然だけど…なんておぞましい」
『梓ぁぁぁぁ!!やめろやめてくれぇぇぇ!!』
俺の叫びや由紀の悲鳴も意に介さず食らった
何度も何度も、歯を立て肉を裂き…
そして…
「…っ…?止まった…?」
怪物はとっくの昔に絶命していたがそれに気づいたのか梓は止まった
だが俺達は勘違いをしていたそいつは梓なのだ
どんなに化け物じみても、やっぱり梓だったんだ…

一瞬だった
梓さんを見つけて嬉しいと思った瞬間、シリルは食べられた
食べられたけど…嫌な感じはしなかった
周りは暖かくて気持ちよくて
シリルは溶けちゃうくらい眠くなって
ゆっくりゆっくり…落ちていったの
何だか服もゆっくり無くなっていって…
シリルは裸になってた…そんな時周りがドシンって揺れて
その後シリルは…揺さぶられて目の前には…
「梓…さん?」
姿形は全然違うのにシリルは梓さんだと分かった
何だかカブトムシみたいになってたけど
抱いてくれる時の仕草や優しさを感じたの
だから、私は怖くなかった
でも、梓さんは怯えてるみたいだからあの時のように
「怖くない怖くない…」
撫でてあげました、そこからはよく覚えて無いけど
幸せな気持ちで一杯でした

「…気持ちまでは変わらないのね」
その光景を目の当たりにすれば獣でさえ愛があると思うだろう
梓が化け物を食らったのはシリルを救い出すためで
決して捕食ではなく救助行動からくるものだった
他の二人は絶句しながら見てたけど
私はシリルの表情も見逃さなかった
幸せそうな微笑を称えた顔、安心しきったいい顔だった
その後二人とも気絶して回収班がたどり着く頃には
梓の異変も終わり元に戻っていた
この目で見なければ私でさえ信じられない事象だった
でも、あの二人なら可能なのかも知れない
この非現実的な世界をひっくり返す事さえも…
私はそう思った……

「長いレポートだなw」
「うるさいわね、黙って私の抱き枕になってればいいのよ」
「はいはい、困ったお嬢さんだ次は何して欲しい?もっと凄いのがお好みかい?」
「…馬鹿」

その23 せいばーさん

7月11日 水曜日 警視庁魔獣強襲事件の翌日
ニュースのトップ・新聞の一面を飾ったのはもちろんこの事件
ゴシップ紙ではテロ組織の関与や最近話題の怪物説(この説が主流)などが飛び交った
だが、これも直ぐに揉み消されて終わるだろう
明日には偽造された報告が各メディアから流れる・・・

午前9時30分 特関 所長室
「なっ・・馬鹿な!見つからなかった!?何故!?」
「それが判ったら苦労しないわよ・・・
それに一つ文句言う暇があったらちょっと手伝ってよ
死傷・被害者のリストアップとか除隊者の救済で忙しいんだから」
「・・・施設内にはどこにもいなかったのか?所長」
結城が落ち着いた口調で聞く、しかしその裏に怒りの感情があるのは雰囲気で見て取れる
「うん・・、警視庁庁舎の中全部調べたわ、でも出てくるのは死亡した警官と特関所員のみ・・・
司さんは出てこなかった」
「そうか、・・・最後に行った地下は?」
「下水に繋がってた、そこから魔獣が侵入したと見て間違いないわ、しかも、あの部屋は要人保護用のシェルターで 普段は鍵が掛かってる、最後のでかいのは警視庁に繋がる廊下を通れないからあそこに留まってたんだと思う
それと、不可解な事が幾つかある」
「「「?」」」
「シェルターから庁舎に繋がる扉は分厚く、そして厳重にロックされているの、あの時の魔獣の力じゃ到底開けられない
誰かが開けたと見ていいわ
それと司さんが所属していた刑事課の当時出勤していた
人数と生存・死亡者の割合が合わないのよ
さらに、当時「葛木 淳一郎」と言う男とその部下と思わしき女性が司さんの所属していた刑事課を訪れているの
これがその映像」
クリシュアの後にあるモニターに映像が映る
そこには一人の男性と女性がいた
「!!、なっ渚!?何で!?」
「誰だ?そのー・・渚って」
「大学時代の友人だ、久遠 渚って言うんだけど・・」
「誰かと話してるわね・・」
「葛木と話している男は「御剣 翔(しょう)」25歳 専修大卒
司さんの部下よ、今年の春からそこに配属されたみたい
ソイツが今回の事件を手引きしたと見て間違いないわ
それと、貴方が言ってた久遠って人・・どうやら葛木の側近みたいよ?」
「・・・っ!」
「どういう関係に至ったかなんて野暮な事は聞かないけど・・・
彼女は何所に勤めてた?」
「あぁ・・、確か大和重工だったと思うけど・・」
「ふむ・・やっぱりか」
「どういうことだ?」
「私も情報課と一緒に調べたんだけど・・・
どう調べても大和重工の社員データに彼女の名前が無いのよ
でも、情報化の奴が彼女をストーキングした結果・・
大和の本社ビルに入ってったわ、向かった先は最上階
そして・・・消えた」
「消えた?どうやって」
「えぇ、文字通り消えたの、恐らく葛木のチームは瞬時の人体遠距離移動を成功させてる
多分ゲートの技術の応用だけど・・」
「詳しいな」
結城が目を細める、この時の結城は本気の結城だ
所長が隠してる事を全部吐かせるつもりだろう
「所長、葛木とどういう関係だ?」
「どういうって・・なんでもないわよ」
「そんな訳ない、じゃぁ、何でそんなに葛木に詳しいんだ?
さっきの「チーム」とか「ゲート」って何の事だ?」
結城は一気に食って掛かる
「貴方達には関係ないわ」
クリシュアに弱冠焦りが見える
そしてトドメが刺される
「昨日の夜の事全部バラすぞ」
「昔一緒に働いてたのよ、一緒のチームにいたの」
即答
そして撃沈
クリシュアは顔を真っ赤にしている
どんな事があったのだろうか、凄く気になる

昨晩 夜11時
「異界の獣の味はどうかな?我が組織でも此処に来れる者はVIP扱いの者ばかりでね・・・感想をお聞かせ願いたいな」
葛木が皮肉を交えて言う
「そうね・・・まず部屋の内装を・・変えたほうがいいわ
下手なラブホの方がまだマシよ・・・
何時チェックアウトできるのかしら?」
司の体には無数の触手が這っている
股間にも太い触手がピストン運動を繰り返している
「ふぅっ・・くっ・・」
「・・・まだ吐く気は皆無・・・か
まぁ、気長に待つとしよう・・・久遠!」
「何でしょうか」
「魔獣をもう一段強化しろ、後は任せる」
「了解しました」
葛木はエレベーターに乗り、去ってゆく
「・・・無駄でしょうけど・・くぅっ・・これをどうにかして
・・・あっ・・くれない・・かしら?」
「・・・司さん、弟さんとお父さんの情報を言ってください
私もこの様な事は・・したくありません」
渚は苦しそうな顔をする
「無理な相談ね・・梓の場所も、アイツの場所も、吐く気は無いわ」
「そうですか・・・・・・・」
渚は少し考えると
アタッシュケースから一本の注射器を取り出す
それを魔獣に刺した
すると、あろう事か魔獣の触手の勢いがどんどん衰え
バタバタと地面に落ちてゆく
更には司を拘束している装置を取り外し始めた
カチャカキッ
「!!貴女・・何を!?」
「何って・・此処から逃げたくないんですか?
私は主任のやり方には賛成しかねます
私は・・もっと人の為になる研究がしたかったのに・・
さぁ、この服を」
渚は司に服を渡す
「ありがとう・・貴女は?」
「私は久遠 渚、梓さんの友人です」

