+ 第10話 +
ふたりのココナ?

 ある日、ココナはミウの家の台所に立っていました。
 ここに遊びに来る時はいつも、家事担当のシアが料理を作ってくれるのですが、今日は無理を言って自分が作る事にしたのです。
「ええっと…」
 冷蔵庫の中身を軽く見回すと、ココナは作るものを決めました。
 『ご主人さま』にこそ敵いませんが、それでも、料理の腕と発想力は常人の比ではありません。
 必要な材料だけを、冷蔵庫からてきぱきと取り出していきます。
 …と、その時。
「うに?」
 何やら見慣れない液体の入ったビンがあることに、ココナは気づきました。
 一瞬、ミウの作った怪しい薬かとも思ったのですが、いかにも几帳面そうなシアが管理しているこの場所に、そんなものが入っているとは思えません。
 それを証明するように、他は見知った調味料ばかりで、怪しい薬が入っている様子はありませんでした。
「じゃあ、やっぱりコレも調味料…かな?」
 そもそもここは、自分たちが本来住んでいる場所とは、世界も時間軸も異なる異世界。見慣れないものがあっても不思議はありません。
 そう思うと、ココナは安心して、この液体がどういう調味料なのか味見してみる事にしました。
 指先に一滴落として、ぺろっと舐めてみると…
「きゃぁぁぁんっ、か、辛いですっ」
 たった一滴なのに、物凄く辛いのです。
 慌てて水を口に含むと、これは使えないなと思って、ココナはビンを冷蔵庫に戻しました。

 ココナの作った料理は好評で、その日の夕食はとても楽しいものになりました。
 そして夜、ココナは何か奇妙な夢を見てはっと目を覚ましました。
 夢の内容は思い出せませんが、何か奇妙な……
 ふと窓の外を見ると、誰かが森のほうへ歩いていくのが見えました。
 月明かりに照らされている後ろ姿、そして、特徴的なその髪型…
「わたし…?」
(まだ夢を見てるのかな……?)
 ココナはもぞもぞと布団にもぐりこんで眠ってしまいました。

 …これが、今回の出来事の始まりでした。


 翌朝。
 これ以上ないってくらいの笑顔で、ミウの家に、シャルロットが飛び込んできました。
 いかにも面白いネタを掴んできたと言わんばかりの雰囲気をまとっています。
「聞いてよ聞いてよ〜。昨日の夜ね、ヌバタマ池のまわりを裸の女の子が歩いてたんだって」
 ココナは「ええっ」っと驚きましたが、シアは「またですか?」とため息まじりに答えました。
「深夜にヌバタマ池で水浴びすると願い事がかなうという噂が、近くの人間の村の女性達の間に広がってるそうなんです」
 シアが説明してくれました。
「そういうこと。人間ってバカだよね〜」
 シャルロットは机の上に置かされいたサラダの、ミニトマトをひとつ摘んで口に投げ入れました。
「うに〜っ、バカなんて言っちゃダメです〜。単純なだけなんです〜」
「……それ、フォローになってませんよ…」


 それから数日が過ぎ、再びココナは森に遊びに来ました。
 ところがどうやら、その人間はまだ、毎晩裸で森の中を歩き回ってるようなのです。
 シャルロットはさらに目を輝かせて、「今晩、皆で見に行こうよ〜」と提案しました。
「あ…あの……お化けとか、出ないですよね…?」
「大丈夫だって。それじゃあ決定〜」
 ココナが尻込みするのもお構いなく、シャルロットはあっさり決定してしまいました。
「ミウたんはどうするの?」
「ん〜…実験したい事があるから、また今度〜」


 その日の夜、ヌバタマ池のほとりの木の茂みに、シャルロットとシア、そしてココナの姿がありました。
 ヌバタマ池はうっすらと光を放っています。月明かりを反射しているのではなく、水中の藻が光を放っているのだとシアが説明してくれました。幻想的な光景にココナはしばし見とれてしまいました
 と、その時、誰かががさごそと薮をかきわけて池のほとりにやってきました。噂の人間がやってきたようです。
「あ、アレかな」
 水辺を目指し歩く影を、シャルロットが指さします。池からの光が邪魔をして、ここからではシルエットしか見えませんが…
 少しほっそりとした小柄な体に、ふくらみかけの小ぶりな胸。
 お尻のあたりで、ふりふりと揺れるしっぽ。
 そして……特徴的な髪の毛。
 その姿は、まるで…
「ココナさん…?」
 シアは、思わずその名前をつぶやきました。


