+ 第9話 +
発情期は突然に?

「ミリルにも発情期はあるんだろうか」
 精霊樹の枝の上で夜空を眺めていたフィリスは、ふとそんな事を思いました。
 森の動物達は恋の季節。あちこちから遠ぼえが聞こえてきます。
「そういえば明日からまた遊びにくるって言ってたな。聞いてみよう」


 翌日。
「やっほ〜。遊びに来たよ」
 昨日の晩、フィリスが何を考えていたかも知るはずもないミリルは、いつものようにお気楽な顔でミウの家にやってきました。
 ぴったり引っ付くようにして、シリルもいます。
「ミリルさん、いらっしゃい。ミウさんだったら、研究室にいますよ」
「うん、ありがと、シアちゃん」

 ミリルとシリルが、出迎えにでてくれたシアの言う通りにミウの錬金術の研究室に行くと、ドアを開けるなり、ぼぉむっと、ピンク色の煙が吹き出しました。
 また何か爆発させたのでしょうか?
 何が起こるかわからないので、ひとまずシリルを外に残し、ミリルはまだ煙の充満している室内へと入っていきました。
「ちょっと〜、ミウちゃん、大丈夫なの〜?」
 部屋の中はまだ煙に覆われて何も見えません。
 勘だけを頼りに進んでいると、途中で棚にぶつかってしまいました。
 その時、上に置かれていた薬品でも倒れたのでしょうか、何かの液体がこぼれてミリルの頭にかかりました。
「きゃっ、なっ……何これ?」
「あれ? ミリルたん? どうしたの〜?」
 ミウの声がしました。ミウはもくもくと煙の吹き出している三角フラスコを手に、煙の中から出てきました。
「すごいでしょ〜、ニンジン味の煙〜」
「ま、また妙なものを…」
 この時ミリルは、頭にかぶった液体の事はあまり気にしていませんでした。少量だったし、もう乾いてしまったようです。
 それがこの後、ミリルの体にとんでもない効果をもたらす事になったのです、、、。


 昼前。
 ミリルたちは、居間でシアに淹れてもらった紅茶を飲みながら、いつものように他愛のない話に花を咲かせていました。
「おーい、ミリル、来てるかー?」
 その時いきなり、フィリスが上がってきました。
 勝手知ったると言わんばかりの堂々さで、誰の答えを待つまでもなく、居間へと入ってきます。
「ふあぁ……シア、私にもお茶。濃いめにしてくれ」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
 フィリスは大きく伸びをしてから椅子に座り、座ってからもまた、大きくあくびをしました。
「どうしたん?」
「ちょっと考え事をしてたら眠れなくてさー」
「フィリスが考え事、ねえ」
 ミリルは不信感もあらわにつぶやきました。
 フィリスの「考え」が常に自分にいらない被害を及ぼしてくるのは、いつもの事だからです。
 シアの入れてくれた紅茶をずずっとすすったフィリスは、案の定、ミリルのほうを真顔で見てきました。
 ところが、その次の瞬間、フィリスの口から予想もしない言葉が飛び出したのです。