その24 娯楽人さん

「はぁはぁ…流石にきついわね」
「大丈夫ですか…?」
「平気よこれくらい、渚さん…貴女は何処まで計画を知ってるの?」
「…私の知ってるのはごく一部です、でも今のやり方は私が知ってる計画に反してるんです」
「…ふむ葛木か…それとも誰かが捻じ曲げたみたいね…いった…」
「本当に大丈夫ですか…肩かします…」
「悪いわね……」
「そこで何をしているんですか?渚さん」
「!…御剣…君」
「御剣さん…お願いです通してください」
「素直に通すわけが無いでしょう?仮にも人質それにまだ情報を教えてもらってませんしね」
「…御剣さんはおかしいと思いませんか?この所の無茶な実験の数々、その上あのような化け物まで作って…」
「俺は葛木様を信じているのでな愚民を駆逐し地上に平和をもたらす千年京計画をな」
「私が聞いたのは管理、及び統治よ…こんなのただの人殺しじゃない!」
「わかって無いな改革に犠牲は付きものなのだよ?」
「この前の船だけで孤児が1000人以上発生したわ罪の無い子供にまで犠牲を強いるの!?」
聞きなれない単語が入った会話だけど一つ理解できたのは
葛木は化け物を使って皆殺しをはじめるという事
そして御剣君は逃がしてくれそうも無いって事
「御剣君…いかな理由があろうとも人命が最優先って教えなかったかしら?」
「司さんの言い分も分からないわけではありませんが愚民は所詮愚民生きている価値すらないんですよ」
「見損なったわ御剣君…」
「御剣さんどうしても通してくれるつもりは無いんですね?」
「勿論、客人は何があっても逃がすなが葛木様のご命令だからな」
「じゃあ仕方無いですね…(司さん走れますか?」
「…(大丈夫よ」
「さて、大人しく投降していただきましょうか?」
「ただの女と侮った罰です!」
(パリンッブシュウウウウウウウ!!
渚さんが投げたカプセルのようなものから凄い量の煙が発生する
「こっちです、司さん!」
「またね、御剣君次あったらその根性叩きなおしてあげるわ!」
「くっ…煙幕か…油断した…(ピッ 脱獄だ!成城院司と久遠渚が逃亡中!各エリア封鎖及び増援をよこせ!」

「私が何にも用意しないでこんなことすると思わないでよね御剣さん…(ピッピッ…ピーン」
「何したの?」
「お楽しみです…急ぎましょう追手が来るかもしれないですから」
「了解」

『御剣様!』
「どうした?」
『メインコンピューターにウイルスが!エリア封鎖不能!』
「っち…久遠め…分かったエリア封鎖は後回し復旧を急がせろ」
『はっ!』

「これに乗ってください」
「これは…車じゃないわね何?」
「時空機と呼ばれる奴です…じゃあ行きますよ」
「うっ…結構…くるわね」
「…私だって最初の数度は吐きました、我慢してくださいね」
「………ここは?」
「大和重工最上階です…詳しい説明は後でさぁ行きましょう」
「うぅ…気持ち悪い……」
その後の事はほとんどおぼえて無いけど渚さんに聞いたらしかっり道順を指定してたらしいわ
たまに恐ろしいわね私自身が

「葛木と一緒だった!?」
「それって本当かいマイハニー?」
結城はいつもの調子で所長に問いかけると
結城に蹴りをかました後顔の色を戻しながらだいぶ真剣になって答えた
親父と葛木と所長が何をしていてその後どうなったのか
親父自身はシリルや俺みたいな存在を抹殺する場所に身をおいているという事
そして、所長自身が何故このような機関を立ち上げたのかを
「私は何かを犠牲にする世界は要らない、
綺麗ごとかもしれないけど全ての生き物が平等に暮らせる世界を目指したそれだけのことよ」
所長は簡単に言い放つがそれは並大抵の事ではない
元来人間は異質を嫌う存在だからだ
もっとも所長自身発症者であり、自分自身が異質な上でその様な考えを持ってることは凄いと思う
「綺麗ごとだろうと俺は賛成だ、俺はシリルを守りたいと思うから」
「梓さん……」
「おっナイト気取りかよ梓、なら俺はマイシスターとマイハニーで両手に花♪」
(ガスッ!!)
ほぼ同時に蹴りと殴りを食らう結城、つくづく哀れな奴
だが両方満更でも無さそうでなんかもじもじしている
流石に所長がもじもじしてる姿はかなり違和感があったが
言わないでおく俺の命の為に

「所長、入所申請が出てます」
「誰よこの非常事態に…って司?」
「お〜間違いなく司姉だ…隣の女は誰だ?」
「…っ!?、渚!?」
「えっこれが渚さん…美人な人ですね」
「……みゅう」

こうして司さんは無事帰ってきたけど
シリルは渚さんの事が好きになれません
だってずっと梓さんにべったりで……

その25 せいばーさん

7月11日 葛木所有組織『N・W・C(ニュー・ワールド・クリエイターズ)』メインコンピュータールーム

「WISEシステムの復旧までの時間は?」
「あと15分程度かと」
渚が葛木が所有する組織のコンピューターに発進したウイルス『ブレイカー』は効果抜群だった
ファイアウォール・物理防御システム・実験データファイルを悉く凍結又破壊し
果ては空調管理システムまでも狂わせた
一番の痛手だったのが全てのシステムを統括する高性能AI『WISE』のダウンだった
プログラムの破壊、とまでは行かなかったものの、システムを1時間以上ダウンさせている
これ程の高性能ウイルスを作れる技術者である渚を失ったのだから
これからの計画の進行に支障を来たすのは間違いなかった
「久遠め・・やってくれたな」
「申し訳御座いません、あの時私が捕らえていれば・・」
「構わん、奴が作ったシステムはこのディスクに全て入っている、まぁ、計画の進行が弱冠遅れるだろうがな、将軍にお伝えせねば」
「その点につきましては御安心を、既に新しいスタッフを用意して御座います」
「ほう?」
そこには、居てはならない人物がいた
「どうぞ、ドクター」
「どうも、こんにちは、私ラルフ・エルドレイという者です、
先日まで特関に勤めていた私ですが、以後、お見知りおきを・・・」
「・・・裏切りか・・、好かんな」
ついさっき側近に裏切られた身としては、
いくら敵の技術者がこちら側に寝返ったとしても暖かく迎えられるものではなかった
「しかし、強力な助っ人であることは確かです」
「ふん、勝手にしろ」
「了解しました、ではドクター、こちらへ」
「主任」
「なんだね?ドクター」
「私は、貴方が目指す未来に興味がある
だからこちら側についた、・・・私の期待を裏切らないでく下さいね?」
「・・・・・」
ラルフはニッコリと微笑むと御剣と共にその場を去って行った