「よっし、綺麗に描けた〜」
 その頃、ひとり家に残ったミウは、机に座って、山と積まれたニンジンの絵を描いていました。
 ミウの絵の腕はかなりハイレベルで、紙の上にあるにも関わらず、本物と変わらない質感を持っています。
 それも当然、絵は錬金術に必要な基礎技術のひとつで、ミウは師匠のミーナから徹底的に仕込まれていたのでした。
 ミウはニンジンを描いた紙を四つ折りにすると、ベットの枕の下に入れます。
「さて、あとは」
 ミウは小さなビンを取り出し、蓋を開けると、中身を指ですくい、ぺろっとなめました。
 あまりの辛さに全身を震わせ、ひ〜は〜と息をはきながら、口の中を手で仰いでしばしもがき苦しみました。
「今度はこの薬をニンジン味に変える研究をしなくちゃ‥‥」
 そうしてミウはベットに潜り込むと、くうくうと寝息を立てて眠ってしまいました。


「な…なんで……」
 そういえばこの前、なんとなく自分に似た髪形の『誰か』を見たような気はしますが…
 あれは、夢じゃなかったんでしょうか?
 ココナの頭は次第に混乱してきます。
「あっ、ちょっと静かにしてて。何か始めるよ」
 ココナのシルエットをした女の子は、あたりをきょろきょろと見回すと、水際に座り、少し恥ずかしそうにゆっくりと足を開きます。
 そして、右手をそっと足のつけ根の方へ……
 しかしその手は、池の中から突然年老いた妖精が顔を出すと、硬直したまま止まってしまいました。
 現れたのは、ヌバタマ池の主、漆黒(ぬばたま)色の瞳の老婆、妖精ヌバタマ様です。
「おぬし、このところ毎日来ておるの。おおかた人間どもの間で広まっておる迷信を信じて来たのだろうが、なぜわしが人間の願いなどかなえてやらねばならぬのじゃ? 迷信じゃ迷信、帰れ帰れ」
 ヌバタマ様がぶつぶつとつぶやく間、女の子は硬直したまま動きませんでした。そして、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁんっ」
 女の子は突然悲鳴をあげると、恥ずかしそうに両手で顔を隠して、森のほうへ一目散に逃げていきます。 
「なんじゃ、一体…」
 ヌバタマ様は、呆然とその様子を見送ります。
「…ああっ、行っちゃうっ!」
 その様子を見ていたシャルロットは、慌てて茂みから飛び出しました。
「ほらっ、シアたん、ココナたんも早くっ」
「えっ……あっ、ちょ……きゃぁぁっ」
 一連の出来事で頭が混乱してたココナは、頭の整理をつける間も無くシャルロットに腕をつかまれ、そのまま引きずられていってしまいました。

 幸い、3人は女の子を見失うことはありませんでした。

 森に入って少しの場所で、女の子は立ち止まりました。
 女の子はあたりをきょろきょろ見回して、人がいないのを確かめると、胸のあたりを押さえて大きく深呼吸しました。
 そして、近くの木の根元に座り込むと、天を仰ぐようにため息をつきます。
 今度は、木々の隙間からこぼれ落ちてくる月明かりで、はっきりとその女の子の顔が見えました。
 その顔に、思わず、ココナたち3人は「あっ」っと声を上げてしまいました。
 同時に、女の子はさっきよりももっとビックリした様子で慌てて飛び上がると、また逃げ出しました。
「ああっ、またしてもっ…!」
 せっかくのネタを逃すまいと、シャルロットが慌てて追いかけます。
 シアが後を追おうとしましたが、あっという間に見失ってしまいました。
 そして……シャルロットは、しばらく待っても、帰って来ませんでした。


