それは、あるうららかなお昼時。
いつものようにマトリの森のミウの家に遊びに来ていたミリルは、ミウ、フィリスと他愛のない雑談をしていました。
「…そんなわけで、まあ、今回もココナちゃんはルティちゃんの事に必死でね。
自称『ご主人さまのお手伝い役』はダテじゃないっていうか、なんというか」
シアについてのことから始まったはずの話は、いつの間にかココナの話になっていたのですが…
ミリルは、ここで、言ってはいけない一言を言ってしまったのです。
この後起こる、とても恥ずかしい出来事の、その引き金になる一言を。
「『ご主人さま』って、いるとそんなに頑張れるものなのかな」
「じゃあ、実験〜。ミウがミリルたんの御主人様になる〜」
ミリルの一言を(故意に)間に受けたフィリスに、ごにょごにょと何か耳打ちされて、ミウはそう宣言しました。
「え、あ…そういう意味じゃなくって」
ミリルが慌てて取り繕おうとしている間に、また、フィリスがミウに耳打ちします。
すると、ミウはいきなり立ち上がって、錬金術を始めました。
その様子を呆然と見ていたミリルでしたが、ふとフィリスのほうをうかがうと、何やらニヤニヤとして錬金術の完成していく様子を見ています。
それは明らかに、何か突拍子もない悪戯を思いついた顔でした。
(だ…だましてる…絶対)
慌ててミウを止めようとしたミリルでしたが、その時既に遅く。
「で〜きたっ」
ミウは錬金術を完成させていました。
「じゃあ最初の命令〜。ミリルたんは足にこれをつけて、森を一周してきてください」
ミリルが手渡されたものは、アンクレットでした。
装飾が美しい以外は、ミウの錬金術で出来た物のわりには、ごくごく普通のアンクレットです。
しかし、ミウの錬金術で出来ただけに、そのアンクレットに一体どんな効果が待っているかわかりません。
「ちょ、ちょっと待ってよ。一体何がしたいわけ…?」
ミリルは後ずさりしつつ、ミウがそのアンクレットをつけようとするのから逃れようとします。
「え〜っとね、ミウが、ミリルたんを露出っ娘に調教するんだって」
「ろしゅ…って…それとアンクレットにどういう関係が…にゃぁっ!?」
その時、ミリルはいきなり、背後からフィリスに羽交い絞めにされてしまいました。
力任せに脱出を試みようとしたミリルでしたが、意外にもしっかり極まっていて、身動きが取れません。
「ミウ、今だ!」
「な…何するのっ! 放してよ〜〜っ!」
必死の抵抗もむなしく、ミウはそのアンクレットを、ミリルの両足にはめてしまいました。
解放されると、ミリルはアンクレットを外そうとしました。が、外せません。
思いっきり力を込めても、どういうわけか外れないのです。
…そこでミリルは、ふと気づいたのですが。
単に両足にアンクレットをつけただけで、2人はどうやって服をちゃんと着ている自分を露出っ娘にするつもりなのでしょう。
別に露出っ娘にされたいわけではないのですが、考えてみれば謎でした。
ひとまずアンクレットを外すのを諦めると、ミリルはアンクレットについて尋ねる事にしました。
「このアンクレットは風のアンクレット〜」
とっても美しい装飾のこのアンクレットには魔法がかけられていて、
「風を起して、スカートをめくりあげるの〜」
「…ひにゃぁぁっ!?」
言うが早いか、アンクレットから起こった風に、ミリルのスカートはふわぁっとめくれあがってしまいました。
真っ白なパンツが、惜しげなく外気にさらされます。
…そこで、すかさず、フィリスがそのパンツめがけて水をかけるっ!
ばしゃぁっ!