所長室
「ドクターが消えた?」
「はい、先日所長とシリル伍長を送った直後から・・」
クリシュアとその部下が所長室で話している
「格納庫の兵器は?」
「無事です、唯一無い物と言えばドクターのパソコン位で・・」
「そう・・・寝返ったわね」
「どうして言い切れるんですか?」
「彼は好奇心が原動力よ、それに彼の生きる理由は『そこに面白い研究対象があるから』、
『面白いモノがいなくなったら死ぬ』そういう男なのよ、
憶測でしかないけど、此処より面白いものが見つかったんでしょうね」
「では、『N・W・C』に・・」
「多分ね・・、これより、所長権限において緊急事態Lv.5を発令
システムの防御を徹底して、
それと、ドックと入口と非常口の隔壁を直ぐに降ろせるようにしておいて」
「了解しました」

特関内食堂
『施設内の所員に告ぐ、先程、軍医兼兵器開発部主任のラルフ・エルドレイ二等陸佐が脱走、
『N・W・C』に投降したものと思われます
それに伴い、クリシュア・アーダイン少将が所長権限において、軍事警戒レベル5を発令、以後、各所員は緊急出動に備えて下さい』
「おいっ聞いたか!?今の・・っ!」
「ドクター・・、前から変な奴だと思ってたがまさか脱走するとはな・・」
放送を聞いた所員がざわつき始める
『及び、ラルフ・エルドレイ脱走犯の後任は久遠 渚二等陸尉となります』
「・・・誰だ?久遠って」
「さぁ?」
「おい!お前等!朗報だ!」
太めの所員が食堂に駆け込む
「何だよ日比野ぉ、うるせぇなー」
「帰れイモムシ野郎ー!」
「悪いねー、日比野君、もう特盛りカレー品切れだよ」
「ジーザス!マジかよ!?・・・てっそうじゃなくて・・・
さっきの放送で言ってた久遠って軍医スッゲェ美人だぞ!」
「「「「「「「な・ん・だ・っ・て・!?」」」」」」」
「マジか!?」
「詳細希望!!」
「スリーサイズは!?」
「俺が見た所、85・60・80だな」
「「「「「「「おぉぉーーーーーーー!!!!!」」」」」」」
一気に活気立つ食堂
「よっしゃぁ!行くぞお前ェ等!カメラ準備!」
「「「「「「「おぉぉーーーーーーー!!!!!」」」」」」」
むさ苦しい野郎共の壮絶な戦いが始まる・・・
「新しい軍医さん大丈夫かな・・・」
「ホントいやねー、男って女の子のお尻追い回してばっか」
「でも許せないわね・・・男共の視線は私の物よ」
女性所員が愚痴る
「なーに言ってんのよ、そんなことよりさっさとご飯食べて仕事するわよ!」
先輩所員と思わしき女性が二人を正す
「「はーい」」
「・・・・でもやっぱり後で様子を見に行きましょうか」
「「賛成です!」」
女達の嫉妬渦巻く戦いも始まる・・・

「ねぇ・・、梓?」
「何だ?」
「さっきから嫌な視線を感じるんだけど・・銃の用意をした方が良いかしら?」
「俺もだ渚、さっきから殺意の念を感じるぜ」
「(何で新人の成城院が久遠女史と仲睦まじそうに話してんだ・・)」
「(何で二人とも名前呼びなんだよ・・・)」
「(成城院コロス成城院コロス成城院コロス・・・・・・)」
「(俺の情報網によれば成城院二等陸尉と久遠二等陸尉は大学時代からの友人だ、
此処に来る前から付き合いはあったらしい、
噂に過ぎないがもう二人は一線を越えたらしいぞ、
更に一部の所員に大人気のシリル・グランフォード伍長とヤッたって話も・・・)」
「「「「「「「(なっなんだってーーーっ!?)」」」」」」」
「・・・そろそろ仕事に戻りましょうか・・」
「だな、俺も視線が怖い」
二人は休憩室から出た

渚が立ち上がろうとする瞬間をハンター達は逃さない
カチカチカチカチカチ(消音カメラのスイッチを切る音)
「(イャス!(イエス?)パンチラゲットォォォーーーーー!!!)」
椅子の下に密かに潜り込んだ所員が消音カメラ(作:ラルフ元二等陸佐)のシャッターを切った
「(久遠女史のパンチラ写真一枚千円!早い者勝ちだよぉ!!)」
「(山田幸太郎一等兵!、同じくパンチラ入手であります!軍曹!)」
「(よくやったでありますなぁ山田一等兵!直ぐにそれを印刷して自室でハァハァするであります!)」
「(コラァ!カエル野郎!抜け駆けは許さん!皆で山分けだコノヤロー!てか俺によこせ!)」
「(ゲロォ!?駄目であります!これは我輩と山田一等兵の物であります!)」
無駄にアツイ男の戦いが繰り広げられた・・・・
漢(男)には譲れないものがある、それは、恋人でもあり
過酷な戦いの末の勝利であり、・・・今晩のオカズでもある

そして、漢には何事にも変えがたいものがある、プライスレス(笑)

その26 ゲイトさん

〜葛木所有組織〜
「この前の船だけで孤児が1000人以上発生したわ罪の無い子供にまで犠牲を強いるの!?・・・っか」
渚の言葉が頭に残る。
御剣は、渚の経歴データを見ていた。
ウィルスと個人データを抹消していたため、確認は取れないとは思っていたが、流石ドクターだ簡単に復元した。
そのドクターは葛木に断りも入れずに錆びれた転送地(最初のゲート)に拘っているようだが、俺にはそんなことはどうでもいい。
俺は与えられた仕事をするだけ、そう、それだけだ。
それしか俺には何もない、住む所も、逃げるところも、隠れるとこも、なにもないんだ。
何かを思い出すかのように御剣はつぶやいた。
それを吹っ切ると渚のデータを調べなおす。
ひとつ疑問があった、彼女は魔獣の管理だけを任せていた。
時折その姿をみて、戻した(吐いた)こともあったが、それの限界が来て辞めただけではない気がした。
あの司を救出していた時、何か違う目的があるように見えた。
それで今奴のデータを調べているのだが・・・ん?
「こいつは・・・そうか、そう言うことか」
御剣はPC画面に出たデータをみて納得する。
「奴は大学時代同期とはな、司を助けたのはそのよしみか」
裏切った意味がようやく納得した。
葛木は例の船の事件から様子がおかしいとは聞いていたがそう言うことか、
もっともその時俺は警視庁に潜伏していたから何も知らないが。
そんな時だった、PCに葛木からのメールが届いた。
内容はこうだった。
「錆びれた転送地へ向かう、ラルフの力で起動できそうだ、うまくやれば帝も誘い出せる、お前は帝の部下やその他の連中が現れたら殺せ」
フッ、どうやらあれを起動させるのか、これで奴の野望も完結か、久遠、お前の辿った道が過ちだと言うことを教えてあげないとな。