「シャルロット、どこまで行っちゃったんでしょう…」
 女の子とシャルロットが去っていった方角を呆然と見つめ、シアはつぶやきました。
 たとえ夜であっても、庭であるこの森でシャルロットが迷う事はありませんが、だからといって、どこへ行ったか判らない中を探すのは、至難でした。
「…仕方ありませんね。私はそろそろおいとましましょうか…ココナさんはどうします?」
 ……
「ココナさん?」
「……うにっ!? えっ……あ、だ、大丈夫です。わたしはもう少し待ってから、帰るです」
「そうですか? それじゃあ、お先に」
 シアたんは丁寧に頭を下げると、もと来た道を戻り始めました。
 ココナはその背中を見送ると、ぼーっと地面を見つめました。
 そうしていると次第に、さっきの女の子の顔が思い返されます。
 あれは間違いなく……鏡で見たときの、自分の顔でした。
 世界には自分に良く似た人間が何人かはいる、とは言うものの、体型や髪型までも同じなんて偶然が、そう簡単にあるはずがありません。
 じゃあ、一体これはどういうことなんだろう。
 夢じゃなくて、お化けでもないとしたら、いったい…
 ふと顔を上げると、遠くに明かりが見えました。ゆらゆらとこちらに近付いてきます。
 現れたのは人間の女性でした。手にランプを持っています。
「ねえねえ、ヌバタマ池ってどこにあるか知らない? 迷っちゃって〜」
「え〜っと、あっちです」
 ココナは池の方向を教えてあげました。
「ありがと〜」
 女性は礼を言って立ち去ろうとしましたが、ふとココナの顔を見て考え込みました。
「ねえキミ、さっき向こうの岩のところにいなかった? 隠れてこっそりエッチなことしてなかった?」
「そ、そんな事してません!」
 慌てて否定するものの、さっきの女の子の姿がふっと頭をよぎると、
「……あの、ところでそれ、どこで見たんですか?」
 ココナは場所を教えてもらうと、急いでその場所に向かいました。

 …そこには確かに、さっきの女の子の姿がありました。
 岩の陰の、見えるか見えないかくらいのギリギリの場所で、なにやらもぞもぞとしています。
「んっ、ふぁ……」
 そして、時折漏れる甘い声。
 その行為が一体何なのか、ココナでも理解できます。
 だから、自分の姿を使ってこんな事をされるなんて、とっても困ります。
 ココナは意を決して、女の子に近づいてみる事にしました。


「な、なんですか〜、これ」
 家に戻ったシアは、ミウの部屋を覗くと、あまりの光景にびっくりして大声をあげてしまいました。
 なんと、部屋のまんなかに山と積まれたニンジンがあるのです。
「うみゅ〜」
 シアの声で目をさましたミウは、そのニンジンを見て眠気を一気に吹き飛ばすと、これ以上ないくらいに瞳を輝かせました。
「やった〜、実験大成功〜〜」
「実験って、このニンジンはいったいどこから…」
「夢で見た事が現実になる薬を作ったん。夢で見た通りに、私の部屋にニンジンの山〜〜〜〜っ!」
 そう叫んで、ミウはベットからニンジンの山にダイブしました。
「……明日からしばらく、毎日ニンジン料理ですね」
 シアはため息をつきつつも、嬉しそうなミウたんを見て、にっこりとほほえみを浮かべました。


