第4話 ミリルとシリルと秘密の本

ある日、ルティに探し物を頼まれたミリルとシリル。
途中、ふとした拍子に謎のスイッチに手を触れてしまった二人は、魔法の本の世界へと飲み込まれてしまいます。
そこは自らが主人公となって物語を描いていく世界で……?

その1 せいばーさん

「シリルー」
「なんですかー?」
「見つかったー?」
「まだですー」
「ハァ・・もー!出て来ーい!コノヤロー!」
ガシャーン(カチッ)!
「ん?(パァァァァ・・)」
「ふぇ!?何ですかこ・・」
バシュゥゥゥゥウン!!
「「きゃぁぁぁぁぁあ!!!!」」

その2 ゲイトさん

ミリル達は、スイッチの近くにあった表紙だけの本に吸い込まれた。
数分後、2人の帰りが遅いのに気になったルティはミリル達が探していた倉庫に入ってきた。
中は泥棒が入ったように荒れてはいたが、中には誰もいなかった。
ミリル達も探し者をすっぽかしたのかと少し怒りを感じた。
「全く、ミリルもシリルも何処に行ったのかしら、ミリル達の前に頼んだココナも行方不明だし・・・」
実は、ミリル達の前にもココナに探し物を頼んでおいたのだ。 
しかし、中々戻ってこないため、ミリル達にも手伝わせたのだが、2人も戻ってこないため、止む終えず自分も倉庫に来たのだ。
「コレだけ散らかさなくても直に見つかるはずなのに・・・ん?」
ふとスイッチを見つけたルティ、それを見るなり
ルティは慌ててスイッチの近くにある表紙だけの本を見た。
それを手に取って開いたとたんルティは固まった。
表紙だけだったはずのそれはいつの間にか白紙のページが何枚も追加されていたのだ。
「まずいわ、もしもミリル達がこの中に入ってしまったとしたら・・・」
急いで、連絡取れる方法を探した。

一方倉庫にあったスイッチを押したミリル達は、道を歩いていた。
しかし、今まで見た事ない場所で、何処に続いているのか分からない。
「あ〜もう、ここ何処なのよ!!」
「みーちゃん、怒ったってしょうがないよ」
「そうは言ってもルティちゃんの探し物をすっぽかしてここにいるのよ、早く帰って探し物見つけないとルティちゃん怒っちゃうじゃない」
「みぃ、そんな事言われても・・・」
つい小さくなるシリル、ミリルは急な光でここに飛ばされてイライラがさらに増してしまったようだ。
数分歩いていると、町が見えてきた、2人はここの事を聞こうと大急ぎでその町へ入っていった。
しかし、2人とも見覚えない町だった。
でも町に着いたことでここが何処だか分かると思ったミリルは歳の近い女性に声をかけた。
そう言って、ミリルはこの町の住人に話を聞いてみた。
「すいません、ここは何処なのですか?」
「ここ?ここは・・・」
声を掛けられた住人はこの町の名前を教えてくれたがミリルもシリルも聞き覚えのない名前だった。
新たに作られた町なのだろうか、そう思って自分の町の方向を聞いたが、何故か首を傾げられたり、知らないの一点張りだった。
こちらの質問が終ると、今度は住人から質問が来た。
「貴方、外からやってきたのよね?」
「えっうん、一応・・・」
「一応? まぁいいわ、貴方、魔王について何か知らない?」
「魔王?」
「そう、魔王」
「知らないわ、ごめんなさい」
「そう」
「なんですか?魔王って」
「魔王を知らないの? じゃあ魔王が復活したって言う話も?」
住人の質問に首を傾げるだけの2人だった。
「そう、そんなことまで知らないなんて、のんきな旅人さんね」
「なんですって!!」
「みーちゃん落ち着いて、できればその魔王について教えてもらえませんか?」
住人は魔王について話し出した、かつてこの世界に魔王がおり、世界を征服しようとしていた、しかし、異世界の人間が魔王を倒し、封印したという話だった。
しかし、数日前、魔王が復活し、手下を使って次々と町を襲っていると言うのだった。
一通りの話を聞いた後、二人は広場で休憩していた。
倉庫の探し物から、急にここに飛ばされたミリルの頭は訳の分からなさでパンクしかけていた。
そのときだった。
「まっ魔王の手下だ!!」
「「みゃ!?」」
その声に2人は驚いた、目の前を見ると魔物が町を襲おうとしていた。
「シリル、ここにいて、私が魔物達を追っ払うから」
「気をつけてね、みーちゃん」
逃げ惑う町の住人を避けてミリル、苛立ちの憂さ晴らしでもあるのか容赦なく魔物に攻撃を仕掛けた。
突然の攻撃に驚いた魔物だが、ひるまずに攻撃を仕掛けてくる。
大きさ的にはミリルと同じくらいだったため、ミリルは怯むことなく、攻撃を繰り返し、魔物達を追っ払った。
「ざっとこんなもんでしょ」
浮かれるミリルに住人達がお礼にやってくる。
その時、お礼に混じって別の声が聞こえた、それはミリルとシリルとココナを呼ぶ声だった。
ミリルは、一通りお礼を受け取ってシリルのところへ急いで戻った。
「おつかれさま、みーちゃん」
「シリル、今ルティの声聞こえなかった!?」
「みゃ!!みーちゃんも聞こえたの?」
ミリルの言葉についシリルが立ち上がった。
「やっぱり、ルティちゃん、いるの? ミリルだよ!!」
その声に空間が遮断されたかのようになり、直接ルティの声が聞こえた。
「ミリル、ミリルなの!!よかった無事なのね」
「シリルも一緒よ」
声の正体はルティだった、本の世界へと声が聞こえる魔法道具を使ってミリル達に声をかけていたのだ。
「ミリル、貴方、倉庫のスイッチ押したでしょ」
「うっ・・・うん」
「やっぱり、それが原因で、ミリルちゃんとシリルちゃんは、魔法の本の中に吸い込まれちゃったのよ」
「魔法の本?」
「そう、魔道書とは違って、本自体に魔法がかかっているの、それを制御するためのスイッチをミリルは押しちゃったのよ」
「それじゃあここは本の世界ってこと!?」
「そう、それもミリルちゃんやシリルちゃんの行動しだいでお話が書き込まれていく本にね」
「元の世界に戻る方法はないの?」
「方法はこの本を完結させるの、でも自分が死んだ終り方だと、本から二度と出れないわ」
「そんな」
「大丈夫、死ななければ良いの、今いる町で何か情報を聞かなかった?」
「そういえばさっき住人の人から魔王が生き返ったって話を聞いたよ」
「魔王・・・きっとそいつを倒せば元の世界に帰れるかもしれない、私はアドバイスをする事しか出来ないけど、多分魔王を倒せば、お話が終って元の世界に帰れるかもしれないわ」
「魔王を倒す・・・か、分かったやってみるよ」
「そう簡単じゃないと思うけど、もし、その世界でココナを見つけたら教えて」
「ココナちゃん?」
「うん、さっき町に行ってココナについて聞いてみたんだけど町に着てない上に町の外にも出てないって言うからもしかしたらだと思うの」
「わかった、ココナちゃんも探してみるね」
「お願いね、私の声は周りには聞こえないしこのときミリルが話している声も回りに筒抜けじゃないから安心して話して、それと早速なにかしたみたいね」
「え?」
「ある町でねこみみの少女が魔王の魔物を追っ払ったって出てるわよ」
「あっあはは・・・」
「とにかく気をつけてね、私の声が聞こえたら私の名前を言って、そうすれば今みたいに空間を作る事が出来るから」
「分かった」
一通りの会話が終ると遮断された空間が消え元の町並みに戻った。
「みーちゃん、ちーちゃんは何て?」
「うん、私達は今、本の主人公なんだって」
「本?主人公?」
「ええっとつまり・・・」
ルティは先ほどルティと話したことを説明した。
「そうなんだ、じゃあシリルも頑張らないとね」
「うん、そのためにも魔王の話を聞いてとっとと魔王を倒しに行こう!!」
意気込むミリル、だがこの旅が、ミリルとココナの関係を危なくさせる冒険とは今は知る由もなかった。

一方人里はなれた暗い場所に古い城があった。
魔王の城である、そこに一人の兵が魔王に報告をしていた。
「魔王様、報告します」
「どうしたのですか?」
「先ほど、町を襲わせた魔物どもが倒され、追い返されました。」
「どういうことですか?」
「報告によると、魔王様同様に動物の耳と尻尾を持つ少女に倒されたとか?」
「耳と尻尾ですか」
「いかがいたします?」
「やり方は任せます、その動物の耳と尻尾をもつ少女を何とか倒してください、この世界の支配に支障が出ます」
「はは、承知いたしました、魔王ココナ・アンダンテ様」
「ふふふ、きっとミリルさんですね、今の私の姿をみたらなんて言うかな、ご主人様にも見せてあげたいです あはは」
黒いマントに身を包み、魔王と呼ばれた少女はココナ本人だった、しかし、普段身に付けないペンダントを首に掛け、瞳の色が暗めの茶色ではなく、恐ろしさを現すような赤色をしていた。

その3 せいばーさん

「やっぱり魔王倒しに行くんだったら何かしらの装備は要るわよねー」
ミリルのこの発言を切っ掛けにこのミルファと言う小さな町で装備を整える事にした
今まで通り魔法が使える保証はないので準備するに越したことは無い
戦闘の心得が有るミリルは良いとして、殆ど近接戦闘に縁が無いシリルは装備を充実させる必要があった
「うぅ・・重いです」
「良いじゃん似合ってんだし、雰囲気的には白魔道士ってとこだな」
シリルの格好は奇抜なモノだった
「魔物を倒してくれたお礼だよ!好きなの持ってきな!」
と装備屋の小母さんに言われ、ミリルが好き勝手にコーディネィトしたのだ、
その結果、まさに魔道士と言わんばかりの格好になってしまった
その反面ミリルは軽装で胸当てやショルダーパッドと言ったモノで
ジョブで言うならグラップラーと言ったところだろう
後は携帯食料等の寝泊りに必要な物を買い揃えた
否、貰い受けた
「ミリル・シリル聞こえる?」
と、ルティの声
その瞬間空間が裂ける様にしてその空間とは離れた別空間を作り出す
「あ、ルティちゃん、どした?」
「うん、ちょっと助っ人をそっちに送ったからその報告に・・」
「助っ人・・・ですか」
「うん、状況が状況だから止む終えないし、気が乗らないけど彼に応援を頼んだの」
「彼?誰だよそれ、彼氏でも作ったか?」
「そうじゃなくて・・まぁいいわ、彼のスピードならもう直ぐつくと思うから、また何かあったら連絡する」
「ほいほ〜い」
「助っ人さん・・誰でしょうね」
「さぁ・・ルティちゃん何気に顔広いからなぁ
先の大戦の戦友でも呼んだんじゃね?」
「残念だがそれは外れだ」
「おっ来たか助っ人さ・・・」
「こんにち・・は・・」
二人とも絶句する、そこに居たのは想像もつかない様な相手だったのだ
「何だ、バケモノでも見た様な顔しやがって、俺がそんなに気に食わないか?」
「いや・・だって・・お前今刑務所じゃないのか?」
「あぁ、事情があって釈放された、理由はその内話す」
二人が絶句した人物それは
赤い髪・黒い双剣・真新しい傷痕
そう、彼は以前ココナ達と対峙し剣を交えた疾風の戦士
ガレット・アイゼンヴォーグその人だったのだ

その4 せいばーさん

4ヶ月前、亜人保護及びヒトの掃討を目的に大規模な破壊行動を取った亜人組織『ロ・キァ・ディモス』
その幹部であったガレットは街を救おうとしたココナ達と対峙し敗れ、その後怪我の治療の為入院した
しかし、検査の結果驚くべき事に、ガレット及びその他幹部の一部や兵士の84%が洗脳措置を受けていたのだ
つまり自らの意思で破壊活動を行っていたのはほんの一握りと言うことになる
「と言う訳で俺は大きな顔して街を歩けるわけよ」
「へぇ〜じゃあもう無罪放免なんだ」
「あぁ、司法所の連中曰く
『今後しばらく調査書の作成の為に呼び出しがあるだろうが、目立ったことをしなければもう刑務所に来ることは無いだろう』だとさ」
「へぇ?」
今の話はシリルには少し難しかったようだ
ハテナ?と言った表情を浮かべる
「それで、大方ルティからこの本の事は聞いてるが何でこんな面倒な事になってんだ?この本見るからに怪しかったぜ?」
「いやぁー、その・・・ホラ、ね?」
「?」
「要するにみーちゃんがポカしでかしたってことです」
「あぁ、なるほど、そういう事か」
「ちょ・・こら!シリル!もうちょっと言いようってモンが・・ッ」
ガサッ
「!!」
ガレットが双剣を構える
「ん?どうしたガレッち?」
「誰がガレッちだ、それより草むらに何かいるぞ」
「ふぇ!?本当ですか!?」
「何かはしらねぇが・・、一応準備しとけ」
「(ゴクリ・・・)」
ガサ・・ガサガサ・・
バッ!
「!」
「みゃ〜」
「・・・・は?」 「・・ぷっ・・ぷははははははははは!」
「くっ・・クス」
「う・・わ、笑うなぁ!」
「ね・・猫如きに・・『何かいるぞ』『準備しとけ』って・・ククッ」
「う・・うるさいうるさいうるさーい!
テメーらコレが猫だから良かった物のとんでもないバケモノだったら・・」
「ガレッち〜コレ一応RPGみたいなモノなんだよ?
イキナリそんなバケモノが出る訳・・・」
「ふぇ?どーしたんですかみーちゃ・・」
二人が何かに怯える様にして凍りつく
「ん?どうした?」
「いや・・・後ろ」
「う、うううう後ろにいいいい」
「あ?後ろ?(ビチャ)
うわっ汚!、何だよコ・・・レ・・・」
ガレットも凍りつく
『ぐるるる・・・・』
とんでもなく大きな熊が、ガレット達を見下ろしていた
「うぉぉぉぉぉぉお!」
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!」
広大な森に大きな三つの悲鳴が響く

その5 ゲイトさん

その断末魔に熊も大いに反応したのかミリル達に襲い掛かってきた。
「こ、こっちに来るよ〜」
「冗談じゃねぇぞ、こんなのを相手にするのかよ!!」
ガレットがそんな事を言うのも無理は無い。
熊の大きさはミリル達から見れば約2、3倍はあるだろう。
その巨体を背負いながらミリル達に向ってくる。
「逃げるぞ、こんな狭いとこじゃまともにやり合えない!!」
ガレットの声でミリル達は来た道を逆戻りする。
この場で戦っても良かったのだが、道幅の狭いため、逃げ道が無いのだ。
逃げている最中、ちょっとずつミリルとガレットの差が離れていく。
「ちょっと、ガレット、あんたなんでそんなに足速いのよ」
ミリルが突っ込む
「あれ?言ってなかったか? 俺は狼種の亜人だぜ?犬同様の速さ出せんのよ」
などと言っていると急にガレットが止まった。
「ちょっとなんで止まるの!!」
再びミリルが声を上げる。
「んな事言ったって行き止まりだぜ?それともこの木々を抜けるか?」
「うっ」
ミリルやガレットはともかく、運動神経の鈍いシリルにとって木を飛び移って逃げ回ると言う行動はかなり出遅れてしまう。
やがて、後ろから先ほどの熊に追いつかれつつあった。
「クソ、このままだと・・・」
「ガレット、やるしかないんじゃない?」
ミリルが向ってくる熊に向って構える、ガレットも冷汗をかきつつも双剣を構える。
熊の勢いは止まらずこちらに向ってくる。
熊の腕が振りあがり、ミリル達に向って振り下ろされる瞬間だった。
一筋の矢が木の間を縫って熊の肩を捕らえた。
唸り声を上げる熊にミリル達の行き止まりから誰かが飛び出し、熊の動きを止める。
さらに熊の顎を蹴り上げると熊はその蹴られた反動でそのまま仰向け倒れた。
飛び出した人物は軽やかに着地し、ミリル達に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
その姿は、緑の髪に緑の服と帽子に身を包んだミリル達と同じくらいの少女だった。
しかも、ミリル達同様に動物の尻尾と耳を持っていた。
「あ、ありがとう」
「いえいえ、同族を守る事が私の任務ですから」
「同族ってことは、貴方も亜人なの?」
女性はこくりと頷いた。
「しかし、なんでこんなところを歩いているのですか?集落からこんな離れた場所に?」
「集落?」
「えっ?」
少女は驚きを隠せなかった。
少女いわく、この森には亜人が暮らす集落があるそうで、自分はその護衛をしていたと言う事だった。
「それで、俺達が襲われていたところを助けてくれたって訳か」
「集落を知らないとなると、貴方達は一体何者なんですか?」
「実は・・・」
っとミリルが理由を言おうとしたが、この人に異世界から来たといっても信じてくれないだろう。
ミリルは、自分達は魔王達と戦うためにこの森を抜けた先にある魔王軍と戦っている町を目指していたと、この少女に説明した。
「そうですか、貴方達は魔王と戦うおつもりなのですね、確かにこの森を抜ければその町にまでたどり着けます」
「でも、あの大っきな熊に追いかけられて、何処か何処だか分からないよぉ〜」
シリルが口を開く、大体の荷物はシリルが持っていて、その中にこの大陸の地図と迷いやすいこの森の地図も持っていたのだが道を大きく外れてしまったため、完全に迷子状態になってしまったのだ。
「そうですか、ならば、私がその町まで案内しましょう、森の中までなら私も協力して戦います」
「えっ、一緒に魔王を倒しに行かないの?」
「そうしたいのは山々なんですが、集落を放っておくわけには行きません」
少女は、この森の何処かにある亜人の集落の護り手をしていて護人を置いて自分がふらふらするわけには行かないと言う事だった。
「そっか、じゃあ仕方ないね」
シリルが少しがっかりする。
「とりあえず、その町へ目指しましょう私についてきてください、それと私のことはファリンと呼んで下さい、それが私の名前ですから」
「分かったわ、よろしくね、ファリン」
少女の名前も確認した後、ミリル達も自分達の名前をファリンに教えた。
4人は森の中を再び歩き出す
「気をつけてください、最近魔王の放つ魔物のお陰で森の動物達も凶暴化しています、それと最近魔物達も見かけます、中にはとんでもない攻撃をしてくる奴もいるので気をつけてくださいね」
そういってファリン達は森の中を進みだした。

その6 せいばーさん

「う〜ん、どうしたもんかな〜」
ルティは頭を抱える
「物語の進行状況を見るとマズイ状況じゃ無さそうだけど・・
ほっとく訳には行かないわよねぇ〜、
てゆーか、何でこんな本家の倉庫に?ミルファ教授は違うし・・アイナさんじゃないし・・あっあったコレ探してたのよね〜コレが無いと4つ目の工程に進めな・・じゃなくて!」
ルティは猛烈に悩んだ
これからどうするか
この本は誰の物か
この本の仕組みは?
何でガレットがこの家に悠々と足を運べるのか


「あ〜っもう!何でこういろんなことがかさなるかなーっ!」
ガシャーン!(ガラガラ・・ゴトンッ)
「あっ」
ルティは自らの行為に顔を赤くする
「・・・・(ゴト・カタッ・・・カチャ)」
虚しくなりつつも更に散らかった倉庫を片付ける
「ハァ・・ん?」
一つの写真を見つけた
それは10人程の集合写真で右から三番目に写っているのがルティだ、12〜13歳といったところか背も小さい
「ん〜?」
ルティは何かを思い出すようにじっと写真を見つめる
「あーーーっ!!思い出した!」
タッタッタ・・・ガチャン!・・ギィ〜バタン


コンコン
「あー、どーぞー」
ギィ〜
「おぉ、ルティ久しぶりだな、どうしたーってその本・・」
「えぇ、そうよ、貴方が作った本」
「何でそんなモン・・
『要らないからやっぱ返す』とか言われても困るぞ?」
「貴方が無理矢理渡したんでしょう?」
「む・・、まぁそうだが」
ルティの前にワイシャツに白衣姿の男が座っている
歳はルティと同じには到底見えない
様するにフケ顔なのだ、顎に蓄えた無精髭がより彼を年増に見せる
彼の名前はミキヤ・J・シャフルナーズ
ルティが住む島から遥か東方にあるジャルパと言う国とこの島の人間の間に生まれたそうだ
よってこの島では珍しい名前をしている
「お前、まだ独身だろ?」
「そうだけど・・・貴方と結婚する気は無いわよ」
「そうか、それは残念、
で、何しに来たんだ?その本を返しに来たわけじゃないんだろう?」
「えぇ、実はこの本の中に同居人が閉じ込められちゃってね
出して上げたいんだけど、どうしたら良い?一応この本を完結させろとは言ってあるんだけど」
「よくそんな事伝えられたな、どうやった?」
「そんなの簡単じゃない、この本に手を当ててテレパティアの魔法にちょっと工夫を加えるだけよ」
「・・・前から思ってたんだが・・お前その魔法の才能を生かそうと思ったことは無いのか?」
「まぁ、それはあるけど、私には私の夢ってものがあるの」
「そうか・・、まぁそれは置いといて、本(なか)に閉じ込められたのって・・あのココナって子か?」
「うん、それとミリルとシリルって子」
「随分多いな・・で、全員とコンタクトは取れたのか?」
「いや、ココナだけ取れてない、どうやってもあの子だけはトレース出来ないのよ」
「ふむ、まぁ助けられないことも無いな、だが条件がある」
「条件・・?」

その7 娯楽人さん

「あ〜身構えなくてもいい、決して『お前が欲しい』とかじゃないから」
「そりゃ、そうでしょ・・・全く冗談言わないで」
「相変わらず、俺にだけきついなお前は・・・」
「良いから、早く条件を話してよ」
そう、ミキヤはこういう男なのだ
冗談や悪戯が大好物で流石この本の作者って人物
出来れば係わり合いになりたくないけど、
ココナが本に捕まってる以上助けを借りないわけにはいかない
「ん〜ちょい待ってろ・・・・・・確かここに・・・あったあった」
ミキヤが引っ張り出してきたのは今にも朽ちそうな古い本だった
「これがなんなの?」
「まあ、そう睨むなこいつはな特殊なインクで書かれていて常人には読む事が出来ないんだ」
「それが条件と何の関係が・・・・」
「頼む、この本の写生をしてくれ」
「・・・はい?」
「お前ならきっと見えるはずなんだそのインディゴブルーの瞳ならな」
「えっと、つまり私にその本を丸々一冊書き写せって・・・?」
「いや、全20冊あるが移してもらうのはまずはこいつからだ」
「そんなにあるの・・・・」
只でさえ分厚い本があと19もあると思うと軽く眩暈がしたけど
でも、ココナ達を助けるためだもの・・・・
「わかった・・・やるよ」
「おーしそれでこそ俺の相棒だな」
「誰が相棒よ!?」
「まあ今日は久しぶりに忙しくなりそうだ徹夜してでも書いてもらうからな〜待ってろよ俺の研究対象必ず尻尾つかんでやるぜ、は〜っはっはっはっはっは!!」
「うぅ・・・」
私はこの時既に後悔していた
いや、この後悔は過去何度も味わったものだ
そう私は思う『こいつに会うんじゃなかった』と・・・・・・