「ん?」
帝のPCから見覚えないメールが届く、またスパムか、と消そうとしたときだった、題名を見て手が止まる。
錆びれた転送地
この言葉を知っているのは俺と葛木とアーダインくらいだ、アーダインはあれには関わりを持つ気はないと言っていた、となれば・・・
「まさか」
直ぐにメールを開く
内容はこうだった。
「久しいな、友よ、錆びれた転送地で会おうじゃないか、素晴らしいショ−を見せてやろう、世界が、魔獣が世界を無に変えるさまをな。
一人で来い、他に呼ぶならロリ野郎だけだ、他の奴を呼んだらお前のガキどもは魔獣に食われると思え」
「チッ、葛木の野郎」
だが、奴が司や梓の情報を何処まで得たのか分からない、だが流石に子に危険が及ぶとしたら黙ってられないのが親だ。
自分を抑えることは出来なかった。
葛木がどんな手をたくらんでいるか分からない、約束の地である錆びれた転送地で奴が何をするか分からない。
「全精密部隊に連絡する、私は今からある場所へ向かう、ただし、私の護衛はいらない、ある場所まで来たら後から付いて来てくれ」
その命令に精密部隊体長が帝の部屋に入った。
かなり早い。
「帝様、一人では危険です」
「駄目だ、奴は俺一人を指定してきた、それは俺も同じだ、お前達に見せてはならない物がそこにあるからなんだ例え部下でもそこへ連れて行くわけには行かない」
「ですが」
「頼む、これは過去の過ちの場所でもあるんだ」
その一言に、隊長も納得したようだ。
隊長は帝に敬礼をすると、直ぐにヘリの手配をした、そして、帝はある女にメールをした、もう送りはしまいと思ったが。


「お〜ま〜え〜らぁ〜」
「しっ所長!?」
アーダインの怒りの声が聞こえる、その声を浴びているのは渚にしつこくまとわりつく男達だった。
梓と渚の尾行を続けていたのをアーダインにばれたようだ。
「一度戦闘訓練のランクを最大値LVを体験してもらうしかないようね?」
「ひぃ、あっあれだけは勘弁を」
男達皆が恐れる、訓練LV最大、それは想像知れぬ、過酷な訓練らしい、オマケに達成できるまで開放されないと言うオマケつきだ。
恐れる男達を見下しながらどうしてやろうかと所長が考えているときだった。
♪〜♪♪〜♪〜
突然クリシュア アーダインの携帯からメールが届いた。
それは届くはずのない男からのメールだった。
「帝? 何故」
直ぐにメールを開く
内容にはアーダインの意表をついた。
「約束の地、錆びれた転送地が目覚める、奴が起動法をみつけた、このままでは過去の過ちを再び起こしかねん、協力を求む、奴は俺とお前を指定してきた」
「くっ、あれが生き返るというのか、喜べお前らのお仕置きはまた今度だ、直ぐに成城院二等陸尉と久遠二等陸尉、シリル・グランフォード、藤堂兄妹の新生チームを所長室へ呼べ」
男達は直ぐに連絡をし始める、やがて所長室にクリシュア含む新生チームが揃った。
「大変なことが起ころうとしているわ、私の仲間・・・葛木が、過去の過ちを繰り返そうとしている」
「どういうことですか?」
「前に、私や葛木と共に仕事をしていたって話したでしょ?その時ある過ちを犯したの」
「一体何を・・・」
「異世界観察者を傷つけ、さらに彼らを合成した、キメラ(合成獣)よ今やバイオウエポンと言われている狂暴な化け物の細胞を使ってね」
「それじゃあ、いままで俺達が見てきた化け物は」
「全部、キメラよ、私達の過去の異物その物」
「酷い・・・」
思わずシリルが泣きそうになる、直ぐに梓が慰めた。
「でも、何でそんな事を俺達に?」
「今から貴方達は私達とある場所へ向かってもらいます」
「場所は・・・」
「約束の地、それ以上は何もいえないわ」
「そんな」
「それだけ厳密なの、それが他の人に知られたら人類は終わりよ、なんとしてでも止めないといけないの、お願い、信用している貴方達だけが便りです」
「頭を上げてください、所長」
「そうですよ、貴方らしくないですぜ」
梓達がアーダインを慰める。
「行きましょう、その約束の地へ」
「皆、ありがとう、でも一度2人と話させて、貴方達は途中まで同行し、途中で待機してもらいます」
一同「了解」
そうして各メンバーはそれぞれの準備にかかる。
アーダインは思う。
「約束の地に、皆揃う、ドクターラルフも、御剣 翔も、葛木 淳一郎も、成城院 帝も」
皆が向かう約束の地、そこで彼らは何を見るのか、そこで何が起こるのか、今、この世界の最後の答えとなる「扉」が開く

その27 娯楽人さん

「来たか…久しぶりだな帝」
「葛木…貴様はまた繰り返す気か過去の過ちを」
「…帝には分かるまい、最初から頂点にいる男に私の苦悩など」
「貴様の戯言に梓達を巻き込むな」
「帝、お前はいつもそうだ他者を見下し自分より上の人間さえ食らって来たのだろう?」
「そのような事この場に置いて関係は無い」
「くっくっくっく…どうした?帝怖いのか?」
「……ふん」
「相変わらずのむさい面子ね」
「来たかアーダイン少しは色気が出たか?」
「最初からセクハラとは言ってくれるわね葛木」
「アーダイン、貴様一人か?」
「ええ」
「嘘が下手だな……」
『覚悟しやがれぇ!』
「どうりゃぁ!!」
物陰から青いロボットと梓が飛び出し葛木に殴りかかる、しかし……
『何…と、止めた…素手で…?』
「う…動かない…」
「兄さんを放しなさい!、はぁぁっ!!」
無防備な胴に由紀が渾身の攻撃を食らわせるだが…
「その程度か…ふん!」
「きゃあああぁ!!」
「化け物に成り下がったか葛木」
「いいや進化と言ってもらいたいものだな帝」
(ブゥン!!
『ぐはぁ!』
「っくぁ!!」
二人を片手で投げるとゆっくりと帝に近づく葛木
「親父…逃げろ……」
「女々しいなぁ…親子愛か?そんなものあるはずないよな帝ぉ?」
「貴様には分かるまい、誰にも愛されぬ貴様にはな」
「ほざけ…御剣!ドクター!時は来た!起動させろ!」
『…御意』
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
空間ごと震わせるような地響きにあわせ地面が盛り上がる
「…こんなものまで作っていたのね、どうするの帝」
「知らぬわ、貴様が何とかしろこのようなおぞましき物を」
そこに立ち上がったのは身の丈20メートル以上の肉の塊
辛うじて人の形は保っているものの腐臭を放ち
腐り落ちそうなほどその姿は不安定だった
奇怪な肉のオブジェのように立ちはだかるそれは、死をまとった死神にすら見えた
『で…でけぇ…か、勝てねぇ絶対勝てるわけがねぇよ…』
流石の結城も泣き言を言う、だが
「俺は…諦めない、結城お前だって守りたいものあるだろ、死ぬ気になれ」
『っへ…簡単に言ってくれるよだがこんなデカブツどうするんだ?』
「シリルが止める…あの子…泣いてるから」
「…シリル?」
「梓さん…あの子の側まで連れてってくれますか?」
『正気かシリルちゃん…どっからどう見たってあれは…』
「分かった、行こうシリル、結城は所長の護衛をしててくれ」
『言われなくても…死ぬなよ』
「分かってる、行くぞシリル!」
「はい!」