 一気にやぶを掻き分けて、ココナは岩陰のところに飛び出しました。
 女の子はびっくりして、今までと同じように腰を浮かせ、逃げようとしましたが…
 こちらの顔を見ると、一瞬驚いた顔を浮かべた後は、逆に安心したような表情を浮かべました。
「……?」
 てっきり、すぐに逃げるとばかり思っていたココナは、拍子抜けしてしまいました。
 女の子はやはり、見れば見るほどに自分と瓜二つです。
 ただ一点違うのは、髪の色。目の前の女の子は、ココナと違い、赤い髪をしています。
「あなたは誰?」
 女の子は質問には答えず、にっこりと笑ってココナに近付くと、突然、チュっとキスをしました。
 その一瞬、ココナは頭がくらっとしました。それは生命エネルギーとしてのMPが干渉したためですが、そんな事はココナにはわかりません。
「え、え、え? な、何……きゃんっ!」
 ココナが動揺してる間に、女の子は軽く体重をかけてココナにしりもちをつかせると、手際よく服をはだき、キュロットを脱がせはじめました。
「ちょ…だ、だめですっ」
 ココナは慌てて逃げようとしましたが、どういうわけか逃げられません。
 力が抜けるような感覚。
 …立ち上がる力はおろか、抵抗する力さえ、ココナにはほとんど残っていませんでした。
 女の子はココナの足を開かせ、ズボンを脱がせると、今度はパンツに手をかけ…
「あっ、それはっ……やぁぁんっ」
 あっという間に、ココナの股間が女の子の前にさらけ出されてしまいました。
 女の子は、ココナの足のつけねに顔を近付けて、そこにある割れ目をいとおしげに見つめます。それは、とても大事な宝物を見つめる視線のよう。
「や、やだぁ……見ちゃやですぅっ……」
 一番大事な場所を、しかも間近でまじまじと見つめられて、ココナはもう恥ずかしさでいっぱいでした。
 しかしその恥ずかしさは、それだけでは終わりませんでした。
 女の子はおもむろに口を近づけると、ぺろぺろと割れ目をなめはじめたのです。
「ひゃぁぁんっ」
 身体の余計な力が抜けているせいなのか、はたまた他の理由からなのか、ココナはいつも以上に敏感な反応を示しました。
 反射的に腰を引こうとしますが、相変わらず身体はほとんど動かなくて、逃れる事が出来ません。
 ただただ、女の子のなすがままに大事な場所を舐められ、甘い声を漏らすだけ。
 …体のエネルギーが失われていく感覚は、以前触手モンスターに捕まった時のそれと良く似ていました。

 しかし、その時。
『……え〜、うっそ〜、やだ〜』
『マジマジ、ホントだってば…』
 遠くから、数人の女の子の声が聞こえてきました。願いがかなうという迷信を信じて、ヌバタマ池に向かう人間の女の子達のようです。その声は、だんだんこちらに近付いています。

 ココナはびっくりして、慌てて行為をやめさせようと思いましたが、どうすることも出来ません。
 声を出して静止することくらいは出来るかもしれませんが、そうすると、茂みの向こうを通る女の子たちに気づかれてしまいます。
 結局ココナは、目の前の女の子の責めに耐えながら、近くを通る女の子たちが過ぎ去るのを祈るばかりでした。
 けれど…
「きゃぅんっ……んんっ」
 大事な場所一点を集中的に責められ続けていたココナは、すっかり感じてしまっていました。
(声を出したら、見つかっちゃうです…!)
 どきどきどきどき…………
 自分の心臓の音がとても大きく聞こえます。女の子たちに聞こえてしまうのではないかと思えるほどです。
 そればかりか、割れ目を舐める音が、夜の森に響き渡っているような気がします。
 吐息もだんだん荒く乱れてきます。声をもらさぬよう必死です。
 でも、気持ちいいのを我慢しようとすればするほど、苦しくなってきます。
 そんな時、目の前の女の子がふいに顔をあげ、ココナの瞳を見つめました。とても愛おしそうな視線……
「あ……あの……?」
 その意図がわからず、ココナは思わず声を出してしまいました。
(あっ……!)
 思った時には既に遅し。果たして、近くを通る女の子たちの声が止まりました。
「ねえ、何か聞こえななかった?」
「なんだろ? こっちからだよね」
 がさがさと草をわけて、ひとりがこちらに近付いてきます。

 …ところがその時、茂みの中から触手モンスターが飛び出してきました。
 どうやら、眠っていたところを起されて怒っているみたいで、威嚇するように触手を開くと、女の子たちの方へと走っていきました。
「きゃ〜〜〜っ」
 悲鳴と逃げ出す足音が、遠くの方へ消えていきました。