その頃、本の中魔王城では・・・

「申し上げます魔王様、先ほど放った偵察から連絡が入りました」
「それで内容は?」
「はっ、先ほど魔物の死亡を確認、現在西の森集落へ進行中との事です」
「そうですか、分かりました下がって良いですよ」
「はっ・・・失礼します」
「ふふっ、流石ミリルさん達だな・・・強いね」
ココナはちょっと首を傾げながら空を見た、
赤き月が見える灰色の空そんな場所でも彼女は落ち着いていた
そして、考えがまとまったのか誰かを呼びつける
「キッシュ、キッシュ・チャイドルは居ないですか?」
「ここにおります、魔王様」
「ああ、キッシュ次の作戦ですが貴方に出ていただきたいのです・・・・」
「・・・という作戦でお願いします、では行ってくださいキッシュ貴方の力私に楯突く者に思い知らせてやってください」
「御意、全ては魔王様の仰せのままに・・・」
「ミリルさん、邪魔が出来るのもここまで、今度は私も本気ですよ・・・ふふふ・・・・あははははははははは!!」
不気味に響き渡るココナの笑い声その声は確かにココナの声だったが
いい知れぬ狂気が混じっていた・・・・

その8 せいばーさん

「暑い」
「あ〜つ〜い〜」
「暑いです〜」
「あともう少しなので頑張ってください!」
ミリル一行はファリンと一緒に亜人達が住むと言う集落に向かっていた
向かっていったのだが・・・
「何でこんなに暑いのよ・・・」
「さぁ、私に聞かれても困ります」
「俺・・ブルグス地方(寒い所)の生まれなんだ・・」
「大丈夫ですか・・・ガレットさん?」
猛烈な暑さが一行を襲っていたのだ
「あーヤバイ、もう・・俺・・(バタリ)」
「ガ・・ガレットさーん!!」
「あれー、ファリン何やってんのー?守衛長探してたよー?」
「あー・・ちょっと待っててー!病人連れてくからー!
・・とゆー訳で、着きました、私達の村です」


「あー、死んだ母さんが見えたよ」
「意外だなー暑さに弱いとは」
森の中を進む事2時間やっとの思いでファリンが住む村、エーリ村に辿り着いた
「邪魔してもええかの?」
「あ、どうぞ長老」
「始めまして、私がこの村の長老のイエンじゃ」
「こんちはー」
「しかし・・・魔王を倒すとな?」
「はい、私達の村も奴らに・・、友人や両親の仇を・・・」
「(ちょっとガレット!)」
「(何だ?)」
「(私達の村とか仇ってどういう事?)」
「(外の世界から来て外に出る為に冒険してるって言えってか?)」
「(あっそっか)」
「む?どうかしたかの?」
「あっいえ、何でも」
「ふむ、まぁ長旅で疲れたであろう、今日はゆっくりと休むが良い」


「ガレットさんってあんな喋り方も出来るんですね〜」
「なんだ、俺だっていつも言葉が悪い訳じゃないぞ」
「いやぁ〜、イメージ的にガレットはヤンキーだよ」
「んなっ・・」
「いや、どちらかって言うとマフィアの三下・・」
「お前の口からたまに飛び出るドス黒い言葉は何なんだ?」
ガレットは一瞬泣きそうになる
「まぁ、それは置いといて・・これからどうする?」
「う〜ん取り合えずファリンさんと一緒に街まで行けばいいんじゃないんですか?」
「だな、まぁさっきのデカイ熊とかに気をつければ大丈夫だろう」
「よし!そういう訳で・・寝よう!」
「寝るか」
「ですね」
三人はベッドに潜り込む


そんな三人を見つめる影が二つ
「ふふふ・・油断しているな・・魔王様に逆らう者は・・ターミネートする・・っふ、ふふふ・・(バキッ)っふあ!」
「!!大丈夫ですか!?キシュア様!?」
側近らしき女性が即座に駆け寄る
「むぅ・・膝すりむいた・・・」
「ハァ・・ったく・・・」
「何か言ったか?」
「何か聞こえまして?」

その9 ゲイトさん

「・・・などと漫才をしている場合ではないな」
キシュアが調子を取り戻す。
「さて、火の準備は?」
「何時でも」
「この集落に火攻めとは、キッシュも人が悪い」
「分かってます?キシュア様、私達は火災で護人達を慌てさせ、邪魔ならば殺すだけですよ」
「分かってる、っとキッシュ様から合図が来たようだな」
「じゃあ、始めますか」

一方集落の、護人が集まる小屋の入り口にファリンは立っていた。
今休んでいるミリル達の小屋を見つめながら。
そんなとき、ファリンと同じ服を着た女性が小屋から出て、ファリンに声かけた。
「ファリン、お疲れ」
「ユリア、うん、お疲れ」
「元気ないね・・・やっぱ、彼女達と魔王を倒しに行きたいんじゃない?」
「ああ・・・やっぱり分かる?」
「分かるよ、幼馴染だし」
「でも、この村を離れる訳にはいかないよ、それに、護人になったときに決めたんだ、この村の人々を敵から守るってね」
弓をぐっと握る。
「でも、ファリンだけじゃなかったね、仇を討ちたがってたの」
ファリンは黙ってしまう、昔この村で暮らしていたファリン
しかし、この村に魔王の手先が現れ、亜人は次々と殺されていった。
その中にファリンの親友達も含まれているのだ。
「ねぇ、ファリン、私が長老に頼んでみようか?」
「え?」
「ミリル達と魔王の戦いに赴かせてあげてって」
ファリンにとって、それは願ってもない願いだった。
だが、ファリンはそれを否定した。
「そっか」
っと返すユリアだった。
月を見上げる二人、このまま、今日の仕事も終わると思っていた・・・だが、急に月に雲がかかりだした。
だが雲にしては色が黒く下から上がっている。
おかしいと思った二人が前を見る、すると長老の小屋だけでなく、色んなところから火の手が上がっていた。
「まずいわ、ユリアあんたは他の護人に伝えて!!」
「分かったわ、ファリンは?」
「ミリルさん達を起こしてくる!!」
2人が走り出す。

一方ミリル達も、焦げ臭さに目を覚ましていた。
「なに、この臭いは〜」
ミリルとシリルが起き出す、既にガレットは目を覚まし窓から様子を見ていた。
「出るぞ、こりゃ、魔王の奴等が来たようだ」
「ふぇ!?」
慌ててミリルとシリルも準備をする。
3人が小屋の出入り口まで来たと同時にファリンが飛び出した。
「みなさん無事ですか?」
「ファリン!?」
「一体何があった!!」
「恐らく、魔王の手先の者かと・・・ともかくここは危険です私の後についてき・・・・!?」
「ファリン!?」
いきなり、ファリンの腹部辺りを貫いた。それは後ろにいた誰かがファリンを片腕で貫いたものだった。
「挨拶無しですまないな、その3人は俺に用があってな」
「がはっ、だっ誰・・・だ、お前は・・・」
「森に引きこもる者に名乗る名はない」
そう言ってファリンを外へ放り出す。
「誰だ、お前は」
ガレットが前に出る。
「フッ、お前が魔王に仇なす者か、俺の名はキッシュ・チャイドル」
「貴方がこんな事をしたの、この村に火を付けたのは!!」
「これは俺の部下がした事、邪魔者を外野に背ける為にね、俺の狙いは貴様等だ、覚悟してもらおうか」
ガレットとミリルが構える。

その10 娯楽人さん

「ミリル・・・気をつけろこいつは格が違う」
「あんたに言われなくても分かってる・・・」
敵の体からにじみ出る殺気が尋常じゃない事にガレットも気づいたようね、勝てるかしら
「来ないなら、こちらから行くぞ・・・(ヒュ」
「ぐっ・・・うわぁ!!」
「ガレット!?」
一瞬でガレットは吹っ飛んだ、見えない位その位相手の男は速かった
「くっ…」
「どうした?怖気づいたか?女」
「ミリル!逃げろ…勝てる相手じゃない!」
「今更貴様達が逃げたところで状況は変わらぬ、追うのも一興なのでなさぁ、ここで果てるか?逃げるか?」
「う……」
私はまさに蛇に睨まれた蛙ってところだ
ガレットはかなり離れた所に居る
ファリンさんは瀕死だ…とても動ける状態じゃない
シリル…シリル?あれ?シリルは?…
「えいっ!!」(ブンッ
「(パシッ)ふん…それで攻撃のつもりか?邪魔だ小娘!(ザシュ!」
「きゃあ!」
「シリル!」
「みー…ちゃんシリル…役に…立てたかな?……」
「シリル…そんな……いやぁぁぁぁぁ!!!!!」
「まずは一匹……さぁ女どうする?」
「シリル…ごめんね…私…私……」
「ッフ、壊れたか殺しがいがなくなったが消えてもらうぞ」
「………うるさい」
「何だと?」
「うるさいうるさいうるさい!!あんたなんか!あんたなんかぁ!!!殺す!殺してやる!!」
「…久しぶりに本気が出せそうだ…来い!女!」
「うああああああああああああっ!!!」

〜その頃現実世界では〜

「……………う〜…」
「お前なぁ…やれと言った手前、なんだがちょっとは休め」
「早くしないと手遅れになるかもしれないでしょ!」
「手遅れ?例えば何だ?」
「えっ?……例えば…中の世界で死んじゃうとか」
「あ〜そういう事かなら心配は無い」
「どうしてよ?」
「何故なら俺の作った物だからな、あくまで疲れた程度で収まる様にしてある」
「だからどうして心配無いわけ!?ちゃんと1から理由を説明しないと納得しないんだからね!」
「全く…お前って浪漫が分からん奴だな……」
「人の命掛かってて浪漫も無いわよこのっ!このっぉ!(ポカポカ…」
「いたたっ!?やめろってこの馬鹿!……おりゃあ!」
(ドンガラガッシャーーーン!)
「きゃぁ!……いたた……えっ?」
ミキヤの顔が私の目の前にあった
「俺を信じろ、じゃなかったら入ってる連中を信じろ大丈夫だ無事に帰ってくる」
「………えっと……うん…」
「ん?…何だ急にしおらしくなっちまって」
「…ミキヤは変わんないね強引な所とか…人の話聞かないところも」
「そうか?自覚は無いんだが…迷惑ならすまん」
「いや、いいんだけど……いい加減どいてくれない?」
「ん?…あっ!?す、すまん!」
ミキヤはまるで錆びついたブリキの玩具みたいにぎこちなく立ち上がって
「……あ〜ちょいとお茶でも入れてくる!」
と言うと足早に台所に逃げ込んで行った
「………馬鹿」
今もちょっとドキドキしてる、
ミキヤのあのまっすぐな言葉…あれ、私何にドキドキしてるの?
私どうしちゃったんだろ……

「はぁー……」
流石に押し倒すのは不味いよなぁ……
何て思ったろあいつ……変わんない…かお前もだよ、ルティ
いつでも前を見てて挫けなかった、俺はそんなお前が眩しかった
何時からだろうなこうやってくだらない会話が出来るようになったのは
でも、世界を救った英雄のあいつとしがない研究者の俺では釣り合わない
だから距離を置いてこんな場所に研究所を立てた
それなのに、まさかガキの頃作った本が引き金で尋ねて来るなんて……
「……ミキヤ?」
「うぉっ!?……何だお前か脅かすなよ」
「さっきは……ごめんなさい、その当り散らして」
「気にしてないぜ、…ん、そうだお詫びついでに茶入れてくれないか?」
「えっ」
「久しぶりにお前の入れた奴が飲みたいんだがダメか?」
「クスッ、はいはいじゃあ邪魔だからあっち行ってて」
「分かった、まあゆっくりでいいぜ焦んなよルティ」
「ミキヤじゃないから失敗なんてしないよ」
「俺がいつも失敗してるみたいな言い方するなよ……」
「だって皆でお茶会の時も失敗して強烈に苦いの出したじゃない」
「あれは入れてあったものをぶちまけたお前のせいだろ」
「違うわよあれは………」
「違うお前が………」
こうして口論は2時間以上続き二人の笑い声と罵声は朝まで止む事は無かった。

その11 せいばーさん

「うわああああああああ!!」
ダンッ!
ミリルがキッシュまで一気に近づく
キッシュまで2m程、ミリルの足なら一息で近づける
「フン・・」
しかし、キッシュはそれより早くミリルの後に回り込む
「遅い(ヒュ」
「(ドンッ!)がっ・・」
ドォォン!
家の壁を突き抜け外に投げ出される
「おや、この程度か?威勢良く飛び出してくるものだから少しは楽しめると思ったのだがな・・・残念だ(ペロリ」
キッシュは自らの得物に付着した血を舐め取る
キッシュの武器は指先に金属製の鍵爪がついたグローブでソレについた血を舐め取る様はドラキュラの様だった
「ク・・イタタ・・(落ち着け私!此処で暴走すれば奴の思うツボだ!)」
すぅ・・はぁ・・
ミリルは大きな深呼吸をする
「ふっ・・」
ダンッ!
「!!」
ミリルが先程の跳躍の2倍、否、5倍はあろうかと言う速度でキッシュに近づく
「(コレは瞬動術!?しかしこの速さはー!?)」
キンッ!ガキィン!
キッシュはミリルの予想外の速さに驚きながらも
ミリルの鋼鉄の拳(メリケンサック付きグローブ装備)を爪や腕宛で流しつつもだんだんと劣勢に落とされていく
「そこぉ!」
「!!(ドン!ゴキッ)がっ・・」
ドォォン!
鈍い音と共にキッシュが吹き飛ばされる
「ハァ・・ハァ・・倒した・・?」
ガラ・・ガシャン!
「クッ・・女ぁ・・よくも・・よくも俺の顔を・・ッ!!」
額から頬にかけて深い切り傷を負っている
「・・わけないか、ふ〜ん、まぁ二枚目な感じで良いんじゃない?」
「黙れ!・・殺してやる・・八つ裂きにしてやるよ・・っっ!」
キッシュがミリルを肉塊に変えようとしたその時
「そうか、なら俺は八つ裂きなんて可愛い真似はしてやれんぞ?それも微塵も無く、だ(ザク」
「(ごぷ)!!!なっ・・オ・・マ・・エ・・」
キッシュの腹部に双剣が刺さっている
「あーいてぇ、コノヤローやってくれたな、ミリル、シリルは・・」
「シリル!大丈夫!?」
ガレットは無事だと確信したのかすぐさまシリルの元に駆け寄る
「あれ?俺は?少しくらい俺の心配してくれても良いんじゃない?」
「ガレット!大丈夫!?」
「ん・・ああ」
「そう!良かったわね!」
シリルの装備を解きながらそっけなく言う
ガレットは両手で顔を覆っている
「う・・みー・・ちゃん・・?」
「喋らないで!出血が酷いんだから!」
シリルの魔導服は血で真っ赤に染まっている
医療に関して素人なミリルやガレットが見てもシリルが重症なのは明確だった、ルティが見たら卒倒するだろう
「ってファリンはどうしたの!?」
「ファリンならさっき俺が運んどいた今頃治療を受けている筈だ、
でも・・あの傷で助かるかどうか・・」
ファリンを貫いた爪は腹部の中心、つまり脊髄を傷つけている可能性が非常に高かった、
運が悪ければ半身不随、良くても臓器損傷は免れない事実だ
「そう、後でお見舞いに・・ッ!?」
「ん?どうしたミリル、って・・オイ・・これ」
驚いた事に胴体の中心を切り裂かれたはずのシリルの体はほぼ無傷に近い状態だったのだ
「どういうこと・・?」
「よくわからんが・・本の作者側の考慮じゃないか?」
「どういうこと?」
「ホラ、お前も言ってたろ?コレはRPGみたいなモノだって、
主人公が死んだら話にならないだろ?」
「あっ、そっか成る程、それで・・」
「でも怪我をするのは極力避けたほうがいい」
「そりゃそうだけど・・・なんで?」
「良く考えてみろ、今はこうして怪我が治っているが
やられた当初は出血してたろ?それでパニックでも起こしてみろ、直ぐに敵にやられる、
さらにさっき見たいに激情に駆られて暴走する事だってある、
それにこの本だって作者不明且つ何時製本されたかも解らねぇんだ、不具合の一つや二つ起こって当然だろ?」
「む・・確かに・・」
「えーと・・もう起きて良いですか?」
「ん、ああごめん良いよ、起きて」
「体に違和感はあるか?」
「いや・・あ、でもなんか凄く疲れたような・・」
「そうか、じゃあゆっくり休め、後は俺らに任せろ」
「はい・・お願い・・します・・」
ガレットが休むように促すと直ぐにスースーと寝息が聞こえてくる
「さーて、作業手伝ってくるかな」
「あっ私も」
村の火は既に消え人々は怪我人の治療や食事の準備をしていた
しかし、ミリル達は気付かなかった、キッシュの姿が消えている事を

〜キシュアサイド〜

「まったく・・何をやっているか馬鹿者!」
「・・申し訳御座いません」
村から1キロ程離れた所にある廃屋にキシュア達はいた
「普段から慢心しているからそうなる!」
「(普段何もしてねぇアンタに言われたかねぇよ)」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
「ふんっ・・もう良い!私が出る!」
「!!・・・どのようなお考えで?」
「私を誰だと思っている?」
「しかし、魔王様の言い付けだと今作戦の指揮は私に一任すると・・」
「成功すれば、な、失敗の場合私が出る事になっている」
キシュアは杖を取り出し、呪文の詠唱を始める
「〜闇の女王ウィルディーナよ、此処に降臨し全てを包め、汝の吐息は、無限の睡魔なり、エルヴェルト・ウィエルデェーナ!!」
フォォォォォオォ・・

〜ミリルサイド〜

「ガレットー!そこの包帯取っ・・あれ・・?(バタリ」
「ミリル!?・・っ!これ・・は・・(バタ」
次々と村人が倒れていく中、紫の魔道士と金の切り裂き魔が村の中心で薄ら笑いを浮かべていた

その12 ゲイトさん

さらにその背後にはキシュアが呼び寄せたのであろう水じょうの魔物(スライム)が数体現れている。
「フフフ、よく眠っている、スライムども、若女とオレンジの髪の猫耳少女達を廃屋の地下に連れて行け!!」
その命令と共にスライムが行動に出る、護人やミリル達を含む若い女性を次々と取り込み、廃屋へ連れて行く。
「やはり好かんな」
キッシュが呟く。 その声にフフフと笑みをこぼすキシュア
「こういうのはな、キッシュ、生かさず殺さず、じわりじわりといたぶるのさ、
 一瞬の死が奴等にとって唯一の開放と思わせられるようにするためにな」
キシュアの顔は既にニヤケ顔のままだった。
そんな説明をしているうちに大体を運び終えたようだ。
捕獲していないスライム達がキシュアのところへ集まりだした。
「さて、そろそろ戻るか、残った連中はいずれのたれ死んで行くだろうさ」
「ふむ、ならあの拳士は少し時間をよこせ」
「なに? あの娘は俺が一番狙ってた奴だ、負けた奴に与えられると思うか?」
「気になる事がある、魔王に関する事だ」
その言葉にキシュアは驚いた。
彼女が魔王に関わる事? 魔王を倒そうといきがっていた娘ではないのか? そんな疑問がよぎる。
「分かった少しだけ時間をやろう、俺が楽しむ前に殺すなよ」
キッシュの聞きたい事が気になったのか、あっさり時間を作った。
「先に行ってろ、少し様子を見てから戻る」
「早く戻って来いよ、来なくてもいいがな」
そう言ってキシュアは戻り始める、キシュアの部下や魔物が居ない事を確認したキッシュは、キシュアにつき合わせていた女性を呼びつけた。
そして、彼女に暗号を伝えると、これを魔王様に報告を、さらに結果を俺に報告しろと女性に伝えた。
それを理解した女性は廃屋に向いつつ魔王城に居る報告者にキッシュの伝言を伝えた。
キッシュは、深く眠る者や、死んで行った者を少し見つめ、廃屋へと戻った。

数分後の魔王城では。
一人の兵が報告書を手に魔王様の前で読み上げていた。
「報告します、魔王様がキッシュに伝えた作戦の結果は可もなく不可もなくです。」
「え? どういうことですか?」
「はい、キッシュの火攻めに成功、しかし、町で魔物を追い返した亜人2名にキッシュは敗退。作戦は失敗です。
 ですが、キッシュのお供に付かせたキシュアが独断行動、闇の女王を使い、亜人の町を滅ぼし、亜人2名と数名の女性を捕獲したそうです」
「やはり、キシュアが動きましたか」
ココナが頷く、彼女も薄々気付いていたのだ、幾ら魔王の力に覚醒した彼女でも、彼女の姿そのものを、魔王と認められない者もいたのだ。
今は落ち着いていたが、唯一キシュアだけ、未だココナを魔王と認めていなかったのだ。
いずれ自分に反乱を起こすであろう思えたココナは、あえてキッシュのコマとして派遣し、動きを調べていたのだ。
「魔王様、キシュアをどういたします?」
「放っておきなさい」
「はあ?」
「放っておいて構いません、後、キッシュともう一人の女性部下に撤退を命じてください」
「しかし、それではキシュアを見殺しに・・・」
「すでにあの森に火攻めを起こした地点で魔王討伐を企む人間達の一部が火の上がった部分を調査しています。
 彼らと彼女達が力を合わされば、確実に3人ともやられてしまいます。
 執念の深いキシュアには、その犠牲になってもらいます」
なんて人だ、今作戦の始末を独断行動を起こした者に擦り付けるとは、兵を務める彼にとっては、とても考えられなかった。
確かにそうすれば、作戦を遂行したのはキシュアになるのだ。
「分かりました、キッシュ達に撤収命令を下します」
そう言って兵は身を引いた。
冷徹な作戦、それは覚醒したココナにとっての本能でもあった。 常識にとらわれない分、己の賢い考えが彼女を動かしているのだった。
「キシュアさん、ミリルさんを甘く見すぎです。
 ミリルさん、これで終らないでくださいね、私は、貴方と力試しがしたいのですから、
 今まで、自分の中にあるメタモルフォーゼを引き出せませんでしたけど、今は自分の力で出す事が出来る。
 それまで死なないで下さいね・・・ミリルさん あはは」
その笑い声は、まるでココナの裏の姿を見ているようだった。

舞台は再びミリルの方へ移る。
狭く薄暗い部屋でミリルは目を覚ました。
だが、両腕両足には、がっちり拘束具でつながれていた。
意識が朦朧とする中、誰かが目の前に立っていた。
「目が覚めたか」
「あんたは・・・キッシュ・・・生きていたの?」
「無論だ、あの刃物が刺さったとき、終わりかと思ったが運よく致命傷が外れていたのでな」
「チッ、ガレットの奴、しくじったな」
「さて、時間を取りたくないので手短に聞く」
「・・・・・・・」
「お前の力は何だ?あの時俺に向って使った瞬動術、だがあの速さは訓練している亜人でも出せぬ速さだ
貴様、何者だ、何処でその力を得た?」
ミリルは頑固としてその答えを言わなかった。
当然キッシュの握り拳がミリルを捕らえる、だがこの手の尋問は苦手としているのか、3、4発で止めた。
「あくまで口を開かないのなら、もう聞かん、だが、これだけは言わせろ」
ミリルは顔を濁らせたまま、キッシュの顔を見続ける。
「お前の力は"魔王"に似ている、形は違うがな」
「!?」
その言葉に動揺を隠せなかった。
それは、自分と同じ、本の世界なはずなのに、自分と同じ力(メタモルフォーゼ)を持つ者が居ると言う事だ。
そう言って部屋から去ろうとするキッシュ。
「待って!!魔王は何者なの?一体誰なの!!」
その言葉にキッシュはミリルだけに聞こえる声で、『アンダンテ・・・』そういって部屋から出てしまった。
アンダンテ、何処かで聞き覚えが・・・同時にココナの下の名前も気になった。
そう思っていると別の声が聞こえてきた、ルティである。
今のキッシュの台詞にも引っかかりを感じたミリルはその答えを得ようとした、しかし
「ミリル、大丈夫!!本に火攻めを受け、亜人の拳士は魔王の手先に捕らえられたって出たけど!!」
ルティが休憩しているときに本を覗いたのだ、そこに書かれている文を見て、慌ててルティが連絡を取ったのだ。
ルティの声と共に空間が作られる。
「よかった無事なのね」
「うん、ちょっち腹部が痛いけど」
「良かった、ねぇココナちゃんに会えた?」
「ううん、まだ」
「そう」
すこしがっかりするルティ。
「ねぇ、ルティちゃん」
「何?」
「ココナちゃんの下の名前って何だっけ?」
「ココナの下の名前?えっと・・・!?」
答えようとした瞬間、本を見たのか、急にルティが焦りだした。
「そんな、嘘!?」
「どうしたの?」
少し間が開いた後
「ごめん、ちょっとココナの下の名前忘れちゃった、今度調べるから、じゃあ頑張って・・・」
「ちょっと、ルティちゃん!!」
声は届かず、空間が元に戻る。 呆然とするミリルだった。