「すまん、手が滑った」
「明らかに故意だ〜〜〜〜っ!!!」
「まあまあ、そんなの、脱げば何も問題ないだろ?」
「はぁぁぁ…」
思いっきり深いため息をつきながら、ミリルは水でぐっしょりになってしまったパンツを仕方なく脱ごうとしました…が、ふと手を止めました。
考えてみれば、このアンクレットの効果が分かった今、パンツを脱ぐ事はそこに隠されていた場所を露出させられる事に他ならないわけで。
(ここで脱いじゃったら、フィリスの思うつぼだ)
ミリルはニヤニヤ笑ってるフィリスに、にっと笑いかえしました。
「これくらいならすぐ乾くし、大丈夫」
ちょっと冷たいのさえ我慢すれば、どうってことはありません。
それに、濡れた場所はタオルで拭いておけば…
ところがその時、ミウが「あれ?」っと小さく声をあげました。
「フィリス姉、ここに置いてあった薬は?」
「え? あれ水じゃなかったの?」
その台詞を聞いた途端、ミリルは慌ててパンツを脱いでしまいました。
「ううっ…お、思わず反射的に…」
フィリスは一瞬にやっとした笑みを見せると、ミウに薬の事を聞いてみました。
フィリスは単に、ミリルがパンツを脱ぐ羽目になるように、ミウが嘘を言ったのだと思っていたのですが…
「で? 結局あの水は何の薬だったんだ?」
「えっとね〜…」
ふと見ると、脱ぎ捨てたパンツから、たくさんのニンジン色のキノコが生えていました。
「ニンジン味のキノコ〜」
「気持ちの悪いもの作るな〜〜っ!」
「え〜んっ、だって〜」
(うぅ…予想外だ…)
フィリスとミウのやり取りを横に、ミリルは漠然とそんなことを思っていました。
さて、結局ノーパンになってしまったミリルは、そのまま外に連れ出されてしまいました。
もともと散歩に行こうと約束していた時間だったし、しかも自分から言い出したことだったので、逃げる事が出来ませんでした。
(あ〜…パンツ履いてないからなんだか落ち着かないよ…)
スカートの中がすーすーして心地が悪いのですが、それを誰かに悟られるのも嫌なので、表面だけは何事もないように繕って歩きます。
しばらく進むと、行く手に触手モンスターが現れました。
(……にゃっ!?)
その時、謀ったようにアンクレットから風が吹いて、スカートがめくれあがってしまいました。
ミリルは慌ててスカートを押さえましたが…ばっちり見られてしまいました。
しかし触手モンスターは、特に驚くふうでもなく、フィリスやミウと普通に世間話をして立ち去っていきました。
(お腹空いてなかったのかな…?)
お腹がすいてれば、格好の獲物と言わんばかりに襲い掛かってくるものなので、きっとそうなのでしょう。
その後、何人かの妖精さんやモンスターたちと出会いましたが、皆同じように、とりたてて何のリアクションもありませんでした。
本来は裸で暮しているマトリの森の妖精さんたちにとっては、アソコが見える事など特にに気にする事ではなく、そんな妖精さんたちを見なれているモンスタ−達も、お腹が空いていいない限り、そんな場所には特に興味もないのです。
それは、そこそこマトリの森にも慣れたミリルになら、考えればわかる事でした。
…とはいえ、自分の意思と無関係にアソコを露出させる事は、気持ちいいことではありませんが。
(あたしひとり慌てるのが、バカみたい…)
ミリルは、安心と憤りの混じったような不思議な気分になると、この際何も考えずに歩く事にしました。
そして、森を一周して、もうすぐミウの家に戻ってきます。
けっこう長時間の散歩でしたが、結局途中からは誰にも出会うことはありませんでした。
「なんだ、途中からはけっこうつまらなかったな」
「つまらなくて結構」
「え〜っ、ミウは楽しかったけどなぁ」
なんだかんだ言ってあんまり見られなくて良かった、と少し安心していたミリルでしたが、ここで急におトイレに行きたくなってきました。
(やだ、どうしよ…
…でも、ここでしたらフィリスの格好のネタにされそうだし、それにももうすぐ、ミウちゃんの家に戻れるから我慢しようかな…)
頭の中でぱっぱと考えをまとめると、ミリルは早足に歩き始めました。
ところが、そこで全く予想外の出来事が起こったのです。
「ミ〜リ〜ルた〜ん!!」
突然頭上から誰かの声がした直後、ミリルは頭上を見上げる暇もなく頭部に衝撃を受け、気を失ってしまいました。
しばらくして目を覚ますと、シャルロットが心配そうに覗き込んでいました。
「大丈夫? 頭痛くない?」
「頭は痛くないけど、く、首が……。一体、何だったの?」
「目の前に飛び下りて驚かすつもりだったんだけど…」
シャルロットは頭上の木を指差して、「間違えて頭の上に降りちゃった」と笑いました。
…笑い事じゃありません。
「危ないでしょっ、無茶苦茶しないでよ」
「う〜ん、今度からは人間の大きさの時は気をつけるよ」
シャルロットは、すまなさそうに頭をかきます。
その時ふと、ミリルは、自分が靴下と靴以外何も着ていない事に気づきました。
「…にゃっ!? な…なんであたし裸なの?」
今まで着ていた服とスカート、まるめて横に置いてあります。
着ようと手を伸ばすと、どちらもなぜか濡れていました。
「なに…なんか変なにおいがする」
「いやー、面白いものを見せてもらったよ、ミリル。
つまらないと思ってたら、最後の最後で見事にやってくれたな」
フィリスが、ニヤニヤしながら良くわからないことを言います。
「服とスカートは、後でシアたんに洗ってもらえば」
服が濡れているのは、フィリスかシャルロットのいたずらかと思ったのですが、ミウがこういっているあたり、どうやら違うようです。
そこでミリルはふと、気を失う前に自分がおトイレに行きたかった事を思い出しました。
しかし、何故か今は全然尿意がありません。
…じゃあ、服が濡れてるのは?