「……はぁうぅ〜〜〜。助かったです…」
 なんとか、見ず知らずの女の子たちに、こんな痴態を晒す事だけは避けられたようです。
 もっとも、目の前の女の子も見ず知らずなのですが、お互い全てをさらけだしてこんな事までされては、もはや今さらという感じでした。
 それに、ここまで自分と同じ姿だと、どうしても他人とは思えないのです。
 その彼女は、いとおしげな視線を向けたまま、再び唇を重ねてきました。
「んっ…むぅっ……」
 さっきより長く、濃厚なキス。
「んっ、んぅっ………ぷはっ」
 女の子は、唇を離すと、ココナにこう言いました。
「あなた、わたしが生まれた時にそばで寝てた女の子? だからあなたのMPがこんなに気持ちいいの?」
 ココナは何を言われてるのか一瞬わかりませんでしたが、ひとつだけ、思い当たる事がありました。
「わたしのそばで生まれた…?」
 マトリの森の妖精たちは、性行為によって生まれるのではなく、何らかの要因でもって魔力が集中するポイントで突発的に生まれるのだといいます。
 そして、生まれた時にそばにいた生き物の影響を、容姿に受ける事があるというのです。
 ミウがうさぎみみなのは、うさぎの巣で生まれたからだと、聞いた事があります。
 あの時は、ほんの冗談だとばかり思っていましたが……
(もしわたしのそばで妖精が生まれたら、わたしの影響を受ける…?)
「ん……、やっ」
 考えに気を取られている間に、またも女の子はココナにキスしてきました。そしてその手は、ココナの大事なところに触れています。
 くちゅ…ちゅぷっ……
 さっきまでの事で、ココナのそこは蜜液と唾液に濡れ、いじられるたびに卑猥な音を生み出します。
「あなたのMP、もう少しだけ、ちょうだい…」
「や…だ、ダメ…っ」
 女の子は、ココナの小ぶりな胸の先端に優しく口づけると、そこを舌で舐めたり、突起を転がしたりして、丹念に責めていきます。
 もちろんその間も、下半身を責める手は止めません。
 やめさせようと思っても、動けないココナには、その行為を受け入れるしかありませんでした。
 気持ちと裏腹に、ココナはまた気持ちよくなっていきます。
 余計な力が抜けているから、だけではありません。女の子が、ココナの感じやすい場所を的確に、かつ最も感じやすい方法で責めてくるからです。
 胸から…そしてなにより、下半身から強く沸き起こる快感が、次第に頭を支配していきます。
「ねえ……、気持ちいい?」
 女の子の問いかけに、ココナはとうとう、無意識にこくりとうなずいてしまいました。
 と、その時。
「何してんの?」
「!!!」
 突然背後から声をかけられ、ココナは声にならない悲鳴をあげました。
 振り向くと、そこにはシャルロットが立っていました。
 いつものように「いいネタ見つけた」と言わんばかりに、きらきらした瞳を向けています。
 ココナは事をなんとか誤魔化そうとしましが、互いにほとんど裸でこんなポーズをしている状況では、誤魔化しようがありませんでした。
 せめて体を隠そうにも、それさえ、出来ません。
 そうして、ココナがパニックになっている間に、
「あ、そうだ、この前ミウたんにもらったマジックアイテム!」
 シャルロットは、どこからともなく鏡を取り出すと、鏡面をこちらに向けました。
 もちろん、単なる鏡ではありません。その実態は、映したものを記録できる魔法の鏡です。
「後でフィリス姉にも見せてあげよっと」
 シャルロットはあちこち動き回り、いろんな角度からココナと女の子を魔法の鏡に映しはじめました。
 ところが…
「きゃあぁぁぁんっ!」
「きゃうっ!?」
 女の子は、反射的にココナを抱え上げると、脱兎のごとく森の奥へ走っていきました。
「あぁっ、待てっ」
 シャルロットが慌てて追いかけますが、思った以上に女の子の足は早く、またしても見失ってしまいました。
「まあ、いいか。こんな事もあるかと思って、みんなに応援頼んであるし…」