ルティが見たもの、それは本の内容だった。
魔王の手下の呟いた言葉、『アンダンテ・・・』それは、ココナの下の名前だった、そしてルティは悟った、ミリル達が倒そうとしているのは、
魔王ではなく、ココナだということを・・・そしてミリル達もまた、魔王がココナだということは、知る由もなかった

その13 せいばーさん

「・・・やばいんじゃないか?」
「えぇ、まさか魔王がココナだったなんて・・どうりで連絡がつかない筈だわ」
「なんでだ?」
「私が使ってた魔法はテレパティアの応用って言ったわよね」
「ああ、結構複雑な術式だった筈だが」
「そう、テレパティア自体は通信先の相手を想像するだけで連絡が取れるけど
相手が魔法具の中にいるって言うんなら話は別よ
相手が誰で何所にいるのかが正確に分からないと連絡が取れないの」
「成る程、だからココナって子と連絡が取れなかったのか」
「うん・・・でも何でココナは魔王なんかに・・・」
「さぁな・・ココナって子は本の中に入る前に何をやってた?」
「え・・・?え〜と確か本を読んでたと思う、アレは多分冒険小説じゃないかな?勇者が魔王を倒すってカンジの」
「それだな、この魔本の中の世界は最初に入った奴の心理状況に影響を受ける
ココナはその中のキャラクターに何らかの感情を抱いていたに違いない」
「へぇ〜、面倒臭いシステムにしたわね〜」
「うん、作ってた時暇だったからな」
「暇だったってアンタ・・あの時期確かとんでもない量のレポートが出てたと思うけど」
「・・・」
「あのレポート確か期限内に出せてなかったと思うけど」
「・・・言うな・・・」

〜ミリルサイド〜

「もぉ〜、ルティちゃん何なのさぁ〜」
ミリルはハァと一つため息をつく
「なんだ、不機嫌そうじゃないか、ん?」
ゆっくりとキシュアが近づいてくる
「アンタが司令塔?まさか魔王とか?」
「馬鹿を言うな、あんな子供と一緒にするでない」
キシュアは怪訝そうに言う
「(子供・・?)」
「ふん、まぁいいそれより・・何故貴様ら我々にたてつく?」「何故って・・アンタ達に仲間をやられたからよ」
「ほう、そうか・・・ところで・・我々の仲間になる気はないか?」
「無い」
即答
「・・・・」
「それよりガレットとシリルは何所?」
「別室だ一緒が良いか?」
「その方が脱走がしやすい」
「・・・オイ他の奴らも此処へ」
「ハッ」


「大丈夫?二人とも?」
「大丈夫だが現状は良いとは言えんな」
「私凄くお尻触られたです・・・」
「・・・随分とリラックスしてるじゃないか」
三人はキシュアの事は無視し逃げる算段をしている
「・・・オイ」
「ハッ、何でしょう」
「下がれ、良いと言うまで入るな」
「了解しました」
「オイ貴様ら」
「いや、やっぱり俺が・・」
「やっぱりみーちゃんが・・」
「でしょ?そこは私がやって・・」
「いい加減にしろお前等ーーーーーー!!!!!!!」
「「「!」」」
「もういい!!お前等全員強制的に仲間にしてやる!!」
「なんだ洗脳でもする気か?なら無駄だぜ?
三人ともプロテクトが掛かってるから」
「あの時やっといて良かったね〜」
「実はこんな事もあろうかと前にやっておいたのですよ」
「いや洗脳なんて無粋な真似はせん」
「・・・まさか」
「なんだ?心当たりでもあるのか?」
「いや・・今までの経験上この展開は・・・」
「ですねぇ、作者さんの趣向もそうですし・・」
「作者って誰だよ、危ない発言は止せ」
「フッ・・原始の王メデゥールよ、降臨せよ、
汝の両手は無数の毒牙なり、エルフィラス・エリオーラ!」
フォォォォォ・・・
魔法の発動と共に床から無数の触手が出現する
「・・・コレがお前の経験か?」
「・・うん」
「さぁ快楽に悶え苦しむが良い」
「ち、ちょっと待て!俺もか!?」
「む?不満か?」
「不満も何も有るか!」
「ふむ・・・ならば、夢の女王イプシムよ、召還せよ、
汝の僕(しもべ)は、魂の寄り代なり、コルトレア・イプシロン!」
ズォォォォ・・
ガレットの体が青白くひかり始める
「なっ・・・」
「ガレット!?」
「心配するな魂を別の器に入れ替えるだけだ、元の体はしっかりと保存させてもらう、返す時は我々の味方についたときだな」
ガレットから青白い球体が出てくるコレがガレットの魂だろうか
その魂が体から離れるとガレットの体はガックリとうなだれる
「さ〜て新しい器はどれにするか・・よしコレにするか」
赤いショートヘア、豊満な胸、そんな誰もが見とれてしまうような女性の肉体が魔方陣から現れる
その器にガレットの魂を押し込んだ
「・・・ん?」
「どうだ?新しい体は?」
「・・・うぉぉぉぉ!!!???」
「まぁ、そんな訳で、楽しんじゃってくださいw」
そう言うとキシュアは牢屋から去っていった
それと同時に無数の触手が三人に迫り来る

その14 ゲイトさん

触手が群がる部屋を後にしたキシュア、扉の背後では、2人の喘ぎ声と、1人拒むような声が聞こえる。

「どこまで持つか…楽しみだ」
キシュアが扉越しに聞こえる声にクスクスと笑い出す。
「…これがお前の楽しみか、相変わらず反吐が出る」
触手や魔獣、いたるところで聞こえる女性護人達の声、おそらくスライム等に犯らせているのだろう。
正統派のキッシュにとっては気分が悪くなるような光景だ。
「そういうな、こうして快楽を味あわせ、おねだりし始めるころには純粋な性ドレ…いや部下として扱えるのさ」
フンと鼻で笑うキッシュ。
「さて、今度はキッシュ達だ、お前らは俺の仲間になるか、なるなら一人ぐらい女性を恵んでやっても良いぞ?」
「……それも悪くないな」
キッシュの近くにいた女性も驚いた。
先ほど、キッシュの報告を伝えていた女性である。
「そうか、ククク、なら約束だ、誰を頂く?」
「いや、女はまた今度選ばせてもらう、俺は用事があるから用があれば呼んでくれ」
そう言って、キッシュ達は奥へ進んでしまった。
『チッ詰まらん奴』
そう言い捨てると、ミリル達のいる牢屋を覗く、そこには触手に弄られ、感じ始めているミリルとシリルの姿があった。
女に器を変えたガレットの方は、初めて感じる快楽だったのかもう既に倒れて気絶しているようだった。
耳を済ませると、ミリルの高い喘ぎ声とシリルの小さく、控えめな喘ぎ声も聞こえる。
よく見ると二人とも秘部が大分出来上がって来ている、方や、拘束具でとめられつつも疼く下半身を何とかしたいと足をもじもじさせている
一方のシリルも同じように下半身をもじらせている、だが、シリルとは違い、拘束具で止められては居ないのだが、両腕を触手で抑えられ、秘部に触れられないようにしている。
2人はこの触手の攻めに屈しまいと甘える声は出さない。
寧ろ喘ぐ声ばかりで、なかなかねだらない。
だが、その様子がキシュアに更なる興奮を与えた。
触手も秘部を攻めるようなそぶりを見せるがそこを攻めず焦らし続ける。
それがキシュアのやり方なのだ。
彼女たちが完全におねだりした瞬間にそこを責め、自分に屈するのを狙っている、ほかの女性たちも同じだ、そうしてイかせてほしいと泣くのを待っているのだ。
「あの2人が一番早くに泣くかと思ったが意外に粘るな、まぁゆっくり調教すれば、いずれねだるだろう、ねだる表情が楽しみだ」
扉の前で、手に顔を当て、クスクス笑うキシュアだった。

その頃、キシュアの仲間入りをあっさり受け入れたキッシュ達は、廊下を抜け、廃屋の地下から抜けた所にいた。
「本気でいっているの、キッシュ様」
キッシュについてきた女性がキッシュに問い詰める。
キッシュ程の男がキシュアの下に付くのが、どうしても納得できなかったのだ。
キッシュは回りに誰も居ないことを確認して、ゆっくり口を開いた。
「ハッタリだ…」
「え?」
「ハッタリだよ、俺があんな奴の下に付くはずがあるか、俺の指揮を横取りしていきがりやがって」
「では、何故あんなことを?」
「油断…かな、それより、撤退命令が来ているのだな?」
「え? あ、はい、まもなくここに、人間達、つまり魔王を倒すべく雇われた傭兵と救護兵がこちらに向かっているとの事です」
「…そうか、キシュアももう終わりだな、あの3人と傭兵達が揃えば幾ら召喚士でも厳しい、俺達はその火種が納まったところでキシュアを殺すわけか」
「そんなところでしょう、魔王様も、貴方の得た情報をほしがっています」
「わかった一度城へ戻ろう」
女性が転位呪文を唱え始める、この女性も、魔王の部下なのだが、唯一魔王ですら、名前を知らない存在なのだ。
転位呪文が発動する少し前だった、地下の方を向いて何かを語りだす、それはミリルに対してだった。
「お前の力は魔王の力に近い、だが何かが違う、それは何なのか俺には分からない、だが、叶うのなら、もう一度お前とは牙を向けて見たい。
それまで死ぬなよ、キシュアのいいようになるなよ」
そう言って2人はその場から姿を消した。

尚も犯され続ける女性の護人達とミリル達、そんな中、一人の護人には、誰よりも、恐ろしい程の憎悪が蠢いていた。
まるで、自分がどうなってもいい、幼馴染を殺した奴をこの手で殺さなければ気が済まない。
「あの先にあるぼろいところです、あそこのどこかに奴らがいるでしょう」
ト−ンの低い声、その主は、ユリアだった。
彼女は唯一キシュアに連れてかれなかった護人だったのだ、
事の事態に気付いたファリンが最後の力を使って耐性魔法をユリアにかけたのだ。
その後、スライム達が押し寄せて来たが、うまく自分の身を隠し、やり過ごしていたのだ。
だが、その行動と、耐性魔法を受けた代償は大きかった。
自分の身を守ってくれた代わりにファリンは、命を落とす事になってしまったのだ。
ファリンに涙を溜めるユリア、そんな時に、傭兵団がエーリ村に着いたのだ。
人間と共に戦うのは彼女等にとって苦だったが、奴等と戦えると聴いた瞬間、自分の中に憎悪が目覚めた。
ユリアは即座に立ち上がり、ファリンの弓を持って共に廃屋へ向かう事にしたのだ。
だが、今のユリアの目は、我を失い、ただ仇に執着する復讐者となっていた。
『待っててねファリン、貴女を救えなかった分、あいつらの血を手土産にそっちへ行くから…』
ファリンを、救えなかった気持ちが今のユリアを変貌させていってしまっていた。

その15 せいばーさん

「む・・・?」
ガレットが目を覚ます
「うっ・・くぅ・・」
「ふぁ・・ふぅ・・・」
隣ではミリルとシリルが堕ちまいと必死に快楽の渦から逃げようとしている
しかし現実は厳しく、二人ともかなり参ってきている
目の焦点は合っておらず、ガレットが起きた事にも気が付かない様だった
「うわ〜こうして見ると何だか申し訳ない気分・・」
ルティにした行為について罪悪感が沸いたのか顔を濁らせる
「って・・俺も人の心配してる場合じゃないな・・」
目の前に十数体の触手が現れる
ガレットの胸と下腹部に触手が群がる
「くぅ・・この・・離れっろ・・」
ガレットが勝気な女性の声で拒絶の意思を放つ
しかし、それとは逆に秘所は歓喜の水を零す
「はぁ・・く・・あっ・」
「フン、体は正直だな?」
「・・キシュア・・くぅっ」
不意にキシュアが現れる
「どうだ?新しい器は、なんならずっとこのままでも良いぞ?」
「冗談・・さっさと俺の体返せよこのクソ野郎」
「ふむ、まだ減らず口を叩ける元気が有ったか(パチン」
「!!!くっ・・ぁこ・・の」
キシュアが指を鳴らすと触手の動きが激しくなる
そう、焦らす様に、堕ちるのを待ち望むかの様に、
ガレットの魂は、確実に快楽の落とし穴へと足を進めていた

〜ルティサイド〜

「終わった〜!!」
「・・・マジか?」
ルティは大量のレポート用紙を抱えてミキヤの元へ歩く
ドサッ
「お前・・コレ一冊でも俺一週間掛かったんだが・・」
「そう、簡単だったけど?てゆーかコレ貴方の専門外じゃない?この本、古代ルミニア語よ?」
「ああ、本部(古代文明解析センター上層部)も人手が足りないみたいでね、
古代ソニア語を専攻してた俺にも仕事が回ってきた訳だ」
ルティが住む島とは少し離れた所にある島に古代文明を研究する施設がある
ミキヤはそこの古代ソニア語碑文解析部の研究主任をしていた
「いやぁ〜しっかしルティが手伝ってくれて助かった!有り難う!!」
そのままルティにハグしようとするが
ドカッ
「・・・いきなり何するのよ」
「いやぁこのままベッドに拉致ろうかと」
顔面にルティの靴の跡をつける事となった
「・・・で条件を果たしたわけだけど」
「ああ、彼女達を助ける方法は二つある」
「うん、で?」
「一つは彼女達を無理矢理本の中から出す方法だ
この方法は確実に彼女達を助ける事が出来るが、本の中の状況がフィードバックされて危険だ
魔王のココナちゃんだって魔王になったからにはそれなりの理由がある筈だ、それを解決しない事には出すわけにもいかない」
「二つ目は?」
「ちゃんと話すからそんなに急かすな、二つ目はミリルちゃん達がこの本をクリアする方法だ」
「そんなのこちら側としては何もする事が無いんじゃない?」
「いや、ある、戦闘に長けた者が本の中に入りミリルちゃん達を助ける、強大な戦力を用いてな」
「そんな事が可能なの?」
「なに言ってんだ、俺はこの本の作者だぞ?ゲームマスターだ
ちょっと強引な術を使うが一気にミリルちゃん達と合流出来る上に力も凄まじい、だが危険もあるコレだって年季が入ってるから何らかのバグがあってもおかしくない」
「本が術の付加に耐えられないって事?」
「そう、もしかしたら本自体が壊れるかもしれない
そうしたら何もかも終わりだ、それでもやるか?」
ミキヤはいつに無く真剣な顔をする
当たり前だ、いくら悪戯大好きのオッサンでも人の命が掛かってるのだ
ここで冗談を咬ますものならばミキヤは今頃血まみれだ
「やるかって・・やるしかないでしょ?」
「よし!そうと決まったら準備だ!今夜は徹夜だぞ!」
「おー!」

その16 せいばーさん

「キッシューっ!オイ!何所だー!?」
キシュアは今後の作戦を練る為キッシュを探していた
「まったく・・こんな時に・・」
見つかる筈もない、この時、キッシュは自分の部下と共に逃げた後だったのだ
「しょうがない・・奴らの様子でも見に行くか」
コツコツコツ・・ギィ・・
「・・ふぅ・・あ・・」
「・・キシュ・・ア?」
シリルは気を失っているのかぐったりとしている
ミリルは意識は有るものの理性もあと蜘蛛の糸一本と言った所か
まともに反応しているのはガレットのみだった
「クク・・大分出来上がっているな
どうだ?仲間になる気は有るか?」
キシュアは笑いながら問う
「俺・・は・・・ならねぇぞ・・誰が・・テメェ等・・の仲間に・・」
「・・・」
キシュアがミリルの元に近づく
「お前はどうだ?」
キシュアがそっとミリルの乳首をなぞった
「ふぁっあああああ!!」
「どうだ?イケそうでイケない生き殺しの状況・・
楽しんでくれたか?」
その時、ミリルを繋ぎとめていた一本の糸が
「イカ・・せて」
「ミリル!止せ!」
「(きた!)ん〜?聞こえないな・・もっとよく言ってくれないと・・」
切れた
「い・・イカせてよぉ!もぅ・・もう我慢できないぃ!」
キシュアは不気味に笑うとポケットから鍵を取り出し
ミリルの股間に着けられている貞操帯を外した
カチャ・・カキン
「ミリル!しっかりしろ!」
ガレットが残り少ない体力を振り絞り叫ぶ
「ごめん・・ワ・・タシ・・もう・・耐えられ・・ないの・・」
その表情は虚ろだ
「ふふ・・じゃぁお望みどうりイカせてやろう・・(パチン!)」
キシュアが指を鳴らすとミリルの股間に何本もの触手が群がる
「あっああっ!イイィ!いいよぉ!」
ミリルは触手の責めによがる
「ミリル・・」
「ふふ・・ガレット・・と言ったか?」
「俺の名を気安く呼ぶな!さっさとアレを止めろ!!」
視線で触手を指す
「それは出来ない・・コレは彼女の願いなのだからな
私としてはそれを反故にすることは出来んなぁ
・・それよりも・・このミリルと言う娘、魔王と似た力を持っている様だ」
「何・・?」
ガレットは首を傾げる
ミリルと同じ力を持っていると言う事は同じ亜人種と言うことだろうか
「その力、利用させてもらう・・」
キシュアは杖を構える
「待て!何をする気だ!」
「なぁに、彼女の中に潜むバケモノを呼び出すだけさ
・・もっともやった結果彼女の体がどうなるかは分からんがな・・、少し難しそうだが私に掛かればどうって事はない」
ガレットの顔が青くなる
「ふふ・・、時空の担い手シェルヴォールよ、降霊せよ
降臨せし異形は、彼の内に有り」
「・・・?」
ミリルは自分の体の変化に気付いたのか閉じていた目を開ける
バキ!ゴキ、ゴキン!
「・・ぁああああああああああああ!!!!!!!!!」
ミリルは必死にこの苦しみから逃れようともがく
「ミリル!」
「・・・ん?みー・・ちゃん?・・みーちゃん!」
シリルも起きた様だ
ミリルの異変に気付きミリルの名前を叫ぶ
「くくく・・さぁ!その内に秘めし者を蘇らせろ!」
「ヴェル・カントォス・ヴェラークス」
バキィィン!!
「らぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「(バキィ!)が・・っ!」
「さっさと術を解け!」
キシュアは何が起きたのか理解出来なかった
ガレットはかなり強引に肉体強化呪文を唱え、拘束を打ち破ってキシュアを殴ったのだ
「貴様・・っ!やってくれたな!もう後戻り出来んぞ!」
「何?」
「今お前のせいで術が不完全なまま終わってしまった!
これでは奴の制御が出来ん!」
「・・・っ!」
「お前が何もせずに大人しくしていれば本体と怪物を分離する事が出来たのに・・」
「がぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ミリルが普段からは想像も出来ない様な声を上げる
体には既に変化が現れており全身から白くしなやかな毛が生え、確実に異形のソレへと変化しつつあった
「みーちゃん・・?」
シリルは恐怖に怯える
「くっ・・」
フォォォォ・・バシュゥゥン!!!!!
「な・・・っ!」
一瞬光が部屋を覆う

今自分のした行為の大きさに気付いた
『後戻りは出来ない』その言葉の意味が今分かった
ガレットとシリルが目にしたもの、それは
「フッー・・フッー・・」

    禍々しい、しかし、神々しいとさえ感じさせる
    赤い目をした大きな九尾の狐だった

その17 ゲイトさん

九尾の狐が現れたと同時に、ルティ達の手元にあった、本にも異常が見られた。
本に煙が出始め、焦げ臭い匂いも漂う。
「どうしたのかしら?」
ルティが本の異変に気付く、ミキアの仕事を手伝っているため、休憩以外は本の内容を除く事は無かったが、流石に煙も上がっていれば気になってしまってしょうがない。
まさか、ミキアが何かをしているのではと言う疑問も出てきたが、その近くにミキアは居ない。
絶え間なく吹き出る煙が気になったルティは本に近寄り、そっと手を触れる。
「熱っ!?」
驚きを隠せなかった、本にはとてつもなく熱いのだ。
まるで、本自体に熱がこもっているかのように。
「ルティ、なぁ〜にしているぅ〜ん・・・だ?」
ミキアも本の様子に固まる、一秒過ぎたあたりでミキアが怒りだした。
「ルティ、お前、何をした!!」
「えっきゃっ・・・」
ルティを振り払うと本を見つめるミキア、同時に顔に焦りが見え始めた。
「limit of a magical power・・・(魔力の限界・・・)」
「え?」
「本自体が、本の中に目覚めた魔力を抑えられなくなっている」
「どういうことよ!!」
「どうこうもあるか!!、本自体が魔力を抑えられないんだ、このままだと、本の中に潜った奴等はこの本と共に灰になるぞ!!」
「そんな、なんでそんな魔力が目覚めるの?」
「俺が知るか、考えられるのは、入った奴等の誰かが、この本じゃ抑えられない魔力が発生しているってことだ」
ミキアの焦りが止まらない、無理も無い、ルティにあれだけの作業をさせて自分が失敗すれば元のこうもない。
だが、この現象は外部からでは何もできないのだ、本の中で起きている出来事を誰かが鎮圧させるのを願うしかないのだ。
「おい、ミリルって奴とは連絡がとれるのだろう、やってみろ!!」
「えっでも・・・」
「馬鹿野郎、お前の友が帰って来れなくても良いのか!!」
「!?」
身震いをしたルティは直にミリルにテレパティアを使用したが・・・
「きゃっ!?」
急に魔力が逆流したのだ、その反動は当然ルティが受けることになった。
「ルティ、しっかりしろ、ルティ!!
 駄目だ、気を失ってる、魔力が逆流したって事は、テレパティア以上の魔力が中で働いているのか。
 このままだと、本が燃えちまう!!」
焦りだす、ミキア、だが、ミキアでも何もできないのだ、ただただ、煙を吹く本を見ているしかなかったのだ。