「ミリルって発情期とかあるの?」
 ミリルは思わず紅茶を吹き出してしまいました。

「…けほっ、げほっ!
 い……いきなり何を…っ!?」
「何をって、言葉のままだが?」
 至極真面目な表情で、フィリスは答えます。
「それにそもそも、そんな事聞いて、どうしようって…まさかまた、何かよからぬ……?」
 その時、ミリルは突然意識がぼ〜っとしてしまって、手にしていたティーカップをとり落としてしまいました。
「うに゛ゃ〜〜〜〜っ! 熱っ、あちゃちゃっっ」
 こぼれた紅茶が自分の膝にかかり、その熱さに弾け飛ぶように立ち上がりますが、またも意識がぼ〜っと霞んできて、その場に座りこんでしまいました。
「みーちゃん、どうしたの? 大丈夫…?」
 何か様子がおかしいと気付いて、シリルが心配そうにミリルに寄り添います。
「だ、大丈夫よ」
 ミリルはシリルを心配させまいとそう言い、平静を装おうとしましたが、頭の中では大パニックになっていました。
(ふにゃ〜、何か変…体がおかしい……。これは、え〜っと……)
 何も、そんな気分になる要素なんてなかったはずなのに。
 …ミリルは何故か、ものすごくエッチな気分になっていたのです。しかも、理性が「もとに戻れ」と呼びかけても、抑えが全然利きません。
 それはまるで、発情した時の気分。それも、よくあるものよりもっと異常なほどの…
「ミリルさん、本当に大丈夫ですか? まさかお茶がいけなかったとか…」
「ううん、そんなんじゃないから、大丈夫…」
 シアが不安顔で尋ねるのにも、ミリルは必死に笑顔を作り、答えます。
「…ごめん、ちょっとおトイレ、いいかな…」
 ミリルはふらふらっと立ち上がると、トイレの方へ向かいました。
 不安げなシリルが、ぱたぱたとその後を追います。
「…どうしたんだ? いつものミリルにしちゃ変だな。ミウ、何かしたのか?」
「ん〜…? 何もしてないよ?」


「…はにゃぅ…ふぅ……はぁ…」
 ミリルは正常な意識をなんとか保ちながらトイレに入ると、自分の状態も理解出来ないまま、ずいっとパンツを降ろすと、オナニーを始めてしまいました。
 困惑していたので、シリルが後をついてきた事も、板一枚隔てた外で不安そうに待っていることにも気付いていません。
「んぅ……、何、なんで……、変だよぅ……」
 頭のどこかが確かな違和感を訴えてきます。しかし、いじる手を止める事は出来ません。
 最初こそ、ゆっくりとこするぐらいのものでしたが、次第に、その勢いも上がってきます。
 くちゅぷ…、ちゅぷぷっ…
「にゃぁ……はぁ…んっ、ああっ…」
 それさえ物足りなくなると、今度は中指をぐっと入り口に押さえつけ、中へと沈めていきました。
「ふにゃぁぁっ、んぅ…あっ、あっ、はぁっ…」
 じゅぷっ、きゅぷっ、にゅぷぷっ…
 指の押し引きの動きにあわせて、水気のある音と熱い吐息が次々と漏れ出てきます。
 そしてそれは、行為にふければふけるほど、大きくなっていきます。
 しかし、何かが物足りません。
 …異常に湧き上がり続ける卑猥な欲求を、ミリルは抑える事が出来ません。

 一方のシリルは、トイレの中から聞こえてくるミリルの声を、苦しんでいると勘違いしました。
「みーちゃん、みーちゃん、大丈夫!?」
 戸をどんどんと叩いてミリルを呼びます。
 あまりに必死なその声を聞いて、何事かとミウやシアたちも様子をのぞきにきました。
 すると、がちゃりとトイレのドアが開き、中から、ふらふらとミリルが出てきました。
 いつもの元気のよさはなりを潜め、瞳に活力が足りません。
 …何か、欲しいものを得られなかった時のような…
 しかし、それ以上に変なのが…
「み……みーちゃん…」
 …ミリルが、下を履かないままに出てきたことでした。
「え? ……あっっ、やだちょっともうっ!」
 ミリルは突然はっと表情を取り戻し、怒ったように声をあげると、慌ててトイレの中に戻りました。
 不思議な事に、さきほどまでの激しい発情は嘘のように静まっていました。
 すぐさま下着を履きなおすと、深呼吸してから、何事もなかったようにトイレから出ました。
「な、なんでもないよ。ただちょっと考え事してて、忘れただけっ!」
 苦しい言い訳だと思いつつ、ミリルはそれを誤魔化すように、トイレの入り口に集まっている皆を部屋へ押し戻します。
 ふとフィリスを見ると、皆と同じように困惑してました。
 いつものようなフィリスの悪戯かと思ったのですが、そういう雰囲気ではなさそうです。
『一体なんだったの〜』
 ところが、この突発的な発情は、これで終わったわけではないのでした。