「やっぱり…私じゃ敵わないかな、所長下がってください危険ですから」
「危険なんて無いわ…梓達がいるもの、そうでしょ帝?」
「…知らぬ」
「この馬鹿親め」
「…梓…頑張って」

その28 せいばーさん

「葛木・・・、何時までこの様な真似を続けるつもりだ?
お前が作っているものは地獄の産物だぞ」
「何を言う帝・・・、私はな・・・この腐った世界を壊すんだ
世界に広がるモノは何だ!?愛!?平和ぁ!?笑わせるな!
この世界にはなぁ!死と!憎しみと!欲望しかない!
戦争を繰り返し!資源を貪り!自分の欲求を満たさんが為に他を滅ぼす!この星は悲鳴を上げている!
人は此処(地球)にのさばり過ぎた!害なのだよ!
だから一度殲滅する必要がある・・・・っ!
何か可笑しい事があるかね?」
「ありまくりよこのサル!アンタは自分が何をしようとしてるのか全然判っちゃいない!
こんな事してもアンタの嫁と娘は帰ってこないのよ!?」
「黙れ、小娘ぇ!アーダイン、お前は特別だ・・・私について来い、共に新世界の神になろう」
「嫌よ、アンタは昔から何一つ変わってない!このロリコン!」
「・・・残念だよ、アーダイン、しょうがない貴様等全員キメラの素体にしてくれる!」
バキッゴキッ!グキンッ!
葛木の体が音を立てて変化を始める
「・・・・ほう」
「どうした?そんなにヴェアヴォルフ(狼男)が珍しいか?」
「そうだな・・・畜生界の化身など初めて見た」
「ほざけ、どの道お前等は死ぬ」
「それは無いわね」
「何だと?」
「アンタ・・・私の能力知ってる?」
「いや、知らないが」
「そう・・・、私を調べなかった事、後悔させてあげるわ
・・・・第一発症者(ファースト)の力、見せてあげる」

その29 ゲイトさん

「所長、くそ、俺らは何もできないのか」
「そうでもないみたいですよ、兄さん」
由紀が指を指す、見るとその先に御剣が走っているのが見えた、向かっている先は梓の方だった。
「くそ、好きにやらせるか、久遠ちゃんに約束したんだ、梓を守るってな」
青い機兵を起動させようとしたその時だった。
ウィ〜〜ン
「あれ? 出力があがらない、どうなっているんだ?」
「当たり前だよ、それは私が作ったものだ、弱点だって知っていて当然さ」
「Dr.ラルフ!!」
「くそ、普段の半分しか出ない」
「まもなくゲートはある世界につながる、どのような生物が住んでいるのか楽しみだよ」
「そんなことさせない、異世界の人たちは、貴方の玩具じゃないわ」
「私を倒そうと言うのかね? 囲まれている状態で」
「「なっ!?」」
周囲を見る、そこには、数々のキメラが二人を囲っている、まるでラルフを守るように。
「少し魔獣の知性を改造したのさ、さあ、キメラ達よ、久々の濃厚な餌だ」
キメラ達が藤堂兄妹に襲い掛かる。

もう少しで奴の頭に届くところまでいける、この石段を登れば・・・
その時だった。
突然水色の壁が石段の前に現れた。
それは天上まで続いていて、先に進ませないと言う感じだった。
「こんなもの」
梓は腕の力でそれを引き裂いた、だが、傷ひとつ付かない。
「くそ、シリル、大丈夫か? シリ・・・ル?」
よく見るとシリルの姿はない、周囲を見渡すともう一つ水色の壁を見つけた、それは箱状になっていて、誰かが両手でそれをたたいている。
その箱の中には・・・
「シリル!?」
声は聞こえない、シリルも箱の中から口をパクパクさせながら壁を叩いている、俺の名前を呼んでるようだが、聞こえはしない。
「くそ、誰がこんな事」
「俺さ、弟君、そしてその水色の壁はDr.ラルフの結界兵器さ」
梓の後ろに誰かが語りかける。 直ぐに梓は背後を振り向いた、そこにはカメラに移っていた男の姿があった。
「お前は、姉貴をさらった」
梓の後ろに立つ一人の男、青い服にしっかりしたような顔、そう御剣 翔だった。
「こうして会うのは警視庁以来ですね、司と話しているときに会いましたね、しかし会うなり姉貴をさらったは酷いですね」
「じゃなきゃ何なんだ、司の部下とでも言えば良かったか?」
フフっと笑う御剣、この会話を楽しんでいるようだ。
「梓さん、少し質問させて貰っても良いですか? まぁ敵に話す口は無いと言うのならそこまでですが」
その一言に梓は戦闘体制を解いた。
「貴方は何故戦うのです? 船の事件で巻き込まれ、アーダインの部下に誘われて、施設に移されて、そんな貴方に戦う理由があるのですか?」
「俺はただシリルを守りたい、守る為に戦うんだ」
「何故です? 何故その子を守る為にこんな大きな戦いに赴くのです、その子を連れて遠い所へ逃げればよかったのに」
「それは」
「おかしいとは思わないのか、お前は戦ってるんじゃない戦わされているんだ、アーダインや久遠にな」
「くっ」
「今でも遅くはない、ここから降りろ、そうすればあの娘も解放する」
その言葉に梓の心が揺らいだ、俺はなんの為に戦っているんだ、シリルを守る為に戦っている、
だがあの子を守る為なのに、何で俺は腕の力を皆のために、いや世界の為に振るう必要がある、
シリルや久遠が守れればそれで良いんだ。
梓は御剣にシリルの開放を頼もうとした瞬間、突然、梓の頭に声がよぎった。
『梓さん!!』
「シリル!? どうして」
『テレパシーみたいなものです、所長さんから教わりました、梓さんが守りたいのはシリルだけですか?』
「え?」
『シリルだけじゃないはずです、結城さんや由紀さん、所長さんに渚さん、それに司さんだって、この世界の脅威から皆さんを守る為にその力の事をしったのでしょ』
「シリル、でも・・・」
『梓さんはそんな弱い人じゃないです、シリルが知ってる梓さんは、強くてかっこよくて、絶対に諦めない人です!!』
その言葉に強く響いた、そして梓の弱い心を打ち消した。
「シリル、そうだな、俺は君だけを守りたかったんじゃない、シリル、俺が助け出す、そこで待っててくれ」
『うん』
シリルが笑顔になる。
「さぁ梓さん素直に降伏を、あの娘まで司さんの用にはしたくないでしょ」
「御剣、姉貴をさらい、酷い目に合わせた事、俺は絶対に許さない」
「むっ、(こいつの空気が変わった)」
梓は腕の力を引き出す。
「勝負だ、御剣、渚の為にも、お前を倒す!!」
梓が構える、同時に、御剣の顔つきも変わった。
「フフフ、大人しく投稿すれば痛い思いはしないといのに、お前も司と同じ目に合いたいようだな」
「俺のこの力に勝てるとでも言うのか?」
「良い事を教えてやろう、お前のその力、本当にお前だけだと思ってたか?」
「何?」
そう言うと、御剣は自分の左腕の服を破り捨てる、そして、腕がみるみるうちに変化していく、その手の形は
「馬鹿な!? 俺の腕と、同じ!?」
「そう、俺も発症者さ、俺はこの力で一つの組織を潰した、同時に町の奴らに恐れられた、化け物とな、それ以来俺はずっと一人だった、だがある女性のお陰で救われた。
そして俺が正式に学校に通えたのも、まともな生活が送れるようになったのも、
こいつの制御の仕方が分かってからさ、それを教えたのは誰だと思う」
言葉が出ない梓、御剣はゆっくり口を開いた。
「第一発症者、クリシュア アーダインだ」