一方、本の世界では、突如現れた九尾の狐に皆、目を奪われていた。
誰もがその姿の威圧に耐え切れないだろう、まるで時が止まったかの用に誰も動かない。
ゆっくりと狐が動き出す、牢の中でうごめく触手達がそれを抑えようとする。
逆鱗に触れなかっただけマシと言えよう。
触手がそれの皮膚に触れた瞬間、爪が触手の根元を引き裂く、生え直す事はなかった。
「みーちゃん」
シリルがそれの名前を呼ぶ、だが彼女にはその声は届く事は無かった。
我、目覚めさせた者を赤眼で見つめている、当のキシュアは震えが止まらないでいた。
彼女には魔王と同じ力を持っていると言うキッシュの話を盗み聞きしていたキシュア、
その力を我が手で操れれば、あの小娘も凌駕出来るとでも思ったのだろう。
だが、結果はこれだ、ガレットの妨害で不完全に終わり、引き出されていたメタモルフォーゼの魔力がミリルに跳ね返ったのだ。
その魔力を抑えられないミリルは、人としての姿では保っておられなくなってしまったのだ。
流れるメタモルフォーゼの魔力はミリル一人では抑える事が出来ず、この姿になってしまったのだ。
一歩一歩、それはキシュアに近づく、恐らく、キシュアは、彼女の逆鱗に触れてしまったのだろう、次の瞬間、それの目から赤い光線が放たれた。
一瞬の出来事だった、色んな魔獣、幻獣、淫獣を見てきたキシュアでも背筋が凍りついた。
キシュアの顔スレスレに光線が当たったのだ、その威力は言うまでもない。
「ひっ」
狐はキシュアに向って突っ込む、完全に怯えきったキシュアは、逃げ出した。狐はキシュアの居た所へ体をぶつける。
ぎりぎりを交わしたキシュアは、自分では抑えられないと悟り、自室へ逃げた。
一方の狐は、首を左右に振り、視界を戻す、目の前には、ガレット、シリルの姿があった。
彼女には、それがガレットとシリルと思う事は無いだろう、自我は魔力で押さえつけられ、今や魔力のみが放出する暴走獣だ。
その時だった。
「うわっ、なんだこいつは!?」
青年風の男が、大きな剣を抱えて、それの背後にやってきたのだ。
傭兵団たちが乗り込んだのである、彼らの手によって一部の人々は解放された。
他の者も助けようと先陣きっていた彼がそれに遭遇したのだ。
その声に彼女も、その男を見る。
震えつつも、青年は剣を抜き、それと向き合う。
「俺だって、魔王を倒すって誓ったんだ、魔王の手先に負けるわけには行かないんだ!!」
「馬鹿、止せ!!」
「うおおぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!!」
ガレットの声も空しく、青年はそれに向っていく、彼女は青年を威嚇する。
その勢いに圧倒され、竦みあがる、その一秒と持たない速度で右に飛ばされる。
右腕が青年を捉え、そのまま右の壁にめり込ませる。
頭部から血が流れ、意識を失っている、狐の暴走は留まる事を知らず、壁や空を斬る。
その爪は壁に傷跡を残すほどだ。
「みーちゃん」
「おい、俺におぶされ、離れるぞ」
「駄目だよ、みーちゃんは苦しんでる」
「だからってここに立ってたらお前の姉貴に潰されるぞ」
「嫌だよ、みーちゃん置いてなんて行けないよ、みーちゃん!!」
シリルの声をしきりに出す、だが狐はそんな声に耳を傾けず、その場で暴れまわっている。
やがて、その腕は妹にまで飛び掛って来た。
「あぶねえ!!」
ガレットは無理やりシリルを担ぐと、その場を避ける。
他の傭兵団達が、この狐に気付かないでほしい事を願った。
仕切りにミリルの名前を呼ぶシリル、その姿にガレットはある賭けに出た。
「クソ、シリル、俺が逃げ回るから、ミリルに声を掛け続けろ、無視されようがなんだろうが諦めるんじゃねぇぞ!!」
「うっうん」
そういうと、ガレットの中にあった能力を使い俊敏性を強めた。
『持ってくれよ、お人形さんよ、じゃないと俺はこの体でくたばっちまう事になるからよ』
シリルを担ぎ直すと、彼女との持久戦に入る、疲れを知らないそれに勝つことが出来るのか。
だが、この時、一人の復讐者が、キシュアの自室に向っている事に、誰も気付かなかった。

その18 せいばーさん

ドォォン!!
「くっ・・このっ!」
「きゃあ!」
「ガァァァァアァァァァアアアアアッ!!!!!!!!」
九尾からの攻撃を避けるガレット
強引に掛けた肉体強化呪文は確実にガレットの意識と体力を奪って行く
「(ヤバイな・・後5分ってとこか)」
「大丈夫ですか?」
露骨に苦しそうなガレットを見てシリルが声を掛ける
「大丈夫・・だっ!」
息を切らしながら言うガレット
「・・ガレットさん」
「何だ?心配ならいいか・・」
「ガレットさんの体を探しましょう」
「そんなの仮に見つかったとしてもどうやって・・ッ!」
「呪文なら私が覚えてます!そんな体じゃ長続きしません!それはガレットさんが一番分かってるはずです!」
「・・・っ」
確かに、この体じゃ後5分も経たずに九尾に殺されかねない
「・・分かった、行くぞ!」
ガレットとミリルは九尾から離れガレットの体を捜しに行く
しかしその行為を九尾が許す訳がない
「グヮァァァァァァァアアアアア!!!!!!」
ザシュッ!
「グゥッ!」
爪がガレットの体を掠める
「ガレットさん!?」
「大丈夫だ!取り合えず部屋からは出た!・・って部屋多いな・・」
「手当たり次第調べましょう!ミリルさんも今は追って来れないみたいです!」
九尾はその大きさ故に部屋から出れずにいる
「よし!シリルは右!俺は左だ!」
「ハイ!」

〜ユリアサイド〜

ゾクリ
「何・・?この魔力・・?」
ユリアは村の方向から発せられる膨大な魔力に気圧される
「何してる?行くぞ」
「あっ・・ハイ」
ユリアは不安な気持ちを抑える事が出来ない
その不安は的中する
「隊長!大変です!で・・でかい狐が先遣隊を壊滅させました!」
「何!?」
「どうなってる!?そんなバケモノがいるなんて聞いてないぞ!」
「取り合えず行くぞ!この程度で屈するな!」
「そうだ・・、私はこんな所で止まってる場合じゃない・・
ファリン・・待っててね・・仇は討つから・・」

〜ルティサイド〜

「う・・ん・・」
「気付いたか、寝起きのところ悪いが本題に入ってもらう」
「って!私何分寝てた!?」
「ざっと10分だ、本の状態は相変わらず」
ルティが魔法の反動で気絶してから10分
ミキヤは自分なりに手を尽くしたがどれも効果は無かった
「で・・術の方は?」
「70%が完了した、だがこんな状態であんな無茶な魔力行使をしたらそれこそ本を燃やしかねん」
「そう・・」
時間は早朝4時35分、まだ外は暗い
「こんな時に何だけど・・眼鏡さっきと違わない?」
ミキヤは先程まで黄色と黒の眼鏡を掛けていたが
今は黒のアンダーリムタイプの眼鏡を掛けていた
「ああ、気分だ、因みに俺は眼鏡を10個持っている」
「何で・・?」
ルティは少し引き気味に聞く
「引くなよ・・、まぁ・・なんでと言われてもな・・
趣味?」
「何故同意を求める、てゆーかなんつー趣味してんのよ」
「うるせー、人の趣味に口出すな」
「まさか、日替わりなの?」
「それが何か?作者だってそうだぞ」
「作者って誰よ」
「ん?俺なんか言ったか?」

その19 ゲイトさん

ルティのいざこざはさておき。
舞台は再び本の中へ。
ガレットと別れ、ガレットの本体を探しまわる、シリル。
だが、どの部屋にも、何も無かった。
おそらく、囚われていた者が逃げた後なのだろう。
嫌なにおいが部屋の中で残っている。
『ここでもないとしたら後は・・・』
まだ一つ入っていない部屋があったが、唯一鍵穴が付いているのだ。
どの道、鍵が掛かっていようが居まいがまだあけようともしてない扉だ、もしかしたら開くかもしれない。
シリルはその気持ちを信じてその扉のドアノブを捻る。
ガチャリと音を立てて、扉は開いた。
ゆっくり開いていく扉の先には、動く事のできない赤い髪をした、人の抜け殻があった。
ガレットの体である。
「みつけた!」
そう思ってガレットの体に向って走る、次の瞬間だった。
いきなり、右側の壁が崩れた。
現れたのは、九尾の狐・・・ミリルだった。
「みーちゃん!?」
なんと言うことか、ミリルは、自分の居た部屋から、薄い壁を見つけ、自分の力でぶち壊し先へと進んでいたのだ。
そして、丁度シリルのいた部屋に到達したのだ。
「ウウウゥゥゥ・・・ガァ!!」
「きゃっ」
シリルはミリルの腕をもろに受ける、そのまま、壁に押し付けられた。
「うう、みーちゃ・・・くっ苦しいよぉ・・・」
九尾の爪と爪の間に丁度シリルの体が入ったのだ。
爪は壁に食い込んでおり、そのままシリルを押しつぶそうとする。
シリルは、なんとか九尾の手を引き離そうとするが、容赦の無い力でピクリとも動かない。
「みーちゃ・・・」
意識が朦朧としてくる中、ミリルは容赦なく手を壁に押し込む、そのときだった。
「これは・・・」
「サモナー(召喚士)、下がれこいつがさっき先遣隊の言っていた狐だ!!」
サモナーと呼ばれた人物と、もう一人の傭兵がシリル達のいる部屋にたどり着いたのだ。
「くそ、こいつは俺が・・・」
「待ちなさい、彼女は・・・苦しんでいる、無理やり引き出された力に振り回されているだけです」
「なんだって!!」
サモナーと呼ばれた人物はこの狐が何故こうなったのかを読み取った。
一部の召喚士は、呼び出す者の気持ちや心が通じ合わなければ召喚することはできない。
彼は、それを応用し、彼女が何者なのかを確かめるために九尾に心で会話をしたのだ。
「苦しんでいるってどういうことだ?」
「魔力を自分に押し付けられ、自我を縛られ、苦しんでいるのですよ、
私が心に声をかけたら苦しいそうな声で"タスケテ、タスケテ"と」
「だがどうするんだよ、こんだけの大きさじゃ時間稼ぎも難しいぞ」
「むっ?」
サモナーがシリルの存在に気付いた。
「貴方は壁に伸びている腕を一度だけ斬りつけてください、斬り落としてはなりません」
「分かった」
サモナーの言うとおり、剣で九尾の腕を切りつける、突然の刃物の通過に思わず腕を振り回す九尾。
その拍子に壁に飲まれてたシリルがそのまま落ちてくる。
それをサモナーが受け止めた。
「あっ貴方は・・・」
「紹介は後で、まずは貴方のお姉さんを助けましょう」
サモナーはゆっくりシリルをおろすと、サモナーと一緒に来ていた傭兵に指示を出した。
「貴方は団長に伝えて、例の亜人2名を発見したと、後、狐はサモナーが鎮めたと」
「どういうことだ?」
「説明している暇はありません、さぁ早く、私の言った事をそのまま伝えるのです。
妙な事を言って彼らをここに連れてこないように」
サモナーがそういうと、傭兵はサモナーに"了解"と声を出し、その部屋を脱する。
九尾は今も痛みと苦痛に暴れまわっている。
「貴方は姉妹ですね、そしてあの狐が貴方の姉で間違いはないですね?」
「みぃ!?どうしてそこまで分かるの?」
「分かりますよ、貴方は聞こえてたのではないのですか?彼女の苦しみの声が、
その助けてと言う声は貴方に向けられていた」
全てを正確にあてるサモナー、まるで預言者だとシリルは思った。
「さぁ、貴方のお姉さんを助けましょう、お姉さんに取り巻く魔力を鎮めて再び彼女の中に収めましょう、
封魔は私が勤めますから、貴方はあの狐に・・・いやお姉さんに声をかけ続けて、彼女に意志を持たせて!!」

一方その頃、ガレットの方は、しらみつぶしに部屋を探し回った。
「くそ、みつからねぇ、何処にあるんだ」
最後の角を曲がろうとしたとき、足が止まり直に角の陰に隠れた。
その先には複数人の武器を持った人間と一人の護人の姿があった。
「あいつは確か、ファリンの幼馴染だとか言う奴の・・・」
角から様子を見るガレット。

ユリアサイド
「どうやらここにお前の村を燃やした奴が居るようだな」
「何か思い悩んでいるようですけど・・・」
傭兵団が中の様子を探る、そんな様子を他所にユリアは前に進む。
「おっおい、今押し込んだらバレるぞ」
「構いませんよ、あなた方は九尾の相手をしに行ったらどうでしょうか?」
「何?」
「奴は私の仇討ち、私が殺ります」
「それはできない、幾らお前が仇を討ちたいからと言って一人で行かせるわけには・・・ぐっ」
「邪魔です」
ユリアは満面の笑顔で、ユリアを止めていた人間の心臓を剣で一突きにする。すでにユリアの目に正気は無かった。
いきなりの行動に、周りの傭兵も驚きを隠せない。
だが、ユリアはそれだけでは止まらなかった。
「邪魔、邪魔邪魔じゃまじゃまじゃま・・・・・!!」
その言葉を発しながら周りに居た人間達を次々と殺していく。
角で覗いていたガレットも思わず口を押さえた。
「あれは私が倒すの、他の誰にも邪魔をさせない、ファリンの味わった苦しみを、アイツにも、フフフ」
全ての人を殺し、周りの残骸を意ともせず中へ入っていくユリア、数分後、部屋の中で叫び声と、その叫びを喜ぶ声が響き渡った。
「チッ、あんなの放って置いたら自分を滅ぼすぞ、止めないと、もう俺の体を動向言ってる場合じゃない、
俺の命が尽きてもアイツを止めないと・・・」
ガレットの心の中から、アイツを俺と同じにしてはいけないと直接頭に響き渡る。
彼もそうだったのだ、ある組織に所属していたとき、憎しみのあまり、人を直に殺すのでは無く、男は命が立つ寸前まで痛めつけ、女性は自分が死にたいと思うまで侮辱を繰り返すあの時の自分と。
『あんたに教わった事を今実践して見せてやるぜ』
即座にユリアの入った部屋にガレットも入った。

その20 せいばーさん

「くそっ・・どうするどうするどうする!」
今の状況にキシュアは頭を抱える
下手をすると四大聖獣クラスの能力を持つ暴走した九尾
連絡の取れないキッシュとその部下
迫り来る自らを殺めんとす人間達
「・・・っ!」
キシュアは気づく
この出来すぎた状況
孤立した自分
「まさか・・、嵌められた・・・?」
背筋に冷たいものが走る
「クソッ!あの小娘・・っ!」
キシュアは部屋から出ようとする、そこに
「あら、何所に行くの?私の敵さん?(ザシュッ」
一本の剣がキシュアを貫いた
「がっ・・ごふ・・き・・さ・・・ま・・」
「まだ死んじゃ駄目よ?貴女には苦しんで貰わないと・・(ゴキッ、ベキ」
「グゥッ・・は・・ぁ・・」
「オイ!止めろ!それ以上やるな!」
ユリアに遅れる事数秒、ガレットが部屋に入る
「貴女は誰?部隊に貴女の様な女性は居なかったと思うけど」
「誰でもいい!それよりもう止めるんだ!キシュアはもう死んでいる!」
キシュアは腹に剣が刺さったまま息絶えていた
「なんだ、もう死んじゃったの、つまんないなぁ
まぁいいや、誰だったのか判らない位滅多刺しにしてあげる」
「ユリア!」
「・・・アナタさっキかラうるサイ、コロスよ?」
「・・・っ!」
それはこれまでに感じた事のない位の殺気だった
「いいワ、そンナニ死にたイなら、殺シてあげル」
「ヴェラークス・エルデキム・テルエスティーナ!(強化、3倍、神速移動!)」
ブォンッ!
「!、消え・・(ドンッ!)・・ぐ・・」
手刀一閃、ガレットの一撃がユリアの延髄を捉える
「ふぅ・・(ドクン!)!!!!!!!」
ドサッ・・パシャ
「ごふぅ・・クソ、・・もう・・限界・・?
さっきのは・・やりすぎたか・・っ!」
ガレットの口から血が吐き出される。もう一人では立てない様だ
「ミリル・・・」
ガレットの意識は途切れた

〜シリルサイド〜

サモナーが呪文を唱えると九尾の周りに魔方陣が現れ
そこから幾つもの光の触手が出現し九尾を捕らえる
「グワァァァァア!ガァ!」
「みーちゃん!頑張って!」
「夢の女王イプシムよ、降臨し、宥め、抑止し、彼の物を沈めよ
それを封じ彼の内に収めよ
汝の抱擁は、安楽の揺り籠なり、イプリム・エルフェルト!」
九尾の動きを抑制していた魔方陣とは別の魔方陣が現れ
それが一斉に眩い光を発する
「ギャォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!」
「みーちゃん!」

   クルシイ
        ツライ
シリルが私を呼んでいる
 カナシイ
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!
            コンナコトシタクナイ
ガレットに爪が当たった
                 ヤメテ
     キズツケナイデ
              コレイジョウアバレナイデ
   ワタシヲコワサナイデ
シリルとガレットがいる
 ニゲテ
              キズツケタクナイ
   ソウ
              ワタシカラハナレテ
        イタイ
  ダレカキタ  
            シラナイヒト
      ニゲテ
                  ウゴケナイ
誰かが私を呼んでいる
    ダレ?
判らない、でも
          タイセツナヒト
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
    ハイッテクル
             ナニガ?
      モウヒトツノワタシ
お爺ちゃんに言われた
 ナニヲ?
判らない、思い出せない
とても大きなモノ
昔からの決まり事
   ソレハナニ?
守る事、大きな悪から大きな力を守る事
「・・・っ!」
              コエガキコエル
「・・・ち・・!・・みー・・・」
       ダレ?
大切な人
「みー・・ん!・・ーちゃ・・!」
そうだ、名前は
「みーちゃん!」
「・・・シ・・リル・・?」
「・・・っ!うわぁぁぁぁぁん!」
シリル、私の大切な家族

その21 ゲイトさん

それからどれくらい立っただろうか、シリルは元の姿に戻ったミリルに抱きつきながら眠ってしまっている。
泣きながらくっ付いていたのか、シリルの頬には涙が流れていた。
一方のミリルも、元の姿に戻り、気を失っている、ただ、衣類を着けていないことを除いて。
サモナーは自分の羽織っているマントを取り外すと、ミリルの体にそっと掛けた。
「よぉ、ヴァン、終わったようだな」
一人の男がサモナーをヴァンと呼んだ。
彼は剣を背中に背負い、軽鎧を身に纏った高年の剣士がサモナーの後ろの扉の前に現れた。
「話は聞いてるぜ、この2人が、例の・・・」
「はい、魔力で暴走していたのは予想外でしたが、なんとか沈めました。
 彼女達が、町に現れた魔王の手下の魔物を追い払った亜人の女の子2人でしょう。」
「ほう、そんな風には見えねぇがな」
剣士が腕を組みながら2人を見下ろす。
「そちらの方は、魔王の手先は捕らえられましたか?」
剣士は首を横に振った後に口を開いた。
「奴がいたと思われる部屋の前では、数人の傭兵達がやられていた。
 内部では、ここのボスと思われる男は大出血死、他に森の中で出くわした亜人と見慣れない女性が横たわっていた。
 森の方は気を失っているが、見慣れない女性の方は危険な状態だ」
剣士は魔王の手下の部屋の状況をとんとんと説明していく。
サモナーは片手を顎に当てる。 
数秒後、彼は、生き残った傭兵達に捕らわれていた者と、ミリル達、親玉の部屋で横たわっている二人を、自分達の町へ救出するよう命じた。
サモナーも少し周りを調べた。
ミリル達が部屋の奥の方に、一人、傷を負っておらず、そのまま壁にもたれている人を見つけた。
「可愛そうに・・・ここで放って置かれたのでしょう・・・もしくは器を入れ替えられたか・・・いずれにせよ、これも回収した方がよさそうですね」
サモナーは、その"人"を担ぐと、傭兵団と共に焼けた森の中にあった廃屋を後にした。

ルティサイド
「本の熱が収まったぜ」
「本当?」
「ああ、もう触れても熱くないぜ」
「じゃあ」
「魔力は正常だ、この本の魔力でも抑えられる状態にまでになった」
ほっとルティは胸をなでおろす。
2人は、熱の消えた魔法の本をゆっくり開く、前に見たときは、「魔王の手下が『アンダンテ』と呟いた」と言うところで終っていたが。
その先が記述されていた。
本内部で起きた強い魔力、その正体が本の中に記述されていた。

魔王の手下に捕まった拳士達は、魔王の手下、キシュアの外道とも言える行為で彼女を苛めていた。
さらに、別の手下、キッシュの会話を聞いていた彼は、拳士の中に隠されていた、謎の魔力を引き出そうとした。
しかし、それが失敗に終わり、拳士の中にあった魔力は、拳士の中で暴れ始めた。
収まるところを知らないその魔力は、拳士の体を変異させ、魔王の手下の基地内で暴走をし始めた。
敵も味方も分からぬ拳士は、自らの姿を変貌させ、無我夢中で暴れまわった。
そのまま基地もろとも壊滅してしまうのかとも思われた。
しかし、彼女の妹と、魔王と戦う勇敢な者達の力あわせ、魔力は抑えられた。
落ち着いてきた拳士は、元の拳士の姿に戻り、妹は拳士に抱きついた。
拳士も意識が朦朧としつつも妹をしっかりと抱きしめた。
2人は寄り添うようにして気絶していき、お互いの目からは、無数の涙が流れていた。

ルティは、本の内容をしっかり読み終えると、安心したのか、急に力が抜けた。
恐らく、ミリルの心配をしていたのだろう。 無事と知った瞬間、力が抜けたようだ。
倒れそうなルティをミキアが支えたが、触れた位置が良すぎた。
やわらかい触感に思わずニヤッとするミキアだったが、同時に平手打ちか魔法が来る事を恐れた。
しかし、そんな気力も無かったのか、ルティは体を起こすし、少しムッと顔をこわばらせただけで手は出さなかった。
支えてくれてありがと、と言う気持ちかミキアに怒りの顔から笑みをこぼす。
思わず照れ顔を隠そうとしたが体が動かない、やはり胸を触れた事に怒りを感じたのか、マヒの魔法をこっそり掛けられたようだ。
「あっあのぉ〜ルティちゃん?」
固まるミキアを他所に、本を読み替えすルティ、心の中で、良かった・・・そう呟いていた。