「…って、……えええっっ!」
「これで、晴れてミリルも露出娘の第一歩を踏み出したわけだ」
フィリスは勝手にひとりでうなずいています。
「……あの〜…結局、あたし、どうしたわけ……?」
なんとなく一番聞きたくない答えが返ってきそうで嫌でしたが、むしろその答えを否定して欲しくて、ミリルは意を決して聞いてみました。が。
「あのね〜、アンクレットの風の魔法でぷわ〜〜って舞い散って綺麗だったよ」
何が、なんて言うまでもありません。
……やっぱり、聞かなきゃよかった……
…ミウの説明に、ミリルは頭が真っ白になりました。
すっかりミリルが放心状態になっているのを見て、フィリスはさらに追い討ちをかけるような悪魔の言葉を、ミウにささやきました。
「あ、そうだ。誰かに見られてないとトイレが出来なくなるように、魔法とかかけれる?」
「ほえ? え〜っとねぇ」
「…あ、そのついでに、誰かに見られてるとトイレに行きたくなるとか」
「自分がトイレをする事を言わないと、トイレができないとか」
「ほえ〜」
フィリスがミウに色々と余計な事を吹き込んでいるのも、当然、ミリルには聞こえていませんでした。
…しばらくして。
ミリルは、再びもよおしてきたことを感じると、放心状態から立ち直りました。
今度はさっきみたいな失態は演じないように、早くミウの家に帰ろうと、丸められた服を手にします。
しかし、お尻の汚れを払い落とし、頭を起こしたその時。
どくんっ…
ミウやフィリスと目があったとたん、心臓が大きく鳴りました。
もしかしたら、みんなに聞こえたんじゃないかと思うほど、大きな音。
それを合図に、ミリルは自分の体がかぁっと熱くなるのを感じました。そしてそれと一緒に、どんどん、尿意が我慢できなくなっていくのです。
「ふにゃ…っ」
内股でもじもじとし始めるようになってから、慌てて草むらに隠れようとしたミリルですが、そこで急に、3人の視線が突き刺さりました。
(そうだ。みんなの前でしなくちゃ…)
思ってもいないことを、自分の頭が呼びかけます。
それは、ある意味、無意識からの強迫観念でした。
気がついたときには、ミリルはおしっこの態勢どころか、ぺたんと尻もちをついたまま両足を広げ、まるで見せつけるような態勢を取ってしまっていました。
(…ミウちゃんたちに見られながら、おしっこするんだ……)
穴があったら入りたいくらいの恥ずかしさの中で、どこか漠然とそんなことを思っていると、フィリスが意地悪く耳打ちしてきました。
「ほら、『お願いします、どうぞ私がおしっこする姿を御覧下さい』って言ってごらん」
「お、お願い……し…ます……
あ、あたしが…………、おしっこするの……、見て…」
「よ〜し、よく言った。それじゃあ、していいよ」
フィリスのその一言と同時に、
「あっ……」
ミリルは皆の見ている前で、おしっこをしてしまったのです。
もう、止めようと思っても、止められません。おしっこは、じょろじょろと音を立てて地面に注がれていきました。
その音。そして、みんなの視線。
それを感じれば感じるほど、ミリルは……
(恥ずかしい…、恥ずかしいけど、なんだか……)
「う、うそ……?」
ミウの家の戻ったミリルは、フィリスから信じられない言葉を聞きました。
「だから、誰かに見られてないとおトイレが出来なくなる魔法なんて、ある訳ないじゃん。
アレは単なる催眠術みたいなものだって」
「だ……騙したわね〜〜〜〜っっ!!」
ミリルは顔を真っ赤にしてフィリスを殴ろうとしましたが、ひらりとかわされてしまいました。
「だ〜めだめ、あぁんな恥ずかしい事しておいて今さら怒ったって、ねぇ」
フィリスは爆笑をこらえてクスクス笑いを漏らしています。
「さ〜って、明日はどんな調教しようなかなぁ」
「絶対いや〜〜〜〜っ!」
もはやミリルは、床にうずくまって頭を抱えるしかありませんでした。
その頃ミウは、フィリスに言われて、新しいアイテムを作っていました。
横で、シャルロットが助手をしています。
「ミリルたん、今度は喜んでくれるかなぁ」
「…フィリス姉の言う事あんまり信じない方がいいと思うよ、ミウたん」
「ほえ?」
…ミリルの受難はもうしばらく続きそうです。
おしまい。