 …その夜。
 そろそろ寝ようかということで、ミリルとシリルの2人は、寝室に入りました。
 シリルはベッドに入るやいなや、すうすうと寝息を立て始めましたが、ミリルは昼間のことが気になってなかなか眠れませんでした。
「だめだ、眠れない…。少し夜風にあったってこようかな」
 頭をすっきりさせれば寝られるだろうと思って、ベッドから抜け出します。
 シリルがちゃんと眠っているのを確かめて部屋を出ると、まっすぐ玄関の方へ。
 ところが、後ろ手に玄関のドアを閉めたその時、昼間のような突然の発情がまた、襲いかかってきました。
 ミリルはしばらくその場で悶えるように我慢していましたが、徐々に、体が理性のコントロールから外れて行きます。
「だ…だめ……体が言うことを聞かない。勝手に、動いちゃう……」
 そして、とうとう、その場に座り込んでオナニーを始めてしまいました。
「ふにゃあ……ふぁ、はぁ…んっ」
 こんなところで、と思う気持ちより、湧き上がる欲求の方が強く、ミリルはこねる指を止めることが出来ません。
 しかも、ミリルのアソコは、いつにも増して敏感に反応するのです。
 あふれ出てきた蜜液が、月の光に照らされて、鈍い光を放ちます。
 ミリルは次第に、外でこんなことをしている事を忘れて、行為に没頭していきました。


 …時間は少し戻って。
 どこかで、ぱたんとドアが閉まった音に、シリルは目を覚ましました。
 そして、隣のベッドで寝ているはずのミリルの姿が、どこにもない事に気がつきました。
「んみゅ…?」
 おトイレにでも行ったのかなと、シリルは思いましたが、それにしては変です。
 どう変か…と聞かれると困るのですが、ただなんとなく、そういう雰囲気じゃなさそうだと感じたのです。
 昼間の事もあったし、気分でも悪くなったんじゃないだろうか。
 不安になったシリルは、外の空気が吸える場所…玄関の方に、まっすぐ向かっていきました。
 そして、迷わず玄関のドアを開けようとしましたが、開きません。
 しかし、扉の向こうからは…
「……?」
 衣擦れのようなごそごそとした音と、ミリルの声の混じった吐息が聞こえます。
 それもそのはず、ミリルはドアにもたれかかる格好でオナニーをしているのです。声が聞こえて当然でした。
 しかし、ドアを開けるのは、非力なシリルにはどうしようも出来ません。
 ドアを叩いて開けてもらうにも、夜中なので、他の皆を起しそうで気が引けます。
 シリルは少し考えてから、靴を手に寝室の窓から外に出て、玄関の方に回りこみました。
「みーちゃん…っ」
 シリルがその名前を呼ぶと、ミリルは顔を上げて、シリルの瞳を見つめました。
 熱く火照った顔に、潤んだ瞳。
「し、シリルぅ……」
 なんだか、今にも泣きそうな声。
「な、なんだか体が変で、とまらないの……」
 止まらない、というミリルの手は、足の付け根のあたりでもぞもぞと動いています。
 月明かりに照らされて、何をしているのかは一目瞭然でした。
 しかし、シリルは、その様子を困ったように見ていることしか出来ませんでした。
 これ以上は、踏み込んではいけないような気がします。
 でも…昼からずっと様子が変なのが不安で、放っておくこともできません。
「はぁ……ふぁ…」
(…みゃう…っ)
 …胸の奥が、かあっと熱くなり始めたのは、どれくらい経ってからの事だったでしょうか。
「……あ、あれ?」
 一方のミリルは、突然きょとんとした声をあげました。
 昼間と同様、先程まであれほど激しかった発情があっさりと消えています。
 そして、はっとしました。
 そういえば、さっきからずっと、シリルはそこに立ってて……!
「あ、あの、シリル、違うの、あのね」
 シリルになにもかも見られていた事を思い出して、ミリルは慌ててごまかそうとします。
 けれど。
「ん……」
 突然覆いかぶさってきたシリルの唇が、ミリルの唇を塞ぎました。
「ん…ぅんっ…ぷはぁっ」
 舌さえ絡めてきそうな長いキスのあとで、ミリルはようやく、シリルの異変に気がつきました。
 瞳に映る…いつものそれではない、熱と色を帯びた眼差し。
(まさか……)
 ミリルが心の底で「ある事」を思っていると、
「にゃぁんっ、ちょ…シリルっ、やだ…っ」
 シリルはミリルの服をたくし上げて、ふくよかな胸の…その突端にしゃぶりついていました。
「んむっ…みゅぅ…」
 舌を這わせ、突端をぺろぺろと嘗め回したり、時々、お乳を吸わんばかりに吸い上げたり。
 ぴちょ、ぺちょ…ちゅぅっ、ぴちゅっ…
「ダメっ、シリ……ああっ」
 胸が感じやすいミリルには、それだけでも敏感に反応しました。
 突端がこりこりと硬く突起していくのが、自分でもわかる気がします。
 シリルはそれでも、舌の動きを止めません。
 不規則なリズムで、次々と違った刺激を与えてきます。
「お願い、シリル……も、もう……そのへんで……っ」
「みゃぅ……んっ、ぅんっ…」
 ミリルが静止を訴えても、シリルの責めは止まりません。