再び視線はミリルに戻る。
廃屋で気絶してから数日後、ミリルとシリルは綺麗な部屋で休んでいた。
「ん、う〜ん」
眩しい日の光に目を覚ますミリル。
そこは二人分の客間のような部屋で、すこし広々としている。
宿屋にしては綺麗過ぎた。
衣類も、この国の物なのか、女の子らしい服を着ていた。
RPGで言う、全滅をして、お金半分の状態で、宿屋からスタートとは少し違い、誰かにここへ運ばれてきた感があった。
むしろ、死んでいるならこの本から出られないと、言われているから、その手はまずないとは思うのだが・・・
ミリルはゆっくり両腕を顔の前へ持ってくる。
それは、基地内で人々をなぎ払って来た、豪腕な手ではなく、いつもの小さな優しい手に戻っていた。
ほっとしたミリルはここの周囲を観察し始めた。
「ここは何処かしら」
「みー・・・ちゃん?」
「シリル・・・」
ミリルの声にシリルも目を覚ましたようだ。
「みーちゃん! 良かった、もう大丈夫なんだね!!」
「ちょっと、シリル!!」
布団から飛び出し、ミリルに飛びつく、突然の出来事にミリルも対応が遅れた。
「良かった、元に戻って・・・」
「シリル・・・」
あの基地内での苦しみがまだシリルには残っているようだ。
ミリルはシリルの頭に手を乗せ、微笑みながら頭をなでた。
「もう・・・大丈夫だからね」
そうやって、シリルを安心させた。
シリルが離れたとき、扉からノックが聞こえた。
入っても良いよとミリルが声を出すと、扉の向こうから白いマントに魔道士らしい服を着た青年が立っていた。
シリルはあって間も無かったため、服の違いで誰か分からなかったが、彼は、あの時、ミリルの様態に気付いたサモナーだった。
「どうやら目が覚めたようですね」
「貴方は・・・あの時の召喚士さん?」
聞き覚えのある声に、シリルが質問をする。
「そうですよ、貴方の話は、すでにミルファの町から聞いています。 良く来てくれました、魔王と戦う我等、同志よ」
サモナーの青年は左手を右胸に当てて軽くお辞儀をした。
「え? じゃあここは・・・」
「はい、ここは貴方達が居た森から北に抜けた、キルティアと言う町で魔王と戦うものが集う場所でもあります」
「へぇ〜、魔王と戦う町って聞いてたからでっかいお城とかあるのかと思ってたのに」
ミリルが気落ちする。
「あはは、昔はありましたが、魔王の放つ魔物達が攻めて来て、今では古城と化しています」
苦笑いをするサモナー。
「みーちゃん、この人がみーちゃんの暴走を止めてくれた人なんだよぉ。」
シリルが説明をした。
「そうなんだ。助けてくれてありがとう、ええっと・・・」
「あぁ、申し送れました、私の名前はヴァン、ヴァン・キルティアと申します」
「キルティア?町の名前・・・貴方、もしかして」
「ええ、私はあの城の王子です。今では、城が破壊されて、この通り、召喚士なのですが」
再び苦笑いするヴァン。
「積もる話があるのですが、その前に貴方のお仲間の事でお話があるのです」
「仲間?」
周囲を見るミリル、そこにはガレットの姿が無かった。
もしかしてと思ったミリルは先にガレットの特徴をしゃべりだした。
「あの、私の他に赤い髪の狼っぽい耳を持つ亜人の事ですか?」
「赤い髪の狼っぽい?」
ヴァンの頭からハテナが浮かび上がった。
「違うよ、みーちゃん、多分まだ赤い髪の胸の大きい人だよ」
「あっ」
うっかり体を変えられていたことを忘れていたミリル。
「やはり貴方の仲間でしたか、
 今、襲撃を受けた後の集落で見つかった女性と同じ部屋にいるのですが、実は・・・」
ガレットの状態をゆっくり説明し始めた。

その22 せいばーさん

「彼女は体の状況は思わしくありません、とても危険な状況でです」
場の空気が一瞬凍りつく
「・・・ガレットはどうなっているんですか?」
ミリルは恐る恐る聞く
「一体何をしたらあの様になるのか・・、全身の筋肉はズタズタですし、右肩の傷も相当深いものです、看護士が卒倒しましたよ、・・・何か心当たりは?」
ヴァンはミリルとシリルに問いかける
「・・・話が飛びすぎていると思いますが聞いてください
・・・彼女の体は本当の彼女の体ではありません」
ヴァンの思考は一瞬止まる
「・・・は?要するに今の彼女は本当の彼女ではないと?」
「正確には“彼”です、彼・・ガレットは元々男で
敵幹部のキシュアと言う奴に体を別の器に入れ替えられたんです」
ヴァンは少し思案すると
「ふむ・・・、となると九尾を封印した時に部屋の隅にあった体はがガレットさんの・・それだったら体の異常も説明が付きますね」
「どういうことですか?」
「あの体がガレットさんの体でない・・つまりガレットさんの魂は全く別の器に入れられた事になります、・・ところでミリルさん質問です」
「なんですか?」
「果物1個分しか入らない箱に10個の果物をを入れたらどうなりますか?」
「え?・・入りきらないです」
「正解です、万物には許容出来る限度と言うものがあります
例えばこの風船・・」
ヴァンはポケットから風船取り出し、それを水道に近づけるとその風船に水に入れ始めた
「この風船が今のガレットさんの体だと思ってください」
風船は膨らみ続ける
そして・・
パァン!
「きゃあ!」
風船が割れ水が飛び出すが飛び散らないようにヴァンが小さい結界を張り飛び散るのを防いだ
「このように風船だったら許容量以上の水を溜める事が出来ずに割れてしまいます、ガレットさんはこの風船の割れる直前の状態です、
それに元々別の器と魂です、反発して体にダメージが行ってもおかしくありません」
「そうですか・・」
するとヴァンとミリルのやり取りを黙って聞いていたシリルが口を開く
「あの・・ガレットさんは元に戻れるんですか?」
「可能性はあります、・・しかし高くはないです
まぁ、二人とも元気な様ですし・・、取り合えず様子を見に行きますか?」



「ガレット・・」
ガレットは時折苦しそうな表情を見せつつも静かにベッドに横たわっている
「発見した時には既に意識はありませんでした
当時、強力な魔力香が体にありましたから、それが引き金となって意識を失ったのでしょう」
「あのぅ・・ガレットさんの体は今何所に・・?」
シリルは心配そうに聞く
「それなら御安心を、しっかりと保存してあります(パチン!)」
ヴァンが指を鳴らすと先程からヴァンに付き添っていた人物がガレットの抜け殻を運んでくる
「特殊な術が掛けられているので体は魂が抜けた当時のままの様です」
「・・・・」
ミリルは難しい顔をする
それは術を掛けた張本人、今は亡きキシュアへの憎悪か
それともこの様な事になった事への何らかの責任を感じているのだろうか
「ヴァンさん・・」
シリルが口を開く
「何ですか?」
「私・・ガレットさんを元に戻す方法を知っています」
「「!!!」」
「そっそれ本当!?シリル!」
ミリルがシリルの肩を掴んで揺さぶりまくる
「ししし知ってますからああああああ、ゆゆ揺らさないでぇぇぇぇ」
「ミリルさん、興奮するのは分かりますが少し落ち付きましょう」
「はぁ・・はぁ、私キシュアさんが言った呪文覚えてます!」
「・・・自身はあるのですか?」
ヴァンは打って変わって厳しい表情になる
「・・・正直余りありません、でも・・でも今はそれしかないんです!」
それを聞くとヴァンはやれやれ言う顔をすると
「・・・判りました、これから準備をしますので貴女方も手伝ってください」
「「ハイ!」」

その23 娯楽人さん

ガレットの回復に光明が見え始めた頃…

「ふぅ…流石ミリルさん達だな……幸運なのかも」
現在の状況は手詰まり、
今は城が無いとは言え城塞都市としても名高いキルティアに逃げ込まれては流石に手が出せなかったのである
全軍で挑めば勝算はあったが大打撃を被るのも事実だったからだ
それゆえ、何かいい手は無いかとずっと考えている魔王であった。
「こんな時、ご主人様ならいい手思いつくのにな……ご主人様どうしてるだろ…?」
その時ココナの頬に一筋の水が流れた。
「これは…涙?何で…私は悲しくないのに何で泣いてるの…?」
空に問いかけても答えは帰らず赤い月の元で魔王ココナ・アンダンテは静かに涙を流していた。

〜ルティサイド〜

「もう…ミキヤめ、どさくさに何してるのよ(ブツブツ」
ルティは台所に居た、流石に長時間の緊張ゆえか二人とも空腹感を感じたせいである
「何か手伝う事はないか〜?」
「何にもない」
「…さっきは悪かったって」
「…じゃあこれの皮剥いて」
「了解、ん?てかこれだけの食材何処から?」
「一旦テレポートで家に戻って取って来たの、だってここ食材の一つも置いて無いし」
「ああ…まあ普段は研究が忙しくて作る暇が無いからな」
「研究研究ってそればっかり、そんなミキヤだから誰も寄り付かないのよ」
「寄り付かなくて結構、第一来るのは勧誘とセールスだけだ来て欲しくも無い」
「…寂しくないの?」
「寂しい…かそう思ったことは無いな、ただ…」
「ただ?」
「お前が居なくなったら寂しくなるな」
「えっ…」
「…いや深い意味は無いんだ忘れてくれ、邪魔っぽいしあっち行ってるよ」
「うん…」
その時のミキヤの後姿は何だか寂しく見えた、いつもは自信満々で傍若無人なのに何故かその後ろ姿が凄く気になった。

「はぁ……」
寂しくないの?…か寂しいさ
寂しさを紛らわすためにあんな玩具を作ったりしてた
ルティ…お前はいつでも注目の的だったな
良い意味でも悪い意味でも…俺はそんなお前が羨ましかったのかもな
俺はいつでも負け犬だ、学会でも私生活でもそれが嫌で嫌で堪らなかった
…いつまでも負けてはいられないんだよな、
ミーシャ…俺は…変われるだろうか?

繰り返される葛藤
己を蝕む劣等感
それがミキヤの心の闇だった
その闇はある事件がきっかけだった
そう、大切な家族を全て失った忌まわしい事件から……

〜ユリアサイド〜

「ユリア…ユリア…」
「う〜ん…えっ…ファ、ファリン?」
「もう、ユリアらしくないねこんな所で居眠りなんて」
「ファリン…ファリン!!」
「きゃ!?…どうしたのユリア?」
生きてた…そっか悪い夢だったんだよね
あんな事嘘に決まってるファリンが…
「ユリア?」
「ファリン…夢…なんだよね?」
「……うんこれは夢、貴方の夢の中よ」
「どうして!?どうしてファリンが死んじゃったの!」
「落ち着いてユリア、勝ってかもしれないけど私はあれで満足なの」
「…えっ…どうして?」
「それはね…一番大切な親友を守れたから」
「私は…守れなかったよ?それでも親友って呼んでくれるの…?」
「当たり前よ…親友じゃない」
「ファリン…ファリン!!」
「よしよし……ユリア一つ約束して」
「うん…」
「もう復讐なんてしないで」
「…なんで…なんでなの?ファリンの命を奪ったのに!!」
「ユリア…良く聞いて私はユリアに幸せになって欲しいの復讐なんてしてたらきっと不幸になる」
「でも、ファリンはそれでいいの…」
「勿論、ユリアが幸せに暮らしてくれるなら私は満足」
「……分かった」
「うん、それでこそユリアだ」
「ファリン…」
「さぁ、行きなさいユリアの帰る場所に」
ファリンの姿がゆっくり薄くなっていく
「ファリン!…また会えるよね?」
「ええ、もちろんよ、だからさよならじゃない…またねユリア」
「うん…またねファリンきっと、きっとだからね!」
視界が全てぼやけユリアの意識は現実に戻された

「……ん…ファリン……私…頑張るから見ててね」
ユリアには見えた気がした、頑張れと微笑みかける大切な親友の姿が
復讐の戦鬼と化していたユリアは夢で再会した親友により元に戻ったのであった。

その24 せいばーさん

「では・・始めますよ、先程も言った通り私がシリルさんの魔法をサポートします
よろしいですね?」
「はい、よろしくお願いします!」
シリルの表情は何時に無く真剣だ

一方ミリルは・・
「くぅ〜私は用無しかぁ〜」
九尾封印の事後処理の為
女性魔術師により体の表面には呪文が刻まれていく
「あっ!動かないでください!呪文がずれたらどうするんですかぁ!」
「御免なさい・・・」

「・・いきます
夢の女王イプシロン、召還せよ
汝の僕は、魂の寄り代なり、コルトレア・イプシロン!」
フォォォォ・・・
ガレットの体が青白く光る
「・・・(ゴクリ」
シリルが恐る恐るがガレットの体に手を伸ばし魂を抜き取る
青白い球体がシリルの手の上に鎮座していた
「・・・」
ズズズ・・
ガレットの本体に魂が入っていく
ズズ・・
入った
「ぷはぁ〜」 「一先ずは成功ですね
しかし・・初めての呪文をよく成功させたものです。凄いですよ」
「えへへ・・そうですか?」
シリルは照れる
「後は彼が目を覚ますのを待つのみです」
「はい!」



「ただいまです〜」
「シリル!どうだった!?」
「・・成功です!」
「よし!」
ミリルはガッツポーズをする
「後はガレットさんが目を覚ますのをまつだけだそうです」
「そっか〜、これで一安心ね」
「体の調子はどうですか?」
「うん!快調快調♪
あっ、そういえばね〜さっきの術師の人ったら酷いのよ〜」
「へぇ〜そうなんですか?」
「俺☆様☆大☆復☆活!!さぁ!拍手の嵐を送るがいい!」
「おぉ!ガレット〜!」
「もう大丈夫なんですかぁ!?」
「おう!」
ガレットの復活と共にいつもの調子を取り戻したのか
ハイテンションな会話が2時間ほど続き
三人とも騒ぎ疲れて寝てしまった

〜魔王サイド〜

「やはり偵察部隊を派遣し城壁を破壊するのが一番かと」
「そうですね・・、ついでに敵幹部の暗殺なども同時進行でお願いします」
「了解しました、それらの手配をしておきます、では失礼させていただきます・・」
「待ちなさい」
「何でしょう?」
「その作戦、私も出向きます」
「!!、それでは王の身に危険が・・っ!」
「伊達や酔狂で王を名乗っているのではありません。心配しないでください
・・・それに、こうなる切っ掛けを作ったのは私ですから・・自分で落とし前を付けないと・・」
「今なんと?」
「いえ、何でもありません、作戦実行日時は今から5時間後です
爆破と同時に全軍を進軍させます(フォォォォォォ・・)
今はキルティアの街に他国の王が集まっている、一気に潰せば今後の作戦がやりやすくなるだろう」
ココナの姿は小さな子供の姿から
スタイルの良い大人へと姿を変えていた
「・・・っ!、了解しました直ぐに全軍進行の準備を」
「急げ」
「はっ!」

〜ミリルサイド〜

深夜3時
コツコツコツ
「・・っ!」
誰だろうかシリルもミリルも部屋を出た様子はない
だが人ではない、何かの気配を感じ取りガレットは身を翻す
「(オイ・・起きろ!)」
ガレットは二人を起こす
「何ですか〜」
「何さ〜こんな夜遅くに・・」
「(シッ、静かにしろ!)」
「・・・っ!(どうしたの?)」
二人はガレットの言葉に只ならぬ空気を感じ取り言われた通りにする
コツコツコツ・・
「(外に誰かがいる、間違いなく只の人間じゃない、準備しろ)」
ミリルはデジャヴを感じる
「(また勘違いって事は?)」
「(ないな)」
コツコツコツ・・カチャ、ギィ・・
「そんなに身構えないでくださいよ、まぁ、無理でしょうが」
ガレットはミリルとシリルを背に双剣を構える
「誰だ!」
「・・ふふ・・私は続に魔王と呼ばれている者・・
名を、ココナ・アンダンテ」
「「「!!!!!」」」
驚いた、目の前にいる“女性”がココナだと言うのだ
「そんな訳無い!、ココナはそんな・・」
「この様な者ではないと?
・・まぁ確かに、この姿でココナだと名乗るのは突拍子が過ぎたか・・
では・・、(ファァァァ)これなら信じてくれますか?ミリルさん」
魔王だと名乗った女性は赤黒い光に包まれるとその姿をココナのそれに変えた
「どうですか?」
話し方や振る舞いにおいても全く持ってココナそのものだった
「何でなんですか!?何で魔王になんか・・っ!」
シリルが問う
「何ででしょうね、忘れちゃいました
だって・・今の暮らしが楽しすぎるから」
「楽しいって・・、街を襲って、人々を殺すのが楽しいの!?」
「はい」
ココナは即答する
「・・・っ!失望したぞココナ・・・っ!」
ガレットは憤怒の感情を込めて言う
「何でですか、ガレットさん?私はこの秩序が無い血と鉄の錆びた臭いしかしない世界をまとまりある平和な世界に変えようとしているだけですよ?」
「お前は過去に俺のやって来た事をなぞってんだよ!それが気にいらねぇ!
俺に正義を説いたのはお前だろう!
そのお前が・・そのお前が何で!」
「さっきも言った通りです、私はこの世界に失望したんですよ
それで思ったんです
『この世界を変えよう』と思ったんです」
「だからって、そんな・・・ここは本の世界なんですよ!?
そんなことしたって・・」
「・・・本の・・世界?」
「そうだよ、・・知らなかったの?」
「・・・っ!」
ココナが驚愕の表情を浮かべる
「だから・・ね?もう止め・・」
「もう遅いんですよ!」
ココナが叫ぶ
「もう後戻りは出来ないんです!」
ココナは一筋の涙を流していた
「だから・・だからここで死んでください」
キュァァァァァァァ
「!!、伏せろ!」
「ルーイン・ユニバース」
カッ・・ドォォォォォォォォン
ガレット達が吹き飛ぶ
一瞬別の白い光が差した気がしたが気のせいだろう
「どうしよう・・私・・私・・」
ココナは自らした行為に嘆き涙を流す
『ココナよ・・』
ココナの背後に黒い影が姿を現す
「何ですか?」
ココナは涙を拭う
『もう良い頃合だな・・』
「そうですね・・(パチン」
「はっ何でしょうか」
ココナの側近が姿を現す
「準備はどうですか?」
「整っております」
「では、城壁の爆破をお願いします」
「了解しました」
『ココナ・・』
「何?出来れば今は一人が良いんですけど」
『その体・・頂く』
「ルシファー?何を言って・・!!!うぁ・・ああああああああ!!!!」
黒い影がココナに覆いかぶさると同時にココナが苦しみだす
「ぐっあああぁぁあ、ル・・ルシファーや・・止め・・」
『・・・・』

『器は熟した・・これで外の世界に出る事が出来る・・
この窮屈な本より飛び出すことが出来る・・
フフフ・・ハハハハハハハハハハハハ!!』
暗闇に包まれた街で街を守る城壁が次々と爆破される
そんな中混乱する街にココナの笑い声が木霊した

その25 せいばーさん

ココナの体を奪い、ココナの精神を押さえつけたルシファー
『ぐっ』
だが、ココナの中に眠るメタモルフォーゼまでは、ルシファーでは抑えきれてなかった。
「まだ・・・足掻くか・・・この力は・・・」
おそらくココナの意地だろう、未だ完全回復していないルシファーだ。
いままでペンダントの中に眠っており、ココナが身に付けた瞬間その体を乗っ取るつもりだったが。
彼女自身がルシファーの力を吸収したのだ。
そのため、ルシファーの自我は、今までずっとペンダントの中で封印されていたのだが、
何かの衝動でココナに隙間が出来、そこに入り込んで乗っ取りなおしたのだ。
「まぁ・・・良い、この程度なら、まだ、我の方が勝っているな」
何とか調子を取り戻すルシファー、そしてその部屋を見渡す。
そこにはココナの魔力で倒れたミリル、シリル、ガレットが倒れていた。
「哀れな者よ、この程度で我に挑もうとは・・・むっ?この町は・・・ククク、そうかその町だったか
 忌々しい血縁がまだ居ると言う事か」
忌々しい血縁、それはヴァンのことを刺していた。
かつて、城とキルティアの先祖を殺した者、それは本来の体を持っていたルシファーだった。
「ならば、今度こそ、その血縁に終着点を迎えるとしよう」
ルシファーがゆっくりその部屋から出て行く。
丁度、一人の手下がココナのもとへやってきた。
それは、何処かで見覚えのある姿だった。
「魔王様、幹部の連中に思いのほか手こずっています、至急支援の魔物を・・・」
「・・・話にならん、指定した部下だけで成し遂げよ」
「えっ?」
いきなりの暴言に戸惑う男
『おかしい、何時もなら了承して何名かの魔物を召喚するはずなのに・・・』
「聞こえなかったか、キッシュ・チャイドルよ、お前にもその命令を下した筈だぞ」
「ですが、これでは、犠牲が大きすぎます!! 魔王様、まさか・・・」
「この程度で死ぬ部下など、我の部下ではない」
突然部下を愚弄するココナ
その言葉に、キッシュは今そこに居る者は自分の知る魔王ではない事を悟った。
「・・・・・・お前は・・・誰だ?」
「何を言っている、我は魔王だぞ?」
「違う、お前は魔王様かも知れないが魔王様じゃない、ココナ様じゃない
 魔王様は味方を犠牲にするような戦い方をするような御人じゃない!!」
いきなり魔王に反論するキッシュ、それは、魔王の中にある優しさに引かれての反論だった。
「魔王様は部下を見殺しにするような人じゃない、ましてや嫌われ者を救おうとした方だ、
 この私でさえ・・・人と化け物のキメラ(融合体)だった私でさえも手を差し伸べてくれた。
 一緒に戦おうって誘ってくれた方だったのに、貴様は一体何者だ!!」
ココナは何も言わない。
無言にいたたまれなくなったのか、キッシュは魔王に向っていく。
だが
「遅い・・・」
ココナは体を一回転し、キッシュの攻撃を弾く。
「ぐわぁ!!」
キッシュの爪は、簡単に弾かれてしまった。
ココナは鼻で笑うと、そのまま奥へ向ってしまった。
「くそぉ、あれ、腕に・・・水?」
ペロッと腕に付いた水をなめる、それは普段の水とは違い、少し、しょっぱかった。
「これは、涙? 魔王様・・・一体」
もしやまだココナ様は完全にあの化け物に体を奪われていないのでは?
そんな疑問がよぎった瞬間だった。
「テメェ、まだ生きてやがったのか!!」
その声にビクっとして後ろを振り向く、そこには気絶から回復したガレットが立っていた。
「お前は、確か集落で俺に不意打ちを仕掛けた」
「姿がねぇからとっくに死んでるのかと思ったのによぉ」
「フッ、悪いが闇討ちをするような奴に簡単にくたばる様なヤワではないのでな、ミリルはどうした?」
「自分よりも他人か、随分と余裕だなぁ、おい!!」
「自分・・・か、そうだな、自分など好きじゃない、他人の方が心配さ」
『こいつ、何を言っていやがる・・・自分が嫌い、どういうことだ?』
「お前など俺の相手でもないと思うがな、無駄な抵抗は止めてミリルがどうしたのか教えろ」
「悪いがミリルにゃあ会わせる訳には行かねぇ、覚悟しろよ!!」
ガレットが身構える。
「フッ、強情なやつめ、来い」
キッシュも身構えた。
『今、ミリル達を戦わせるわけには行かねえ、あいつが魔王だったんだ、精神面でのダメージが半端じゃねぇ事は確かだからよ』
『俺は、ここで死ぬわけには行かない、魔王様を、ココナ様を助け、彼女に自分の思いを伝え、この手で抱くまでは・・・』
己の守りたい者の為に、キッシュとガレットは廊下で互いに身構えた。

その26 娯楽人さん

「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
戦場を貫くのはこの世のものとは思えぬ不気味で醜悪な笑い声だった
その声を聞いたものは例え戦闘中でも武器を振るうのを止めた
しかし、彼らは止めなかった、いや止まらなかった
「聞こえるか!あの声が!あれが魔王だ、だが私の慕っていたココナ様ではない!!」
「何をわけの分からない事言ってやがる!お前らがココナをあんなふうにしたんだろうがぁ!!」
二人の戦闘は激化の一途を辿りどちらも一歩も引かなかった
それは大切な人に掛ける思いの強さ
その強さが両者を高め終わらぬ戦いを続けさせていた……

〜ヴァンサイド〜

「ヴァン様!戦況は依然劣勢!各所で増援の要請がきています!!」
「西の城壁が工作によって破壊されました!このままでは甚大な被害が出てしまいます!」
「状況は最悪か…どうするヴァン?」
青年剣士は親友の判断を仰いだ
「……カイル、君だって分かってるはずだ勝ち目は薄いむしろ勝っても何も残らない事を…」
「ヴァンお前は何時からそんなに弱音を吐く男になったんだ?亡き者のために魔王を倒すと誓ったろ?」
静かに話す彼の言葉に怒気がはらんでいる事も私は分かっていた
そう、私は仮にも指揮官戦場で指揮官が怯えていたのでは勝てる戦も勝てないのだ
「カイル…そうだな…全軍に通達!司令部まで退却せよと!」
「ヴァン様!?何を言い出すのですか!そのような事をしたら敵にここを悟らせてしまいます!」
「それでいいんだ私を信じてくれ、私だって兵に死なれたくは無いんだ!」
「……分かりました、命令を繰り返す、全軍に告ぐ司令部へ退却せよ!」