 ココナと女の子は、キクカノ川にかかる橋の下にいました。
「…あ、あの……」 
 ココナは、ぜいぜいと肩で荒い息をしている女の子に、心配げな声をかけました。
 疲れた顔に見える弱りと翳り。深く広がる夜の闇が、その翳りの濃さを増して見せています。
 その表情のままで、女の子は再び、ココナに向かい合います。
「あの……続き、していい?」
「で、でも……」
 ココナはためらいました。
 いくら闇の支配する夜といえども、外でこんな事なんて…やっぱり出来る事じゃありません。
 もっとも、連れられてきたときのままの…ほとんど裸に近い格好に加えて、体が動かせない今の状況では、出来るとか出来ないとかいう以前の問題ですが。
 けれど…
「お願い……」
 女の子の目は、切実でした。まるで何か、切羽詰ったような…
 疲れと翳りが、それをさらに強調させていました。
 そして、優しいココナには、その瞳を無視することが出来ませんでした。
「じゃあ、ちょっとだけ……です。
 ここなら、人が来ても見つからないから」
 恥ずかしさを精一杯に抑えながら、ココナはそう、応えました。
「ううん……もしかしたら誰かに見られるかもしれない場所がいいの」
 女の子はそう言うと、ココナを抱え、誰かに見つかるか、見つからないかの微妙な位置に出てきました。
「ダメです、見つかっちゃうですっ」
「だいじょうぶ」
 首をふるふると振って応えます。女の子も、本当に見られてしまうのは嫌なようです。
 ココナは気が気ではありませんでしたが、認めてしまった以上、乗りかかった舟は降りられません。
 早く女の子を満足させてあげるしか、今の状況から抜け出す手段はないのです。
 女の子は、そっとココナの大事な場所に手を近づけます……
「きゃぅ……んっ」

 くちゅ……くちゅ……
 女の子の指が、ココナの大事な場所で戯れています。
 既に何度も弄られていたそこは、すぐさま、ココナの意識に快感を呼び込んできました。
 女の子は悪戯を続けながら、ときおりココナの表情を見てきます。
 その表情が、真っ赤な顔ですっかり快感に緩んでいるのを確かめると、女の子は少し嬉しそうに微笑みました。
 そして、一度戯れる手を離すと、蜜液でぬれた指をココナの目の前に近づけます。
 親指と人差し指をつけて、また離すと、蜜液は軽く糸を引くように伸びました。
「ほら、こんなに濡れてる……」
「や……言っちゃダメで……んむっ」
 女の子は、蜜液で濡れたままの指をココナの唇にそっとあてて、紅を塗るように撫でました。
 そして今度は、唇をつついて、口を開くように勧めます。
 言われるままに口を開けると、女の子の指伝いに、自分の蜜液が口の中へと滑り込んできました。
 甘くて、少しだけ酸っぱい自分の不思議な味がはじけます。
 その間に、女の子は舌と指とで、ココナの胸の先端を責めてきます。
 ココナは恥ずかしさに顔を真っ赤にして、それでも、女の子がしてくるそれらすべての愛撫を受け入れます。
(やだ……気持いい…)
 もしちゃんと体が動いたとしても、抵抗出来ないかもしれません。
 …いや。
 もう、抵抗できなくったっていい気がします。
 自分によく似たこの女の子との行為は…身体も、こころもとろけてしまいそうなほどに、気持ちよかったから。
「きゃぅん…っ、あっ…ふぁ……んっ」
 耳を甘噛みされながら性感帯のしっぽを優しくなでられて、ココナは可愛い喘ぎ声を漏らしました。
 反応はいつも以上に敏感です。
「声、かわいい…」
「…ん……そんなこと…」
 虚ろ気な瞳で女の子を見つめます。
 …どうしてこの娘は、こんなに、わたしだけを…
 ココナの心の中に、不思議な気持ちが芽生えていきます。
 そして、気づいた時には、ココナは女の子の身体に、よろよろと手を伸ばしていました。