 その頃。
「あの、ミウさん、ミリルさん達が部屋にいないのですけど…」
「うみゅぅ…」
 ミウは突然シアに揺り起こされて、寝ぼけた声をあげました。
 瞳を半分閉じたまま体を起こすと、うさぎ耳をぴくぴくと動かします。あたりの音を探っているようです。
「玄関」
 そう一言言うと、また布団にもぐりこんでしまいました。
 ミウの言う通りに部屋を出たシアは、耳を澄ませながら玄関の方へ向かいます。
 なるほど確かに、ふたりの声が聞こえてきます。
 ところが…
「えっ……?」
 玄関の扉に耳をあてて様子を伺ってみると、シアは思わず固まってしまいました。
 扉の向こう。
 聞こえてくるのは……ミリルとシリルの、秘め事の声。
「おふたりって、そういう関係だったのですね……」
 シアは音をたてないよう、そ〜っと自分の部屋に戻っていきました。


「ふにゃぁっ……にゃぁぁっ、あっ、ああっ…」
 シリルの責めはとどまる事を知らず、気がつけば胸からずいぶん下へと下がっていました。
 ぴちゃ、くちゃ…
 溢れた蜜を舐める音が、静寂の中に響きます。
 時折混じる声は、ミリルの唇から漏れた熱い吐息。
 まるで、その一滴さえ残すまいとミルクを舐める猫のように、シリルは一心に、ミリルの一番大切な場所を…そして、そこから溢れる蜜を舐め続けます。
 ミリルはただ、その行為を受けるがままになっていました。
 大切なシリルを傷つけたくなくて、咎めてやめさせる事も出来ないから。
 …そして、シリルの執拗なまでの責めに、すっかり感じてしまっていたから……
 しかしそれも、長くは続きませんでした。
「……何やってんだ、お前ら」
 ミリルとシリルは、突然声をかけられて飛び上がりました。
 声のほうを向くと、そこに立っていたのはフィリス姉でした。
「えっ、え〜っと…これは…」
「ふみぃっ…みーちゃんが苦しそうだったから、助けてあげたんだもん…!」
 ミリルより早く、シリルが答えました。またミリルをいじめに来たのかと言わんばかりの語気の強さです。
「苦しそうだから助ける、って…」
 そのまま、行為の途中からしか見ていなかったフィリス姉は、あきれたような顔をしました。