その27 せいばーさん

「う・・・イタタ・・」
ミリルはボロボロの体を起こす
隣ではシリルが気絶していた
幸い軽症で済んだようだ
周りを見渡すと自分を中心に半径1.5m程の放物線を描いて攻撃が避けられている
ガレットが攻撃の来る直前に即席の結界を張ったのだ
結界で守られている場所以外は大きく地面が抉れていた
「あれ?そういえばガレットは・・ん?」
ミリルはボロボロになった建物の奥でガレットが誰かと戦っている
「!!、ガレット!」
ミリルはボロボロの体に鞭を打ちガレットの元に駆け寄る
ミリルは気付いていなかった
自分の体に貼っていた九尾を封印する為の封印符が破れている事に
そして自分の皮膚から白い体毛が生え始めている事を
キン!ギィン!ガキン!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」
「らぁぁぁぁぁあ!!!!」
二人の戦いは熾烈を極めた
双方目にも止まらぬ速さで移動し
相手のの命の灯火を掻き消さんと躍起になっていた
ザザッ
「「ハァ・・ハァ・・」」
二人とも行き絶え絶えだ
「ちっ・・次で最後だ、何か言い残す事は有るか?人間」
ガレットの双剣が融合し一つ大剣になる
「うっせぇよ駄犬、死に掛けの彼女に尻尾でも振ったらどうだ?」
キッシュの爪にも多大な魔力が収束する
「後で謝っても遅いぜぇ!ゲイルゥゥ・・ブレイドォォォ!!!!」
「ほざけ!ブラッディ・・スラッァァァシュッ!!!!!」
二人の必殺の一撃がぶつかり合おうとしたその時
「止めて!二人とも!」
バシュゥゥゥン・・・・・
二人の魔力が相殺された
「なっ・・お前・っ!」
「ミリル!?」
「もう・・・止めてよ・・」
ガシャ・・チャキ
ミリルは泣きながら二人の武器を振り払う
「何故止めるミリル!コイツは・・」
「そうだ、この戦いはお前が入って良い戦いではない」
「そんなこと言ってる場合!?
ガレットは自分を正してくれたココナを
キッシュは自分を救ってくれたココナを元に戻したいんでしょ!?
それならこんな事してる場合じゃないじゃない!」
「「・・・」」
二人は黙り込む、ミリル言っている事が胸に刺さるのだろう
「ほら!一時休戦!握手!」
双方苦虫を噛み潰した様な顔をしたがミリルの言葉に気圧されしぶしぶ握手する
しかし
「よ・ろ・し・く・な!」
「ああ、こ・ち・ら・こ・そ!」
和解とは思えない雰囲気だった
露骨に手に力が入っている
「これが終わったら絶っっ対決着つけてやるからな!!!」
「ああ、絶っっ対ぶっ潰してやるよ・・っ!」
険悪にも程がある
「みーちゃん!」
シリルが駆け寄ってくる
「シリル!もう大丈夫なの?」
「はい!・・でも・・」
やはりココナの事を気にしている様だった
「安心しろ、今のココナ様はアンタ達の知っているココナ様じゃない」
「どういうこと?」
ミリルが問う
「要するにココナは体を何所の馬の骨とも知れねー奴に乗っ取られているって事だ」
「えっ・・本当に!?てゆーか誰に!?」
「コイツの話を聞いていたのか?それが判ったら苦労はしない、まぁ判ったところでどうにかなるとも思えんが」
「で、結局の所お前はどっちに付くんだ魔王軍のキッシュさん?」
「無論お前たちだ、この規模の破壊活動はココナ様も予定していない、軍の中枢を潰してある程度丸く治めるつもりだったのに・・」
「じゃぁ決まり!さっさと魔王軍潰しちゃおう!」
「10万三千人の大軍隊をか?見たところ此処の連中は撤退を始めている様だが」
「う゛っ(汗」
キッシュに水を差される
「取り合えず各隊の隊長を潰して指令系統を混乱させよう
話はそれからだ」 「「おう!」」
「おう」
キッシュはいまいちノリが悪い
「それより・・ミリルで良いか?
体は大丈夫なのか?」
「え、大丈夫だけど?それがどうかした?」
「体調もそうだが、お前の体内(なか)にいるバケモノの事だ、見たところ体に若干の変化が見られるようだが」
「「「!!!」」」
ミリルは自分の尻尾や髪の毛を確認する
「ホントだ・・っ!」
キッシュの言う通り、ミリルの体は確実に九尾のソレに近づいていた
「だっ大丈夫なのか!?あんなの止められる自信ないぞ!?」
焦るガレット
「ん〜、多分大丈夫」
「何故言い切れる?」
キッシュが冷たい視線を送る
「わかんないけど・・次はちゃんと制御できる気がする」
「そうか、今の所はその言葉を信じよう
だが、また暴走して味方に危害を加えるようならば・・斬る」
「判った、お願い」
「みーちゃん・・・」
シリルが心配そうに見つめる
「大丈夫だよシリル、私はあんなのに二度も負けないよ!」
そう言ってミリルはシリルを宥める
そうして4人は侵攻を続ける魔王軍へと立ち向かっていった

その28 ゲイトさん

ココナの後を追う4人
その中で、ミリルのだけが、心の中では迷いだらけだった。
他の3人は周りの様子を見つつ走っているが、ミリルだけ上の空だ。
九尾の力に恐れていることもあるが、何より別の理由もあるからだ。
それを悟られぬよう3人の後を追っていたが…
「みーちゃん!!」
「「ミリル!!」」
「みゃ?」
ミリルが拍子抜けした声を出した。
どうしたのかと思った瞬間、足が床を抜ける。
足場が崩れていたのだ。
「みゃあああ!!」
気づいたときには遅すぎた。
そのまま下に落ちていくかと思われたが、
がしっ!!
ガレットがなんとかミリルの右手を捕らえた。
そのまま力任せに持ち上げる。
「何やってんだ、お前らしくない」
「ごめん、さぁ急ごう」
さっき自分が危機に去らされたと言うのにもう忘れたかのような言い方だ。再び前を走る。
だがその時、ガレットも悟った、彼女は九尾の事で迷っているのではなく、別の理由で迷っているということを。
「みーちゃん…」
シリルの小さな声にガレットは気づいた。
「おい、シリル」
「みゃ! なっ何?」
「お前まで暗くなってどうしたんだ、ココナを気にしているのか?」
「ん〜ん、違うよ、みーちゃんの方だよ…」
「ミリルの方? 俺が戦っている間何かあったのか?」
二人が会話に入り足が止まる。
「いかぬのなら先に行くぞ?」
キッシュが口を挟む。
「後を追うから先に行け、俺が本気を出せばすぐに追いつく」
「お前の本気? 勝手にしろ、だが、ミリルの魂がなくなっても文句を言うな」
そういってキッシュはミリルの後を追う。
「ガレットさん、みーちゃんは…」
シリルは、ガレットが目を覚まし、部屋の前で戦っていたとき、ミリルとシリルの間に何があったのかを説明し始めた。

ガレットが目を覚まして数分、ミリルとシリルが目を覚ました。
その時のミリルは、心が滅茶苦茶だった。 
魔王の正体、本からの脱出方法、城の状況、もはや自分はどうしたら良いのかわからなくなっていた。
ただ、わかっていることはひとつだけ。
ココナをとめることだけだった。
「ココナを止めないと、何が何でも、ココナを救わないと」
そう言って、少しふらっとしつつ部屋の外に出ようとするミリル、 だが壊れた扉の前でシリルが立ちふさがった。
「シリル、そこを退いて、ココナを助けないと」
シリルは首を大きく横に振り、それを否定した。
「退いてよ、ココナを何とかしないと、この城が・・・」
「みーちゃん、今のくーちゃんと戦えるの?」
ミリルはビクっと震える、ミリルは今それを一番恐れていた。
圧倒的魔力をミリル、いや友達に向けたのだ、例え自分に非がなくとも、魔王としての振る舞いだからだろう。
ココナはミリルを倒す事など容易ではないだろう、だが、全力で掛かってくるココナに自分は全力で戦えるのだろうか。
無論、無理な話だ、友達と戦う、喧嘩ならまだ仲直りですむだろう、だが、喧嘩とはわけが違う、正と死の分かれた戦い、常に全力でなければ負けるだろう。
手加減をして、魔王の力を振り回すココナを救えるのか、それも無理な話だ。
でも、今はココナに会わなければ行けない、生半の覚悟かも知れないが会わなければ、何もわからない、そう思っていた。
「魔王さんの正体がくーちゃんだったんだよ、シリル達の友達のくーちゃんなんだよ、そのくーちゃんとみーちゃんは戦えるの!!」
シリルは精一杯声をだした、今のミリルじゃココナに返り討ちにあう、それを思っての言葉だった、だが
「戦えるよ」
「みーちゃ…」
「戦うよ、私は、ココナの為に、迷ってられないの、この世界の為にも」
シリルは何も言えなかった、言いたい事はまだいっぱいあったが、全部この一言で押し返されるだろう。
気絶させてでも行かせないという手も会ったが自分ではミリルにはかなわない。
ミリルの出した答えはこうだった。
「だったらシリルも連れてって、それが出来ないならシリルを殺して!!」
「!?」
とんでもない選択だ、一人の妹を危険に晒すか、妹を殺して先に進むか、ついにミリルもカチンと来てしまったようだ。
シリルに平手打ちを撃つ。
「勝手に死ぬなんて言うんじゃない!! 貴方を失ったら私は…」
「みーちゃん」
「行くわよ、但し、危険とわかったらすぐに逃げるのよ」
そう言ってシリルを押し退かす、シリルも直に後を追うが、シリルの心の中ではミリルの状態を理解していた。
「みーちゃん、無理している、あれじゃくーちゃんに…」
心配する妹を他所に、ガレットの戦いを止めに行くミリルだった。

「そんなことが…」
シリルを押しのけた後、ガレットの姿が無い事に気付き、少し先を見た事でガレットとキッシュの戦いを見つけたと言う事だった。
「みーちゃんを止められなかった、あの九尾の力が開放されてきているのも、みーちゃんが無理しているからだと思う。
もし、くーちゃんに負けて力を求めたら…」
「九尾のミリルがミリルを誘って己に九尾の力を開放させようとする…か。」
一面に寒い風が吹く
「それだけじゃないよ、例え九尾の力を求めなくても、くーちゃんを救えないで大きな傷を付けちゃうよ」
大きな傷を付ける、それは鬱と同じ意味を現していた。
「よく言ってくれた、そのことは誰にも言うな」
「えっ」
「いいか、その話が本当ならミリルはココナに負けるかもしれない、そうなったらミリルは俺が助ける、何がなんでもな」
「ガレットさん」
「よし、後を追うぜ!!」
二人は先に行ったミリル達の後を追う。

その29 せいばーさん

〜キルティア城内〜
「第五小隊が支援要請!キーナ地区五番地にて敵の追撃に遭っているようです!」
「精霊砲1番を回せ!支援しろ!」
「第三中隊が撤退完了!負傷者3人!内1人は重傷!集中治療室は空いてますか!?」
「ヴォーリン級第8番艦ミネルヴァが撃沈!」
「精霊砲と下等召還獣では持ちません!早く結界を!!」
「全陸上部隊が撤退完了!人民の非難も完了しました!」
「よし!城の魔法障壁を全力展開!予備の障壁もだ!
城の魔力を全て回すんだ!召還師は地下の召還室へ急げ!」
「・・・エルドラムを使うので?」
ヴァンの側近が問う
「ああ、その為に全部隊を撤退させたのだ・・使いたくは無かったがしょうがない」
−破壊鬼神エルドラム
全長240ゼルム(1ゼルムは50cm、故に120m)の巨躯の大鬼神
レイフォン・グリーヴァ・ゴルドン・ガルディア・キルヴェイ
の五体からなる超高等召還獣(メガクラス・サーヴァント)
上記の五体を総称してエルドラム(破滅を齎す鬼達)と呼ばれる
それぞれ顔が異なると言う事意外全く同じ姿をしている
過去にキルティアと対立していたガルシアとの長きに渡る対戦に終止符を打ったキルティア王国の最終兵器
強大な力を持ち防御対象を必ず守るがその代償は大きく召還したら最後
敵味方関係なく殺戮の限りを尽くす
「良いのですか?アレを召還したらとんでもない被害が・・」
「そのような事を言っている場合か!生きるか死ぬかなのだ、
ならば少しでも可能性があるものはどんどん使うしかないだろう!!」
「・・了解しまし・・・」
『ヴァン様!こちら三番艦ルーウィン!』
兵から通信が入る
「どうした!?」
『しっ城から3ヤオ(1ヤオは1km)先に巨大戦艦が出現!
戦闘機が次々に(ドォォォオォン!)ザーーーーーーー』
「・・っ、エルドラムの召還を急げ!一刻も早く魔王軍を潰すんだ!」

〜ミリルサイド〜
「ハァーッハァーッオイ!ミリルー!」
「ガレット!早いじゃん!」
「狼舐めんなーーー!」
「何だ狼だったのか、てっきり犬かと」
「魔王軍の前にお前を潰してやろうか!?」
やっぱりガレットとキッシュは仲が悪い
「それより体は大丈夫か?ミリル・・ってもう十分変化してるな・・」
ガレットが九尾化が進むミリルを心配する
「うん、今の所は、でも・・」
ミリルの体は確実に九尾へと変化している
元々赤い髪と尻尾も完全に白く染まっていた
「その内尻尾が9本に増えるんじゃない?」
「のんきに言ってる場合か!」
ミリルは明るく振舞っているが心の中では悶々とした空気が流れる
「オイ、お前等遠足に来てるんじゃ・・」
キッシュが呆れていたその時
ドォォォオォン!!!!!!!
「ないっうぉぉぉお!?」
ミリル達の上空で何かが爆発した
ミリル達は知る余地もないが敵の戦艦の攻撃により撤退中のキルティア軍の戦艦が爆発したのだ
「おいおいおい!!何か降って来るぞ!!」
「走れ!早く!」
空から焼けた鉄の塊が降ってくる
そして一際大きな鉄塊が降ってきた
「!!」
「皆!伏せて!!」
キュィィィィィ!!
ミリルが手を翳す
その手を中心にとてつもない魔力と共に魔法障壁が展開されて行く
「ミリル!?お前・・っ!」
ガレットが叫ぶ
ミリルの体からはあの時−九尾が発動した時と同じ魔力を発していた
同時に体の九尾化も急速に進行し始めたのだ
「みーちゃん!!」
「・・チッ(カチャ」
キッシュが万が一に備え武器を構える
「みーちゃん大丈夫!?」
「大丈夫だよっ・・これ・・位・・あぁっ!」
障壁を張るために翳していた右手の先端から白いしなやかな毛が生え始める
「これ位・・あの時に比べれば・・っ!!!」
バシュゥゥゥン・・・・
「っ・・ハァーッハァーッ・・・・」
全ての鉄塊を防ぎきり地面に膝を付くミリル
そんな姿を見て
「・・もう限界だな」
キッシュがミリルに向かって走り出した

その30 ゲイトさん

「許せ、ミリル!!」
爪に魔力を込め始めたキッシュ、だがその攻撃を寸前で止めた。
いや、止めされたというべきだろう。
魔法障壁の前にシリルが立ちはだかったのだ。
「クッ、そこを退け、小娘!! 放っておけばここにいる皆は殺されるぞ!!」
「嫌だ、みーちゃんはシリルのたった一人のお姉ちゃんなんだもん、死んでほしくない!!」
「ならばお前ごと!!」
「退いて、シリル!!」
ミリルが最後の力で声を出す。
「駄目、負けちゃ駄目だよ、諦めちゃ駄目!!」
シリルの恐れていた事が現実になり出した。
シリルの思っていた変化の仕方とは違うが、それでも、ミリルの中に迷いがあったのは確かだ。
おまけに先ほどの魔道砲だ、その魔力が、九尾の方が吸収したのだろう。
シリルは、ミリルの声に障壁に手を当て、ミリルに必死に声を上げる。
その様子を構わず、キッシュは魔力を上げる、シリルを含め、障壁ごと貫けるようにするためだ。
だが、その手をガレットが握る。
込められた魔力がガレットの握った手に稲妻の様な痛みを走らせる。
「クッ、お前がどう思おうが構わねぇが、こいつにとってミリルはたった一人の姉なんだよ。
 こいつには家族がいねえ、ミリルを失ったらこいつは本当に一人になっちまう。
 お前に、一人ぼっちの苦しみが分かるのか!」
それはガレットも体験していた事だった。
一人の苦しみ、誰にも相手にされない辛さ、悪さをすればこっ酷く殴られる。
そんな苦しみを、ガレットは昔の組織に所属するまで、ずっと耐え続けてきたのだ。
だが、そんな言葉を他所にキッシュの答えは、冷たい一言だった。
「下らん・・・本当に下らない、一人が辛い? 
 人間はいずれ一人になる、そんなの分かりきっている事だろう。
 一人になってどうやって生きていくかは、己次第だろう、相手にまで同情する必要も無い。
 姉妹と言えど他人だろう」
「テメェは!!」
思わず握っていない手を握り、キッシュを殴ろうとも思った。
「・・・だが、その気持ち分からんでもない、俺も、ココナ様に気持ち惹かれるまで、そんな気持ち
 知りもしなかったからな」
その言葉に握り拳を解くガレット。
「はぐぅ、うう、うわああああ!!」
「シリル!!」
「みーちゃん!!」
ミリルの九尾の変化は止まらない、魔力が徐々にミリルの自我を飲み込み始めた。
「もう限界だ、さあそこを退け、お前も手を離せ!!」
「嫌だ!!」
「断る!!」
「強情な奴等め、ならお前ら共々裂きイカにしてくれる!!」

ガレットの手を振りほどき、ミリルに襲い掛かろうとした。
その時だった。
「騒がしいから着てみれば、まだ生きていたか」
幼いような声に、何処か威圧感を感じるその声に3人とも声の主を見る。
そこには、ココナの体を乗っ取ったルシファーが立っていた。
3人がこちらを見るのを他所に、ルシファーは障壁を張っている少女に気付いた。
「ほう、その小娘・・・そうか、お前もそうだったのか」
「何、貴様、ミリルの力を知っているのか?」
「知っているとも、我の魔力の糧だ、今、我の肉体となっているこの小娘と同じ力だ。
 最も、そちらの方は安定した魔力のようだが?」
「そうか、何でココナが魔王になったか、半分分かったぜ」
「ガレットさん?」
二人の魔力の共通点、それはメタモルフォーゼを刺していた。
ルシファーにとって、メタモルフォーゼは、ルシファーが、本来の姿に戻るための魔力としては
十分に素質が備わっていたのだ。
だから、魔王なんて興味のなさそうなココナでも、簡単に魔王の力を吸収できたのだ。
先ほど、ミリル達が休んでいる部屋に顔を覗かせたとき、振舞って見せたように。
自我を温存できたのだ。
「だが分からねぇ、ココナが何で魔王になったんだ、魔力の素質があるからって魔王なんて悪役誰も望みやしねえ筈だ」
「チッ、いらぬ事を話しすぎたな、血縁も見つける事も出来ぬし、おまけに、そろそろ限界か」
「限界?」
「持ち主がうるさくてな、どうやら我を再び飲み込めるほどまで回復させてしまったようだ。」
そういうと、ルシファーが苦しみだした。
「だが、我は再び現れる、その時は、この小娘の魔力と共に我が分離したときだ!!」
そう言うと、ココナから怪しい光が覆う。
その光が消えたとき、先ほどのゆがんだ顔ではなく、少女の顔だった。
ココナが辺りを見渡す、その振る舞いは本当にココナそのものだ。
外を見たココナは、少し苦い顔をする。そして、近くにいたキッシュに声をかけた。
「キッシュさん、迷惑を掛けました。」
「ココナ様!!」
「うに!?」
キッシュが飛びつく、その勢いをココナは受け止める。
「一時はどうなるかと思われました」
「本当にごめんなさい、まさか機械召喚で移動要塞まで呼び寄せていたとは」
キッシュはココナが元に戻った事でうれしがったが、
ココナは、ルシファーの勝手な行動により、少し悲しかった。

しかし、根本的なところは解決していなかった。
「うっうう、うわあああああ」
その声にココナも気付いた。 
もう先ほどの涙と迷いは当に消え、自分の務めを果す者に戻っている。
ミリルの様子を伺うココナ、尻尾も髪の色も違い、何処か違和感があったが、数秒でミリルと確信した。
「なるほど、キシュアさんめ、余計な事を・・・」
「魔王様、奴は私が」
「駄目です、キッシュさんでは返り討ちにあってしまいます、私に任せてください」
そう言ってキッシュを振りほどくココナ。
ミリルの方に向っていくがガレットとシリルが立ちふさがった。
「邪魔ですよ、ガレットさん、シリルさん」
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
衝撃波で、ココナはゴミのように二人を吹き飛ばした。
「私はミリルさんと戦いたいのです」
「クソ、今のミリルをお前にやらせるか」
直にココナを止めようとするが、キッシュがガレットを止める。
「テメェ、どういうつもりだ」
「俺はお前らに付くとは言ったが、仲間になると言った覚えはない、
 今まで通りの行動をしているだけだ。 それに、あれが俺の本気だと思ったが、大間違いだ」
キッシュは、人間と思えない力でガレットを押していく。
「くっ」
「しばらく大人しくしてもらおう・・・」
「コ、コナぁ・・・」
「苦しいでしょうね、普段制御できる力を体中に回ってしまっているのですから」
「やめっよう、たたか、う、ひつヨウ・・・ナイ・・・ヨォ」
「残念ですけど、私と貴方は戦わなければならないのです、さあ、勝負です!!」
ココナはそういうと、ミリルの障壁を打ち破る。 
「あっ」

障壁が打ち破られた事で、ミリルの心から声が聞こえだした。
『さあ、魔王が現れたわ、戦うのよ、ミリル』
ミリルの心の中で九尾が囁く。
「いや、戦う必要なんてないよ」
『じゃあ、殺されてもいいの?シリルやガレット、ヴァンまでもが』
「!?」
『失いたくないなら戦うしかないの、貴方しか出来ない事よ』
「いや・・・いやだいやだいやだいやだ・・・いやだ〜〜〜」
ミリルの心が爆発した。
『そう、なら私に任せて貴方は寝てなさい』
「うそ、止め!?」
有無も言わせずミリルの精神は止まった。