その30 せいばーさん

「なっ・・お前がファースト!?だがあの時御剣がファーストだと・・・っ!」
葛木は驚きの表情を隠せない
「御剣君が一緒のチームになってから『葛木に何されるか分らない』みたいなこと言って
私の身代わりになってくれたのよ、彼の予想通り結構な実験をしてくれたそうじゃない?」
「奴め・・・余計な事を・・」
「何だ、アーダインの方が良かったのか?どうやらロリコンと言うのは噂ではなかったらしいな?」
帝が茶化す
「くっ・・・、黙れ!素体にするのも止めだ!この場で葬り去ってくれる!」
葛木が猛スピードで接近してくる
「ふう・・・、頭も獣並って事かしら?
帝、貴方もしっかり戦ってよね?」
「無論だ、もとより奴を殺しに此処に来たのだ」
「死ねぇ!」
葛木が太い腕を振り上げ、クリシュアの息の根を止めようとする
しかし
「なっ・・・・!」
目の前に巨大な楯が現れ葛木の攻撃を防いだ
「空想具現化(ファンタジー・クリエイト)・・・
アイアスの楯を御存知?」
「馬鹿なッ・・・そんな症状があっていい筈・・・っ!」
「ゲートを使って“彼”を呼び出した後に
“もう大抵の事象では驚けんな”って言ったのはアンタだったと記憶しているけど?」
「それとこれとは別だ!空想具現化だとっ・・・!それではまるで・・・っ!」
「タイプ-0の様ではないか?」
「・・っ!」
タイプ-0
それは帝・クリシュア・葛木のチームが始めて呼び出した
異界の住人のコードネーム
彼は気性こそ荒くなかったものの空想具現化という
想像した物を何でも創ることが出来る能力を持っていた
クリシュアは彼と接触した事により発症したのだ
「彼も貴方の行動を不審に思ったみたいでね
“君なら任せられる”って言って私にこの能力をくれたの
正確に言えば私は発症したのではなく、能力を譲渡されたのよ」
「くっ・・・ならば創る前にお前を殺すまで!」
「無駄だ」
ドンドンッ!
「がッ!?」
葛木の両足を何かが貫く
「概念武装・・・と言う物を知っているか?」
概念武装
それは特定の目的のみを達成するように出来ている武具
その特定の部類に対しては圧倒的な強さを誇る法具
「ぐっ・・・」
「この銃は教会の代行者が使用する物でな
最近はこの型の聖典も出て来ているらしいな」
「と言う事は・・・異端殺しの概念武装!?」
「御名答、今更許しを得ようとしても遅いぞ葛木
お前は殺しすぎた、人も、亜人もな」
帝は銃を構える
「天の捌きを受け、地獄に堕ちな、神様に祈ろうっつっても無駄だよ?休暇とってベガスに行ってる」
クリシュアの手に黄金に輝く剣が現れる
「ひっ・・・止めろぉ!」
「その罪、死をもって償え、魂を売った罪人よ」
「エクス・・・・・カリバァァァァーーーーー!!!!」
ドンッドドンッ!
クリシュアの斬撃と帝の銃弾が同時に葛木の体を焼き尽くす
「ひっ・・がっ、ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
ドサッ
「ふぅ・・・私達は一つ用が片付いたわね、梓達の所に行きましょうか」
「私もそうしたい所なのだが・・・
簡単には行かせて貰えなさそうだ」
「あー・・・・」
周囲にはキメラの大群がいた
「どうする、クリシュア」
「どうするも何も・・・ぶった切る!」
「同感だ」
二人は百を越える大群に立ち向かっていった・・・

「所長が・・・?」
「あぁ、お前も聞いているだろう?ゲートを研究していたチームの話を」
「あぁ、聞いている」
「俺はあのチームに拾われた、尤もまともな扱いをしてくれたのはアーダインだけだったがな」
「何が言いたい?」
「そこで気付いたんだよ、確かにアーダインは俺の事を気遣ってくれた、しかし!この世界は腐っている!
そこで考えたんだ、ゲートで呼び出した奴等でこの世界を破壊する事は出来ないかっ・・てね」
「目を覚ませ!葛木に何を吹き込まれたか知らないが、お前のやろうとしている事は間違ってる!」
「間違ってなどいないさ!お前だって分っているだろう!?
絶えない汚職、無くならない戦争、渦巻く欲望!
上げれば切りが無い!こんな世界はなぁ!一回リセットすればいいんだ!」
「確かにそうだ!でも、でもそれを少しづつ
直していって住みやすい未来を作るのが俺達の責務じゃないのか!?」
「・・・・・・・そうやって直せた例が幾つある?」
「!」
「もういい・・・分らんとゆうのならばその死を持って知れ!」
「くっ・・」
御剣の鋭い一線
「オラオラオラオラァ!」
右、左、上、下様々な方向から繰り出される攻撃に翻弄される
「何だぁ!?遅いぞ成城院!さっきまでの威勢は何所にいったぁ!?」
「(くっ・・・このままじゃ・・・)」
ドウスル?
「(ちっ・・こんな時に・・・少し黙ってろ!)」
シヌゾ、マモルベキモノモマモレヌママ
「(・・・・っ!)」
チカラヲカソウ、スベテヲオワラセテヤル
「(そうか・・・じゃぁさっさとその力を寄越しやがれぇぇ!!!)」
バカヲイウナ、オマエノセイシンガモタナイ
「(黙れ黙れ黙れぇ!!!俺には力がいる!壊す力じゃない!
守る力だ!全てを守れないと言うならば、手の届く範囲で良い!)」
「その力!寄越しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」
「!!!!!」
バリィッバリバリバリ!!!
梓の体が変化する、しかし、あの怪物を喰らった時の様なおぞましい獣ではなく
白く、神々しい光に包まれた白銀(しろがね)の騎士
「・・・お前は俺を本気にさせた、それなりの責任は取ってもらうぞ」
「へぇ・・・、やっと本気か?さぁ−、殺し合おうぜ、成城院」