 次の日の朝、ミウが起きてくると、食卓は異様な雰囲気でした。
 ミリルとシリルは何故かもじもじと俯いていますし、フィリスはニヤニヤと嬉しそうです。
 シアも何故か動作がぎくしゃくしていて、めずらしくコップを落として割ったりしていました。
 …あの後、ミリルとシリルは、この奇妙な発情の事をミウに相談しようと決めました。
 このまま街に戻って、ルティやココナ、そして最悪の場合、もし知らない人の前で発情してしまったら大変です。
 ご飯の後、2人はミウを研究室にひっぱって行きました。

「ミリルたんには、昨日は別に何も作ってないしなあ…
 あ、もしかして、ニンジン味の煙がいけなかったのかな?」
 一連の事情を話すと、ミウはそう答えました。
「じゃあ、今度のは錬金術じゃなくて……」
 …ニンジン味の煙?
 ふと、ミリルは昨日のことを思い出しました。
 そういえば、この煙にまぎれて、何か変な液体を頭にかぶったよーな…
「液体?」
 ミウは棚の上を調べて、蓋の外れたガラス瓶を持ってきました。古いものらしく、ラベルに書かれた文字も消えかかっていますが…
「えっと、『風邪ひき薬』かな? 飲むと風邪をひく薬だよ。でもそんな症状は出ないハズだけどなぁ…。古いから化学変化起こしちゃったのかな?」
 ミウの説明では、成分を調べて解毒薬を作るのに1週間はかかると言います。
「それじゃあ困るよね。え〜っと、あ、そうだ」
 ミウは棚の奥からごそごそと箱を取り出し、2人に見せました。
「だいぶ前に、遺跡で見つけたん」
 箱の中に入っていたのは数枚の可愛らしいパンティでした。
 ミリルとシリルは、とりあえずそのパンティをはいてみました。
「え〜っと、どうなるの?」
「濡れちゃった時、替えがないと困るでしょ?」
「ちょっと待って。…ただのパンティなの?」
 確かに、数日遊びに来ただけのつもりなので、下着もそんなに持ってこなかったし、枚数あるほうが助かりますが、それでは根本的な解決に……
 その時、シリルがもじもじしながらミリルの服をひっぱりました。
「ねえ……このパンティ、……当たってるところが、ぶるぶる震えてる……どうしよう…」
「…にゃぁっ、な、何これっ」
 ミリルもやっとそれに気づいたらしく、慌ててパンティを少し離しました。
「ま、まさか発情した時はこれで我慢しろ、って事…?」
「ふみぃっ!?
 みーちゃんはそうかもしれないけど…シリル…発情してなんかないもんっ」
 何気なく言った言葉に反応したシリルが、唐突にそんな事を言いました。
 シリルは、はっと口をつぐみますが…すでに遅し。
「ちょ…じゃ、じゃあ、シリル、昨日のって…」
「…み……みゃぁあんっ」
 ミリルが恐る恐る尋ねようとすると、シリルは顔を真っ赤にして走り去ってしまいました。
「あっ…ちょっと、どうしたの、シリルっ」
 ミリルもシリルを追いかけていきました。ミリルもシリルも、問題のパンティをはいたままです。
 残されたミウは、残ったパンティのひとつを取り上げて、しみじみと眺め、
「あれ? そんな機能あったんだ。…分解してみよう」
 目をキラキラさせて、道具を広げはじめました。


「あれ…どこに行ったんだろう……」
 すぐさま追いかけたにもかかわらず、ミリルは、家を出たところでシリルの姿を見失ってしまいました。
 しかし、シリルはそれほど足が速いわけではないので、落ち着いて気配を探ればすぐに見つかるだろうと思って、ミリルは精神を集中…
 …パンティのぶるぶるが気になって、集中できません。
「ああもぅっ、全然集中できないっ」
 確か前にもこんな事あったような、と思いながら、小さく悪態をついた、その時。
「みゃぁぁぁんっ」
 唐突に、シリルの悲鳴が聞こえました。
「…あっち!?」
 ミリルは慌てて、声のした方へと走っていきました。