「九尾になっちゃう、くーちゃん、止めて!!」
シリルの恐れていた事が起こった、やはり今のミリルではココナと戦えない。
その迷いに九尾が漬け込んでる、もう九尾になるのは時間の問題、シリルはもう泣き出しそうだった。
「うあああああ〜〜〜」
ミリルから光が噴出す、だが、何か違った、強制的に引き出されたとは訳が違うのか
ミリルの姿は白い髪に白い尻尾というところは変わらない、違うといえば、瞳の色が違うというところだけだ。
「はあ、はあ・・・」
ミリルが体全体で息をしている。
次の瞬間、ミリルは、ココナを標的に定めると、何も考えずに向った。
両手はすでに爪が伸びており、キッシュ同様にその爪に魔力をこめている。
その様子にココナは、怒りを感じた。
「失望しましたよ、ミリルさん!!」
その言葉と同時にミリルの腕がココナの顔から下まで引っ掻きおろした。
だが、ミリルはココナを捕らえておらず、ミリルの目の前にココナはいない。
後ろに気配を感じたミリルが振り向くと既にココナはミリルに攻撃をし掛けた。
「うあ!!」
ココナの魔力が的確にココナを捉える、再び立ち上がるミリルは構わず、ココナに向っていく。
「そんな狐さんの力に振り回されないと戦えないなんて、酷すぎます、私はそんな貴方と戦いたかったんじゃない!!」
結果は同じだった、ミリルは再び空を切り、ココナはミリルの背後から反撃を繰り返す。
やがて、ミリルが立たなくなってきた。
「ここまで失望させられると、自分が迷っていたのが馬鹿らしく思えます」
「コ、コナ・・・ワタシハ・・・」
「もう良いです、終わりにしましょう、我が魔力により、その姿を形付けよ、我はその武器を扱う事を望む」
ココナは、両手に魔力をこめると、魔力の端から柄のような部分を作り出す。
「汝の力、我が望む姿へと、変えたまえ、魔刀、具現化、いでよ、テシス&フィシス!!」
「ココナ!! その武器は、止めろ!!」
武器名に思い出したのか、ガレットが大声をだした。
テシス&フィシス、それは、ココナが昔、ルティから借りた魔法の武器、それを、自分用にアレンジしたものを魔力で形作ろうとしているのだ。
それの魔力をまともに受けたことのあるガレットにとって、恐怖そのものだった。
ココナの手の上にある魔力の固まりが、徐々にテシスとフィシスの形へと変えていく。
「召喚」
その一言で、魔力は完全に短剣の姿へと変えた。
違うとすれば、色が黒い事ぐらいで、ほとんど全く同じだった。
「留めです、ミリルさん」
ココナはミリルに向っていく。
短剣をクロスさせ、二つの武器に魔力をこめる。
やがて、二つの刃は倒れているミリルに向けられた。
「ダークエクスペクティション・・・ブレイカー」
「みーちゃん!!」
「ここまでなの・・・」
ココナが向ってくる最中、ミリルの九尾の力が抜け、ミリルに戻った。
その時だった。
ザシュ!!
誰かがミリルの前に立ちはだかり、その技を受けた。
その出来事にミリルは目を丸くした。貫かれた剣先から、血が雫のように落ち、ミリルの頬を伝う。
「へっ、無事か・・・ミリル」
「がっガレット・・・」
なんと、ミリルの前に立ちふさがったのは、ガレットだった。キッシュの妨害をなんとか交わし、ココナとミリルの間に割って入ったのだ。
「お前が・・・無事なら・・・俺は別に・・・良いんだよ・・・」
「そっそんな、嫌だよ、ガレットォーーー」
「へっへへへ・・・オレ様はな・・・罪滅ぼしが・・・したかったのかも・・・しれねぇ・・・今回ばかりは、俺も死を・・・覚悟したほうが・・・良いかもな・・・」
ココナは剣をガレットに刺したまま、動かない、自分の行った事に戸惑いを感じているのだ。
「ミ、リル・・・もし、また・・・この世界の技術で・・・生き返れたら・・・また・・・旅・・・しよう・・・ぜ・・・」
ゆっくり、ミリルの横に倒れていくガレット、ミリルも動く事が出来なかった。
倒れる行くガレットから、ココナの持つ剣がガレットから抜ける。
「うそ、ガレット、ガレット!!」
「ガレットさん!!」
離れていたシリルもミリル達の方へ近づく。
その光景をゆっくり下がっていくココナ。
「ココナ様・・・」
「キッシュさん、私は、間違っているのでしょうか、私は、誰もが、生きていける世界を作りたいだけなのに・・・」
「ココナ様のせいではありません、ココナ様の理想を邪魔をした者の、当然の報いです」
「そう・・・ですよね」
心の中ではそうだといっても、初めて自分の魔力で知り合いを殺したんだ、こんな迷いがあって当然だ。
しかし、ココナ様は優しすぎる、そこがココナ様のいいところなのだが・・・
そうキッシュは心の中で思った。
「ココナ様、そろそろ引き上げなければ奴等が何をしでかすか分かりません、ここは移動要塞まで引き上げ
 ここから離脱しましょう」
「そうですね、キッシュさん、お願いできますか?」
「はっ私の背中に・・・」
そういうと、キッシュは自分の力を引き出す。
やがてキッシュに赤い、大きな翼が姿を現した。
「ミリルさん」
キッシュに乗る前にココナはミリルに声をかける。
「次で最後だと、王様にも伝えて置いてください、さあキッシュさん、行きましょう」
「御意」
ココナを乗せたキッシュは己の翼で城から脱出し、キルティアの上空を舞う移動要塞へと撤退した。
「私のせいだ・・・ガレットが死んだのも、城がこんな目にあったのも、何もかも・・・」
「みーちゃん?」
「うう、うわあああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜」
城の崩れた側壁で、ミリルの泣き叫ぶ声が木魂した。

その31 娯楽人さん

「ひっく…ガレット…ガレットォ…」
ガレットがココナの刃に貫かれてから数分
傷口自体は塞がっていたがガレットが目を覚ます事はなかった
「みーちゃん…」
「私のせいだ…私のせいで…ガレットが……私のせいで」
「………」
(パァン!!)
「っ!?」
「みーちゃんのいくじなし!シリルだって泣きたいよ?でも泣いたって何も変わらないのみーちゃんだって知ってるはず」
「……シリル…」
「みーちゃんが来ないならシリルだけで行くよ…くーちゃんを止めるんだ、後はみーちゃんが決めてね」
シリルは姉の泣く姿を何時までも見ているのが辛かった
何よりそうなったことを悔いていたのはシリルも同じだったからである
そして、シリルはミリルを置いて走り出した
「…シリル…私…私は」
『貴女は何を守りたい?』
内なる九尾が問いかける
「私は…皆を…守りたい」
『なら答えは決まってるはずよ』
「……うん…シリル、ごめんね…こんなお姉ちゃんで…よっし行くよ!」
ミリルも走り出した愛する妹と親愛なる友人を助けるために…

〜ヴァンサイド〜
「魔力充填100%オーバー!」
「残存戦力の収容完了済みです!障壁再展開!」
「エルドラム召喚魔方陣形成完了!ヴァン様!準備整いました!」
「よし、では総員召喚の衝撃に備えよ!召喚士は私の詠唱に続け!」
「了解!」
「…惨劇の遺物か…また見る事になるとはな…ヴァン、ミスるなよ」
「分かってるよカイル…だがこれで終わるんだ何もかも…これよりエルドラム召喚の儀を開始する!」
「我、秩序と平和を望むもの也、かつての盟約により汝を召喚せり、ここに現れ秩序を乱し破壊を促すものを撃ち滅ぼさん事を…、ヴェクターリムス・アクラメンデス・トリーング・ビシュア!!」
ヴァンが召喚呪文を唱えると空に暗雲がたちこめ
各所の魔方陣が光り始めた………
〜ココナサイド〜
「敵軍拠点に変化あり!城の周囲に莫大な魔力反応が!!」
「馬鹿な…これだけの魔力だとメガクラスか!?相手も切り札を使ってきたという事か…」
「どうするんだ!魔王様も行方不明と聞くこのような状況で勝てるのか?!」
焦る兵士達は口々に恐怖を吐き出していた…
だかその恐怖も長くは続かなかった凛とした声が思考を止めたから
「落ち着きなさい…大丈夫です」
「魔王様の前で不穏な発言は慎め」
そこにはココナとキシュアが立っていた
兵士達の焦りもココナの声でかき消されたようで各自の仕事を始めだした
「魔力反応依然増大!城の上空に暗雲が発生しました!」
「前方魔方陣より召喚です!…あ…あれは…」
そこには絶望的な光景が広がっていた
兵士達は怯えた、誰もが知っているキルティアの最終兵器が目の前に現れたのだから
しかし、ココナは怯えない、
それは魔王としての強さでもあり、ココナ自身の強さでもあったからだ
「全兵士に連絡します、現状で死にたくない方は降りなさい」
「魔王様!?今何と…!?」
「死にたくない者は艦を降りろと言ったのです」
「で…ですが…」
「聞こえなかったのですか…?」
「いいえ、…分かりました、全艦に告ぐ!死を恐れる者は退艦せよ!、繰り返す、死を恐れる者は退艦せよ!」
しかし、数分経っても誰も持ち場を離れなかった
そう、誰もがココナと運命を共にしようとしている証拠であった
「魔王様、私も含め全員魔王様に付いていきます」
「…もう…皆さんには勝てません…では、全軍に命じます!総攻撃開始!目標前方召喚兵器5体!!」
「「「」了解!!」」」
そして、最終戦争のゴングは鳴りひびいた……

その32 せいばーさん

〜キルティア城外壁前〜
「ギャォォォォォォオ!!!」
「シャァァァァァ・・・」
大量の魔獣が結界を破ろうとしている
それを阻止しようとキルティア軍の召還獣が戦っていた
ズドォォォォォォォオォォォォォォオ!!!!!!!!!!!!
全長五ヤオはある城壁の前に五本の光の柱が立つ
足元には巨大な魔方陣が展開されていた
ズズズズズズズズズズズ・・・・・
光の柱が消えるとそこには巨大な五体の鬼が得物を前に目を輝かせていた
「「「「「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」」」」」
それぞれ口から魔力砲を放ち、大剣を振り回し、敵を踏み潰した

「キルティア城前に巨大召還獣が出現!」
『こちら偵察機イーグル!敵召還獣は全五体、周囲に強力な障壁を感知!』
「敵巨大召還獣データありません!」
「魔力が強すぎます!全魔力量測定不能です!」
『司令部!どうなってんだ!?コイツ精霊砲が効かないぞ!?』
「くっ・・無駄な足掻きを・・主砲を敵召還獣へロック!
チャージ完了しだい発射してください!」
ココナがオペレーターに指示を出す
「こいつ等・・まだこんな物を・・っ!」
「敵召還獣をロック!距離3ヤオ!」
「魔力炉臨界!主砲チャージ完了!」
「主砲発射まで5・・4・・3・2・・1・・」
キィィィィィィィ・・・
「撃てーーーー!」
シュバァァァァァァァァァァァァァアアア!!!!
赤い閃光が鬼目掛けて放たれる
しかし
「グガァァッァァァァァァァァァ!!!」
バシィィィン!!
鬼にあっさり弾かれてしまう
「なっ・・」
「馬鹿な・・っ!結界貫通機能さえ効かないだと・・?」
「くっ・・召還獣への攻撃は中止!結界を張って動きを抑制!
全部隊を城の攻略へ回してください!この戦争、必ず勝ちます!」
「「ハッ!」」

〜ルティサイド〜
「・・・」
ミキヤは本のページを捲っている
何か考え込んでいる様だった
「・・ルシファー・・か、まさかこんなもんが混入してるとは・・」
「ご飯出来たぞ〜」
「あっあぁ、有り難う」
「・・本の中はどうなってる?」
ルティがミキヤの持っている本を覗き込む
「うわぁ・・泥沼ねー、戦争の真っ最中じゃない・・」
ルティの頭がミキヤの目の前に飛び出してくる
ルティの体臭がミキヤの鼻をくすぐった
「(・・う゛・・これは精神の状況によろしくない・・)
それよりルティこの本に思わぬ害虫が混ざってたぞ」
「害虫?」
「あぁ、モグ・・ちょっと・・ン・・した精神体なんだがな・・
そいつが話を思わぬ・・モグ・・方向に持って行った」
「食べながら喋らないでよ」
「む、すまん・・ゴクン」
「精神体って?魔法生物なの?」
「魔法生物・・とは違うな、一種の幽霊みたいなもんだ
いつの間にか本の中に混じってたみたいだ、ほらこのルシファーって奴、自分で『この本から出られる』って言ってんだ
そこが気になってな、調べてみたらそうだと解った
どうやら、ココナちゃんが本の中に入る前から世界は形作られてたらしい」
「ソイツが本から出たらどうなるの?」
「とんでもない魔力と力を持ったバケモノがココナちゃんの体を使って何かしらのアクションを起こすだろうな、これは確信だ」
「・・っ!」
「だからそれを阻止する為にも絶対にこの物語をハッピーエンドにしなきゃならない、その為にはルティ、お前の力が必要だ」
「解った」
「よし!そうと決まったら早速始めるぞ
そこの魔方陣に立ってくれ」
ルティはコクリと頷くと魔方陣の上に立つ
「Magic rite standby」
空中に水晶の様な物が現れ魔方陣に魔力を注ぐ
「これは?」
「儀式をサポートする為のマシンだ、かなり複雑な術式なんでな、サポートがいるんだ」
「Noise 0.15% Field satbility」
「調整完了・・行けるぞ」
「ミキヤ・・ちょっと良い?」
「ん?何・・(グイ」
チュ
「!!!!!!!!!」
「Caution! Noise 63%!」
「なぁっ!おっおま・・」
「勘違いしない!今のは感謝の意味なんだから!
別に好きとかそーゆうんじゃないからね!?」
「・・・(ツっツンデレ!これがツンデレって奴か!?)」
「ツンデレ言うな!ほら!ノイズ修正して!」
「はっハイ!(心読まれた!?)」
「Noise 54・・23・・0.12% No problem」
「ふぅ・・じゃぁ!言って来い!」
「うん!」
ルティを光が包む
「・・・ミキヤ」
「ん?何だ?」
「私が帰ってきたら・・私と・・」
バシュゥゥゥゥン・・・っ!
こうしてルティは本の中へと旅立った

その33 ゲイトさん

本の世界へと入ったルティ、ミキヤの使った魔道機械で発生させた魔力がルティから離れていく。
「ここは、お城の中?」
本の開いているページから乱入したせいか、そこは本の世界に描かれていた城の中のようだった。
ルティが周りを見渡す、右側に顔を振り向いた時、ミリルの姿が見えた。
「ミリル!!」
直にミリルの後を追うルティだった。

一方外では、戦艦と、召喚兵器の攻防戦が続いてた。
キルティアに封印されし召喚兵器、それは圧倒的な力で魔王軍の戦艦を押していた。
その様子に嬉しさと悲しさが混ざり合うヴァン。
これしか方法はなかったのか、心の中でそう響わたる。
エルドラムの力は強大で、都市一つを飲み込まんとする威力を持っている。
だが、そのエルドラムをなんとか制御と召喚が出来るのはキルティア王の血のを持つ王族だけなのだ。
あの脅威なる姿を見るたびに思う、本当にこれでよかったのかと。
エルドラムは戦艦へと向っていく、このまま決着が付けば・・・そう思った瞬間だった。
「ヴァン様、戦艦から複数の魔王軍と魔物が再び城下に転送されています!!」
「焦るな、戦艦は召喚兵器が食い止めている」
先ほどは、暗闇に乗じた闇討ちの上、あの船が脅威となったため、引かざるを得なかったが今度は違った。
魔物や魔王兵との白兵戦だ、そっちがそれならこっちも受けて立つ、ヴァンは、そう心に決めた。
「全傭兵と兵士全てに通達する、これが最後の戦いだ、転送してきている魔王軍と最後の戦いに入るぞ!!」
ヴァンの声に傭兵達も声援を上げる、そして、皆、武器を手に取り、城と城下を繋ぐ門の前で待機し始めた。
「魔道士や弓兵は城壁の上から支援を怠るな!!」
「ヴァン・・・」
「カイル・・・死ぬなよ」
「生きて戻るさ、何せ、俺はお前の家臣だからな」
「違うだろ、親友だからだろ」
ヴァンとカイルは互いに腕を組み合い、それを解くと、城門へと向っていった。
「この戦争、絶対に勝つ、僕等が生きる為に、魔物達にこの土地を譲るわけには行かない」
そう、気合を入れなおしたときだった。
「ヴァンさん!!」
「貴方は、シリルさん?」
部屋に飛び込んで来たのは、シリルだった。
「お願いです、ヴァンさん、シリルを、あの船の中に転送してください!!」
「何を言うのです、危険すぎます、あの船は召喚兵器が相手をしています、シリルさんは別の部屋で傷の手当てを・・・」
「あの中にシリルの友達がいるの、助けたいの、お願いします!!」
シリルは精一杯お願いしたが、ヴァンはどうしてもそれを許可しなかった。
「友達は私が救います、だから落ち着いて」
「嫌、シリルが助けに行かないと駄目なの、シリルを待っているの!!」
ここまで意地を張るシリルは恐らく初めてだろう、ヴァンは杖を持ち、シリルの腹部を殴って気絶させようとしたが・・・
「シリル!!」
「みーちゃん!?」
ミリルが部屋に割り込んだ。
そのミリルの瞳に迷いはない、しかも、尻尾の色や髪の色は少し白くなっているが、自我はしっかり保っている。
九尾がミリルを認めた証拠だった。
「良かった、まだここにいて、シリル、ココナちゃんを助けよう」
「みーちゃん・・・」
「分かってるよ、ココナちゃんは魔王じゃない、私達の、友達・・・でしょ」
シリルに笑顔が出てきた、ミリルもまた、全てが吹っ切れた感じだ。
「ヴァン、お願い、私達をあの船に転送して」
「ミリルさんまで、危険すぎるといっているでしょ?」
どうしてもミリル達の言葉を否定するヴァン。
当たり前だ、外では召喚兵器が暴れ周っている。
仮に彼女達を船に送ったとしても、エルドラムが船を破壊すればミリルさん達だって危険が及ぶ。
「ここでじっとしている事をお勧めします、大丈夫、貴方のお友達は私が・・・」
「あの化け物で戦艦の中にいる人達も救えるって言うの!!」
ヴァンの口が止まった。
「シリルも言ったかも知れないけど あの中に私の友達がいるの、彼女を救えるのは生きているときだけなの、化け物に船を破壊させてから救出に行っても手遅れって事もあるのよ!!」
ミリルの激がとぶ、その言葉に遂にヴァンも折れてしまったようだ。
「分かりました、でも、出来れば貴方達をそんな危険な賭けに使いたくなかった」
「ヴァンさん」
「今貴方を転送してもあの戦艦から脱する事は難しいでしょう、私が出来るのは貴方を戦艦へ送り届ける事、
 しかし連れ戻す事は出来ません、責めて、転送魔法が使える方がいれば」
「なら私が行くわ」
その声にミリルとシリルも振り返った、何処か聞き覚えのある声だった。
その声の主は、部屋の外に立っており、黄土色の髪に透き通った蒼い瞳を持った少女だった。
二人は彼女が何者なのか直に分かった。
「ルティちゃん!!」
「ちーちゃん!!」
その声ににっこりした後、ルティは話を続けた。
「私なら転送魔法も使えるし、自分の力で戦えるわ、私をつき合わせて」
「しかし、出来れば外の支援に向ってほしいのですが」
「兵はあれだけいれば大丈夫でしょ、それに森の集落に住む護人達も、世界の為に戦うって今城壁の上に立って待ってるんじゃない?」
少しでも兵が欲しいヴァンと比べ、ルティは今の兵の人数を把握していた。
とはいえ、そんなのは半場嘘だ、正当な人数なんてルティは数えてない、だが互角に遣り合える人数はいるはずだとルティの中では確信していた。
「貴方は貴方の軍だけが戦っているんじゃない、この島に・・・いえ、この世界に住む者全てが、貴方に手を貸しているのよ」
その言葉にヴァンは印象を受けた。
皆が戦っている、この世界の為に皆・・・
ヴァンは目を瞑り、自分の心に問いかけた。
そして、ヴァンの中に答えが出た。
「分かりました、貴方も転送します、ですがこれだけは約束してください、必ず、戻ってくると」
3人が頷く。
ヴァンが、魔法陣を張る、呪文を唱えようとした時だった。
「ヴァンさん、シリルのもう一人の友達、ガレットさんが西の城壁で倒れています、お願いです、助けてあげて」
「分かりました、直に救出に向わせます、そろそろ転送魔法を唱えます、魔法陣の中へ」
シリルは頷くと、ゆっくり魔法陣へ戻っていく。
やがて魔法陣が輝きだすと、ヴァンは呪文を唱え始めた。
「我、汝が望む場所へ転送されん事を望む・・・呼びかけに答えよ、空間を操る者よ、我、望むは、汝らを転送する事なり」
3人の周りに蒼い物が包み込む。
「絶対に戻ってきてください、汝らを指定せし場所へ転送せよ、ゲーティング・テレポーション!!」
ミリル達を覆う蒼い物が光りだすと、その場から3人ごと消え去った。
「信じています、ミリルさん、だから、死なないで・・・」
そう祈るヴァン、同時に、はらっと紙切れが落ちる。
キルティアの古い言い伝えだった。
"白銀の勇者現れし時、魔の者達を打ち滅ぼす事だろう"
そう紙に書かれていた。
ヴァンは心の中で、白銀の勇者、それはあの拳士、ミリルさんなのかもしれない、そう思いつつ、その紙を握り締め、懐に戻す。
城門の見える窓に立ち「開門、これが最後だ!!」大きな声でそう叫んだ。

転送完了まで時間がかかるのか、空間内で3人は会話をしていた。
「ちーちゃんが本の中に入ってくるなんて思わなかったなぁ」
「本を製作した人に頼んだのよ、最も、彼でも貴方達を物語の中から出す事は出来なかったけどね」
「え? じゃあ出る方法は」
「これを完結させることで間違いはないわ」
ほっと胸をなでおろす反面、不安がよぎった。
本を完結させる、それは魔王を倒す事。
だが魔王はココナだ、今のココナをミリル達は倒す事は出来るのか。
否、救う事が出来るのか。
それの鍵を握っているのは恐らく、ミリルだろう。
だが、当のミリルには迷いの顔は無い、全力でぶつかる、そして彼女から魔王という名の称号を引き離す。
そう心に決めていた。
そう確信したと同時にシリルが口を開いた。
「ちーちゃん、ガレットさんが・・・」
「事情は、上(本の内容)から見ていたわ、悲しいわね」
「ヴァンさん達で助けてあげられるかな?」
「酷い言い方だけど望みは薄いわ」
「ルティちゃん!!」
「ねぇ、二人とも、死んだ人を死者の国から連れ戻す事って可能だと思う?」
「あっ」
「例え本の世界でも、その辺は現実と変わらないの」
悲しい事を口に出すルティ
「だから犠牲者をこれ以上増やさないためにも、私達が決着をつけないと」
「そうだね」
「そろそろ戦艦の格納庫に着くわよ、開錠魔法は私がするから開錠した後の敵をミリルちゃん、お願いね」
「うん、懐かしいなぁ、あの頃を思い出すわ」
昔を思い出すミリルだった。
3人は戦艦の中へ入る。
本の物語はクライマックスを迎えていた。

その34 せいばーさん

ガチャン・・ギィ・・
ヴーッ!ヴーッ!ヴーッ!
「二階三番ドックにて侵入者を感知!
戦闘員は直ちに侵入者を排除せよ!」
「くたばれー!」
ドカーーン!
半九尾化したミリルは恐ろしく強かった
何人もの重装兵士を一撃の下に粉砕した
「わははは!!粉砕!玉砕!大☆喝☆采ぃぃぃい!!!」
兵士の後は未発進の戦闘機を次々に破壊する
「くそっ!何所のカイ●ーマンだアイツ!」
「オイ!ガンナー呼んで来い!サモナーもだ!」
通信兵が連絡を取っている
「何所を見ているのかしら?」
「!!(ドカッ)ぐふぅッ!」
ルティが九尾化したミリルに負けずとも劣らない速さで攻撃を仕掛ける
「いたぞー!侵入者だー!」
「ちーちゃん!みーちゃん!下がってください!
フェンリル、リミッター解除!レベル2!」
ジャコンッ!
「All right! Esperance arrow reservation!
Countdown start!10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・0
Esperance arrow!」
「エスペランス・・アロォォォォォォ!!!」
キュィィィン・・シュバァァァァァァァアアア!!!!!
戦闘を苦手としていたシリルまでもがこの火力
今後の魔法少女の未来は・・じゃなくて
実はルティがミリルとシリルに
「これ、もっておきなさいミリルはこっちのペンダント
シリルはこの杖」
「何これ?」
「んー、強いて言うならプロアクシ●ンリプレイ?」
「チートかよ」
みたいな具合でアップグレードパーツを貰っていたのだ
「3時の方向に敵5体です!」
「「了解!」」