「ハハハッ・・ククッ、可笑しいねぇ!圧倒的戦力差の中で踊り狂う戦士と言う物は!傑作だ!」
結城と由紀がキメラの大群と戦う様子をみてラルフは声を上げて笑う
「どうするよ、まだ50体は残ってるぜ?由紀」
「どうするも何も・・・やるしかないでしょう?兄さん
結城の弾薬はとうに尽き、一本のナイフで戦っている
由紀も相当疲れている様子だ
「くっそぉぉ!死に晒せぇぇぇぇ!!!!」
「二酸化炭素濃度20%の空気砲舐めんなー!」
「「藤堂兄妹の気合は世界一ィィィ!!そこに痺れる!憧れるゥゥゥ!!!」」

その31 娯楽人さん

「うぅ…まだ想い伝えて無いのに死ねるもんですか」
「…なんだ好きな奴でもいるのか?」
「…兄さんが好きなの」
「はぁ?!何を…こんなときに!」
「本当だよ!私兄さんが好き!小さい頃からずっと好きだったんだから」
遠くの方で流石のドクターも唖然としているようだ
俺だってびっくりだ何せ妹にこの状況下で告白されるなんて
「…尚更死ねなくなったな」
「えっ?」
「こいつら蹴散らして両手に花状態になってやるぜ!!」
「…兄さん…はい!やりますよ!!」
「おやおや、まだ頑張るのですか…」
「うるせぇ!ドクター!生き物、特に女の子は粗末に扱っちゃいけない事を俺が教育してやる!覚悟しろ!」
「粋がるのは良いのですがこの状況で勝ち目など…」
「いいえ、ドクター貴方の負けです、だって兄さんが本気なんですから!」
言葉を遮られちょっとシャクなようなドクターだが
そんなの関係ない、俺の体中が燃えたぎって爆発しそうになってる
この感覚…おもしれぇ!!
「はあああああああぁぁぁぁぁ!!」
「なっ…馬鹿な…素質は無かったはず…どうして今頃発症するんだ!?」
「そんなこまけぇ事俺は知らないな、一つ知っているのはこれからあんたがミンチになるって事だけだ」
「兄さん…援護は任せて!」
「おう!体が軽い、出力も限界以上だ…さぁ行くぜぇドクターと雑魚どもぉ!」
「ギュニュニュニュナァァァァァァ!?」
「ありえない…何故こんな事が…あはは…あっはっはっはっはっはっは!」
狂ったように笑い始めるドクター
俺は周りの雑魚を一掃しドクターに詰め寄る
「これが、あんたの求めた面白さってやつか?」
「そうさ…だが君には負けたようだね、流石遊び人を自負しているだけはあったよ」
「ドクターあんたは楽しみ方を間違えただけさ!俺と共に人生の楽しさを探求ししないか?」
差し出される手、掴み取る手
「ああ、その方が面白そうだ…君の探求に非常に興味も沸いたよ」
「そうこなきゃな…ははははw」
「ハッハッハッハッハw」
「何だか…恐ろしいコンビが出来てしまったのかも…」

「はぁぁぁぁ!!」
「てぇい!うりゃああ!」
「はぁはぁ…お前はどうして戦う!葛木のためか!?」
「私は私の理念で動くのだ!お前に理解できるものかぁ!」
「ああ、確かに理解できない!間違っているのだからなぁ!」
お互いの攻撃が交差する、そして俺の爪は御剣の胸に深々と刺さった
「ごふっ……お前の方が正しいというのか…成城院…」
「正しいかなんて思ってない、俺はこう生きるだけだ」
「………だが…もう遅い…もうすぐあれが…」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「何だ?!」
「動き出した…終末兵器…"アポカリプス"」
「ウゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
空間内に奴の咆哮が響き渡る
「っく…」
「これで…終わりだ成城院…何もかも…ごはっ!」

俺はシリルの周りの結界を切り裂きシリルを出した
「けほっ…ちょっと苦しかったです」
「さて、問題はあれをどうするかだ」
このまま上って行けば顔付近にはたどり着けるが
怪物の目が覚めた今近づくのは危険だ
しかし、シリルは言い放つ
「梓さん…あの子を助けましょう、シリルはそうしたい」
「…分かったしっかり掴まれよ?」
「はい!」
俺はシリルを背負いさらに上に登る
下を見下ろすとほとんど決着は付いているようで安心した
「流石親父と結城…殺しても死なないな」
「ちょっと酷いですよ梓さん」
「さて…到着したぜお姫様」
ちょっと結城っぽく言ってみたが、その冗談すら簡単にかき消すように目の前の物体はこちらを見つめていた
目は…一応付いているが目を言うより空洞がこっちに向けられてるといった方が正しい
「…君も迷子なんだね」
「シリル?迷子って…!」
俺はシリルの周りに淡い光が発生するのを見た
それはまるで陽光のように強くなり化け物を照らす
「帰ろう、君達だってそう願って…シリルを呼んだんだよね?」
俺は化け物が頷いた様に見えた
そして、化け物の体はゆっくりゆっくりと倒れ、崩れ、壊れていった
頭が下に付いた頃には原型は無く塵になっていた
「シリル…行くのか…?」
シリルは淡い光をまとったまま頷く
「うん、シリルの帰る場所に…あの子達も連れて行かないと」
「…また会えるよな?」
「…うん!」
「じゃあ…そうだな」
俺は装甲を解きシリルに近づく
「みゅ?」
「これは餞別だ」
俺の唇がシリルの唇に重なる
シリルは…泣いていた
「あ…あれ…嬉しいはずなのにな…みゅ…うぅ…うわぁぁん」
俺は泣きじゃくるシリルを抱きしめた
シリルは俺の腕の中で一杯泣いた
俺も正直泣きそうだった、
そして俺の好きな少女は異界へと旅立って行った
その後はどうなったかと言うと…

司、今は親父の下で働いている
親父自身も満更ではないようで司曰く照れた姿が見れていいそうだ
親父の照れ姿なんて想像もしたくないがな

結城、あの後クリシュア所長を嫁にしたとか言ってたが
実際は所長の尻にしかれ実験体として日々頑張っている
由紀は結城と一緒に所長の元に居る
今度は生物の根源を研究するとかどうとか
俺には分からない世界だ

御剣、葛木両名は死亡
葛木の組織は所長によって解体され無くなった
しかし、現在特関のメインコンピューターに
その組織のAIを使っているのは所長なりの皮肉なのかもしれない