 シリルはシアの畑にいました。でも、畑にいたのはシリルだけではありませんでした。
 それはキノコをさかさまにしたような触手モンスターでした。触手を伸ばして、獲物を捕らえる機会をうかがっているように見えます。
 おそらく空腹なのでしょう。そして、獲物に選んだのは…
 肝心のシリルは驚いたのか、しりもちをついて座り込んだまま、後ずさりしています。
「シリル、逃げてっ」
 ミリルはシリルとモンスターの間に飛び込みました。両手を大きく広げて、シリルを隠すようにモンスターの前に立ちふさがります。
 しかしその時、きゅぅんっっ、と下半身が熱く疼きはじめました。
 切ない感覚、どうしようもない欲求が、衝動となって頭を支配していきます。
(ああっ、こんな時にっ!!)
 その感覚を振り払うように、ミリルは地を蹴り、モンスターへ飛び掛りました。
 とにかく今は、シリルが逃げられるだけの時間が欲しい!

 ……

「ふにゃっ、は……あぁんっ……」
 数分の後、ミリルはあられもない姿で触手モンスターに捕まっていました。
 …結局、発情が襲い掛かってきた状態では、本来の力を発揮する事も出来なかったのです。
 あっさりと触手に捕まると、服をまくり上げられ、ズボンも脱がされてしまい、そのまま胸をきゅっとひと撫でされて…
 そこでミリルの緊張は解け、あとは沸き起こる欲求に身を任せるがまま、触手と戯れています。
「みーちゃん、みーちゃぁんっ」
 シリルは逃げる事もなく、その一部始終をただ見ていました。
 怖くて逃げ出せも出来ず、ミリルをおいて逃げ出す事も出来なかったのです。
 そんなシリルに、今、モンスターの伸ばした触手が近づいていました。
 なんとか逃げようと、頭が呼びかけますが…
 今、目の前で展開する光景。
 昨日の…ミリルの表情。
(なんだか、気持ちよさそう…)
 ふたつの光景がだぶると、恐怖心とは別にそんな事が頭をよぎり、立ち上がる直前で、シリルの足は止まってしまいました。それはすなわち、逃げるチャンスを失ってしまったという事と同じでした。
 触手はあっという間に右足首にからまりつくと、すごい力でシリルを持ち上げます。
「きゃぁぁ〜〜っっっ」
 同時に、もう一本の触手が左足首にも絡まり、両方の触手がそれぞれの絡まる足を開きます。
 シリルは完全に逆さづりにされてしまいました。
 着ていたワンピースが、重力に従ってめくれます。
 それを触手がちょいちょいといじってやると、簡単に脱げてしまいました。
 履いてきたままのパンティも、小さな胸も丸見えです。
「みゃぁっ…」
 でも、下手な事をするといきなり地面に落ちてしまいそうで怖くて、隠そうにも隠す事が出来ません。
 それでもなんとか下半身の方を見やると、ちょうど、触手が一本、大事な場所に近づいているところでした。
「みゃぁっ、やだっ…!」
 触手はその場所を、パンティの上からぎゅうっと押さえつけました。
 もちろん、パンティのその部分はさっきから同じように振動を続けています。
「ふみゃ……っ、あんっ…」
 振動を敏感な場所に思いっきり当てられて、シリルは思わず甘い声を上げました。

 一方のミリルは、発情にパンティの振動にモンスターの責めにと、もはや意思もなく快楽に堕ちていました。
 ふと見上げると、そこには宝石のように大切なシリルの姿がありました。
 ミリルの心は愛おしさでいっぱいになり、無意識に手を差し伸べました。シリルも気がついて手を延ばし、しっかりとミリルの手を握ります。
(……みーちゃん、気持ちよさそう。私もみーちゃんと同じ……)
 こんな時に、シリルはなんだか幸せな気分になってしまいました。
 そして、ミリルとシリルは、お互いに抱き合いました。
 そんな二人を、さらに密接させるように、触手が絡みついてきます。
 でも、シリルはもう怖くありません。
 暖かなミリルのぬくもりを、その肌に感じている限り…
 シリルは次第に、心地よい快楽に包まれ始めました。