二階第六ドック
「「「ハァ・・ハァ・・ハァ」」」
「やっと三階か・・ココナは次の階だよ!」
「うん!一気に行っちゃおう!」
その時
「そうはいかぬ、貴女達には此処を通す訳にはいかぬのだよ
なぁ、キッシュ?(CV:バルバト●の人)」
「えぇ、グレン様」
「!!、・・・キッシュ・・っ!」
ミリルの言葉に憎悪の念が籠もる
「貴方がキッシュね、後そこのグレンとか言う人、そこをどいてくれない?」
「無理な相談だ・・、我々の力はココナ様の為にある
自らの主人を殺めようとする輩を通す分けなかろう」
「そう、要するにロリコンてことね」
「違う!決してロリコンではない!大きい人も好きだから『ロリコンでもある』が正しい!」
思わず自らの趣味を暴露するグレン
「アンタの趣味は聞いてない!見た目とギャップがありすぎるぞこのデカブツ!」
ミリルが突っ込む
「まぁ・・退かないなら、力ずくで押しのけるまでよ」
「でもちーちゃん、あの人強いよ」
「わかってる、でもね、私今ちょーっとイライラしてるのよねー(ニコッ」
ルティが怪しい笑みを見せる
「(ん・・?この感覚・・どこかで・・)」
ミリルは背筋が凍る様な感覚を覚える
するとルティの髪と瞳の色が変わり始めた
「あっ・・思い出した・・、シリル隠れるよ」
「え?何でですか?」
「いいから・・」
「フフフフ・・・」
ルティが笑いながら手を横に突き出すと手のひらから巨大な大剣が出てきた
「「!!」」
「フォビア・・久々に暴れましょう・・」
ブォン・・
光波状の刃の中心から大きな一つの目が出てきた
ルティの“天から舞い降りた英雄”以外の二つ名
それは“エルシアの死神”と言う物だった
とある作戦においてルティが普段からは絶対に考えられないような残虐性を見せた為にこのあだ名が付いたと言う
「行くぞキッシュ、この女、只者ではあるまい」
「解っております」
「さぁ・・遊びましょう・・」
この二人は地獄を見る事となった

その35 娯楽人さん

〜ブリッジ〜
「っ!?ブリッジ下部に高エネルギー反応!場所は第6ブロック!侵入者がいる区画です!」
「同ブロックより爆発及び火災発生!消火剤散布します!」
「いくらミリルさんでもやりすぎのような…まさか…嫌な予感がします…」

〜ミリルサイド〜
「この程度?こんなので私達を邪魔しようとしてたの?片腹痛いわ」
「うぅ…化け物めぇ…」
「うるさい、ココナは返してもらうわよ……じゃあ行きましょミリル、シリルちゃん」
大剣は空中に消え髪と瞳の色は元に戻ったが…
「…みゅぅ…(ガタガタガタガタ」
「あはは…じゃあ行こうか…はぁ」
シリルはめちゃ怯えていた……
ミリルは苦笑いするしかなかった、敵にしたら怖いと思いながら

〜再びブリッジ〜
「第2、第3精霊砲大破!シールド出力30%ダウン!」
「メイン・サブジェネレーター出力、共に機能低下!このままでは持ちません!」
「くっ…もうダメなようですね、自動操縦に切り替え後総員退艦してください!」
「魔王様は…?」
「私は侵入者を排除してきます…皆生きてくださいね!」
「魔王様……分かりました…総員各自脱出ポッドを使用し退艦せよ!」

『小娘、何故他者を労る、何故他者を優先する、』
「……私が一番好きな人がこうしてるからです」
『解せぬ…』
「理解できなくてもいいです、私は私、ココナ・アンダンテだから…」

〜ミリルサイド〜
「着いた!…あれ?」
「誰も居ないです…」
「おかしいわね…位置的に操縦室のはずなんだけど」
(やはりご主人様だったんですね)
「ココナ!」
「立体映像…?ココナどこにいるの!」
(私は逃げも隠れもしませんそこのはしごから上がってきてください…最後の決着をつけましょう)
「…くーちゃん…苦しそうだった」
「…シリル…助けてあげよう私達で!」

「……来ましたね…シリルさん…ミリルさん…そしてご主人様」
「ココナ…どうしても戦わないといけないの!?」
「くーちゃん!シリル達友達だよね!?もうやめよう!」
「……ココナ…本気なのね?」
「はい…ご主人様…私は本気です…だから…止めてくださいね」
「くーちゃん…泣いてるの…?」
シリルは見た確かにココナの頬を伝う一筋の流れを、だがココナは止まらない
「泣いてなんかいません…では参ります!」
「我が魔力により、その姿を形付けよ、我はその武器を扱う事を望む、汝の力、我が望む姿へと、変えたまえ、魔刀、具現化、いでよ、テシス&フィシス!!」
「お仕置きが必要ね…ココナ」
ルティの髪と瞳の色が変化する
「フォビア…ココナに躾って奴を教えてあげましょ」
「ちーちゃん!くーちゃん!こんなのおかしいよ!くーちゃんだって嫌なんでしょ!」
「シリルは下がってて!拳に込める、紅蓮の炎、燃え上がれ!フィフスナックル!」
「みーちゃんまで……こんなの…嫌だよ…」
シリルの声はココナには届かず、最終決戦の幕は上がる…

その36 ゲイトさん

戦いは始まった、2人はココナに向う。
ミリルとルティの拳と刃が同時にココナに向う、だが、すでにそこにココナはいなかった。
「・・・流石に2対1では厳しいですね」
何とか裏へ回り込んだが、一人相手にしているときにもう一人がかかってくれば非力なココナでは耐える事はまず難しいだろう、だが、現状は変わらない、責めて誰か着てくれれば・・・
等と、考えていると、ココナが上を向くとルティが突っ込んで来ようとしている、だが、ルティの様子がおかしかった。
まるで、自分の持つ武器を振り下ろすのをためらっているようだ。
それを知ったココナ、今のルティでは前のミリル同様、ココナに全力で戦うはおろか、刃を下ろすことすら難しいのだ。
それを悟ったココナは、ルティの持つ武器に狙いを定めた。
「ご主人様・・・そんな気持ちじゃ、私は倒せませんって、ミリルさんにも言いましたね、そういえば あはは」
ルティの武器にフィシスを向け、その一本で出せる魔力をルティの大剣にぶつける。
「くっ」
それを受け止めるルティ、だが・・・
ピキッ
「やばい、フォビアが持たない!!」
直にフォビアを手から離すルティ、魔力に弾かれ、フォビアはぐるぐる回り、床に刺さった。
「くっ」
ココナの目の前で膝を突いて着地するルティ、ココナは軽くルティを持ち上げるとシリルのいる方へ投げ飛ばした。
「ご主人様はそこで見ていてください、私がミリルさんに勝つ姿を」
シリルの肩を借りて立ち上がるルティ、シリルの体からもルティの振動が感じられた。震えていたのだ。
「なんで、どうしてこんな事をするの、ココナ、貴方は、こんな事を・・・するような子じゃないのに・・・」
押し殺していた感情がバッと吹き上がる。
「ちーちゃん」
何も出来ないシリル、彼女の胸も悔しさで一杯だった。

「さぁ、次はミリルさんですよ」
ミリルの前に立つココナ、先ほどのルティの戦いを見てからかミリルはココナに質問をした。
「ねぇココナちゃん、貴方、どうして私に勝ちたいの?」
「勝ちたい?違います、私は主力である貴方達を倒してこの争いを有利に持っていこうとしているのです」
「それが貴方の望む事なの?」
ミリルには、理解できないところがあった。
ココナが戦闘を宣言する前に見せる涙、戦いを始めたときは決して泣かない、ならばココナもこの戦いを望んではいないのでは?
だが、その希望も軽く打ち砕かれる。
「ええ、私が望む事です、貴方を倒す事で、私はもっと強くなれる、自分に自身を持つことが出来る、私にとってミリルさんは強大な壁なんですよ」
その答えにミリルも吹っ切れた。
そして、ルティから貰ったペンダントを外し、ポケットにしまう。
「なら私も全力で戦う、貴方を倒すためじゃない、助けるために」
「ミリル、あんた・・・」
ルティがぼそりと言う、ルティが足りなかったもの、それは、ココナを倒すために戦うのではなく、ココナを助けるために戦う事、その気持ちの切り替えだった。

「それが、ココナ様の目的、魔王様になったとき、どうしても越えたい者がいると聞いていました、それは貴方ではなかった」
「貴方は!!」
突然のルティ達の後ろから声が響く、ルティ達の後ろに立っていたのは、キッシュだった。
傷は深いくせに何事もなく立っている。
「あの傷で良く立っていられるわね」
「暴走したような力で私もココナ様も倒せはしません、我々は、残された希望を懸けて戦っているんです、それと比べるなら、このような傷、生ぬるい」
「なら、今度はたってられないようにしましょうか?」
「今、俺とお前らがやる事は戦う事じゃない、この決着を見届ける事だ、魔王が勝つか、白銀の勇者が勝つか・・・」
「ねぇ、キッシュさん、二人の戦い、止められませんか?」
シリルがキッシュに聞き出す。
「出来ぬ事だ、今や魔王様とミリルは二人の領域にいる、俺やお前らが入れば弾き飛ばされる」
「そんな・・・」
「見届けるんだ、どちらかが倒れるまで・・・」
キッシュはシリルの肩に片手を乗せる、それと同時にシリルの目から涙が零れた。

「その意気ですよ、ミリルさん、私もようやく全力で戦えそうです」
「ココナ、行くわよ、九尾よ、私に力を!!」
髪と尻尾が白色になるとココナに向っていく。
ココナも同じようにミリルへと向っていく、彼女達が近づくと同時に響く短剣と武具の金属音。
止まる事のない二人の動き、魔力のぶつかり合い。
どちらも互角だった、ミリルには迷いが消え、ココナには勝ちたい気持ちで一杯だった。
「ココナを助ける、自分が倒れそうになっても・・・」
「ミリルさんに勝ちたい、何時までも守られる側は嫌です」
再び魔力がぶつかり、煙が湧き出た。
煙の中に2人はいた、息も絶え絶えである。
「次で決まるな・・・」
キッシュがぼそりと口を開く。
「ダークエクスペクティション、ブレイカァーーーー!!」
「紅蓮の炎、燃え上がれ、フィフスナックルゥーーー!!」
煙の中二人の技がぶつかり合う、その中央で強い衝撃波が発生した。
ルティやキッシュ達は迫り来る風圧に顔を腕で覆う。
煙が収まった先にはミリルが尻餅ついている、一方のココナは、ミリルの前に立っており、テシスをミリルに向けている。
だがテシスもフィシスも魔力がないのか、刃物と変わらない状態になっている。
「こっこれで、終わりです・・・よ、ミリルさん・・・はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ・・・負けたよココナ」
恐らく、わずかな差だろう、魔力もほぼ互角だった、だが、ここまで来るまでの疲労がココナに勝敗が上がったのだろう。
だが、ココナも様子がおかしかった。
もう勝てる、その筈なのに中々ミリルに刃を通さない。 さらに、ココナから涙が止まらない。
「あっあれ?どうしたんでしょう、目が霞んで・・・ミリルさんをしっかり見えない、あっあはは・・・はは」
そう言って刃を向けたまま、動かない。 まるで助けを求めているように・・・
始まるときもそうだ、こうして流す涙、本当は彼女は戦いたくはない、殺したくはないのではないか?
そう思ったミリルは自分の最後の気力で立ち上がり・・・そして・・・
ギュっ
「!?」
「ココナちゃん、もう無理だよ、いくら勢い任せでも、友達は絶対に斬れないよ」
そう言って、ココナを抱き寄せる
「だって、私達、友達じゃん」
その言葉にココナが震える、自分の中にある物が蘇るのを感じ取ったように。
「ミ、リル・・・さん」
「もう、無理して私達に魔王を演じなくて言いの、もう止めよう」
「駄目、なんです、私の中にある魔王の力が、私を求めて、貴方と戦う事を・・・このままだとミリルさんを殺しちゃう、止まらないんです、自分の中の魔力が・・・」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、口を開くココナ。
「私がご主人様やミリルさん、シリルさんを殺してしまう前に、ミリルさん・・・私を殺してください、」
「ココナ!!」
「ひゃう!」
ミリルがココナを強く抱きしめる。
「くっ苦しいです、ミリルさん」
「諦めちゃ駄目、私達がいるから、自分を信じて、こんな力、いらないって」
「くっ!?」
ミリルの励ましとココナの頑張りが通じたのか、ココナの体から黒いものが、床へと流れ落ち、ペンダントにヒビが入っていく。
「ミリルさん・・・私」
「頑張ったね、ココナ」
これで、魔王はいなくなる、その周りにいる誰もが思った。
たった一人、魔王の執着心を残すものを除いて。

突然、床の模様が変化した、だが、床だけではない、壁、天井、窓さえも変化していく、その模様は、まるでそこから別次元になったかのように、宇宙空間を思わせた場所だった。
「一体何が?」
「ココナ、ミリル!!」
嫌な予感が悟ったルティ達もミリルのところへやってくる。
「これは、一体?」
「分かりません、これは、私の力じゃありません!!」
この空間の事を全否定するココナ
「じゃあ一体誰が?」
「我だよ、出来損ないと異星の3人よ」
聞き覚えのある黒い声が聞こえる、それはかつて、ココナの中にいた人物だった。
「やっとこの時が来た、貴様の魔力と我の分離の時が!!」
黒い異物らしきものがココナ達の少し離れたところに集まりだす、そして、本体を作り上げる。
その姿は、黒い魔服に黒いマント、白い手袋に黄色い髪、ココナ達の2倍あるだろう背の高さとなり、肌色の皮膚色を染める。
「我の名は魔王ルシファー、かつてこの世界の支配せしものであり、この本に閉じ込められし、破滅の堕神なり」
「「「「なっなんだって〜〜!!!」」」」
4人が声を上げた。
「ルシファーどういうつもりです、私から魔王の力は私が継続しているはずです!!」
「何か勘違いをしていないか? お前がはがしたのは我の呼び声と我の魔力だ、それに、数日お前の中にいたのだ、魔王の力が我に回ってもおかしくあるまい?」
「そっそんな・・・」
「我の望みは叶った、だがやっておかねばならぬことがあるな、まずは貴様等の排除、次に血縁の王の始末・・・ククク今から開かれる虐殺ショーだ」
顔を抑えて笑うルシファー
「貴様の思うようにはさせんぞ、ルシファー!!」
「そうよ、貴方の好きにはさせないわ、皆これが魔王との最後の決着よ!!」
ミリルが声を出す、魔王との真の戦いが始まる。

その37 せいばーさん

キルティア城内司令部
「敵戦艦から複数の脱出ポッドの射出を確認!」
「各着地点に兵を派遣しろ!中のものは全員捕らえるんだ!」
「了解!こちら司令部!各部隊に通達!敵戦艦からの脱出ポッドを確認した、発見次第中の敵兵を捕らえろ!」
『(ザザッ)こちら地上観測隊!敵戦艦上部より強力な魔力反応を確認!映像送ります!』
「これは・・っ!」
「ルシファー・・?」
ヴァンが驚愕する
モニターに映っていたのは先代より『奴を復活させてはならぬ』と言われていた人物そのものだったのだ
「馬鹿なっ!奴はペンダントに封印されていた筈・・っ!
それにあそこにいるのは・・」
ミリルだった、髪と尻尾の色が変わっているものの
そこに映っていたのは紛れも無くミリルだった
「くっ・・残存している空挺部隊は急いで敵戦艦上空へ迎え!そこに居る亜人をフォローしろ!」

〜ミリルサイド〜
「さぁ・・、少しは楽しませてくれるのだろう?」
ルシファーの掌にどす黒い魔力の塊が出来る
それをミリル達に向かって放った
「くっ・・このっ!」
ミリルが強力な魔弾を避ける
「フェンリル、対魔法障壁全力展開!」
「All right! Anti magic barrier full force!」
シリルが障壁を展開し魔弾から身を守る、その後ではルティが魔法を詠唱していた
「我が名において召還に答えよ、光の王!闇の女王!来たれ、光の精霊50柱!集え、闇の使徒50柱!汝、敵に向かい、敵を破壊せよ!
セリウス・グラ・フィオーリス!!!」
ルティの背後に計100発の光と闇の魔弾が展開される
それを拳に収束させると、拳を前に突き出し、魔法エネルギーの塊を打ち出した
「ぬぉっ・・!」
流石に効いたかと思いきや
「ふむ・・中々美味な魔力だ、お主、我の慰み者にでもしてやろう」
「うそ・・、効かない?・・・いや、吸収したのか」
「その通り、今の我に魔法は聞かぬ、大量の召還獣と散った戦士の念がはびこる
強大な魔力溜まりとなったこの戦場こそ我の理想郷・・
この戦いが終わり次第、本の外も同じ様にしてくれよう」
ルシファーは不気味な笑みを浮かべる
「くそっ・・」
ミリルが顔を顰める
ギュォォォォォォォォォォオオン!!!
三機のキルティア軍戦闘機がルシファーを掠める
「むぅ!?」
「なっ何!?」
「こちらキルティア空軍第三空挺部隊です!援護します!」
「ちっ・・五月蝿い蝿共め・・
まぁいい・・これでお遊びはお仕舞いだ、潔く散れ」
ルシファー背後に無数の光弾が出現する
「くっ・・」
ルシファーの攻撃がミリル達を包もうとしたその時
「させるか!
戦士ヴァリアを守りし七柱の精霊よ!此処に集いて、我を守れ!
ヴァリアズ・リア・ライガァァアス!」
キッシュが上級魔法障壁を展開させた
しかし
「甘い、その程度か?元魔王の側近よ、
ココナよ、側近と言う物は有能な者にやらせるものだ」
ルシファーの魔法の前には精霊障壁も無駄だった
キッシュをルシファーの魔法が容赦なく貫く
「■■■■ーーーーーーーーっ!」
声にならない断末魔の叫び
キッシュは静かに息絶えた
「キッシューーーーっ!」
ココナがキッシュの元へ駆け寄る
「キッシュ!・・・・・っ!」
ココナの目に憎悪の火が灯る
「何だ?たかが側近一人の命、惜しくは無いだろう?」
「ルシファァァーーーーーー!!!!」
ココナが魔力を込めたテシスとフィシスを構え
目の前の敵に突進する
「ココナ!駄目!」
ルティの静止空しくココナは感情に任せてルシファーに特攻する
「らぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
早かった、体の動きがぶれて見える、ハセヲも吃驚の猛攻だった
しかし、あっさりとその攻撃は片手で弾かれてしまう
「フン、激情任せの攻撃ほど脆いモノは無いな」
ドサッ
「くぅ・・くそ・・・うっ・・」
「(このままじゃ皆やられる!・・クソッ、どうしたら・・
・・・・ん?まてよ・・?
『ミリルさんに質問です、一つの果物しか入らない箱に十個の果物を入れたらどうなりますか?』
・・・そうだ!)」
「ココナ!ほら、起きて!」
「でも・・キッシュさんが・・っ!」
「その仇を今取るんでしょうが!シャキっとしなさい!魔王でしょ!?」
「はい・・っ!で、作戦はあるんですか?」
「ある、よく聞いて・・・つ・・・力・・容範囲・・攻撃・・」
「かなり無茶な気がするんですが・・?」
「でも今はこれしかない!やろう!」
ドンッ!
二人を強大な魔力が覆う
「ふん、何か策がある様だが・・無駄だ、諦めろ」
「問題よ、ルシファー!」
「?」
「10の魔力しか入らない器に100の魔力をブチ込んだらどうなる!?」
「何が言いたい?」
「行くよ!ココナ!」
ミリルの尻尾が9本に増えた
一気に魔力が膨れ上がる
「はい!」
テシスとフィシスに魔力を込める
「何をするつもりかは知らんが・・無駄だと解らんのか、
我に魔法は効かぬ、それは先程経験した筈だ・・
まぁいい、負け犬の遠吠えと言う奴かな?」
「調子乗ってられんのも今の内だよ!シリル!」
「ハイ!支援します!フェンリル、障壁展開!」
「All right! magic barrier full force!」
「私も行くわよ!フォビア!」
「Yes ser!」
「・・・っ!この魔力量は・・!?やらせん!」
ルシファーが魔法を放つ、しかしシリルの強力は障壁に弾かれてしまう
「来たれ、九尾の炎!紅蓮の破壊者!その身を委ね、破壊を齎せ!フレイムゥゥ・・バスタァァァァァアアア!!!!」
「ダークエクスペクティション・・・・・ブレイカァァァァァアア!!!!!!」
「我が名の元において召還に応じよ、精霊王!
吹き荒れろ暴風!鳴り響け雷壁!永久(とこしえ)の闇!聖なる光矢!大地の逆鱗!五大王よ、この刃に宿れ!ゴッドレイジィィ・・スラッシャァァァァァアアア!!!!!」
三つの大魔法がルシファーに迫る
「ぐぅぅ!?がっ・・ヌォォォォォオオオオ!!!!」
ルシファーもギリギリの所で持ちこたえる
しかし、彼の体質が彼の運命を決した
「正解は・・その器は壊れる!だよ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
そうして、真の魔王は消え去り
長きに渡る魔王との戦い(ゲーム)は終わりを告げた

「ココナー、そこの本取ってー」
「はい!ご主人様!」
「シリルー私ちょっと出かけ・・キャア!」
「うわぁ!だっ大丈夫ですか!?ミリルさん!?」
「ちょっと〜気を付けてよ〜フィロ君〜」
魔本騒動(と言っても少数しか関わってないが)から数ヶ月
その世界が本の中だと知らずに世界を統治しようとしたココナはしばらく元気が無かったけど、今は元気ハツラツ!
私とシリルやルティちゃんもすこぶる元気!
それで私の犠牲になったアイツはと言うと・・
「ミリル・・お前何やってんだ?」
相変わらず私をこうしてからかっている
「何って・・少しは助けようとする気は無いの?」
「ハハハ、もう少し今の状況を楽しんでからにするかな(笑」
あの時死んでしまったガレット
一時はどうなるかと思ったけど、
『本の中で死んだら生き返る事は出来ない』
と言うのも本をクリア出来なかったらの話らしく
今でも元気に生きている
「ハハハ、そう言わずに助けてやれよ、まぁ、面白い状況ではあるが」
ゴミだらけになっている私をガレットと一緒になって笑っているフケ面の男はミキヤ
どうやら本の外で私達をサポートしてくれたらしい
「ミキヤー少しは手伝えー!」
「へいへい、わーったよ」
「それでも私の夫かーっ!グダグダしてないでさっさと来い!」
何があったか知らないがこいつら魔本騒動の後に結婚しやがった
私より先に行くのは許せん、天誅!・・とゆーのは冗談で
正直嬉しい、正式に婚姻届を出した訳ではないらしいが
ミキヤが一方的に告白してそれに渋々承諾したらしい
ぶっちゃけルティちゃんも満更ではなさそうだけど
その内私もガレットに・・・・まぁそれは置いといて
天国に居るお母さんお父さん、今私達は幸せです


Fin

このページの上部に戻る