「あ、いたいた」
 その頃、シャルロットは橋の下にいる2人を見つけていました。
「情報ありがとうね」
 肩の上に乗っていた森ねずみに木の実を食べさせながら、隠れて2人の様子を伺います。
 もちろん、魔法の鏡に映すのも忘れません。
 女の子が見えそうで見えないからと選んだ場所でしたが、森を庭のように知りつくすシャルロットには、そこは2人の様子がはっきりと見て取れる絶好のロケーションでした。
 しかし、ココナも女の子もそんな事には気付く様子もありません。女の子は愛撫を続け、ココナはそれに合わせて吐息を漏らしながら悶えています。
 そして2人はいつしか、お互いの体を、大事な場所一点で密接させていました。
「じゃあ、いくね?」
 ココナは小さくうなずきます。それを確認して、女の子は腰を動かしはじめました。
「んっ……ああっ」
「きゃふっ……あっ、やぁぁんっ」
 お互いの割れ目が、互いのものでこすれあって、さらなる快感と、不思議な一体感を呼び込んで来ます。
 それまでのことで快感も臨界にきつつあったココナは、それだけでもう、頂点に上りつめるには充分でした。
「ふぁ、あぁぁっ、………ああっ……!」
 エクスタシーに達する寸前、ココナの脳裏をあの日見た夢がよぎりました。
 そう、夢で見たのはキノコに捕まって襲われた時の事。
 その後かたつむりのモンスターに抱き上げられて森の中を連れ回されて、みんなに恥ずかしいところを見られちゃったっけ……
 そして目の前にいる女の子の赤い髪の色は、なんとなく、かたつむりの上でみた夕焼けを思い起こさせるのでした。


 ミウは、魔法の鏡に映った女の子を見ながら、「う〜ん、なるほど」とつぶやきました。
 …次の日の朝。
 シャルロットは昨日の魔法の鏡を見せながら、ミウに女の子の事を報告していました。
 女の子は、やはり新しく生まれた妖精でした。
「ココナたんにそっくりなのは、薬の効果に干渉したせいだと思うん」
 目の前に山と積まれたニンジン料理をぱくぱくと食べながら、ミウはそう答えました。
「という事は、ひとりエッチ好きな妖精になったのは、ココナたんがそういう夢を見ていたからだね」
 シャルロットはうんうんとうなずきながら、そう結論付けました。
 つまるところ、ココナのそばで妖精が生まれようとしていたところに、ミウの作った「夢で見た事が現実になる薬」をたまたま舐めてしまったココナが見た夢が複雑に干渉した結果、あの女の子になってしまったということなのです。
「それで、その女の子はどうされたんですか?」
 シアがニンジンジュースを運んでくると、ミウは目をキラキラさせて、ひったくるようにコップを受け取ります。
「行儀悪いですよ。ミウさん!」
「それが僕に見つかったら逃げちゃってさぁ。フィリス姉のとこに挨拶に連れてこうと思ったんだけど……」


 ココナは、昨日の一件で疲れ果てたのか、帰ってきてからずっと眠っていました。
 おかげで、寝室の窓がゆっくりと開けられた事にも、まったく気が付きません。
 当然、窓から入ってくる人影にも。
 …それは、赤い髪をしたココナ。噂の女の子でした。
 女の子はココナが眠っているベッドに近づくと、寝顔を覗き込むように見て、
「ねえ、寝てるの? 昨日の続き……しよ?」


「じゃあ、まあ、新しい森の仲間の誕生を祝ってニンジンジュースで乾杯しよう!」
「え〜っと、僕は普通のミルクのほうが…」
 シャルロットはうえ〜っと顔をしかめます。
「え〜、なんで〜? 美味しいのに〜」
 3人は、隣の部屋に問題の女の子がいる事に、全然気が付きませんでした。


 後日談──
 当の赤い髪のココナは、フィリスたちによってココレット・リコリスという名前を与えられました。
 ココナそっくりという事からココレという愛称が定着して、すっかり森の仲間入りを果たしたようです。
 ただその性格は相変わらずで、見えそうで見えない微妙な場所にこっそり隠れては、オナニーをしているんだとか。

おしまい。


みにリレー第10話←みに小説ContentsEntrance