 やがて、触手が再び、ふたりのアソコに近づいてきました。
 モンスターはパンティの上から、まるで布地を突き破ろうとしているかのように触手を押しあててきます。パンティの振動部分がさらに強く敏感な部分に押し当てられ、ミリルとシリルは体をのけぞらせました。
「お願い…、パンティを脱がせて……」
 振動のもたらす快感に耐えきれず、ミリルはモンスターにお願いしてしまいました。
 モンスターは布地に器用に触手をからめると、ふたりのパンティを抜き取ります。
 さらけ出された二人のそこは、もうびしょびしょに濡れきっていました。
 触手はさらに、二人の体と脚に絡みついて態勢を変えさせてきます。
 するといつの間にか、シリルがミリルに覆いかぶさるような格好で、なおかつお互いのアソコを合わせるような態勢になっていました。
 その場所に、モンスターは触手を一本伸ばしてきます。そして…
じゅぷぷっ…!
「ふあっ…っにゃぁぁぁっ!」
 迷うことなく、ミリルの入り口から、中へと侵入していきました。
 歓喜にも似た声を上げるミリルですが、もちろんそれだけでは終わりません。
 触手は奥へ行ったり来たりを繰り返し、ミリルにさらなる快感を与えてきます。
「み、みゃぁぁっ!」
 それは同時に、重なり合うような場所にあるシリルのアソコを、時に優しく、時に激しくこすってきます。
 既に、ここまで濡れるほどの責めを受けていた二人には、それだけで簡単にいきそうになっていました。
 果たしてそれを理解してか、モンスターは触手の動きをさらに加速させていきます。
 その時、ミウが研究室から飛び出してきました。どういうわけか、ミウはパンティを頭にかぶっています。
「ミリルたん、間違い〜。これ下着じゃなかった〜〜」
 畑にやってきたミウは、触手モンスターに「みゅうみゅ、みゅうう(ヒヒフィトルパさんこんにちわ〜)」とモンスター語で挨拶してから、ミリルに話しかけました。
「こうやって頭にかぶって、頭の中に魔法振動でリラックス効果で…」
 説明に一生懸命で、ミリル達が襲われている事は特に気にしていないようです。
「だから、コレかぶってれば、たぶん発情止められると思うよ〜」
 もちろん、ミリルとシリルには、その説明は聞こえていませんでした。
 上りつめる寸前。意識は、快感の頂点へのカウントダウンでいっぱいでした。
「あっ、にゃっ…ふぁんっ、あっ…!」
「みゃあっ、あっ…ふあ…っ、みーちゃんっ、みーちゃん…っ!」
そして…

「…ふにゃぁぁあぁあぁぁぁんっ!!!」

 ミリルとシリルは、一緒に絶頂を迎えると、抱き合ったそのままで快感の余韻にひたっていました。
 しかし、徐々に意識が現実へと返ってくると、ミウの声が聞こえます。
「太陽電池で動いてるから、夜は止まっちゃうけど…」


 数日後、街に戻ったミリルとシリルを出迎えたルティとココナは、笑顔を引きつらせました。
 シリルの甘え方が微妙に変わったような気がするのも気になりましたが、なによりミリルの頭に……
「ど、どうしたの? ミリルちゃん、その…あの」
「……聞かないで、気にしないで、見ないで忘れて考えちゃダメ……」
 そのまま、ミリルは部屋に走っていきました。
「ねえ、シリルちゃん、ミリルちゃんはどうしちゃったの?」
 聞かれたシリルは、こちらも何故か顔を赤らめて、ミリルの部屋に走っていきました。
 ルティとココナは、頭の上にはてなマークをいっぱい浮かべて、お互いの顔を見合いました。

 解毒薬が届いたのは、それから2週間も後の事でした。


 余談。
 ミリルには、本当に発情期があるのでしょうか。
「そ、そんなの……猫なんだから、あるに、決まってるでしょ…」

おしまい。


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