ドクターラルフ、その後結城の説得により改心したようで
またしても特関で働いている
所長曰く「腕いいんだけど最近変態度が急上昇してるわ」
だそうな、俺はその原因が結城にあると思う
只でさえあの性格のドクターに結城はまさに混ぜるな危険レベルの人物だ
しかし、後の祭りでこの怪しげなコンビは色々な事をたくらんでは所長の鉄槌を食らっている

親父、親父はあの後すぐに姿を消し姉とどっかを飛び回っている
今は香港だとか、勿論連絡を取り合っているのは姉だけで
親父自身は何を考えてるか分かったものじゃない

そして、俺は…
(ゴーーン、ゴーーン
「おめでと〜〜!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう」
「ありがとう」
「やーまさか結婚しちまうとはなぁ・・・先越されたぜ」
「何言ってんのよ、なら今すぐにでも挙式しましょ?さぁさぁ!」
「ちょいと怖いぜマイハニー…」
「ダメですよ!兄さんと結婚式をあげるのは私が最初です!」
「妹の分際で何言ってんのよ!」
「たすけてくれぇ〜あずさぁ〜」
「自業自得だろ、両手に花とか浮かれてるから」
「そうですね、…梓」
「何だなぎ…!」
「えへへ…妻としてのファーストキスです」
「この…可愛いやつめ」
俺は渚と結婚し、幸せな日々を送っていた
それもこれもあの小さな天使がもたらしたものだと俺は疑わない
シリル、グランフォード俺達はその小さな天使の名を一生忘れる事は無いだろう

「みゅ…まぶちぃ」
目を開けると陽光が降り注ぎまぶしさに呻いた
体を起こし周りを見るとピクニックに来てた丘だった
「みゅ…今までのは…夢?」
そうは思えないほど鮮明な記憶
でも、そう思ってしまいそうな状況
そんな中シリルは隣に添い寝していた猫を見つけた
「みゅ…猫さんついてきたの?」
猫は眠ってるようで反応は無かったが
それは間違いなくシリルを異界に誘ったあの猫
シリルは夢じゃない事に喜びながらも眠気に誘われまた横になる
「出来れば…もう一度…あの世界にいけたらいいのに…」
シリルはゆっくり眠りに落ちていく
その先にはみんなの笑顔、シリルは梓に抱きしめられる夢を見た
シリルはずっとニコニコしながら
このピクニックにきて、そして皆に会えたことの奇跡に感謝したそうです


「ふわぁぁ…良く寝た」
「うにぃぃ…ぽかぽかで気持ちよかったです〜」
「ん〜日も暮れてきたしそろそろ帰らないとね…シリルちゃん起きて」
「…みゅぅ…?ちーちゃんおはよぉ…」
「シリルはねぼすけさんだなぁ(笑」
「うー…みーちゃんひどいよう」
「うに〜…ご主人様お腹すきました」
「そうね、じゃあ帰りに材料買って帰りましょ、何がいいかしら?」
「カレー!」
「シチュー」
「ロールキャベツです」
「よし、間を取ってリゾットね」
「「「間とってな〜〜い!」」」
「そうと決まれば家まで競争!よーいドン!」
「ルティちゃん待ってよぉ!」
「ご主人様〜!置いてけぼりはいやですよぉ〜〜!」
「あっ…出遅れちゃったね」
「にゃ〜」
「ゆっくり行こうか…名前決めないとね?」
「にゃ〜ん」

〜ルティ宅〜
「ん?シリルどっから拾ってきたのその猫」
「みゅ…えとえとね…飼いたいんだけど…だめかな」
「うに〜人懐っこそうです〜」
「にゃ〜〜」
「シリルちゃんが面倒見れるなら私は構わないけど皆は?」
「私は賛成!」
「私もです!」
「皆…ありがと」
「にゃ〜〜ん♪」
「所でこの子の名前は決めてあるの?」
「うん、この子の名前は…」

〜異世界5年後〜
例の事件から5年経ち
俺は普通の企業に就職していた
ただ今現在俺はすさまじく焦っている
会社も早退しとある場所へと全速力で急いでいた
駐車場に車を止め駆け込む
分娩室の前にはかつての仲間達が待っていた
「遅いぜ梓」
「はぁ…これでも全力だ…」
悪態を付く結城、今は親の家業を継ぎ製菓店のオーナーだ
俺の仕事の関係で今でも結構世話にはなってる
「久しぶりね、梓3年ぶりぐらいかしら?」
「お久しぶりです、所長も変わりなくて何よりです」
「その呼び方はよしてもう引退したんだしそれに変わりないって酷いわね…これでも10cmは伸びたんだから」
「すいません…」
クリシュア所長は結城との結婚を機に所長を引退した
それでもちょくちょく特関には顔を出してるらしく
現所長のラルフは頭が上がらないらしい
「クリシュアさんもあんまり梓さんをいじめちゃダメですよ、もうすぐパパになるんですから」
「いいや、いいんだ由紀、えと入ってからどのくらいだ?」
「20分ぐらいです、もうそろそろかも知れませんよ?」
「しかし、梓もやっとパパになるのかぁ…困った事があったら俺に聞けよ?その点はかなり先輩だからな」
「あぁ…その時は頼む」
「渚も一時期悩んでたからね…でもこれで安心できるでしょ?」
「ああ…そうだな…ん…クレアちゃんと友里ちゃんはどうした?」
「俺の実家に預けてきた二人ともやんちゃだからよ誰かさんに似て…すいません嘘ですごめんなさい」
「相変わらずだな…(苦笑」
「お前も気をつけろ渚ちゃんはああ見えて気が強いから俺みたいになるぞ?」
「十分気をつけるよ」
ちなみに結城は二児のパパさんでもある、
一人はクリシュア所長との子、もう一人は由紀との子である、
血縁的に問題があるだろうと思った二人だったが
実は由紀は養子で結城との血のつながりは無いらしく両親もこの事を了承した、
しかし、現行法では多妻は認められていないのは明らかだが
役所には所長が圧力をかけて強引に認めさせたらしい
それが3年前の事だったかな
それ以来ますます結城は所長の尻に敷かれるようになったのは言うまでも無い……
そして、待ちに待った声が上がった
(オギャア!オギャア!
「生まれた…!」
「おめっとさん梓!」
「ご家族の方ですか?」
「はい!」
「元気な女の子ですよ、どうぞお入り下さい」
俺は足早に渚に駆け寄る、隣にはケースに入った俺の子供が居た
「渚!でかした」
「あなた…うん…私頑張ったよ…」
「バ〜ブ…」
「可愛い子…あなた…この子の名前は考えてくれた?」
「ああ、ずっと悩んで考えたさ…この子の名前はな…」
重なる声、世界の壁を越え二つの音が一つになる
それは結ばれた架け橋、二つを繋ぐ理の名
シリルと梓の口が同じ名を紡ぐ
「「明日香(アスカ)」」
〜FIN〜

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